トキワの森。ここはカントー最大の森林地帯であり、種類は少ないが数多くのポケモンが生息している場所でもある。特にむしポケモンが多く、大勢のむし専門のトレーナーにとっては聖地とも言われているとか。
そんなトキワの森は、地図で見ればトキワシティからニビシティの間にあるのだが、現地に足を運ぶとかなり広大でありニビシティまでの道のりはとても長い。長いと言ってもそれはトレーナー達に限った話であり、時代と共に交通機関の発達によりトキワシティとニビシティをつなぐ道路が繋がっている。
ただトキワの森の範囲のみ車が通りやすく整地されているだけで、一切コンクリートによる舗装はされていない。これは自然保護およびそこに住むポケモン達の生態系を崩さないために配慮されているのである。
では、一般ではないトレーナー達の方はどうかと言えば、まさに自然そのままである。と言っても昔ながらに残っているニビシティへ続く道筋は残っており、多くのトレーナー達はそこを通っていく。だからと言ってポケモン達が襲ってこないとも限らないし、またトレーナーによるバトル及び犯罪も少なくはない。
なにせこんな場所である。警察などいるわけはないし、トレーナーと言えどそんな大勢の人間がいるわけでもない。なので言ってしまえばやりたい放題なのである。
それは当然ポケモン側にもいえる。
トキワの森は広く、そのエリアにはヌシと呼ばれるポケモンがいる。群れを組んでいるポケモンもいれば、たった一匹で自分の縄張りを支配しているポケモンもいる。
「……」
そのヌシの中に一匹のスピアーがいる。
どくばちポケモン──それがスピアーに分類された名前だ。特徴的なの両手に持つ大きな槍である。名は体を表すとはまさにスピアーらしいともいえる。
このスピアーはトキワの森全体を見てもかなり上位に君臨する個体で、ここのエリアを支配しているヌシであった。彼の敵は同類であるポケモンはもちろん侵入者である人間も対象である。トキワの森に生息するポケモンは主にむしポケモンが多く生息数も多いが、むしポケモンということもあって難易度が低いエリアである。
だが、そんな中でも稀に並外れた能力を持ったポケモンが生まれる。その内の一匹がこのスピアーだ。彼の戦法は実にシンプル。敵を見つけたら、死角から一気に自慢の槍を食らわせること。一撃離脱にしてその一撃は必殺。それを可能としているのが彼にはその獲物の急所がわかるからである。例えるならその急所が光って見えるみたいなものだろうか。この能力があるからこそ、今日までここの支配者として君臨してきたのである。
「……!」
そして今日もまた彼の獲物がやってきた。森の中を軽々と進んでいく一人の人間だ。背は低い。子供というやつだろうか。
スピアーの獲物は子供だろうと容赦はない。自分が支配するこの場所を通ったのが運の尽き。慈悲など一切彼は与えない。
さて、どこを貫いてやろうか。スピアーは自慢の槍を構えて考える。
人間というのは急所が多い。ポケモンと違っていっぱい光って見えるからだ。足を刺せば歩けなくなってしまうし、足じゃなくても体のどこかを刺せばそれだけ倒れる。なんと弱い生き物だろうか。
「……?」
しかし、今度の人間はヘンだった。妙に体の周りが歪んで見えるのだ。それでも急所はちゃんと見えるから余計におかしい。
スピアーはとりあえずあの人間は少し違うのだと判断した。だが、だからと言って止める訳にはいかない。
油断はしない。一番の急所である胸を突き刺してやる。確実にあの獲物を屠る。
「……!」
羽を羽ばたかせ一気にスピアーは宙を蹴って人間の死角から一気に距離を詰めた。この一撃はかつてない完璧なものだと彼にはすぐにわかった。右手に力を入れ、人間の胸目がめて突き刺す。
たったこれだけでいい。それだけで相手は倒れる。
「⁉」
視界は反転し木々の隙間から漏れる光が目に映る。
「中々やるねぇ。でも、相手が悪かったな」
──倒れていたのは自分の方だったと気づくのは、殺そうとした相手の顔が自分の目に映った時だった。
トキワシティを超えてトキワの森に入ってから数日が経った。ここはマサラにある森と違い少しだけレベルが高いことをレッドはすぐに肌で感じ取っていた。と言っても彼基準の少し、なのであまり誤差がないと言えるかもしれない。
だが、圧倒的に違うのはトキワの森に住むポケモンは容赦なく襲い掛かってくることだった。これにはレッドも大喜びで、襲い掛かってくるポケモンをぶっ倒したりイシツブテを投げ飛ばしたりと一人楽しんでいた。
またトレーナーも稀にいるが。
「目と目があったらポケモンバトルだ!」
と、別に間違ってはいないトレーナーあるあるを実践。繰り出したポケモンをワンパンチで吹き飛ばしてそのままトレーナーにダイレクトアタック。当然トレーナーも吹き飛んだ。レッドは倒れているトレーナーの前まで歩くと、健闘を称える拍手でもするかと思えば。
「うっし。俺の勝ちだな。おい、金よこせ」
「ふぉんなのはんぞぐだぁ!!」
「えー?」
おそらくこのトレーナーがいなければ、レッドはこの先ずっとポケモンを倒したあとにトレーナーも倒していたに違いない。彼の迫真の説明というなの常識をレッドに教授。マサラタウンでも普段からこの流れだったので都会の常識にレッドはとても驚き、自分に一般常識を教えてくれた彼に感謝はしつつも。
「でも俺の勝ちだからさ、お金ちょうだい。ほら、ジャンプしろよ。持ってんだろ?」
「あ、あくまだ……」
バトルの報酬というなのかつあげがいとも簡単に行われたが、一応この先レッドはトレーナーにダイレクトアタックすることは一応
ポケモンを倒しつつ、稀にいるトレーナーも倒してトキワの森の森を進んでいくと稀に強いポケモンが襲い掛かってきた。
それがいわゆるそのポケモンの縄張りで、ボスポケモンみたいなものだとレッドはすぐに気づいた。これはいい練習になると言わんばかりに、レッドは強そうなポケモンがいそうな気配の方へとあっちへ行ったりこちらへ行ったりと繰り返し、その中でとても骨があるポケモンが足元にいるピカチュウと先程容赦なく心臓を突き刺そうとしたスピアーであった。
「しかしだ。お前といいこのスピアーも容赦ねぇな。心臓狙ってたもん。な、ピカチュウ」
「ピカピィ……」
なんでお前は死角からの攻撃をいとも簡単に迎撃するんだ、とレッドの足元にいるピカチュウは彼を見上げながら呆れた声を出した。
「……」
「ピカ? (大丈夫か)」
敗者はただ勝者に従うかのように、スピアーはただ無言で──スピアーは声を出さない──その場に立っていた。そんな彼にピカチュウは声をかけた。スピアーはピカチュウから同郷のポケモンだと察したのか、素直にピカチュウに尋ねた。
「……(お前もこいつにやられたのか?)」
「ピカピカ(気絶させて食べ物盗ろうとしたらさ、尻尾をつかまれた)」
「……(それだけか)」
「ピカチュ(いや、好都合と思って電気ながしたんだけど、ちょっと痺れたとか言って効かないから諦めた)」
「……(こいつ人間か?)」
「ピカピィ……(おれが知りたい)」
『……はぁ』
二匹はレッドを見えて深く重いため息ついた。
「お、早速意気投合してるな。仲良くなってうれしいぞ」
『……はぁ~』
誤解しているレッドはそれを見て嬉しそうに言うと、二匹はまたため息をつくのである。
「にしても幸先いいな。もう二匹のポケモンをゲットだ」
「……」
「ピカぁ」
おれ捕まえられたのかとスピアーはピカチュウに尋ねると、深く考えるとなと言わんばかりにピカチュウは頭を横に振った。
するとレッドはふと何か気になったのかじっと二匹を見た。唸りながら何かを考えていると、今度は何か閃めいたのかポンと手を叩く。
「お前達も中々やるけど、まだまだツメが甘いな」
『……?』
「ピカチュウは首を落とすならこう……シュッとしなきゃだめだぞ。スピアーはこう……ズバッって感じだな」
『??』
擬音を交えて説明するレッドだが二匹にはまるで通じていなかった。唯一わかることと言えば、腕を振った時に人が出すことのない音が鳴ったことぐいらいだ。
中々自分の伝えたいことが伝わらないことに頭を抱えたレッドは、これまた近くにあった巨大な岩と大木を見つけて早速実演して見せた。
「ふぅ……シッ! ハッ!」
まずは右手を手刀のような形にして、横に腕を振った。ゴリゴリと言ったような削れるような音がしつつも、巨大な岩は見事横に斬れた。続いて左手を槍のように見立て、そのまま大木に向けて腕を突き刺すと、先程と似たような鈍い音を立てつつも大木に穴があいた。
それをみたピカチュウ達は口を大きく開けて──まあスピアーに口はないのだが──とても驚いていた。
常人離れした技を披露して見せたレッドであるが、その当人は意外なことに少し不満気である。
「ん~俺もまだまだなぁ。まだまだ荒いや。やっぱりもっと鍛錬しないとな! というわけでお前達も鍛錬を積めばこれぐらいできるようになるから頑張ろうな!」
『……』
ピカチュウとスピアーは互いに顔を見合わせる。とんでもない人間に捕まってしまったかもしれない。それに気づくのにはあまりにも遅すぎたことにも。
「……む。なんかあっちに強そうなヤツがいそうな気配がする。えーと、おっ、この丸太すげーいい丸太だ。よし、お前らいくぞぉ!」
「……」
「ぴ、ぴかぁ」
レッドは近くにあったいい丸太を片手で掴み、ピカチュウ達に背を向けながら叫び森の奥へと走り出す。それに対してピカチュウ達はモンスターボールで捕まえられていないのだから、その場から逃げ去ればいいのに逃げもせず、ピカチュウは弱気な声をあげながら小さな手を弱弱しく振り上げ、スピアーはとりあえずレッドの後を追うために飛び出した。
こうして旅に出てから早速二匹のポケモンを捕まえた(と思っている)レッドは、強くなるために仲間達と共にトキワの森を荒らしまくるのであった。