この人間を『上条当麻』と呼びますか?


メニュー

お気に入り

しおり
作:四條
▼ページ最下部へ


1/4 

序章
インデックスの答え


四條です

前から書きたかった話のため自重しながら頑張ります


高校一年生の少年であった上条当麻は、空から落ちてきた少女、インデックスを救うため戦った。

 

どこにでもありそうな展開、誰もが予想したハッピーエンド

…は、実現されなかった。

 

 

 

 

上条当麻は記憶喪失になってしまった。

 

 

 

 

記憶喪失といっても様々だが、上条の場合、『思い出』を記憶する『エピソード記憶』と『知識』を記憶する『意味記憶』のうち、『エピソード記憶』が破壊されるといったパターンである。

『意味記憶』と『エピソード記憶』の堺は曖昧であるのだが…、小難しい話は置いておこう。

ひとまずこれだけ理解してほしいのだ

 

彼の記憶からが思い出が消えてしまったことを。

 

肉体は生きている、障害も残らず、退院すれば普通の生活が送れるだろう。

 

しかし、彼には『上条当麻』がどんな喋り方だったか、自宅の場所も友人の顔も思い出すことはできない。

 

 

 

 

 

 

 

 

------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

震える足で、インデックスは病室のドアの前に立っていた。

 

まず、最初は挨拶からだろうか?

いっそ、ショック療法で最初に頭に噛みついてみようかとも思った。

 

次に笑顔の練習をした。

とびきりの笑顔で迎えたかった。

 

次は、と考えたところで、思考を止めた。

いつまでうじうじしてても仕方ない、と頭を振って、汗の滲む手でドアをノックした。

 

 

「はい?」

 

 

聞きなれた声に、インデックスは本当に何も考えずにスライドドアを開け、激しい音に慌ててそっと音のしないように閉じた。

 

そして、まるで怖いものでもみるように、おそるおそるそちらに目をむける。

 

真っ白な病室に、大きな窓から真っ青な空見え、開けられた窓から入った風でカーテンが緩やかに揺れていた。

 

その中に、少年がベットに上半身を起こして座っていた。

 

医者に説明を受けていたとはいえ、姿を見て『生きている』ことにインデックスは心から神に感謝した。心の中で十字をきっておく。

 

しかし、喜びも一瞬、インデックスは体を固くした。

 

 

「…っあ、」

 

 

少年の目が、違う。

 

親しげに自分にむけられてた暖かな目ではなく、

ただただ怪訝そうな、他人を見る目に、インデックスの足は少年に駆け寄る前に止まってしまう。

 

 

「あなた、病室を間違えていませんか?」

「…っ!」

 

 

インデックスは、ふるり、と体を震わせた。

 

恐怖に飲み込まれそうで、この場から逃げ出したくて仕方なかった。

真っ白な修道服を握りしめる。

 

 

(皺が、よったら、あんろんしなきゃって怒られちゃう…)

 

 

湧きあがる記憶に、インデックスは頭をふった。

なんでも覚えていられる自分のかわりに、少年は全部忘れてしまったのだから。

 

 

「あのぅ…?」

 

 

何も答えないインデックスに少年は心配そうに声をかける。

 

そんな状況にした張本人を心配する少年に、インデックスの涙腺が緩みそうになる。

それを、インデックスは一歩踏み出すことで我慢した。

 

にっこり、いつもの笑顔を作る。

少年の隣にいれば、いつも自然とこの表情になれたのだ、笑えないはずがない。

 

 

「あの、大丈夫ですか?なんか、君、すごく辛そうだ。」

 

 

しかし、その必死の笑顔さえ、少年は見抜いてしまう。

 

その鋭さに、優しさに、思い出が暴れだす。

それでも、胸を抑えつけて、インデックスは笑顔を崩さなかった。

 

 

「ううん、大丈夫だよ?…大丈夫に決まってるよ。」

 

 

笑顔は崩れなかった、少し上ずった声には目を瞑ってほしいけれど。

 

数秒の沈黙のあと、少年が先に口を開いた。

 

 

「もしかして、俺たち知り合いなのか…?」

 

 

心が、張り裂けそうだと、まるで小説のようにインデックスは考えた。

こんなに辛いことが、逃亡生活から救われた先に待ってるとは思わなかった。

幸せな何気ない日常が、その先には待っていると思っていたのに。

 

 

「…っうん、そうだよ!」

 

 

インデックスはとびきりの笑顔で答えた。真っ白な病室にたつ真っ白なインデックスは、そっと、溢れないように思い出のふたを開けた。

完全記憶能力をもったインデックスにとって思い出す行為は、もう一度同じ体験をするようなものだ。

 

暖かな思い出から、インデックスは1つ1つ思い出していく。

 

 

「とうま、覚えてない?私たち、学生寮のベランダで出会ったんだよ?」

 

 

――不安なときに、話し相手になってくれた。

 

 

「俺、学生寮なんかに住んでたの?」

 

 

少年の返答に、言葉がつまる。

インデックスは笑顔をそのままに次の思い出を拾い上げる。

 

 

「…とうま、覚えてない?とうまの右手で私の『歩く教会』が壊れちゃったんだよ?」

 

 

――わざわざご飯を恵んでくれた

 

 

「あるくきょうかいって、なに?『歩く教会』……散歩クラブ?」

 

 

インデックスの笑顔が崩れた

上ずった声で、次の思い出を拾い上げた

 

 

「………とうま、覚えてない?とうまは私のために魔術師と戦ってくれたんだよ?」

 

 

――地獄から救ってくれた

 

 

「とうまって誰?」

 

 

インデックスの瞳には今にも零れ落ちそうなほど、涙が溜まっていた。

それでも、今伝えなければ、と不器用な笑顔を作る。

インデックスが、一番伝えたいことを伝えるために。

 

 

「とうま、覚えてない?」

 

 

ぼろり、と大きな雫が瞳から零れた。

 

 

「インデックスは、とうまのことが大好きだったんだよ?」

 

 

――いつの間にか、その優しさが、手が、声が、全てが、大好きだった

 

 

「インデックスって、なに?人の名前じゃないだろうから、俺、ペット飼ってたの?」

 

 

耐えられない、と言った風にインデックスは顔を歪めた。

ここで泣いては、ただでさえ不安そうな彼を不安にさせてしまう、とインデックスは病室から出ようと一歩後ずさった。

 

 

「なんつってな、引ーっかかった!あっははーのはー」

 

 

シリアスな病室に高らかな笑い声が響いた。

 

 

「え…?」

 

 

愉快そうなベットの上の少年に、インデックスの涙が引っ込む。

さっきまでの不安そうな少年の様子とはうって変わって、今までインデックスが見てきたような、いつもの少年の表情だった。

ぱちくり、とインデックスは大きな目を何回も瞬きさせて、ついでに頬も抓る。

 

 

「ペットって言われてナニ感極まってんだよ、いつから目次に『マゾ』追加してんだ?」

 

 

悪戯っ子のように邪悪な笑みを浮かべながら、上条当麻は自らの手を掲げた。

 

 

「え?え?だって、脳細胞破壊されて記憶が、なくなったって…あれ?」

「何言ってんだよ、忘れたのか?俺の手の能力!」

 

 

シャドーボクシングで見えない敵をアッパーでKOさせながら、上条は手振り身振り、表情豊かに説明していく。

 

ここで少年は、1つミスを犯した。

彼女の特性をわすれていたことだ。

 

 

「……あ」

「魔術のダメージなんかこの手で簡単に打消しちまえるんだよ」

「……うん。そうだったね。」

「ざまーみさらせ!」

「…」

「これでお前の自己犠牲精神もどうにかなるだろ!猛省もうせーい!」

「……」

「…ってあれ?インデックス、さーん?」

「………」

「あの、もしかしなくても…、本気で怒ってます?」

 

 

ゆらり、とインデックスが上条へ近づく。

 

ひぎゃああああ!?と情けない恰好で頭を庇った上条。

その悲鳴が病院中に響く、はずだったのだが、一向に予想していたような痛みは襲ってこなかった。

 

おそるおそる目を開ける。

少年の前にいたのは、既に涙腺が決壊してぼろぼろ涙を零すインデックスがいた。

しかし、不格好ながら笑顔を浮かべていた。

 

 

「お、おい、悪かった!そんなに心配してくれたのかよ!?男冥利に尽きる!ってヤツだな!」

「…っふぇ、ぇ、」

「わ、わ、ごめんって!!」

 

 

泣き崩れて、上条に抱き着いてきたインデックスを上条は慌てて受け止めた。

 

 

「お、おい、インデックス、」

「あ、りがと…っ、とうま…」

「…どういたしまして……?」

 

 

 

 

「………嘘ついてくれて、ありがと」

 

 

 

 

『少年』が固まった。

インデックスは少年の腕の中で笑う。

 

 

「とうま、とうまの能力はね?右手だけなんだよ?だから、とうまは最初に説明してくれるとき、手なんて一言も言わなかった。右手って言ったの。」

 

 

黙ったままの少年にインデックスはしてやったりと不敵に笑った。

 

 

「ほんの少しの間でも、私には完全記憶能力があるからね!ふっふーんだ!簡単な嘘は見抜けちゃうんだよ!」

「…何バカ言ってんだ、俺は、」

「いいんだよ。」

 

 

小さな体で胸をはって、インデックスは透明な少年にいった。

 

 

「記憶を失おうと、あなたは『とうま』なんだよ。私の大事な記憶を救ってくれた恩人で、今私が悲しまないように『上条当麻』を演じてくれようとした。覚えていなくても、言葉が違っても、仕草が違っても、とうまの優しさだけは変わらないね!そういう『たち』なのかも、きっと。」

 

 

呆然としたままの少年を、上条当麻を、インデックスはそっと抱きしめた。

 

 

「今度は、私の番。とうまがどんな覚悟で私のまえで『上条当麻』を演じようとしたのか、私には分からない。でも、とうまのことだから、一生そうするなんて、割と簡単に決意してそうなのかも。もう、そんなことさせない。とうまが救ってくれた私で、今度はとうまを救って見せるから。」

 

 

インデックスは、今こそ自分の完全記憶能力に感謝したことはない。

もし記憶が自分になければ、少年の癖など見抜けるはずもなかったのだから。

 

病室に、上条の予想していたような自分の絶叫ではなく、小さい自分の嗚咽と、それを隠すようなインデックスの歌声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 




インちゃんまじ聖女!!

後書きでの説明になってしまいましたが、この作品では『記憶喪失バレしてる上条当麻』が主人公のため、普通の上条ではありません。
なのでオリ主といったタグをつけているのですが、こういった設定だとまた違うタグがある場合教えて下さい。
1/4 



メニュー

お気に入り

しおり

▲ページ最上部へ
Twitterで読了報告する