深夜1時。
こんな時間にどこ行くの?と母。
「どこって、現場に決まってるじゃん!」と私は答える。もう理解しているのか、母はそれだけで納得してしまう。
機材を鞄に詰め、自転車に乗りひた走る。車数も少ない深夜、人々が寝静まる時刻だ。
目的の場所へ到着。そこはとある線路際。こんな時間、電車も無ければ、最終の貨物列車も通過済み。いったい何が来るのかと思う方も少なくないだろう。線路上には多数の作業員の姿。何やら話をしている様子がうかがえる。
どのくらい経っただろうか、遥か向こうから一筋の光が見えてきた。こちらへと向かってくる。私は心の中で、よし来た!と叫ぶ。
やって来たのは電気機関車に繋がれた、見慣れない形の長い貨車。そこには長いレールが載っている。
一旦停車し、数人の作業員が貨車の中央と最後部へと上がっていく。
慣れた手捌きで固定装置を外し、電源が起動される。その瞬間、暗闇だった線路際は一気に明るさを増す。
そしていよいよ卸す時間。長い汽笛が静寂に響き渡り、貨車は動き出した。私はすぐに最後部へと向かう。「もう一つの顔」を見る為に。
直線のイメージが強いレールだが、取り卸し時には大蛇の様なしなりを見せる。この姿が、多くの方の目に触れる事は無い…
停車しては動きを繰り返し、鉄路の生命線を卸す。
私はその瞬間を狙うべく、ひたすらシャッターを切り続ける。
2本目、3本目…次々と卸されるレール。
ここで長らく設置されていた留め木の出番がやって来る。卸された後は機械と人力で本線横へ置かれる。
吊り上げるのは機械、操作するのは人。巻尺特有の音が響く。
1時間半ほどで作業は終了。しかしすぐに動き出す訳では無い。線路閉鎖時間終了までその場で発車待ち。日中は頻繁に列車が往来する本線上に長時間停まる姿も、レール輸送ならでは。
そして発車時刻。長い汽笛を鳴らし、ゆっくりと動き出す。列車は輸送拠点の操車場へと帰って行った。
帰宅し撮影画像を見返す。
終電から始発の間という僅かな時間で、安全運行に不可欠な作業を行う鉄道マンの姿が映し出されていた。
しかしらいつも作業の撮影条件が良好とは限らない。想像を絶する大雨、撮影地点のロケーションの悪さなど、様々な困難が付き物。
限られた範囲の中でどう撮るか。これが大切な事なのだろう。
時計をふと見ると午前4時。明日、いや今日も仕事。私は布団へ潜り込んだ。
いつまでも、この光景が撮れる事を願って。名付けて、夜の社会科見学。
〜あとがき〜
初めてネット上でエッセイ(?)を描きました。私が工臨現場を撮影する時の様子、感じている事を軽くまとめたものです。
まだまだ未熟者ですが、温かい目で見ていただけたら幸いです…