生まれた時から腫れ物扱いされてきた。
兄弟あるいは家族のような関係だったはずなのにぼくだけはそうではなかったらしい。最初はどうしてかわからなかったけど、それはすぐにわかった。
体と尻尾の炎の色がぼくだけ違っていたからだった。
姿形は同じなのに色が違うだけ異物を見るような目でみんながぼくを見る。母と呼べる存在もいたけど、反応はみんなと同じだった。みんなは何をするにも一緒に行動していたけど、ぼくだけはそこに入れてもらえなかった。ご飯を自分で何とか見様見真似でなんとか食べていた。
こんな扱いなのに群れにいさしてくれたのは、たぶん同族だから。それだけの理由だと思う。でも、決別する日は早くに来た。
ついにぼくという異物が気持ち悪くなったのか、同じ個体の兄弟達がぼくを群れから追い出そうとしてきたんだ。
ぼくは抵抗した。色が違うだけで何も変わっていないって。それでもぼくの言葉は届かなかった。
結果から言えば、ぼくは群れから逃げ出した。代償として左目を引っ掻かれて見えなくなってしまったけど。
近くで小川が流れていて、ぼくは覗き込んで水面に写るぼくを見た。何も変わらない。何も違わないのに。なんでこうなるんだ。
考えた末にたどり着いたのは、自分が弱いからだということになった。弱いから腫れ物扱いにされる。弱いから苛められる。
そうだ、弱いからいけないんだ。強くなろう。そう決意しぼくは一人で生きていくことを決め──気づけばオレになっていた。
背も伸びて手と足の爪も鋭くなった。以前よりも明らかに強くなったと実感できる。ここら一帯の同胞は弱い。もっと強くなるためには、自分より強いヤツと戦わなくてはならない。それにもう少しなんだ。もう少しで、あの姿になれるんだ。今より大きく、大きな翼を持つことできる。
そうと決めたら移動しよう。とりあえず街の方角を……なんだ、地面が揺れているような?
──レッドのいわくだき! なんとか外にたどり着いた!
「ぜぇぜぇ……さ、酸素だぁああああ! ひゃあああうめぇえええ! どうだ見たかあの野郎、俺は生き残ったぞこんちくしょうめ! 今度あったら確実に叩きのめして……ん?」
「……」
突如壁が吹き飛んだと思ったら人間が現れた。すると人間が現れた穴から虫と小さいのと大きいのが出てきた。
「い、生きてる……神に感謝」
「……」
「人間ってすごいドン」
「ピカチュウは俺に感謝しろって。ところで、お前は……リザードだよな? にしては色が違うが……」
その言葉はオレにとって一番キライな言葉だ。だからだろう。オレは咄嗟に人間に向けて飛び掛かっていた。
──リザードのきりさく!
──レッドのカウンター! リザードは高く蹴り飛ばされてしまった。
「ふん! あ、やべ。つい反射的にやっちまった」
生まれて初めて空を飛んだことに感動しながら、オレは負けたことすら気づかないまま意識を失った。
「……!」
「あ、起きた」
咄嗟に反撃して気を失ってしまったリザードの手当をして起きるのを待っていると、突然目を覚ましたと思えば急に距離を取って威嚇をはじめる。
無理もない。そう思ったが通常の個体とは色が違うし、何より左目の傷が気になる。
スピアーに確認してもらったが、どうやらここはオツキミ山からハナダシティへ向かう正規のルートから少し離れた場所らしい。勘で瓦礫を掘っていたけど、それを聞いて自分を信じることの大切さを知った。
「Guuuu!」
「お前も、一人ぼっちなんだな」
同情、ではないと言いきれないけどこのリザードは自分と同じなんだとレッドは感じた。ここはオツキミ山でヒトカゲが生息しているなんて話は聞いたことがない。何よりこの色だ。体は青が混じった黒色で、尻尾は赤い炎ではなく蒼い炎をしている。
昔、博士に教えてもらったことがある。ごく稀に色違いと呼ばれる個体が生まれることがあると。多分このリザードはそうなのであろう。最初は他の群れと一緒にいたが、自分達と違うことにひと悶着あって、こうして一人で行動していたのだと思う。
だけど、リザードはレッドの言葉など信じられないと言わんばかりに吼えた。
「オマエに何がわかる! 色が違うだけで疎まれ白い目で見られるオレの気持ちが!」
「わかるよ。俺だって最初は家族がいたよ。でも、事故で死んでさ、親戚や近所の人たちも俺を腫れ物扱いにしたよ。お前もさ、自分がこうなったのは弱いからだって思ったんだろ? 強ければこんな目に遭わなかったって。だから俺も強くなるために必死だったよ」
「……」
「でもさ、旅に出てこうして仲間ができた。まあ家族みたいなもんだ。だからさ、お前も俺と一緒に来ないか? 俺と一緒に強くなって……いずれはリザードンになって見返してやろう。最強のリザードンになってさ」
「……オマエと行けば、強くなれるのか?」
「なる」
短く力強いその言葉には不思議と説得力があった。現にリザードは目の前の人間が普通ではないことは身をもって知っている。 アレは人が出せる力ではない。しかし目の前にコレは確かに人間である。人の身でそれだけの力を持ちさらに求めようとしている。
だからリザードはレッドが差し伸べた手を掴む以外の選択肢などなかった。
レッドも目の前のリザードは普通ではないことを肌で感じ取っていた。色が違うからではない。個としてのポテンシャルが明らかに違う。それこそスピアーのようなヌシと呼ばれるような個体だったかもしれない。
けど、こいつはそんなもので納まるようなヤツじゃない。何よりも俺と同じで強さを追い求めている。いいパートナーになれる。そんな気がするのだ。
「俺の名前はレッドだ。よろしくリザード」
「よろしく頼む」
「ところで」
「なんだ」
いきなり真面目な顔つきになるレッドにリザードは首を傾げた。
「どこかに木の実とか食えるもんない? 途中でバッグ落としちゃってさ」
新しく仲間になったリザードを祝うかのようにレッドの腹の虫が大きな音で祝福するのであった。