米の白人人口初の減少 20年国勢調査、多様化進む
【ワシントン=芦塚智子】米国勢調査局が12日に発表した2020年国勢調査の詳細によると、米国の白人人口(中南米系のヒスパニックを除く)が10年前の前回調査に比べて2.6%減少した。米メディアによると白人人口の減少は1790年の国勢調査の開始以来初めて。ヒスパニックやアジア系などのマイノリティー(少数派)が増加しており、米社会の多様化が進んでいる。
非ヒスパニックの白人が全人口に占める割合は10年調査の63.7%から57.8%に下がり、6割を切った。出生率の低下や薬物中毒死の増加などが影響したとみられている。
一方、ヒスパニック人口は23%増加し、全人口の18.7%を占めた。アジア系は35.5%、黒人は5.6%それぞれ増加した。2つ以上の人種を自認する人の数も10年前に比べ約3.8倍の約3380万人に達した。
米国の人口は3億3144万9281人で、前回調査から7.4%増と史上2番目に低い伸び率となった。今回の調査に新型コロナウイルスによる死者数は反映されていない。都市部への人口集中が進み、都市や郊外地域に住む人の割合が86%に上った。
今回発表となった人口データは、連邦議会下院や各州議会の選挙区の区割りに反映される。選挙区の区割りは州議会に権限がある州が多く、共和党が主導するテキサスやフロリダなどの州では自党に有利な線引きをすることが確実だ。各州議会はデータ発表を受けて選挙区の区割り作業に着手する見通しで、22年の中間選挙に影響するため注目されている。
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(更新)- 岩間陽子政策研究大学院大学 政策研究科 教授分析・考察
様々な受け止め方のできる数字かと思いますが、私にはいかにアメリカが、今なお世界で最もオープンでダイナミックな社会であるかの証に見えます。同じような移民国家のオーストラリアですが、2018年オーストラリア人権委員会報告書によれば、人口の76%がヨーロッパ系の文化的背景を持つ住民であり、この人々が社会の指導的地位の実に94.9%を占めているという調査報告が出ています。地理的にはもっとアジア系が多くて良いはずですが、そのようにはなっていません。「純粋な日本人」などという謎の概念が平気で横行する日本は言うまでもありません。歴史を紐解けば、いかに移民がアメリカのイノベーションに貢献してきたかは明白です。
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(更新) - 今村卓丸紅 執行役員 経済研究所長分析・考察
2017年の人口に基づく米国勢調査局の予測では、非ヒスパニックの白人の全人口に占める割合は20年59.7%から低下を続け、40年代半ばに50%を割る見通しです。この20年国勢調査(20年4月1日時点)や20年の出生数の低迷(おそらく21年も)に基づいて人口予測を見直すと、白人比率の50%割れは30年代後半に早まる可能性が高そうです。 非白人の支持が少ない共和党には不利に働きますが、低下しても6割弱とまだ高い白人比率が同党の少数派の支持掘り起こしへの戦略転換をためらわせます。同党の南部州での少数派を事実上のターゲットにした投票制限の強化などの安直な手段での時間稼ぎは当面続きそうです。
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(更新) - 石倉洋子【エキスパート歴】2021年6月~8月ひとこと解説
ずっと言われてきたことがファクトベースでも検証されたということですが、政治への影響もかなり大きいので、両政党が中期的にどんな対応をするか、今共和党を中心に盛んに行われている白人以外の投票を制限するような動きにどんな影響を与えるか、興味深く見ています。アジア系の伸びが大きいのですが、選挙や政治への関与などはあまり注目されない(ビジネス分野では別ですが)し、それほどの影響力がないのがちょっと不思議に思われます。コロナ絡みで反アジアの動きが見られ、それへの対抗がある程度注目を集めましたが、アジア系としてのまとまった力になって運動をするということにはなっていないようです。
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(更新) - 渡部恒雄笹川平和財団 上席研究員分析・考察
米国では以前から白人人口が減っていくことは分かっていて、長期的な観点からは非白人の支持層が多い民主党が有利といわれ、共和党は非白人の支持拡大のために体質改善が必要といわれておりました。ところが、共和党はトランプ大統領の登場をきっかけに、むしろ影響力が低下する白人保守層の危機感に訴え、その動員力を上げることで生き残りを図り、現在も非白人が投票しにくいような投票を制約する措置を各州で行っています。あいかわらず長期的には民主党優位は変わらず、共和党の将来は不透明です。いずれにせよ、人口動態の変化は米国政治に大きな影響を与えています。
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(更新) - 野崎浩成東洋大学 国際学部教授分析・考察
移民人口中でアジア系の増加モメンタムが最も強い状況です。アメリカのアジア系人口は1980年から2000年で3.4倍、2000年から2020年で2倍強となっています。 2019年の分析では、アジア系中で中国系が最大の23%、インド系が20%で、日系は韓国系(8%)を下回る6%でした。2055年にはアジア系がヒスパニック系を抜く試算も発表されています(Pew Research)。 人種的構成の分析を行うこと自体が多様性を重視する今日においては前時代的な気もしますが、政治的には無視できない要素となることは確かです。
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(更新) - 菅野幹雄日本経済新聞社 上級論説委員/編集委員今後の展望
白人の人口比率が相対的に下がっている傾向は前から指摘されていますが、人口の実数まで減ったことが正式に確認されました。記事のようにほかの人種に比べて出生率が低めだという面と、薬物中毒の影響などで病死したり自殺したりする人が増えている面が複合した結果といえます。 白人の減少は長期的には白人の支持者が多いとされる共和党に不利な材料です。一方で短期的には共和党が優位を握るテキサス、フロリダの「赤い州」に人口が流入し、選挙区の線引きを自党優位にすることで議席を増やす「細工」が働く可能性も。長短の時間軸を見極めて共和党が基盤や理念をどう変革していくのかが、米政治、そして世界情勢の将来を左右します。
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