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川 ゚ -゚)子守旅のようです 7:ロソサネ、たから

(#゚;;-゚)

 その女は、「それ」に気付いていないようだった。

(,,^ ^)

 顔も体も血まみれの男が、女の傍にずっとついている。
 あちこちに怪我を負い、右足の膝辺りから骨が出ていても、男は痛がりもせずに
 張りついたような笑みを浮かべて、ずっと、ずっと女の傍にいる。

 女は気付いていない。
 女以外の人間も、その男が見えていない──1人の少年を除いて。

( ^Д^)

 少年は、プギャーは、その男の顔が自分に少し似ているのが、何となく嫌だ。







 とある夜。とある町のとあるレストランのとあるテーブル。
 プギャーが、呆れたような声をあげた。

( ^Д^)「は? オッサン、こんな簡単な文も分かんねえの? 嘘だろ?
      信じらんねー。どうやって生きてきたの?」

(`・ω・´)「……」

( ^Д^)「もうイイ歳じゃん。やばくね? 今から勉強しても遅いよ。
      あちゃー、字ィきったねえなあ……」

(`・ω・´)「……」

( ^Д^)「あのさオッサン。もし新政府に選ばれたとしたら、まあ選ばれないだろうけど、
      仮に、もしも、万が一選ばれたとしたら、書類の読み書きとかいっぱいしなくちゃいけねえんだよ?
      無理でしょ絶対。無理無理無理無理」

(`・ω・´)「なおるよ、このガキぶん殴ってもいいのか?」

('(゚∀゚∩「僕は別に構いませんけど」

(#`゚ω゚´)「オラァ!!」

(;^Д^)「いっっってえ!!」

 脳天にげんこつが落ちた。

 プギャーは頭を押さえてじたばた身悶えした後、
 向かいに座る「ショボン様」とやらの足を蹴りつけた。

(#^Д^)「子供相手に本気出すとか馬鹿じゃねーの!!」

(#`・ω・´)「大人に本気出させる方が悪いんだろが!! 躾がなってねえガキだな!!
       おらっ、おもて出ろ!」

(#^Д^)「上等だよ!!」

('(゚∀゚∩「ショボン様、ついでに逃げようとしないでもらえます?」

(;`・ω・´)「えっ、や、やだなあ、そんなことするわけないだろ、信用ねえなあ、へへへ」

('(゚∀゚∩「座って。今日の分の書き取り練習が終わったら晩ご飯食べていいですよ」

 今にも飛び出さんと立ち上がりかけていたショボンが、
 へこへこしながらなおるよの隣に座り直した。
 彼らに向けて舌を出し、プギャーも改めてソファに腰を沈める。

( ^Д^)「あーあ、評判いいレストランだって聞いたから来たのに。
      鬱陶しいのと相席になっちまったなあ。飯が不味くなりそ」

 嫌味に言って、それから自分の隣にいる女を横目で見た。

(#゚;;-゚)

 きょとんとした顔で2人のやり取りを眺めていた女は、
 プギャーと目が合うと、首を傾げた。
 彼女の手にはこの店のメニュー表。それが渡されてから、かれこれ15分は経っている。

( ^Д^)「注文決まったの? 俺も早くメニュー見たいんだけど」

 ぞんざいに訊ねてみれば、彼女は困り顔でますます首の角度を深めた。

 苛つき、ショボンとなおるよへ目を向ける。
 2つあるメニュー表の内、一つは彼らの手習いに使われてしまっている。
 料理に関する丁寧な説明文が載っているので、読み書きの教材として扱いやすいのだろう。

 まったく、大人のくせに文字も碌に分からないとは。
 よく今まで生きてこられたものだ。本当にシベリア国の貴族だったのか?
 なおるよもこんな男の面倒を見させられて大変だろうに。

 八つ当たりをするように、プギャーは様々な嫌味を頭の中で垂れ流した。
 ──けれども。


(#゚;;-゚)「……デヲトソブメネオ、ロオヨトアネ……」


 言葉が通じる分ショボンの方がましなのだろうとも、思っていた。

(,,^ ^)"

 ……それにショボンには、あんな血まみれの男などくっついていないし。


.





7:ロソサネ、たから


( ^Д^)

 プギャーは、なおるよと同じ12歳の少年である。

 彼が「組織」にやって来たのは6年前、彼が6歳のときだ。

 もう育てられるだけの余裕がないからと両親に捨てられ、
 そういった子供を保護している団体に引き取られたものの、そこも手一杯で。

 里親希望者がいれば精密な審査もせずにどんどん渡していってしまうので、
 きっと、ろくでもない場所へ引き取られていった子供達もいただろう。
 10歳を超えていれば働き手として連れていっても良いことになっていたから、尚更。

 その点プギャーは恵まれていたかもしれない。


( ´∀`)『うちに来るモナ? とても大変だけど、でも衣食住の確保はできるモナ』


 護衛になるための厳しい教育があると説明した上で、先生はプギャーを勧誘した。
 定期的に保護団体を訪れては、見込みのありそうな子供を引き取っていたという。

( ´∀`)『僕は、僕の商売のために護衛を育てているモナ。
       お客様第一で、護衛となる君達の安全は二の次。
       お客様を満足させるためなら君達には我慢も強いる。
       ──そんなところでも、いいモナ?』

( ^Д^)『じいさん、もっと子供にわかりやすく言ってよ』

( ´∀`)『生意気な』


 大勢の孤児達の中で一日二食の飯を奪い合い、ぼろきれのような服も満足に替えられず、
 いつ悪質な人間に引き取られるかと不安で眠れない今の生活よりは、
 正直に話してくれる彼に付いていった方がマシに思えた。


 それに「商売のため」とわざとらしく明け透けな言い方をしているけれど、
 その商売とは、人を護ることで回る仕事ではないか。
 ならばそれでいいと思った。正義感ではなく、ただ、自分の存在を肯定しやすくするために。



 この頃は──というか現在に至るまで、プギャーの目も頭も普通だった。

 皆と同じ物を見て、同じ世界に生きてきた筈だった。


.




( ´∀`)「──プギャーが指名されたって?」

(-@∀@)「はあ、随分と熱望している様子でした」


 その報告は今より一月半前、ちょうど先生の執務室でプギャーが反省文(イタズラがバレたのだ)を
 書かされているときにやって来た。


(-@∀@)「あのですね、ビルの前をうろうろしている女性がいたので声をかけてみたらば、
      その方がモララー氏からの紹介状を持っていまして」

( ´∀`)「ああ、近い内に客を寄越すと言っていたモナね……。
       知人の孫娘が旅行をしたがってるから、護衛をつけてやってくれとか何とか。
       ちょっとワケ有りな娘らしいけど」

 先生が嘆息して頭を掻いた。

 モララーというのは先生の知人で、ちょくちょくこちらに客を回してくれる男だ。
 ただ、こういった──緊急性に欠けた依頼が多い。

 中央のお触れ以降要人の依頼が増えたから無駄遣いはしたくないんだがなあ、と呟きつつも、
 まあ客は客だと己を納得させている先生の姿を眺める。

( ´∀`)「んで、何故プギャーが指名されたモナ?」

(-@∀@)「ええとですね、紹介状に『若い男を』と書いてあったので、
      10代から20代の者の写真を並べてお見せしたんです」

( ^Д^)「え、それで俺の写真見た客が俺を指名したの?」

(-@∀@)「うん、まあ、そうなる」

 言っては何だが、プギャーはこれといって目立つ容姿をしていない。
 体格も平均的。見た目に惹かれる要素は薄い。

( ´∀`)「うーん……」

( ^Д^)「先生、俺行くよ。行けるよ」

 これ幸いとばかりに反省文を放り投げ、プギャーは立ち上がった。

 何も反省文から逃れたい一心で言ったわけではなく、
 「同い年のなおるよだって、とっくに雇われていったのだから」という彼なりの理由があっての発言だ。

 そもそも指名された時点でほぼ決定したようなもの。
 先生はしゃがみ込み、プギャーの目を覗き込んだ。

( ´∀`)「写真を見てお前を気に入ったということは──
       それも幼いお前をわざわざ選んだということは、
       向こうは護衛としてお前を求めてるわけじゃないかもしれんモナ」

( ^Д^)「そんなの今更だろ。デミタスなんか、絶対アッチの目的で選ばれたんだぜ。
      首輪が似合うかどうかで決めるなんてさ」

( ´∀`)「……誰がどんな目的で雇ったかなんて本人にしか分からないけれど、
       少なくともデミタスは、もしもの事態も覚悟して行ったモナ。
       お前も覚悟できるモナ?」

( ^Д^)「当然じゃん」

( ´∀`)「きったねえオッサンが相手だったら絶対に嫌がってたモナね?」

(;^Д^)「ううっ」

(;-@∀@)「先生、苛めない苛めない」

( ´∀`)「だってあんまりにも得意気な顔するもんだから。
       ──じゃ、挨拶しに行こうか」

 先生がそう言うと、「受付」──報告しにきた男──は、少し奇妙な表情を見せた。
 困ったような顔だった。



(#゚;;-゚)

 ロビーに下りる。客と思しき女はソファに座って待たされていた。
 20代の半ばに届くか届かないかといった風情。

 浅黒い肌の所々に古い傷痕があったが、
 危険な人物という印象はなかった。

(*´;;ー`)

 プギャーを見るなりふにゃふにゃした笑みを浮かべたので、尚更。

 だが──

(;^Д^)(え? 何あれ?)


(,,^ ^)


 気の抜けきった女の表情とは裏腹に、彼女の傍には血まみれの──
 どう見たって大怪我を負っているようにしか思えない男が、寄り添うように立っていた。

 最早どこから出血しているのかすら分からぬほどで、
 特にシャツはほぼ全体が赤黒く染まっており、辛うじて汚れていない部分で
 ようやく元の生地が爽やかな空色であることが分かるといった具合だ。
 右手の指輪やら腕時計やらも真っ赤で台無し。

 当然プギャーの目はそちらに釘付けになるが、女も先生も受付も、
 プギャー以外の人間は、男を気にする様子を欠片も見せない。

(;^Д^)「せっ、先生、怪我、あの人すげえ怪我してる!」

 男を指差し訴えてみれば、げんこつを喰らった。

( ´∀`)「そういうこと言うもんじゃない」

 いや、そういう問題ではないだろう。プギャーは思うが、
 先生に叱られてしまっては、気にする自分がおかしいのかという気持ちになって、結局黙った。

 先生は女の前に立ち、申し訳ありませんとプギャーの非礼(と本人は認めていないが)を詫びる。
 どうやら彼女の傷痕を指摘したのだと勘違いされたらしい、と数秒遅れて気付く。
 そうではなくて。自分は彼女の隣の。

"(,,^ ^)"

 その間、男は女の傍をうろうろしていた。
 顔を覗き込んだり、べたべたと顔や腰を撫で回したり、
 挙げ句の果てに頬擦りまでする姿は正直、目のやり場に困る。

 ただ、おかげで、おかしなことに気付くこともできた。
 乾いていない生々しい血にまみれた彼がいくら触っても、
 女は一向に汚れなかったのだ。

(,,^ ^)"

(;^Д^)「!」

 目が合う。咄嗟に俯いた。
 視界の端にぼろぼろの足が入り込む。
 薄い色合いの革靴にも、点々と赤い染み。

 男が自分をじっと見下ろしているのを感じつつ、先生の声に耳を傾けた。

 誰も男について触れない──まあここまで来れば、さすがにプギャーも分かる。
 彼が自分にしか見えていないと。

(;^Д^)(幽霊? そんなのいないだろ。
      じゃあ何だよ。俺の頭おかしくなったの?)

 今までおばけを見たことなどない。そもそも存在を信じていない。
 では幻覚かというと──そうではないと否定できる根拠が後に出てきたのだが、それは追々。

( ´∀`)「──ええと、」

(#゚;;-゚)「でぃ」

( ´∀`)「え?」

(#゚;;-゚)「なまえ、でぃ」

 ちらりと視線を上げる。女は何度も自分自身を指差した。
 男がプギャーの隣を離れ、また女にまとわりつく。

( ´∀`)「でぃ、さん?」

(#゚;;-゚)"「でぃ。なまえ」

 「でぃ」は、こくこくと頭を縦に振った。
 変な奴なのかも、とプギャーの胸に薄く不安が浮かぶ。

( ´∀`)「えー……でぃさん。今回はモララーからの紹介で我が組織を訪ねてくださったとか……」

(#゚;;-゚)「……」

( ´∀`)「でぃさん?」

 でぃは口元へ手をやり、戸惑うように目を伏せた。
 戸惑っているのはこっちだ。
 男がでぃの背中を撫でている。宥めているつもりかもしれないが、でぃは気付いていない。

 しばらくして、彼女が決心したように顔を上げた。

( ´∀`)「あのー……」

(#゚;;-゚)「け、」


(#゚;;-゚)「ケケボ、デヲトテケレトネオ ユキロオラホスヲボ
     オルテンウソネノ、イヲムアゾテエメイヲヅシ……
     オルワロソサナ、アソゾクホスヲオ?」


( ´∀`)「えっ何何何何待って待って何て?」

.



( ´∀`)「──……エーエー語、モナかねえ」

 30分後。
 でぃの向かいのソファに座り込んで頭を抱えていた先生が、げんなりしながら口を開いた。

 この30分間、でぃが色々と話し掛けたり先生が答えようとしたりを繰り返し、
 けっきょく会話は碌に成り立たなかったのだが、
 先生の中で何らかの答えは出たらしい。

 プギャーはといえば、たまに彼女の傍を離れて動き回る男を意識しないよう、
 なるべく顔や瞳を動かさず固定することに必死だった。

( ^Д^)「エーエー語って、何?」

( ´∀`)「たしか百年ほど前に滅んでしまった言語モナ。
       その昔、エーエー族という民族がいたモナが、とても数が少なくて……
       民族が途絶えると共に、エーエー語も消滅してしまったらしいモナ」

( ´∀`)「彼らが極々僅かに残した文書を、後世の人間が解読しようと試みたけれど
       それも上手く行っていないのが現状モナね」

( ^Д^)「へえ……」

( ´∀`)「ほとんど言語が統一されてしまっているこの世界じゃ、
       知らない言葉を一から翻訳するのも難しいのだろうね」

(-@∀@)「しかし先生、こうしてエーエー語を話す彼女がいるということは……」

( ´∀`)「うん……きっと、エーエー族はどこかで生きていて──
       ひっそりと暮らしていたのかもしれないモナ」

 こりゃあ大事件だなと先生が溜め息をついた。
 でぃはずっと首を傾げていたが、「エーエー」という言葉が出る度に反応を見せたので、
 彼の読みは当たっているのだろう。

(,,^ ^)"

 男もでぃの隣で頭を揺らしているけれど、頷いているのか首が安定しないのか分からない。

 モララーからの紹介状を先生が何度も読み返す。
 シンプルな手紙とこのビルへの地図(これは彼女のために添えたものだろう)があるのみで、
 手紙はエーエー族に関して一言も触れていない。
 唯一それらしい部分があるとすれば、「彼女には少々面倒な事情が」という一文。

( ´∀`)「モララーの奴、とんでもない客を寄越したもんだモナ……こりゃたしかにワケ有りだ。
       まあ、こういうことなら、うちに依頼してきて良かったのかもしれないモナね」

(;-@∀@)「こんなの、他所に回してたら彼女も旅行どころじゃなくなってましたね」

( ´∀`)「うん……それにしても意思の疎通が儘ならないのは痛い。
       ──モララーに連絡をとってほしいモナ」

(-@∀@)「あ、それは初めにやりました。でも、なかなかモララー氏が捕まらないそうで。いつものごとく」

( ´∀`)「あいつは本当に……。
       クックルは? クックルなら雰囲気で彼女と会話してくれそうモナね」

(-@∀@)「クックルなら先程ビーグルと一緒に散歩へ」

( ´∀`)「マジかあ……あいつらの散歩って3日くらいかかるもんなあ……。
       散歩っていうか小旅行だし」

 ううん、と先生が頭に手を当て唸る。
 でぃは、はっとした様子で、土で汚れている鞄から札束を取り出した。

(#゚;;-゚)「エオヌ……ケルヅ、ノヨアホシ」

( ´∀`)「何言ってるかは分からんけど雇う気満々モナね……」

(,,^ ^)"

 男が屈み込み、指先で札束を撫でている──まあ少し摺り抜けていたが。

 先生は一層低く、長く唸って。
 ぽんと両手を打った。

( ´∀`)「まあ、行ってみりゃ何とかなるかもしれんモナ、プギャー」

(;^Д^)「……えー……」

 ──紹介状によると、一月か二月ほど旅行が出来ればいいらしいので、
 たしかに危険は少ないだろう。
 その程度の旅行ならば、治安のいい街を回らせておくだけで充分だし。

 とはいえ。

(;^Д^)(冗談じゃねえ)

(,,^ ^)

 当のプギャーは、あの男を見た時点から断りたくて堪らなかった。堪らなかった。堪らなかったのだけれど、
 この状況でプギャーに拒否権などある筈もなかった。


.



( ´∀`)「気を付けて行くモナよ」

 プギャーの荷物をまとめ、体術等のおさらいをして、準備は整った。

 ビルの前、でぃと並んで立つプギャーの頭を撫でた先生は
 執務室でそうしたように、しゃがんで視線を合わせてきた。


 自分の商売のために育てるのだ、客が第一でお前らは二の次──常々そう言っているくせに、
 護衛達を見送るときの先生はいつも、こうして親のごとく案ずるような表情を見せる。

 先生が善人であるとは言えない。
 真に善人ならば、己を捨ててでも客を護れなどという教育はしないだろう。まして子供に。
 しかし、かといって、プギャー達を蔑ろにするわけでもないのだ。

 だからこそみんな彼を信用する。

( ^Д^)「……はい。行ってきます」

 なので、先生にそんな顔で送り出されては、プギャーも観念するよりほかなかった。

(*゚;;-゚)

 でぃに手を引かれて歩き出す。
 二月。二月程度やり過ごせば、またここに帰ってこられる。

"(,,^ ^)"

 当然のように男も付いてくることに対して、
 プギャーは既に大した感想を抱かなくなっていた。






('(゚∀゚∩「言葉が通じない人との旅行かあ……楽勝なんだか厄介なんだか」

( ^Д^)「ひたすらに厄介だよ。犬と旅してきたクックルの方が楽だよ絶対」

('(゚∀゚∩「え、犬? どうしたんだよクックル」

 そして旅行を始めてから一月半経った現在。客で賑わうレストラン。

 でぃに雇われた経緯をプギャーが語り終えると、
 なおるよは苦笑いを浮かべ、未だメニューと向かい合う彼女を見遣った。

(#゚;;-゚) ウーン

(,,^ ^)"

 無論、男の件は伏せている。

 やはりなおるよ達にも彼の姿は見えていないようだ。
 それなのに彼のことを話そうものなら、きっと自分が変な目で見られる。

( ^Д^)「……ていうかさあ、お前ら中央に行くんだろ?
      期限まであと4ヵ月くらいじゃん。こんなところにいていいの?」

('(゚∀゚∩「ちゃんと間に合うように考えてるよ。ね、ショボン様?」

(`・ω・´)「あ? ああ、うん……」

('(゚∀゚∩「そっちはどうなんだよ? 中央には行くの?」

( ^Д^)「わかんね……俺が行き先決めてる感じだし……」

('(゚∀゚∩「えっ、そうなの?」


 ──旅行がしたい(らしい)割に、でぃには、これといって行きたい場所がないらしい。

 どうもプギャーが選ぶに任せているようで、プギャーが適当に歩けば付いてくるし、
 何となく列車に乗っても、何も言わずにプギャーをにこにこ眺めている。

 彼女に雇われてから一ヶ月半、ずっとそんな調子。
 つい数時間前にこの街に来たが、ここがどこか、という疑問も持っていなさそうな素振りだ。

 幸いにして数字や単位──特に重要な金に関わる認識は齟齬が無いらしく、
 金額を提示されれば、自身の手持ちから正確な分を払ってくれる。それが救い。

( ^Д^)「とりあえず有名な街を回ってんだけどさあ」

('(゚∀゚∩「ただのツアーガイドだねそれは……。
      そんな行き当たりばったりな旅で何でプギャーが雇われたんだよ?
      見た目で選ばれたんだっけ?」

( ^Д^)「……んーと、何か……でぃの知り合いに、俺が似てるらしいんだよ。顔だけ」

 ちらり、でぃを──でぃの隣の男を一瞥する。

(,,^ ^)

 男と目が合い、すぐに顔を背けた。
 不自然な振る舞いをしてしまったかと一瞬後悔したが、

('(゚∀゚∩「へえ~、顔がそっくり、かあ」

(;`・ω・´)「……」

 なおるよは意味ありげな目をショボンに向けていたので、こちらの挙動には気付いていなかった。
 ほっと息をつく。直後、でぃがプギャーの服を引っ張った。

(#゚;;-゚)「たから」

(#^Д^)「……だからさあ、俺は『タカラ』じゃなくてプギャーだって!」

(#゚;;-゚)「ん……、ぷぎゃー。ぷぎゃー、ケル、トナ?」

(#^Д^)「はあ?」

(#゚;;-゚)「ケル……」

 ぷりぷり怒るプギャーに若干申し訳なさそうな目をしつつ、
 彼女は肉料理の項目にある一文を指で示した。

( ^Д^)「何、それ食うの?」

(#゚;;-゚)「くー……?」

 でぃは戸惑い顔で口を閉ざし、またメニュー表との睨めっこを始めてしまった。
 何なのだ。早く決めて、こちらにメニュー表を見せてほしい。

 プギャーが溜め息をつくと同時、なおるよが首を捻った。

('(゚∀゚∩「『たから』?」

( ^Д^)「俺に似てる……っぽい人の名前。たまに間違って呼ぶんだよ」

(,,^ ^)"

 男がでぃと一緒にメニュー表を眺めている。
 損傷した体よりも、その顔を見る方がプギャーには不愉快だ。

('(゚∀゚∩「へえ。──プギャー、でぃさん困ってるみたいだけどいいの?」

( ^Д^)「こっちも向こうも何言ってるか分かんねえんだもん、どうしようもねえよ」

('(゚∀゚∩「いや雇われてるんだからさ、考えてあげなよ」

( ^Д^)「何で俺がそこまでしなきゃいけないの」

('(゚∀゚∩「雇われてるからだよ。何かプギャーはニュッさんに雰囲気似てきたよね」

( ^Д^)「あれと一緒にすんな」

(`・ω・´)「何の肉かって訊いてんじゃねえの。──よっしゃ終わった!
      書き取り終わったぞ、注文していいよな!」

 突然、ペンを放るようにして置いたショボンが声をあげた。
 プギャーとなおるよは顔を見合わせてから、同時にショボンへ視線を投げる。

('(゚∀゚∩「ショボン様、エーエー語わかるんですかよ?」

(`・ω・´)「んなわけねえだろ」

 ショボンは身を乗り出し、でぃが持つメニュー表を覗き込んだ。
 でぃの視線の先を辿り、「あー」と唸る。

(`・ω・´)「えー……と、豚肉、の、ソテー。豚肉だな。豚」

(#゚;;-゚)「ぶた……?」

(`・ω・´)「ぶー」

 ショボンが人差し指で鼻を押し上げ鳴き真似をしてみせると、
 でぃはぱっと顔を明るくさせた。

(*゚;;-゚)「ケルナシリ」

(;^Д^)(蹴るな尻?)

 にこにこしながら、豚肉のソテーを指差すでぃ。
 その意味はさすがに分かる。食べたいものが決まったようだ。

 ようやくメニュー表がプギャーの手に渡る。
 プギャーは魚のフライを選び、レストランに入店してから30分を経てようやく店員を呼ぶことが出来た。

(,,^ ^)

 男は──

 「タカラ」は腹を空かせた様子もなく、食事をするでぃの頭を撫でていた。







(#゚;;-゚)

 でぃは、就寝前に小さなアルバムを眺めるのを日課としていた。

 たった10枚前後の写真しか入らない薄さのアルバムを、
 毎晩毎晩飽きもせずに見る。

(#゚;;-゚)「ぷぎゃー」

 でぃが呼ぶので、プギャーは寝台に身を乗せた。

 レストランでの夕食を終えた後、近くの宿で部屋をとったのだが、
 2人用の部屋なのに寝台は一つしか用意されていなかった。
 しかもそれほど大きくない。

 でぃはくすくす笑ってプギャーを自分の方へ寄せ、彼にも見えるようにアルバムを傾けた。

(,,^ ^)"

 「タカラ」もプギャーの反対側に寝転がり、写真を見つめる。

 さすがに3人も乗れるような広さではないのに、
 「タカラ」はずり落ちることもなく横たわっている。

( ^Д^)(やっぱ人間じゃないんだなあ……)

(#゚;;-゚)「たから」

 余所見をするプギャーの肩をつつき、でぃは、写真の中で照れたように笑う男を指差した。


   [ (,,^Д^)(*゚;;-゚) ]


 でぃと同じくらいの若い男。
 右下に日付が書かれている。3ヵ月ほど前。最近だ。

 その男を指し、また「たから」とでぃが言う。

(,,^ ^)"

 ずっと彼女に付きまとっている血まみれの男と、
 アルバムの中で笑う無傷の男は同じ顔をしている。
 だからプギャーは、この血まみれの男が「タカラ」であることを知っている。


 プギャーが彼の写真を初めて見たのは、でぃと旅を始めてから2日目の夜だ。
 なのにプギャーは、でぃと会ったそのときから、死体のごときタカラの姿を視認している。

 つまり、プギャーの頭の中で勝手に作られた幻覚という線は薄い。
 ということは、やはり幽霊の類──

( ^Д^)(……何だっていいけどさあ)

 何にしろ、見た目に不愉快ということや、時々怖く感じること以外には
 これといって害がないので放っておいている。そもそも放っておく以外の手がない。

(*゚;;-゚)「たから……」

 でぃは、紙の中のタカラを指先で撫でた。
 今は流血のせいで酷いことになっているが、彼の、人の良さそうな笑みは写真のそれと変わらない。
 その優しげな雰囲気だけは、プギャーに全く似ていない部分だ。

 写真の数こそ少ないが、2人の距離がやけに近いものばかりであるところを見ても、
 彼女らの仲睦まじさが伝わってくる。
 恋人だったのだろうか。

(,,^ ^)

 今、すぐ横で、でぃの頭やら肩やらを撫でているタカラの触れ方からして、
 ただの友人や家族ではないだろうなと思う。

 でぃがプギャーを護衛に選んだのは、きっと顔がタカラに似ているからだ。
 そうするほど、タカラに並々ならぬ思いがあるということ。


 最後のページになった。でぃがまた初めから見返す。
 プギャーは寝返りをうち、彼女に──彼女と彼に背を向けた。






 閉じた瞼の向こうに明るさを感じ、朝なのだと気付いた。

 危険の少ない旅なので、他の護衛のように短時間睡眠を繰り返す必要がないため
 こうして朝まで寝通していられる。ただ、気を抜きすぎて、諸々が鈍ってしまっている恐れもあった。
 組織に帰ったら特訓のし直しだな、なんて思いながら目を開ける。

(,,^ ^)

(;^Д^)「……うおっ!!」

 視界いっぱいにタカラの顔があった。
 ちょくちょくこうやって驚かされるのが癪だ。
 本人には脅かそうというつもりはないのかもしれないが。

 腰を屈めてこちらを凝視していたタカラは、ゆらゆらと不気味に体を揺らしながら、
 未だ眠っているでぃの顔を眺めに行った。

(;^Д^)「……くっそ」

 でぃの考えていることも、タカラの考えていることも分からない。

 溜め息をつきつつ、気分を変えるため窓の前に立って街並みを見下ろす。
 昨日は気付かなかったが、色鮮やかな織物で作られた幟や看板が多い。
 商店の軒先にはよく分からない飾りがついている。それもまた布製だ。

 後ろで彼女が起きる気配がしたので、すぐに窓を離れた。







(#゚;;-゚)「たから」

( ^Д^)「プギャー」

(#゚;;-゚)「ん、ぷぎゃー」

 昼過ぎ。
 プギャーと共に街を散策していたでぃが目敏く服屋を見付け、誘うように指差した。
 こういう、単純なジェスチャーならまだ分かるのだけれど。

 店に入ると、ずらりと並ぶ鮮やかな衣服に目がちかちかした。

 この街は染め物に特化しているのだと、昨夜、レストランの給仕から聞いたのを思い出す。
 染料となる植物の栽培に適した気候なのだそうだ。

 プギャーはそういった方面に興味がないので、
 この街はそういう理由があって発展したのだなという感想しか抱かなかった。
 それよりは、

('(゚∀゚∩「あ」

(`・ω・´)「クソガキ」

 なおるよとショボンがここにいることの方が、よほど関心を引いた。

 昨夜の混んでいたレストランでたまたま相席にさせられたときには単純に驚いたものの、
 今度は少々うんざりしてしまう。

( ^Д^)「何してんの」

('(゚∀゚∩「服選んでるに決まってるでしょ」

 小馬鹿にした言い方にかちんと来たが、その点は人のことを言えないので流した。

 見ると、男向けの売り場ではありつつも、小さなサイズばかり並んでいる。
 どうやらショボンではなくてなおるよの服を選んでいるようだ。

 なおるよが自身の見た目に気を遣うのは知っている。
 性別の曖昧な可愛らしい顔は、分かりやすく彼の長所であり、
 それに合わせて小綺麗な格好をするべきだと先生達から教わっていたそうなので。

(`・ω・´)「着られりゃ何でもいいだろうがよ……長ェんだよ、俺もう飽きたぞ。女かよ」

('(゚∀゚∩「あ?」

 威圧的な声を出されただけで、ショボンは目を逸らして黙った。
 妙な上下関係が築かれている。

 彼らを他所にきょろきょろしていたでぃは、
 今まさに自分が少年向けの売り場にいることに気付くと、顔を綻ばせて手を伸ばした。
 ある一着を見付けるなり、嬉しそうに振り返る。

(*゚;;-゚)「ぷぎゃー」

 凝った模様のボタンがついた、鮮麗な水色のシャツをプギャーに宛てがう。
 近くにあった姿見でプギャーも確認できたが、何というか、似合わない。

(,,^ ^)"

( ^Д^)(……見んなよ)

 鏡越しにタカラを睨む。
 彼の笑顔が、自分を馬鹿にしているように思えてならなかった。被害妄想だろうけど。

(*゚;;-゚)「ケル、デイオト?」

 かくんと首を傾げて、でぃがプギャーの顔を覗き込んだ。
 質問するように語尾を上げて首を傾げられても、何をどう訊かれているのやら。

(`・ω・´)「おら、気に入ったかどうか訊いてんぞ。答えてやれよ」

(;^Д^)「あんた何で分かんの……」

(`・ω・´)「これぐらい雰囲気で分かるだろ。
      てか何だ、おまえ雇い主様に貢がせてんのか?」

( ^Д^)「……勝手に買おうとするんだもんよ」

 ──装飾品やら何やら、でぃは様々なものをプギャーに買い与えたがる。前回の町では靴だったか。
 一方、自分自身で使うものはたまにしか買おうとしない。
 そうさせているつもりはないが、たしかに「貢ぐ」という表現は合っているかもしれない。

(`・ω・´)「ほーん……。……で、おまえ結局服は気に入ったのか?」

( ^Д^)「全然似合ってないの、見れば分かるじゃん。おっさんセンスねえの?」

(`・ω・´)「おっけーおっけーすごく気に入ったってよ」

(*゚;;ー゚) パァッ

(;^Д^)「おい!」

 右手でプギャーを指差したショボンが左手で丸を作って何度も頷くと、
 でぃは顔を一層輝かせ、シャツを持ったまま勘定場へ向かった。
 プギャーが追い縋って否定しても、はしゃいでいると取ったのか頭を撫でられるだけ。

(;^Д^)「いらない! いらないから!
      ……なんで俺の言うこと分かんねえくせにオッサンの言葉は分かるんだよお!」

('(゚∀゚∩「感覚だけでコミュニケーションとるの上手いんですねえショボン様……」

(`・ω・´)「そりゃスラムの奴らなんて俺も含めて満足に言葉知らなかったからな」

(;^Д^)「は? 何? スラム?」

(;`・ω・´)「あ」

('(゚∀゚∩「ショボン様の故郷にある地名だよ!」

(;^Д^)「ややこしい地名だな」

 なおるよが、ショボンの爪先を踵で思いきり踏みつける。
 飛び上がる彼に「ごめんなさいよろけました」と頭を下げるなおるよを訝るプギャーだったが、
 精算の終わる音を聞いて、そちらへ意識を戻した。

(*´;;ー`)「たから、ゲノヲ、ソブナアケイ」

(;^Д^)「……タカラじゃなくてプギャーな。何回言えば分かるの、馬鹿なの?」

(*´;;ー`)「ん、ぷぎゃー」

(,,^ ^)"







(`・ω・´)「……わーお」

('(゚∀゚∩「わあ」

( ^Д^)「うっわ」


 昨夜と同じレストラン。
 プギャーは、テーブルの傍らに立つショボンとなおるよを見上げて顔を顰めた。


 昼飯時ということで相変わらず混んでいた店内。
 プギャーとでぃは何とか空いているテーブルにありつけたのだが──

 その後、相席にしてもいいかと訊ねてきた店員に頷いてみれば、相手はこの2人。

( ^Д^)「もう飽きたよ」

(`・ω・´)「こっちの台詞だ」

 でぃの向かいにショボン、プギャーの向かいになおるよが腰を下ろす。

 プギャーは既に料理を選んだので、自分が使っていたメニュー表をショボン達に渡した。
 もう一つのメニュー表は、やはり、かれこれ10分ほどでぃの手にある。

(#゚;;-゚) ウーン

(`・ω・´)「……飯食うとき、毎回そうなのか?」

 さっさと料理を決めたショボンが、呆れたように言った。

( ^Д^)「は?」

(`・ω・´)「ずーっとメニュー見てんのかって」

( ^Д^)「……や、写真とか絵がついてるやつなら、それで判断するのかすぐ決めるけど」

 この店のメニューはほとんど文字だけでの紹介だ。
 そりゃあ、でぃには読めない。

('(゚∀゚∩「こういうとき、いつも放っておいてるのかよ? 気の毒だよ」

( ^Д^)「だって説明のしようがないし」

('(゚∀゚∩「そこを努力するのが僕たち護衛でしょ。
      それに、ショボン様でさえコミュニケーションとれたんだよ」

(`・ω・´)「いま何か馬鹿にしたな」

 責められている気がして──実際責められているのだろうが──、
 腹の底が、ぐらぐらと煮えた。

 こちらは見たくもない血まみれの男が見えるし、でぃの献身が鬱陶しいし、
 その上どちらも言葉が通じず意思が伝わらないときている。
 それらを堪えるだけで手一杯なのに何故──

(`・ω・´)「……あー、見せてみろ」

 プギャーが幼い意地を心中で暴れさせていると、
 ショボンが溜め息をついてでぃに手を伸ばした。
 でぃがそれに気付き、ほっとしたようにメニューをテーブルに広げる。

 気になったものをでぃが指差すと、ショボンはジェスチャーか、
 あるいは私物の紙とペンを用いた絵で説明してみせた。
 絵は下手だったが要点は伝わるのか、でぃが何度も頷いている。

('(゚∀゚∩「ほら、ちゃんと伝わるじゃない。ショボン様でも」

(`・ω・´)「お前また馬鹿にした?」

( ^Д^)「……」

 プギャーは無言で顔を背けた。

 この1ヵ月半、何を言っているかは分からなくても旅は出来た。
 ならば、それでいいではないか。
 自分は彼女に付き合ってやっている身。これ以上こちらから歩み寄る必要がどこにある。

 ぐちぐちと脳内で言い訳を捏ねる。
 その度にますます腹が立った。もはや何に対する苛立ちなのか分からない。

( ^Д^)「いいじゃん別に。どうせ、もう帰るし」

('(゚∀゚∩「帰るってどこに?」

( ^Д^)「組織に。──元々、旅行は1ヶ月から2ヵ月だけって話だったから」

 組織のある地方に向かう列車が、明日この街に来る予定。
 あとはそれに乗って数日ほど待てば、組織に着く。
 列車で出される食事は大体決まっているのだから、プギャーが面倒を見てやる必要はない。

 それを聞いて、なおるよが肩を竦めた。

('(゚∀゚∩「まあ、彼女が満足してるんならいいんだろうけどさあ」

(*゚;;-゚)「ケル」

(`・ω・´)「食うもん決まったってよ」

('(゚∀゚∩「じゃ店員さん呼びますよ」

 卓上のベルを鳴らすと、然程の間を置かず給仕がやって来た。
 それぞれ注文を済ませる。

 料理が来るのはほとんど同時。
 端からは、仲良く食事をしに来たグループに見えるだろう。
 スプーンに手を伸ばしながら、プギャーはでぃの隣を一瞥する。

(,,^ ^)"

 食事をする4人の傍で、何もせず立ち尽くすだけのタカラ。
 プギャーだけが、この異質な光景を見ている。プギャーだけが体験している。
 みんなにとっては普通の光景がそこにあるだけなのに、プギャーだけが。

 自分だけが、こんな、不快な思いを。

('(゚∀゚∩「ショボン様、ナイフの使い方はこうですよ」

(`・ω・´)「これでも食えてんだからいいだろ」

('(゚∀゚∩「そんなんじゃ、中央でやってけませんよ! ほら直して」

 ストレートにコミュニケーションをとれるなおるよとショボンがひどく羨ましい。
 それはそうだ、彼らは言葉が通じるのだから。

 なおるよがショボンに食事のマナーを仕込んでいる。
 ショボンは口で反抗しつつも、彼の言う通りにしている。
 とても「やりやすい」だろうな、と思う。お互いに。言葉だけでなく、性格の面でも。

 なおるよを見ていると、どんどん腹の奥がちくちくして食欲が失せていく。

 小綺麗な顔。どこか品のいい振る舞い。
 なおるよの言うことを聞き、何の障害もなく交流できる雇い主。

 先ほど、軽く叱るように言われた注意が頭をぐるぐる回る。
 なおるよはタカラが見えていないし、でぃと関わる必要もないから、あんなに簡単に言えるのだ。
 なおるよは──プギャーと違うから、あんなに簡単に。

 どろどろとした思いが、手のつけようがないくらいに膨らむ。
 きっと、目の前にいるのがなおるよでなければ、こんなことにはならなかったかもしれない。
 なおるよが悪い。彼が悪いのだ。

( ^Д^)「……なんで」

('(゚∀゚∩「ん?」

(#^Д^)「なんでいつも、お前ばっかりさあ!」

 ──プギャーは、拳をテーブルに叩きつけようとした。
 胸に湧く衝動を、それで誤魔化したかっただけだ。

 しかし彼の右手がスープ皿の縁に触れ──皿をひっくり返してしまう。

 つい今しがた運ばれてきたばかりのそれは、充分すぎるほどの熱で満たされていて、
 その熱が右手を覆った。

(;^Д^)「あつ……っ!」

(;`・ω・´)「うわっ、何してんだ馬鹿!」

(;゚;;-゚)「!」

 一番早く動いたのはでぃだ。
 水差しを引っ掴み、プギャーの手に水を流しかける。

(;^Д^)「え、ちょっ、」

 手を流れ床へ落ちていく水に、プギャーは思わず痛みを忘れた。
 せめて布か何かを手の下に当てられなかったものか。店員に怒られるだろう。

 しかし近くにいた給仕は素早く駆けつけると、お待ちくださいと告げて踵を返し、
 水を張った洗面器らしきものと数枚のタオルを持って戻ってきた。
 その内の2枚ほどを使って、床の水とスープを処理していく。

('(゚∀゚∩「ありがとうございますよ」

(;゚;;-゚)" ペコッ

 なおるよとでぃが給仕に礼をする。
 塗り薬なら持っているし、大したこともないだろうとなおるよが説明すると、
 よく出来た給仕は新しいスープを持ってくると言ってその場を去った。

('(゚∀゚∩「うーん、大きな街の有名店は給仕さんからして違うよ……」

 感心したように頷くなおるよ。
 彼はプギャーに対して、何故あんなことをしたのか、とは訊かなかった。

 昔からよく癇癪を起こすプギャーのこと、今回も何かしらが癪に障ったのだろうと理解しているのである。
 それがまたプギャーには不愉快なのだけど、今はさすがに、これ以上怒る気にはなれなかった。
 こんなことになってしまっては、いくら何でも頭が冷える。

 洗面器の水に右手をつけて待っていると、新しいスープが運ばれてきた。
 が、でぃによって遠ざけられてしまう。

( ^Д^)「いや、もう大丈夫だから……」

 言いかけ、鋭い目を向けられたので黙った。
 初めてでぃから睨まれた。
 本気で心配したのか、瞳が僅かに潤んでいる。

(#゚;;-゚)「ぷぎゃー、デイサツ、ケヲトケテシリネ……
     ゾアザトオヨゾナ、カジチキユイトケテサトアヅ……」

( ^Д^)「……なに言ってるか分かんねえ」

 ばつが悪い。
 顔を逸らそうとしたが、でぃの手がそれを阻んだ。
 正面からこちらを見据える目から、一滴、涙が落ちる。

(#。゚;;-゚)「……たからネツナ、モクデトヲツ、トオッソヲゾオヨヌ……
      ロソサネたからネツナ……」

 ──タカラの名が、何度か出る。
 自分の名前はプギャーだと、もう舌が飽きるほど繰り返した訂正を口にしかけ、
 プギャーは唇を噛んで止めた。

 今のでぃはきっと、プギャーに語りかけているわけでなく──
 タカラ本人のことを思い出しているのだろう。


(,,^ ^)"

 彼らがどんな関係なのかは知らないけれど、でぃにとってタカラは大切な人で、
 彼らに何があったのかは知らないけれど、タカラはこうして傷だらけになって──恐らく死んでいる。

 でぃはプギャーにタカラを重ねている。それは明らか。
 だから物を買い与えたり、好きなものを食わせたりして大切にする。

 であれば、プギャーが怪我などすれば、彼女がこれだけ不安になるのも当然なのだ。
 タカラを失ったときのことを思い出してしまうに決まっているのだから。

 ちくりと、どこかが痛む。

( ^Д^)「……ごめんなさい……」


 初めて、でぃの気持ちをきちんと理解できた気がする。
 彼女の心情を考えるのに精一杯で、先ほど浮かんだ不満や怒りが薄れていく。

 プギャーが小声で謝罪すると、でぃが強く抱き締めた。

('(゚∀゚∩「あ、何か、プギャーが珍しく謝りましたよ」

(`・ω・´)「ほー……」

 ショボンはしばらくこちらを眺め、「よく分かんねえなあ」と呟いて食事に戻った。







(#゚;;-゚)「ぷぎゃー、マガツ、アソキトア?」

 自分の右手とプギャーの左手を繋いでゆっくりと歩くでぃは、
 心配するような目を何度も向けてきた。

 ──今はもう夕方で、日が徐々に沈んでいる。

 火傷はというと、大して重いものではなかったので
 持ち歩いている塗り薬を塗って、適当にガーゼを当てて包帯を巻いた。
 それで充分。

 だというのに、でぃはまるでプギャーが大怪我を負ったかのように心配してくる。
 少し、くすぐったい。

( ^Д^)「俺のことはいいから……お土産、何か買ってかないの?」

(#゚;;-゚)「? おみやげ……」

 明日の朝には列車に乗って帰るのだから、彼女の身内に土産を買うなら今の内。

 これまでプギャーに散々ものを買い与えてきたでぃだが、
 思えば、プギャーと彼女自身が使うもの以外は何も買っていない。

 旅行といえば土産を買っていくものだろうとプギャーは考えているので、
 これではいかんだろうと思い、とりあえず商店の並ぶ通りへでぃを引っ張ってきた。
 いつものプギャーならばどうでもいいと放っていただろうけれど。今は、そういう気分。

( ^Д^)「お土産……ええと、どう説明したらいいんだろ……」

 数時間前にレストランで別れたショボンの顔が脳裏を過ぎる。彼ならどうするだろうか。
 ジェスチャーでも絵でも、上手く表現できない。
 土産。どう伝えればいいのか。

(;^Д^)「えっと、お土産……あー……」

(,,^ ^)"

 プギャーが無意味に両手を揺らしてうだうだやっていると、
 でぃにまとわりついていたタカラが動いた。

 プギャーの後ろに立つ。
 何事かとぎょっとするプギャーの両肩に、タカラの手が触れた──いや、彼には実体がなさそうなので、
 触れたというより、軽く添えられたと言うべきか。

 途端、口が勝手に動いた。


( ^Д^)「──、」


 舌まで動いて何やら声が出たが、何と言ったのか自覚できなかった。
 タカラが離れる。プギャーは慌てて自分の口を押さえた。何だ今のは。

 でぃはというと、目を丸くして──
 ぱっと、口元を綻ばせた。

(#゚;;ー゚)「……ん」

 左手をぱたぱた横に振る。
 断るような仕草──「いらない」、ということだろうか?
 何が? ──土産が?

(;^Д^)「お、お前、何したんだよっ」

 人目も気にせず、プギャーはタカラに問うた。
 タカラはいつも通りに人の良さそうな笑顔(ただし血まみれ)でゆらゆら揺れている。

(,,^ ^)"

(;^Д^)「マジかよお、お前ただ居るだけじゃなかったのかよ……」

 まさかこんな風に干渉してくるとは。
 別に害があったわけではないけれど。

 でぃは疑問に思う様子もなく、とにかく笑っている。
 プギャーが複雑な思いで口を尖らせていると、突然そこかしこの商店から店主が出てきた。

 日は完全に沈みきろうとしていた。
 店主達は皆、梯子や踏み台を使ってそれぞれの軒先に手を伸ばした。
 大小様々なランプを持っている。

 軒先には、布で出来た円筒状の袋のようなものがぶら下がっており、店によって色や柄が違う。
 その袋にランプが入れられると──


 通り全体に、華やかな明かりが灯った。


 赤や青や黄色に緑──様々な布が内側からの光を柔らかく包み、
 自身を通して彩りを優しく主張する。

 おお、という声が後ろから聞こえたので振り返ると、
 恐らく自分達と同じく観光、あるいは列車待ちのために滞在している旅人であろう人々が、
 色付く光に目を輝かせていた。彼らの後ろもまた、煌びやかな光に溢れている。

 それを確認して、プギャーは前へ向き直った。
 ──綺麗だと思った。
 それから、でぃがどんな顔をしているか気になったので、横を見る。


(*゚;;-゚)


 ぽうっと、彼女も見とれるようにその光景を眺めていた。
 彼女に寄り添うタカラも同様に。
 その姿に、得も言われぬ安堵が広がり──すとんと、胸の内に何かが降りた。

 当然ながら彼女も自分と同じく人間で。
 自分と同じように、物事を考え、感じ、この世の清濁諸々を受け止めている。

 なのにプギャーはそのことを無視していた。
 言葉が通じないというだけで、でぃそのものを「得体の知れないモノ」と判断していた。


 ──己の許容範囲を超えたものは、拒絶し見下さねばならなかったのだ。

 親に捨てられ、拾われた先では全てにおいて自分より優れた同い年の少年がいて。
 自分がひどく惨めな人間に思えた。
 常に劣等感に苛まれていた。

 だから自分の決めた範囲から少しでも外れたものは、自分より下位に置かねば気が済まない。
 勿論でぃにもそれを適用し、そして彼女を「範囲」から外れた者だと認識していた。


 けれど本当は、彼女だって、プギャーの受け止められる範疇に充分収まる人だったのだ。

 己の愛した人によく似たプギャーにその人を重ね、それゆえに贔屓し可愛がり、
 プギャーが怪我をすれば純粋に心配してくれる。
 ごくごく普通の感性の持ち主だ。


 そろそろ旅行を終えようという今になって、ようやくそのことに気付いた。
 恥ずかしくて堪らない。情けなくて堪らない。──申し訳なくて、堪らない。

 これまでのプギャーならば、そんなこと知るかと開き直っていただろう。
 だけど繋いだ手が温かくて。柔らかくて。
 謝罪できないだろうかと、自然に考えていた。

 言葉で謝っても、彼女に通じるかどうか。
 今まで見せてきた反抗的な態度を改めたいのだと、どうやって行動に表したらいいだろう。

( ^Д^)(……あ、そうだ)


 せめて列車で帰る間は、彼女が買ってくれたものを身につけようか。







(#-;; -) スー、スー

 夕飯を食べて宿に戻って、しばらくアルバムを眺めていたでぃが、ようやく眠った。
 タカラはでぃの傍らにしゃがみつつも、ごそごそと鞄を漁るプギャーを見つめている。

( ^Д^)「見んなよ」

(,,^ ^)"

 今まで訪れてきた町で彼女が買ってくれた装飾品を引っ張り出す。
 ずっと仕舞いっぱなしで、全く使っていなかった。

 何となく、装着する瞬間を見せるのはまだまだ恥ずかしかったので
 こうして彼女が眠りにつくのを待ってから準備を始めた次第。

( ^Д^)「いきなり全部つけるのも気合い入りすぎだし……とりあえず、これだけでいいか」

 腕時計と指輪を左手につけた。腕時計は2つ前の町、指輪は3つ前の町で買ったもの。
 指輪など似合わないと思っていた。実際につけてみると、割合、格好いいかもしれない。

 そろそろと寝台に上がる。
 腕時計はともかく、寝ている間に指輪が外れやしないだろうか。

 あまり寝相が激しくならないようにと祈りながら、
 プギャーは腹の上で両手を組んで、目を閉じた。

 目覚めたでぃが、腕時計と指輪に気付いてくれますように。




.



(,,^ ^)

(;^Д^)「ふぎっ」

 目覚めて一番最初に目に入ったのは、タカラの顔面だった。またか。

 彼を避けるように右へ傾きながら半身を起こしたプギャーは、
 少しぼうっとしてから、はっとして自分の手を見下ろした。
 腕時計も指輪もちゃんとついている。寝相は大丈夫だったようだ。

 それから次にでぃを探す。
 備え付けの化粧台の前で身だしなみを整えていたので、すぐに見付かった。

(*゚;;-゚)「たから、エカソ?」

( ^Д^)「プギャーだって……」

(*´;;-`)「テクアテヤバロ、チクツキルソヲゾヌ。ナンッツリユ」

 あからさまに機嫌がいい。
 どうやら望み通り、腕時計や指輪に気付いてくれたらしい。
 やはり気恥ずかしくて、プギャーは顔を背けた。

 腕時計で時間を確認すれば、列車が来るまであと2時間ほど。
 自分も支度をしなければ。

( ^Д^)(着替えて、顔洗って、歯磨いて……朝飯はどうしよ。食ってくか。
      あー、薬塗り直してガーゼと包帯替えねえと……
      めんどくせ、結局腕時計も指輪も一回外さなきゃいけないじゃん。馬鹿だな俺)

 寝台を下りてぼんやり予定を組んでいると、
 ふと、押し寄せる違和感に首の後ろがざわついた。

 その違和感の正体が分からない。
 思考をリピートする。

 着替え、洗顔、歯磨き。別におかしくない。その後は? 朝食。これも変なことではない。
 薬の塗布とガーゼ、包帯の取り替え。普通。腕時計と指輪を外す。これも普通。
 だって腕時計は包帯の上から巻いているのだから、
 包帯を外すにはまず腕時計から外さないと。指輪も同じく──

(;^Д^)(あれ?)

 右手を持ち上げた。
 間違いなく昨日の昼に火傷を負った手だ。

 ガーゼを押さえる包帯、そしてその上に。
 その上に、腕時計と指輪が、


(;^Д^)(──俺、時計も指輪も左手につけたよな?)

 プギャーは右利きだし、何より今は右手を怪我している。
 深く考えるまでもなく、左の手首に腕時計、左の人差し指に指輪をつけた筈だ。

 なのに今は右手につけられている。

(*´;;ー`)「コヤイホタボッツソオヨ、トエサテアソユ」

 つけ替えたとしたら、いま目の前でにこにこしているでぃだ。
 何故?
 昨日あれだけ心配していた彼女が、何故わざわざ怪我をしている手につけ直した?

(;^Д^)「なあ、これ、」

(*´;;-`)「コン、エカボウメサユイヌ」

 戸惑うプギャーを無視して、でぃはいそいそと紙袋や鞄から服と靴を取り出した。
 シャツは、この街で買った、あの水色の。

 それらを抱えたでぃが近付いてくる。
 寝台の傍、立ち尽くすプギャーの眼前に膝をつき、
 でぃは彼の寝巻きを脱がしにかかった。

(;^Д^)「まっ──待って、まず俺の話聞いてくれよ。俺、ちゃんと話すから……
      あんたと話せるように頑張るから──」

 でぃは笑顔で頷いている。
 何が何だか分からないが、敵意があるわけでないのは気配で読めるし、
 ただ着替えさせられているだけなので、強い反抗はしなかった。混乱して動けなかった、とも言う。

 服を替え、靴を履かされ。
 でぃは満足げに頷き、プギャーの前から退いた。

 化粧台の鏡にプギャーが映り込む。
 その姿に──ぞっとした。


(;^Д^)「……、」

(,,^ ^)"


 背後に立つタカラ。
 彼の服装と、今のプギャーの格好は、とてもよく似ている。

 細かいところこそ違うものの、シャツの色や右手の腕時計と指輪、薄い色合いの革靴──
 どれも、タカラが身につけているものにそっくりだった。

(*´;;-`)「エオウラトコア、たから。ケヲデノオッツナサトトアヅヌ」

(;^Д^)「た、タカラじゃなくて、俺、俺……」

(*´;;-`)「たから」

 プギャーを抱き締め、ほうと息をつくでぃに背筋が冷える。

 鏡の中、真っ青な顔をするプギャーの背後で、真っ赤な顔のタカラが手を動かした。

(*´;;-`)「アレヲトテケレナチルツッツキルリッツ、ミオサ、モキセキサソユヌ。
      テツメソネサオッソユ。ケヲデノ、ロソサボアカコカワカムツメアアオト。
      たから、たから」

 タカラの両手が、プギャーの肩に乗せられる。
 触れている感触も温度もないのに、そこからじわじわと何かが入り込む。
 逃げ出したい。けれど体は小刻みに震えるばかりで、指先ひとつ動かせない。

 徐々に、何かの境界が曖昧になっていく。

(*´;;-`)「たから、ヒソラゾクナトルリテケレワ、コボサナアケイヌ」


 思考が鈍って。



(*´;;-`)「たから」



 それが、後ろの男の名なのか、自分の名なのか、分からなくなった。











('(゚∀゚∩「ショボン様って下半身に脳みそ入ってそうな品性の持ち主なのに、
      でぃさんには性欲向けませんでしたね」

(`・ω・´)「だってあの女、何か恐えーもん。
      あとお前どんどん口悪くなってるな」

('(゚∀゚∩「恐いってどこが……ちなみにショボン様の品性がもっと宜しくなれば、僕だって態度を改めますよ」

 夕方に街を出て、なおるよと「ショボン」はのんびりと歩いていた。

 隣の町までは大した距離ではない。そこに着いたら一泊してから馬車に乗って3つ先の街へ向かって、
 次の列車が来るまで滞在した後は、列車で真っ直ぐ中央を目指す。

 彼への躾をより一層厳しくしなければいけないなとなおるよが考えていると、
 向こうから、エンジン音を響かせながら自動車が走ってきた。

(;`・ω・´)「うおっ、車だ車! 動いてるのなんて5年ぶりに見たぞ!」

('(゚∀゚∩「珍しいですよ。──5年前のものよりも、何か、こう、しょっぱいですけど」

 近くを歩く者もそれぞれ自動車に熱い視線を送っている。
 小さな子供など、車自体を初めて見たのか大興奮だ。

 やや小振りかつ、微妙に挙動の不安定な自動車は、
 ゆっくりとしたスピードながらも真っ直ぐ進んでいる。

 なおるよ達が道を譲るために脇へ避けると、自動車は甲高いクラクションを鳴らし、
 一層スピードを落として彼らの前で停まった。

 窓が下り、そこから見知った顔が覗く。

('A`)「──よう、もしかしてなおるよか? でかくなったなあ」

('(゚∀゚*∩「ドクオさん!」

 懐かしい顔に、思わず年相応にはしゃいでしまった。

 ドクオ。一番最初に組織から送り出された男。会うのは実に5年ぶりだ。
 5年前のなおるよなどまだ7歳だったというのに、成長した自分にすぐに気付いてくれたのが嬉しい。

(`・ω・´)「何だよ、お前んとこの仲間か?」

('(゚∀゚*∩「そうですよ! 今は首長様の護衛をやっておられます!」

(;`・ω・´)「首長!? 中央の!?」

('A`)「いや、護衛はもうクビになったんだ。今は部下として色々……」

(`・ω・´)「何だ無能か」

('A`)

 こいつ馬鹿だなあとなおるよは冷眼を向けた。
 なおるよやクールと同じ場所で育ったのだと聞いた直後に、何故そのような発言を出来るのか。
 ドクオの手にかかれば、車中からでも一瞬でこの馬鹿を再起不能にすることも出来るのに。

 というか、何なら、この車を用いて再起不能にするのも容易だろう。

('A`)「なおるよ、このお方は?」

('(゚∀゚∩「えーと……シベリア国ハチマユ家の当主、ショボン様ですよ」

('A`)「中央行くの?」

('(゚∀゚∩「はい、新政府狙いですよ」

('A`)「そうかそうか。へえ、そうかあ。楽しみだなあ。
    旦那によろしく伝えとくわ」

(`・ω・´)「……おれ何か余計なこと言った?」

('(゚∀゚∩「そう思うなら、是非しばらく口閉じててくださいよ」

(`・∩・´)

 失言を自覚してくれたらしく、彼は口を手で覆うと目を逸らしながら一歩下がった。
 言葉遣いは勿論だが、思ったことをそのまま言う癖も矯正しなければ。

('(゚∀゚∩「ドクオさん、この車どうしたんです?」

('A`)「今、中央で自動車の開発が進んでてな。
    実験の一環として、これで各地を走ってこいって言われて」

('(゚∀゚∩「えっ、中央からここまで走ってきたんですかよ!?」

('A`)「いやいや、合間合間は船で運ばれてんだ。
    ──とりあえず何かしらの実績残さなきゃいけないから俺も必死ですよ。
    これ以外にもやらなきゃいけねえことがたくさん……」

 事情はよく分からないが、ドクオが真剣な顔付きで言うので
 なおるよはうんうん頷いておいた。

('(゚∀゚∩「首長の護衛は、今ツンさん1人で?」

('A`)「おう。まあツンの奴、旦那の方針に賛同してる連中のなかから
    腕の立つ奴を何人か雇ったみたいだけどな」

 ──ところで、と。
 ドクオが話題を変える。

('A`)「プギャーって、なおるよと同じ歳だったよな?
    仲いいか? 俺、あいつと大して関わってないからよく知らねえんだ」

('(゚∀゚∩「仲いいかは分かりませんよ、なんか僕、色々嫉妬されてましたし。
      ──あ、でも偶然そこの街で会って、結構話したりはしましたよ」

('A`)「おっ、マジか。あいつ女と一緒だったか?」

('(゚∀゚∩「はい。でぃさんっていう女性に雇われて、一緒に旅行してるみたいですよ。
      って、今朝の列車に乗って組織に帰るって言ってたから、もう街を離れてるでしょうけど……」

(;'A`)「あー、出ちまったのか……でも帰るんなら大丈夫か……?」

('(゚∀゚∩「? どうかしたんですよ?」

(;'A`)「いやあ、このまえ寄った町で『連絡係』に会ってな」


 「連絡係」。
 言ってしまえば、その名の通りの役職だ。

 個人個人で扱える連絡手段が不足している今の時代、
 各地に散ってしまった護衛達と即座に連絡をとることは難しい。

 そのため、組織から護衛に重要な連絡事項がある場合(あるいは護衛から組織に報告がある場合)、
 「連絡係」が両者の間に立って情報を行き来させるのだ。

 彼らは各地域の主要な町に駐在させられている。
 組織から手紙なり何なりで連絡事項を受け取ったら、
 町を訪れた護衛にそれを伝えていく。

 そんな方法なので、そもそも伝えるべき対象が町に来てくれないと、彼らもどうしようもないのが難点。


('A`)「プギャーに、先生から大事な伝言があるんだと。
    でも連絡係のいる町にプギャーが寄ってないらしくて、
    情報を伝えられねえって困ってた」

('(゚∀゚∩「はあ、それで、もしプギャーに会えたら伝えといてくれとドクオさんが頼まれたわけですか?
      どんな話ですよ?」

(;'A`)「それが厄介なネタでなあ……」

 最初にドクオは、プギャーがでぃに雇われるに至った経緯を簡単に語った。
 なおるよが本人から聞いた話と同じ。
 本題はここから。

('A`)「──まず、プギャーを雇った『でぃ』って女は、モララー氏が紹介状を持たせた女とは違った。
    まったく無関係の人間だ」

('(゚∀゚∩「……え」

 なおるよは反射的に雇い主と目を合わせた。
 喋るなという言いつけ通りに彼はきちんと黙っていたが、瞳に驚きが含まれている。

('A`)「プギャーを送り出した数日後に判明した。
    本来紹介状を持ってた筈の女は、道中の山で死んでるのが見付かったってよ。
    崖から落ちたらしい」

('A`)「モララー氏が言うには、その女に大金を持たせていたそうなんだが……
    山のどこにも金が無かった。
    ──多分、でぃって奴が拾ったんだろう」

('(゚∀゚∩「……でぃさんが、金を奪うために崖から突き落としたってことですかよ?」

 それは分からないとドクオは言う。
 滑落はあくまでも事故であって、
 その後、でぃがたまたま通り掛かって鞄を拾っただけかもしれない。

 拾ったとしても、そのまま大金を持ち逃げするような人だろうか。
 考え、なおるよは「あ」と声をあげた。

('(゚∀゚;∩「もしかして──拾った鞄に入ってた紹介状と地図を見付けて……
      その地図を頼りに、お金を届けに行ったんですかよ?」

('A`)「かもな。もし金をむりやり奪ったんだとしたら、地図の場所に行くとは考えにくい。
    恐らく元々は純粋に金を届けに行っただけ──だった、が。気が変わったのかね」

 そこでドクオは少しだけ間をあけ、再び話題を変えた。
 いや、話題は同じか。視点をずらしただけで。

('A`)「……それで怪しんだ先生が、でぃ……もといエーエー族について調べたところ、
    ある学者の存在にぶつかった」

('A`)「タカラ、っていう若い無名の学者だ。
    語学について研究していて──特にエーエー語の研究には熱心だった。らしい」

('(゚∀゚∩「『タカラ』って名前、でぃさんがよく言ってましたよ」

('A`)「半年近く前のある日、タカラは知り合いの学者に
    『エーエー族の生き残りを見付けたかもしれない』っつって、
    荷物まとめて研究所を後にした」

('A`)「知り合いはもちろん冗談か何かだと思って本気にしなかったみたいだけどな。
    それ以降タカラは帰ってこなかった」


 ──約3ヵ月前、ある小さな町で土砂災害が起きた。
 死傷者数人。その内の一人がタカラであることが判明し、研究所へ連絡が行った。

 調べてみると、タカラが発見された場所からエーエー語に関する研究資料と
 何者か──恐らく若い女──と暮らしていた痕跡が見付かったのだが、
 肝心の同居者の姿が見当たらなかったという。タカラの死後に町を出てしまったのだろう。


 これがタカラの写真のコピーだと言い、ドクオは手のひら大の紙を見せてくれた。


   [ (,,^Д^) ]


('(゚∀゚;∩「……! 似てますよ、そっくりですよ、プギャーに。
      似てるらしいとはプギャーから聞いてましたけど、こんなに……」

('A`)「……組織でプギャーの写真を見せられたとき、でぃは何を考えたんだろうな」

('(゚∀゚;∩「……さっきドクオさんが言った『気が変わった』ってのは、もしかして……」

 十中八九、プギャーの写真を見たときだろう。
 ぞくり、嫌な予感に寒気がした。

('A`)「──先生達は、でぃとまともな会話が出来なかったんだよな?
    組織側は『モララー氏による紹介だ』と思って話を進めてたが、
    でぃの方は、組織が具体的にどんな事業をしている場所なのか分かってなかっただろうよ」

('(゚∀゚;∩「でも彼女、ちゃんとお金を出してプギャーを雇って……
      あ、やっぱり拾ったお金を渡しただけで、先生達が勘違いしたってことは?
      ……や、でも、雇うための費用以外は普通にでぃさんが持ってったみたいだし……?」

('A`)「そこだ。そこが問題だ。流れからして、でぃは結局、大金を自分のものとして使った。
    ──タカラの件を知った先生は、そういう諸々の事情を踏まえて、
    ある可能性に思い当たっちまった。それでプギャーと連絡をとろうとしてるわけだが……」

('(゚∀゚;∩「可能性って何ですよ?」

('A`)「……もしかしたらでぃは、その金でプギャーを『雇った』んじゃなく──」





('A`)「『買った』つもりだったのかもしれねえな、って」









 ともかく、列車に乗ったというなら大人しく組織に戻るかもしれない──そう告げてドクオはその場を去った。

 一応自動車で辺りを見て回ってはみるらしいが、果たしてどうなるか。
 ドクオは伝言の伝言を頼まれたようなものなのだから、彼の本来の仕事を優先すべきだろうし。

 まあ、仮にでぃがプギャーに何かしたとしても──相手は女1人。
 プギャーなら簡単に抵抗できる。忠誠心により手を出さない、という性格はしていないし。
 だから、心配するほどのことではないのだ。



 そうは分かっていても、なおるよとショボンは街に引き返した。
 もしかしたら予定を変えて、まだプギャー達が街に残っているかもしれない。


 しかし──当然、と言うべきか──プギャーもでぃも見付からなかった。


 彼らが泊まっていた宿から、何か情報を得られないだろうか。

 どこに宿泊していたのか分からないので、手当たり次第に宿を訪れ、
 プギャー達の特徴を告げて反応を窺った。
 1軒目は外れ。2軒目も外れ。3軒目も。


 4軒目。

 主人は、いかにも微笑ましいといった顔で答えた。

「ああ、あの仲良さそうな2人かい? あれは姉弟かな?
 列車が来るより先に、どこかへ出発したみたいだよ」

 そうして、笑顔のまま続ける。



「2人の暗号でも決めてたみたいでさ。
 ここを出るとき、変な言葉使って楽しそうに会話してたよ──」



7:ぼくの、でぃさん   終



595 :同志名無しさん:2015/06/06(土) 02:50:29 ID:Q6ZUG42s0
今日はここまで


二話目 >>54

三話目 >>100

四話目 >>182

五話目 >>263

六話目 >>379

七話目 >>509


読みながら気付いた人もいるかもしれませんが、でぃの言葉はシーザー暗号的なもので表してます
それぞれの文字を、五十音表で一字後にずらせば何言ってるか分かる。はず。「ン」は「ア」に戻る
※濁音は濁音だけでループします(「ボ」なら「ガ」に訳すといった具合に)
※小さい「ッ」はそのまま。ワ行のヰやヱは無視

例:
(#゚;;-゚)「ケテサメ、ハォキメネボソラネカスチボ タオヂアツホアラホサソ」



(#゚;;-゚)「ことしも、ひゃくものがたりのきせつが ちかづいてまいりました」

解読したところで大したことは言ってませんが、お暇なときにでも是非
(元の文章がミスってたらごめんなさい)


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