あと前回のシロナですが、私はその時が来るまでネタバレ防止のため一切お答えしません。
それでも読者の皆さまが色んな予想をされるのは嬉しいのでどんどんしてもらってオッケーです。
例えその中に答えがあってもお答えはしませんが。
(といっても、大分先の話だからまいったねこれは……)
ハナダシティにあるマサキの小屋。
重い体を引きずりながらもマサキは自分の家へと何とか帰ることができ安堵する。家を出る前は皺一つなかったシャツがボロボロで、あちこち泥まみれになっている。さらに自作ではあるが、ポケモンの生態調査の目的で作った機械も不運に見舞われ川の底に消えてしまった。
大きなため息をついてソファーへと飛び込む。
マサキは先日のトキワの森で起きた出来事が未だに忘れられずにいた。否、忘れられる訳がないのだ。まさか調査の出先で親友であるレッドが消息を絶ったなどと、一体誰が信じられるというのか。
「あいつは……負けへん。絶対に死んでなんかあらへん」
自分は評論家で科学者だ。ポケモンバトルはずぶの素人。それでもレッドが誰よりも強いのはマサキは知っている。ポケモンリーグでの戦い。どんなに強いトレーナーであろうと、彼ほどの強さを持った人間を自分は知らないのだ。
トキワの森で出会った少年イエロー。イエロー・デ・トキワグローブ。彼と共にレッドを襲ったと思われる四天王のカンナから逃れる際に言った名前。
イエローはレッドのポケモンでもあるピカと、彼の図鑑を持って行方を追っているらしい。一言で言えば不思議な少年だった。ポケモンを癒し、その言葉が分かるのだ。ポケモントレーナーならそんなの当たり前とレッドはよく言うが、実際は何となくしか分からない。正確にポケモンの言葉が分かるトレーナーは少ない。エスパータイプのようにテレパシーで話すなら別ではあるが。
「そうや、あれ……」
動きたくない体に鞭を打ち作業場へ向かう。作業台にある大体横幅50センチほどのケースを開ける。
そこには以前レッドから頼まれたガントレットが収められていた。彼の注文にあったポケモンの攻撃や耐熱等、さらに通気性などいった細かいオーダーを満たすには1年以上も時間を費やした。特に苦労したのは素材だった。ポケモンの攻撃に耐えられる、そんな素材など簡単に手に入るわけがない。
そんな時だ。ある仲買人が以前シルフカンパニーが開発した新素材がある。そう連絡を寄越したのだ。実際にその商品の実験資料を送ってもらい、これならレッドの条件に見合うと喜んで取引した。そこからこうして形をするのにさらに時間を要したのは、本業である評論家や大学への派遣講師としての仕事が立て込んでいたからである。
しかし依然として石の加工屋は見つかっていない。
「これがあれば、レッドは今でもわいの所に遊びに来たんやろうか……」
情けないことを言うなと自分の頬叩く。
ちょっと痛いがおかげで目が覚めた。自分にしかできないことをしよう。マサキはパソコンの前に座り、管理者権限を使ってポケモンあずかりシステムへとアクセスした。
深夜。
タマムシジムにてエリカはパソコンを通じてカスミと連絡を取り合っていた。
「やはりそちらでも同じ現象が?」
『そうなの。オーキド博士の助手と一緒にハナダの洞窟に見に行ったけど、ポケモン達は一匹もいなかったわ。あそこはレッドの警告で周囲一帯を立ち入り禁止していたし、仮に密猟者だとしてもあそこの野生ポケモン達は強いから全員を捕まえるなんて絶対に無理よ』
「博士は野生としての本能が何かを動かしていると言っていました。だからと言って、いくら隣のジョウト地方でも同じ現象が起きるとはにわかに信じがたい」
『ええ。それにこの一連の不可解な現象が、レッドが消息を絶った後だと仮定するなら……』
「ポケモン達は何かを知っている。カスミ、ポケモン達の足取りは掴めたのですか?」
たずねるとカスミは顔を横に振った。
『多分大規模なテレポートだと思う。レッドが言うにはかなりのポケモンが住んでいたって話だから
、移動すれば足跡ぐらい残ってると思ったんだけど……』
「わかりました。となると、手がかりはレッドのピカチュウ共に旅をしている少年のみ」
『そうなるわね。また何か分かったら連絡するわ』
「お願いします」
通信を切って一息つく。
レッドが消息を絶ったと知ってからそれなりに日は経った。けれど、それでもまだ動揺している自分がいると、エリカは未熟な自分を恥じた。
状況はあまりよろしくない。チャンピオンのレッドが消息を絶っただけでも一大事だというのに、問題はその背後にいる謎の敵。そしてたった一人の人間消えただけでこんなにも騒ぎが大事になる事態になっている。
逆に言えば、それだけ彼の存在が大きいということ。
ただ不可解な、あり得ないことが一つある。それは、彼の恋人でもあるナツメの存在であるとエリカは感じていた。今では友人のような間柄ではあるが、レッドとの仲はこちらが妬むほどの仲。それにエスパーである彼女ならば、この事に気づていないはずがないのだ。
連絡をしても出てはくれず、ヤマブキに赴こうにも状況がそれを許さない。誰かに使いを頼むか悩んでいるエリカの下に、ノックもせずに侍女の一人が慌てて入ってきた。
「エリカ様! 大変でございます!」
「落ち着きなさい。一体どうなされたのですか?」
「近隣住民かの連絡で、このタマムシ西郊外でレッド様らしき姿が目撃されたと!」
「なんですって⁉ わかりました。もしもに備えて精鋭たちを率いて私自ら出ます。あなたはタケシ、カスミ、カツラに連絡を」
「か、カツラ様もですか?」
侍女の歯切れが悪くなるのも仕方がない。元ロケット団の研究員と知ればこうもなる。だがレッドのおかげで彼は正義のジムリーダーとしてこちらに迎え入れたのだ。こういう時に活動すれば、彼の印象も少しはよくなるだろう。
「そうです。では頼みます」
エリカは部屋を飛び出し、精鋭たちに連絡しながら動き始めた。
同じころ。
レッドのピカチュウ共に彼を探す旅にでた少年イエロー・デ・トキワグローブ。彼は現在タマムシシティ西郊外で野宿をしていた。
イエローは眠るたびにピカチュウを見る。眠っているようですぐにうなされて起きることが最近多いのだ。現に今も悪夢にうなされて跳び起きた。
「また悪夢を見たのかい?」
「……」
優しくピカチュウを抱きしめるイエロー。彼は優しく言った。
「ねえピカ。眠れないなら話をしようか」
「ピカ?」
「うん。ピカがボクを信じて一緒にレッドさん探す旅に出てくれて嬉しいと思ってる。だけど、ボクはピカやレッドさんのことを全然知らないんだ。だから教えてくれないかな?」
『……マスターは、レッドはバカなんだ』
「ば、ばか?」
いきなり予想外のことで驚くイエローは思わず呆気にとられた。
『誰よりも強くて、もっと自由に生きられるのにレッドはみんなのために生きてる』
「みんなのため? それってボクたち人間のこと?」
ピカチュウはふるふると顔を横に振った。となるとポケモンのことだろうか。そうたずねるがそれも違うと言われる。
『全部。人間もポケモンもこの世界も』
「全部って。ボクは一度しか見ていないけど、レッドさんは確かにすごいよ? あの凶暴なミニリュウを大人しくさせたんだから。けど、なんでそれが世界まで広がるの?」
『レッドは口では嫌がってるけど、本当は分かってるんだ。それが自分のやるべきことなんだって』
「やるべきこと……」
『イエローはレッドと似てる。優しいし自然を愛してる。けどイエローは、本当は戦いたくない。ポケモンを傷つけたくないんだろ?』
「やっぱり……分かっちゃうよね」
『うん。でもそれが悪い訳じゃない。みんながイエローみたいな考えだったら、こんな事は起きてない。ううん。そう考えるから起こしてしまう』
「どうして?」
『ぼくらを傷つけさせない世界を作るためだからだよ』
「……でもレッドさん言ったよ。自分が悪い子になれば、ポケモンも悪い子になる。つまり人間がいけないの?」
『分からない。けど、そこには必ずポケモンが関わってしまうんだ。良い面でも悪い面でも。だからレッドは戦うんだ』
「ボクは……」
『イエロー。きみのその力はきみ自身の力なんだ。そして戦うことを、傷つくことを恐れてはいけないよ』
「甘いのかな、ボク」
『今はいいかもしれない。でもいつかはそうなる時が来る。それにレッドは傷つくことは恐れなかった。それはポケモンと戦う時もそう』
「えー。人間がポケモンと戦えるわけないよ!」
突然重い空気が変わる。あれ程思い悩んでいたイエローの顔に光が戻った。それを話したピカチュウは信じてもらえないことに戸惑っていた。
『本当だって! レッドは自分でポケモンと戦うんだよ!』
「またまた~。いくらレッドさんだって、そこまで──」
「そうでしょうか。レッドなら、それぐらいやってのけるかもしれませんよ?」
「⁉」
イエローは突然の来訪者に驚きつつも、ピカチュウを守るように抱きかかえてその女性と向き合う。
「あ、あなたは誰ですか!」
「私はエリカ。このタマムシシティを任されているジムリーダーです。あなたのお名前は?」
「い、イエロー……ピカ?」
腕の中にいるピカの気持ちを感じ取った。これは暖かい感情。ピカはこの人を知っているのか?
イエローは警戒を解かずエリカを睨む。しかし彼女は優しい笑みを浮かべたままだ。
「これでもレッドとは友人の間柄です。まあ初対面の人間を信じろと、無理は言いません。が、ピカは分かっているようですね。うふふ」
「レッドさんの友達? け、けど、それがどうしてここに?」
「実はこの西郊外でレッドらしき人物を目撃したと連絡があったのです。ですがもしもの時に備えて、こうして私とタマムシの精鋭部隊と共に足を運んだわけです」
「レッドさんが!?」
「ピカ⁉ ……!」
「ピカどうしたの⁉」
『レッドだ!』
「え!?」
『これレッドの匂いだ。レッドに決まってるじゃないか!』
イエローの腕からピカチュウは飛びだすと一人で走り出しイエローもそれに続く。
「一人じゃ危ないよ!」
「あ、待ちなさい! 私達もあとを追いますよ!」
ピカチュウを先頭に大勢の人間が夜の森を駆けた。一人の少年を探すために。
ピカチュウが匂いをたどって数分。息をあげながらピカチュウは周囲を見渡す。このはずだ、自分の嗅覚を頼りにここまで来たので間違いないはず。
遅れてイエローとエリカ達が追いつくと、目の前の茂みがから見慣れた少年が現れる。
「よ!」
「あ、レッドさん!」
「レッド。よかった無事だったのですね……」
「……!」
探し人が見つかり喜びの声をあげるイエローとエリカ。しかし、肝心のピカチュウだけ様子が変だ。地面に足をついて尻尾をピンと張り、まるで威嚇しているようだった。
「ピカピカ!」
「ぴ、ピカどうしたの? レッドさんなんだよ?」
「ピカピ!」
イエローの力はポケモンと触れ合う距離でなければ使うこともできなければ、ポケモンの声を聞くこともできない。今の状況において、イエローはピカチュウの言っている言葉を理解できていないのだ。
そんな状況の中、エリカは涙を流しながらレッドの下へ駆け寄ると、さらにピカチュウの声が大きくなる。それを見てイエローはようやく理解した。
「エリカさんダメだ!」
「え──?」
「ちっ」
「うっ──」
駆け寄ってきたエリカにレッドは突然腹に拳を叩きこんだ。突然のことで構えることができなかったエリカは、そのままレッドに拘束されてしまった。
『エリカ様⁉』
「ははは! ざまぁないぜ。なあ? ジムリーダーのエリカさんよぉ!?」
「あ、あなたは……レッドではありませんね……」
「レッドぉ? 誰それ? オレは……りかけいの男だ!」
「な!」
りかけいの男。そう彼が名乗ると、変装を解いて素顔を露わにした。
「オレが着ているこの全身ストッキングには、そのレッドの匂いを染み込ませている。それでピカチュウをおびき出そうとしたってのに、勘がいいのか正体に気づきやがった」
「ピ~カ!」
「おっとやめとけよ。これには闇市で仕入れた特製の絶縁機能もついてる。電撃を食らうのはこの女だぜ?」
「卑怯です!」
「卑怯大いに結構。だからこそ、こういう使い方もする」
「きゃ!」
りかけいの男はエリカを地面に倒し彼女の頭を踏みつけて、ピカチュウに対して要求したきた。
「こいつの頭を潰されたくなきゃピカチュウ、お前がこっちに来い。そしたらこの女は解放してやる」
「な、ダメだピカ!」
「……」
しかしピカチュウはイエローの言葉に耳を貸さず、自らりかけいの男に近寄ると彼に耳を掴まれてしまう。
「ピカを離せ!」
「なんだお前。こいつの何なんだよ?」
「ボクはイエロー・デ・トキワグローブ! そのピカチュウのおやだ!」
「おやぁ? 笑わせるぜ。そのおやの言うことすら聞いてねぇじゃねえか!」
「そ、それは……」
「それでも返してほしけゃ……力づくで奪い返してみな!」
ガラガラ、パラス、ペルシアンを出しイエローに襲い掛かかると、イエローが攻撃を避けている隙に彼はペルシアンにまたがり街の方へ逃走した。
「ぴ、ピカ。こうなったら、総力戦だ」
イエローもまた自分のポケモンであるコラッタとドードーを出し彼を追うためにドードーが駆け出すのを、エリカが止める。
「待ちなさい! その子達ではあの男には……。それに他のポケモンは⁉」
「いたけどみんな逃がしました」
「どうして!」
「それはボクの目的は図鑑を埋めることではなく、レッドさんを救うことです! 側にいるのは仲良くなれる何匹かでいい!」
エリカの制止を振り切ってイエローを乗せたドードーはりかけいの男を追うために走り出した。
やはりあんな乱暴な男よりボクっ子少年のがいいのでは……?