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川 ゚ -゚)子守旅のようです 10:ふたり


川 ゚ -゚)「……」

 ぽたり、血が落ちた。

 私のものではない。

(;ФωФ)「ひいっ……!」

 切りつけられた腕を押さえ、ロマネスクは──私の「元」雇い主は、
 ひいひい息を引き攣らせながら後退する。

 しかし背後に壁があるため、それ以上逃げられない。

ノハ;⊿;)「死ね! 死ね!」

 包丁を持ち、ロマネスクに追い縋る女も、ひいひい嗚咽している。

 その後ろで、各自適当な凶器を持った男女がロマネスクを睨んでいた。
 前にも後ろにも逃げ場がない。

川 ゚ -゚)

 私は──ロマネスクの「元」護衛は、それを、じっと見ている。

 どこぞの廃墟の窓から、路地裏の彼らを見下ろしている。

 くるり、右手のナイフを回す。
 夕日の金色の光を反射させる刃と、眼下の彼らを見比べ、
 ナイフをベルトに戻した。

 ガラスの抜けきった、歪んだ窓枠に頬杖をついて、路地裏をただ眺める。


川 ゚ -゚) …~♪


 もはや口に馴染んでしまった子守唄を舌の上で転がした。
 彼らには届かないほど、小さな声で。



 ロマネスクの悲鳴を聞いている内、何故だか1年前の──

 旅の始まりを、思い出していた。







( ФωФ)「──名前は何という」

川 ゚ -゚)「クール」

 偉そうな男だ、というのが最初の印象。

 腕を組み、ふんぞり返り、私をじろじろ眺め回す目付きも態度も気に入らなかった。
 私より20は歳上であろうかと目算を立てつつ、男の顔を窺う。

川 ゚ -゚)「あなたは、スギウラさんだな。よろしく」

 差し出した手を無視されて、やっぱり気に入らないなと思った。


 そのように対面を果たした後は、組織のロビーで業務の確認。

 概ね普通の護衛任務だ。
 先日発表されたばかりの新政府案。それに向け、寄り道しつつ中央へ行きたいという。

( ФωФ)「ここの護衛はそこそこ出来がいいと聞いたのである。
       決して安くはない金を払うのだから、ちゃんと働いてもらうぞ」

川 ゚ -゚)「もちろん」

( ФωФ)「まあ貴様は所詮、中央に着くまでの間に合わせだがな。せいぜい盾になれ」

 再三言うが、気に入らない。

 私は嘘が苦手──というか、良くも悪くも素直だと皆から言われるような性分であるため、
 彼に対する感情も、もしかしたら態度に出ていたかもしれない。

 実際、ロマネスクがトイレに行くと言って席を外した途端、
 傍らで契約書の確認をしていた「受付」が苦笑した。

(-@∀@)「クール。彼は君の主人になるんだから、もっと丁寧な対応をしないと」

川 ゚ -゚)「分かっているが、あの人と旅をするのかと思うと、既に疲れたような気分になる……」

 言葉や仕草の端々で、どうにも合わない人間であると逐一思わされるのだ。
 こればかりは何ともならない。

 受付は一度唸り、そうだ、と人差し指を立てた。

(-@∀@)「迷子のお守りをするんだと思うのはどうだい?
      あやしながら家に連れてってやるだけだと思えば、気が楽になるかも」

川 ゚ -゚)「……あなたも結構言うなあ」

(-@∀@)「『先生』の相手をしていると、時々、子守をしている気分になるんだ。
      特にデルタさんがいないときなんかは」

 その言葉に思わず吹き出してしまう。
 ひとしきり笑うと、いくらか楽になった。


.


( ´∀`)「──そろそろ出発するモナ?」

 昼を回った頃。
 私達が立ち上がると、どこからともなく先生が現れた。
 受付の言葉を思い出してしまい、上がりそうになる口角を必死に抑える。


 ──奴隷商を殺して逃げ出し、行き場もなく彷徨っていた私を拾ってくれた恩人。

 時に優しく時に厳しいこの人は、もともと貴族だったからなのか、
 たまに自由すぎる言動をとっては側近のデルタさんや受付係に窘められている。
 育ての親だと先生を敬愛する横堀さえも、彼を諫めることがあった。

 そういったところが子供のようだと受付は言いたいのだろう。正直同意する。

 けれど自由だからこそ、こんな、護衛を派遣する組織などを立ち上げられたのだ。
 素直に尊敬しているし、憧れもする。

( ´∀`)「気を付けて」

川 ゚ -゚)「はい」

 見送りの言葉は、いつもそれだけだ。誰に対しても。

 怪我をするなとか、死ぬなとか、そういうところの決定権は既に雇い主に移っているから。
 先生は最低限の挨拶で済ませる。

 そのくせ普通に心配するような表情を浮かべるので、
 薄情とも言い切れないのだ。







 初日は2人での行動に慣れるため街をぶらついて、日が暮れてから宿に一泊した。
 翌朝に馬車で他所の町へ行くと決めてある。

 歌の得意な人間を、という理由で雇った割に、
 それらしい仕事を与えられなかったのが不思議だった。



( ФωФ)「……」

 ──夜、ロマネスクは寝台の中央で胡座をかくと、
 私へ意味ありげな目を向けてきた。

 若い女を雇っていく男には(その逆も)、
 それなりの目的があるものと思え──度々言い聞かせられてきたこと。
 もちろん全員がそうではないだろうが、可能性がある限りは、覚悟をしておかねばならない。

 2年前、どこぞの富豪の息子に雇われていった友人が、
 そいつの子を身籠った状態で突き返されてきた。
 護衛らしい仕事もなく、ただ慰み者にされたらしい。

 先生は黙って彼女を抱き締め、すまないと震える声で漏らした。
 彼女は、覚悟していたことだからと笑った。泣いていた。

 鞄の中の避妊薬を布越しに確かめつつ、ロマネスクへ視線を返す。
 しばらく見つめ合って(いや、睨み合って)いると、
 焦れたようにロマネスクがシーツを叩いた。

( ФωФ)「来い」

川 ゚ -゚)「……はい」

 どう接近すればいいのか悩み、とりあえず、
 膝を突き合わす形で座った。
 寝台の上で俯き気味に向かい合う男女。まるで初夜だ。

 気まずくて目を逸らす。
 丁度そのとき、疑問が首を擡げた。
 たしかロマネスクは、護衛に性別も年齢も指定しなかった。特別、女が欲しかったわけではない筈。

 咳払いの声が聞こえる。
 私が顔を上げると──突然ロマネスクが、歌い出した。

川;゚ -゚)「え」

 少し気恥ずかしそうに歌うロマネスクも、私から目を逸らしていた。

 子守唄だろうか。
 歌詞と曲調からして、そのようだが。

 区切りのいいところで声を切ったロマネスクが、ようやくこちらを見る。

( ФωФ)「ヴィプ国の子守唄だ。これを覚えろ。覚えて、歌え」

川 ゚ -゚)「……子守唄を?」

( ФωФ)「うむ」

川 ゚ -゚)「あなたに?」

( ФωФ)「うむ」

 でないと眠れないのだ──
 また視線を逸らしながら、そう続けた。

川 ゚ -゚)「それだけでいいのか」

 思わず訊ねる。
 添い寝はいらないのかと付け足してしまった辺り、私も多少困惑していたのだろう。
 それを揶揄と取ったか、若干憤慨しながら、歌うだけでいいとロマネスクが答えた。

 脱力。
 変な人だ。


 ──その夜は、子守唄を覚えるまでロマネスクに歌ってもらった。





10:ふたり



 最初に私が護衛らしい仕事をしたのは、雇われてから3日目の昼だった。

 とある町のレストランで食事をしていると、それまでこちらを凝視していた客の1人が突然立ち上がり、
 ロマネスクの名を叫んで襲い掛かってきたのだ。
 手には食事用のナイフがあった。

(;ФωФ)「ひいいいっ!」

 情けない声をあげて縮こまるロマネスクを背に、私が男を捩じ伏せる。

 普段は尊大なくせに、すこぶる臆病なたちであるのをそのとき知った。
 防衛庁の役人だったそうなので、いくらか耐性があるだろうと思っていたのだが。

 襲ってきた客はすぐに店員によって叩き出された。
 とはいえ、さすがに落ち着いて食事を続けられる筈もないので
 早々に店を出て隣の町へ移動した。



川 ゚ -゚)「さっきの人と、何があったんだ」

(#ФωФ)「知らん! 誰なのかすら知らん。まったく、何だあの野蛮人は……」

川 ゚ -゚)「あなたの名前を知っていたから人違いってことはないだろう、何かあった筈だ」

 私がそう言うと、途端に目を泳がせた。
 心当たりはあるのだろう。

川 ゚ -゚)「可能なら教えてほしい。
     今後の旅にも影響があるかもしれない」

(#ФωФ)「……知らん!」

 それでも話す気にはなれなかったようで、結局、聞き出すことが出来なかった。

 ちりちり、不信感に火が点る。







 別の町では女がロマネスクを見るなり泣き喚いた。
 さらに別の町で、「あんたを殺せと頼まれた」などと男が切りかかってきた。
 とある町など、ロマネスクの名を聞いた瞬間に宿の主人が「満室です」と言い放った(記帳している最中にだ)。


川 ゚ -゚)「ほんとに何したんだ、ロマネスク」

 ものの一ヵ月で、ロマネスクに対する私の信用は尽き果てていた。
 「スギウラさん」と呼んでいたのが「ロマネスク」、
 「あなた」が「お前」に変わるくらいに。

 ──町に着けば真昼から酒場で馬鹿騒ぎをし、女を買って好き勝手し、
 少しでも気に食わぬことがあれば怒声を飛ばす。
 そして行く先々でトラブルを起こしたり誰かから恨み言をぶつけられたりしている。

 信用しろという方が無茶だ。

 私を扱き使うのは、まあ、そういう契約だから仕方ないとは思うけれど。
 私だけでなく、全ての他者を軽んじるような振る舞いは目に余る。

( ФωФ)「何もしとらん」

 返り血を拭いながら問う私に、ロマネスクはぷいとそっぽを向いて、いつも通りの返答。

 この日もまた、ヴィプ国人だという女がロマネスクに危害を加えたのだった。

 初めは出自を隠し、繁華街でロマネスクにすり寄って、
 すっかりその気になったロマネスクと2人きり(私も陰に居たが)になったところで、
 本性を現して彼を脅し始めたのである。

 ──「ここには元ヴィプ国人が大勢いる、あんたを憎む奴もいる、
 突き出されたくなければ金を寄越せ」──

 脅し文句からして女自身はロマネスクに恨みなど無いのだろう。
 ただ、誰かに恨まれているという点は相違ない。

 前述通り、誰かに頼まれてロマネスクを殺しに来たという輩までいるくらいだし、
 この恨まれようは最早、ちょっとおかしいとさえ思える。

川 ゚ -゚)「何もしてないのにこんなこと起こるか」

(#ФωФ)「……ええい、やかましい! 貴様は黙って我輩を守っていろ!!」

 女の死骸を一瞥して、ロマネスクは踵を返した。

 ──震えるロマネスクに「そいつを殺せ」と命令されたので、殺した。わずか3分前だ。

 彼は人命を軽く見ていると思う。
 脅迫はたしかに良くないことだが、殺すほどだったろうか。

川 ゚ -゚)(追い払うだけで充分だったんじゃないか)

 ロマネスクを追いながらその旨を指摘すると、彼は心底馬鹿にしたような顔をして振り向き、
 鼻で笑ってから前へ向き直った。

 そうして私はまた彼に不満を抱く。


 昔、奴隷商を殺したときは後悔などしなかった。
 そうしなければ私が──人間として──生きていけなかったからだ。

 実際ロマネスクを狙った強盗などを殺すことにも、
 多少の躊躇はあれ、それ自体は不当でないと納得している。


 しかし、明らかにロマネスクの方に原因があるらしい事態において、
 問答無用で相手の命を奪うのが正しい行為だとは思えなかった。







 結局、ロマネスクがこうも嫌われる理由は
 3ヵ月ほど経った頃に分かった。



(・∀ ・)「……ロマネスクのせいで俺の母さんが死んだんだ」

 ──ある小さな町で、またんきという少年に出会った。
 彼もまた、かつてヴィプ国に住んでいたという。

 酒場で殺気を振りまいていたので散歩ついでに引き離したところ
 (ロマネスクは臆病なくせに私が四六時中そばにいるのを嫌う)、
 あいつが過去にやらかしたことを聞き出すことができた。


(・∀ ・)「5年前、あいつはヴィプ国の防衛庁の人間だった」


 ──天災で世界が恐慌に陥ったとき。
 市民に避難を促すべきロマネスクは、担当地区の民に金を要求した。
 金を積んだ者から避難させる、と。

 各地でも同じことが起こったと聞いている。
 しかし他の事例に比べると、ロマネスクのそれはもう一段悪質であった。

 金を集めるだけ集めておきながら、
 あいつはほんの一部の人間のみを避難させて、残り大勢を見捨てた。

 またんきとその母親も見捨てられたのだという。
 幸いにしてまたんきは他所の避難所に拾われたが、
 定員により母親の方は避難所に入れず、その後どうなったのか今も分かっていない──

.

(;∀ ;)「殺す。殺してやる。たとえ護衛がいたって……」

 私がその護衛であるとも知らず、またんきはロマネスクへの殺意を涙と共に溢れさせていく。

 子供とは思えぬほどの怨嗟はあまりに悲痛で、
 そのどろどろした怒りがこちらにまで伝染するようだった。

 けれども、彼の復讐を看過することも、まして私が代行することも許されない。
 私に出来るのは釘を刺すくらいだ。



 それも、意味はなかったのだけれど。


.


 翌日またんきはロマネスクに刃を向けた。
 だから殺した。


(・∀ ・)


 ただ母の仇に報いたかっただけの少年は、死の間際、呆然とした目で私を見つめていた。

 腹の奥がぎゅうと痛んで、「ごめん」という言葉が口から出掛かって、むりやり飲み込んだ。
 私に非があるわけではないから言っても仕方ない。あるいはそう思いたかっただけか。
 ともかく飲み込んだ。

川 ゚ -゚)「おやすみ」

 代わりに、昨日の別れ際に向けたのと同じ言葉を落とした。

 聞こえたのかは分からないけれど、彼の顔からは苦痛が消え、
 本当に眠りにつくような安らかな表情を浮かべて、そっと死んでいった。

 朝方に押し入ってきた強盗を5人殺したときより、
 母想いの少年1人殺したときの方が、やはり、心苦しかった。

(;ФωФ)「このガキ、どういう躾を受けたのだ」

 死体に向かってそう呟くロマネスクに、ナイフを持つ手が震える。
 諸々を溜め息に代えて、全て絞り出すように吐き出した。







川 ゚ -゚)「……またか……」

 げんなりして首を振る。手に返り血。
 とある町で、またロマネスクに恨みを持つヴィプ人に襲われたのだ。


 ヴィプ国全体で言えば、生存者は多い。

 地区ごとに被害の大小はある(もちろんロマネスクの担当地区は『大』の方だ)が、
 対応自体が早かったのが幸いしたのだ。
 一部の国民を早々に他所の国へ避難させたのも要因だったろう。


 故に、世界各地にヴィプ国人がいて──
 彼らの多くは、ロマネスクの所業を風の噂で聞いている。

(;ФωФ)「……くそっ、くそっ! 庶民が!」

川 ゚ -゚)「これで何人目だ」

 ただ噂を聞いただけの人間なら、然して害はない。
 多少の悪感情はあれど基本的に手出しはしてこないからだ。
 例の、脅迫してきた女は例外として。


 問題は、またんきのように直接被害にあった者や、
 それが身内であった者達だ。

 彼らはロマネスクに対し、憎しみと言えるほどの怒りを抱いている。
 それゆえ、衝動に任せて罵声を浴びせたり、襲ったり、あるいは刺客まで寄越したりする。
 そして私は彼らを殺す──心の内で、同情と罪悪感を抱えたまま。


川 ゚ -゚)「……」

 真っ赤な手を見下ろす私に、
 恐怖から立ち直ってきたらしいロマネスクが汗を拭いながら冷眼を向けた。

( ФωФ)「貴様、人を殺しても平気なくせに
       時々そういうつまらん顔をするな」

川 ゚ -゚)「同情している」

( ФωФ)「同情するときとしないときの違いが分からん」

川 ゚ -゚)「お前のせいで悲しい思いをした人々を、
     お前の都合で殺していることに嫌気が差す」

 嫌みたらしく言ってやると、ロマネスクが一瞬だけ瞠目した。

( ФωФ)「どこかで聞いたのか」

川 ゚ -゚)「この間、実際の被害者から聞いた」

 大して気にも留めていないのか、それ以上の詮索はされなかった。
 そのことに無性に腹が立った。
 反省する様子が全く見られなかったからだ。

川 ゚ -゚)「……何であんなことをしたんだ」

( ФωФ)「何で、とは」

川 ゚ -゚)「別に、大多数を切り捨てる必要はなかったんじゃないか。
     せめて避難させられるだけ避難させてからでも、お前は間に合ったろう」


 またんきは9番目のグループで待機させられたが、それでも早い方で、充分に間に合う筈だった。
 なのにロマネスクは、4番以降のグループを見捨てたというのだ。
 あまりに早すぎるではないか。

 その分だけ、彼の罪は重い。


( ФωФ)「貴様には関係ないだろうが」

 ロマネスクが顔を顰めて言う。
 それにもまたかちんと来て、さらに嫌味をぶつけたら、ちょっとした口論へ発展した。


.


 そのまま数日ほど、ロマネスクと口をきかなくなった。

 ロマネスクが機嫌を損ねたのが主な原因で、
 私は一応、たまに話し掛ける程度の気概はあったのだが。まあ無視されていた。
 つくづく子供っぽい。

( ФωФ)「……」

川 ゚ -゚)「……」

 この数日間は、子守唄を歌わなかった。
 歌えと言われないのだから、と私も意地になっていたのだろう。

 最初の2日ほどは行きずりの女に歌わせていた。
 しかし3日目からは寝台列車での移動になったため、
 女を調達することも敵わず、ロマネスクはあからさまに眠気を溜め込んでいた。

.

 ──そこから更に2、3日経った頃。

 すっかり隈を作ったロマネスクが、買い溜めておいた酒を浴びるように飲み始めた。
 酔いに任せて眠ろうとしたのだと思う。

 今夜は歌うつもりだった(護衛である以上は主人の体調も気遣わないといけない)私は、
 酒が導入剤になるのならばと放置しておいた。

 間もなく、ロマネスクは気絶に近い形で眠りに落ちる。
 だが、

(;+ω+)「……うう」

 10分かそこらで、苦しげに呻きだした。

 落ち着かなそうにもぞもぞ動き、
 不意に、何かを求めるように手を伸ばした。
 震えていた。

川 ゚ -゚)

 咄嗟に近付き、その手を握る。

 突然の感触に目を覚ましたか、ロマネスクが瞼を持ち上げた。
 こちらを見る瞳が、いつも危険が迫ったときと同様に弱々しく揺れていた。

 そして私を認識した途端に和らぎ、ほうっと安堵するように息をつくものだから。
 知らず、握った手に力を込めた。

(;ФωФ)「……」

川 ゚ -゚)「……おはよう。よく眠れたか」

 大丈夫か、と訊くべきだったのだろうが、
 珍しく殊勝な態度に動揺して、また嫌味な言い方をしてしまう。

(;+ω+)

 ロマネスクは私を睨んだあと無言で寝返りを打ち、
 狭い寝台にスペースを作って、そこを片手で叩いた。

 空いた場所に座り、子守唄を歌う。
 今度はうなされることもなく、ぐっすりと眠っていた。

 眠れて良かったと、なぜ思ってしまったのだろう。


.


 互いに謝ることはなかったが、そもそも元から修復するような仲も無かったので、
 以前のように適当な距離感に戻った。

 ただ、夕食の折、

( ФωФ)「……」

川 ゚ -゚)「……」

 何も言わずに高そうな酒を私のグラスに注いできたので、
 私も何も言わずに受け取っておいた。
 小遣いらしい紙幣もグラスの下に差し込まれていた。

 酒と金がすこぶる好きなあいつが、女を買うためでもなく
 そのようなことをするとは思わなかった。
 あいつなりに、いくらか機嫌をとろうと考えたのだろうか。

 本当に子供くさい。
 ふ、と小さく吹き出すと、また睨まれた。







('、`*川「スギウラさんに、どうかしら」

川 ゚ -゚)「どう……だろうか、それは。本当に」

 ──薄桃色に可愛らしい猫の柄が入ったネクタイを持ち上げる彼女に、
 私の目は未だかつてないほど泳いだ。

 ペニサスさん。彼女もまたヴィプ人だ。
 彼女と護衛デミタスの2人組とは、示し合わせたわけでもないのにしょっちゅう会う。
 移動ペースがほとんど同じなのだろう。

 今回は結構長めに同行していて、数週間前に列車で再会してから、
 共にいくつかの町を転々とした。
 まあ途中、病にかかり、しばし拘束されたのもあるが。


 この日は、少しの間だけ護衛を交換しようというペニサスさんの提案により
 私が彼女の買い物に付き合っていた。
 デミタスは大層不服そうだったが。

川 ゚ -゚)「ロマネスクは好き嫌いが激しいから、少し、難しいと思う」

('、`*川「そうかしら……」

 適当に宥め、ネクタイを戻させる。

 まず確実にあいつは文句を言うし、それはペニサスさんに悪いし、
 ついでにペニサスさんが落ち込めばデミタスが不味いことになりかねない。
 デミタスとは、なるべくやり合いたくないのだ。

川 ゚ -゚)「あいつには構わなくていい。
     それより、デミタスの快気祝いを買いに来たんだろう」

('、`*川「デミタスのは、これって決めましたから」

 言って、ペニサスさんは落ち着いた赤い地に暗い銀色の刺繍が入ったネクタイを掲げてみせた。
 そちらは普通なのに、何故ロマネスクにはあんな柄を選んだ。嫌がらせか。

 ふと、それが、かつてデミタスが彼女に付けさせられていた
 「変わったアクセサリー(控えめな表現に留めておこう)」に似た配色だと気付く。

 そのことを示してみれば、ペニサスさんは、うん、と小さく頷いた。

('、`*川「デミタス、本当はとても嫌がっていたんですよね。
     ……申し訳なかったから、代わりに、ちゃんとしたものを贈ろうと思って」

川 ゚ -゚)「なら、何故わざわざ似た色合いのものを」

('、`*川「こう言っては失礼だけれど、あの赤い首輪と鎖が、本当にデミタスに似合ってたんです。
     ──首輪が似合ってたっていうか、えっと、赤い色と銀色が。
     だからデミタスにぴったりな色っていうと、私にとっては、この色なんです」

 ネクタイを撫で、ペニサスさんはにこりと微笑んだ。
 同性でありながら、彼女からは時おり妙な色気を感じることがある。
 攻撃的なものではなく、寧ろその逆の。

川 ゚ -゚)「……デミタスも、喜ぶと思う」

('、`*川「そうだといいけど……
     クーさんは、スギウラさんに快気祝い、差し上げないんですか?」

 くたりと首を傾げるペニサスさん。
 彼女だって少し前まで病に臥せっていたのに、
 やけにデミタスやロマネスクに気を遣っている。


 ──もう一度言うが彼女もヴィプ人だ。

 資産家である彼女の家とロマネスクは何かしら関係があったという。
 彼女とロマネスクに直接的な面識は無かったようだが。

 例の噂を知っているのかいないのか、彼女はこれといってロマネスクに思うところも無いらしい。
 実際、会うごとに親しげになってはいる。

川 ゚ -゚)「別に、そんなもの用意してやる義理もない」

('、`*川「でもクーさん、ずっと心配して付きっきりで看病していたのに」

 多分、苦虫を噛み潰したような顔をしたと思う。

 看病してやったのは私が護衛だからだし、
 ロマネスクが馬鹿みたいに弱気になって、ひんひん泣きながら縋りついてきたからだ。


   (。ФωФ)『我輩はきっと死ぬである……ここで死ぬ……罰が当たったのだ……』


 死んでしまう、と何度も言っていた。
 子供みたいに不安そうな顔をして、半泣きで震えていた。
 いくら何でも、いい歳したオッサンが。あれはちょっと、なあ。

 とりあえず寝かしつけるために何度も子守唄を歌ったので、
 相部屋状態だったペニサスさんやデミタスはうんざりしたことだろう。

('、`*川「まあ、あんなに弱っていたら誰だって心配するでしょうけど……」

川 ゚ -゚)「私は仕事をしただけだ」


 ──それにしても。
 罰が当たった、などと。
 そんなことを言ったのが、よりによってロマネスクだという事実が信じられない。

 悪事を悪事と認識していたのが意外だった。

 あいつは己の行いを全て正しいと信じている人間だと思っていた。
 見捨てた人々に対しても、己の生存のために必要な犠牲だった、なんて言いそうな奴だったし。

('、`*川「クーさん、本当に何も差し上げないの?」

川 ゚ -゚)「……さっきも言ったが、好き嫌いが激しいから
     何か買ってやったところでどうせ無駄に終わる」

 そう、と残念そうに答えて、ペニサスさんは会計を済ませた。

 丁寧に包装されたネクタイは、ひとまず私が預かった。荷物持ちも仕事の一環。
 デミタス達と合流するため軽い足取りで歩き出す彼女に付いていく。

('ヮ`*川「ビーグルちゃん達も来てるって、スギウラさんに教えてあげないとね」

川 ゚ -゚)「ああ、そうだった」

 先ほど会った、小型犬とその護衛である大男を思い浮かべる。
 それから、数日前のロマネスクの言葉も。

 ──「あの犬、次に会ったら肉でも買ってやるか」。

 病み上がりにあいつはそう言った。
 妙な話だが、ロマネスク達3人は犬に救われたようなものだ。

 それを恩と感じ、そして返してやろうとしているらしいロマネスクの言葉にもまた、
 私は心底驚いていた。







 とある姉妹に会った。
 家族を探して旅をしているそうだ。

( ФωФ)「──母親が何だというのだ、馬鹿らしい……」

 母を求めて泣く子供の声に、ロマネスクは吐き捨てるように言った。
 それに違和感を覚える。

 子供へ嘲笑を向けたとしたら、こいつの性格からして分からなくもないのだが、
 腹を立てているのは理解できない。

 その上、直後判明した事実に私は更に困惑させられた。

 その姉妹もヴィプ国──の防衛庁──の被害者だったのだ。

 そちらにロマネスクは関わっていなかったようだが、
 事前に情報を得ていながら止めようとはしなかったというのだから、
 その時点で共犯のようなものだと私は思う。


.


(#ФωФ)「……何であるか、その目は!」

 宿泊している部屋に戻るなり、ロマネスクがサイドテーブルを蹴飛ばした。

 よくよく怒る奴だが、これはあまりに唐突すぎて目を丸くしてしまう。

 疑問と疑念が私の顔に出ていて、それが彼を刺激したのだろう。
 しかし今までも散々見せてきた表情なのに、なぜ今回に限ってそれほど怒るのか。

 ロマネスクは私を突き飛ばして廊下へ戻った。
 追い掛ける私に「付いてくるな」とまた怒鳴り、
 階下のこぢんまりとした酒場に入っていく。

 そこで適当な女と酒を引っ掛け、部屋へと帰った。
 私が中に入るわけにはいかないので、ドアの前で待機する。
 ──どうせ、すぐに私を呼ぶだろうと見当をつけていた。

.


( ФωФ)「……」

 しばらくすると、案の定ロマネスクがドアを開けた。
 部屋から出てきた女が私を見て怪訝な顔をし、
 無言で私の腕を引っ張るロマネスクを一睨みして、心外だとばかりに去っていった。


 最近は、私以外の子守唄では寝付けないらしい。
 難儀なものだ。

 この旅が終われば私は組織に帰ることになっている。
 私と離れたら、こいつはどうやって眠るのだろう。

川 ゚ -゚)「……どうして、そう機嫌が悪いんだ」

 歌う前に訊ねてみると、ロマネスクは不貞腐れた顔をして、
 ふいとそっぽを向いた。


.

 翌日、町を出るという姉妹に、誕生日の祝いとして菓子を渡した。

 本当は昨夜渡すつもりだったが、色々あって渡せず、しかも寝る前にロマネスクに食われたので
 今朝新しく買い直したものだ。

 菓子を買う際、お前が食ったのだからとロマネスクに支払いを促すと、
 存外あっさり金を出した。

 祖国に傷付けられた姉妹への詫びなのか、私への当てつけなのか、ただの気まぐれか。
 意図はどこにあったのだろう。

 こいつは単純な男だ、と分かっているようなツラをして、
 実際は、日ごとに分からなくなって戸惑っていた。







 いつからか、ぐらぐらと揺れるのを常に感じていた。

 「ロマネスク」という、私の中での印象が幾度も揺れて、ぶれて、
 元の位置に戻ったり外れたりを繰り返す。



 そうしている内に、決定的に崩れる日が訪れた。


.


( +ω+) ゴォオ

川 ゚ -゚)(まるで獣の唸り声だな)

 まあ疲れていたのだろう。
 そう思いつつ、ずれた毛布をかけ直してやる。


 ──「新政府」の期限まで残り3週間となり。
 中央を目前に控えた街で、あろうことかロマネスクが殺人の容疑を掛けられた。
 (幸い、ある人達によって疑いは晴らされたが)

 解放されたのはほんの一時間前。
 自警団を始めとして各々から謝罪があったようだが、ロマネスクはそれを受ける暇もなく──
 眠気に従い、部屋に戻るなり私に子守唄を歌わせ就寝したのであった。

( ^ω^)「ヴィプのスギウラさんって、防衛庁にいた方だおね?」

 やかましく眠るロマネスクに苦笑を向けつつ、
 椅子に腰掛けた男──首長が、私に問い掛けてくる。

 歳の割に、立場に見合った振る舞いをする人だった。
 かと思えば、やや間の抜けたところもあって、
 どことなく先生に似ている。ような、気がした。

 このときも、ロマネスクと私へ謝罪をしたいという理由で、部屋を訪れてくれていた。
 生憎ロマネスクは眠ってしまったが。

 彼の護衛は事後処理のため席を外している。私に害は無いと判断してくれたのだろう。

川 ゚ -゚)「……うん」

 寝台の縁に座る私は、ロマネスクを一瞥してから頷いた。
 首長が「やっぱり」と手を叩く。

( +ω+) グガー

川 ゚ -゚)「こいつのことを知ってるのか?」

( ^ω^)「ヴィプは色々あったから、噂も色々聞いてるんだお。
       スギウラさんの話も」

 ──ああそうか。
 やはりロマネスクの悪評は、中央にまで届いていたか。


   川 ゚ -゚)『……もし、あの男が中央に着いたとして……
        政府に選ばれるかどうかは、まだ分からないだろう?
        お前が知っているくらいだから、あいつの所業は中央に伝わってるかもしれないし……』


 かつて、またんきに掛けた言葉。
 「かもしれない」などと曖昧な言い方をしなければ良かった。
 もっと、しっかり説得すれば良かった。

川 ゚ -゚)「どういう話だ」

 確認の意味も込めて問う。
 首長は頬を掻き、宙を見遣った。

 「まあ、よくは知らないけれど」と前置きして。


( ^ω^)「元々は、とても真面目で、優秀な人だったと聞いてるお」

.

 ──がくりと足場が崩れて視界がぶれた、ような錯覚。

 首長が冗談を言ったのだろうという思考だけは、辛うじて拾えた。

( ^ω^)「いい噂も悪い噂もあるおね。
       天災の前後で評価が真逆になってるお」

 いい噂、なんて、そんなの私は知らない。
 天災の前後ということは、天災が起こるまでは評価されていたのか。こいつが。

 有り得ない。だってこいつは、筋金入りの──人でなしだろう。

 首長は視線を一度空中に逸らしてから、改めて口を開いた。

( ^ω^)「僕が新政府案を発表したとき、多くの人は、急いで中央にやって来た。
       でもスギウラさんは、政府に加わるに当たって、
       時間をかけて各地を回ってきたと言っていたお」

川 ゚ -゚)「は……」

 何を言っている。

 私の戸惑いを察したか、怪訝な顔をしながら首長は小首を傾げた。

( ^ω^)「各地の実情を知るために、一年かけて巡ってきたって言ってたお?」

 各地の実情。
 受けた言葉を、そのまま口の中で繰り返す。

 まっすぐ中央へ向かわない理由について、本人からの説明はなかった。
 旅行が好きだと聞いたことがあったので、それが理由だろうと考えていたのだが。


 ──けれども、たしかに。疑問は以前からあったのだ。

 どうして、これといった特徴のない小さな町にまで寄るのか。

 どうして、あんなにもたくさんの人から恨まれているのに、臆病者のくせに、
 わざわざ寄り道ばかりして、危険な目に遭う確率を上げるのか。

 どうして、金が何より好きなくせに、いちいち金がかかるような旅をしているのか──


 ロマネスクなりに調査をしていたのだと考えれば、
 納得するかは別として、理解は出来る。

( ^ω^)「たとえば、架空の船便の噂を流している悪質な港の話をしてくれたお。
       恥ずかしながら、僕らはそちらの調査をしていなかったから助かった」

 小さな教会で会った知り合い。
 ある港に騙された彼女の話。

 あのときロマネスクは眠っていたものの、途中からは起きていた。
 彼女の話にまるで興味がなさそうな態度をとっていたが、
 そういえば、その割に、話し終わるまで邪魔をしてこなかった。

 どんな気持ちで、何を思いながら、聞き耳をたてていたのだろう。

( ^ω^)「西の方で新種の病が出たことも聞いたお……
       やっぱりちゃんとした機関がないと他所の細かい情報が伝わりづらいから、
       彼のように広範囲から情報を持ってきてくれるのは本当にありがたい」

( ^ω^)「とはいえ取り調べの最中だったし彼も眠気や二日酔いでぐらぐらしてたから、
       これくらいしか、まだ話せてないけど。
       ──出来るなら、もっとじっくり聞かせてほしいところだお」

 好印象と言わんばかりに、首長は笑んでいる。

 違う。違うのだ。
 あなたは騙されている。──そんな思いが、私を焦らせる。

川 ゚ -゚)「……善意でやったんじゃない」

( ^ω^)「お?」

川 ゚ -゚)「そうやって取り入るために、調査って名目でぶらぶらしてきただけだ。
     ……あなたもこいつと話したのなら、こいつがどんなに身勝手な奴か分かっただろう」

 言い切ってから、口を押さえる。
 私は雇い主のためになることをしなければならないのだから、
 本当はこんなこと、言うべきではない。

 けれど。けれども。黙っていられない。

 眉間に皺を寄せる私に、首長が困ったように苦笑して、頬を掻いた。

( ^ω^)「別に、それならそれで、いいんだお」

 ──は、と吐息のような声が漏れる。
 今、何と言った。

 視線を絡めると、首長は肩を竦めてみせた。

( ^ω^)「ポイント稼ぎのためだろうと、実際、僕は話を聞けて助かったお。
       今どういう情報が僕らに必要なのかも、彼は分かってるわけだし」

川 ゚ -゚)「……」

( ^ω^)「そりゃ清廉潔白な人は好ましいけど。それは、人として、の話であって」

 窘めるような言い方。
 じくり。頭の奧に灯るものがある。


( ^ω^)「僕が仲間に欲しいのは、世界のために、いま何が必要なのかを分かっている人だお」


 ──ああ、その言葉。

 まるで。
 「先生」のよう。


( ^ω^)「彼が昔、真面目で優秀だったと評されていたのも、
       そういうところに理由があるんだと思うお」

 そりゃあ。
 性根が腐っていたとしても、仕事が出来るなら優秀だろう。
 本心が捩れていたとしても、きっちり務めを果たしているなら真面目だろう。

 理屈は分かる。
 それならたしかに、ロマネスクは優秀で、真面目な奴だったのかもしれない。

 天災が始まるまでは。

川 ゚ -゚)「──こいつはたくさんの人間を見殺しにした」

 首長は姿勢を直したが、表情は変わらない。
 噂を聞いたらしいから、知ってはいるか。

川 ゚ -゚)「いざというとき国民を見捨てる奴だ。
     そんな奴を政府に入れていいのか」

( ^ω^)「んん、その噂はたしかに僕も、気にはなってる。
       事実ならもちろん考慮するべき点だお」

川 ゚ -゚)「事実ならって……」

 事実も何も、今まで何人も被害者とその身内がロマネスクに恨み言を──

 いや。
 恨み言でしか、私はその話を知らないのか。

川;゚ -゚)「……」

 口を噤む。
 既に崩れた筈の足場が、ますます揺れるのを感じた。

 少し悩むような素振りを見せてから、首長は思いもよらない名前を口にした。

( ^ω^)「……イトーさん、知ってるかお? イトー・ペニサスさん。
       何時間か前にもツンが言ってた、デミタスさんの雇い主」

川;゚ -゚)「え。あ、ああ。ロマネスクの知人だ」

( ^ω^)「以前、中央で彼女と話す機会があったんだお。
       ──戦時中、彼女の家でシェルターを管理していたことは?」

川;゚ -゚)「それも知ってる。
     イトー家の当主が多くの恨みを買っていて、市民にシェルターを奪われてしまったと」

 ペニサスさんは1人、他所の避難所へ逃げたから助かったと聞いている。

 首長が浅く頷いた。
 いま私達は、何の話を、しているのだろう。

( ^ω^)「イトー家が所有していたシェルターはとても大きくて、
       有事の際には、イトー家以外の人間も受け入れるように言われていたらしいお」

 「言われていた」──誰から?
 それほど大きなシェルターなら、国からも目をつけられていたかもしれない。


 ──イトー家。
 国。政府。
 関わりがあった、イトー家とロマネスク──


川;゚ -゚)「まさか」

( ^ω^)「天災のとき、ロマネスクさんが担当した地区の住民の一部は、
       そのシェルターに入れられる予定だったらしいお」


 けれどシェルターは近隣の市民に奪われた。
 それでロマネスクは、こいつは、一体どうしたというのだ。


( ^ω^)「あの頃は、どこもめちゃくちゃで、どこも一杯一杯だった。
       そんなときに予定していた避難先が使えなくなったら、どうなるだろうかお」

川;゚ -゚)「でも。……でも、そういう事情で避難が上手く行かなかったのなら……
     そのこと自体、噂になる筈じゃ……」

( ^ω^)「まあ、たしかに。……これ以上は部外者が考えたところで答えは出ないおね。
       イトーさんもそれ以外の事情は知らないみたいだし」

 ここで、話の区切りとしたらしい。
 首長は伸びをして、こちらに集中させていた意識を僅かに散らした。
 欠伸を一つ。

( ^ω^)「こっちでも出来る限り、調べてはみるお。
       ヴィプの役人さんも中央にぼちぼち来てるから、
       誰か1人くらいは事情を知ってるかもしれない」

( ^ω^)「……もしスギウラさんが進んで見放したわけではないのなら、政府としては歓迎したいお。
       少なくとも今のところは」

 そうして、話は完全に終わった。

 私が何も言わないから、首長も気まずそうに頬を掻いて視線を彷徨わせるばかり。
 沈黙。

 私は己の膝とロマネスクと首長を見比べていた。
 私達の呼吸以外に、音はない。

 ──ドアのノックで我に返った。

ξ゚⊿゚)ξ「ブーン様、自警団の責任者とお話を」

 首長の護衛、ツンがドアを開ける。
 それを受け、先より明るい──空気を変えたかったのだろう──声をあげ、彼は立ち上がった。

( ^ω^)「ん、じゃあ行くかお! ──本当にこの度は迷惑をかけたお」

川 ゚ -゚)「いや……こいつが余計なことをして、勝手に巻き込まれただけだから……」

( ^ω^)「中央に行くなら、一緒に船に乗っていかないかお?
       夜明け頃に出るんだけれど」

川 ゚ -゚)「……遠慮しておく」

 ロマネスクは、船に乗るのを嫌がる。理由は分からないが。
 だから首長からの誘いといえど、乗りたがらないだろう。

 改めて挨拶をして、首長とツンが部屋を出ていく。
 ドアが閉まり、足音が遠ざかってから、私はロマネスクを見下ろした。

 少し前から、いびきが聞こえない。

( +ω+)

川 ゚ -゚)「……おい」

 もう一度、おい、と声を掛けると、ロマネスクは面倒臭そうに瞼をゆっくり持ち上げた。

川 ゚ -゚)「寝たふりして盗み聞きか」

( ФωФ)「枕元でごちゃごちゃ話されれば起きるである」

 いつ頃いびきが消えたのか、明確には記憶していないが
 そう遅くはなかった筈だ。

( ФωФ)「やはり首長ともなれば、よく分かっているものであるな」

 寝返りをうち、私に背を向けてロマネスクは嘯く。
 「新政府入り確実だ」。暢気な発言の割に、声色は硬い。

川 ゚ -゚)「……何があったんだ」

 気付けば、問うていた。

 天災のとき、何が起こっていたのかを訊きたかった。
 ロマネスクも分かっているだろうに、
 彼は緩慢に振り向いて、低めた声で思わぬ答えを寄越した。

( ФωФ)「──子供の頃、時々、母親に殺されかけた」

川 ゚ -゚)「は?」

 会話が成立していない。
 はぐらかす気かと苛立ち、冷静に発言の内容を反芻して、
 その内容に息を呑んだ。

 テンポのずれた反応に、ロマネスクは小馬鹿にするような目付きをしてから
 また向こうへと頭を戻した。

( ФωФ)「普段は優しい人で、毎晩、子守唄を歌ってくれるのだがな。
       たまにおかしくなるのだ」

川 ゚ -゚)「……」

( ФωФ)「子守唄を歌いながら我輩の首を絞める。
       我輩は気絶するように眠り、朝目覚めて、ああ良かった生きていると安堵するのだ」

川 ゚ -゚)「……何でそんなこと」

( ФωФ)「我輩が父に似ていたからではないか」

川 ゚ -゚)「何で父親に似てるからってお前を殺そうとするんだ」

( ФωФ)「知るか。どうでもいい。10歳になる前に、両親とは離れたし。大した記憶もない」

 夫婦仲がいいのか悪いのか分からぬ両親だった、とロマネスクは言う。
 こっぴどい罵り合いの末に暴力沙汰になることもあれば、
 子供そっちのけで睦まじくすることもあったと。

 ロマネスクが祖父母に引き取られるまで──恐らく引き取られてからも──その繰り返しだった。


 新たな保護者となった祖父母には、真っ当に育てられたそうだ。
 わがままは滅多に言わなかった。
 両親を怒らせないようにと幼い頃から気を遣っていた名残で。

 ただ内面では、今のような人格が既に形成されていた。


( ФωФ)「……まあ表に出さなかったから、
       皆は我輩のことを、普通に真面目な人間だと思ったのだろうが」

 思いのほか客観的な発言だった。
 表に出せば煙たがれる性格だと理解しているわけだから。

川 ゚ -゚)「どうして今は……そう正直に生きてるんだ」

 ロマネスクは答えなかった。
 毛布を耳元まで引っ張り上げると、少し背を丸めながら「寝る」とだけ言って、
 催促するように枕を一度叩いた。

 ──結局、はぐらかされた。
 それとも本当は、もっと話を続ける気でいて、それが実行されていれば
 私の最初の問いへの答えを得られたのだろうか。

 子守唄を歌う。ふと疑問が湧く。
 首を絞められながら子守唄を聴かされたというくせに、
 どうして子守唄がないと安心して眠れないのだろう。

川 ゚ -゚)(もしかして嘘ついたんじゃないのか)

 同情を煽って有耶無耶にするために、適当なことを言ったのかもしれない、なんて。

( +ω+)

川 ゚ -゚)「……」

 なんて。一度は思ったのだ、けれど。


 以前、母が恋しいと泣いた少女に苛立ちを向けたのは、
 きっと真っ当に愛を注がれ愛に応えていた彼女へ嫉妬していたのだろうと考えたら、
 すとんと落ちるものがあった。


 何とはなしに、眠りに落ちかけているロマネスクの頭を撫でてみる。
 彼の眉間に薄く皺が寄ったが、すぐにほどけて、寝息をたて始めた。







 ──2年前に。

 先生に、訊いたことがある。

川 ゚ -゚)『何で、依頼主をふるいに掛けないんですか』

 雇われていった友人が富豪の息子に孕まされ
 もう必要ないと組織に帰された日の、翌日だったか2日後だったか。

 私は件の「元」雇い主とやらに苛立ちを覚えながら、その怒りを少しだけ、先生にぶつけたのだ。

( ´∀`)『……急にどうしたモナ』

 先生は惚けてみせた。
 私の言いたいことなど分かっているくせに。

川 ゚ -゚)『あの男がろくでもない奴なのは、最初から分かっていたじゃないですか。
     人前だろうと付き人に怒鳴り散らして、いちいち嫌みたらしく話して、
     明らかに「物」を見る目で私達をじろじろ見ていた』

 あの男は、ずらりと並べた女達を値踏みするように眺め回して誰を雇うか決めていた。
 下卑た顔つきは、まるで性根がそこに表れたかのようだった。


 ──先生は私達に、「雇い主の命令は可能な限り聞きなさい」と言う。
 理不尽なものでも、不愉快なものでも、出来るだけ聞きなさいと。

 まるで私達の意思を無視して尊厳を踏みにじるかのような方針だ。
 そのくせ、それにより私達が傷付けば、先生も悲しむのである。

 「大丈夫、こういう仕事だもの、だから平気」──
 そう言って腹を押さえながら泣き笑う友人に、先生も泣きそうな顔をするのだ。

 心ない雇い主によって辛い目に遭わされた護衛達は何人もいる。
 その度に先生は苦しそうに「すまない」と言う。

 みんなが苦しむくらいなら、せめて、もっと──まともな人間の依頼だけ受ければいいのに、と。
 私が思うのも、仕方ないことなのではなかろうか。

川 ゚ -゚)『先生は、「世界に必要な人間」を守るために私達を育てた筈だ。
     なら、その、必要な人間とやらの依頼だけ受けるべきじゃないのですか』

 私がそう言うと、先生は首を傾げた。

( ´∀`)『たとえば、どんな人間モナ?』

川 ゚ -゚)『……利他的で、拝金主義ではなくて、真面目で……』

( ´∀`)『そういう人間が集まれば、この世界を立て直せるモナ?』

川 ゚ -゚)『……』

 自分で言ったくせに、頷けなかった。

 この世にお人好ししかいないのならそれで良かったかもしれないが、
 生憎、そんなに都合のいい世界ではない。

( ´∀`)『利己的でも……いや利己的だからこそ、
       誰にとっても有意義な何かを見付けられる人もいる。
       拝金主義だからこそ、経済を真面目に考えられる人もいるモナ』

( ´∀`)『もちろん、クーが言うような人間だって、
       いた方がいいに決まってるけれど』

 続ける先生の顔は、どこか悲しげだった。

( ´∀`)『……結局ね、どんな人間なら間違いなく世界を救えるかなんて、
       僕にも、──誰にも、分からないんだモナ』


 この組織が世界を救うのではなくて。
 どこかにいる「世界を救える人」を護るために、この組織がある。

 本当に護るべき人、とやらを見極めることは誰にも出来ないから、
 せめて手の届く限りの人を護って、「もしかしたら」の可能性に賭けているだけなのだ。

 前もって悪人だ善人だと振り分けることに意味はない。
 それは個人の価値観であって、世界の価値観ではないから。


( ´∀`)『彼だって、僕らには分からないような、いい面があったかもしれない』

 言って、先生は妙に力を込めた手で件の男の書類を持ち、
 殊更ていねいに引き出しへしまった。
 それでも引き出しを閉める手つきには些か乱暴さが窺えた。

 私は何も言えなかった。





 ──あのときの先生の言葉と、宿で話した首長の理念は、概ね同じだ。

 それなら私は、首長の言うことが正しいのだと信じてしまう。

 それなら。
 それなら、ロマネスクが必要だという首長の意思も、
 間違っていないというのか。


 でも。


   (;∀ ;)『もしもあいつが新しい政府に選ばれたら!?
         そんな世界で生きてて誰が幸せになれる!
         俺の母さんがどうやって救われる!?』


 泣いていた──

 たしかに泣いた人が、いたのだ。







 残りの3週間は何事もなく過ぎた。

 中央のすぐ隣の町に宿泊し、期日を待った。
 期日までに中央で名前と素性の登録をしなければいけないらしいが、
 直前でも間に合うだろう、とロマネスクが動こうとしなかったのだ。


 そうこうしている内に、とうとう期日が2日後へと迫る。


川 ゚ -゚)「いつ中央に行くんだ」

( ФωФ)「明日の夜に出発すれば、充分間に合うである」

川 ゚ -゚)「……分かった」

 ロマネスクは中央直前のこの町で、宿に篭ったまま外へは出なかった。

 酒は私に買ってこさせて1人で飲んでいるが、女の方は完全に我慢しているようだった。
 私には絶対に手を出さない。そりゃ出されても困るが。
 多分「物」という感覚で私を見ているのだろう。

 ──なぜ宿に篭るのか。
 なぜぎりぎりまで中央に行かないのか。

 その理由は、うっすらと分かっている。

川 ゚ -゚)「……」

 私はカーテンの隙間から窓の外を見下ろした。
 表通りに面しており、昼というのもあって人の往来が活発だ。

 そんな中、不自然に動かないまま宿を見つめている男がいる。

( ФωФ)「クール」

川 ゚ -゚)「ん?」

( ФωФ)「酒と、つまみを買ってこい」

川 ゚ -゚)「まだ昼だぞ」

 寝台の上で本を読んでいたロマネスクが、本から目を離さぬまま紙幣をこちらに差し出した。
 もともと読書が好きなたちらしいが、女を買わなくなってからはますます没頭しがちである。

 小言を返しつつも、丁度いい機会だとは思ったので
 金を受け取り、おとなしく部屋を出た。


.


 ──宿を後にして、私は辺りを見渡した。
 先ほど窓から見えた男がいなくなっている。

 ただ気配までは消せていない。

川 ゚ -゚)「そこの人」

 物陰を覗き込むと、隠れていた若い男が小さく悲鳴をあげた。

(;´ー`)「うわっ!」

川 ゚ -゚)「ヴィプ国の人か」

 彼はしばらく呆然と私を見ていたが、
 はたと我に返った様子で、目を鋭くさせ睨んできた。


 最近、宿の近くをうろつき何かを探すような人間をちょくちょく見掛ける。

 ロマネスクに用があるのだろうと、すぐに分かった。
 居場所は分かっているらしいのに、真っ向から訪ねてこないことから、堂々とは会えぬ用なのだとも。

( ´ー`)「あんたロマネスクの付き人だろ」

川 ゚ -゚)「付き人……なんだろうか」

 ロマネスクの身を護るより、ほぼ日課である子守唄の方が主な業務と化しているので
 付き人という表現も決して間違ってはいないのだろう。
 訂正せず、頷いておく。嘘でも真実でもない。

川 ゚ -゚)「何の用でここにいる?」

( ´ー`)「分かってるくせに」

川 ゚ -゚)「……私は雇われて世話をしてるだけだから、あいつの事情をよく知らない」

 これまた、嘘とも本音とも言える。
 どういう事情で狙われているかは知っている、
 だが「事実」はまだ知らない。

 男から警戒心が薄まった。
 彼は呆気にとられたように目を瞬かせ、視線を斜め下にやった後、
 「ちょっと来い」と自分の背後を指差した。

 少し迷う。宿と男を見比べていると、彼は決まり悪そうに付け足した。

( ´ー`)「あんたにもロマネスクにも、何もしないヨ。……今は」

.


 移動しながら、男はロマネスクが市民を見捨てた件を私に説明した。
 またんきから聞いた話と同じだった。
 この男の場合は恋人が犠牲者だったそうだ。話しながら、怒りで震えていた。

 徐々に人気がなくなっていく。
 女である私をこういうところへ誘導することに男は気を遣っていたようだったが、
 当の私は、何かあれば返り討ちにすればいいと考えていた。


 天災の被害が激しかった一画なのか、崩れかけた幾つかの廃墟が
 そのまま放置されている区域に到着する。

 とある路地の奥に、十数人ほどの集団がいた。
 年齢や性別はばらばらだが、いずれも目をぎらつかせている。

川 ゚ -゚)「……みんな、ヴィプ人なのか」

 先に質問すれば、男が頷いた。
 怪訝な瞳がこちら一点に集中する。

 男は、私がロマネスクの付き人であること、そしてロマネスクの過去を碌に知らぬことを彼らに話した。
 付き人という点でやはり警戒されたものの、
 事情に疎いのだというところで警戒は少し薄れた。

川 ゚ -゚)「あなた達はどうやって集まったんだ」

( ´ー`)「ロマネスクが中央へ向かってるって噂を聞いて、先回りしてたんだヨ。
     なかなか来ないからやきもきしてたけど、おかげでこうして仲間が増えた」

 初めから集団でいたわけではなく、
 同じような考えを持った者が自然に集まったわけか。
 それだけの執念を持った者が、これだけいる。

川 ゚ -゚)「どうしてゴールの中央ではなく、一つ隣のこの町に?」

( ´ー`)「今、あいつのような人間が中央に集まってきてる。
      だから騒ぎが起きないよう、厳重な警備態勢が敷かれてるヨ。
      まあ俺達はそれでも玉砕する覚悟は決めてたが」

 たしかに、天災、あるいは大戦で何かしらのごたごたに巻き込まれた権力者や資産家は多い。
 ここにいる彼らのように、行動を起こそうとする者も。

( ´ー`)「けど、いくつか先の街で起きた殺人事件に
      あいつが関わったって話を今更ながら聞いてな」

川 ゚ -゚)「ああ、……うん」

( ´ー`)「あの街から中央に直接来るなら、3週間前の列車か船に乗って、とっくに到着してる筈。
      なのに探しても見付からないってことは、徒歩か馬車で移動してるんだろうと踏んだ」

( ´ー`)「それなら必ずこの町を経由する。
      ──で、来てみれば当たってたってわけだヨ」

川 ゚ -゚)「なるほどな」

( ´ー`)「やたら強い護衛を何人も連れてるって噂があったから
      なんとか隙をつけないかと警戒してたけど、
      そもそも宿から出てきやしネーからちょっと困ってたヨ」

 ──ロマネスクも、彼らのような存在を予測していたのだろう。
 だから宿から出ないし、ぎりぎりまで出発しない。

( ´ー`)「とはいえ中央に行くなら、いつまでも篭ってるわけにもいかネー筈だ。
      そこを狙う」

川 ゚ -゚)「……殺すのか」

 分かりきったことを問う。
 すると彼は顔を顰め、私の目を覗き込んできた。

( ´ー`)「俺らの話を聞いても、あいつの味方をするのかヨ?」

川 ゚ -゚)「味方、……というわけでは、ないが」

(#´ー`)「……なら協力してくれヨ!
      俺達がどれだけあいつを憎んでるか分かるだろ!?」

 男だけでなく、辺りにいた者達も声を荒らげた。
 ロマネスクによって、いかに自分の大切な人を奪われたかを訴えてくる。
 情に訴えるか脅すかして、私を抱き込むつもりなのか。

 ──その中で、1人、涙を流して座り込む女がいた。

ノハ;⊿;)

 蹲り、ぼろぼろと泣いている。
 彼女の背を摩ってやりながら、男は些か落ち着いて口を開いた。

( ´ー`)「あいつは、ロマネスクは、今も犠牲者を増やしてる。
      用心棒がいるせいだ」


   ( ФωФ)『いやあ強い強い、おかげで我輩は屈強な男を何人も雇っていると勘違いされたのである』──


 数ヵ月前にロマネスクが言っていた。
 彼らもその勘違いをしているようで、私が護衛だという考えには至っていないらしい。

川 ゚ -゚)「……誰か、身内を、その──用心棒に殺されたのか」

 平静を装い、女の前にしゃがみ込んで訊ねる。
 彼女はしゃくり上げながら、切れ切れに答えた。


ノハ;⊿;)「またんきが──息子が、息子が……殺されて……」


 心臓が嫌な跳ね方をした。

 妙な方向に跳ねて、そのまま引っ掛かってしまったような、
 収まりが悪くて息苦しい感覚に襲われた。


 ──またんきの母親?
 生きていたのか。
 またんきと別れたあと、どこか避難所を見付けられたのか。

 それなら。
 またんきは何のために。

( ´ー`)「この人はロマネスクのせいで、天災のときに息子さんと離れ離れになったんだヨ。
      何ヵ月か前、ようやく息子さんがいる町を突き止めたが──」

( ´ー`)「息子さんは路地で死んでいた」


 またんきは何のために死んだのだ。

.

 男の声が、どこかふわふわして、上手く入ってこない。
 右手が震えそうになる。小さな体を貫いた手応えが蘇る。

ノハ;⊿;)「お、女の人が、その町の女の人が、またんきに頼まれて、
     ロマネスクを路地に誘導、したって、言ってた……っ」

ノハ;⊿;)「あの子、ロマネスクに何かしようとして用心棒に殺されたんだ!
     あんな小さい体で、無茶して……!」

( ´ー`)「……きっと、母親が生きてるのを知らなくて仇をとろうとしたんだヨ」

 その通りだ。
 あの子は母親を愛していた。そのためにロマネスクを殺そうとした。

 だから私に殺された。

 手にかけたのはロマネスクではなく私だ。
 しかし彼らは、護衛よりも、全ての元凶であるロマネスクに憎しみを向けている。
 それが、居心地悪い。

( ´ー`)「……あいつは、ここで殺さないといけネーヨ」

 男が真剣な目を私に向けた。

 「これ以上のさばらせておいたら、ますます犠牲者が増える」。
 彼がそう言うと、後ろから一歩出た初老の男が、ずだ袋を私の目の前に置いた。

 何枚もの紙幣が詰まっている。

( ´ー`)「もしものためにとみんなで掻き集めた金だヨ。
      人ひとり雇うのには充分すぎる額だ」

川 ゚ -゚)「私を、買うのか」

 男が頷く。
 ずだ袋を私の手元に押しつけ、深く頭を下げた。

(;´ー`)「──頼む、俺達を手伝ってくれ!
      ロマネスクが宿を出るときに、少しの間だけ護衛を引き留めておいてほしい。
      それ以外には何もしなくていいから!」

 しばし、路地裏に静寂が満ちた。

 私は薄く溜め息をつき、袋を押し返す。
 男が失望した顔を上げ、その後ろで何人かが身構えた。
 ここで私が断るなら、彼らは口封じのために私を始末しなければならない。

川 ゚ -゚)「私は何もしない」

( ´ー`)「……そうかヨ」

川 ゚ -゚)「ロマネスクに話すこともしない。
     話せば、あいつは護衛に、あなた達を殺すように命じるだろうから。
     だから私は聞かなかったことにする。あなた達は勝手にするといい」

 真意であることが伝わるように、目に力を込め、皆を見渡した。
 ちゃんと通じたのか、それとも言葉の内容に怯んだのか、敵意が弱まったのを感じる。

川 ゚ -゚)「ただ……あなた達が手を出した場合、無事でいられる保証はしない。
     だから、よく考えてくれ」


 そして、結局また、こうして釘を刺すだけ。







『中央から発表された「新政府案」、立候補者の登録期限まであと2日となりました──』

 ラジオからは定期的に同じ話題が流れている。

川 ゚ -゚)「もう、すぐそこだな」

(*ФωФ)「そうであるな」

 酩酊状態のロマネスクは、あやふやな発音で答えた。

 すっかり日が暮れている。
 私は空いた皿をワゴンに重ねて、それを廊下に出した。
 窓辺へ戻り、ラジオに耳を傾ける。

(*ФωФ)「貴様ともあと2日でお別れだ」

川 ゚ -゚)「……うん」

 契約は、中央に着くまで。

 しょせん私は間に合わせだと、初日にロマネスクは言っていた。
 中央に着けば、昼に男から聞いた通り、
 厳重な警備でもって守られるだろう。

(*ФωФ)「まあ貴様が望むなら中央まで持っていってやってもいいが」

 その言葉にロマネスクの方を見れば、特にこちらを気にした風もなく、チーズを口に入れていた。
 聞かなかったふりをする。

川 ゚ -゚)「私の子守唄がなくなって、寝られるのか?」

(*ФωФ)「はっ。随分と自信満々な発言であるな。
       貴様より歌が上手い奴など中央にはごまんといるだろう。
       ……いずれ慣れる」

川 ゚ -゚)「それはまた嬉しい話だ。清々する」

 こんな言い合いも、あと2日。

 実際、離れてしまえばロマネスクだって他の人間の子守唄で眠れるようになるだろう。
 子守唄自体いらなくなる日だって、いずれは。

 窓を見遣った私は、ふと、ロマネスクに顔を向けた。

川 ゚ -゚)「お前、5年間どうしてたんだ?」

(*ФωФ)「おう?」

川 ゚ -゚)「天災が始まってから、新政府案が出されるまでの5年間。
     誰に子守唄を歌ってもらってた?」

川 ゚ -゚)「何日も付き合ってくれる奴なんかいないだろうし、
     かといって、毎日違う人間を捕まえられるわけでもないだろ」

 それに、あれだけ他者から恨まれている人間が、よくもまあ5年も無事でいられたものだ。

 ロマネスクは半眼で壁をぼんやり眺め、
 酒を舐めてから、先程より幾分はっきりした声で答えた。

(*ФωФ)「……まあ、5年の内4年ほどは、なぜ眠れないのか分からなかったな。
       そこから更に半年経って、ようやく子守唄がなければ寝られないと気付いたのである」

 それまでは酒や本で時間をやり過ごしていた──
 その回答に、私は眉根を寄せる。

川 ゚ -゚)「ってことは、お前、天災の前は子守唄聴かなくても大丈夫だったのか」

(*ФωФ)「うむ」

 首長の話といい、ロマネスク本人の話といい、
 天災以前は今よりも随分まともであったらしい。

 何があったのだろう。
 ここ最近ずっと気になっていた疑問が、ますます強くなる。

(*ФωФ)「4年……寝ても息苦しくなってすぐに目が覚めた。
       だんだん夢を見るようになった。中身はぼんやりとしか思い出せない。
       だが、あるとき夢の内容をはっきり思い出せるようになった」

(*ФωФ)「我輩の首を絞める母の顔だ」

 酒を一口。
 ロマネスクの目は、相変わらず壁を向いている。

(*ФωФ)「記憶通りの笑みで首を絞めていた。
       子守唄を歌うように口も動いていたが……」

川 ゚ -゚)「……」

(*ФωФ)「声が聞こえないのだ」

 ロマネスクが右手で首を摩る。
 私はラジオを止めた。

(*ФωФ)「子守唄が聴こえないと、まるで、本当に殺されているようで──
       このまま死んでしまいそうで、恐くて堪らなかった。
       それで起きてしまう」

川 ゚ -゚)「……だから、誰かに子守唄を歌ってもらうのか」

(*ФωФ)「うむ。子守唄さえあれば、夢をやり過ごしてゆっくり眠れた。
       録音した歌声でも眠れるのか試してみたこともあったが、まあ、駄目だったな。
       誰かに傍で歌ってもらわないといかんらしい。面倒な話である」

 グラスを持つ手をすいと振り、ふふ、などとしおらしく笑う。
 酒が入っているのと、そろそろ中央に着くのとで機嫌がいいらしい。
 それに饒舌だ。

 私は逡巡し、昼のことを思い返して、ロマネスクの寝台に腰を下ろした。
 途端、拗ねたような表情でこちらを一瞥する。

川 ゚ -゚)「どうしてそんな夢を見るようになった?
     ──天災のときに何があったんだ」

 その顔と向き合うように覗き込む。
 ロマネスクは目を眇めて、「しつこい奴だな」と私の顔を押しやった。

 けれど、きっとあの夜、宿で母親の話をしたときだって、
 こうして話を天災時期へ繋げるつもりだったのだろう。
 ならばもう、そろそろ話してくれたっていい筈だ。2日後にはどうせ離れ離れ。

 めげずにロマネスクの目をじっと見つめていると、やがてロマネスクは嘆息して口を開いた。
 酔いの赤らみは薄まっている。

( ФωФ)「──死んでしまうのかと、思っただけだ」

 あまりに簡潔な答えは、それゆえ難解だった。
 少し間をあけ、改めて語り出す。

( ФωФ)「イトー家のシェルターに、第三避難組まで入れる予定だったのである。
       それ以降は別の避難所へ」

( ФωФ)「しかし第三避難組を連れていったとき、
       シェルターは暴徒が占拠していた」

川 ゚ -゚)「……シェルターを奪われたというのは、ペニサスさんも首長も言っていたな」

( ФωФ)「うむ。──災害の動きは、予測のつかんものでな、
       そのシェルター近辺は既に被害が出始めていたのである。
       シェルターを巡って争っている暇はなかったし、そもそも争うための人手が足りなかった」


 ロマネスクが上層部へ指示を仰ぐと、
 シェルターは暴徒にくれてやれという答えがあったそうだ。

 そうしてロマネスクは第三避難組と、
 暴徒に追い出されていた(イトー家の関係者と思われたらしい)第一・第二避難組を抱え、
 次の避難所へ向かった。

 けれど。
 そこも、別の地区の人間で一杯になっていた。

.

( ФωФ)「他所の担当者が話を通さずに使ったようだった。
       ……何百何千、何万という命に関わる緊急事態においては、結局、
       早い者勝ちという子供のようなルールがまかり通るのだ」

川 ゚ -゚)「……それからどうなった?」

( ФωФ)「空きを作るから待てと上が言うのでな、待機した」

 「手間取っているが、すぐに次の迎えが来る」──
 またんきの話では、下っ端にそう説明させている内にロマネスクが逃げたということだった。

 けれども、もしかして、それは真実だったのではないか?

 ロマネスクが逃げた、その結論があるから、下っ端からの説明を時間稼ぎの嘘と判断しただけで。
 実際、彼は想定外の事態に手間取っていたのではないか。

( ФωФ)「だが天災で指揮系統も絶たれてしまった。
       そうなれば、我輩1人で動くしかあるまい」


 少し距離のある小さな島にも、ヴィプ国が管理する避難所があった筈だと思い至り、
 無理を承知で船を出したという。

 ヴィプ国近辺の天災は、まず海が荒れたところから始まったので、
 よほど無謀な者でなければ、わざわざあの小さな島に向かうこともないだろうと判断したのだ。

 当然、難航であった。
 波に飲まれた者も大勢いた。

 ──避難所に着く前に死んでしまうのではと思った瞬間、
 幼い頃の記憶と共に、耳の奥で子守唄が聴こえた気がした。


( ФωФ)「……死ぬと思うと、恐くて恐くて仕方がなくなったのである。
       島に着き、案の定少数しか避難者のいなかった避難所に入ることが出来ても、
       恐怖でずっと震えていた」

 恐らくそれが睡眠障害を引き起こした原因だろう。
 子供じみた振る舞いをするようになったのも、多分。


 ──やがて国を飲み込んだ災害は、しばらく土地と住人を蹂躙し尽くした後、
 何喰わぬ顔で去っていった。

 避難所に留まり続けるわけにもいかず、
 海が落ち着いた頃、小舟で地元──があった筈の場所──へ戻り、
 金と私物を抱えて、更に他所の土地へ逃げたそうだ。

 ロマネスクの持つ金は、意外にも、全て元からあった自分の資産だという。
 避難時に集めた金は既に誰かが横から手を出し持ち去っていた。


( ФωФ)「そうして5年、ひっそりと隠れるように生きてきた」

( ФωФ)「当然ながら我輩の担当地区はとびきり犠牲者が多かったが、
       その原因は結局のところ、国全体にある。
       イトー家、暴徒、横取りした役人、指示を整理しきれなかった政府……」

( ФωФ)「それらの責任がほとんど我輩のものになっていたから、
       堂々と生きていくことは出来なかったのである」

川;゚ -゚)「……そんな」


 ロマネスクが無茶をして島へ渡ったことは、政府へ伝わっていなかった。
 指揮系統が僅かばかり復活した頃には既に島へ向かっている最中だったし、
 まさか海を越えているなどとは誰も思わず、
 ロマネスクは避難者もろとも死んだと判断されていた。

 故にヴィプ国の高官は、ロマネスクの担当地区の惨状に関わる責任を
 丸ごとロマネスクに被せたのだ。
 既にこの地区は手遅れ、死ぬならロマネスクを恨んで死んでいけとばかりに。


川;゚ -゚)「……」

 額を押さえる。
 思考がまとまらない。指先が冷えるが頭は熱い。

 ぐちゃぐちゃと色々考えている内、ある憶測まで浮かんできた。

 人に頼まれてロマネスクを殺しにきた輩がいた、とは、だいぶ前に記した通りだ。
 てっきり犠牲者の身内が依頼したものかと思っていたが──
 ロマネスクが中央に向かい始めたことで生存を知った元高官が、その口を封じるために差し向けたのではないか。

川;゚ -゚)「……それじゃあ……」

( ФωФ)「……」

川;゚ -゚)「それじゃあ、お前は、悪くないじゃないか……
     いや、悪いところはあっても、お前の責任じゃ……」

 私の声は間抜けに震えていた。
 ずっと信じていたことを根底から覆されて、声だけでなくどこもかしこも震えてしまいそうだった。

 ロマネスクは精一杯やっていた。
 彼へ向けられる恨みのほとんどが、他者に操作されたものだったのだ。

 どうしていいか分からない。
 右手を持ち上げ、彷徨わせ、ロマネスクの肩に触れさせた。

 ロマネスクは。

 冷めた目を私に向け、手を叩き落とした。
 口元に嘲りが浮かんでいる。

( ФωФ)「貴様は単純であるな」

川;゚ -゚)「え……」

( ФωФ)「馬鹿と言うべきか」

 語意を図りかねた。
 考え、それから、腹がちりちりと沸いた。

川 ゚ -゚)「……嘘をついたのか?」

 そう結論を出してロマネスクを睨む。
 彼は更に嘲笑を濃くしてグラスを空けた。

( ФωФ)「いいや、事実である。
       話してないことが一つあるだけで」

川 ゚ -゚)「何を」

( ФωФ)「──島に避難したとき、もう一往復くらいは、出来た筈である。
       しかし我輩はそうしなかった」

 もう一往復。
 ──避難者を船に乗せて、ということだろうか?
 取り残された人々をもう一往復分、運ぶことが出来た筈ということか?

 私は叩き落とされた右手をもう一度持ち上げた。
 今度こそロマネスクの肩を掴む。
 頭は相変わらず熱い。しかし胸は冷えている。

川 ゚ -゚)「……助けられる人達が、本当は、もっといたのか」

( ФωФ)「うむ。避難所にはまだ幾らか余裕があった。
       海も、少しばかり落ち着いていたし」

川 ゚ -゚)「何で行かなかった」

 ロマネスクがグラスをサイドテーブルに置く。
 ふ、と酒臭い呼気を漏らして、口を開いた。


( ФωФ)「他人のために我輩の命を賭けてやることに、嫌気が差した」

.

 ──左手を振りかぶっていた。
 ロマネスクの目に怯えが浮かばなかったら、そのまま殴っていたかもしれない。

川#゚ -゚)「……結局逃げたのか、お前は!!
     大勢見捨てて!!」

 理性で左手を止めたが、代わりに、両手で胸ぐらを掴んだ。

 ほんの数秒前まで同情していた自分と、そうさせたロマネスクへの苛立ちがある分、
 その怒りは今までの何倍も大きかった。

 臆病なロマネスクは少したじろいだが、私が相手だと幾許か余裕があるらしく、
 同じように顔と声を怒りに染めた。

(#ФωФ)「なぜ貴様が怒る必要があるのだ!!」

川#゚ -゚)「お前が撒いた種の始末を私がさせられてるんじゃないか!!
     お前が5年前にもっと命を救っていれば、
     ──せめて迎えを待つ人達のもとに行って説明していれば、こんなことにならなかった!!」

 またんきと、彼の母と、路地で恨みを訴えた彼らと、今まで私が殺してきた人々。
 たくさんの泣き顔が、怒号が、脳裏を駆け巡る。

川#゚ -゚)「……私が何人も殺す必要はなかったんだぞ!!」

(#ФωФ)「貴様はその種の始末で飯を食っているのだろう!?
       今まで散々仕事をしておいて、今更何を善人ぶっているのだ人殺しが!!」

川#゚ -゚)「人殺しはお前も同じじゃないか!!」

 散々、人を殺した。
 散々殺したから、今、こうして怒っている。

川#゚ -゚)「……どうして行かなかった……!」

 同じ質問を、もう一度。
 ロマネスクは私の手首を握り締め、叫んだ。


(#ФωФ)「生き残りたくて何が悪い!!」

川#゚ -゚)「みんなだって生きたかった!!」


 2人、荒く息をつく。
 口を閉ざして睨み合う。

 ずるりと手を落とし、私は俯いた。

川#゚ -゚)「……どうして、こんな奴、守って……」

(#ФωФ)「今更……、……そんなに嫌なら、我輩に付いてこなければ良かったであろう!」

川#゚ -゚)「お前が雇ったんじゃないか!」

 勝手な言い分に怒鳴り返せば、ロマネスクは一瞬ぽかんと口を開け、
 今までで最も怒ったような顔をした。

 そうして私を突き飛ばす。
 いい加減近くにいるのも嫌だったので、わざと転がるようにして寝台から下りた。

(#ФωФ)「──貴様がこれほどの馬鹿だとは思わなかったぞ!
       ああもう好きにしろ、出ていけ!
       解任の予定が2日早まるだけだ、問題なかろう!」

 給与だろうか、札束を投げつけたロマネスクがドアへ向けて腕を振る。
 私は札束を無視し、飛び出すように部屋を後にした。

 馬鹿らしいとは、分かっていた。



 宿を出ると、例の男がいた。

( ´ー`)「何か騒いでたか」

川 ゚ -゚)「なんでもない」

 夜気が、頭を冷やしていく。
 ああやって人と怒鳴り合うなど、初めてだった気がする。
 適当な場所へ歩き出そうとして、ふと、男へ振り返った。

川 ゚ -゚)「昼はああ言ったが、今はもう、ロマネスクに護衛なんていないんだ」

( ´ー`)「え」

 呆気にとられた男が、黙考し、「本当か」と訊ねてくる。

川 ゚ -゚)「ああ。……前まではいたけど」

( ´ー`)「そう──か。そうなのか」

 頷いて返す。
 男は、路地の仲間達のようにぎらついた光を瞳に灯した。

 身を翻し、私は今度こそ歩き出した。







川 ゚ -゚)

 ──そうして私は今、廃墟の3階から、彼らを眺めている。
 誰もこちらに気付く余裕はない。


 せめて見届けようと思った。
 手出しはせずに。

 ロマネスクが殺されるか、あるいは、彼らが思い留まるか。
 いずれにせよ見届けようと。


(#´ー`)「お前が、……、……」


 男が喚いている。
 昨日私を案内した彼が、今日はロマネスクをここへ連れてきた。

 夕方になり宿から出てきたロマネスクに、刃物を押しあて脅したのだ。

 私はそれを、物陰から見ていた。
 何もせず。怯えるロマネスクを助けず、気配を殺し、後をつけてきた。


 もはや聞き飽きたほどの恨み言をぶつけ、彼らはロマネスクに武器をちらつかせる。

 初めに手を出したのはまたんきの母親だった。
 叫び、闇雲に包丁を振り回してロマネスクの腕を切りつけたのだ。

 そうされるとロマネスクはもう動けなくなって、
 泣きそうな顔をしてへたり込んでしまった。
 彼女が続けざまに包丁を振りかぶる。ロマネスクの絶叫が響いた。

ノハ;⊿;)「死ねえええっ!!」

「ヒートさん、まだ殺すのは早いよ」

 初老の男が、またんきの母を抑える。
 その言葉に、ロマネスクがますます顔を青くさせた。

(;ФωФ)「や、やめ……っ」

 男が、女が、またんきの母親が、憎悪を撒き散らしながらロマネスクに迫る。

 楽に殺しはしないだろう。
 ぼんやり考えている間にもう4回ほど殴られているが、その程度ではまだ死なない。

 誰かの振り上げた金属製の棒が、ロマネスクの肩を打った。
 硬い音。ロマネスクが悲鳴をあげる。

川 ゚ -゚) …~♪

 私は子守唄を3番まで歌いきる。1番から、もう一度。


 ──私だって。

 あの顔を殴り抜いて、首を絞めてやりたい。
 憎らしくて憎らしくて仕方がない。


 なのに、袋叩きにされたあいつが野垂れ死ぬ様を想像すると、どこかに焦燥が滲むのだ。
 こうして傍観することへの罪悪感か。

 けれど私は、強盗などを殺すことには罪悪感を抱かない。
 私の定義で「悪」と認めた相手ならば、多少の躊躇はあれ、後悔は薄い。

 ロマネスクは間違いなく悪だ。

 復讐している彼らは善ではないが、悪でもない。

 なのにどうしてか、──困る。

 もちろん手は出さない。
 私は既にあいつの護衛ではないし、助けてやりたいと思っているわけでもない。

川 ゚ -゚) ~♪

 空の橙が濃くなっていく。
 地面にロマネスクから流れた赤が広がっていく。
 空の色はくすんでいる。

(; ω )

 ロマネスクの抵抗が弱まってきた。
 ああ、このまま、死んでしまいそうだ。

 あいつは死というものがとびきり恐いようだから、今も死んでしまいそうな心持ちだろう。
 死にそうだから死んでしまいそうな心持ち、とは、あまりにそのまますぎる。


 ──果たして死ぬとはどういうものなのだろうか。

 今まで殺してきた人達の顔が脳裏を過ぎる。
 なるべく苦痛が長引かないような殺し方をしてきたつもりだから、
 苦悶の表情で死んでいった例はあまり知らない。

 大抵は、そっと眠るような死に顔だった。


 もしかしたら。
 本当に、眠りにつくようなものなのかもしれない。

 目を閉じて。
 視界が真っ暗になって。
 意識の一方がふわりと上へ持ち上がり、もう一方は下へ沈んで広がって。
 けれども、「二度と目覚めないだろう」という予感はある──

 それはどんなに寂しくて恐いことなのだろう。

 ロマネスクはそれを4年間体験していた。
 死にたくなくて、眠れなかった。

 昨夜は徹夜しただろうか。
 だいぶ酒が入っていたから、もしかしたら眠ってしまって、その都度苦しんで目を覚ましたかもしれない。


 ロマネスクが動かなくなる。
 周りがいったん手を止めたが、逃げようと身じろぎする気配すらない。
 それでも息はあるらしく、確認した誰かが、にやりと笑った。まだ続けられると。



 ──このまま。
 殴られ続けて、切られ続けて。
 あいつが眠ってしまったら、もう、起きられないのだろうか。


 私が手を握ってやっても、目覚めなくなるのだろうか。


川  - ) ♪……


 声を、止める。

 誰かの持つ刃物が光を反射し煌めいた。



 ──同時に、窓から飛び降りる。

 壁に寄り添うパイプを踏み、積まれた瓦礫を踏み、
 近くにいた男を蹴飛ばして、着地した。



ノハ;⊿;)「あ」

 またんきの母と目が合う。
 ベルトからナイフを抜き、即座に彼女の胸へ埋め込んだ。

 瞬間、噛み締めた唇の皮膚が、ぶつんと裂けた。

川 ゚ -゚)「……私が護衛だ……」

 ナイフを捻る。肉を抉る。

 固まる彼らへ、声を向けた。

川#゚ -゚)「私がこいつの護衛だ!!」

 彼女が目を見開いた。
 同時にその口から血が溢れる。

ノハ;⊿;)「またん、き、」

 ──そうだ。
 護衛の私が、またんきを殺したのだ。

 そうやって、ロマネスクを護ってきた。


 胸や腹が、裂けたように痛んだ。
 瞬間的に目元へ熱が集まった。



 私は、何がしたいんだろう。


.

ノハ;⊿;)「あ」

 ナイフを抜く。彼女がくずおれる。

 振り返ると、ロマネスクと目が合った。
 驚いたような顔をしていた。

川 ; -;)「……何でお前なんか守らなくちゃいけないんだ!!」

 叫び、前へ向き直る。
 例の若い男が目の前にいて、顔を憤怒に染めていた。

(#´ー`)「てめえ! 騙しやがったな!」

 襲いかかる彼をかわし、額を貫く。
 痛い。痛い。全身が痛くて、だから、どこが痛いか分からない。
 痛みを誤魔化すために、喉が裂けるくらいに叫んだ。

川 ; -;)「死ね! 死んじまえ! お前なんか人でなしだ!」

 ロマネスクへの罵声をあげながら他の人間を殺す自分が、滑稽だった。

 すぐ前方にいた女に走り寄る。
 脇腹にナイフを突き刺し、力任せに横へ引いた。

 悲鳴。周りの人間からだ。
 当の女はくぐもった呻きを漏らすのでやっとだった。

川 ; -;)「死んじまえ! 死んじまええっ!!」

 手当たり次第、近くにいる人間から殺していく。
 一部は私を抑えようとしていたが、そうした者から返り討ちにされていくにつけ、
 何人かは逃げ出してしまった。

川 ; -;)「うう、……ああああっ!!」

 たくさん、しんでいく。
 ころしている。

 ナイフを握りづらくなる。私の手が、返り血でぬるぬる滑るからだと気付いた。
 切れ味が鈍る。ナイフが、相手の血や肉で覆われているからだと気付いた。
 何人も殺したからだと気付いた。

 ナイフを捨て、手をシャツに擦りつけ、ベルトに括りつけてある別のナイフを握る。
 引き抜きざまに、逃げ惑う男の背に切りつけた。
 相手がふらついた隙に、足を使って仰向けに転がし、のし掛かって胸を刺す。

 これで何人殺したっけ。あと何人いるっけ。

 ナイフを両手で握ったまま、ほんの一瞬、そんなことを考えた。
 俯いた途端、ぼろぼろと大きな雫が私の目からたくさん落ちた。

川 ; -;)「ふ……うーっ、ふー、ううー……っ」

 絶命した男からナイフを抜こうとしたのに、上手く力を入れられない。

 もたついたせいで、後ろに迫る気配に気付かなかった。

川 ; -;)「うあ゙っ!!」

 左足、ふくらはぎに激痛。

 ふりむくと、まだ少年と青年の狭間であろう男の子が、
 先ほど捨てたナイフで私の足を貫きながら、こちらを睨みつけていた。

 「父さんを」──
 その言葉で、いま殺した男の息子なのだと察した。
 いや、あるいは数秒前に殺した方の男か、それともその前か、はたまた数ヵ月前に別の町で──

 とにかく私が彼の父を殺した。

 昔ロマネスクが彼らの身内である誰かを殺し、
 いま私が彼の父親を殺した。

 だから彼らはロマネスクを殺そうとし、
 彼は私を殺そうとしている。


 とっくの昔に世界の殺し合いは終わったのに、私達はこんな路地で、また殺し合いをしている。

.

 私は持ち歩いている分で最後のナイフを取り出し、
 男の子の首を裂いた。
 彼は泣いていた。憎くて仕方ないという顔をして泣いて、死んだ。

 かつてロマネスクに向けられていた目が、私を向いていた。

 わんわんと耳の奥が痺れている。
 足を負傷してしまったから、早く残りの者を始末しなければ私がやられてしまう。

 立ち上がろうとして、どちらの足をやられたか一瞬忘れていたのか
 間違えて左足に力を入れてしまい、当然うまく行かなくて転がった。


 そうして──既に誰もいないことに、ようやく気付いた。

 あらかた殺して、それ以外は逃げてしまったらしい。

川 ; -;)

 ふうふう、震えた呼吸を一向に整えられない。

 疲れたからではなくて、しゃくり上げているからだ。

 辛うじて汚れていない左手首を口に当てる。
 殺しきれない声が、ぐるぐると喉の奥で響いた。

 ──ぽつり。
 空を向く鼻先に、何かが当たる。

 ぽつり。ぽつり。
 すっかり暗くなっていたが、それが雨であるのは分かった。
 どんどん強くなる。


 廃墟に挟まれた路地、たくさんの死体と殺人鬼。
 そこに降る雨。

 まるで映画みたいで、私の呻き声が笑い声に変わる。
 大口開けて哄笑して、それにつられて涙が引いていく。
 代わりに雨が顔を濡らしていった。

 泣いてどうする。笑え笑え。
 私も人でなしだ。家族を失った彼らを殺し、そのせいで家族を失った者がまた増えたろう。
 人でなしは、こういうとき、きっと笑うのだ。

.

 のそり、視界の隅で何かが動いた。

( ФωФ)「……ここに居続ければ、逃げた奴らが自警団でも連れてくるやもしれん」

 何だ、お前、まだ逃げていなかったのか。

 ぼろぼろのロマネスクが私の腕を引いた。
 私は身を起こし、左足が痛かったのでそのまま止まる。
 痛みを我慢すれば歩くことくらい出来たろうが、それすら億劫だった。

 薄暗い中、ロマネスクは必死に目を凝らして私の姿を確認し、
 ハンカチを取り出すや否やふくらはぎの上を縛って、
 しゃがんだまま私に背を向け腕を伸ばした。

川 ゚ -゚)「……」

(#ФωФ)「……早くしろ、馬鹿が!」

 黙って見つめていたら、焦れた様子のロマネスクに怒鳴られた。

 まさかな、と思いつつ、背負われる形でロマネスクにのし掛かると、
 そのまさかだったらしくロマネスクが立ち上がる。

 私が彼を担いだり背負ったりすることはたまにあったが、
 逆に背負われるのは初めてだった。

 ロマネスクだってたくさん怪我をして、動くのすら辛いだろうに。
 護衛として鍛えている上、ぐったりと身を預けているぶん余計に重いだろうに。


 適当に路地を曲がりながら、人気の少ない方を選んで歩いていく。
 途中、やはり辛くなったらしいロマネスクが一度転んだが、
 また私を背負って歩き出した。

(#ФωФ)「重い!」

 吐き捨てるように怒鳴る。
 ならば下ろせばいいのに。
 私など放り捨て、1人で逃げればいいのに。

 ふたりで逃げる必要など、もう無いのに。

川 ゚ -゚)「……」

 だらりとロマネスクの肩に垂らしていた両腕を曲げる。
 目の前の首を、軽く絞める。

川 ゚ -゚)「……死んじまえ……死んじまえ、お前なんか……お前なんか」

 囁く。
 けれど私の腕は、それ以上力を入れようとはしなかった。

 雨が一層強くなる。
 死ねという私の呟きが掻き消える。

 手も口も、殺意を全く伝えられないのがどうしようもなく歯痒い。

 こんな奴、死ねばいい。
 なのに殺せない。どうしてだろう。
 唇を噛み締める。先ほど切れた皮膚から血の味がする。

 その痛みに我に返った。

川#゚ -゚)「──下ろせ!!」

 何故おとなしく背負われているのだ。

 殺せないなら、せめて、こいつと離れていたい。
 勝手にどこへでも行けばいい。

 肩を押しやる。
 なのにロマネスクは、私の足を抱える腕に力を入れた。

川#゚ -゚)「放せ! やめろ! ──いい加減にしろ!」

(#ФωФ)「いい加減にするのはどっちであるか!!」

 びくりと、手が震えた。

 ざあざあ、強まる雨に負けじと、ロマネスクが叫ぶ。

(#ФωФ)「この碌に動けない足で、貴様を置いていったらどうなる!
       すぐに残党や自警団に見付かるぞ!」

 動けないわけではない、動きたくないだけであって。
 それに見付かったら何だというのだ。
 お前は自分1人さえ無事なら、他はどうだっていい人間だろう。

 反論は次々浮かぶ。
 口は動かない。
 代わりに腕へ力が入る。首を絞めるためでなく、しがみつくために。


(#ФωФ)「……まったくもって貴様はガキだ!!」


 その声が、一際、雨音より耳に染み込んだ。

222 :同志名無しさん:2015/12/06(日) 20:15:08 ID:XtofEtDE0

(#ФωФ)「甘ったるい道徳観と理想に振り回されて、勝手に傷付き腹を立てて!
       平和ごっこがしたいなら護衛なんて仕事をするな、我輩に付いてくるな!
       いい歳をしているんだから、生き方など自分で決められるだろう!!」

(#ФωФ)「貴様はただ流れに任せて、その中で自分の手を汚されるのが嫌なだけだ!
       本当に他人を思いやってるわけではない!」

川  - )「……っ、」

(#ФωФ)「折り合いをつけられないからガキなのだ!
       何かを諦めることも! 何かを貫くこともできないからガキなのだ!
       そのくせ勝手に拗ねる! 馬鹿だ、馬鹿なガキだ!!」

 人のことを言えないくせに。
 お前だって、どうしようもなく、子供のくせに。

 そう思っても文句を返せない。
 震える口を、ロマネスクの肩に押しつける。

(#ФωФ)「馬鹿なガキでほとほと愛想が尽きるが、
       それでも貴様は我輩の護衛なのだろう、……我輩のものなのだろう!」

 少しの間をあけ、ロマネスクは心底怒ったような声で、最後に怒鳴った。


(#ФωФ)「ならば我輩が守るしかなかろうが!!」


 ──こんなときに限って、雨が弱まる。

 顔を濡らし流れていく生温い感触を、雨の冷たさで誤魔化せなくなる。

川 ; -;)

 スーツを噛む。唇がわななく。
 息苦しくて、は、と呼気を吐き出すために口を開いたら、勝手に声も出た。

 わあん、なんて、馬鹿みたいに泣いた。
 愚痴も文句も言葉にならず、意味もなく喚きながら泣いた。


 恥ずかしくて、腹が立って、辛くて、苦しくて、痛くて、恐くて、嫌で、きらいで、どろどろして、
 ──嬉しくて、何かがすっきりしそうだから、泣いた。



 子供がぐずるみたいだった。







( ^ω^)「──えー、今日が新政府役人候補者の集合期日となりますお。
       さっそく明日から面接等を開始します。
       今日の15時までに、1区の管理所で登録を──」



 首長の声がする。
 中央を始め、その周辺の町に流しているのだそうだ。
 朝から何度か繰り返されている。

川 ゚ -゚)「……」

 私はそれを、中央の3区にある病院で聞いていた。

 昨夜、馬車を呼びつけてロマネスクと共に乗り込み、
 そのまま中央の病院に向かった。着いたのは早朝だった。

 手当てを受け、休ませてもらって、今はもう正午を回っている。

( ФωФ)

 ロマネスクは寝台の横に座って黙っていた。
 彼も至るところに包帯を巻かれているが、見た目ほどは重傷でないらしい。頑丈だ。

川 ゚ -゚)「……受付、あと3時間だって……」

( ФωФ)「分かっている」

 私が顔を上げると、ロマネスクは、分かっている、ともう一度呟いた。

川 ゚ -゚)「行かないのか」

( ФωФ)「行ってどうなる」

 どうなると言われても。
 戸惑う私に、ロマネスクはもう何度目かの溜め息をついた。

( ФωФ)「貴様、昨日何人殺した?」

川 ゚ -゚)「……さあ」

( ФωФ)「さすがに騒ぎになっているだろうし、すぐに、こっちにも情報が伝わる」

 そうか。
 生き残った人々が、事情を話すだろう。
 いくらか事実を曲げたとしても、ロマネスクと私のことは確実に説明する筈。

 自警団も首長も、さすがに何人も殺した輩を放ってはおかないだろう。
 しかし。

川 ゚ -゚)「殺したのは、私だろ……お前が手を出したわけじゃない。
     私が勝手にやったと言えば、お前はお咎めなしかもしれないぞ。
     実際、それだけ怪我をしたならお前は被害者だ」

( ФωФ)「馬鹿を言え」

 くしゃり。ロマネスクの手が、俯きかけた私の頭を撫でるように押さえた。

( ФωФ)「我輩も貴様も、人殺しだ」

 ロマネスクの顔を見る。
 ちゃんと見ているのに、表情が分からない。
 俯いて、ぽたりと水が落ちて、それで視界が曇っていたのだと理解した。



 ──ごめんなさい。
 ごめんなさい。
 みんなだって生きたかったろうに。

 でも、私の目の前にいるこの人だって、生きたがっているのだ。











('A`)「……おかしくねえか……」

 ──ドクオはぴっしりしたスーツに包まれた身を眺め、
 隣に立つ、かつての同僚に顔を向けた。

ξ゚⊿゚)ξ「たしかに似合ってないわね」

('A`)「いやそういうことじゃなくてよ。
    何で! 俺が! 外務長官なんだよ!」

 窓の外は賑々しい。

 新政府の候補者が集まってから一ヵ月。
 ついに各部門の長官とその補佐が決定したので、
 今日はその式典が開かれる。

 部下となる役人達も暫定的に決まっているので、
 式典に出る人数もそれなりだ。

 その名簿を何度も眺めて、「外務長官 ウツ・ドクオ」の欄が目に入る度にドクオは震える。

(;'A`)「何で俺……? あのひと俺に甘すぎやしねえか……?」

ξ゚⊿゚)ξ「身内を甘やかすためにそんな大層な役職を与えるような方じゃないわよ。
      ここ一年間、各地で頑張ってきたから外務長官に相応しいと思ったんじゃない?
      というか正直、この役職だけは消去法で決めたようなもんでしょ」

('A`)「最後のは余計だな」

 護衛の任を解かれた後、ドクオは組織も抜けた。
 名実ともにブーンの部下になるためだ。

 誠心誠意、ブーンのため、世界のために尽くすとは決めたが、
 この采配は予想外にも程がある。

ξ゚⊿゚)ξ「ほら、あと少しで式典始まるわよ」

(;'A`)「あ、あがががが緊張してきた」

ξ;゚⊿゚)ξ「顔色悪ッ。ちょっと、式の最中に倒れるとかやめてよね」

(;'A`)「でもよう」

('(゚∀゚∩「ドクオさーん!」

(;'A`)「うお!」

 部屋──これからは外務長官の執務室となる──のドアが、ノックも無しに開けられた。

 少年、なおるよが男の腕を引っ張りながら入室する。

('(゚∀゚∩「ネクタイ余ってませんかよ?」

ξ゚⊿゚)ξ「どしたの」

('(゚∀゚∩「ショボン様ったらセンスが悪いんですよ!
      こんな大事な日は服に気を遣うべきです!」

(;`・ω・´)「だからこの青いやつでいいって」

('(゚∀゚∩「駄目です!」

 なおるよの雇い主、ショボンという男は辟易とした顔でなおるよを見ていた。

 隙あらばシャツのボタンを外そうとするショボンに、
 護衛である筈の少年は顔に似合わぬ凄みを利かせた声をあげる。

('(゚∀゚∩「こら」

(;`・ω・´)「息が詰まっちまう」

('(゚∀゚∩「2、3時間は我慢してくださいよ」

ξ゚⊿゚)ξ「素敵ですわ、ショボン様。スーツがよくお似合いで」

(*`・ω・´)「え、あ、そお? へへへ、惚れちゃう?
       いひひ……今日から一つ屋根の下で暮らすんだし、仲良くしようぜツンちゃん」

('(゚∀゚∩ グッ

(;`゚ω゚´)「ぎいいい」

 クローゼットから薄紫のネクタイを取り出したなおるよが、
 それをショボンの首に引っ掛け思い切り絞った。
 一連の流れをツンが冷めた目で眺めている。

('(゚∀゚∩「そういうのをやめろと何度言わせるつもりですかよ?
      さっきデミタスさんにシメられたのに懲りない人ですよ」

(;`゚ω゚´)「しめっ、し、絞められてる……っ、なおるよさんに今まさに絞め、絞められっ」

('A`)「……まあとりあえず、適当に好きなネクタイ使っとけ。
    ツン、一緒に見繕ってやれ」

ξ゚⊿゚)ξ「はいはい」

('(゚∀゚∩「はーい! ありがとうございます!」

 にこにこ可愛らしい笑みを浮かべるなおるよに片手を挙げて挨拶して、
 ドクオは部屋を出た。

 今日からあのショボンが自分の補佐となる。
 品性を疑う(人のことを言えないが)ような男だが、ブーンが決めたのだから、何か考えはあるのだろう。
 正味、扱いやすそうな男ではあると思う。


 廊下を歩いていると、抱き合う男女がいた。
 こんなところで何を、と呆れつつ近付く。

('A`)「おい」

('、`*川「あ、ドクオさん。──ありがとうデミタス、もう大丈夫よ」

(´・_ゝ・`)「まだふらついているようですが」

 ペニサスと、その護衛デミタス。
 デミタスの言葉に、ただ抱き合っていたわけではないと知る。

('A`)「具合悪いのか」

('、`*川「いえ、慣れない靴を履いたらよろけてしまって」

 見れば、なるほど、踵が高い。
 ワタナベさんに勧められたのだけど、とペニサスが言う。

 ワタナベというのは教育長官に選ばれた老婦である。ペニサスはその補佐。

(´・_ゝ・`)「お嬢様が望むのであれば、私がお抱えして式典に出席いたします」

('A`)「いや……それは気持ちわりいよお前……」

 血迷ったことを言い出したデミタスを窘めれば、物凄い目で睨まれた。理不尽。

('、`*川「いいわ、大丈夫。式が始まるまでに歩く練習しましょう」

(´・_ゝ・`)「転んでしまったらどうするんです」

('、`*川「転ぶ前に、デミタスが助けてくれるわ」

(´・_ゝ・`)「はい、勿論です」

(;'A`) ヒィ

 溶けた脳味噌が蜂蜜になって耳から流れ出てくるのではないかという声色での返事だった。
 体調が悪くなりそうだ。他所でやれ。

 そういえば先程ショボンがデミタスにシメられたのだったか。
 大方、ペニサスにちょっかいを出したのだろう。

('、`*川「それでは失礼します、ドクオさん。また後で」

('A`)「ああ……」

 ペニサスはくるりと踵を返し、颯爽と──去っているつもりなのだろうが、
 実際は危なっかしい足取りで、かなり狭い歩幅で少しずつ少しずつ進んでいる。

 それに合わせてゆっくり付いていくデミタスの顔は、愛玩と嘲笑の狭間のような、
 複雑極まりないものだった。

('、`*川「そういえばデミタス、やっとそのネクタイつけてくれたのね」

(´・_ゝ・`)「勿体なくてつけられませんでしたが、今日は晴れの日ですので」

(;'A`)(あんな恐い奴だったかな、あいつ……)

 見たことがないほど丁寧な物腰なのは雇い主に合わせた結果だろうが、
 ペニサスに向ける不健全極まりない目顔は何なのだ。

 5年会わない内にみんな変わるものだなと思いつつ、階段を下りる。

ζ(゚ー゚*ζ「妹者さん、可愛いです! ワンピース似合ってますよ」

l从・∀・*ノ!リ人「ふへへ。どうじゃニュッさん」

( ^ν^)「おう」

l从・∀・ノ!リ人「おうって何じゃおうって」

('A`)(……一番変わったってえと、こいつか……)

 玄関前のホールでにこにこしながら少女を褒めるデレを視界に収め、
 未だに慣れないその姿に溜め息をついた。

∬´_ゝ`)「ネクタイ曲がってる」

( ´_ゝ`)「お、ありがとう姉者」

(´<_` )「ああ、ドクオさん。どうも」

 姉に身嗜みを整えられている双子の内、弟──だった筈──の方がドクオに気付いて一礼した。

 兄の方のネクタイを直していた流石姉者が、びくりとして双子の後ろに隠れる。
 別にドクオだけに向けられる反応ではないが、やはり少し傷付く。
 家族と、護衛のニュッ以外の男に近付くのが苦手らしい。

('A`)「よう。相変わらず仲いいな」

l从・∀・*ノ!リ人「当然じゃ!」

 彼らに会ったときに家族仲の良さを褒めてやるのは、定番の挨拶と化しつつある。
 妹者が喜ぶのだ。

 彼らの両親が名前のある官職につき、息子である双子は部署こそ違うが一役人となった。
 エリート家族である。姉妹は部外者だが、式典前に様子を見に来たのだろう。
 姉妹もいくらかフォーマルな服を着て、頭には揃いの髪飾り。華やかだ。

ζ(゚ー゚*ζ「こんにちはドクオさん。外務長官おめでとうございます」

( ^ν^)「は、似合わね」

('A`)「俺が一番わかってんだよニュッ坊よお」

 鼻で笑ってくれたニュッの足を踏む。
 が、実際のところ、デレの方がよほど腹の内で笑っているだろう。

 表でにこにこしながら裏で散々馬鹿にされるくらいなら、
 昔のように最初から嘲りを見せてくれる方が、まだやりやすい。

('A`)「ナイトー様見なかったか」

ζ(゚、゚*ζ「首長さんですか? あ、もう首長じゃないか」

∬;´_ゝ`)「だ、大統領ね」

( ^ν^)「あっち」

('A`)「おう、サンキュ」

 またなと挨拶して、ニュッの指した方角へ歩いていく。
 こちらに進むのなら、たぶん渡り廊下だろう。



( ^ω^)

 予想通り、渡り廊下の真ん中にブーンが立っていた。

 一年前、彼はここで初めて己の意思を貫き、決意した。
 あのとき大勢と対立した場に、彼は今1人。

('A`)「旦那」

( ^ω^)「やあ、外務長官殿」

('A`)「それ何なんすかね……」

 会ったら文句の一つでも言おうかと思っていたが、
 実際に彼を前にすると、大して言葉が出てこなかった。

 何となく彼の隣に立ち、ぼけっと空中を眺める。

( ^ω^)「顔色が悪いお」

('A`)「緊張してんすよ」

( ^ω^)「みんなの前でスピーチしてもらうのに大丈夫かお?」

('A`)「あー駄目駄目無理無理」

 ますます顔色が悪くなるのを感じる。

 盛大な式の中心に立つこと自体への緊張のみではない。
 己が仕出かしたものを民に伏せ、その民に祝われることへの罪悪感。
 それが大きい。

(*^ω^)「僕なんてもう、パーティーで並ぶ料理が楽しみで楽しみで」

('A`)「はあ……あ、レモンパイ焼きましたよ」

(*^ω^)「おっおー」

 ブーンが体を揺らし、喜びの声をあげる。
 その姿があまりに間抜けで、会話を続けられなかったので数秒ほど間が出来た。

 そして、数秒前とは打って変わって真面目な顔のブーンが沈黙を破る。

( ^ω^)「……ここまで来たおー……」

('A`)「来ちまいましたねえ……」

 あと十数分後に、壇上へ立ち、民に認められるための式を開く。
 自分が──認められる。真実を隠したまま。

 左のふくらはぎを右足で掻く。裾が汚れるか、と慌てて足を下ろした。

( ^ω^)「……共犯だお」

 ブーンが横目にドクオを見て、呟く。
 ドクオも隣を一瞥し、何も言わずに頷いた。

( ^ω^)「頑張るお、ドクオ」

('A`)「そりゃ勿論。頑張りましょうや、大統領」

 フィレンクトは、監視をつけた上で中央──これからは「ニチャン国」となる──から追い出した。
 反省の色がない彼を、ここに置き続けるわけにはいかないからだ。

 しかしこれからはきっと、今まで以上にブーンの負担と敵が増えるだろう。
 守らねばならない。護衛としてではなく、部下として。

( ^ω^)「……スギウラさん、どこ行ったもんかおー」

('A`)「へえ? あ、ヴィプ国の人ですかい」

 不意に出てきた名前に、首を傾げる。

 以前、ブーンとツンが会ったという、ヴィプ国の元役人だ。
 中央へ向かっている道中だったという。

 それからしばらくして、隣の町で11人もの刺殺体が見付かる事件が起き、
 現場に居合わせた者の証言から、ロマネスクとその護衛の仕業であることが発覚した。
 一方的な殺戮というわけでもなかったらしいが、かといって、11人も民間人を殺して許容されるわけもない。

 その一報を耳にしたとき、ブーンはあからさまに落胆していた。
 ロマネスクと護衛を捕らえろと中央や近隣地の自警団へ通達を出したが、
 今に至るまで彼らは見付かっていない。

 そんな男の名前が、何故いま出るのだろう。
 視線を滑らせたドクオは、ブーンの手に何か握られているのを見付けた。

('A`)「旦那、それは?」

( ^ω^)「お? ──ああ、今朝届いたんだお」

 ひらり、ブーンが紙を翳す。
 封筒だ。宛名はブーン。
 ドクオが視認した頃合いに、彼は封筒を翻した。裏面に差出人の名前。

 スギウラ・ロマネスク。

 その名に、ドクオはぎょっと目を丸くした。







(-@∀@)「手紙ですか」

 暖かな日差しが射し込む部屋。
 手紙を読んでいるモナーに、受付が声をかけてきた。

( ´∀`)「超速達モナ」

 そう答えてモナーが揺らす紙は、
 組織が各地に置いている「連絡係」からの伝言に使われる便箋である。

 数日前に中央の連絡係が伝言を預かり、中継地の連絡係達が持てる限りの手段を駆使して
 このビルへ届けたという、特に重要な連絡事項の際に行われる「速達」による伝言だ。

 モナーは寂しげな、しかしすっきりしたような笑みを浮かべて便箋を畳む。

(-@∀@)「誰からです?」

( ´∀`)「クール」

(-@∀@)「はあ、何と?」

 予定通りなら彼女の雇い主はとっくに中央に着いているだろうし、
 その時点で契約は終了している筈だ。
 速達での伝言となると、契約の延長だろう──

 そんな風にあたりをつけているであろう受付に、モナーは便箋を手渡しながら答えた。

( ´∀`)「組織、抜けるらしいモナ」

(;-@∀@)「……ええっ!?」

 受付がひったくる勢いで受け取った便箋を広げる。

 便箋には、これといった理由も書かれず、ただ組織を辞めることと、モナー達への礼が書かれている。

(;-@∀@)「んな馬鹿な! ドクオといいクールといい、優秀な奴が抜けるのはほんとに痛いですよ!
      横堀もやっとクックルが見付けてきたのに勝手に休養させるし、プギャーも行方不明だし!
      人手が足りなくなってきてるの分かってます!?」

( ´∀`)「ひとまず新政府も決まったことだし、
       中央に行ってた護衛達もぼちぼち戻ってくるモナ。
       しばらくすれば世界も落ち着いてくる。そしたら今ほど火急の用にはならん筈モナ」

(;-@∀@)「でも!」

( ´∀`)「まあ、寂しくはなるけど。
       自立モナ。自立」

(;-@∀@)「……せめて直接挨拶くらい……」

 受付の言葉に、モナーが笑う。

 要は受付も寂しいのだ。
 我が子とまでは行かずとも、それに近い感覚を護衛達に抱いているので。

( ´∀`)「いいモナ。あいつに似合わない仕事をさせてた僕らなんかには、
       伝言一つあっただけでも充分なんだから」

 便箋を返してもらい、引き出しにしまって、そっと引き出しを閉じた。

 ラジオをつける。
 新政府に関するニュースが流れている。
 報じる声は、どこか明るい。

 窓越しに空を見上げて、モナーは笑みを深くした。


 精神的に大人になりきれていない彼女を派遣したことが、ずっと気掛かりだった。
 たくさん傷付き、そして誰かをたくさん傷付けただろう。


 あの子が「護衛」でなくても生きていける、平和な世界になればいい。









 式典の開会を告げる声を聞き届け、ロマネスクが踵を返した。
 私もそれに続く。

( ФωФ)「手紙は届いたであろうか」

川 ゚ -゚)「届いただろう」

 ロマネスクが言うのは、首長──大統領に宛てた、
 一年間の旅で集めた各地の重要事項をまとめた手紙のことだ。
 さすがに堂々と姿を見せるわけにはいかないので、手紙として送るしかなかった。

川 ゚ -゚)「伝言は届いただろうか」

( ФωФ)「知るか」

 私が言うのは、組織の脱退を宣言した伝言のことだ。
 隣町での事件が先生に伝わっているかは分からないが、
 さすがに合わせる顔がないので伝言で済ませた。

( ФωФ)「……この辺りには居られんな……」

川 ゚ -゚)「そうだな。さすがに隠れ続けるのは無理だ。なるべく遠くに行かないと」

 荷物を半分ずつ持って、とりあえず適当な方角へ歩いていく。
 中央に近い地域では、列車も馬車も避けた方がいい。

 しばらく歩かねばならないことを知り、ロマネスクが顔を顰めた。

( ФωФ)「どれほど歩けばいいのである……」

川 ゚ -゚)「何日かは掛かるな。まあテントも買ったし大丈夫だろ」

( ФωФ)「何日も掛かる時点で大丈夫ではない」

 ふ、と私の口から笑いが漏れる。
 ふん、とロマネスクが鼻を鳴らす。

川 ゚ -゚)「遠くに着いたら、また、堂々と移動できるさ。
     そしたらどこに行く?」

( ФωФ)「高級宿で風呂に入って美味い飯を食ってデカいベッドで寝る」

川 ゚ -゚)「じゃあそこそこ大きな街じゃないとなあ」

( ФωФ)「貴様はどこで何をしたい」

川 ゚ -゚)「そうだな、……お前と大体一緒だな。
     久しぶりに、夜から朝までぐっすり寝てみたいよ。
     護衛をやってたときは短時間睡眠でないといけなかったから」

( ФωФ)「ではデカくて安全な街だ。
       その後はどこに行くのである?」

川 ゚ -゚)「お前が決めればいい」

 一歩進むごとに、一言交わすごとに、背後の喧騒が離れていく。

 一つになろうとしている世界に背を向けて、進んでいく。
 それでも世界はどうしようもなく繋がっているから、
 結局、私達もまた一つになる世界の一員なのだ。


川 ゚ -゚)「……組織も抜けたし、護衛でもなくなったし、私はもうお前のものでもないな。
     有り金奪って一人旅ってのもいいか」

( ФωФ)「馬鹿め。貴様はまだレコードである、我輩のものだ」

川 ゚ -゚)「レコードって」

( ФωФ)「子守唄の」

川 ゚ー゚)「ばあか」

.



 ──旅をしよう。

 今までとどこか変わった世界で、
 今までと同じ世界で、
 2人で旅をして、生きて、大人になっていこう。





 この広すぎる世界の上では私達、まだちっぽけな子供なのだから。




.



10:こどもたち   終





川 ゚ -゚)子守旅のようです     完




.


253 :同志名無しさん:2015/12/06(日) 21:01:22 ID:XtofEtDE0
終わりです
読んでいただきありがとうございました
(´・ω・`)gatherさん、まとめてくれてありがとうございます。お世話になりました


番外編 >>32

最終話 >>107


質問・指摘等ありましたらお願いします

262 :同志名無しさん:2015/12/06(日) 23:09:54 ID:yHvPQZmg0
うおおおと超乙!!!!

子守、なるほど……!
ひとりひとりの物語が眈々と、色濃く描かれていてとても読み応えがあった!
終わって寂しいけどまた何回も読み返すのが楽しみだ!

予告スレの分も楽しみに待ってるぜ!

264 :同志名無しさん:2015/12/07(月) 01:27:08 ID:L7jSlfqM0
乙!
本当に素晴らしい作品で感動した
ロネマスクが新政府の役人になってなかったのはこういう事情があったからなのね…

265 :同志名無しさん:2015/12/07(月) 01:38:15 ID:w2c0VwkA0
スレタイも子守り旅なんだよな
ブーンの存在がでかすぎてそっちに気が引かれてしまうけど、クーの話が主軸なんだよな

267 :同志名無しさん:2015/12/07(月) 04:30:31 ID:0QYROlVs0
乙!
擬人化注意
( ФωФ)と川 ゚ -゚)
OL6eceh.jpg

270 :同志名無しさん:2015/12/07(月) 08:56:06 ID:7FIO1o1E0
>>267
ありがとうございます!!!!
クールすげえ美人だしロマネスクもめちゃくちゃ渋かっこいい
色使いめっちゃ好きです
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