おい、バトルしろよ   作:ししゃも丸

76 / 83
大方の目途がついたので、更新再開だで。


いますぐお前を殺してレッドに問い詰めてやるぅ!!!

 

 

(……レッド?)

 

 ある大陸の森林地帯でミュウツーは懐かしい人間の気配を感じ、森の向こうに広がる空を見上げた。

 レッドらしき気配はすでにこちらの存在を捉えているのか、まっすぐ一直線にこちらへと近づいている。

 だが、その気配に少し違和感を感じていた。

 言葉にするならばそれは……混じっている、だろうか。

 それは本来ポケモンから感じ取れる特有の気配のはずなのに、どういう訳か友である彼の気配を感じている。

 これはポケモンのはずなのに、どちからといえばレッドという面が強いようにも感じる。

 疑問は残る。けれど、それからは敵意は感じない。そうミュウツーは判断したのか、あえて構えもせずただそれを待った。

 時間にしてたった数分で、それは見えた。森の上をかなりのスピードで飛行している。

 この二年間、世界を回って多くの同胞たちと出会った。だからこそ、ミュウツーには目の前のポケモンが、自分が知らないポケモンだと即座に分かった。

 そのポケモンは猛スピードで飛行しているにもかかわらず、ミュウツーの1メートル手前ほどに急停止してみせた。

 

(……ポケモンだ。だというのになぜレッドだと思ったのだ、ワタシは)

 

 目の前のポケモンは自分以上に人型の姿をしていた。胸に宝石のようなモノが埋め込まれて、体の色は赤に近い色と水色のような色が体のラインにはしっている。

 口はない。だが目はある。

 だからなのか、間違いなく彼は自分と同じエスパーだとミュウツーは判断した。

 その直後、直接テレパシーが届いた。

 

『オマエは……ミュウツー……ダナ?』

『そうだ。なぜわかった』

『レッドが、おしえてクレタ』

『レッド? レッドに会ったのか?』

 

 尋ねれば彼は首を横に振って否定した。

 

『オレはレッド。だから……ワカル』

『それは……どういう意味なのだ?』

『ワカらナい。レッドは……戦う……コトシカ、おしえてクレナイ。ミュウツーのけはい……ミツケタから、オマエなら……レッドがいるトコロ、ワカルとオモッタ』

 

 訳が分からない。他のポケモンと比べれば知能は高いと自負するが、こればかりは理解できない。

 オレがレッド……という言葉は、ある意味自分がレッドの気配を感じた答え、だというのはまあ納得はできた。

 問題はなぜレッドが彼の中……にいるのかということと、なんでレッドを探しているということである。

 ミュウツーはまず彼の質問に答えた。

 

『悪いがワタシもレッドの居場所は知らないんだ』

『そう……カ』

 

 表情から察するに、彼はとても落ち込んでいた。

 まるで人間のようだ。

 そう、彼はとても落胆している。まさに自分なら答えを知っているのだと、そう期待していたと言わんばかりに。

 非があるわけではないが不思議と小さな罪悪感を感じてしまう。

 

『ン……申しわけない。だが、ワタシからも聞きたい。お前の名前はなんという?』

『オレ……?』

 

 彼は首……体を捻ってみせた。

 

『わからないのか?』

『シラナイ。デモ、あいつラは、コタイ・イチっていってイタ』

 

 それは何かの数字だということはわかった。

 だが、それ以上にミュウツーはある一つの仮説にたどり着いた。

 自分が見たことがないポケモン。それはつまり、自分と同じように人間によって作られた存在なのではないか? 

 となれば、そのようなことをする組織というのは、己の中では一つしか存在しない。ゆえに、久しく忘れていた憎悪と怒りが込み上げてくる。

 

『悪いがすこし頭の中をのぞかせてもらう』

『わかっタ』

 

 彼の頭に手をのせて、意識を集中して彼の記憶へと潜る。

 これはテレパシーの応用みたいなもので、サイコダイブと勝手に名付けている。ともに戦ったイエローが使う力のようなもので、滅多に使わないこの技を使うたびにあの少女のことを思い出す。

 ──みえた。

 目の前に映る光景は、どこか馴染みのあるものだった。

 そこはまるで自分が生まれた場所……培養カプセルのようなところに、彼はいた。その場所には誰かしら白衣を着た人間、恐らく研究員が絶え間なく部屋を行き来したり、監視をしていた。

 その中でも一人、ミュウツーが覚えている人間がいた。名前も知らない、どんな人間なのかも定かではないが、やけに自己主張しているかのように感じるメガネをかけた人間。

 そいつが言った。

 ──〇日目の個体・壱、個体・弐を終了。共に変化なし。

 どうやら個体・弐と呼ばれる同じ存在がいるようだった。

 個体・弐はどうしたのかと彼に訊けば、

 

『シラナイ。オレはオレ。アイツとはチガう』

 

 個体・壱と呼ばれる彼は、とても個が強いらしい。ミュウツーからすれば、兄弟あるいは同胞とも呼べる存在が傍にいるのは、羨ましいと自身の境遇と比較すればそう思えてしまう。

 記憶を遡っていく内にメガネをかけた研究員がある男とパソコン越しに会話しているのが見えた。

 ──では、個体によって能力が違うということか? 

 

(サカキ……!)

 

 忘れるはずがない。パソコン越しでしか見えないが、その声とあの黒いスーツは間違いなくヤツだ。

 やはりロケット団が絡んでいた。

 だが、どうやって彼はそこから出たのか。

 それはすぐにわかった。同時に彼からなぜレッドを感じるのかも。

 血だ。

 レッドの血が彼の体には流れている。

 だから彼は自分をレッドというのだ。

 レッドの血がある意味彼を変えてしまった。今まで何もなかった彼に、何かを与えたのだ。レッドを知る者からすれば、彼は相変わらずだ、と思わず口角があがる。

 いや、レッドが直接したわけではないのだが、それでもレッドに関わるといい意味で大きな変化を及ぼすのだと改めて痛感した。

 しかし、分からないことが一つあった。

 

『なぜお前はレッドを探す』

『レッドなら、オシエテくれルカラ』

『なにを?』

『オレが存在する意味を』

 

 今までと違いとてもハッキリと言葉にしたものだった。そこに彼の力を感じた。この言葉はまさに自分の意志で言っているかのように。

 続けて彼は言った。

 

『ミュウツー、オマエはカンガエタこと、ナイのカ?』

『あった。その答えは、もう出ている』

『ソレは?』

『ワタシには友がいる。レッドにイエロー……それにカツラ──兄弟ともいえる者もいる。その者達と出会うため、時には巨大な敵と戦うためにワタシは生まれたのだと。そして、新しい目的もできた』

『モクテキ?』

『ロケット団……過去とのケジメ、というやつだ。それに、個体・弐と呼ばれるお前の兄弟を救うことだ』

『ナンで?』

 

 その問いは予想していないわけではなかったが実際に言われると、彼の中で個体・弐への関心はほぼないらしい。

 そう感じるのは自分だからであって、問題の個体・弐が目の前の個体・壱である彼のことをどのように認識しているのかわからないため、これ以上追及するのは得策ではないだろう、とミュウツーは判断しながら答えた。

 

『ワタシがそうしたいからだ。お前がレッドを探す様に』

『……よく、ワカラナイ。コレモ、レッドにアエバ、ワカる?』

『ワタシもレッドと拳を交え、答えを見出した。だから、きっとお前の望むものが手に入るかもしれない』

『──アリガトウ』

 

 人間のように頭を下げて彼は言った。

 その後、レッドを探すために飛びたった彼を見送ったミュウツーもまた、生まれ故郷でもあり因縁の地であるカントー地方を目指した。

 

 

 

 

 

 戦いは順調だった。

 ナツメがバリアを張って、ミュウツーの力で行く手を阻むアンノーンたちを蹴散らして、リーフ達はトレーナータワーへと侵入した。

 人質となっていたオーキドやブルーの両親も救出に成功し、あとはロケット団のボスであるサカキを倒すだけ──そう……思っていた。

 建物の三階ほどの高さがあるフロアに出た。

 そこはまるで闘技場のような感じだとリーフは想像した。コンクリートではなく、明らかにポケモンバトルに耐えられそうな強固な壁は、まさに自分達を招き入れるためのものだと思うぐらいには。

 高さで言うと二階ぐらいの場所に一枚のガラスが張られていた。闘技場なら特別観覧席というやつだろう。そこにサカキはいた。

 黒いスーツ。胸に赤いRと縫われたマーク。

 あれがサカキ、ロケット団のボス。

 サカキは見下ろしながら真っ直ぐリーフ達を見て、一度だけニヤリと笑って見せた。

 ナツメとミュウツーを除いた全員が彼の出で立ちを見て、思わず息をのんだ。

 強い。

 トレーナーとしての直感が、そう囁いていた。

 そして、彼の隣にはデオキシスがサカキと同じようにリーフに視線を注いでいた。

 

「よく来た図鑑所有者たち。そして、久しぶりだなあ……ミュウツー」

『サカキ……!』

「ほう」

 

 サカキの反応は、恐らくミュウツーのテレパシーを受け取ったものだろう。いまの言葉も自分にだけは聞こえていたから、そう予想できた。

 

「どうしてお前がここに来たのかはあえて聞かん。別にこれといって、興味もない」

『ワタシはそうでもない。特にデオキシス──個体・弐と呼ばれた彼に興味がある』

 

 大人し気にいうが、その言葉にどこか怒りが混じっているとリーフは感じた。その怒りが一体どこからきているのかは、さすがに難しくてわからない。

 しかしだ。気になる言葉出てきた。

 

「個体二? ……ってことは、一もいるってことよね……?」

 

 ブルーが代わりに言ってくれたが、ミュウツーとサカキはわたしたちを無視して話を続けていた。

 

「くくく。なんだ、もしかして会ったのか? アレのことだ。死んではいないとは思ったが……いやはや、まさかお前と出会っているとは。あいつは元気だったか?」

『白々しいことを! 平気でポケモンを道具のように使うお前がそんな心配をするわけがない!』

「心外だな。いや、たしかに昔の私ならそうしていたさ』

『いまは違うとでも言いたいのか!』

「違う、というよりは思い知らされたからな。かつて、最後の一歩までレッドを追い詰めた私の前に、ボールに入ったままのピカチュウが自らヤツの手にやってきた。それは、本来なら異常なのだ」

『レッドの仲間だ。おかしい事ではない』

「わからないか? 私はな、道具に意思があってはならないとその時は思っていた。常に言われた命令を聞き実行する。これこそが道具としての正しい在り方だと。例外を除いてはポケモンもそうだった。だが、アレを見てしまえば、意志の強さというものを受け入れなくてはならないではないか。だからこそ、私は自分の在り方を変えた。レッドとアイツのポケモン達の絆と意志の強さを、私も求め身に着けた。故に私はデオキシスにこれといって意志の剥奪や制約などしていない。それがわからないお前ではあるまい。それは、エスパーであるナツメでもわかるはずだが?」

 

 思わず顔をナツメに向けた。

 彼女は目を細め、溢れ出る殺気を隠そうとせず、ただサカキを睨んでいた。

 

「ええわかるわ。たしかにあんたの言う通りデオキシスは何もされていない。けど、なんでデオキシスからレッドを感じるのよ⁉ 答えなさい!」

「え⁉」

「おい、どういうことだナツメ!」

「どうもこうもないわよ! ちょっと変な感じだけど、レッドの気配がするのよ」

 

 違う、とリーフはまず思った。

 いや、違わないわけではないが、それは正解ではないと何故か断言できた。

 

「ここまで来た褒美に教えてやろう。お前がレッドを感じるその理由は、デオキシスの中にレッドの血が入っているからだ」

 

 なんでわたしを見て言うのだろう? 

 なぜかサカキはリーフを見ながら言ってみせると、同時に鼻で笑った。

 

「レッドの……血? じゃあ、あたしたちの技がすべて見切られているのもそれの所為⁉」

「それならレッドの技を使ったのも納得がいくが……」

「……ミュウツーは知ってたの?」

 

 思わずリーフは訊いた。ナツメが気づいているのだ、ミュウツーが気づかないはずがないのだと。

 彼は前を向きながらただ頷いて答えてくれた。

 

『──すまない』

「気を使ってくれたんでしょ? 文句はレッドに言うから気にしないで」

『あ、ああ……それとリーフ。もう一つお前に言わなければならないことが──』

「ふざけるんじゃないわよ⁉ レッドの血なんていう超がつくほどの厄いものを持ち出して!!」

 

 隣で叫ぶナツメの声がミュウツーのテレパシーを遮ってしまい聞こえなかった。同時にリーフの思考も自然とそちらに傾いてしまい、ミュウツーに言葉の続きを聞くことはなかった。

 

「それだけじゃないわ! 勝手に私の彼氏を犯罪者に仕立てあげるなんて、ただで済むとは思わないことね!!」

「まあ待て。それについては一つ言っておかなければならない」

「は?」

「たしかに私が部下に命じて、レッドの手配書を出まわせてヤツをおびき出そうとしたのは事実だが、内容に関しては私は関係ない」

「そんな言い訳が通じると──」

「さらに付け加えるならば、罪状の内容は本当だということだ」

「……え?」

 

 ナツメが固まった。というよりも、この場の張り詰めていた空気が変わった。

 

「えーと。罪状ってなにがあったっけ?」

「ルネシティ破壊第1容疑者・人間詐欺罪・薬物大量所持及び使用・公然わいせつ・ポケモン虐待・女たらし……だったな」

「グリーンってばなんで覚えているのよ」

 

 ブルーが呆れながら言うと、グリーンも仕方ないだろうという顔をしていた。彼は記憶力もいいのでつい覚えてしまったのだろう。

 

「う、うそよ。百歩譲って人間詐欺罪までは本当だと思っていたけど」

「そこは全部うそだって信じてあげなよ……」

 

 思わずリーフが言った。

 

「つまりだ。故郷にいるお前を置いてあのような事をしているのが、お前の彼氏だということさ」

「教えなさいよ! レッドが誑しこんだ女を!! いいえ、いますぐお前を殺してレッドに問い詰めてやるぅ!!!」

 

 ナツメが叫ぶと同時に部屋全体が大きく揺れ始めた。彼女の怒りによって膨れ上がっているサイコパワーがさせているのだが、そのオーラは今までの比ではない。

 まるで、巨大地震が襲っているかのような激しい揺れがトレーナータワー全体に襲い掛かっている。が、目の前にいるサカキは焦ってすらないなかった。

 その余裕の答えはすぐに現れた。

 

「ア゛ア゛ア゛──ッ!!」

「どうしたのナツメ⁉」

「あたまが──いた、いぃ──!!」

 

 急に頭を抑えて倒れ込んだナツメにブルーが駆け寄った。同時にブルーが他の全員を見渡すが、苦しんでいるのはナツメただ一人。

 

「レッドに次いで面倒なお前の対策をしていないとでも思ったか?」

「ナツメになにをした!」

 

 グリーンが叫ぶ。

 

「対エスパー用の特殊超音波だ。といっても、ほぼナツメ専用ではあるが。こんなことをしなくても私だけで事足りるのだが、念のための用心というやつだ。しかし、結局レッドが来ない以上もうここ(ナナシマ)にようはないんでな。そろそろ行かせてもらう」

「どういうことよ!」

「まだ気づかないのか? まあいいだろう……お前たちは一つ勘違いをしているのさ」

「勘違い……? あなたの目的はおじいちゃん達を人質にして、わたしたちをこのナナシマに誘い込み、デオキシスにその相手をさせること。そしてレッドと戦うことが目的のはず」

「後者はともかく前者はこの作戦における過程にしかすぎない。レッドと戦うこと、それは私個人の目的であって、ロケット団の目的ではない」

『まさか、貴様ら……!』

「ミュウツーわかるの!?」

「いや、言われなくてもわかるはずだ。思い出せ、ロケット団はカントーで何をしていた?」

 

 グリーンに言われてロケット団の目的を思い出す。知っていることと言えばタマムシシティにあるゲームセンターの地下にあった非合法な研究施設。ポケモンタワーやシルフカンパニーの占拠に他にもポケモンの密輸。

 どれも資金調達や有能な人材の誘拐が当てはまる。

 だけど、その目的は──

 

「カントー……征圧……」

「違う。世界を私のものにすることだ。まずはカントーを手にかけるためにお前たち図鑑所有者の存在は邪魔だ。だからこそ、お前たちをこのナナシマにおびき寄せ足止めするのが目的なのさ」

「そのために、ナナシマに住む人達や島を傷付けたの⁉」

 

 リーフの怒りが露わになる。

 それも当然であった。5の島での島民とのやりとりは、未だに彼女の記憶に焼き付いている。燃え盛る炎の中で崩れ落ちていく建物、消えていく自然……自分を憎むあの眼差し。

 己の無力さを改めて痛感したあの夜を忘れるわけがない。

 

「そうだ」

「ふざけないで!」

「それを言う相手が違うな。怒りを向けるなら私ではなくレッドに言え。お前たちの肉親が傷つき、ナナシマが蹂躙され、今こうして貴様らの窮地にすら現れないヤツを恨め」

「違う! レッドはそんなヤツじゃない!」

「そうだとも」

「……は?」

 

 今までの怒りがその言葉で消える。それはグリーンとブルーも同じ反応だった。床に倒れているナツメですら、「訳が分からない」そのような顔をしている。

 

「いまこの時間この世界においてレッドはたしかにいない。いまならそう断言できる(……)」

「な、なにを言っているの……?」

「ヤツが行く場所には常に戦いがある。故にこの程度ではダメだ。こんなちっぽけな島程度では戦い……戦争ですらない。たしかに、それでは私とレッドとの戦いに相応しくない。だから私は世界を手にかけよう。世界の命運を賭けて戦う……これほど燃える戦いはない!」

「く、狂ってる……そんなことで世界を巻き込まないでよ!」

 

 たった一人の人間のためにたくさんの人が傷ついて涙を流している。それを見てきたからこそ、そんなことを許されるわけがないのだと断言できる。

 やるなら勝手に誰にも迷惑をかけないところでやれ。

 たったそれだけで済むではないか。

 サカキという男は、レッドに心酔している。いや、自分に酔っているだけかもしれない。

 だが、目の前の男にとってリーフの言葉はサカキの逆鱗に触れた。

 

「そんなことだと? 一人のトレーナーとして最強の男と決着をつけることがそんなちっぽけなことだというのか。そのために己の持てる力を使い成し遂げようとしているのが何がいけない。私は悪だ。貴様らに何を言われてもどうもせん。だが、レッドとの戦いを穢すやつは許さん。そうか、いま理解した。お前たちはレッドという男の本質を理解していないのだな」

「少なくともお前よりは理解しているつもりだ」

「ええ。あんたみたいな外道じゃないわ」

「──!!」

 

 グリーンとブルーに続いてナツメも何かを言っているようだが、激痛に耐えるためか声が出ていない。しかし、言いたいことはわかる。

 

「ヤツの本質は戦いだ。戦ってこそ、レッドという存在があるのだ。言い換えれば戦士ともいえる。善であるレッドと悪である私、そのどちらかが倒れるまでこの善と悪の戦いは決して終わらない!」

『貴様の狂言などどうでもいい! レッドが来なくともワタシがお前を倒す!!』

 

 その手にサイコパワーで作り出したスプーンを手に持ち、サカキのもとへと襲い掛かろとしているミュウツー。思わずリーフもそれを止めようと顔を向けたその視線の先に異変があった。

 天井が突然開くとそこから無数の物体が現れ始め、ミュウツーを阻むようにそれはサカキを守る壁となった。

 

「ミュウツー戻って!」

『な──⁉』

「デオキシス⁉」

「だが、この数は異常だぞ!」

 

 それは無数のデオキシスだった。色は灰色で、その目に生気はない。まるで生きた人形のような不気味さを放っていた。

 

「デオキシス・ディバイド。こいつらはデオキシスが生み出した分身……言わば影だ。デオキシスが私の手持ちとなった時に目覚めた新たな能力。能力は本体に遠く及ばないが、こうして壁としては便利すぎるほど使い勝手がいい力だ」

『逃げるのかサカキ!』

「お前も随分人間らしいことを言うようになった。それもレッドの影響か? それに先程も言っただろう。レッドが現れない以上、ここにもう用はない」

『貴様ァ!!』

 

 その手に持つスプーンをまるで剣のように振り回し、迫るデオキシス・ディバイドを薙ぎ払いながらミュウツーの怒号が響き渡る。が、デオキシスという名の壁が何度も立ちふさがりその行く手を阻む。

 

「さて。まずはカントーを制圧しにいくか。いや、その前に我が息子を──」

「させない!!」

 

 リーフの叫びと共にレッドのリザードン、フシギバナ、カメックスが現れてサカキに向けて技を放つが、それを当然のようにデオキシス・ディバイドが間に入って防いだ。

 三つの光線をまともに受けた個体たちはその機能を停止したのか、そのまま床へと落下していく。どうやら本体のデオキシスのようにディフェンスフォルムといったフォルムチェンジはできず、さらにはその耐久力もないことがわかった。

 だが、その僅かの時間の間にサカキは外へ繋がる天井を通ってすでにその場にはいなかった。

 

「まずいわ! 早くサカキを追いかけないとカントーが!」

「でも、この状況じゃあ!」

 

 無数にいるデオキシス・ディバイドによってサカキへと通じる道は未だ閉ざされている。さらにオーキドやブルーの両親、未だ超音波によって苦しめられているナツメを守りながら、現在は防戦一方の状況が続いている。

 リーフには焦りがあった。

 サカキによってカントーが征圧されているということはもちろんだが、なによりもデオキシスのことが気になって仕方がなかったのである。

 彼がいうレッドの血の話を聞いて、自身の中に感じていた違和感がますます膨れ上がっている。レッドの血だけでは、今まで自分がデオキシスと対峙する際に感じていたあの感覚を証明することにはならないからだ。

 サカキはまだ何かを隠している。それを知るためにも、一刻も早く彼を追いかけたかった。

 そんなリーフの焦りを兄であるグリーンは見抜き、叫んだ。

 

「リーフ、オレたちが道をつくる。お前とミュウツーはサカキを追え!」

「グリーン⁉ で、でもこの状況じゃ……」

「オレを信じろ! そのためにお前のポケモンたちを預かる。レッドのリザードンたちとミュウツーだけでサカキを追え」

「……わかった」

 

 ポケモンセンターが破壊され、デオキシスと戦いでその傷を癒せず、満足に戦えるのはフシギバナとハピナスそれに少し体力が回復したラッキーのみ。その三体だけでも、この場を防ぐ力にはなる。

 仲間達と離れるのは辛いが、いまはサカキを追うことを優先だとリーフは判断しボールをグリーンに預ける。

 

「待つんじゃ! その前に渡すものがある!」

「おじいちゃん⁉」

 

 オーキドがそう言うと、ブルー宛に残した封筒を彼女から受け取り、そこから何かのチップが4つ入っていた。

 彼は白衣を脱いで生地の裏に隠していた新ポケモン図鑑を取り出すと、それをそれぞれに差し込みその内ひとつをリーフに預けた。

 

「ポケモン図鑑は図鑑所有者の証じゃが所詮は機械にすぎん。しかし、きっとお前の力になるはずじゃ!」

「ありがとう、おじいちゃん」

 

 ポケモン図鑑。たった数日持たなかっただけなのに、不思議と懐かしい気持ちになる。同時にこれがはじめからあれば、状況も少しは変わったのだろうか。そんな事さえ考えてもしまう。

 感傷に浸っているリーフに対し、グリーンはそれを拭い去るように言う。

 

「準備はいいなリーフ!」

「うん!」

「ミュウツー、悪いが今だけはオレの指示に従ってもらうぞ」

『……いいだろう』

「ふ。これがテレパシーか、悪くないな……ブルー、いいな⁉」

「ええ!」

「よし……いくぞ!」

 

 

 

 

 

 先行していた戦闘飛空艇はすでにナナシマ領空からカントー領空へと侵入する位置におり、そのタイミングでトレーナータワーから向かっていたサカキとデオキシスが合流。

 艦橋へと戻れば三獣士が出迎えていた。

 その内のひとり……チャクラの異変をデオキシスを通してサカキは感じてはいたが、あえてそれを無視してデオキシスに言った。

 

「レッドが現れない以上、私が求めるものは二つだ。一つは世界を我が物とすること。もう一つは……息子だ。真に覚醒したいまのお前の透視能力なら、これだけで息子……シルバーの居場所がわかるはずだ」

『……』

 

 ポケットからハンカチを取り出してデオキシスへと差し出す。

 遠い昔、まだシルバーと共に過ごしていた日々の唯一残っているもの。あれはよくものを失くす子で、だから身に着けるものには全部に名前を縫ってあった。

 ある意味これがまだ、父親としての自分を繋ぎとめる唯一のものなのかもしれない。

 悪だとしても、我が子を思うのは至極当然。例え、世界から批難されてもだ。

 デオキシスはその手でハンカチに触れると、触手を伸ばし世界地図にその目的地を示した。

 それを見たサカキの口が緩み、歓喜の声が漏れる。

 組織の首領でありながら部下の前で笑みを見せるなどあってはないこと。しかし、これを見てしまえばそんなことなどできるはずがない。

 

「まさか我が故郷トキワ……トキワシティにいるというのか。進路修正、目的地はトキワシティだ!」

 

 号令と共に飛行艇がその向きを変えて加速した。これならば一時間と時間はかからないだろう。

 そんな時、デオキシスからそれは送られてきた。

 デオキシスはチャクラが自分に対して向ける不満と怒りの感情を感じ取ったのだ。

 個体・壱の能力は結局分からぬままであったが、この個体・弐は他にはない能力を持っている。

 一つは。あらゆる物体を違う場所へと送ることができる。この力で図鑑所有者のひとりブルーの両親を1の島から7の島にあるトレーナータワーへと移動させた。

 二つ目は透視能力。先程のハンカチのように物体を通して対象の居場所を探知できるもの。ただし、一番求めていたレッドの居場所だけは見つけることは叶わなかったが。

 三つ目はミュウツーやナツメのような最高クラスのエスパーを有しているという事。特にこの個体・弐はその体内にある血の影響もあって、相手の敵意や感情に思考を読むことに長けている。だからこそ、チャクラが抱いている感情を敏感にデオキシスは感じ取ったのだ。

 だが、ミュウツーのように自分の言葉をテレパシーで“伝えることはできない”という欠点はある。

 思考を読めば、チャクラは今回の一連における組織の行動がすべて私情であり、それに付き合わされてきたことへの不満。さらにはシルバーを探していると知り、次期首領をシルバーだと思い込んでいるらしい。

 まあ私情に関しては否定はしない。

 が、このロケット団は私のモノであり、ロケット団とは私そのもの。組織をどう動かそうがそれに文句を言われる筋合いはない。

 そのことをサキと話している中、遂にチャクラが動いた。

 

「そんな話に、納得できるわけ──!!」

 

 チャクラの反乱は一瞬にして鎮圧された。

 すべてを言う前にデオキシスがチャクラを吹き飛ばしたのだ。悪意と敵意を持つ相手に対して容赦のない一撃。

 それはまさにあいつを彷彿させる。

 

「それでボス。チャクラはどうしますか?」

「荷室にでも放り込んでおけ。いまはヤツの相手をしている時間はない」

「わかりました」

 

 サキとオウカがチャクラを荷室へと運び艦橋を後にすると、デオキシスが訴えてきた。

 それはサキのことであった。

 デオキシスはサキのことですらすでに感じ取っている。彼女は思考を読まれないようすでに何らかの対策をしているようで、デオキシスでもその胸の内を明らかにできてはいなかった。

 だが、彼女の中にある野心を自分と同様に感じ取っている。

 だからこそ、今日までサキを泳がしていることを危惧しているのだ。速く彼女を排除しろ、そう言っている。

 

「お前の言いたいことはわかる。そうだな……少し惜しいが、シルバーと再会したあと消すか。ヤツの組織を吐かせたうえでな」

『……』

「ン……これは」

 

 デオキシスを通して、それに気づいた。

 これはナナシマで何度も起きた現象と感覚だ。彼女……リーフが現れてからデオキシスが彼女の存在を感知するたびに起こるこれは、言葉にするとうまく表現できないが近いもので言えば、私がシルバーを思う気持ちと同じようなもの。

 デオキシスもまた求めているのだ。“母親”であるリーフを。

 それも当然だろうなとサカキはさして興味もないがデオキシスを見て思った。なにせ、レッドの血だけではなくリーフの血も流れているのだから。

 私がシルバーを求めるようにデオキシスは母親であるリーフを求めている──そこに利害の一致あるいは共感しているからデオキシスは行動を共にしている──と私は結論付けた。

 しかしだ。皮肉なことにこいつは母親に牙を向いている。いや、その行動は子供そのものだからリーフに対して、デオキシスに敵意というものはない。母親に殺意を向けるなど、余程のことがなければ抱く感情ではないのだ。

 

「ふむ、ミュウツーも一緒か。本当に惜しいな。お前と私、レッドとミュウツー……この組み合わせで戦えたらどれ程よかったか。まあ、いない人間のことを言っても仕方ない、か。どうする? いまなら彼女のもとに行っても私は止めないぞ」

 

 試すようなことを言ってみれば、デオキシスはこちらを向いて顔を横に振った。それに付け加えるようにおかしなことも言ってきた。

 

『戦う』

「なぜ?」

『それしか知らないから』

 

 特に驚くこともなく、かといって面白くもないので反応に困る。

 それはデオキシスがポケモンでもあり、その血にレッドとリーフ……言ってしまえばマサラの血がそうさせているのだろうか。

 だから、求めていた母親に対してできることが、戦うというコミュニケーションしか取れないのだ。それもそうだ。こいつはポケモンだ。それ以外になにがあるというのか。デオキシスのような特殊なポケモンは特に顕著だ。

 もっと言えば矛盾しているのだ。母親を求めているくせに戦うことしか表現できない。

 まあ、そうさせてしまっているのが自分だかな、とサカキは悪気など到底感じているわけもなかった。

 

「ならば戦い私達の強さを見せつけてやるか。それに、リーフを殺せばレッドも出てくるかもしれんしな」

『……』

 

 言った言葉に嘘偽りはない。本当にリーフを殺せば、あのレッドといえど隠れている訳にもいかないだろう、そんな予感はしていた。

 だが、サカキはデオキシスを感じて、落胆したようなため息をついた。

 デオキシスはこれといった反応をしなかったのだ。親であるリーフを殺すと言っても、なにも感情を抱かなかった。

 いや、それに対してどんな感情を表現すればいいかわからないのだろう。体に流れる血がどのような影響を及ぼすか、それは個体・壱を見て明らかだ。リーフの血はともかく、レッドの血が流れているのにも関わらず個体・弐はなにもアクションを起こさない。

 協力関係……のような間柄ではあるものの、こちらに対して怒りや憎悪を抱かないのは、サカキからすれば「つまらない」の一言につきる。

 それでも、個体・弐も確固たる意志というのもは確かに存在するのだ。

 だからこそ、私と共にいる。

 

「これも私が望んだ善と悪の戦いでもあるか」

 

 サカキはそう言って苦笑した。

 相手は違えど、たしかにその通りなのだ。

 不満はあるが問題はない。私は悪で、相手はリーフ。それもデオキシスの母親で、レッドという宿敵との決着という魅力的な戦いではないが、これも悪くないだろう。

 そんな戦いを目前に控えている中、サキが戻り計器を見て伝えた。

 

「ボス。もう間もなくトキワシティです」

「到着と同時に迎えにいけ。私はここで待つ」

「かしこまりました」

 

 どうやら胸躍る戦いの前に、感動の再会が待っているようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 太陽の戦士サンレッドRX

 第45話 「黒騎士」

 

『がらるむかしばなし』

 本日のお話「二匹のわんちゃん」

 

 むかしむかし、ガラル地方は二人の王様によって治められてきました。

 そんな二人の王の傍には二匹のわんちゃんがいつもひかえていたのです。二匹のわんちゃんの仲はとてもよくて、常に王たちと共にこの国を守っていたそうです。

 そんなある日のこと。

 突然空に黒いうずが現れたではありませんか。

 最初はすぐに消えるだろうと誰もが思っていました。ですが黒いうずは消えることなく、そこから悪いポケモンたちが襲ってきたり、いきなり野生のポケモンたちが巨大化してしまったのです。

 

「あの黒いうずは災いそのもの。あれを取り除かなければこの異変は収まりません」

 

 と、王に仕える占い師がいいました。

 二人の王は二匹のわんちゃんと仲間達ともに黒いうずに挑みました。

 しかし、いくら国で一番強いわんちゃんといえど、強大なポケモンや凶暴化したポケモンには敵いませんでした。

 一進一退の攻防……いえ、だんだんと戦況が悪くなっていく最中、二匹のわんちゃんが王たちにいいました。

 

「おねがいします。少しだけ時間をください」

「必ずや、あの黒いうずを止める力を手に入れてきます」

 

 なぜこんなことを言ったのか。それは誰にもわかりません。

 ですが、王たちはその言葉を疑うことなく、信じて二匹を送り出したのです。

 さあ! ここから二匹のわんちゃんの大冒険のはじまりです──とはなりませんでした。

 

「大見得切って出てきたはいいけど、ほんとうにどうしましょうか」

「一つだけ当てがあるのだ」

「それは本当ですか姉者!」

「うむ。うわさにきく〈太陽の神〉を探すのだ」

 

 〈太陽の神〉それはこの国でも少なからず伝わっている不思議な神さまのことでした。

 旅人の話では枯れ果てた土地に緑が戻り、砂漠に水が湧いてオアシスができたり、不治の病が治ったり、と心から祈りをあげた時にその姿を現すと伝えられていると言われているのです。

 

「探すと言っても……どこを?」

「祈るのだ」

「……姉者ぁ……」

「祈るのだ!」

「……ですが、ほんとうにわたしたちだけの祈りで現れるのでしょうか?」

「まずは祈るのだ。そこからはじめよう」

 

 二匹は祈りました。黒いうずから少し離れ太陽が見える場所で、何時間も祈り続けたのです。

 疑問を抱いていた妹のわんちゃんも、文句のひとつも言わずに心から祈りました。

 ──そしてふしぎなことがおきたのです。

 ふと、二匹は不思議な気配を感じました。

 国で一番強い二匹は気配を感じ別けることも造作もないこと。だからこそ、突然現れた謎の存在に祈りを中断し、その方向へと目を向けたのです。

 

『……』

 

 するとどうでしょうか。

 今まで人の気配一つなかったというのに、いきなり二匹の前を黒い鎧を身に纏ったナイトがあるいているではありませんか。

 そのナイトが身に纏う鎧は、鎧にしてはとても禍々しく、黒いうずから現れたといっても疑いようがありません。

 同時に右手には見るからにありとあらゆるものを切り裂いてしまいそうな剣を持ち、左手にどんな攻撃さえも防ぎそうな盾を持っておりました。

 さてさて。これまた不思議なことに、二匹のわんちゃんはその剣と盾に不思議な縁を感じたのです。

 その剣と盾は自分たちには無くてはならないものなんだと。

 二匹は気になって気になって仕方ありません。

 そこでお姉さんがそのナイトを呼び止めました。

 

「もし、そこの方!」

『……あれ? 見たことがない種類のワンコがいる』

「突然無礼を承知でお尋ねします。あなたが……太陽の神さまなのですか?」

 

 太陽の神さまという割にはその姿はまるで正反対。

 しかし、祈っている時に突然現れたのだから、目の前の御仁が太陽の神のはず──そもそも〈太陽の神〉の姿はハッキリとしていない──と、二匹は思いました。

 

『俺は……コホン。私は太陽の神ではない。私は……私は……そう! 怒りの王子ブラックナイト!』

「……怒りの王子……?」

「王子なのにナイトは変では? とわたしは訝しんだ」

『細かいことはいいのだ。で、ワンコたちよ。私に何のようだね?』

「お願いします! どうかその剣と盾をわたしたちに譲ってはくれないでしょうか⁉」

「いまこの国に未曾有の危機が訪れているのです。そのためにどうか!」

『いいよ』

 

 何という事でしょうか。

 ブラックナイトと名乗る騎士は惜しみもなくその剣と盾を二匹に差し上げたではありませんか! 

 ですが、それだけではありません。

 剣と盾を受け取った二匹の体が光ると、その姿が変化したのです! 

 姉は剣を。

 妹は盾を。

 二匹はいままで以上に体から力が溢れるのをたしかに感じ、これならあの黒いうずを消し去ることができると確信しました。

 改めてブラックナイトにお礼をいうと、妹が気になってあることをたずねました。

 

「ブラックナイトさまは、どうしてこの地に来られたのですか?」

 

 ブラックナイトは答えました。

 

『呼ばれて来ただけだからよくわかんない』

『……』

 

 やはりこのお方こそが〈太陽の神〉なのではないか。そう疑問に思うのも仕方ないでした。

 

『しかしだ。なにやらとても大変なことになっているので、私も手を貸そうではないか』

「それは頼もしい」

「あなたさまがいれば怖いものなどありません」

 

 こうして二匹のわんちゃんは黒いうずを祓う力と、怒りの王子ブラックナイトを連れて国へと戻りました。

 

 ──そのあとなんやかんやありまして

 

 黒いうずは消え去り平和な日々が戻ったのです。

 時代は流れて二人の王がこの世を去ると、二匹のわんちゃんたちもまた二人の王が眠るお墓と共にこの世を去りました。

 

 めでたしめでたし。

 

 

 

 

 

「ていうよくわからない絵本を見つけたんけど、おばあさまはどう思います!?」

 

 いったいどこから見つけたのか、孫のソニアはとても古い絵本を手に持ってわたしに感想を求めてきた。

 古いといっても、その状態から察するにかなりの年代もの。一枚いちまいの状態は悪いけれども、一ページも欠けてはいない。むしろ、よくここまで原型を保っていると称賛すらされてもいい。

 彼女の祖母であるマグノリアは小さなため息をついて言った。

 

「ソニア。あなたが興奮するのもわかるけど、もう少し落ち着きなさい」

「でもでも! ガラルの言い伝えではわんちゃんなんて出てこないし、あの英雄っていうのがこのブラックナイトかもしれないんだよ!」

「たしかにねぇ。けど、そのブラックナイトをわたしたちが知っていることといえば、何だい?」

「えーと。このガラル地方をめちゃくちゃにした……悪い……なにか……?」

「うんそうだね。まあ、あなたの言うように今まで発見されていない新しい歴史、というのはとても魅力的であるけれど、その絵本の出所すら不明なのだから、それを元に証言したとしてどれだけの人が納得してくれるのでしょうね。気持ちはわからなくはないんだよ?」

「うぅ……それはたしかにそうだけど……」

 

 見るからに落ち込む孫を見れば、さすがに言い過ぎたと思わなくもない。けれど、いずれ自分と同じように「博士」と名乗るからには、好奇心と冷静さを常にバランスよく持ち、公正に物事を判断してほしいいのだ。

 

「ところで。その絵本はどこで見つけたんだい?」

「古本屋で見つけたの」

「ますます出所がわからないねえ……おや? よく見れば、まだページが残ってるじゃないか」

「あ、ほんとうだ。もしかして、作者のあとがきとかかな!」

「絵本でそんなものありはしないよ」

 

 さして興味もないマグノリアと正反対にソニアは目を光らせながら次のページをめくると、その目から光が消えて肩を落とした。

 どうしたんだい、と声をかければ、彼女は絵本をこちらに見えるように持ちなおした。

 

 

 そして、二匹のわんちゃんと共に戦ったブラックナイトはというと──

 

 巨大化したポケモンたちに対抗すべく、彼もまた巨大化してそれはもう千切っては投げ、まるで太陽のように眩しい光のビームを撃って戦っておりました。

 そのおかげで戦いは短期間で収まったのですが、人々からは感謝はされつつも、その見た目も相まってあまりいい印象を与えることは叶わず、最後には彼もまた黒いうずから現れた災いだと言い伝えられてしまうことになってしまったようです。

 

 おしまい。

 

 

「絵本にしては最低のオチだねぇ」

「夢も希望もないよぉ~」

 

 落ち込むソニアを見て、これもまたいい教訓になっただろうと思いながら、マグノリアは止めていた論文の作成を再開するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ガラル神話?はゲームでも情報少ないし、それが正しいかもわからんからほぼ捏造だかよろしくぅ!

一応この話はDLC発表前に書いてます。

▲ページの一番上に飛ぶ
Twitterで読了報告する
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。