(仮題)
少年が家で飼っている実装石を捨てに来たのは、ごく個人的な理由からだった。
家族が2泊3日の旅行に出かけ、少年が家に居残る事になった。
飼い実装に餌を食わせ、居間の大画面TVで秘蔵のDVDをオカズに自家発電をしようと思った時、ごくごく平凡な受験生である所の少年を「魔」が刺した。
正味の所「挿した」のは少年の方で、挿した物は「魔羅」だったのだが。
実装石は枕カバーに閉じ込め、上から荷造りロープで縛り上げ、事に及んだ。
充分に楽しんだ少年だったが、実装石が何とでも、花粉とでさえも妊娠するという事を失念していた。
実装石の緑に染まった両目を見て、少年は嘆息した。
両親は実装石にさほど興味を示していないが、妹はコレをそれなりに可愛がっている。
妊娠しているのを発見したら事情を聞くだろうし、そうなれば自分のしでかした事も発覚する。
よくよく考えれば妊娠しようがしなかろうが実装石が告げ口をする可能性は高かったのだが、とにかく実装姦が家族にばれるのは身の破滅に等しい。
幸いと言うか、この実装石はたまに一人で家を抜け出す事もある冒険心旺盛な個体だった。
たまに帰りが遅いと妹が心配して探し回るのだが、大抵は近所をケロリとした顔でほっつき歩いているのを発見するのが常だった。
今回はたまたま帰って来れなかった、そういう事にしよう、と少年は決める。
河を越え、新興住宅地に程近い山林に実装石を落とした。
体の痛みと、いきなりの仕打ちに混乱する実装石に少年は声を掛けた。
「じゃあな」
山林に投げ出された実装石は、自分を捨てて立ち去る少年を呼んで鳴いた。
『おにいちゃんサン!ワタシはここデスゥ!落ちたデスゥ!早く助けてデスゥー!』
落とされた道路に這い上がろうとして擁壁にしがみつき、ひとしきり鳴き、喚き、喉が枯れ、手足が痛む。
ゴシュジンサマと違って気が利かず、何かと自分の事をいじめる『ゴシュジンサマのおにいちゃん』を、この実装石はほんの少し小馬鹿にしていたが、また、家族として信用してもいた。
自分を家族として、人間と同列と考えてしまった実装石にとっては、自らが人間にとって亡き者にし得る存在にすぎないという想像は不可能だった。
ましてや少年は自分の純潔を奪った相手であり、自分の胎にはその命が宿っている。
実装石は自分が落ちた事に『ゴシュジンサマのおにいちゃん』が気付かなかったのでは、と考え、納得した。
しかたなく元々単独行動を好むこの実装石は、歩いて家まで帰る事にした。
『帰るデス~、帰ったらおにいちゃんサンと結婚してあげるデス、できちゃった婚は恥ずかしいデス~♪』
益体も無い妄言を胎教歌代わりに、下生えを掻き分け進んでゆく。
だが、山実装ならぬ元飼い実装にとって、山林は予想以上に踏破困難だった。
食料もなく、胎に仔を抱え、あても無く林をうろつく実装石には、人間なら迷う事などありえない程度の山林も大アマゾンのジャングルに等しい。
結果的にこの実装石が人里に降りてくるまで10日以上が経過してしまった。
ふくよかだった身体はやせこけ、身綺麗にしていた服もあちこちが変色し、破け、ほつれて酷い有様である。
本来なら野垂れ死にをしてしかるべきだったが、若干の判断力と強運が、この実装石の命をつないだのだった。
もっとも、人里に出た時点でその運は尽きてしまうのだが。
実装石がたどりついたのは、町外れの市民公園だった。
野良実装の気配はあるが、時間帯のせいなのか周囲に同族の姿は無い。
衰弱しきった体が強烈に求めたのは水だった。
林を徘徊する間、草についた夜露で辛うじてしのいできた。
胎に仔を抱え、空腹も極限に達しているが、何より喉を潤す清浄な水が欲しい。
公園の端にある水場を目ざとく見つけ、駆け寄っていった。
「デ…デ…デッ…デッ…デ…ッデ…?」
モルタルで浅く広めに取られた水場の、底に溜まった水へ近付くにつれ次第に腹がきりきりと痛み始める。
それは陣痛であった。
水を求めていたのは乾きのせいばかりではなく、生命維持が困難になった母体から強制的に仔を脱出させる機能が働いた為でもあった。
水場を目前にし、痛みから膝をつく実装石。
(あと少しで、子供が、水が、腹が、飲みたい、産まれる、痛い、痛い、いたい、いたい、イタイ・イタイ…)
混濁する意識の中、本能だけが実装石の手足を動かしていた。
うずくまった姿勢で仔を産み、一匹を引き寄せ、粘膜を舐め取った所で実装石の消耗は極限に達した。
『…オマ…おにいちゃ…サン…仔デ…ニンゲンさん…飼…デ…ス…』
水場を目前に、水を飲む事無く実装石は死んだ。
『テ…ママ、ママ、どうしたテチ?ママ?ママ~!』
きょとんとしていた仔実装だが親の異変に気付いて揺り動かそうとする。
『ママ、ママ!…ニンゲンさんに助けてもらうテチ!ママ!しっかりするテッチー!』
リボンを引っ張り親を動かそうとする仔実装、だがそこに近付く影があった。
『どうしたデスー?』
泣き叫び親に取りすがる仔実装に近付いたのは、一頭の成体実装だった。
野良実装らしく薄汚れた身なりで、死骸と仔実装を見て小首をかしげている。
『…!マ、ママが、ママがおかしいテチュ!助けてほしいテチー!』
『デ…おまえ、ママが死んじゃったデス?みなしごデスー?』
本当は仔実装は判っていたのだ。
人間の精を受けて生まれる実装石は程度の差こそあれ賢く生まれつく事が多い。
この仔実装は衰弱した親から、臨月を待たずに産み出された。
身体は平均的な仔実装より小さいが、知性は並みの実装石より高い。
だから
『…マ、ママは…死んでないテチュ…!ニンゲンさんのおクスリで助かるテチュ…!』
偽石から受け継いだ知能と生まれついての知性は親の死を理解していたが、同じく受け継いだ知能と知性、そして胎教代わりに受けた「人間との暮らしの素晴らしさ」の知識が、親の死を受け入れる事を拒んだ。
『デプププ…本当に死んだらもうダメデス、大体ウスギタナイ野良に何かしてくれる人間なんていないデス~』
『テェ!?お、オバチャンなんでイジワル言うテチ?ひどいテチ…、な、何するテチ!?ママ、ママー!』
野良実装は仔実装を抱え上げると、なにやら上機嫌で歩き始めた。
『テチャア!?や、やめてテチ!返すテチ!』
野良実装のダンボールハウスで待っていたのは野良仔実装の姉妹だった。
『おまえたち、わが家にも「お手伝い」がやって来たデスゥ~』
『テェ!ママすごいデチ!』
『どれいテチ?どれいテチ?』
『デ!ダメデスゥ、ドレイなんて言葉を使ったらいかんデス、あくまでこいつはお手伝いデスゥ~』
はぎとられた頭巾を返してくれと野良実装に哀願する仔実装だが、野良仔実装に突き飛ばされる。
『テェェ、い、いたいテチ…な、何するテチ!?やめてテチ!』
『だめデチ~、お手伝いはお手伝いらしくはいつくばるデチ~』
『テプププ、お手伝いのくせにおもらしして床を汚しちゃいけないテチ、おしおきがいるテチ』
『お前たち、あんまりこわしたり汚したりしちゃダメデス……ホドホドにするデス』
仔実装にとって幸運であり不運なのは、この公園が地域実装の推進地域だという事だった。
この公園の実装石は人間によって個体数を制限されている。
その代わり篤志家の手によって潤沢に餌を与えられているため、ごみを荒らしたり住居や商店に進入するといった迷惑事案が無い。
だが、生活レベルを保障されればそれ以上を望むのが実装石の常だ。
本来なら親を失った仔実装は人間に見つかれば保護される事になるのだが、その前に野良実装に見つかってしまった。
仔実装は共食いの危機を免れた代わりに、この親子の奴隷にされてしまった。
仔実装の奴隷生活は、過酷な生存競争下にある並の野良に比べればはるかに良好だった。
生活の面では、という条件付ではあるが。
そもそも食料調達に手間をかける必要の無いこの公園の実装石にとって、労働らしい労働はほとんど無い。
篤志家が運んできた餌を持てるだけ持ち帰り、次に来る日までをそれで食いつなげばいいのだから。
仔実装の最も重要な労働は野良姉妹の退屈しのぎの遊び相手であった。
とはいえ、「食わせてやっている」仔実装相手の遊びが穏やかな物であるわけは無い。
躾と称して殴り蹴り、些細なミスでネチネチと叱責し、反論すれば口答えをする生意気な奴、黙っていれば話を聞いていない我侭な奴と責め、目を見れば睨んだと言い眼を伏せていれば無視をするとなじる。
直接的、間接的ないじめがその内容だった。
基本的に地域実装として可能な限り糞蟲的な性格の実装石は省かれるものだ。
だがこの親子は「本音」と「建前」を使い分ける邪智を稚拙ながらも備えていた。
奴隷を手伝いと言い換え、孤児実装を引き取って育てているが躾が大変な馬鹿な仔だとため息を漏らす。
周囲の野良実装や管理の人間からは、頭巾を失い、あちこちが泥にまみれ、糞の臭いが染み付いた仔実装は、いわゆる「足りない仔」であるとみなされていた。
仔実装は日々追い詰められて行くうちに、心の中に妄想を育てていた。
『ママ…ママはニンゲンさんに助けてもらったテチ、きれいなお服を着て、ニンゲンさんのパパといっしょにワタチをさがしてるんテチ…早く、早く来てほしいテチ…ママ…』
そしてある日。
家族総出で餌を取りに行った時、仔実装は自分の妄想の具現化した者を見る。
初老の男性に連れられた一匹の飼い実装を。
昼ごろ、「ママ」を見つけた仔実装だったが、短絡的に後を追う事は出来なかった。
飼い実装を眼で追っていたのを怠けととられ、野良姉妹からリンチを受けたためだ。
殴る蹴るの暴行を受けながら、仔実装は必死に考えていた。
(ママ、ママが生きてたテチ!ニンゲンパパさんといっしょだったテチ!でも私に気付かなかったテチ…ズキンがないから、汚れてるからわからなかったテチ…?)
実際の所、飼い実装は野良実装の方を向く事はなかった。
それなりの理由があっての事だが仔実装にはそこまで計り知る事は出来ない。
夜更けになって野良親子がいぎたなく熟睡したのを見計らい、親実装が枕にしている襤褸くずの山の中から雑巾代わりに使われ汚れ果てた頭巾をなんとか引きずり出した。
不器用な手で頭巾を着けようとするが、頭巾の装着にはコツと練習が必要である。
『テェ…うまくつけられないテチ』
(ママが見つかったんだから、少しでも早くこの野良たちから逃げるテチ。
そしてママと、ニンゲンといっしょに幸せにくらすテチ)
バサバサと落ち着かない頭巾を気にしながら、明確な当てもなく歩き出す仔実装だった。
仔実装にとっていくつかの条件が幸運に働いた。
第一に、仔実装の移動速度はあきれるほど遅い、という事。
第二に、歩き始めて1時間もしないうちに疲れ果ててしまった事。
第三に、公園と飼い実装の家があまり離れていなかった事、である。
あくる日の朝。
電柱とブロック塀の隙間で眠り込んでいた仔実装に「ママ」と人間の話し声が聞こえてきた。
会話の内容はわからないまでも、ボソボソと低い声で喋る人間の声とそれに答える「ママ」の声は仔実装の目を覚まさせるには充分な刺激になった。
目やにのついた眼をこすり電柱の陰から躍り出ると、左右を見回す。
10mほど先を連れ立って歩いている男性と実装石を見るや猛然と追い始めた。
『マ、ママー!わたしテチー!ママー!ママー!置いてかないでテチー!待ってテチーーーー!』
仔実装はヨダレを垂らし、息を荒げ、あれほど固執した頭巾も投げ出して二人を追う。
しかし男性も実装石も、追ってくる仔実装に気付く事はなかった。
『テッチ…ヒィ…ヒィ…テッヒィ…テッ…チ?』
息を切らせ、もはやこれ以上追う事も出来ないと思った時。
男性と実装石は板塀で囲まれた建物に入っていったのが見えた。
(マ、ママここに住んでるテチ?すごいテチ…まるでお城テチ…)
痛む足を引き摺りながら門に近付くが、扉は堅く閉ざされ仔実装一匹入り込む隙間はない。
『ママ!ママ、開けてテチ!入れてテチ!』
門を叩き、鳴いて見せるが応える者は無い。
空きっ腹を抱えて途方にくれる仔実装だったが、とにかくどこからでも入れる所を見つけようと歩き出した。
板塀沿いに入れる所を探しのろのろと歩く仔実装の眼に、小さな隙間が映る。
板塀に開いたほんの小さな隙間、だがそれは幸せへの門に見えていた。
仔実装にとってもいささか狭いその隙間に無理矢理入り込み、身体をくねらせ進入していく。
『ママ、ママに会えるテチ!幸せになれるテチ!』
…そして塀の隙間から身を乗り出した仔実装の目の前に、「ママ」が驚いた顔で立っていた。
「」家の飼い実装、ヤエにとって散歩の後の庭の水撒きは重要な趣味である。
庭園には時限式の散水設備があるのでそれほど頻繁に水を遣る必要は無い。
だが一株一株植物を見て世話をすると言う行為は、仔のいないヤエにとって心安らぐ時なのだ。
ともかく、板塀の隙間から汚れた仔実装が入り込んできた時、ヤエは慌てて周りを見渡していた。
『こ、こんな所に入っちゃダメデス!人間サンに見つかる前に出て行くデス』
『ママ?ママテチ?ママ~!』
『デデ、私はあなたのママじゃないデス、やめるデス…』
『……い、イジワル言っちゃイヤテチィ!もう置いてかないでテチ~!!』
服の裾にしがみついてくる仔実装にヤエは戸惑った。
振り払うのは簡単だし、隙間から追い返してあとに植木鉢でも置いておけば締め出すのも訳は無い。
だが、この仔実装の惨めな有様を見るにつけ追い出すのが忍びなくなってきた。
コロコロとしてはいるが体格は小さく、頭巾もなければ服もほつれていて汚れと生傷が体中を覆っている。
どこの野良実装かはわからないが自分をママと頼ってきている以上、親とはぐれている事は間違いないだろう。
(ちょっとだけ、ちょっとだけなら、「」様も許してくれるかも…デス)
『この中に入っておとなしくするデス、うるさくして見つかったら大変な事になっちゃうデス』
『テッチー♪ママ、わたしのこと思い出したテチ?!』
『しーッ、静かにするデス、静かにできなかったらすぐ捨てちゃうデス!』
如雨露の中に仔実装を入れると、ヤエは家に向かって歩き出した。
『テチュンチュ~ン♪』
昨日までの惨めな、野良の中でも最下層の奴隷暮らしから一転して「ママ」と「ニンゲンパパ」の領域への侵入。
飼い実装への強烈な憧憬を持って生れ落ちたこの仔にとって、人間の庇護下に入ったという錯覚は目を曇らせるに充分な物だったのだ。
ヤエの私室に持ち込まれ、暖かな濡れタオルで身体を拭われる心地よさに漏れ出る声を抑えきれずにいた。
『シー!、静かにするデス!』
ヤエの叱責に一度は口元を押えても、押さえ切れない喜びは自然に口を付いて出てきてしまう。
『…言う事を聞けなかったら、すぐに公園に放り出すデス!』
冷たい口調のヤエの言葉に、仔実装は驚愕する。
仔実装の脳内ではヤエは自分の母であり、その飼い主は自分の父親であると変換されている。
思わず反論が口を突いて出た。
『ママ、なんでそんなコト言うテチ?ワタチはママとパパの仔テチ!ワタチがいなくなったらパパも困るテチ!?』
振り仰いでヤエの目を見た仔実装は、自分が何か踏んではいけない線を踏み越えてしまった事に気付いた。
下を向いて仔実装を見つめるヤエの目は薄暗く曇り、タオル越しに自分を掴む手に微妙な震えが走っている。
『…そんな嘘は…嘘は絶対言っちゃいけないデス…駄目…デス』
『テ…テチィ…』
何がいけなかったのかまではわからない。
だが、今自分は庇護者を失うかどうかの瀬戸際に居る。
そのことを認識した仔実装は、「媚び」以外の方策を求めて室内を見渡したその時。
ドアがノックされた。
『この中に入って静かにしてるデス…!』
仔実装は汚れたタオルと共にクローゼットへ押し込まれた。
(どうしたらいいテチ…?ママはなにか怒ってるテチ…また、またあそこにもどるのはイヤテチ…ぜったいイヤテチ…!)
ヤエの歓心を買うため、曳いては自らの身の安寧のため。仔実装は頭をフル回転させる。
薄暗い周囲を見渡す仔実装の目に、飛び込んできた物があった。
クローゼットの片隅、小さな化粧箱や雑多な荷物の積んである一隅のその裏側に、一葉のポートレートが忘れ去られたように挟まっていた。
(テ…このウスペッタン、たしかシャシンって言うテチ…ママとニンゲンパパと…コドモがいるテチ…!)
埃にまみれた写真を汚れたタオルで拭き、観察する仔実装。
幸せそうに笑う人間と、ヤエの胸に抱かれ屈託無く眠る仔実装の姿に、抑えきれない嫉妬の念を抱く。
だが仔実装にとっては逆にその幸せそうな姿が「これは大事な物である」と認識させる原因となった。
(きっとママはこのシャシンをなくしちゃったテチ。みつけてあげたらきっとワタチが役に立つカシコイいい子だってわかってくれるテチ!)
仔実装は思った。
これで自分は有るべき場所に帰れるのだ、と。
部屋から人の気配が消え、ドアの閉まる音がして、仔実装は暗がりから転び出る。
『テチ!テッチ~♪』
異様にはしゃぐ仔実装を、ヤエは慌てて押さえつけた。
『何度言ったらわかるデス………?』
『これ、これ見つけたテチ!落ちてたテッチュン♪』
仔実装が振り回す紙片を見たヤエの胸中に、言い知れない不安感が影を落とした。
鼓動が早まり、呼吸が乱れ、眉間は熱く、背筋は冷たくなって行く。
仔実装を抱きかかえ、写真に焦点をあわせる。
『デ…デエェェェ…』
胃から何かがこみ上げてくる。冷や汗が顔を濡らし、視点はぼやけていく。
「ヤエ!どうした、何があった?」
『デ…デェ…?』
腕の中でジタバタともがく仔実装の感触も忘れ、ただ苦痛に耐えていたヤエの意識は、「」の声で呼び戻された。
「………」
『テチヂィ…ッテ…ェゲェッ…!』
朦朧とした意識の中でヤエの耳に飛び込んできたのは、仔実装の断末魔の呻きだった。
「」の顔は見えない。
ぼやけた視界の中に写るのは、「」の手に握りこまれうごめく仔実装の姿。
『…「」様…や…止めてくださいデス…』
かすれた喉から声が漏れた。
だが、何事か呟き続け、仔実装を握る「」の耳には届いていないようだ。
『「」様ッ!!』
「……っ!?」
手を伸ばし、「」の手から仔実装をもぎ取ろうとするヤエ。
仔実装の息の根を止める事に集中していた「」は思わぬ攻撃に狼狽した。
『…ッヒィ…テッ…テェェ…ヒュ…』
『…デ…デェェ…』
「…ヤエ…また、駄目だったのか…?」
仮の死から蘇りつつある仔実装を抱え、不振な挙動のヤエを見下ろしながら、「」は呟いていた。
引用元:ジソエビ (land.to)