1月29日付本紙に「受診拒まれる外国人 仮放免中で困窮 医療機関未払いを懸念」という記事がありました。この方は不法滞在で収容され、仮放免になり、現在は難民認定申請中だそうです。
どこの国でも在留資格がなければ外国人は送還対象となり、働くことも健康保険に加入することもできません。この方は妊娠中だそうで、個人的には何とも気の毒だと思います。しかし、なぜ仮放免なのかを考えてみます。
どのような事情でも、送還に応じない人は入管施設に収容されます。一方で、難民や難民申請中の人を送り返してはいけないという国際的な決まりがあります。そこで家族や、コロナ禍による収容所の過密状況などを考えて一時的に収容を解かれている状態が仮放免です。
昨年4月、「特定技能」による外国人の受け入れ制度が始まりました。人手不足が深刻な職場に、即戦力となる外国人を受け入れる目的のものです。難民申請中の人は帰国して適性のテストを受けなければなりません。しかし、条約上の難民ではないけれど即戦力となり活躍してほしいと思える人は大勢います。6年以上ラーメン店で働き、経営者が病気で倒れてしまったため店を任されているとか、解体現場でアスベスト(石綿)や電気配線の除去に精通して頼りにされているとか、身に付けた技術があるのにもったいないと、残念でなりません。
多くの難民・避難民を受け入れている欧米諸国では何十年も前から、その国の状況に応じて国際的な義務を果たし、人手不足を外国人で補うという方針で行っています。
しかし、日本は単純労働者を受け入れていません。それが社会においての安全安心の基本という解釈のもと、申請者に対し丁寧に審査をしています。審査に何年もかかっている間に、一部が逃亡や困窮の末、犯罪に誘惑されることもあります。その結果、治安が悪くなる可能性もあります。そのような問題意識も持つ必要があるでしょう。勤勉で努力して働く外国人を評価し、互いに尊敬できるような社会になるよう、あきらめずに努力したいと思います。
私は「難民を助ける会」の活動に、41年前の創立時から関わっています。難民の理解者と自負し、入管の難民審査参与員を20年近く務めています。難民の蓋然(がいぜん)性が少しでもあれば認定すべきだと考えますが、千人以上をインタビューし、難民などとして在留を認めたのは20人だけです。
既に多くの外国人に助けられている状況も認識し、日本に貢献する仲間として迎え入れようとしているのか、それともその機会を狭めているのか、受け入れ基準を十分に議論すべき時と考えます。
群馬県は外国人に優しい県として多くの方々が認識しています。その共生の力を改めて学びたいと思います。
認定NPO法人難民を助ける会会長 柳瀬房子 東京都渋谷区
【略歴】1976年に前身団体設立メンバーとなり、理事長を経て現職。法務省の専門部会委員を務め、現在は難民審査参与員。東京都出身。青山学院大大学院修了。
2021/03/26掲載