「コネクテッドワーカー事業」を展開するFairy Devices(フェアリーデバイセズ)の製品開発について紹介する。(後編)
製造業DX推進のカギは、作業者にもAIにも優しいウェアラブルデバイス(後編)
この記事では…
(執筆:小林由美)
人にとってもAIにとっても優しいメカ設計
2007年に東京大学発のAIベンチャーとしてスタートしたフェアリーデバイセズは、同社はAIやクラウドサービスのソフトウェア開発が原点であるが、現在はソフトウェアからハードウェアまで対応できる技術力が強みである。創業から10年くらいは、大手企業の先端研究を受託しながら技術力を育て、その成果として自社サービスを展開。今もAPIの提供や他社との協業などに積極的に取り組みながら、ユーザー目線で技術を磨きつづけている。
過去には、高機能スマートスピーカー「Tumbler」、音声認識システム「mimi」といった、AIと音声認識技術を組み合わせたソリューションを開発してきた。首掛け型ウェアラブルデバイス「THINKLET」や「LINKLET」サービスもmimiの一部である指向性集音技術などが生かされている。
もともとソフトウェア寄りであった同社が、ハードウェアまで手掛けるようになった理由については、「AIの処理に適したデータ取得ができるハードウェアが世の中に存在しなかったから」とフェアリーデバイセズ 取締役CSOの竹崎雄一郎氏は説明する。
フェアリーデバイセズ 取締役CSOの竹崎雄一郎氏
「機械学習の世界では“Garbage In, Garbage Out”(ゴミを入れたら、ゴミが出てくる)という言葉がある。特に我々が得意とする音声データは時系列データである為、解析の難易度が高く、特に産業現場の騒音環境においては取得したデータのノイズをいかに取り除くかが大変重要である」(竹崎氏)。その音が、果たして雑音なのか音声(人の声や言語)なのか、認知/判断能力を伴わないコンピューターでは判別できない。そこで、フェアリーデバイセズ社内で、ハードウェアからAIまでを一気通貫で開発・設計している。極力ノイズを排除し、AIが扱いやすいデータを選別しやすくため、ソフトウェアやアルゴリズムだけではなく、ハードウェアやエッジAIまで含めて最適化・提供している。
例えばTHINKLETのカメラを首元前方に集中させるようにしているのも、そうしたAI側の都合もあるという。これが仮にHMDやグラスであれば、カメラがぐらぐらと動きやすくなり遠隔支援者が動画酔いするだけでなく、AIにとっても解析不能な動画になってしまう。一方で、首元であれば頭と比較して圧倒的に無駄な動きが少ない。作業者に優しいだけではなく、AIにとっても優しいメカ設計になっているというわけであり、それがフェアリーデバイセズにおける重要な設計思想になっているということだ。
わずか3カ月で量産型の完成
フェアリーデバイセズは現在50人ほどの企業でそのうち8割程度が技術者である。AIやソフトウェアやアプリ開発、メカ設計などさまざまな分野の技術者が集まり、さまざまなプロジェクトを回している。全ての分野に多くの技術者を割くわけにいかず、当然、市場にタイムリーに製品を届けるため開発にはスピード感が求められ、時間には限りがある。その中で、社内のリソースを効率的に割けるよう、適宜パートナー企業も使いながら設計開発を進めている。
THINKLETは前方が空いているU字型の構造であるため、のけ反り後ろに重心をかける作業など姿勢によっては後ろに落ちてしまう懸念があるという声があったという。製品リリース前から重量バランスについては同社も十分検討していたものの、導入数が増えるごとにユーザーの置かれる環境が多様化していく過程で出てきた問題である。
フェアリーデバイセズの技術担当 木村浩氏
「ある日、ユーザーと話す中で問題が顕在化し、急遽対応することになった」とフェアリーデバイセズの技術担当である木村浩氏は振り返る。なるべく早く問題に対処しなければならないこともあり、筐体の設計を変えるのではなく、前から左右を固定する後付けタイプの「ネックバンド」で解消するようにした。
専用ネックバンド
非常にシンプルな設計の部品ではあったが、社内のメカ設計者のリソースをそこへ割くよりは、外部のパートナーをうまく利用しようということになった。
同社は、部品の量産準備で金森産業の「PlaQuick」を活用した。木村氏は、過去のCESで披露した製品製作でもPlaQuickを活用していた実績もあった。「まずはわれわれの手で、1カ月くらいで手作りでの試作で形状を詰めた後、金森産業に量産試作の相談をしにいったのが、2021年の1月ごろだった」と木村氏は話す。
2021年1月に相談を受けた金森産業と木村氏との打ち合わせの場で、シリコンゴムシートを用いた試作品を基に仕様を詰め、PlaQuick側で3次元モデル化を開始。そこから3カ月かけて設計を詰めた。設計フィックス後は、PlaQuickは最初の試作簡易型による成形品を2週間で納めている。生産上の大きな問題は特に発生せず、3月には量産(小ロット生産)を想定した製品を完成できた。その中では、採用する材料のアドバイスもPlaQuickが行った。「『人と金』の制限がある中での業務で、この短期間でしっかりと量産準備ができたのは化学・素材商社が運営するPlaQuickならでは。素晴らしいと思う」(木村氏)。
(左から)木村氏、竹崎氏、金森産業 東京支店 課長 泉規靖氏(営業担当)
フェアリーデバイセズ株式会社
フェアリーデバイセズ株式会社は、「使う人の心を温かくする一助となる技術開発」を目指し、VUI・VPA b関連技術や音声認識/音声翻訳関連技術とクラウド基盤、それらの性能を活かすエッジデバイスの開発を通して、音声技術を中心とした機械学習技術の実業務現場への適用を推進。さらに、現場の人から生まれる各種のデータ解析や、それらに関わる最先端の応用研究を実装した業務ソリューションを、デバイスからクラウドまで一気通貫で提供することによって、さまざまな業界のデジタルトランスフォーメーションを支援しています。
URL:https://fairydevices.jp/
PlaQuickについて(金森産業)
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URL:https://www.plaquick.com/
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