第52話 「変人たちの根城を歩む 後編《Weirdo's Nest -latter part-」


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第52話 「変人たちの根城を歩む 後編Weirdo's Nest -latter part-




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「ここがお望みの修練場だ」


 司令室と同じくらい重厚な扉の前で、アッシュは足を止める。


 すっかりと腹を満たした後、部屋で休むというレインを見送ったオレは、剣を思う存分振り回せる場所を案内してもらっていた。


「今さら言うのもなんだけど、オレみたいな新参が入っても大丈夫なとこなんだよな?」


「平気平気、末端から幹部殿まで平等に訓練なさってるところだからして」


 言って、アッシュは扉を開ける。

 直後、

 けたたましい連続の銃声が一挙に飛び聞こえてくる。


「うるっせ、機関銃でもぶっ放してんのかよ」


「ご名答。この連射音は、間違いねえ。双銃ツヴァイ・ハンド様だ」


 痛む耳を労わりつつ修練場へ入ると、頭上には一面、青空が広がっている。

 とて、外部へ吹き抜けになっているわけではない。

 四角く造られた、人工の青空だ。

 その空のを、二丁の機関銃をぶっ放しながら赤い髪の女が駆けていた。

 ——と、偽りの空の天辺で不意に止まった女は、見ていて不安になるほど力なく、自由落下する。


「なっ……」


 オレが思わず声を漏らしてしまってすぐ、地に叩きつけられる直前で姿勢を制御した女は、あまりにも身軽に着地した。


「なんだなんだ新人、あたしは見せ物じゃねーぞ」


 無骨な銃を軽々と抱えて、オレたちを睨め付けるように語りかけてくる。


「……って、あなた、司令室で会った……」


 ボーイッシュすぎるタンクトップ姿には、さすがに見覚えがあった。


「さっきぶりだな……えーと、キサラギ?」


「はい」


「おー、合ってた。なんだ、ひょっとして銃も使えるクチか?」


「いえ、普通に剣だけですけど」


「チッ、名前的にもやっぱそうかよ。今時、剣一本って絶滅危惧種に近えってのに……。オリエントの奴らってみんなそうなのか?」


「あーっと、オレは、存じ上げないですね」


「ん? あ、忘れてんだっけ? 悪ぃ悪ぃ」謝りつつも、彼女は全く気にしてなさそうな様子で、「……んで、何よ。ぼーっとあたしを眺めてたってことは、なんか用があるんじゃねえの? 弟子は受け付けてねーけど、最速で眉間を撃ち抜く方法くらいは教えてやってもいいよ?」


「いや、そーいうわけでは……」


 どーすんだよこれと、アッシュの方へと視線を移すと、


「ヒューズ中佐のシゴキは超キツイから、頑張ってな」


 丸投げすんな!


「おい馬鹿、テメェ、グラハム。ヒューズの名で呼ぶなっつったよな? 嫌いなんだ、クソファミリーネーム」

 だが、地雷を踏んだのかあっさりと標的はアッシュに移り変わる。


「おっとっと、そうでした。でも、バトラー中佐じゃややこしいですし、団長殿だってヒューズ性で読んでるじゃないですか」


「あいつはまあ、上司だから仕方ねえ。でもテメェらはダメだ、カリンって呼べ。ちゃんとした名前があんだから」


「でも、オレにだって矜持があってですねえ……」


「んな安っぽい矜持知るかよ」中佐殿はアッシュの襟首を掴んで揺らしながら、「いいか、キサラギ。あたしのことはカリンって呼べ。わかったな?」


「はい…………。カリン、中佐。……それで、一つ気になったんですけど、バトラーって、まさか」


 さっき、修練場に入った時、彼女には別の意味で見覚えがあった。

 まさに直前、写真で見たよーな。


「あん? バトラーは旦那のファミリーネームだよ。食堂で働いてるんだが……って、それがどうした?」


「いえ、どうもしないんですけど……結婚してらっしゃったんですね」


「悪いかよ。男を知らねー、ウブな女に見えたと? そりゃ侵害だな、傷つくぜ」


 嘆くような言葉に反して、ククッと笑ったカリン中佐。

 が、今度は一瞬にしてアッシュの肩を鷲掴みにした。


「……さてはテメェ、わざわざそれ教えるためだけに眺めてやがったな?」


「だって、もうその事実自体が面白いじゃないですか!」


「テメェ、今日という今日は許さねえ、そこの的の前に立ちやがれ!」


「やですよ! 俺、ピアス穴空けるのも怖いタイプの人間なんですから!」


 カリン中佐の羽交い締めから器用にすり抜けて、逃げ出す


「心配すんな、あたしの腕はよーく知ってんだろ! 確かクラブのショウに出たいっつってたろ。踊り方レクチャーしてやんよ」


「出たいじゃなくて観たいって言ったんですよ!」


 組織の幹部とは思えないラフさで部下を追いかけ回すその様は、とてもシュールな光景だった。

 ただ、周りにも何人かの兵士が訓練を行なっていたが、彼女の暴れ馬っぷりを見ても構わず自分の世界に入っているあたりいつもの光景なのかもしれない。


「あいつ、当初の目的忘れてんじゃねーだろうな」


 オレの気持ちばかりが空回って、なんだか損した気分だったが、よくよく辺りを見渡すと『剣戟場→』と書かれた案内板があり、下り階段が設置されていた。

 いつの間にか捕まり、銃撃の講義を強制受講させられているアッシュは解放まで時間がかかりそうなので、オレは一人で向かうことにした。

 ——だけど、さすがは幹部ってところだよな。

 的の中心、まさか機関銃でぶち抜くなんて人間技じゃねえ。

 この組織の在り方が、本当に正しいのかはまだわからない。

 しかしその力だけは、おそらく、全て本物だ。



 簡素な作りの階段を降りていくと、同じく人口の空が広がっている。

 ただし今度は夜の帷が降りていた。

 うっすらとした明かりがついているので移動に支障はないが、どこか不気味な雰囲気が漂っている。


「合ってる、のか」


 看板に従って降りてきたのは間違いないが、少し不安にはなる。

 と——、

 ブウゥン‼︎

 闇夜を切り裂く風切り音が耳を撫でる。

 十数メートルは離れているにもかかわらず音が聞こえてきたことも驚嘆に値するが、何よりその風を巻き起こした張本人に、オレは視線を寄せる。

 ただ、一振り。

 オレは見ていた。

 視界に入っていたくらいのものだが、彼は微動だにせず剣を収めたまま構えていた。

 なのに、瞬きの刹那には、剣は振り切られていた。

 

 比喩抜きで。目で捉えきれないとかそんな次元じゃなく、動いた瞬間がわからなかった。

 時を停めていた剣士の体がゆっくりと動き出す。流麗な曲線を描く剣——カタナをゆらめかせ、静かに鞘にしまった。


「不躾な視線を感じたが、先の新入りじゃないか。なんの用だ」


 彼は、オレに負けないくらいの長い髪(自分で言っててどうなんだ?)を揺らし、顔をわずかにこちらへ傾ける。そのささくれだった橙の髪は、そう歳は離れていないはずの彼をずいぶんと大人に見せていた。


「剣を、振りに……」


「そうか」


 答えなんて初めから聞く気がなかったかのように、彼は自分の世界へ舞い戻った。

 ……あの人、オレたちが寝てた部屋の扉をぶち破ってくれやがった人だよな。

 姐さんとの会話から察するに、相当な天然。会議室では一切の発言をしていなかったので影が薄かったが、あの強烈でインパクトのある邂逅は忘れようにも忘れらない。

 同じカタナ使いとわかったのならば話くらいはしてみたいなぁなんて思ったりするも、なかなかどうしてオレは口下手なのでタイミングが難しい。

 結論、様子見。

 もともとは一人のつもりだったしな。

 ……それにしても、やはり剣戟場という名だけあって、壁一面に木製の武器が取り揃えられているが、逆にいえば綺麗に並びすぎている。

 カリン中佐も言っていたが、近接戦闘を行う奴は、どうにも珍しいようだ。射撃場にはあんなに人がいたのに、物寂しい話である。

 でもまあ、魔法やら銃器やら飛び道具が乱れ飛ぶ戦場で、剣一つで戦う奴の方が狂ってんのかもな……。

 オレは、オレたちは、そういう戦い方いきかたしか選べなかっただけで。

 オレは名前も知らない剣豪から、ちょっとだけ距離を取って、幻影の敵と立ち合いを始めた——。



ーーーーーー







 …………。

 ………………。

 本来、己を極限まで詰め上げる剣の鍛錬において、他者の行動などノイズだ。なので、意図して削ぎ落としている。

 が……、それでも。

 並々ならぬ気迫とは、見過ごせないものだ。

 流れ滴った雫を振り払ったオレは、体感三〇分、微動だにせずに構えたままの男へと視線をやる。彼は一時も気を抜けないような剣気を醸し出しながらなお、動こうとしないのだ。


「……っ」

 瞑想、とはまた違う気がする。

 何かそう、ただ一瞬のために待っているような——。


 ピクッ。


 固く閉じられていた片瞼が開いた刹那、


 ——来る。

 

 空間ごと斬り裂く斬撃が

 文字通り。ある一定の空間が全てが斬り刻まれたが如く、剣風が吹き荒れる。


「…………よし」


 振り抜いた剣でサッと血を拭い去るような所作の後、再び剣を収める。

 すげえ……。

 今度こそはと注視していたがそれでも見えない。

 瞬間的な抜剣術。型としては当然、オレも心得ているが、あれほど速く振り抜くなどできない。

 斬り込むわけじゃないとはいえ——いや、違うぞ。か。あの斬り裂かれた空間は攻撃範囲じゃなくて防御範囲だ。

 あそこに愚かにも侵入した奴は、呆気なく斬り刻まれちまうんだ。

 なるほど。面白ぇ。

 強者はいる。腐るほど。それは知っている。今まで少なからず戦ってきたのだから。

 幻想投影クリエイター烈風の魔女ブラスト・ウィッチ焔凍インフェルノ

 彼らはどうしようもなく絶対強者ではあったが、「魔法」の力に依存しているには違いない。

 そして、強化魔法を駆使するオレがそれを否定する謂れはない。


 けれどでも、

 こんな、ただ剣に、向き合った人間に会えるなんて。


 直感でわかっていた。

 

 オレは惚れた。


「あの、すみません」


 だから話しかける。

 どちらかと言えば人見知りのオレではあるが、こういう時に躊躇するタイプではない。

 むしろ、だ。

 彼は先の一振りで満足したのか剣戯場を去ろうとしていた。その背中に語りかける格好である。

 とっつきにくい人だけど、同じカタナ使いだしな。分かり合えるもんがあるのはでかい。

 ここばかりはアッシュを見習って、笑顔、笑顔。

 オレの声はちゃんと届いたみたいで、彼の足は止まる……が、二秒後には再び歩み出す。


「え、あっ、上官殿! 少しお時間を頂いてもよろしいでしょうか!」


 すっかり興奮してしまっていたが、ここは縦組織だ。

 最低限の礼儀は尽くさねばなるまい。


「……私を呼んでいたのか?」


「ええ、はい。この場には他の者もおりませんので」


 いきなりの言い草だったが、なんとか対応。


「……。お前はここに剣を降りにきただけだと言っていたはずだが」


「今、終えました。次は上官殿——名前を存じ上げていないことはお詫びします——貴方とお話ししたいと思いまして」


「カラサキ少佐、だ。それで私と話がしたいと? キサラギ


 ……思い出した。たしか


「はい。カラサキ少佐と偶然にも得物を同じくしておりまして、先ほどの剣技には感動致しました。よろしければ少々ご教授を頂ければな、と」


「話すことも教えることも、私にとっては必要がない」

「……たしかに、わかりました。では、過ぎた願いではございますが自分と一度立ち会いを——」

「はっきり言うが、」

 オレのつい喧嘩腰の言葉を制するように、彼はことさら語調を強めて、



「——私はお前が嫌いだ」



 にべもなく、言う。


「……っ」


 悪意を持った発言であるとかそういうものでもなく、ただ純粋に気に障るといった、声。


「申し訳ありませんが……少佐に嫌われるほど多くを話した覚えがないのですが」


「では、認めない、と言った方がいいか。仲間として信用できないという意味だ」少佐は、一歩も動かず淡々と、「逆に聞くが、お前は自分の道を自分で決められない者を信用できるか?」


 その問いは、先に、他人ありきの道を選んだことを責めているのだろうか。

 自分で選んだのではなく、団長やレイン、彼女らの言葉があって、初めて「戦う」を選んだのだと?


「仮にそうだとして、自分は触発されることが悪いとは思っていません」


「……ああ。悪いことではないだろう。むしろまである。…………せいぜい、囚われ続けなければいいがな」


「それも、自分で決めたことです」


「そうか。ならこれ以上、言うことはない」


 どぎつい意見を放ってきた割にはあっさりと会話を打ち切り、彼は颯爽と剣戯場を後にした。

 …………。

 ……。

 嫌味な奴。

 単純なオレは、そんな単純な感想しか思い浮かばなかった。あれが上官でなけりゃあもうちょっと攻めてたような気もする。


「なーんか、興が削がれたなぁ」


 凄さに期待していた分、余計に。

 ……戻るかね。

 すでに剣士として完成されているレイン(これを言ったら怒るのかな? 彼女の剣への矜持がわからん)に付き合わせるのも悪いのでわざわざ誘わなかったが、部屋で休むと言っていたのは素直に気になる。

 会議室では珍しく感情を吐露していたことといい、やっぱり疲れたのは間違いないのだろう。

 様子を見に行くとしよう。


 結局、カリン中佐の動く的として跳ね回されてしまっているアッシュを、どうにか交渉して回収し、例の目覚めた部屋に戻る。

 恥ずかしい話、まだ道をよく覚えてないのでアッシュの案内がないと帰れないのだ。じゃないとあんなおっかない上官と交渉したりしないのは本人もよーくわかってんだろうが。


「そういやオレらの部屋って、あの扉がぶっ壊れた部屋ってことでいいの? そもそも正規兵ですらない身分だけど」


「あそこはまあ、仮っちゃ仮の部屋だが、お前らの他に直近で機士団に入る奴なんていねえしな。順当に訓練に合格すれば、あそこがお前らの愛の巣だ。喜べ」


「……何言ってんだよ、お前。男女が一緒の部屋なわけねえだろ」


「お前こそ何言ってんだ、ヒロ。そんなみたいな配慮、この組織がするかよ。断言する。絶対にお前とレインちゃんは一緒の部屋だ」


 アッシュはこれでもかという真顔で、指を突き刺してきた。


「んな、馬鹿な……」


「なんか、苦楽を共にして〜とか、言うじゃん。それの究極系。個々の能力とか相性を鑑みて、最高のパフォーマンスを発揮できそうな奴ら同士で部屋割りしてんだよ。お前らがここに来る経緯を考えりゃ、分たれる理由がねえだろ」


 俺は同期がいねえから強制的に一人だけどなっ! とヤケクソ気味の悲しい発言が付け加えられたが。

 だとしても。


「つくづく数奇な縁だよな」


 もはや離れないことを運命付けされるかのような。

 そんな気さえしてくる。……ってまあ、アッシュが勝手に言ってるだけだけどさ。


「そもそもテメェ、今までレインちゃんと同棲してたんだから何も変わらねえじゃ——」


 ウーーーーーーーー‼︎ と。


 けたたましいサイレン音とともに、天井のランプから赤く点滅する——。


『——コードX1、コードX1。今現在、完全装備の機士と各隊長は、ただちに甲板に集まられたし。繰り返す——』


 つい数時間前にも聞いた、揺らぎの少ない声をした女性のアナウンス。しかし直前の警報音のせいだろうか。その言葉には確かな緊張感が纏われている気がする。


「コードX1⁉︎ どういう意味だ⁉︎」


「敵襲だ。大きい脅威じゃねえみてーだが、どっちにしろ俺たちがやるべきは大人しく待機することだ。とりあえず部屋に向かうぞ」


 アッシュの顔からいつもの明るさが消え、「兵士」の顔になる。そして、先導するように駆け出した。


「戦う準備はしなくていいのか……補給地への

侵入⁉︎ これ空飛んでたんじゃねえのかよ⁉︎」


「落ち着け、馬鹿。まず準備が必要ならそう連絡するし、何より邪魔になる可能性が高いんだよ」


「…………っ」


 クソ、言う通り過ぎて何も言えねえ。なんだ? オレ、ビビってんのか? さっそく?

 あのバケモンみたいに強いエリアルが来たかもしれないと?

 気にしないようにしていた。

 感じてしまった恐怖に押し負けないように。

 でも、

「敵が来た」と。


 それを理解した瞬間、否応もなく怖気が走ったのだ。

「……敵は知らねえって言ったが」前を走るアッシュが、「警報が鳴るちょっと前、舟が少しだけ揺れただろ? あれは降下するためだ。この舟を飛ばすにゃ、ばかばかしいくらいの燃料が必要だからな。各地で補給する必要がある。……高度を落として、そこをってところだろうな」


「……、アドベントに、か」


「十中八九な」


 オレたちが元いた部屋へ走ってる最中にも、艦内放送は止まらない。


『追加確定情報を伝える。補給地点周辺に生命反応を複数補足。推定敵数、四二名。強力な魔法反応ナシ。引き続きコードX1にて対応せよ』


「チッ、そこそこの数がいやがるじゃねえか」


 アッシュの舌打ちを傍目に見つつ、オレは勝手に頭を巡らす。

 奇襲にしては大人数だとは思うが、だからこそ目的が見えないのだ。何人乗ってるかもわからない戦艦(舟、とは本当に柔らかい表現だ)を中隊規模での襲撃とは少々考えづらいものがある。

 そして何より、アッシュが言う降下のタイミングと同時に現れた敵。

 まるで、——。


「——今は、深く考えんな」


 と、見透かしたようにアッシュは言った。


「いつでも指示を仰げるようにしとくのが、今の俺らの仕事だ」


「……ああ」


 その通りだ。今は余計な考えはよそう。

 入り組んだ狭い通路を駆け抜け、「武装」した機士たちと肩を擦り合わせそうになりながら、蹴破られた部屋へと到着する。

 足音に気づいたのか、ちょうどひょっこりとレインが顔を出す。


「レイン、体調はどうだ?」


「別に問題ない」相変わらず無表情の面を揺らしたレインは、「アッシュ、自分たちは待機と言うことでいいの?」


「おう。X1のまま進行ってんなら大した敵じゃねえはずだ。一応、なんかあった時に備えて英気を養っておくことが——」


『あー、テステス、テステス!」


 と、オペレーターとは明らかに異なる声質が艦内に響いた。


『その、マイクチェックは必要ありません』


『お、そうか。高性能の機材が揃っていて嬉しい限りだ。おーい、レイン、キサラギ。私の声が聞こえているな?』


 ふと名指しで呼ばれて、心臓が跳ね上がる。

 これ、団長の声だよな?


『お前たちも甲板へ向かえ。これはおふざけでもなんでもなく、れっきとした作戦であり、命令だ。戦う許可は出せないが、先達の戦いをは許可する。いいか、

 ……すまないな、エドワーズ。引き続き頼む』


『繰り返します。レイン訓練兵及びキサラギ・ヒロ訓練兵は、ただちに甲板へと向かわれたし』


 どこか判然としないまま団長の声を聞いていたが、オペレーターのフラットな口調に意識を取り戻させられる。


「戦いを、見ておけ……?」


 妙に強調されていた言葉をつい、オレも繰り返してしまう。


「まあ、なんだ。言っただろ。なんかあった時のためにってよ」


 アッシュの理解できねえといった声をオレが聞く頃には、レインは通路を駆け出していた……。



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