【小泉悠】投稿一覧

小泉悠
小泉悠

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東京大学先端科学技術研究センター 専任講師

東京大学先端科学技術研究センター 専任講師

早稲田大学大学院政治学研究科修了(政治学修士)。民間企業勤務を経て、外務省専門分析員、ロシア科学アカデミー世界経済研究所(IMEMO)客員研究員、国立国会図書館調査員、未来工学研究所特別研究員などを歴任し、2019年から現職。『「帝国」ロシアの地政学「勢力圏」で読むユーラシア戦略』でサントリー学芸賞を受賞。主著に『現代ロシアの軍事戦略』、『軍事大国ロシア』、『プーチンの国家戦略』がある。
【注目するニュース分野】グローバルセキュリティー・ロシアの軍事政策

早稲田大学大学院政治学研究科修了(政治学修士)。民間企業勤務を経て、外務省専門分析員、ロシア科学アカデミー世界経済研究所(IMEMO)客員研究員、国立国会図書館調査員、未来工学研究所特別研究員などを歴任し、2019年から現職。『「帝国」ロシアの地政学「勢力圏」で読むユーラシア戦略』でサントリー学芸賞を受賞。主著に『現代ロシアの軍事戦略』、『軍事大国ロシア』、『プーチンの国家戦略』がある。
【注目するニュース分野】グローバルセキュリティー・ロシアの軍事政策

2023年

  • これは昨年以来、ウクライナとNATOの間で話し合われてきたもので、9月には「キーウ安全保障協約」案という素案もまとまっています。これを実際に政策として実装するかどうかが今年7月のリトアニアにおけるNATO首脳会合の大きなテーマとなるでしょう。
    問題は、「ウクライナに対する軍事援助と安全保障」が「占領下の領土の放棄」とセットになる可能性でしょう。この場合、ウクライナは簡単に飲まないでしょうし、飲んだら飲んだで戦争の先行きは大きく変わってきそうです。

  • ウクライナはロシアの侵略を受けている側であり、一方的にやられるだけでなく反撃する権利もあると思います。
    ただ、政治経済軍事中枢への攻撃はまだしも、今回のようにレーニン大通りやプロフソユーズナヤ地区(私も住んでました)といった民間人居住エリアに落ちるのはまずい。本来のターゲットではなかったとしても、途中落下して民間人が死亡すればウクライナに対する国際社会の風当たりは強くなるでしょう。
    この辺のリスクをウクライナがどこまで計算してやっているのか、非常に気になるところです。

  • 訓練が本当にもう始まっているのかはまだはっきりしません。ただ、米空軍によると、ウクライナのパイロットがF-16に機種転換するための最短期間は4ヶ月。ということは、もう訓練が始まっていたとしても9月の終わりまでかかるということですから、F-16は長期的なウクライナの戦力強化に資するもの、という位置付けなのでしょう。
    秋まで反転攻勢を遅らせる、という可能性もないではありません。昨年もウクライナは6月くらいから反転攻勢について口にしつつ、実際に発動したのは9月でした。待つことのメリット(戦力強化)とデメリット(イライラするスポンサーたち、ロシア軍の再編等)を天秤にかけて発動時期を決めるのでしょう。

  • 今回供与されるのは、平たくいうとトラック二種類(装輪型・装軌型)と軍用四輪駆動車です。ということは今回も殺傷性兵器の供与を日本は見送ったわけですが、国民的な議論を経ていない以上、これは仕方ないのではないでしょうか。
    実際問題として軍隊というのはこの種の車両を大量に必要とするものではありますから、今回は殺傷性兵器を供与に至らない範囲内でそれなりに役立つものを選んでこうなったのだと思います。
    あとは噂されている解散総選挙で、日本としてウクライナ支援にどこまで踏み込むか、きちんと議論した上でやるべきことでしょう。

  • これまで行われたリハーサルの映像を見るに、装甲戦闘車両がほとんど出ない寂しいパレードになりそうです。ここ数年続いてきた市民行進「不滅の連隊」や、大統領と従軍経験者の懇談会も取りやめとのこと。また、モスクワ以外では21の都市でパレード開催が取りやめとなりました。
    他方、当初は外国首脳の出席なしと発表されていたものが、土壇場でかなりの旧ソ連諸国首脳の参加が決まったと見られています。戦争で成果が出せていない中、戦勝記念日はなるべくひっそりやってしまおうという思惑かと思っていたのですが、ここで急に積極外交に転換した(ように見える)理由はなんなのか気になります。

  • バフムト周辺では昨年から激戦が続いてきましたが、その中でロシア側の損害がかなりの規模に上っているようです。ウクライナ側も元々バフムト固守の理由を「ロシアに損害を強いるため」としています。
    とすると、ウクライナとしてはロシア軍が損害から立ち直って再編成する前に反攻作戦を実施したいはずですし、気温が上がって地面が固まりつつある今がチャンスと考えているのでしょう。
    他方、ロシアは昨年動員した30万人の全部を戦場に投入したわけではないとみられているので、ウクライナ軍は反攻に動けば手薄になった地域に新たな攻勢をかける可能性もあります。いずれにしてもこの戦争はまだしばらく続く公算が大きいと思います。

  • 気球では精密な航法ができないので画像情報収集の用途は考えにくく、おそらくは電波情報収集用だろうということが早くから言われてきましたが、このような見方を裏付ける発表ですね。複数種類の気球が撃墜されているので、一つの編隊として広い範囲をカバーしながら飛んでいたのではないでしょうか。
    ただリアルタイムで情報を送っていたかどうかはその種の設備の有無を見ればわかるはずで、この辺は国防総省も言いたくないことがあるのではないかな、と思いました。

  • 昨年秋の段階では、北朝鮮からロシアへの弾薬供給は「可能性」として語られていたわけですが、今回のカービー発言では「すでに一度大規模な弾薬供与があって、今回は追加である」という前提ですね。具体的なブローカーの情報なども開示しており、相当の確信を持っているように見えます。
    ただ戦場では北朝鮮製弾薬の残骸が回収されたという報告は今のところ見られないようです。

  • 逆にいうと、これだけの覚悟を固めながら、米国は大規模な戦車供与(今のところ決まっているのは31両だけ)に踏み切れず、戦闘機やATACMSミサイルの供与も拒否せざるを得ないくらいロシアの核使用を懸念しているということなのでしょう。
    とはいえ適時に思い切った軍事支援を行わないと、政治的覚悟だけがいくらあっても戦争が長引く可能性が高いことは記事中にある通りで、このあたりをバイデン政権がどう考えるのか気になるところです。

  • 20世紀型大国としてのロシア、という視点は非常に的確だと思います。特に現代的な価値観についていけず、空回りをしているのがロシアなのかもしれません。
    しかし、この戦争の戦闘局面は優れて20世紀的です。とすると、20世紀型大国であるロシアの実力は依然侮れません。
    特に戦時動員体制、巨大で非効率的な軍需産業、大量の予備兵器などは時代遅れと見られていたわけですが、実際に巨大戦争が起こってみると、非常に役に立っています。
    近代的なものとポスト近代的なものが入り混じる現代においては、どのような歴史の断層と出くわすのかによって国家や社会のモデルの効用が大きく変わるのではないでしょうか。