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第一部:Tamer's Mythology
第八話:詐欺じゃないか

 さすが、騎乗用の機械種だ。

 跨った感覚は、馬以上にしっくりくる。鞍に値するものはないが、その設計思想の段階で反映されたフォルムは、十分に安定した乗り心地を体現している。

 位置が高くなったので、見える風景も変わったものに見えた。

 スリップラビットとは全く異なる乗り心地だが、これはこれで面白い。


「あの、フィルさん、これ、大丈夫なんですか?」


「ん? 何が?」


 僕の後ろに跨がり、腕を回して僕の身体をしっかり捕まえているアムが何か問いかけてくる。


「いえ……十五分で二百キロ先につくって事は……単純に考えて時速八百キロは出るってことですよね?」


「まぁ、そうだね。街中ではスピード落とすだろうから最高速度はもっといくと思うけど」


 居心地の悪そうな表情でせわしなく眼下を見下ろすアム。

 速いに越した事はないと思うのだが……


「あ、アム。まさかランナーに乗ったことないの? 乗り物酔いとかするタイプ?」


「い、いえ。そういうことではなく……ランナーに乗ったことはありますが……フィルさん、八百キロですよ? 普通じゃない……」


「え、速い方がいいじゃん。何が不満なのさ?」


「いえ、私、八十キロに乗ったことがあるんですが……それでも結構な風と揺れが……」


 何を言いたいか全く理解できなかった。

 時間がもったいないし、移動中に聞くことにしよう。


 サファリの背を軽く叩く。


「サファリさん、『空気抵抗突破(オーバーエアー)』と『重力抵抗(アンチグラビティ)』をオンにして、出発していただけますか? 時間がもったいないので」


「了解した……行くぞ!」


 感覚がぐっと下に沈み込む。しっかりサファリの胴体を捕まえている足を通して、力の流れが感じられる。

 そして、一気にサファリが跳躍した。


「ひゃ……」


 アムが小さな悲鳴を上げる。

 視界があっという間に上がっていく。強靭な金属製の四脚で蹴られた衝撃は易易とランナーの貸出所の柵を越え、一気に大通りに踊り出た。


「おー、いい景色だ……」


「……あれ? 全然揺れない……?」


 凄まじい勢いの空気の流れが空気抵抗突破(オーバーエアー)に阻まれ、薄い膜となって後ろに流れていく。

 本来あるべき揺れは重力抵抗(アンチグラビティ)により、全く感じられない。もしこのスキルがなければ、僕はその超スピードにあっという間にばらばらになっていただろう。


 視界が目まぐるしく変わる。

 地上には四脚動体や六脚動体、機械種でなくても歩行者がいる。故に、サファリは空の道を行くことにしたらしい。

 屋根の上を、ビルの壁を、そこかしこを蹴りつけ推進力を得ると、あっという間に独特な形をしたギルドの建物が後ろに流れていく。

 もうその屋根の端さえ見ることができない。


「あの……フィルさん、質問していいですか?」


 アムが呆然とした表情で、眼下の景色の移り変わりを見ながら質問してきた。


「風と振動がほとんどないんですが、これは一体……」


「え? 時速八百キロで風と振動があったら一瞬で落ちちゃうじゃん?」


「そうですね……いえ、そういうことではなく……あの、前ランナーに乗った時は凄い揺れや風があって……」


「ああ……『空気抵抗突破(オーバーエアー)』と『重力抵抗(アンチグラビティ)』をつけてなかったのか……そりゃ揺れや風もあるよ」


「え……ええ!? 何ですかその、オーバーエアーとアンチグラビティって……聞いたことないですが……」


 『空気抵抗突破(オーバーエアー)』と『重力抵抗(アンチグラビティ)』は騎乗用の機械種が大体持っているスキルだ。効果は自らの騎乗者への空気抵抗と重力抵抗をリセットする事で、高速で移動するランナーの必須スキルだと言える。

 真下から、サファリがそれに補足するように付け加える。

 凄まじいスピードで移動しているにも関わらず、まだまだ余裕そうだ。


「『空気抵抗突破(オーバーエアー)』と『重力抵抗(アンチグラビティ)』はオプションだ。いつもはオフにしているからな。頼まれればオンにするんだが、少なくとも私は今まで頼まれたことはないな」


「ええ!? そんなのありですか?」


 全然ありだ。

 これ抜きでランナーに乗るなど考えられない。これなしでランナーに乗るくらいなら、スレイブに背負って走ってもらったほうがまだ速い。揺れと重力。ヴィータのランナーでもそれ専用の魔道具を使って緩和するレベルの重要な要素だ。

 てか、みんなこれなしで乗ってるのか……物好きもいるものだ。


「そんなにみんな揺れが好きなんだね……僕なんてもう凄い乗り物酔いするからこれなしだと、目的地につく頃には討伐どころじゃなくなってて……」


「……いや、多分みんな知らないだけで……」


 そんなわけあるか。


「ちゃんと勉強したの? ギルドショップにも本が売ってたけど」


「いえ……」


 それは……機械種に対する知識不足、勉強が足りていないと言わざるをえない。自業自得だ。


「全く何も勉強してないの?」


 まさかこの子、相手が機械種なのに機械種について何も勉強せずに戦っていたのか……というか戦えていたのか……

 種族の格差という物は絶望的だ。僕が同じことをやったら一戦目で命を落としているだろう。

 

「フィル、そろそろ街の外に出るぞ。スピードをあげよう」


「はい。お願いします」


 サファリの言葉に、視線を前に向ける。

 壮大な光景に思わず目を見開いた。


 これが--機械種が支配する大地、か。


 グラエル王国近郊とは違い、そこには木も土もほとんどない。

 あるのは--ゴミ。

 ありとあらゆる色の金属の塊--機械種の死骸と、あちこちに建てられたそれなりに大きな工場のような建物だけだ。

 地肌も草も一応あるのだが、所狭しと雑多に地面を覆うゴミが邪魔すぎて全然目立たない。

 足場が相当悪そうだ。転んだだけでも金属片が刺さってダメージを受けるだろう。そもそも、歩くだけで体力を削られそうだった。

 かろうじて、大きく地肌が見えている場所は恐らく街と街をつなぐ道なのだろう。


「凄いな……機械種が多いとこうなるのか……」


「この辺りの機械種は討伐され尽くしているからな……誰も死骸を持っていくものがいないのだ。ほとんどが二束三文にもならぬゴミだしな」


「なるほど……工場は?」


 地平線の向こうに見える大きな灰色の建物を指さす。

 通称工場。機械種の機種保全プログラムが構築した機械種の子宮だ。

 サファリが、大きく地面を蹴る。先ほど以上の速度で地面が流れていく。


「この周辺の工場は全て制圧されている。建物が残っているのは、それを解体するだけの余力がないからだ」


「なるほど……」


 確かに、探求者は討伐はしても工場の解体などは専門外だ。そもそも、こんな生活圏の近くに工場があるのを初めてみるのだが。文化の違いというものはまったくもって興味深い。

 

 目的地までは後十分程か。

 僕は、革製の道具袋から先ほど購入した白紙の書とペンを取り出した。

 さっさとヒアリングを終わらせてしまおう。本来なら向き合ってするべきだが、今回はこんな状態だからこの体勢のままやらせてもらう他ない。

 先ほどから黙ってしまったアムに話しかけた。


「アム。討伐依頼に入る前に確認しておきたいんだけど、アムの戦闘スタイルって何? 近接系? 遠距離系? アクティブスキルは何を使えるの? ナイトメアとしてマスターに注意してほしいこととかある?」


「え……あ、はい。ちょ、ちょっと待って下さい……えーっと、まずは……戦闘タイプですか?」


「まー順番にね。初めてのスレイブとしての戦闘だから色々大変だと思うけど、一つ一つ教えてもらわないと僕にできる事がなくなっちゃうから……戦闘タイプからね」


 ちなみに魔物使いにもスレイブと一緒に戦闘するタイプや、補助魔法や回復魔法などでスレイブの補助に徹するタイプなどがいるが、僕は指示出しだけで全く戦闘に参加しないタイプである。度々スレイブのアキレス腱になってしまう所が悩みどころだ。


「えっと……近接剣士タイプですね。遠距離系の攻撃も持ってはいますが、精神汚染系が主なので機械種相手には滅多に使いません。アクティブスキルはーー『身体強化』と『精神強化』、後は『重力無効』と『透過』が使えます」


 一個一個教えてもらった内容を書に書き込む。

 レイスはどちらかと言うと筋力よりも魔力が高い。剣士タイプのレイスは種族的に考えてまずありえない話だったが、レイス特有の精神汚染系の攻撃が効かないから、剣で殴りあってるというのはある意味では理にかなった話だ。種族ランクBというのはそれを可能にするだけのポテンシャルを秘めている。格下相手ならば特に問題ないだろう。

 アクティブスキルも、レイスとしての基本的なものは揃っている。アクティブスキルというのは、常時発動しているパッシブスキル、自身の意志で常時発動させる事ができるスイッチスキルとは異なり、自らの意志で一時的に発動できるスキル全般を指す。

 身体強化、精神強化はそのままの意味で、身体能力と精神の基礎ステータスを一割から二割程上昇させるスキルだ。身体が精神体でできているレイスに取っては呼吸するかのように使用できるスキルでもある。重力無効は自身の重さを0にして俊敏さを上げるスキル、透過は一部の例外を除いた『物質』をすり抜けるスキルでどちらもレイス種であるアリスも使えたスキルであり、よく慣れ親しんだものだった。


 続きを促す。


「他には?」


「他……? 他……えっと……『ライフドレイン』と『恐怖』、後は『憑依』が……」


「うん、そうだね。で、他には?」


 そんなこと知ってる。

 とんとん、とペンの先で紙を叩きながら続きを催促する。

 見なくても、アムの表情が曇っていくのがわかる。

 もしや、これで打ち止めか? いやいや、そんなわけがない。

 今言ってるのはレイス全てに共通する種族が持つスキルだ。一つも『ナイトメア』としての固有スキルが出ていない。

 クラスにはついていないようなので職のスキルが出ていないのは仕方ないにしても、これはちょっと……


「他……えっと……他には……」


「ほら、あるでしょ、色々。アムの事を知りたいだけだから、別に機械種には通じなくても出していいよ。精神汚染系のスキルとかさ」


「えっと……『恐怖』と『憑依』が……」


「……他には……?」


 というか、それもまぁ精神汚染系といえば精神汚染系だが、攻撃と呼べる程のスキルでもない。近距離攻撃のスキルを聞いて『パンチ』という答えが返ってきたようなものだ。基本中の基本だ。

 なるべくなら声を荒らげない方がいいのだが、どうしても口調がやや荒くなってしまう。

 契約してから分かったアムの能力はお世辞にも高いといえるものではない。元Fクラスなのだからそれも仕方ないし、それだけ育てる楽しみがあるといえばあるのだが、それにしても、しっかり教えてもらわないと僕もアムも困ることになる。

 

 僕は、続けて助け舟を出した。


「ほら、あるじゃん色々。それしかスキルが使えないなんてありえないよね? 例えば……そう、ナイトメアと言えば……『凄惨な悪夢(ナイトメアドリーム)』とか、『闇の福音ブレス・オブ・ダークネス』とか有名どころがさ……」


「……え? ちょっと待って下さい……『凄惨な悪夢』……?」


 『凄惨な悪夢』は、夢魔系の種族特有のスキルだ。眠っている相手に悪夢をトラウマを植え付ける、あまり使い道のない嫌がらせのスキルで、夢魔の評判を落とす一因にもなっている。ナイトウォーカーは夢魔系じゃなかったのでアリスは使えなかったが、ここまで来たら実際この身で味わってみたい。今夜頼んでみようか……

 アムがわたわたしているので、そのまま続けてスキルを出していく。

 アリスをスレイブにした際にレイスについて勉強するついでに覚えた付け焼き刃な知識だが、案外覚えているもんだな……


「後は、『侵食する悪夢(サモン・ナイトメア)』とかさ、『行軍する災厄レギオンズ・ディザイアー』とか……」


「え? 侵食する悪夢? 行軍する災厄?」


「こうしてあげてみると、ナイトメアって案外攻撃系のスキルも多いね。ちょっと慣れたら遠距離系に転向するのも悪くないかな……」


 アムがもし仮に近距離から殴りたいとかそんな好みがあるのだとしても、魔導騎士のクラスを取るとか、せっかく高い魔力があるのだからそれを眠らせておく手はないと個人的には思う。


 挙げてみるとわかるが、ナイトメアには特に召喚系のスキルが多い。

 数は力、数は火力としての重要な一要素だ。

 召喚して圧殺するもよし、その隙に逃げるもよし。僕の大好きなタイプのスキルである。そして僕のスレイブが持っていなかったタイプのスキルでもあった。種族の固有スキルは珍しいモノが多い。正直、わくわくする。

 基本的には被召喚者は本体よりも弱いはずなので、強力な範囲攻撃には弱いだろうが、誰だってそんなの弱点だろう。


 大分走り、人の生活圏の外までやってきたのか、景色が変化してきた。

 あんなに大量に放置されていた機械種の死骸がまばらになってきたのだ。

 機械種の死骸は別の機械種の材料になる。どうやら、機械種の魔物の生息区域に入ったらしい。高い空には浮遊動体の機械種の群れが不気味な白銀色の翼をはためかせ、遠き地平には目に見える程の巨大な人型の機械種が歩いている姿が見える。手には巨大な鈍色の盾のようなものが握られている。


 ……あれはまた今度だな。兵装が防御に偏ってて銅の剣では荷が重そうだ。


「……あの、フィルさん。ちょっといいですか?」


「……ああ、ごめんごめん、話の途中で。それで、何か思いついた? 僕が出したものの他に」


 アムが言葉を濁す。

 背を向けているため、表情はわからないが何故か泣きそうな声だった。


「その……あの……私はフィルさんを信頼しています。禁則事項をなしにするくらい」


「それは僕の方から言い出したわけじゃないけど……わかってるよ。僕もアムを信頼しているよ」


「で、その、とても言いにくいんですが……」


「言いにくい? ああ、気にせずに言ってみなよ」


 他に使えるスキルがないとか?

 いやいや、さすがにそれはないだろう。固有スキルってのは大体十個くらいはあるもんだ。

 が、だがしかし、もし仮に僕が言ったもの以外に使えるスキルがなかったとしても、叱るまい。今日さえ乗り越えれば、後はじっくり仕込めばいいのだから。


 アムが僕の言葉に、意を消したかのようにごくりと一度息を飲み込むと、口を開いた。


「……使えません」


 轟

 風が耳元を通り過ぎる。


「……ごめん、よく聞こえなかった。もう一度言ってもらっていい?」


「……私、使えません。使い方がわかりません」


「……何が?」


 何を言っているのか、理解できない。

 普段の通りの口調で話を促すと、アムが堰を切ったかのように言葉を吐き出した。


「だから、使えないんです!凄惨な悪夢(ナイトメアドリーム)闇の福音ブレス・オブ・ダークネス侵食する悪夢(サモン・ナイトメア)行軍する災厄レギオンズ・ディザイアーも、何もかも使えないんです! 私が使えるのは私が言ったスキルだけです!」


「……え? 本気で言ってるの? 凄惨な悪夢も使えないの? 何で? 夜魔(ナイトメア)でしょ?」


 凄惨な悪夢はナイトメアの持つ固有スキルのうち、もっとも簡単なものだったはずだ。

 驚くよりも先に疑問の方が先に立つ。泳げない魚、飛べない鳥を見た気分だ。いや、そりゃ飛べない鳥はいるだろうけど……


「ご、ごめんなさい……私、全然、使えなくて……」


「いや、謝らなくていいよ。何でって聞いてるんだよ僕は。理由だよ、理由。知りたいのは理由だよ」


 後ろからすすり泣くような音が聞こえる。


 が、僕はそれどころではない。悪夢を見せる事すらできない夢魔に存在価値があろうか?

 スレイブに貴賎はないとはいえ、正直な話、どちらかと言うと、僕の低い能力をカバーするだけの即戦力なスレイブを求めていた僕にとってそれは寝耳に水な話だった。


 二個上の依頼を受けられるといった根拠は、自信はどこから来たんだ。今すぐに答えてほしい。


 最低だ。最低でも凄惨な悪夢さえ使えれば自分を納得させられるのに……まだ若いんだしそれ以外のスキルが使えなくても仕方ない、と自分を納得させられるのに……いくらなんでもスレイブにしたナイトメアがナイトメアドリームさえ使えないとは……詐欺じゃないか。

 背中で修羅場のようなものが繰り広げられたせいか、サファリも若干動揺しているようだ。

 だが修羅場なのは僕の脳内の方だった。


「私、知らなかったんです……そんなスキルが、あるなんて……」


 使いたいのに使えない、ではなく、スキルの存在自体知らなかったのか。

 僕には全く信じられなかった。他種族である機械種の事ならともかく、まさか自分の種族についても無知だなんて……


「……勉強しなかったの? 自分の種族について」


「……ご、ごめんなさい」


 使えねえ。

 その言葉を何とか喉の奥に飲み込む。それは言ってはならない禁忌の言葉だった。

 もし僕とアムが出会うのが後三年早かったら言葉に出してしまったかもしれない。

 幸いなことに、僕にはSSSクラスになってからの長い経験があった。酸いも甘いも噛み分けた経験があった。大丈夫、僕はここからでも戦える。

 深呼吸して自分を落ち着かせる。

 一端、アムのスペックが予想外に最低だったことは捨て置こう。今考えても仕方ない事だ。


「じゃ、アムは今まで討伐系依頼はその剣で殴って倒してたんだね?」


「は、はい……そうで、す」


 よし、よし、わかった。そうだ、落ち着くんだフィル・ガーデン。

 殴って討伐依頼をこなす夢魔というのははっきり言って未知だが、依頼をこなせているのならばまだそこは問題ではない。

 が、正直このままスキルを覚えずに進んでいっても高位の依頼はこなせないだろう。せっかく強力な種族に生まれたのだから、その強みを十全に活かしてほしい。


「アム、分かった。勉強しなかったのはアムが悪い。けど、僕は魔物使いだ、アムは今、僕のスレイブだ。僕と一緒に勉強していこう。大丈夫、凄惨な悪夢くらいすぐに使えるようになる」


「……まだ、私の、マスターで居てくれるんですか?」


 アムがすがりつくような声で言った。


「いや、まだマスターになって数時間だし、そりゃね……」


「フィル。会話中に悪いが、そろそろアリの巣の付近に到着するぞ」


「……ありがとうございます。アリの索敵圏外ぎりぎりで下ろしてもらえますか?」


 いつの間にか景色が移り変わり、見渡す限り荒野が広がっていた。

 焦げ茶色の大地、地平線上に見える岩山、黒い煙が渦巻く空。

 視界に入る限りでも機械種が五体。距離はそれほど近くはないが、アリとの戦闘中に来られたら厄介だ。

 木もほとんどないし、草も殆ど無い。運の悪い事に、同業者も今はこの辺では狩っていないようだ。

 予想以上に遮蔽物がない。隠れる場所がどこにもない。

 これが……クローク平原か。嫌な匂いがする。


「あー、もうついちゃったか……アム、戦えるな?」


「……はい、大丈夫です」


 アムが涙の滲んだ情けない声を上げた。

 全然、大丈夫じゃねえ。

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嘆きの亡霊は引退したい。

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