プレプリント(medrxiv.org/content/10.110)を論拠として「mRNAワクチンを反復接種すると免疫抑制によってコロナに感染しやすくなる」という言説が流布されているようです。
こちらの引用ツイートだけで話は終了なのですが、以下、蛇足の解説です。
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会話
問題のプレプリント(medrxiv.org/content/10.110)ではmRNAの複数回接種によりIgG1~IgG4の4種類存在するIgGのアイソタイプのうちのIgG2とIgG4が増え、特にIgG4が著明に増加する、と報告されています。急性感染症では(麻疹を除くと)これは稀であり、その影響を慎重に考慮すべき、というものです。
麻疹では感染により96%で血清IgG4が誘導され、10年以上経過しても86%で維持されています。一方麻疹ワクチンでは92%で誘導されるものの、8〜12年経過すると陽性率9%にまで下がります。
また、IgG4の抗体価も自然感染の方がワクチン接種よりも有意に高くなっています(下図)。
pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11986279/
麻疹は一度罹患すると終生免疫を獲得するとされており、IgG4の抗体価が高くとも何度も再感染することはありません。
「IgG4が多いと免疫が抑制されて感染しやすくなる」とまでは現時点では言えないのです。
プレプリントの著者らもそのような主張はしていません。
引用ツイート
Kilian Schober
@kischober
Overall, our findings do not question the value that SARS-2 mRNA vaccines have had, but they do raise important questions regarding the choice and timing of vaccination regimens using mRNA vaccines, including future update vaccinations for SARS-2. 14/n
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確かにIgG4はIgEの機能を抑えてアレルギー反応を抑制することが知られています。しかしながら免疫は非常に複雑であり、アレルギーにおける知見をそのまま感染症には適用できません。また、SARS-CoV-2の感染予防にIgEが重要な寄与をしているという証拠も(少なくとも私の知る限りは)ありません。
IgG2は莢膜多糖体抗原に結合する抗体を含み、IgG2欠損症では肺炎球菌、インフルエンザ菌等による感染症(中耳炎等)に罹患しやすくなります。
このようにIgG2も感染症に対する防御に寄与しており「免疫を抑制する」とだけ捉えるのは論理の飛躍があります。
ウイルスが細胞に侵入するのを防ぐのは主に抗体の中和活性です。
IgGのいずれのアイソタイプもエフェクター機能に違いはあるものの、そのことで中和活性が無くなる訳ではありません。
また、ウイルス抗原に対するIgG4の誘導がmRNAワクチンのみで起こるという事実もありません(麻疹でも見られる)。
ワクチンによって「免疫が抑制されて、逆に感染しやすくなる」と言った言説は派手で注目を集めますが、論文をよく読めばそのようなことは一切証明されていないのです。
追記:
免疫はとても複雑で難しいので、私が信頼している他の先生の意見もこちらに引用します。この画像のリプに真っ先に「いいね」を押してくれたガチの方です
引用ツイート
Shrimp
@ShrimpTail_Tx
某宝塚ADEデマ先生がワクチン接種後にIgG4上昇で免疫抑制とかいってるらしいですが,これもデマですよ
IgG1 〜 IgG4欠損はすべて易感染性と関連してます.
IgG4髙値は免疫抑制とは関連ないです
(続)
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wakuwaku3先生のご意見。
先生にはいつもお世話になっております。疫学関連の豊富な資料と鋭い分析はいつも参考にさせて頂いております。
Kazz先生によるプレプリントのデータの詳しい解説です。
Kazz先生はいつも詳細なメカニズムまで解説されていて、さらにご自身の研究での経験からの洞察も加わっており、興味深いスレッドが多いです。
引用ツイート
Kazz.MD.Ph.D.
@KazBowen
一部の界隈で騒がれていると聞いたので、少しこの論文紹介兼ねて解説するね。この論文はワクチン打ったあとで、抗体が誘導されるんだけど(特にIgGクラス)その中のSubtypeであるIgG1,G2,G3,G4のIgG subtype switchがどうなっているのを見たもの。①
medrxiv.org/content/10.110
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アストラゼネカの抗体薬Evusheld(AZD7442)はFc受容体及び補体C1qとの結合を減弱させる変異を導入することでエフェクター機能を大きく低下させています(science.org/doi/10.1126/sc)。
それでも発症予防効果(nejm.org/doi/10.1056/NE)、重症化予防効果(sciencedirect.com/science/articl)はあります。
mRNAワクチン接種によってIgG4が増え、それによりエフェクター機能が多少低下したとしても、抗体の中和活性は殆ど影響を受けません。Evusheldの例からもやはり中和活性がまず重要であり、IgG4が増えたからと言って、免疫が抑制される、あるいは感染しやすくなるとまでは言えないでしょう。