地図から見て、イワヤマトンネルの傍にある10番道路から南方へ下った先に無人発電所はある。元々はカントー中に電力を送るための施設であったのだが、いつしか発電所はその役目を終えて稼働することなく放置されていた。施設が閉鎖された理由はいつしか忘れられてしまったが、環境汚染によるポケモンへの被害などが主な原因だったのかもしれない。
そんな無人となった発電所が建てられている場所ということもあってか、ここには滅多に人は寄り付かない代わりに主にでんきタイプのポケモン達による住処となっていた。
「おお~デカいな」
そんな誰も寄り付かない場所である無人発電所を見上げながらレッドは言った。
ここを訪れたのは単なる偶然ではなく、北の岬に住むマサキから教えてもらったものである。彼はアレでもポケモン評論家として活動してもおり、また大学などでポケモンについて合議することもあるあるので、そのため自らその調査に出向くことがあったからだ。その中で古いカントーの地図にこの無人発電所が載っていたことを思い出し、中々自分ではいけない場所ということもあってレッドに調査も兼ねて教えたというわけだ。
「こんな人気のないところにご飯なんてなさそうだからとっとと帰るんだな」
「新入りのくせに生意気ピカ」
「その新人に対する扱いが酷いので労基に報告させてもらいま──あ、スピアーさん、突っつくの勘弁してくださいお願いしますっ」
「はぁ……」
いねむりポケモンのカビゴン。彼は新しく仲間に入ったポケモンなのであるが、性格がこのように面倒くさがりなためか、レッドは生まれて始めてポケモンに対して頭を抱えていた。
そもそもこのカビゴンはたまたまというか偶然ゲットしてしまったようなものであった。それはクチバシティでのことで、ポケモンだいすきクラブ会長にお礼として自転車引き換え券をもらったのだが、レッドは別に自転車などなくても速く走れるので必要はないと断った。
「近々レースがあるからそれに出てみんさい。賞金も出るしレッドくんなららくしょーじゃよ」
と、現金な性格のレッドは賞金に目がくらんでそのレースに出ることになったのだ。で、カビゴンはそのコース上に偶然寝ていて、まあ紆余曲折あってレッドがこのカビゴンを捕まえたのである。
尚、手に入れた自転車は本気で漕いだら案の定レッドのパワーに耐えきれず自壊してしまったので、残念ながら賞金は手に入らなかったのである。
「で、レッドよ。ここからどうするんだ? なんだか強そうな気配がするけど、いつも通り乗り込むのか?」
シュッシュッと一人シャドーボクシングしながらリザードンがレッドに訊いた。確かにリザードンの言う通りこの無人発電所には、なにやらとても強い気配がある。マサキから聞いていたのは、発電所故に野生の多くのでんきタイプのポケモンがここを住処にしているらしい。それは現に当たっていて、もう目の前でもコイルなどが飛んでいるし、傍にいるピカチュウもかなり調子がいい。
「とりあえずカビゴンのレベリングをしつついつもの感じでいくか」
「この間はのけ者にされたからな。今日は暴れまくるぜ」
「……!」
「同胞がいっぱいいるからヤりがいがあるピカねぇ」
「あのぉ~いつもの感じってんなんすか」
レッド達が張り切って各々柔軟体操をしている中、新入りであるカビゴンはそれがわからず恐る恐る手を挙げる。そんなカビゴンの質問にレッドは笑顔で言った。
「え、殴りこみ」
「……イタタ。今朝食べたご飯の所為かな。お腹が痛いなぁ……って、なんでおいらをもちあげるんです⁉」
「じゃあ行って、こぉ──ーい!」
「うわぁああああ!」
──レッドによるカビゴンのすてみタックル! カビゴンは正面ゲートをぶち破った!
「よっしゃあ、お前らカビゴンに続けぇ!」
『おぉおおお!』
レッドに続いてリザードン達がカビゴンに続いて無人発電所に突撃していく。その光景は、まさに任侠映画などでよく見る敵組織に向かうカチコミそのものであった。
発電所に棲むポケモン達は同じでんきタイプということもあってか、仲間意識というものに目覚めているようで比較的大人しい部類に入る。だが、いくら温厚的な関係を築けていても、それが侵入者が現れれば別の話だ。
「よそ者だ!」
「お前らここがどこだかわかって──」
──リザードンのかえんほうしゃ!
──ピカチュウのアイアンテール!
『ぎゃあああ!』
人もいない放棄された場所のためか、リザードンはサントアンヌ号で暴れられなかった鬱憤を晴らすかのように暴れまわっている。またピカチュウも同様で、同じピカチュウや進化先であるライチュウが多数いるため、自分が最強の個体だと示さんばかりに暴れている。
「こわ。おいらは今のうちに外に……」
「……」
──カビゴンは逃げ出した……残念。スピアーに先回りされてしまっている!
「ひぃいいい!」
『こっちにくるなぁああ!』
──カビゴンはスピアーに追いかけられながらポケモン達を吹き飛ばしている!
またヌシというよりはそのグループをまとめるリーダー的な存在はいるが、彼らはこの無人発電所に君臨するたった一匹のボスに逆らえずにいた。
そのボスが君臨しているフロアにレッドは偶然にもたどり着いてしまった。
「暴れまわっていたらまさかこんなすげえポケモンがいるとは……」
見た目はとりポケモンでオニドリルのようなクチバシ。さらに色は黄色で翼の先端は棘のように尖っている。そしてなによりも目の前のポケモンは、まるで電気の塊のようなポケモンだった。
「ギャーオ!」
レッドに気づき可愛くもない声をあげる謎のポケモン。自身も知らない初めて見るポケモンに驚きながらも、懐からポケモン図鑑を取り出して目の前のポケモンをスキャンする。これがレッドが生まれて初めてポケモン図鑑を使った瞬間であった。
「でんげきポケモン……サンダー?」
──でんげきポケモン。サンダー。かみなりぐものなかにいるといわれているでんせつのポケモン。
かみなりをじざいにあやつる。
でんせつ……伝説⁉
図鑑の音声ガイダンスから発せられた伝説という単語に、また驚いた。話は本やオーキド博士から聞いたことがあった。各地方にある伝承やおとぎ話に出てくるポケモンは確かに実在していると。そのポケモンを人は伝説や幻のポケモンと呼ぶのだと。
まさかその伝説のポケモンが目の前にいるとは。
「ギャーオ!」
「っ!」
──サンダーのでんげきは!
伝説のポケモンサンダーは突然現れた侵入者のレッドを睨みつけ、容赦のない攻撃を始めた。サンダーはでんげきはを繰り出すとレッドはそれを避けようとするが、その技は必中技のようで避けるレッドを追尾し、命中する。
「ギャギャギャ……ギャ?」
サンダーは笑った。これが弱い技なのは知っているが人間に当たればひとたまりもないと。だから笑った。これで死んだんだと。しかし相手は普通の人間ではない。
「伝説ポケモンって呼ばれるだけあって、電気の威力が桁違いだ」
ダメージがないわけではない。麻痺まではいかないまでも、体を動かすのに少し痺れる感覚が抜けきってはいない。それでも平気なのは先のマチスとの戦いを経て、電気に対する耐性があがったことが大きく、鍛錬でピカチュウの10万ボルトを定期的に受けているのもある。
「ギャーオ!」
サンダーは叫ぶと宙に飛び上がった。
よく見ればここは発電所の中央と呼べるような場所なのだろうか。このエリアだけは天井が空いて空が見える。このサンダーが壊して開けたのか、それとも自然に壊れたのかはわからない。だがいくらここが飛べるだけの空間があったとしても、サンダーのような大きな個体ではあまりそのスピードを生かすことはできない。
しかし、サンダーの目はそうではないらしい。
レッドを見下ろすようにサンダーはその大きな翼を広げて大技を繰り出す体勢に入った。
「空を飛べないからって対空手段はあるんだ、よっ!」
「ギャーオ!」
二人の攻撃は、ほぼ同時だった。
──レッドのイシツブテ投げ!
──サンダーのかみなり!
発電所の近くにたまたまいたイシツブテを護身用に持ってきていたレッドは、マサラにいた頃から鍛え上げていてた自慢の肩を久しぶりに披露した。
レッドによって投げられたイシツブテは、真っすぐサンダーに向かっていく。対してサンダーはかみなりを発動直後のためすぐには動けず、動けるようになった頃にはイシツブテが胴体──ちょうどお腹の部分に直撃して墜落した。そして同時にレッドもまたサンダーのかみなりの直撃を受けた。
かみなりの直撃。それは本来では即死であり、人間が耐えられるモノではない。だが、レッドは耐えて見せた。ただ生きているかわりに服は焦げているし髪の毛はアフロになっていたが。
一方、魔球イシツブテを食らったサンダーは、気絶したまま地上へ激突したまま気を失っていた。そのままレッドはサンダーの元に歩いていき、空のボールをサンダーに投げた。ボールはサンダーを捕らえると中央の開閉スイッチの部分が赤く点滅し──気絶していることもあってか、簡単に捕まえてしまった。
「けほっけほっ……サンダーゲットだぜ」
サンダーが入ったボールを掲げて言うレッドの顔は、どこかとても年相応に嬉しそうであった。
無人発電所はレッド組の襲撃により約1時間ほどで制圧されてしまった。制圧と言ってもこの住処を奪うというわけではなく、本当にただレベリングのために襲撃しているだけなのである(余計に質が悪いが)。ボロボロなのはサンダーと戦ったレッドだけで、他はカビゴンが逃げるたびにスピアーにお尻を刺されたぐらいなので本当に大したことはなかった。
レッドは全員揃うと、早速サンダーという大型新人の紹介をしていた。
「新しい仲間のサンダーくんです。みんな仲良くするように」
レッドが優しく言うがサンダーはそうではないらしく態度が悪かった。
「仲良くしてくださいって言えば仲良くしてやるよ」
けんか腰というか、伝説のポケモンだけあってプライドも伝説級に高いようだった。だが、それが通じるのは普通のポケモン達だ。
「……(一瞬にしてサンダーの喉に槍を突きつけるスピアー氏)」
「リザぁ?」
「ピカぁ?」
「なんだァ、てめぇ……」
「……ぎゃ、ぎゃーお……」
「お前も新入りのくせに調子に乗んな」
「あん!」
そう言ってレッドはカビゴンのお尻を蹴り飛ばし、僅か一瞬にしてパーティーのヒエラルキーが決まった瞬間であった。
「……サンダーはあの少年の手に渡ったか」
無人発電所の上空にロケット団の幹部であるナツメはいた。人は空を飛べない。しかし彼女はエスパーである。それも並外れた力を持っているため、こうして空に浮かぶことなど容易いことだった。
ここに来たのは捕獲予定の一匹であるサンダーがいるという情報を掴み、それを確かめるべくナツメ自らやってきた。幹部自らと思う者もいるだろうが、ロケット団の中では誰よりも現地に飛べる存在であるので、ある意味ではこれ以上とない適任でもあった。
だが、それも徒労に終わってしまったようだ。ナツメの任務はサンダーの確認および可能なら捕獲が任務だった。しかし、そのサンダーは下にいるあのマサラタウンのレッドによって捕まえられてしまった。
フム。と、ナツメは宙に浮かびながら足を組んで考える。あの少年からサンダーを奪い盗ることは簡単だ。あの少年に負けるはずがないという自信があるし、断言もできる。
けれどもあの少年は強い。トレーナーとしての能力は未知数であるが、自分と同様に人とは並外れた力を有しているからだ。ただトレーナーとしての能力は、彼のポケモンを見ればわかる。過程はどうであれ、あのポケモン達もまた強い。カビゴンはそうでもないがあの珍しい色をしたリザードンとスピアーが群を抜いて強く見える。
であるならば、いまサンダーを奪うのは得策ではない。むしろその時までサンダーを強く育ててもらう方が組織としては有り難い。
この判断は甘いのだろうか。いや、命拾いしたのはあの少年の方だろう。私はただ組織の利益になる選択をしただけなのだから。
──ナツメのテレポート。
決断したナツメの行動は早くテレポートでこの場からすぐに消えた。