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この作品には 〔残酷描写〕 〔15歳未満の方の閲覧にふさわしくない表現〕が含まれています。

苦手な方はご注意ください。

突然ですが、エルフを監禁しました。
作者:苔石奈落

ショートショート作品のつもりでしたが、いつの間にか長くなっていました。

時間に余裕があれば、是非とも目を通してみてください。

 突然ですが、エルフを監禁しました。あっ誤解を招くといけないので、一応説明させてください。これはあくまで彼女の合意の上で行いました。“それは監禁ではないのでは?”と疑問を持つかもしれませんが、そこには複雑な理由が存在したのです。私は今からエルフを監禁することになった経緯とその理由についてお話ししたいと思います。


 まず初めに、前世の私はどうやら中学生の教師をしていたらしいです。生徒からの信頼も少しはあったようで、それなりに充実していた人生を送っていたみたいです。しかし、私は不運にも交通事故に見舞われて、命を落としたようです。


 ところで皆様も薄々お気づきだと思われますが、“なぜ自分の人生を他人事のように話すのか”ということですよね? それは私が前世の記憶をほとんど失っているからです。


 話を戻します。私は気が付くと知らないお花畑にいました。すると、突然私の目の前に神々しい女神様が降臨しました。女神様はこの世の者とは思えない美しさと気品を兼ね備えていました。まぁ女神様なので当然ですけれど……。そんな女神様は私にこう言いました。


「あぁ、なんと哀れなんでしょう。不幸に見舞われただけでなく、記憶まで無くしてしまうとは……。ですが安心してください。次の世界では、必ずあなたを幸せへと導きます。さぁ受け取りなさい」


 私はどうやら女神様にひどく気に入られた様で『神の御加護』という謎のスキルを頂きました。その後、私は眩しい光に包まれて、再び別の世界に飛ばされてしまいました。


 目を覚ますと、今度は深い森の中にいました。周囲を見渡すと、どこもかしこも太い木で、天を見上げれば、大きな抹茶色の葉が空を覆い隠している。時々現れる太陽の木漏れ日は暖かく、大変心地が良いです。空気も澄んでおり、息を吸い込むだけで、体中が浄化される気分になりました。


 私はしばらくの間、この森に滞在することを決めました。この世界にやってきて、自分がどうしたいのかが明確になっていなかったため、今後の事を考える時間が欲しかったのです。それに、そもそもこの森の脱出方法が全く分からないので、下手に行動するよりはマシだと考えたわけです。


 まぁ何はともあれ、まずは寝床と食料の調達をしようと私は近くの場所を探索しました。すると、さっそく食べ物らしきものを発見しました。これはキノコでしょうか? 私が知るキノコとは少し異なる形状で、何やら禍々しいオーラを放っていますが、きっと異世界では常識的な食べ物なのだろうと私は推察しました。そして私はそれを何の躊躇もなく口に運ぼうとした時、背後から声が聞こえてきました。


「それは食べちゃダメ――!!」


 私は思わずキノコらしきものを手放して、後ろを振り向きました。そこには、とても可愛らしい耳の長い少女がいました。


「お姉さん……、それはマンドルラという植物で……。その……、食べると……、たぶん死んじゃう」

「あっ……、そうだったんだ。へぇー……、やっぱりこれ、毒キノコ的な奴ですか」

「『キノコ』というものはよくわかりませんが、毒があることは間違いないです」

「あーなるほどね……、教えてくれてどうもありがとう。ところであなたはその……、エルフ? なのかな?」

「はい! まだ見習いですが、立派な狩人になれるよう修行をしております」

「そっそうなの……、まだ幼いように見えるけど偉いのね」

「えへへー、ちょっと嬉しいような、悲しいような……。わたし、こう見えても十八歳なんですよね」

「ええっ! それは失礼。てっきり七歳くらいかと……」

「むー、お姉さんひどいです。わたしそんなに幼くないもん!!」


 エルフに狩人というのは、どうやらどの世界でも定番のようです。私はせっかくなので、この思わず抱きしめたくなるほどの可愛いエルフ少女に、この世界について色々聞き出そうと思いました。


「あのー、もしかしたら信じてもらえないかもしれないけど、私、実は転生者なんだ」

「てんせいしゃ?」

「そう……。だからこの世界についてあまりよくわからないの。よかったら教えてくれる? この世界のこと――私は今どこにいるの?」

「事情はよくわかりませんけど……、とりあえず今わたしたちがいる場所は『大世界樹(イグ・ドラシル)』と呼ばれる大森林の中で、しかもその最深部にいます。ここから『大世界樹(イグ・ドラシル)』を抜け出すには、少なくとも丸一日はかかると思います」

「丸一日も……。私、とんでもない場所に召喚されたってわけね。はは、はぁ……。ところで、あなたはどうしてそんな場所にいるの?」

「はい、『大世界樹(イグ・ドラシル)』はわたしたちエルフ族の国家なのです。そして、わたしは修行のため、この付近に出てくる魔物の退治をしていたわけです。そしたらたまたまお姉さんを見かけて……ってあれ? そういえば自己紹介がまだでしたね。わたしはアリナといいます。お姉さんの名前は何ですか?」

「あーそのことなんだけど、実は私、前世の記憶がないんだよね。だからごめんなさい、名前思い出せないんだ」

「そうでしたか……。いえ、これは聞いたわたしが悪いのです。どうか頭をあげてください」


 アリナはずいぶんあたふたした様子でしたが、その姿があまりにも愛らしかったので、しばらくそのままにしておきました。これが私とアリナ――後に監禁することになるエルフとの出会いでした。


 ♢♢


 私はアリナとともに、二時間ほど『大世界樹(イグ・ドラシル)』の最深部を歩いていました。その間に私はアリナからたくさんの情報を得ることが出来ました。


 まずこの世界は大きく分けて二つの勢力が存在し、主に険悪勢と平穏勢と呼ばれているそうです。エルフ族は平穏勢に属しているらしく、他にもドワーフ族、鳥人族、精霊族などがいるようです。まぁゲームなどでよく出てくる種族たちですね。次に険悪勢は竜人族、巨人族、狼獣族、魔物族の四つの種族がメインで、この種族たちは常に争いを好んでおり、毎日戦争を起こしているらしく、最近ではその戦争が激化しており、今まで干渉してこなかった平穏勢にまで影響が及んでいるらしいです。そのため、アリナは早く一人前の狩人になって自身の種族を守りたいと、必死で経験値を稼いでいたようです。


 他にもこの世界には種族に序列(ランク)が存在し、エルフ族はその中でも最下位に位置するとアリナは言っていました。この世界では序列(ランク)によってそれぞれの待遇が違っているため、エルフ族は昔から他の種族から冷酷な態度を取られたり、無理矢理領土を奪われたりと散々な目にあってきたらしいです。しかしそれでも、エルフたちは決して権力に屈することはなく、互いに協力し合いながら、今日までこの『大世界樹(イグ・ドラシル)』を守り抜いてきたとアリナは自信満々に言うのです。私はこの話を聞いてエルフという種族の生き様に感激したわけですが……。


 私とアリナは最深部の末端を抜けようとした時、右斜め前の木の裏から異様な空気が漂っていることに気づきました。


「待ってください……この気配……、凄く嫌な予感がします。伏せて!!」


 アリナがそう口にするのと同時に、一匹の大きな黒い獣が勢いよく飛び出してきました。


「うそ……、どうしてこんなところに」

「……どうしたの? この生き物が何かまずかったりするの?」

「…………はい。今わたしたちの目の前にいる生物は……、恐らく狼獣族です」

「それって、たしか序列(ランク)Aクラスの種族だったよね……」

「はい……、はっきり言って勝算はありません」

「それって、逃げるしかないってこと?」

「逃げられる相手なら、最初からそうしています。ですが……」


 アリナはとても怯えていました。それ以上のことは口に出すこともなく、ただ死にゆくのみであると言わんばかりの表情でした。


「そうだ! 弓、これを使って何とかできないかな?」

「これだけで致命傷になるかどうかは……、一応やってはみますが、あまり期待しないでくださいね」


 アリナは右肩に背負っていた蒼い弓を取り出し、深呼吸を一つ挟んで、弦に手をかけ、一本の矢を丁寧につがえて、彼女は静かに詠唱を始めました。


 すると、アリナの足元から彼女の身体全体を覆いつくすほどの、巨大な魔方陣が姿を現しました。そして、彼女の詠唱と共にその魔方陣は輝きを増していき、魔力を矢先に集中して込めていることが私にもわかりました。


「我が矢よ、かの魔物を貫きたまえ――『閃光一千イクレール矢先フレッス』!!!!」


 射出された閃光の矢は、黒き魔物を一直線上に捉え、腹部を完璧に貫いたかのように思われましたが、無情にも魔物の持つおぞましい毛並みが、魔力を最大限に込めたアリナの矢をあっさり跳ね返したのです。


「……やはり、わたしの魔力では狼獣にかすり傷をつけることすら、叶わないのですね」

「あの毛並み、一体どうなってんの? どう見てもアリナが放った矢の方が強いように感じるけれど」

「……残念ですが、わたしはどうやらここまでのようです。短い間でしたが、お姉さんと一緒にいれて楽しかったです」


 まだ死にたくないという思いからでしょうか。そうつぶやくアリナの美しい瞳からは涙がこぼれていました。私は何とかこの状況を打開する方法を考えていましたが、そんなことをしているうちに、さっきのお返しと言わんばかりに狼獣が、後ろ脚を地面がえぐれるくらい思いっきり蹴り飛ばして、大ジャンプをし、その反動を利用して私たちに襲い掛かりました。


 私もアリナも流石に終わったと思いまして、共に体を抱き寄せながら、目を瞑っていました。すると、どういうわけか狼獣の悲痛な叫び声が聞こえてきたのです。びっくりして目を開けてみると、なんと私たちの目の前に巨大な槍がそびえ立っており、そこに頭部を貫かれた狼獣の姿があったのです。


 最初は何が起きているのかさっぱりわかりませんでした。ですが、この槍が私の身体からでてきたものであるということだけは瞬時にわかりました。


「……お姉さんがやったのですか?」

「うん、どうやらそうみたい。だってこの槍……、私がイメージしたものと全く同じだから」

「イメージ?」

「……そう、でっかい槍があればもしかしたら貫けるんじゃないかって、そしたらそのままでてきたみたいで」

「それって……、もしかしてお姉さん『創造(クリエイト)』のスキルを持ってるのですか!?」

「え、何それ、そんな便利なスキルがあるの?」

「はい、超上位スキルですよ!! お姉さん凄いですね、わたし生まれて初めて見ました」

「あっスキルにも序列(ランク)があるんだ」

「はい! 伝えるのを忘れていました。序列(ランク)分けは三パタ―ンでして、下から順に下位、上位、超上位となっていて、お姉さんのもつ『創造(クリエイト)』は超上位の中でもトップクラスに位置するものですよ」

「なるほど……、ちなみに超上位スキルは他にもあったりするのかな」

「えぇ、一応『超感知(センス)』と『絶対支配(ドミネート)』がありますけど……」

「……そう。ところでアリナちゃんは『神の御加護』というスキルを聞いたことがある?」

「うーん、聞いたことはないですね。少なくともこの世界には存在しないスキルです」


 ここで私は一つの仮説を立てました。もしこれが正しければ、私はとんでもないものを手にしたことになります。


「――『超感知(センス)』」


 心の中でそうつぶやくと私の脳内に、周囲にある森羅万象を一瞬のうちに処理した情報が一気に押し寄せました。そのことで隣にいたアリナの身体状況や家族構成、さらには生い立ちまでも把握することができました。


 『神の御加護』というスキルは、どうやらこの世界の超上位スキルである『超感知(センス)』『絶対(ドミ)支配(ネート)』『創造(クリエイト)』の三つを使用できるチートスキルだったようです。


 ♢♢


 私とアリナは最深部を抜け出したのか、何やら賑わう街並みが見えてきました。


「着きましたね。ここが『大世界樹(イグ・ドラシル)』の中心部に位置する超巨大森林都市になります」

「……凄い、森の中にこんな大きな都市が存在しているなんて……」

「そうですかね? この世界では割と普通な気が……、あっ、ご、ごめんなさい。そうですよね、お姉さんは転生者で……、この世界のことが全然わからなくて……」

「いいよ、わざわざ気にしなくて。それよりもこの街の案内をしてよ。何だか楽しそうだし」

「はっはい!! ではこちらから……」


 アリナは私にもわかるように、食材などを取り扱っている店や、武器や防具などを売っている店、ギルドがよく集う酒場や教会など、様々な場所を丁寧に教えてくれました。その時のアリナの様子は相変わらずたどたどしかったのですが、何よりも可愛かったので、個人的には大満足です。


 そうこうしているうちに日も暮れてきたので、今日はアリナの実家に泊めていただくことになりました。なにぶん寝床も食べる物もなかった私にとって、これほど幸いなことはありません。まぁ『創造(クリエイト)』を使えばいいだけの話だと言われればそれまでですが……、そもそもアリナと出会わなければ『創造(クリエイト)』というスキルそのものに気づくことすら出来なかった訳ですから、いずれにせよ僥倖であることに変わりはありません。


 それにアリナの両親は実は『大世界樹(イグ・ドラシル)』の国王陛下であり、アリナはその後継者であるということが判明しました。勿論『超感知(センス)』を使用していたので、アリナがそういう立場のエルフであるということは既に知っていたので、特に驚きはしませんでした。


 私はアリナと共に(じっか)のなかにはいると、それはもう手厚い歓迎が待っていました。眼前に広がる美味しそうな料理の数々に加えて、召使いらしき人物が数人、これでもかというほどに、深々とお辞儀をしていたのです。


「お待ちしておりました。この度は我が娘を助けていただき、誠に感謝いたします」


 ――力強い声が城内に響き渡りました。白いクロスが掛けられたテーブルの向こう側から長い髭を携えた男性が一人と西洋風の派手なドレスを着た女性が一人、姿を現しました。


「我はヴァルナード・ラウルである!!『大世界樹(イグ・ドラシル)』の国王にして、アリナの父である!!」

「そしてわたくしはエリザベート・ラウル。『大世界樹(イグ・ドラシル)』の女王にして、アリナの母です」

「あっ……はっ初めまして。そっその、名前は…………、おっ覚えていなくて……」

「構わんよ。詳しい話はすべてアリナから聞いている。さぁ、それより早く食事にしようじゃないか。長旅でずいぶん疲れただろう。ゆっくりしていくといい」

「そっそれじゃあ、失礼します」


 私が席に着くと、それに呼応するかのようにアリナが隣に座ってくれました。少し緊張がほぐれたのか、料理を目の当たりにした私はすぐさま自分の手元にたぐり寄せて、一口、また一口と右手を動かしていたのです。


「はっはっこれはこれは。おいシェフ、この子にもっと料理を提供したまえ」

「かしこまりました」

「いえそんな……、悪いですよ」

「気にするな。なんせ君は我々の救世主(ヒーロー)なのだから、これくらいの礼はさせてくれ。それより味の方はどうかね」

「はい。凄く美味しいです」

「そうか、きっとシェフも喜んでいるよ」

「ふふっ、素敵ですわ。ここまで食べっぷりがいい子を見たのは初めてよ」

「……………ありがとうございます」


 正直とても恥ずかしかったです。あっでも味が美味しかったのは本当で、何だか懐かしい気分も感じました。きっと前世で食べた料理と味が似ていたからですかね。アリナはそんな私の反応を見て、楽しそうに笑っていました。


「ところでアリナ、戦況はどうなのかね?」

「……はい、お父様。やはりこのまま全面戦争になると思われます。今日の襲撃は恐らくその見せしめかと」

「ふむ……、よし、明日には兵をだすよう指示を仰ぐ。アリナも覚悟をしておくように」

「はい!!」

「えっえっ、ちょっと待ってください! 一体どういうことなのですか?」

「ん? 何って戦争だよ、狼獣族とね」

「あらっ、知らなかったのかしら。狼獣族はわたくしたちに嫉妬しているのよ。まさか劣等種の国がこんな急激に発展するなんて思わなかったものね」

「あぁ、そのおかげで他の険悪勢からも異様な目を向けられている。万が一竜人族などが参戦するとなると『大世界樹(イグ・ドラシル)』はおろか、エルフ族までも滅亡に追いやられてしまう。一刻も早くこの状況を打破せねば……」


 話を聞くに、どうやらエルフ族がピンチのようです。私はこの家族に恩を貰ったわけですから、当然見過ごすつもりはありません。首を突っ込みました。


「あのー、もしよろしければ力をお貸ししましょうか?」

「ほっ…………本当かね? 君はたしか『創造(クリエイト)』のスキルを持っていたはず」

「はい、そのスキルがお役に立てれば幸いです」

「おおっ……、何と言うことだ。貴方様は我々エルフ族の救世主(ヒーロー)だ。今日は国の特別記念日にしよう。おいっシェフ!! 一番いい酒を持って来い!!」

「ふふふっ、わたくし流石に笑いが止まりませんわ。あの醜い獣どもを一掃できると思うと……、ふっふっ、おーほっほっほ」

「やっぱり、お姉さんはわたしたちを救う神様だったんですね、わたし、そんな方と一緒に同行していたなんて……、凄く、凄く嬉しいです!!!!」


 ワイングラスを大きく揺らしながら天を仰ぐ国王、それを見て高笑いをする女王、スキップしたり、飛び跳ねたりと、はしゃぎまわるアリナ。混沌(カオス)と化した空間は、しばらくの間続きました。


 ♢♢


 ――それはそれは、目覚めのよい朝でした。ふかふかのダブルベッドから起き上がった私が最初に見た光景は、窓越しからの陽の光でした。ガラスに反射して、ダイヤモンドのように美しくキラキラ輝いていました。


 次に見た光景は、一列に並んで行進する傭兵の姿でした。そういえば昨日、そんなことを言っていたと思うのですが、私はどうもその傭兵たちに違和感を感じたのです。


「どこかで見たような」

「…………お姉さん? どうかされましたか」


 隣でぐっすり寝ていたアリナが、私の独り言で起きてしまいました。ちょうど聞きたいことがあったので、私はアリナに隠すことなく正直に話しました。


「あの人たちってさ……、もしかして『人間』だったりするのかなって。耳も普通の長さだし」

「はい、それが何か?」

「いやーこの世界に『人間』がいるって、アリナが教えてくれなかったからさ。ちょっぴり驚いたというか……」

「はい、それは『人間』が種族ではないからですね」

「え? それってどういう……」

「彼らは『奴隷』です」

「………………は?」

「急にどうしたんですか? そんな怖い顔をして。この世界では『人間』というのは奴隷で、主に重労働を強いたり、傭兵として国の戦力にしたりしています。中には家畜として『人間』の皮膚や肉を食べたり、売ったりしている種族もいるのですが、我々エルフ族は流石にその様なことはしていません。その代わりにこうして労働や兵力の糧になってもらうことで、人件費などのコストの大幅なカットに成功し、今でも『大世界樹(イグ・ドラシル)』の繁栄に役立っているわけです」

「…………」


 返す言葉もありませんでした。この世界の『人間』は、どうやら種族以下の奴隷だったようです。前世の世界で『人間』として生きていた私にとって、この現実を受け入れることは到底出来なかったので、しばらく固まっていると、アリナが何かを察したのか声をかけてきました。


「まさか……、お姉さんは『人間』なの?」

「…………」

「……そっそうだったんですね。わたし、てっきりお姉さんは神人族だとばかり思っていました。神人族は『人間』と姿かたちが非常に似ていて、お姉さんが、その、転生者とか、『創造(クリエイト)』とか、ひょっとしたらこの世界の最高序列(ランク)に位置する者なのかと、わたし、見たこともないのに勝手な想像を……、本当にごめんなさい。でも、聞いてください。お姉さんは違うんです!! お姉さんは間違いなく特別な存在です。救世主(ヒーロー)なんです。だから、あんな下等生物と同じはずがないんです!!!!」


 アリナの必死の弁明も、私の短い耳には何一つ届きませんでした。私がかつて『人間』であったこと、そして今も恐らく『人間』という生き物であるという事実。もし『神の御加護』がなければ、アリナと出会っていなければ、私は今頃奴隷として生きていたことでしょう。


 そういえばこの世界にやってきて、自分がどうしたいのかをまだ決めていませんでしたね。私はその答えをたった今手に入れました。


「……ねぇ? 突然で悪いのだけれど、作戦を変更してもいいかな?」

「え? そんな急に困りますよ。お父様も他のエルフたちもすでに作戦遂行の任務にあたっていますから……」

「逆にそこを利用するの。いい? 今から私はアリナを監禁するわ」

「ふぉえ? どういうことですか? わたしを監禁するって……、お姉さんはわたしに酷いことをするの?」

「違うわ、よく聞いて。これは『作戦』なの。アリナを監禁することによって、険悪勢の一角にいる竜人族をおびき出すの。『アリナお嬢様をさらったのは竜人族です』ってね、デマを流すの」

「そっそんなことをすれば、竜人族も敵になるじゃないですか。ただでさえ不利な状況なのに、お姉さんはエルフ族を滅ぼしたいんですか!!」

「いいから、落ち着いて。竜人族は敵にならないわ」

「どうしてそんなことが言い切れるんですか」

「竜人族はそもそも険悪勢なんでしょ。なら、狼獣族と必ず交戦になるわ。だって狼獣族は貴方たちを舐めてるもの」

「あっ……――、そうですね……、狼獣族はわたしたちなんかより、竜人族の方を優先するはずですよね、何でこんな簡単なことに気づかなかったのでしょうか」

「それは多分浮かれてたんじゃないかな」

「…………はい、きっとそうです。お父様もお母様もわたしも、お姉さんが味方になってくれると聞いて、つい嬉しくなって、狼獣族のことばかり考えていました」

「そう、だからお願い。この作戦が成功すれば、狼獣族と竜人族だけでなく、巨人族も魔物族も倒すことができるかもしれない」

「それは、つまり他の険悪勢も参戦してくると、そう言いたいのですか?」

「今の状況を鑑みてもね……、何が起きてもおかしくない。狼獣族と竜人族が戦っている隙に、私が『創造(クリエイト)』のスキルを使って、両者を一気に叩く。そしてついでに残りの二つもやっちゃう。これでどう?」

「まさに一石二鳥、いや一石四鳥ですね」

「うん、だからお願い、お父様たちを騙すことになるかもしれないけれど、アリナを『一時的に監禁』させてほしい!!」

「そういうことなら、わかりました。わたしは大人しくお姉さんに監禁されます。あっでもちゃんと勝ってくださいね? 約束ですよ」


 アリナとの会話はすべて口実――すなわち戯言であったことをお伝えします。私の本当の目的は、この世界の『白紙化』だったのです。


 私はずっと考えていました。なぜ女神様はこのような力を授けて下さったのかと。私は一つの解を導きました。――この力は世界を救うためではなく、壊すためにあるのだと。


 “ならば、そうしようじゃないか。こんな間違いだらけの世界、ある方がおかしいのだから。”


 “そして訂正すればいい、やり直せばいい。前世の世界のように『人間』が中心の世の中に作り直せばいい。そうすれば、ひょっとすると失った記憶を取り戻せるかもしれない。必ずやってみせる、なぜなら私は『破壊主ヒーロー』なのだから”


 私はこの世界を創り直すことに決めました。そのために、いったん全ての種族を消し去ることにしたのです。戦争? 作戦? この『神の御加護(チートスキル)』をもってすれば、そんなものは必要ありません。


 私はアリナを『創造(クリエイト)』で生み出した、地下の部屋に連れて行きました。そしてアリナに『私が良いと言うまで、絶対に出てきてはいけない』と警告をしました。その空間の中なら、外からの干渉を受けないため、私が世界を破壊しても、彼女だけは生き残るということです。


 その後私は『超感知(センス)』を使用して、自身を鑑定しました。すると『神の御加護(チートスキル)』の真の能力が明らかになりました。


 ――理を壊し、再生する力。又そのすべてのスキルの使用。



 さらに『絶対支配(ドミネート)』はある程度の信頼がない相手には効かないことと、『超感知(センス)』は長時間の使用と、半径一キロ以内の情報しか感知されないということがわかりました。個人的に『絶対支配(ドミネート)』と『超感知(センス)』はあまり使えないスキルだと判断しました。よって『神の御加護(チートスキル)』と『創造(クリエイト)』をメインに、私は世界の白紙化と創り直しを決行するのです。


 以上が、エルフを監禁することになった経緯とその理由です。皆様には、これからの私の活躍ぶりをぜひとも応援したく存じます。何卒宜しくお願い申し上げます。




追記:実は『超感知(センス)』」にはもう一つの能力が存在しました。それは、ある程度の未来を観測できる能力です。興味をもった私は、その先の未来を少しだけ閲覧しました。

世界の白紙化に成功した私は、無事にアリナを救出したのですが、彼女は何もかも失った世界に絶望し、発狂したのち、自ら命を絶ったようです。

私はアリナの人格を再構築し、記憶の換算を行い、身体を『創造(クリエイト)』で完全に再現して、もう一度『アリナ』というエルフの少女を世界に顕現させていました。


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