おい、バトルしろよR   作:ししゃも丸

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ニビシティと博物館

 

 

 

「ふぅ。ようやくニビシティだ」

「……」

「ピカッ」

 

トキワの森を抜けて2番道路を超えた先にニビシティがあり、レッド達はやっと森を抜けてここにたどり着いたのである。そんな彼らの姿はあまり綺麗とは言えない。レッドの服はあちこち汚れが目立つし、ピカチュウの毛も荒れているし、スピアーは所々汚れているのはわかるが、先の二人と比べれば綺麗に見える。

 

彼らのトキワの森での生活はキャンプというよりはサバイバルに近いものだろう。一つの場所に留まらないので、日が暮れるとそこをキャンプ地にしていたのだから。なので火は起こせてもテントや寝袋などは邪魔になると理由でレッドは持ち運んでいないので、当然地べたで寝ることになった。なのでそんな生活をしていれば汚れるのは当たり前なのである。

 

「まずはポケモンセンターいくか」

 

トキワの森では風呂に入ることは当然叶うものではない。一応レッドもそこまで野生児ではなく、毎日近くを流れていた川で体を拭いてはいた。やはり風呂が恋しかったのか、予定より早くにトキワの森での鍛錬を切り上げてニビシティへとやってきたのだ。

 

ポケモンセンターへの案内板を見つけてそれに従って街の中を歩いていく。ニビシティはそこまで多くの人で賑わっているような街ではないが、近くにおつきみ山という名物のようなものがあるため、登山を目的とした者や、多くのトレーナーがまずはニビシティへと立ち寄ることが多い。そんな人達のためにニビシティではキャンプ用品やらサバイバル道具を豊富に扱っている店が多く見受けられる。

 

「さすがに寝袋ぐらい買うべきだろうか」

 

レッドは歩みを止めずSALE中と張り出されている多くの商品を眺めながら呟いた。別になくてもいいのだが、さすがに毎回地べたの上は体に辛いものがあったからだろう。しかしあまり荷物を持つと色々と邪魔なのも確かなので、結局見るだけで満足してしまう。

 

もっとこう、ベッドになりそうなポケモンでもいないだろうか。レッドはそんな都合のいいことを思いながら歩みを進めていく。だが、一向にポケモンセンターらしき建物は目に入ってこない。

 

あるのはボロボロに崩れた建物を多くのゴーリキー達と重機でせっせと撤去している光景だけだった。

 

いや、まさか──そんなことを思っていると、後ろから聞き覚えるのある声が聞こえた。

 

「あー! レッドってばやっと来たんだから!」

 

声の方を振り向けば見知った顔であるリーフとあの日の夜に出会った男、リーフの兄でもあるグリーンであった。

 

「リーフ……それと、グリーンだっけ?」

「まさかあの日に会ったのがお前がレッドだったとはな。本当に噂通りの男だな」

「あれ? 二人ってこれが初対面じゃないの?」

「ちょっとな」

 

グリーンは適当に言ってリーフをあしらっていた。グリーンからすればあの日の夜ことはたいした話ではない。謎のポケモンと少し戦っただけで、レッドのような大惨事な目には逢っていない。

 

「噂通りってなんだよ」

「知らないほうがいい」

 

そうなると一層聞きたくなるのだがそこは我慢をした。それ以上に先に旅に出た二人がなぜまだニビシティにいるのか気になっていたのでそれをレッドは聞いた。

 

「ジムバッジを手に入れたから自慢しようとわざわざ待っていてあげたのよ」

「ウソだぞ。本当は姉さんからポケモンセンターで連絡をもらってお前が旅に出たと聞いたから、こっちの予定を変えてまで待っていただけだ」

「ちょっとグリーン⁉」

「へぇ。ありがとうなリーフ」

「そ、そう? ま、まあ幼馴染だからと、当然でしょ」

 

そっぽ向いて照れている顔を隠そうとするリーフを見て、隣にいたグリーンは付き合いきれないといったような顔をしながらため息をつく。

 

「でも、今度から待たなくていいぞ。あと一々自慢しそうだからとっとと先に行ってくれ」

「はぁ⁉ なによ人が心配して待っていてあげたのにっ。レッドなんてイシツブテに躓いて頭でも打てばいいのよ!」

 

罵声を浴びせながらずかずかと去っていくリーフを見る残された二人。

 

相変わらず怒りやすいやつだと思いながらレッドはリーフの背中を見送っていると、グリーンが何かを察しながら言った。

 

「色々と苦労しそうだな」

「なにが?」

「こっちの話だ」

 

表情が読めないのでグリーンが何を思っているのかはわからない。こんな奴でも笑うのかと思いながらグリーンに尋ねた。

 

「ところでさ。ポケモンセンターってどこにあんの。全然見当たらないんだが」

「ん?ああ、それならアレだ」

 

グリーンが指を刺した方向に目を向ければ、それは先程まで見ていた瓦礫の山だった。

 

「もしかして、あれポケモンセンター?」

「元ポケモンセンターだ。しかしお前も運がない。俺達がジムに挑んでいる最中にああなったらしい。理由はガス爆発らしいんだが……まあ、俺達には関係のない話だ」

 

ガス爆発であそこまで粉々になるのだろうか。レッドは観察するようにポケモンセンターだったものを見るが、素人の自分にはよくわからない。だがわかるとすれば、直感だけどガス爆発には見えない、ということだった。

 

「俺からもいいか」

「え、なに」

「そいつらはお前のポケモンか?」

 

足元にいるピカチュウとスピアーを見下ろしながらグリーンが言う。

 

「そうだけど」

 

レッドは首をかしげながら答えた。

 

「ならなんでボール入れておかない。一匹ならまだわからなくもないが」

「……ああ!」

「おい、まさか……」

 

グリーンに言われてレッドはようやくピカチュウ達をゲットしていないことに気づいた。いや、すでにゲットしているようなものだが、世間一般でいうモンスターボールで捕まえるということをしていないのである。

 

「……」

「ピカァ……」

 

やっと気づいたと言わばかりに二匹は呆れた顔をした。あのスピアーでさえもだ。レッドはそんな二匹の顔など見向きもせずにモンスターボールを投げ──当然二匹は捕まった。

 

「よし」

「よし、じゃないだろ。はぁ……姉さんから聞いていた以上にヘンな男だな、お前は」

「よく言われるから気にしてない」

「気にしろ……いや、そんなこと言ってやる義理もないか。じゃあなレッド。俺は先に行く」

「おう。ありがとうな」

 

レッドの感謝の言葉にグリーンは特に返すこともなくその場を去っていく。グリーンを見送りながら残されたレッドはこれからどうすべきかと考えた。

 

本当だったらポケモンセンターで休んでからジム戦に挑もうとしていた。しかしこれがこんな有様ではそうすることもできない。街には当然ホテルがある。それでもポケモンセンターを利用するのは、ポケモンセンターはトレーナーにはほぼ無料で設備を提供しているからだ。トレーナーカードを持っているトレーナーは、全国にあるポケモンセンターを無料利用することができる。レッドはトレーナーカードを持っていないのだが、オーキド博士曰くポケモン図鑑にそのデータがあるとかで問題がなかった。

 

金ならある。けど、こんな恰好の自分をホテル側が受け入れてくれるかも怪しい。また野宿か、それとも今からジム戦に挑んでおつきみ山に向かうか悩んでいると、二人の女性が向こうから周りも気にせず大きな声で近づいてきた。

 

「にしてもあれ微妙だったよねー。期間限定公開って言うから見に行ったけどさぁ」

「ねー。まあでも、あんなんでも歴史的価値があるわけでしょ? 世の中わかんないよ」

「まだポケモンの化石見た方が面白かったしね」

「うんうん」

 

話の内容が気になったかすでにレッドの足は動いていた。話から察するにおそらくここニビシティにある化石博物館だということは薄々予想がつく。

化石博物館はポケモンセンターがあった場所から10分もしないところにあって、近くに行けば行くほど人の出入りが多くなっているのがわかる。看板もあちらこちらにあって、レッドは近くにあった看板を覗き込んだ。

 

「えーと、はじまりの男期間限定公開? なんだそれ」

 

○○地方からついにカントーにもやってきた。期間限定公開、この機会に是非──等々色々と人の好奇心を煽るような描き方している。

でも、確かに気になるなとレッドは博物館へ向かう。来場者は子供から老人まで幅広く、時間もピークを過ぎているのかそこまで混雑はしてなかった。

 

「……500円になります」

「なんだ。タダじゃないのか」

 

目の前に受付がいるのにも臆せずレッドは正直に口に出した。対して相手はレッドの姿を見てあまりいい反応ではなかった。それは周囲にいた人間も同じで、彼に向けて冷たい視線を向けているが、殺気もないただの視線なので一向に気にしていなかった。

 

中へ入ると中央にそれが展示されていた。それは石像だった。人の形をしているが、ただそれだけであまり特徴的なところはない。よく目を凝らしてみるとよく人を模して彫ってあるように見えるそ、どこか現代的な服装を身に着けているようにも見えなくはない。大きさは成人男性より少し大きいぐらいだ。恐らくそれを発掘した際に足元と背中の部分を大きく採掘して、ある程度形にしたのが今の状態なのだと思う。

 

前を歩く人達と一緒に歩いていると、特別展示エリア内ではアナウンスが繰り返し流れていた。

 

『ーーこの人の形をした石像は古代に当時の職人よって彫られたのが今までの見解でしたが、一部の研究者の発表では自然にできたあるいはポケモンによって彫られたのではないかという発表もあります。この〈はじまりの男)の石像は、発見された当時は人の形をした石像だと言われあまり見向きもされていませんでいたが、各地に残る伝承や壁画に写っている人物と類似点があるという研究発表がされてから注目を浴びました。〈はじまりの男)は今の我々の言葉でいう最初のトレーナーであり、この世界で初めてポケモンを従えて各地の争いや天災から人々を護ったといわれており──』

 

アナウンスの話はあまり耳に入ってはいないが、レッドはただこの石像をジッと見つめていた。

つい先程までトキワの森で過ごしていたからか、この石像から不思議なパワーを感じる。俗にいうパワーストーンみたいなものだろうか。これはただの石像ではないと断言できる。何故かはわからないが、これもまた直感であった。

 

「まあでも、こんなのがあちこち行って展示されるなんて俺にはよくわからないや」

 

話を聞く限り歴史的価値はあるのだろう。けれど、芸術品だとかそういうのに疎いから、何がそこまでこれに惹きつけられるのかレッドにはよくわからないでいた。

 

「……ん?」

 

胸ポケットから妙な振動が伝わってくる。どうやら胸ポケットに入れていたポケモン図鑑が何かをしでかしているらしい。

そもそもオーキド博士から貰ってからあまり博士が言った機能を試していなかった。使った機能と言えば自分がいまどこにいるぐらいで、それ以外はずっとしまったままだった。

 

図鑑を開いてもバイブレーションは収まらずにいて、壊れたのか画面にノイズが走っている。よくわからないまま操作をしていくと手持ちポケモンの名前が表示される。

 

「なんだこれ。ピカチュウにスピアーだけなのに変だな。壊れたのかなこれ」

 

ピカチュウとスピアーは先程捕まえたから表示されたのだと思う。横にはレベルと思わしき数字が並んでいて、そのスピアーの下に名前のような文字化けしたのが画面下まで表示されていた。レッドは適当に図鑑を操作していくが一向に直る気配ない。

 

「あ、直った」

 

ちょうど特別展示室を出てから少し歩いてからだろうか。急に画面が正常だと思われる状態に戻ったのだ。色々動かしてみても手持ちポケモンは二匹のままで変わらないし文字化けもしてない。原因もわからずただ首をかしげるだけ。

 

「……とりあえずジム戦にでも行くか」

 

考えても仕方がないと言わんばかりにレッドは他の展示品に見向きもせずに博物館を後にした。

 

 

 

 

その後。レッドはニビシティのジムリーダーであるタケシと戦うことに。彼は一目でレッドの実力を見抜いたのか、普段ならイシツブテを使うところをゴローンを使ってきた。

 

これにはレッドもウキウキだったが戦うのはポケモン達で、レッドは生まれて初めてのポケモンバトルをすることになった。ただゴローンは普段から組み手をしていたポケモンだったということもあり、苦戦するほど苦戦はしなかった。

 

タケシからすれば指示は素人だしゴローン相手にスピアーなどどうかしていると思われるが、その指示の内容は的確でスピアーの急所を見抜くという能力もあって難なく突破した。最後のイワークに関しても鍛えあげた自慢の尻尾で突破。

 

見事ニビジムを攻略したのである。

 

その帰り道。ポケモン達を外に出しながらニビジムを後にするレッドは、タケシと戦う前に戦った門下生とのバトルを思い出していた。

 

「……イシツブテって投げないんだ」

 

それは、生まれて初めての衝撃であった。

 


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