おい、バトルしろよ   作:ししゃも丸

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イチャイチャ(物理と念力)はじまります


俺と、俺とバトルしろぉおおお!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 数分前──

 

 

「ハハハ、どうしたレッド! 守るだけでは私には勝てないぞ!」

「んなことは、わかってんだよぉ!」

 

 

 ナツメのサイコパワーが辺りに落ちている瓦礫を投げ飛ばしてくるのを拳と脚で粉砕する。だが数が多い。飛んでいるために360度あらゆる角度から彼女は攻撃をしかけてくる。相棒のサンダーとは常に電力が供給されているが、ファイヤーとフリーザーの相手で手一杯だ。

 

 

「おぉおおお!!」

 

 

 ──レッドのスパーク! 周りの瓦礫は消し飛んだ。

 ライジングパワーを手に入れたいま、例え巨大な岩だろうと消し飛ばすほどの威力を持つそれを全体に放出した。

 そのまま咆哮をあげながら加速。ナツメに接近し、雷を纏った拳を奮り下ろす。

 ──レッドのかみなりパンチ! しかしトリプルミラーによって防がれてしまった! 

 

 

「なっ!?」

「リフレクター、ひかりのかべ、ミラーコートの合わせ技だ。どうだ面白いだろう。そしてこれはそれぞれの効果を併せ持つ。つまり──」

 

 

 ミラーコート。それは特殊版カウンターである。つまり、先程のレッドの攻撃が倍になって襲い掛かる。だが、レッドはそれに耐えている。否、さらに強引に突破しようとしていた。

 

 

「こん、のぉおおお!! しゃらくせェーーー!!」

 

 

 まるでガラスが割れたようなもので、その破片は散らばっては力を失って消えた。ナツメもこれには驚いた素振りを見せたが、すぐに笑みを浮かべながら応戦する。

 サイコパワーで作り出した球体をレッドに向けて無数に放つ。イメージと力のコントロールさえ行えば、こうして手を動かさなくても可能だ。

 ──ナツメのサイコボール レッドはこうげきをはじいている! 

 

 

「ならばこれはどうだ!」

 

 

 ──ナツメのサイケこうせん! 

 それに呼応すようにレッドも手をかかげて、空中で踏ん張る。

 ──レッドのでんじほう! 

 相殺。

 両者の攻撃はちょうど二人の間でぶつかり合い消し飛んだ。その際に生じた煙が互いの姿を隠した。その隙をレッドは見逃さず追撃に入り……それは煙を裂き、ナツメに迫る。

 ──レッドのライジングキック! ナツメはバリアを張っている! 

 分かっていたかのように腕をクロスしてバリアを張ったナツメ。だがレッドは止まらない。

 

 

「ぶっとべぇえええ!!」

 

 

 ナツメはボールのように飛ばされながら壁を突き破っていく。

 

 

「ハァハァ……ッァ!」

 

 

 突然体が動かなくなり、声すらまともにあげらない。

 ──ナツメのかなしばり! 

 どうにか目は動き、飛んで行った先を見る。そこには膝をついて、右腕だけを延ばしてこちらを見ているナツメ。どうやら先程の攻撃は無傷ではいかなかったらしい。相当体力も消耗しているのか、肩で息をしている。

 

 

「はぁはぁ……ふん!」

「ぐぁあああ!!」

 

 

 瞬間、ナツメの腕が横に振る払われると、レッドはその方向へ無抵抗に飛ばされる。一枚、二枚、三枚と壁に激突しては壊していく。体の自由が解放されたのはそのまま瓦礫に埋もれた直後で、周囲に展開したエレキフィールドを張り押し上げるようなイメージで瓦礫をどかした。

 思ずサンダーに目だけを向けた。どうやら善戦しているらしい。2対1とはいえ鍛えただけのことはある。が、こちらはかなりキツイ。

 得意の接近戦を仕掛けようにも、ナツメはそれを許さない。当然だ、サイキッカーが接近戦までこなしてみろ。それこそチートだ。

 これでもかなりの修業で力の使い方を覚えたはずではあるが、彼女は生まれてきたころから常に力を制御してきたのだ。その差はさすがに埋めることはできない。

 

 

「ちぇ、結構お気に入りだったのに」

 

 

 気づけば帽子の残骸とも言うべき姿を偶然に目にしてしまう。よく見れば上着もボロボロで、邪魔になるだけなので強引に破いて捨てる。

 そのまま重くなった足を一歩、また一歩と前にだして進む。どうやら宙に浮く余裕がないのか、それとも逆に余裕があるのか、彼女もまた歩いてこちらに向かってくる。

 両者の間は5、6メートルほどになると、ナツメは笑いながら言う。

 

 

「ハハハ! 全力の私とここまでやり合うとは、嬉しい……嬉しいよ! そして楽しいなあレッド!」

「おれ、は……楽しくない……はぁはぁ」

「つれないな。こうして戦いながらお互いの愛を深め合ってるというのに」

「愛なんてなぁ! 言葉とか、ちょっと手を繋いだりするだけで深められるもんだぞ!」

「なら手を繋いでみろ! 私を抱きしめてみろ!」

 

 

 先程からナツメの言動がおかしいことに気づく。何と言えばいいか、これは不安定と呼ぶべきだろうか。今まで数えるほどしか会話をしてこなかったが、今のは過去と比べると雰囲気も、言葉に込めている想いも違う。

 

 

(全力を出して感情的になっているのか?)

 

 

 となれば、先程までの言葉は全部本心。いや、今まで口に出すことがなかった、胸にしまい込んでいた願望。

 深め合っているというのはまさにその通りなのだろう。こんな状態にならなければ、本心も伝えられない。それだけ彼女の人生は壮絶だったと語っているのだ。

 

 

「ふん!」

「ちっ!」

 

 

 ──ナツメのサイコフィールド! 

 ──レッドのエレキフィールド! 

 激突。

 床を削りながら迫りくる二人が作り出したエスパーとで電気の見えない壁が衝突し、バチバチとぶつかりあうエネルギーの余波がさらに周囲に被害を及ぼす。

 衝突してから10秒ほどで、互いのフィールドは消えた。

 

 

「こうなると第1ラウンドは引き分けと言ったところか」

「いや、俺の勝ちだ……」

「そういう意地っ張りなところも好きだぞレッド。だが、次は第2ラウンドだ」

「なにを……は!」

 

 

 その時。背後から光の球がレッドの横を通り過ぎた。それが何かのエネルギーの塊だというのはすぐにわかった。それはそのまま三匹が戦っている場所に行くと、突如光を放った。

 

 

「なんだ⁉」

「ふふふ。さぁ見るがいいレッド。これが、我々ロケット団の切り札だ!」

 

 

 光が消え、サンダーが元いた場所に目を向ける。そこには驚くべきポケモンが生まれていた。

 正面から見てサンダー、ファイヤー、フリーザーが一つになり、いやどちらかと言えば合体だ。それも無理やり体をくっつけたかのような。足も6本、羽も6つ。普通の美的センスならカッコいいとはお世辞にもいなかった。

 それでもレッドはとにかくサンダーに向けて怒鳴った。

 

 

「サンダーお前ぇ! なんで簡単に寝取られてんだよ⁉」

『おれは悪くねぇ!』

 

 

 元々三体にある無尽蔵なエネルギーと巨大なエネルギーが一つになり、さらにここはナツメのサイコパワーによって念が強化されているため、サンダーの声が届く。

 どうやら洗脳まではされていないようだが、残り二匹によって体の主導権は奪えないようだ。

 ナツメはテレポートでその一つになった謎のポケモンの上に移動した。

 

 

「残念だなあレッド。しかしな、我々はお前がサンダーを持っていようと問題はなかったんだ。お前は必ずここに来るからな」

「だからブルーにエネルギー増幅器を奪われてもすました顔をしていたのか」

「そうだ。ああ、そうそう。こいつを返すのを忘れていたよ」

「イーブイ!」

 

 

 乱暴にイーブイを床に落とすとすぐに駆け寄って抱きかかえる。

 

 

「ほのお、でんき、みず。3つのタイプに進化するイーブイはまさに打ってつけだったわけだ。本来ならもう必要なかったのだが、最終調整のためにどうしても必要になってな。こちらとしても穏便に済ませたかったのに、オーキド博士が抵抗してきたから困ったものだよ」

 

 

 イーブイをボールに戻して拳を構える。

 状況は最悪だ。サンダーが奪われてしまい、頼みの電力供給が受けられなくなったいま、残るのは自身が生み出すエネルギーのみ。それも先程と違って格段に出力が落ち、同時に威力も落ちる。

 ならばこちらも、ポケモンを新たに出すしかない。

 

 

「さぁ、第2ラウンドのはじまりだ。まずは小手調べだ。ほのおのうず、れいとうビーム、10まんボルト!」

 

 

 3つのエネルギーが一つなった攻撃が同時に放たれ、咄嗟に横へ飛ぶことで何とかギリギリでかわすことに成功する。

 どう対応すべきかと考えていると、まるで時間を与えるようにナツメが言った。

 

 

「レッド。お前はジムバッジにどんな力があるか知ってるか?」

「ポケモンに言うこと聞かせたりするぐらいじゃないのか?」

 

 

 他にもひでんわざの使用に必要だと言おうと思ったが、この世界では特にバッジは必要ないのだと知っているので口には出さなかった。

 

 

「まあ知らぬのも無理はない。ジムバッジにはそれぞれ力がある。炎・岩・草・電・毒・水・念! 各リーダーが持つバッジには各々にその属性の力が宿っている。まさにこの世の存在するエネルギーと言っても過言ではない。だからこそ、すべてのバッジが必要だったのだ!」

「だがお前ら三幹部はともかく、他のジムリーダーのバッジの入手は容易くは……だからか! だから、俺やグリーン、リーフを泳がせ続けていたのか!」

「そうだ! そして懸念していたカツラのクリムゾンバッジ。それはお前がちゃんと持ってきてくれた、感謝するよレッド!」

「っ!」

 

 

 思わず舌打ちをする。自分がジムバッジを集めるのはそれが普通だと今でも思っていた。だが結局、その当たり前の行動が裏目に出てしまった。ロケット団の計画おいてそれはとても都合がよかったのだ。

 

 

(すまないカツラ。まんまと知らない間に敵の策にハマっちまった)

 

 

 胸の中でカツラに謝罪する。

 ふと、あることに気づいた。ナツメは言った。すべてのジムバッジと。ならばブルーが持って行ったバッジは7つ、どう見ても一つ足りない。

 いや、正確にはある。ボスであるサカキ、彼こそが最後のトキワジムのジムリーダー。ナツメの言葉から察するに、バッジは7つだと思い込んでいるように見える。

 知らないのか、サカキがジムリーダーなのを。

 ゲームでは最初に目にするジムであるが、そこの主は不在。ただそれも、いつから不在でどれだけの人間がジムリーダーの素性を知っているのかというのも曖昧だ。仮に知らなかったとすれば、筋は通る。さらにまだこのシルフカンパニーのどこかにサカキがいるならば、持っているはずのグリーンバッジ。単体でも力を発揮するならば、少なからず目の前のポケモンにも影響を与えているはずだ。

 

 

「さて、お喋りはここまではだ。サ・ファイ・ザー! ゴッドバード!」

「──!」

 

 ──サ・ファイ・ザーのゴッドバード! 

 声すら届かない世界。広がるのは光のみ。

 瞬間、光がレッドを包んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現在──

 

 

「いやぁあああ!」

「ちょっと、ブルー⁉ どうしたの、ねぇったら!」

「……ブルー?」

 

 

 顔だけ後ろに動かす。そこには頭を押さえながら怯え叫ぶブルーの姿。リーフはそんな彼女の肩を掴んで体を抑えている。

 状況が分からない自分にナツメが丁寧に答えを教えた。

 

 

「どうやらその小娘にはトラウマがあるようだ」

「トラウマ?」

「……なの……」

「え、なに? ブルー?」

「だめなのよぉあたし! とりポケモンだけはどうしてもだめなのよ! こわい……こわいの……」

 

 

 これは尋常ではないとすぐに分かった。だからとりポケモンではなく、プリンでそらをとんでいたのかと同時に納得した。

 だが今この状況でブルーに構ってあげられる時間はない。そしてリーフとブルーの二人を護れる自信もなかった。

 

 

「リザードン、かえんほうしゃ!」

「グリーン!」

 

 

 その時崩壊した壁の外からリザードンに乗ったグリーンが現れる。放たされたかえんほうしゃはサ・ファイ・ザーの起こした風によってかき消されてしまう。

 

 

「ちっ、やはりダメか」

「グリーン!おじいちゃんたちは⁉」

「おじいちゃんは助けた。だが、地下2階にある部屋は厳重な扉で、ポケモンの攻撃すら効果がなかった。だから、だれかしら鍵を持っていると思って合流した」

「そこはシルフカンパニーの地下金庫。中と外、両方から破られないようポケモンの攻撃にすら耐えられる特殊装甲だ。感謝してほしいな。そのおかげで、例えこのビルが崩れても無事に済むぞ? そして、これがそのカギだ」

「な、貴様ぁ!」

 

 

 鍵を見せるとナツメはそれを粉々に破壊し、冷静を失ったグリーンをレッドが止める。

 レッドはいまこの状況を冷静に分析していた。グリーンが来たことにより戦力は確かにあがった。だがそれでも、自分の負担が大きい。ナツメは気づけば『じこさいせい』をして完全ではないだろうが回復している。

 それに自分の戦闘スタイルではむしろ彼らは足手まといだ。そしてなによりも、この戦いは自分とナツメの戦いだ。何人たりとも邪魔はしてほしくはない。

 つまりは、男の意地というやつだった。

 

 

「ここにマサラタウンのトレーナーが全員(・・)揃ったわけだ。さあどうするレッド? 戦いはまだ続いているぞ」

「ああ。確かに、そうだ。だから……俺がヤツと決着をつける。お前らは脱出しろ」

「そんなレッドを置いていけるわけないじゃない!」

「そうだ。だが、カギはアイツに破壊されてしまった以上やることは限られている!」

「それは問題ない。ブルー」

「……え?」

 

 

 未だに怯えるブルーの前に膝をつき、彼女の肩を掴んで優しく語り掛ける。

 

 

「メタモンは何にでもへんしんできるんだな?」

「う、うん」

「なら、メタモンをカギにへんしんさせて開けさせればいい。できるよな、ブルー」

「……うん、わかった」

「なら急ぐぞ。建物全体が崩壊の兆しを見せている。しかしレッド、お前はどうする?」

「言ったはずだぜ。決着をつけるって」

「死ぬなよ」

 

 

 言葉ではなく頷いて答えを示した。

 レッドはそのままブルーを立ち上がらせると、いきなりブルーの唇を奪った。さすがに舌は入れなかったようだが、肩を掴んでいた右手が気づけば彼女の下半身にさりげなく移動し、お尻を愛撫していた。

 突然の行動に顔を赤く染めるブルー。グリーンは呆れた顔してそっぽを向き、リーフは口をぱくぱくと上下させている。

 この光景はブルーがレッドを突き放すまで続いた。

 

 

「な、ななな! なにすんのよ! どさくさに紛れてお尻まで触って!?」

「これで今までの貸しはチャラだ。これぐらいの事は許されると思うが?」

「そ、それでも、乙女の唇を簡単に奪って──きゃ!」

 

 

 再度ブルーの唇を奪うと、今度はそのままリザードンの背中へと投げるレッド。

 

 

「頼んだぞ、グリーン」

「わかった! いけ、リザードン!」

「死んだら承知しないわよーーー!!」

 

 

 それは本当に死んだらなのか、それとも唇を奪った責任を取らすのが目的か。まあどうでいい。レッドはまだ残っているリーフと向き合う。彼女はうつむきながら言った。

 

 

「……死んじゃうよ」

「死なない」

「うそ!」

「本当だ」

「なんで、そこまでするのよ⁉」

「あいつに、惚れてるんでな」

 

 

 視線をナツメに向ける。彼女は未だにこちらを見下ろしながら待っていた。

 

 

「じゃあ、まだ惚れてるだけなんだ」

「ん? いや、それ──―」

 

 

 突然視界に飛び込むリーフに唇を奪われる。だがそれにしても長い。ブルーとは違って20秒以上はキスをしていた。

 

 

「お前……」

「死んだら許さないし、絶対に諦めないから」

 

 

 そう言い残してプテラを出してリーフはグリーンのあとを追う。突然の彼女の行動に驚かされ、頬を掻きながらちらりとナツメを見た。

 怒ってはいないが、よくない顔をしていた。

 

 

「こんなにも愛し合っている女の目の前で、堂々と三回も別の女とキスをするとは。まったく、とんだプレイボーイだ。私は悲しいよ、レッド」

「悲しんでもらえるなんて嬉しいねぇ。で、さっきのカギは壊してないんだろ?」

「ああ」

 

 

 うなずいて先程壊れたはずのカギを見せるナツメ。しかしもう用が済んだのか床に投げ捨てた。

 

 

「お前と、二人だけの戦いを邪魔されたくはないからな」

「それもそうだ」

「さて。第2ラウンドは私の勝ちだ、続いて第3ラウンドになるな。サンダーを失ったいま、お前に残された手は限られている。目の前にはサ・ファイ・ザー、そしてこの私だ」

 

 

 腰にある4つのボールを投げた。リザードン、フシギバナ、カメックスにピカチュウ。その眼には闘志のみが宿り、敵対するサ・ファイ・ザーを睨む。

 

 

「サ・ファイ・ザーがお前の切り札ってんなら、俺も出すぜ。とっておきの切り札(ジョーカー)を!」

 

 

 ポケモン達、特にピカチュウを除いた三匹がその場に大きく足を開き、体を固定する。そんな中、ピカチュウは『じゅうでん』を開始する。

 やれるはずだ──

 これから行う技は、彼ら御三家のみが覚えることができるそれぞれの属性の最終奥義。本来であれば簡単に習得ができるはずがない。

 リザードンには『こう、ぼぉおおって感じ』、フシギバナには『なんていうか、根っこがずどどって感じ』、カメックスには『強引に止めたホースを離して飛び出す水のような感じ』と小学生のような表現で伝えるレッドであるが、彼らはそれを必死に理解しようとしたどり着いた。

 しかし独学のために未だに成功確率は低い。

 だが失敗などレッドはおろかポケモン達は微塵も思っていない。あるのはたった一つ。

 目の前の敵を倒すことだ。

 

 

「勝負は……一撃だ」

「ああ」

 

 

 静寂。

 誰ひとりとして声を出さない。ただ、主の命令を待つ。

 戦いのゴングを鳴らしたのは、崩壊しかけていた天井の一部が落ちた音であった。

 

 

「サ・ファイ・ザー! かえんほうしゃ、ふぶき、かみなり!」

「三位一体──」

 

 

 迫りくる三色の攻撃。しかしまだ迎え撃たない。

 リザードン、フシギバナ、カメックスの前に徐々に収束する三匹のエネルギーのチャージがまだ……まだ……いま! 

 

 

究極技一斉射(アルティメット・バースト)!」

 

 

 ブラストバーン、ハードプラント、ハイドロカノン。3つの究極技が一つになり放たれた。それはサ・ファイ・ザーの一撃と衝突するどころかサ・ファイ・ザーごと飲み込む。その砲撃はそのまま天井を突き破り、ビルの外まで貫いた。

 究極の一撃を間一髪のところで避けたナツメはまだ諦めていなかった。サ・ファイ・ザーはすでにやられてしまったのは感知している。だが、これほどの攻撃とエネルギー。絶対に反動で動けないはずと確信し、攻撃の体制に入る。

 

 

「まだだ! まだ、私達の戦いは終わってない!」

 

 

 その手にサイコパワーを纏い特大のサイコキネシスを放とうとするナツメ。そこで、地上から新たなエネルギーを感じ取った。

 ──ピカチュウは限界までじゅうでんした! 

 ──ピカチュウのおんがえし! レッドに持てるすべてのエネルギーを渡した! 

 

 

「ナツメェーーー!!」

「レッドォーーー!!」

 

 

 ──レッドのボルテッカー! 

 ──ナツメのサイコキネシス! 

 激突する両者の最大出力の技と技のぶつかりあい。拮抗する両者――いや、レッドが押されつつある。いくらピカチュウのフルじゅうでんとは言え、元々生み出せるエネルギーには限界がある。もし体力が満タンであれば易々と突破できたかもしれない。けどいまはひんしの状態に近い。

 それでも、諦めない。常に自分を信じると誓った。

 だからこれは──ただのわるあがきだ。

 

 

「うわぁああああああっ!!」

 

 

 無理やり馬鹿みたいに叫ぶ。腹の底から声を出し、叫ぶ。

 

 

「──!」

 

 火事場のバカ力というべき力でサイコキネシスを破ったレッドはそのまま力を失い、同時にナツメもも力を失う。

 そのままナツメを捕まえ、力を失ったことで二人はそのまま床へと落下する。

 

 

『『……』』

 

 

 レッドはナツメに覆いかぶさるような形で力尽きていた。どいてやりたいがまだ上手く体を動かすことができない。

 何とか意地でレッドは勝利を宣言する。

 

 

「だい、3ラウンドは……おれの、かちだ……」

「……ああ……そうだ、な」

「1対1だ……つぎ、どうする」

「……先に、キスをした方が勝ちというのは、どうだ……。まあ、私はうごけな──んっ」

 

 

 最後まで言わせないように、ナツメの口を塞いだ。この時だけは身体が動いた。が、キスをしたらまた動けなくなり、しばらく互いに唇を離すことができないでいた。

 というのは嘘で、そうしたかったからだ。

 そしてようやく唇を離すと、初めて見る彼女の優しい顔を見た。

 ナツメはレッドの顔に手を添えて言った。

 

 

「本当、どうしてお前のことを好きになってしまったんだろうな」

「好きになるのに理由なんていらないさ」

「そうだな、ああそうだ。ところで、レッド。お前も私の事が好き、なんだよな?」

「言ったろ、大好きだって」

「そうか。なら……」

「あれ、ナツメさん。ちょっと、頭が痛いんですけど……」

 

 

 力を失って動けないと言ったのは嘘だったのか。両手で頭を掴み、今にも卵を割るような勢いだ。

 

 

「お前の頭の中にリーフ、ブルーはまあいいだろ。エリカはムカつくがそれもいい。それとナナミという女も……まあ幼い頃を考慮すれば理解できる。だが」

「だ、だが……?」

「お前の奥底にいるあのハナダの女は誰だ? 今でも少なからずお前の中に強くある存在は!」

「ゆ、許して、お願いします……お姉さんは、その、言葉ではうまく言えないの! でも、恋愛感情じゃないの!」

「……嘘は、言ってないな」

「うん」

「まあ……いい」

 

 

 今度はナツメからのふいうちで唇を奪われた。

 

 

「それに話したいこと、あるのだろう?」

「……ああ」

 

 

 好きになった人がナツメでなければ、ずっと心にしまっていた。けど、彼女はエスパーで頭の中を覗けてしまう。つまり隠し事はできない。だから最大の秘密を告白しようと思っていた。

 だが、それはいまじゃない。

 

 

「けど、まだやるべきことが、あるッ」

 

 

 僅かに残ったでんきを体に流し、無理やり体を動かして立ち上がる。このままナツメを抱えて脱出したいが、そうはいかない。

 奴が、サカキが待っている。

 ナツメはそれを読んだのか、それとも自然と理解したのかそれを受け入れてくれた。

 

 

「わかったよ。私はジムで待っている」

「ああ。またな」

「──うん」

 

 

 優しい声で答えたナツメは、初めて見せた笑顔をレッドに送りジムへとテレポートした。

 レッドは倒れているポケモン達をボールに戻す。それとひんしになったことで合体が解かれたサンダー、ファイヤー、フリーザーを回収しゆっくりと最上階を目指す。

 だが、歩くのがとても辛い。体中が悲鳴をあげているのか、言うことを聞いてくれない。それでも、前へ一歩踏み出す。急がなければシルフカンパニーの崩落が始まる。先程の戦いで限界が来ているはずなのだ。

 こちらの手持ちで満足に戦えるのはスピアーとカビゴンのみ。相性は圧倒的にこちらが不利な状況。それでも、まだ戦いは終わっていない。

 なんとか最上階までたどり着くと、そこにはサカキがすでに待っていた。それも両手をポケットに入れ、威風堂々としている。

 

 

「待っていたぞ、レッド」

「サカキ、これでロケット団は終わりだ」

 

 

 レッド自身、これでロケット団は完全に壊滅したとは思ってはいない。現に金銀ではロケット団の残党が暗躍、さらにサカキの生存は匂わせていた。うろ覚えだが最新作ではレインボーロケット団なるものもいた。そこにサカキがいるかは知らないのだが。

 だから未来のためにも、ここでサカキを討つ。

 スピアーが入ったボールをなんとか構える。

 

 

「終わりじゃないさ。例え私が死んでも、『R』は受け継がれる。まあ、簡単に死んでやるつもりもない」

「御託はいい。俺と、俺とバトルをしろ……」

「ああするさ。だが、ここじゃない。それに満身創痍のお前を倒してもなんにも面白くはない。だから、こうするのさ。やれ」

 

 

 サカキが通信機でどこかへ命令すると、シルフカンパニーのあちこちで爆発が起き始める。

 

 

「なんだ、何をしたサカキ⁉」

「なに。シルフを支える柱にイシツブテを仕掛け、じばくさせただけだ」

「な──⁉」

「これはケジメだ、レッド。ロケット団が確かにお前に負けたというな。では、待っているぞレッド。私達が戦うに相応しい場所──トキワシティでな」

「ま、待てサカキ──くっ!」

 

 

 どこかへ去ろうとするサカキを追いかけようと体を動かそうとした瞬間激痛が走る。そのおかげか、崩れた天井に押しつぶされずに済んだ。

 そして、シルフカンパニーの崩壊は完全に始まっている。今すぐここから脱出しなければならない。

 だが、レッドは動かない。その手に持つモンスターボールを握りしめ、いるはずのないサカキに向けて叫ぶ。

 

 

「……戦えサカキ。俺と、俺とバトルしろぉおおお!!!」

 

 

 彼の叫びは崩壊し続ける音によって、けしてサカキに届くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シルフカンパニー正面玄関付近。そこにはグリーン達に救出されたマサラタウンの人々が警察やタケシ、カスミ、エリカをはじめとした正義のジムリーダーたちによって保護されていた。

 その中にリーフもおり、いまは姉であるナナミを介護していた。

 

 

「お姉ちゃん、大丈夫?」

「ええ。私は大丈夫よ、リーフ。グリーンもありがとう」

「礼ならあの女に言ってくれ」

「女? その子は?」

「あれ、ブルーったらいつのまに」

 

 

 さっきまで傍にいたブルーがいない。まあ、それも当然かと納得する。彼女はレッド曰く泥棒らしい。ならば警察などがいるこの場には長く留まりたくないのだろう。

 それでも、ブルーがいなければみんなを助けられなかった。

 だから、ありがとうと心の中で伝えた。

 介護を受けながらナナミにレッドはと問われる。すでにボロボロになったシルフカンパニーの上に目を向け伝えた。

 

 

「まだレッドは、あそこで戦ってる」

「そんな! レッドくん……」

「それよりも姉さんにみんなもだ。今はここを離れた方がいい。シルフの崩落に巻き込まれてしまう」

「え、ええ。そうね──なに!?」

 

 

 突然の爆発。それも一か所ではない。次々とシルフカンパニーのあちこちで立て続けに爆発が起きる。

 警官や自警団が逃げろと叫ぶ。ジムリーダーや他の人間たちの誘導に従いながら避難する人々。彼らに襲いかかるビルの破片をジムリーダーをはじめとしたポケモン達が排除する。

 リーフとグリーンもそれを援護するようにポケモン達に指示を出す中、ナナミが崩壊するシルフカンパニーに向けて走り出すのを、何とか止めながら説得する。

 

 

「ダメだよ、お姉ちゃん! いま行ったらお姉ちゃんまで巻き込まれちゃう!」

「離してリーフ! あそこにはまだ、レッドくんが⁉」

「わかってる! わかってるよ! でも、レッドなら大丈夫だから!」

 

 

 嘘だ。本当は自分だって飛び込みたい。だけど、それはできない。

 涙をこらえるリーフの耳に誰かが叫んだ。

 

 

「おい! アレを見ろ!」

「なんだアレは⁉」

「ポケモンだ!」

「カビゴンだ! やられたんだ、落ちてくる!?」

『ほわぁあああ!!』

 

 

 突如、空から一匹のカビゴンが咆哮をあげながら落下してくる。そう認識した時にはすでに地上へ落下した。460㎏もあるカビゴンが落下すれば、コンクリートなど簡単に粉砕してしまう。

 

 

「カビゴン……は! レッド!」

 

 

 リーフの声に釣られてナナミもカビゴンに駆け寄る。カビゴンの腕の中にはボロボロになったレッドが優しく抱きかかえられていた。

 

 

「レッドくん⁉ ひどい……! 誰か、誰か担架と医療キットを!! 早く!」

 

 

 ナナミはこれでも医者でもある。主に研究所でポケモンを癒すのが仕事であるが、同時に人間の医者でもあった。彼女はすぐにレッドの状態を把握して声を飛ばす。

 リーフはそれを見て、実の姉がレッドのことを自分と同じくらい想っているのだと確信した。なぜ今まで気がつかなかったのだろうと、我ながら鈍感すぎると思った。

 

 

「あれ……スピアー?」

「そうみたいだな」

 

 

 カビゴンに続いて空からボロボロのスピアーがゆっくりとカビゴンの肩に着地した。グリーンはスピアーの状態を見て言った。

 

 

「おそらく、レッドを抱えたカビゴンの道を作っていたんだ。見ろ、槍や体全体に破片を削ったカスがついている」

「二人とも、主人想いなんだね」

「走ったから腹減った」

「……」

 

 

 カビゴンの空気を読まない発言にはさすがのスピアーも疲れてちょっかいを出す気にはなれなかった。

 

 

「ふふ。でも、やっと終わったんだ」

「ああ。ロケット団の最後だ」

 

 

 二人は完全に崩れ落ちたシルフカンパニーを見て、勝ち誇った笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意識が覚醒するときというのは、一番意識がハッキリとしている。だからこそ、この覚醒した数秒間でだいたいのことが不思議と分かってしまう。

 まず、体中が言葉で表せないぐらいに激痛が襲っている。起き上がろうとしても力が入らない。指の先がやっと動くくらいだった。

 

 

(……ん)

 

 

 だから無理やり体中に電気を流して強引に動かした。

 

 

「いっ、てぇ……」

 

 

 体を起こせば、なんで重たいのかわかった。ナナミだ。彼女がお腹のあたりを枕にして寝ていた。

 もしかして、ずっと看病してくれたのだろうか。

 ナナミの肩を優しく揺らして名前を呼びながら起こす。

 

 

「ナナミさん」

「ん……れっど……くん?」

「うん。おはよう」

「──レッドくん!? よかった、本当によかったよぉ……」

「心配してくれてありがとう。大丈夫、この通り生きてるよ」

「うん、うん!」

「ところで、ここは?」

「ヤマブキの、ポケモンセンターよ」

 

 

 流している涙を白衣の袖で拭きながら言った。

 

 

「そっか。俺、どのくらい寝てた?」

「3日よ。本当はリーフもいたんだけど、2日目の朝にはまた旅に戻ったわ。それとグリーンとリーフから伝言。セキエイ高原で会おうだって」

「そっか。でも、俺ジムバッジねぇや」

 

 

 セキエイ高原で開かれるポケモンリーグにはバッジをすべて集めないと参加すらできない。バッジはブルーに奪われた後は知らない。おそらく、あの増幅器にはめ込んだあとなんだろうが。

 それにグリーンバッジについてはどうするつもりなのだろうか。

 

 

「何言ってるのレッドくん。ポケモンリーグに参加するのにバッジはいらないわよ? 今年もルールに変更がないなら勝ち抜きのトーナメント戦ね」

「えぇ……」

 

 

 ではバッジを集める必要ないんじゃ。それに四天王の存在とか意味ないんじゃとか考えだしたらキリがなくなってきた。

 

 

「それとね。スピアーなんだけど、レッドくんボールに戻してあげて」

「え?」

「あなたを抱えて飛び降りたカビゴンは、ご飯を食べてすぐにボールに戻ったんだけど。この子だけは少し休んだだけでずっとレッドくんを護っていたの」

 

 

 まだ完全に覚醒していないのか、部屋にスピアーがいたことに今気づいた。体はボロボロで、あの時の戦いのままだ。おそらく、ロケット団の残党が来ないか警戒していたのだろう。

 

 

「ありがとう、スピアー」

 

 

 頭を撫でたあとボールに戻した。

 

 

「ジョーイさんが気を利かせてくれてね? 小型の回復装置を置いてくれたの。傍にいてあげた方が、ポケモン達も喜ぶし、レッドくんが目を覚ますだろうって。でも、10個はちょっと多いわね」

 

 

 ナナミがスピアーのボールを置くと、嫌と言う程聞いたあの音が流れてスピアーが回復した。

 3日も寝ていたとなると、相当体が鈍っていることになる。急いで調整し、やり残したことを片付けなければならない。ベッドから降りようとすると、ナナミがすごい剣幕で止める。

 

 

「ダメよ! まだあと数日は絶対に安静にしていないと!」

「ごめん、ナナミさん。でも俺、まだやらなきゃいけないことがあるんだ。それに会いに行かんきゃいけない人がいるんだ」

「……それって、ここのジムリーダーのナツメさんのこと?」

「……なんで知ってんの?」

 

 

 思わずいつもの口調に戻ってしまった。ナナミは続けて言った。

 

 

「リーフが教えてくれたの。フェアじゃないって」

「フェアって……」

「好きなの? ナツメさんが」

「うん」

「そう……。でも、諦めないよ」

「……へ?」

 

 

 リーフもそうだが、なんでそこで諦めないという言葉が出てくるのだろうか。いっそのこと、一発頬を殴って色々とお互いスッキリしてほしいと思っていたのだ。いや、自分にそれを言う権利はないのは当然だ。

 だけど、なんでこうなるのかと思わずにはいられない。

 

 

「だって、レッドくん以外の男性の人なんて好きになれないもん」

「い、いや。それはちょっと極論すぎません?」

「世の中、自分の想い通りになるとは限らなの。それに、マサラで交わした約束忘れてないよね?」

「……もしチャンピオンになったらデートしてください」

「もしなれなかったら?」

「慰めてください……」

「せーかい。もちろん、レッドくんから私に言ったんだもん。まさか、破らないよね?」

「……ハイ」

「よろしい。あとね、今だから言うけど。私がレッドくんの一番だから」

「……えーと。それ、どういう意味?」

「さぁ、どうなんでしょうか? じゃあ私ご飯持ってくるからね」

 

 

 かつてない程の笑顔を見せながら、ナナミが部屋を去っていくのを確認して小さなため息をつく。身から出た錆とはこのことかと。とりあえず、真実を知るのは怖いがナツメには何て言おうか。

 いや、多分もう知ってそうな気がする。

 レッドは考えるのを放棄して、目の前にある小さいテレビに向けてリハビリがてら電気信号を飛ばして電源をつけた。

 映ったのはとカントーのニュース番組であった。

 

 

『こちら、ハナダ北西部にある森林地帯の上空です! ごらんください、先日まで緑で溢れていたこの森が、一瞬にして不思議な形を残して消えました。えー待ってください……あーる? あ、これは「R」です! もしや先日壊滅したロケット団の残党なのでしょうか⁉』

 

 

 どうやら、おちおち寝てはいられないらしい。

 ハナダ北西部。その付近にあるのはハナダの洞窟。つまり、あれはミュウツーからのメッセージだ。おそらく『R』はレッドのRだ。ロケット団のRとは考えにくい。

 ベッドから降りておいてあった着替えを手に取る。パンツ以外には全身に包帯が巻かれているが、気にせず上に服を着こむ。たぶんナナミが似たような服を用意してくれたのだろう。デザインは違うが、自分らしい赤を基調としている。

 他にはバッグも置いてあるが、もう道具を持つ気はないのでこの際持っていかないことにした。あとはポケモン図鑑、FR号が入ったボールにポケモン達。サンダー、ファイヤー、フリーザーのボールを持って三匹に言う。

 

 

「もう少し待っててな」

 

 

 ボールの中で鳴く三匹に苦笑して、レッドは窓から飛び降りてヤマブキジムへと向かった。

 それから数分後。ポケモンセンターに一人の女性の叫び声が響き渡るのは知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヤマブキジムの前。扉には休業中と張り紙が張ってあった。まあ、当然かとレッドは納得する。自分よりはマシとはいえ、かなりダメージを負っているのだ。ジム戦はしばらく休業するだろう。

 するとガチャリと入り口のカギが開いた。

 人の気配はない。つまりはそういうことだ。

 レッドは肩をすくめながら中に入る。ジムの中はゲームと似たようなもので、テレポート装置があった。

 何か来る。

 次の瞬間ナツメのユンゲラーが現れた。

 

 

「出迎えごくろうさん」

 

 

 ユンゲラーはうなずくと、レッドは彼の肩に手を置いた。瞬間すぐに別の景色に移り変わる。

 目の前には椅子に座ったナツメの姿が。服装はロケット団ではなく、ゲームで見た馴染のある服装をしていた。

 

 

「そっちのが似合ってるぞ」

「もう知ってる」

「でも、ちゃんと言葉で言われた方が嬉しいだろ?」

「……まあ、な」

「あのさ。こういうことを言うのもあれだけど、すごい変わったな」

「そ、そうか? そんなつもりはないが」

「なんか丸くなったっていうか、牙が抜け落ちたというか。言葉に棘もなくなった感じで……うん、ちょっと優しくなって可愛くなった」

「……当然だ。私は……可愛いんだ」

「うん」

 

 

 嘘偽りのない言葉を贈ると、またナツメは照れた。本当に変わったなって思う。

 だから、ちゃんと自分のことを伝えてから二人の関係を始めたい。

 

 

「知ってると思うけど、俺前世持ちなんだ。まあ、生まれ変わりってやつ」

「の、ようだな」

「それもちょっと特別なんだけど。まあ、この世界のことを知ってる」

「私のこともか?」

「うん。知ってるから、自分のことを好きになったんだろって言われたらそうだって言うしかない。けど、お前が好きなんだ。俺は、お前が好きだでたまらない。これ以上の理由なんて、俺は持ってない」

「私は──」

 

 

 ナツメはゆっくりと歩いてくると、右手をぎゅっと握りながら言った。

 

 

「私はお前が好きだ。いいか、お前が好きなんだ。誰でもない、マサラタウンのレッドが。だから、そんな些細なことなんて……どうでもいい。私にとって過去や未来ではなく、今が大切なんだ」

「些細なこと、か。結構悩んだんだけど」

「お前は、変な所でバカなんだよ」

「へいへい。俺はバカですよー」

『『……』』

 

 互いに手を握り目ながら見つめ合ってどれくらいだろうか。ただ何も考えずに彼女の目をずっと見ていられるような気がした。

 短い静寂を破ったのはナツメの方だった。

 

 

「こういう時、どうすればいいかわからないんだ」

「簡単だ」

 

 

 レッドは両手を広げながら言った。

 

 

「抱きしめてやる。こい」

「……うん!」

 

 

 精一杯の想いを込めて抱きしめ合う二人はキスをしながら後ろに倒れこもうとしてた。しかし、それをユンゲラーの念力が二人を宙に浮かせる。さらにユンゲラーは二人をゆっくりと回転させる。意外な演出家が傍にいたものだ。

 

 

「名残惜しいけど、もう行くよ。まだ、やらなきゃいけないことがある」

「……分かってる」

 

 

 頭の中を読んだのか、ナツメはうなずいてすぐに言った。

 

 

「それと、もう頭の中は覗いていないぞ」

「そうなのか?」

「私だって常に覗かれているのは気分が悪いから……。まあ、女性関係については容赦なく覗くけど」

「……努力します」

「このスケベ、すけこまし」

 

 

 何となくすごい可愛い言い方をするなと思った。

 ナツメは小さなため息をつきながら両手を前に出した。

 ──ナツメのいやしのはどう! レッドの体力が回復した。

 今まで辛かった体の痛みが取れ、無理やり電気を流さなくても動くようになった。

 

 

「ありがとう。やっぱお前、最高の女だよ」

「ふん。どうせ、すぐにまだボロボロになるんだ。一日も経たずに死んでもらっては困る」

「なに、何とかなるさ。それじゃあ、今度はセキエイ高原で会おう」

「わかった。ユンゲラーに送らせよう。場所はハナダでいいか?」

「いや、誰もいない草原でにもしてくれ。先にやることがある」

「わかった。それと……こほん」

「?」

「が、がんばって……レッド」

「ぜってぇー生きるわ」

 

 

 瞬間ユンゲラーはレッドを連れてテレポートし、直後顔を真っ赤にしながら自分の部屋にこもったナツメであった。

 

 

 

 

 

 

 

 ユンゲラーのテレポートで送ってもらったレッドは、そのままナツメに戻る彼に礼を言ってすぐに別れた。

 辺りを見渡せば、以前ブルーと共にミュウを捕獲した場所と似たようなところであった。広がる草原、吹き渡る風。久しく感じてなかった、冒険の匂いだ。

 腰から三鳥のボールを空に投げる。久しぶりの外で嬉しいのか、縦横無尽に駆け回る。少しして三匹はレッドの前に降り立った。

 

 

『ありがとう、レッド』とフリーザーが礼を言った。

『君は我々の恩人だ』とファイヤーが感謝を述べた。

『俺は悪くねぇから』とサンダーが言い訳をした。

 

 

 何故ここまでハッキリと声が聞こえるのか尋ねると、まだ増幅器のエネルギーが体内に少なからず残っているらしい。それもすぐに消えてしまうが、その前に感謝の気持ちを伝えたかったようだ。

 

 

『あなたがいなければ、きっと私達は人間達に酷いことをしていたでしょう』

『我々の強大するぎる力は、両者のバランスを崩してしまう。我々は自然と共にあるべきなのだ』

『レッドが人間側のバランスを崩してると俺は思う』

「そっか。うん、俺もそう思うよ。捕まえようとしてた俺が言うのもなんだけどね。けど、どの場所でもお前らと同じような存在を求める人間は少なからずいるのも現実だ」

 

 

 レッドの言葉にうなずくフリーザーとファイヤー。サンダーは無視されて拗ねていた。

 

 

「でも、人間がピンチの時は助けてくれよな」

『確約はできない』

『だがレッド、君は恩人だ。君がもし、我々の力が必要な時は呼んでくれ。いつでも力を貸そう』

「ありがとう。フリーザー、ファイヤー』

『では、行こう』

『さらばだ。マサラタウンのレッド』

『『ギャーオ!!』』

 

 

 そして二匹の伝説のポケモン達は空の彼方へそれぞれに飛んでいく。残ったサンダーはじっとレッドを見つめた。

 

 

「お前はいかないのか?」

『これからもきっと、お前は戦い続ける。その時に俺がいなくてもいいのか?』

「そう言われると、ちょっと痛いなぁ」

 

 

 現にサンダーが生み出す無限のエネルギーがあったからこそ、ナツメ達と戦うことができた。普段の自分ならとっくにやられていたに違いない。

 

 

『だろだろ? やっぱお前には俺が必要なんだって!』

「なんだ、お前。俺と一緒に旅がしたいのか」

『お前といると退屈しない』

「あのサンダーにそう言ってもらえると嬉しいな。でも、お別れだ。伝説のポケモンっていうか、さっきの話の通りだ。お前達は自由であるべきなんだよ」

『わかった……もう我儘は言わない』

「ああ、俺も別れは辛いよ」

 

 

 するとサンダーの体が光り輝き、小さな光の玉が現れた。大きさはモンスターボールぐらいだろうか。透明な玉の中にはかみなりが渦巻いている。

 それに似たようなのをどこかで見たことがあると思ったレッド。少し考えて、これが生前に見た映画に出てくるアイテムが、このような形をしていたのを思い出す。

 

 

『本当はこういうのはよくないんだが、間抜けの二人には内緒な』

「これは?」

『俺の加護みたいなもの。お前らで言うポケモンのアイテム』

「雷の玉ってやつか」

『そうなる。まあ、ポケモンじゃなくて、お前専用だけど』

 

 

 サンダーが言うと雷の玉が体の中に入った。思わず通り抜けたと思って後ろを向くがなにもない。本当に体の一部になったらしい。

 

 

『この前ほどじゃないけど、十分にやれるはずだ。それは俺と繋がっているから、お前の身にもしものことがあればすぐに分かる』

「何から何まで悪いな」

『いいさ。お前は俺のマスターだからな。では、さらばだレッド』

「またな、サンダー」

『ギャーオ!』

 

 

 フリーザーとファイヤーとは別の方向へ飛びたっていくサンダーを見送る。空になった3つのボールを見て、笑みを作るレッドは前を向いて言った。

 

 

「さあ。いくか、ハナダへ」

 

 

 一つの別れを体験したレッドであるが、足取りは軽く晴れやかな顔つきだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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