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異世界への入り口、見つけちゃいました。
作者:苔石奈落

ショートショート(少し短め)

ぜひ楽しんでください


 皆さん、聞いてください。突然ですが私、異世界への入り口、見つけちゃいました。これはきっと、世紀の大発見に違いありません。……え? どこで見つけたかって? それはですね、なんと実家の近くにある河川敷の橋の下にあったのです。


 私はとても驚きました。何せこんな近くに異世界への入り口があるなんて、思いもしなかったので……。本当に偶然、たまたま発見したのです。


 大きさは大体家の扉くらいでしょうか。異世界への入り口はブラックホールのような先の見えない真っ黒な穴で、近づくだけで身体はおろか、意識すらも吸い込まれていきそうな、そんな雰囲気でした。


 勿論恐怖心はありました。ですが、それよりも好奇心の方が圧倒的に強かったのです。眼前に広がる混沌(カオス)。ただそれだけで、私の内なる衝動が呼び覚まされたのです。


 この先には一体どんな世界が待っているのだろう。私がこれまでに読んできた小説の中だったらそうですね……、例えば大きなお花畑に囲まれたお菓子の家とかどうですか。とてもメルヘンだと思いませんか? あっ、もしかしたら魔法とか使えたりしちゃって、それで向こうの世界で救世主になったりしちゃって、とにかく色々な妄想が膨らみます。


 ですが、そんな私にも一抹の不安があります。それは、本当にこれが異世界への入り口なのかということです。たしかにどこからどうみても異世界に繋がっていると思うのですが、万が一違った場合には大問題です。どうか最新鋭の秘密兵器みたいな国家機密に該当するような代物でありませんように……。それに、仮に異世界に行けたとして、こちらの世界に帰ってくることはできるのでしょうか。このまま家族とお別れになってしまうのでしょうか。


 それは何としても避けたいです。私には私を愛してくれる両親がいます。一人っ子ではありますが、ここまで立派に育ててくれました。もう会えなくなるなんて寂しすぎます。なので、どうにかしてこちらの世界に帰還する方法を模索してみます。きっと見つかるはずです。確信はないのですが、私の向かう異世界はきっと素晴らしい世界に違いありません。最近読んだ小説に出てきた世界には、何やら神様が色々なスキル(チート)を分け与えてくれるみたいなので、それを信じていきます。あっでも私死んでない……。ひょっとすると、死なないとスキルは貰えないんですかね??? 


 私は深呼吸をしました。実はもう準備は出来ているのです。自室には手紙を置いてきました。「しばらくの間旅に出ます。ですが心配はいりません。かならず帰ってきます」


  一週間分の食事が入ったカバンを背負って私は希望を抱きつつ、混沌(カオス)が渦巻く入り口に足を踏み入れました。


 ♢


 た す け て


 なにも、なにもない


 成功した、いや失敗した。


 入り口に入ってからの記憶がない。気が付くとそこには荒れ果てた大地。空は太陽のない常闇。念のため用意していた懐中電灯で周囲を照らすも無、無、無。空気がほとんど感じられない、息苦しい。ここは異世界ではあるが、異世界ではない。


 すこし目が慣れてきた。しばらく歩いていると、大きな機械がたくさんあった。古びた金属音が響き、激しい耳鳴りに襲われる。気分が悪い。はやくこの場所を離れなくては。


 しかし、歩けど歩けど景色は変わらず巨大な鉄のかたまり。足がふらつく。もう二週間はこうして彷徨っている。食料などとっくの昔に尽きているというのに、それらしきものが何一つ見当たらない。私は大きな勘違いをしていた。これはその代償である。


 施設のなかに入った。パソコンらしき製品がいくつも転がっていたが、どれも起動しない。同時に何枚かの資料も落ちていた。私はそれを拾い上げ、中身を確認した。


 私が訪れた世界はどうやら、一万年後の世界だった。その世界ではすでに人類は滅亡しており、地球(ガイア)も冬眠状態を迎えていた。そして、地球が再び目を覚まし、人類と呼ばれる生命体が活動を始めるのは、約百万年後……。本来ならば、このような危機に陥ることは想定されていなかった。原因は不明。ただし、ある学者の説によれば「人類の急速な発展」がもたらしたとされている。


 つまり、私が勘違いしていたあの異世界への入り口は、未来へのタイムリープ装置だった。私は魔法を操るどころか、誰もいない、何もない真っ暗な世界でただ一人死んでいくのだ。帰る方法? そんなもの、あるはずがない。入り口はすでに消失しているのだから。出口を見つけろ? こんな暗闇の中で、あと何日歩けるかわからない体で、それは無理な話だ。


 あぁ、こんなことになるくらいなら、最初から見つけなければ良かった。今更後悔しても遅いのに。お母さん、お父さん、帰りたい……、帰りたいよ。


 帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい。


 意識がだんだん遠のいていく。希望の光は命と共に朽ち果てた。


こ ん な 異 世 界 は い や だ

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