『いいとも』から受け継いだ伝統 『ぽかぽか』総合演出が明かす“明石家さんまさんから学んだブレない精神”
NEWSポストセブン5/25(木)11:13
番組の総合演出を務める鈴木善貴氏
「みんなの楽しいが集まる場所!」を合言葉に、今年1月にスタートした生放送の帯バラエティ番組『ぽかぽか』(フジテレビ)が放送開始から5か月近く経つ。MCのお笑いコンビ・ハライチとフリーアナウンサー・神田愛花の掛け合いにも磨きがかかり『笑っていいとも!』を彷彿とさせる活気だ。
番組の演出を務める鈴木善貴氏は、『トリビアの泉』『お台場明石城』『アウト×デラックス』を担当し、『いいとも』では、2013年から番組終了の2014年まで水曜日のディレクターも務めた。鈴木氏に、『ぽかぽか』番組立ち上げの経緯と「予定不調和」の作り方を訊く。
聞き手は、『1989年のテレビっ子』『芸能界誕生』などの著書があるてれびのスキマ氏。テレビ番組の制作者にインタビューを行なうシリーズの第5回。【前後編の前編】
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「ぽかぽか」立ち上げを告げられたのは放送開始4か月前
「バラエティ班が作る生放送ですから、予定不調和の楽しい番組になっていくと思います」
今年1月に放送された『週刊フジテレビ批評』で代表取締役社長・港浩一は『ぽかぽか』についてそう語った。「開局65周年イヤー」を迎えた今年、様々な企画が目白押しだが、その第1弾と位置づけている、と。いわば、社長肝いりとして始まったのが『ぽかぽか』なのだ。
実際、番組総合演出を務める鈴木善貴によると、初めて番組の立ち上げを聞かされたのは昨年の8月末。6月28日付で社長に就任したばかりの港から直々に告げられたという。
「なんの前フリもなかったですね。港さん流の言い方で『よし、善貴。お前に1月からの昼の番組を命じる』って(笑)。あとは『バラエティでやるぞ』『まだ言うなよ』って言われました。『FNSをちょっと盛り上げてくれ』みたいなことも言われたのかな。とにかく港さんがニコニコしながら言っている表情しか記憶に無いですね」
本格的に動き始めたのは9月。昼の生放送、帯番組としては準備期間が短すぎる。決めなければならないこと、やらなくてはならないことは山積みだった。しかし「どうせ何があっても1月になればオンエアはやってくる」と開き直り準備を進めた。
いくら全社をあげて応援されている番組といえどもスタッフ集めは簡単ではない。皮肉にも港指揮のもと、深夜にも次々と実験枠が立ち上がり、ディレクター陣は多忙を極めていた。それでも鈴木の希望通りの精鋭5人が各曜日を担当することになった。
「ディレクター経験1〜2年の若手にやらせてみようという案もあったんですけど、立ち上げまで時間もないし、その頃はまだ演者も決まってない。だから人からではなく、企画から内容を決めるしかない。そうなるとある程度の経験値は必要だと思ったんです。しかも生放送ですから。それで自分が信頼するディレクターたちに声をかけました。
チーフプロデューサーには、編成から来た南條(祐紀)が就いてくれました。9月末にはタイトルを発表しなきゃいけなかったんですけど、タイトル案はヤバいのもありましたね。南條が出したのは『お台場ジャンジャン』(笑)」
「まだ台本の枠内の面白さで、それを超え切れてない」
急ピッチで準備が進められたにもかかわらず、MCに抜擢されたハライチと神田愛花は最初から息ぴったりで持ち味を発揮。豪華賞品を賭けて家族の前で父親がゲームに挑戦する「ファミリープレッシャー」では、麻雀牌を手積みするその手の震えが爆笑を生み、開始まもなく大きな話題を呼んだ。定番のコーナーも次々生まれ、早くも番組のカラーは定着したように見える。鈴木自身も手応えは「ある」と言う。
「僕も40歳超えてキャリアもそれなりにありますので、ある程度客観的に見られないとプロ失格ですから。そういう目で見て、もちろんパーフェクトとは言えないですけど、面白いことを目指してやれているとは思います。1月の頃はもっとバタバタするかなと思ったんですけど、そんなにフワフワしてなかったと思うんです。ディレクター陣も腕があるんできっちり仕上げてきてくれました。
ただ、やっぱり今後はもう1個先を目指したいですね。今はまだ台本の枠内の面白さで、それを超え切れてない。一言で言っちゃうと、僕もディレクターも心から楽しめてない。『遊ぶ』って表現すると視聴者の方に怒られてしまうかもしれないですけど、全員が全力で楽しめるカタルシスが何個もある番組にしたい。
そのためにはどうしたらいいのか。台本をぶっ壊せばいいのか。けど、“予定不調和に見える予定調和”になっても面白くないですから。今も試行錯誤しているところです」
チーフAD時代に明石家さんまから学んだこと
鈴木善貴は子供の頃から「テレビっ子」。学校ではテレビの話ばかりしていた。高校時代には、カセットテープに吹き込んでラジオを自作したり、漫画を描いたりして何か面白いものを作りたいという欲求がおぼろげにあった。
2003年にフジテレビに入社すると、バラエティ制作以外の道は考えられなかった。入社して程なく、チーフADを務めた『お台場明石城』をきっかけに明石家さんまと仕事をすることが多かった。
「さんまさんからは『ブレない』ということを学びましたね。それは別にさんまさんが言ったわけではなく、背中を見て感じたことです。よく自分のギャグに飽きちゃったり、照れちゃったりしてしなくなる若手芸人さんにさんまさんは『ずっと続けるからウケるんや』って言いますよね。迷ったら笑える方を取るっていう生き様もそうです。そこはブレたくないですね。
笑いの部分で言えば、とにかく緩急とフリとオチ。その基本を守ることで笑いは生まれる。だから『ぽかぽか』でもとにかくフリだけは絶対に作りましょうって言ってます。
あと、『編集権はディレクターにあるから、俺は何にも言わん』というさんまさんの姿勢はありがたかったですね。これまで不満足な編集も多分たくさんあったと思うんですけど、俺は本番で頑張るだけ、使われなくても文句は言わないって、演者と裏方の棲み分けをきちんとしてる。それは、『あとは頼むで』っていう逆プレッシャーがあるんですけど、プロは自分の持ち場でプロの仕事をするという姿勢を学びましたね。どんな現場でも手を抜かないですから」
『いいとも』から継承してきた伝統
『笑っていいとも!』では、2013年から番組終了の2014年まで水曜日のディレクターも務めた。
「『いいとも』ではCM中に観覧のお客さんと定番のやりとりがあったんです。『今日朝食食べたかー?』みたいにタモリさんや演者が呼びかけて『イエーイ!』とお客さんがレスポンスする。
『みんな元気かー!』『イエーイ!』、『昨日エッチしたかー!』で『イエーイ』って言っちゃうと笑いがドッと起こる。もうそれをオンエアしたらいいんじゃないかって思うんですけど、でも、来た人だけのお楽しみなんですよね。
そういう来てくれた人を全力で楽しませるっていう姿勢が好きで、『ぽかぽか』でもCM中、ハライチも神田さんもお客さんが楽しめるようにしてくれていますね」
実際に会場で生放送を見せてもらった日も、CM中、ハライチや神田ら出演者は積極的に観客に話しかけ楽しませていた。番組後半のCM中には挙手をして指名された観覧者が出演者を選びあだ名をつけてもらったり、放送終了後には、サイン入りフリップがもらえる「サインじゃんけん」などが行われ大いに盛り上がった。
ちなみに『いいとも』でもそうだったように、前説をADが務めるのはフジテレビの生放送番組の伝統。『ぽかぽか』でもそれは継承されていた。
「面白いのは、『いいとも』で定番だった『パン、パパパンッ』って合わせる拍手を、絶対やりそうですけど、前説で誰もやらない。みんな、自分なりにやろうとしてるのがいいなと思いますね」
お客さんといえば、『ぽかぽか』の大きな特徴の一つとして特設セットがあげられる。このセットの外からは自由に観ることができる。番組開始2日目には、早速トークゲストのマツコ・デラックスが、観覧で詰めかけた『ぽかぽか』レギュラーのOWVのファンの健気な姿をイジって、現場は大いに盛り上がった。
「あの日は風も強くて。ああいうハプニングは嬉しいです。あそこはガラスも厚くてクリアではないんで申し訳ないんですけどね。もし外で観てくださっている人が1人とか2人でもそれも笑いになるんでいい。とにかく普通とは違うセットにしたかったんですよ。お昼にぱっと観た時にアイキャッチとして違和感のあるものにしたかった。
ゲストの方もやっぱり新鮮みたいで、入ってきた時に声には出さないけど、「こんなセットになってんだ」みたいな反応をなさるんですよね。外にわーっと手を振ってくれる方もいて、そういう人柄もわかるし。あとは草の根運動でフジテレビファンを増やしたいっていうのもあります」
いまでは珍しくなった素人参加のコーナーを積極的に行なっているのも特徴的だ。
「これも『いいとも』の文化かもしれないですね。予定不調和を生み出すのに一般の方っていうのは大きな要素ですね。打ち合わせしていても緊張して違うことを言ったりしますし、僕らにも計り知れないポテンシャルをお持ちだったりしますよね」
「予定不調和」を狙う前に、まずは「調和」をちゃんと作る
インタビュー中、たびたび「予定不調和」という言葉がでてきた。「予定不調和」は生放送の醍醐味。それはどのようにしたら起こるのだろうか。
「言ってました? 恥ずかしい。予定不調和って言葉はあんまり好きじゃないんですけどね(笑)。やっぱり調和をちゃんとまず作るのが大事。台本──つまりフリの部分で、「多分こうなるだろうな」という流れをしっかり作って、その時点で80点面白いようにしておく。その上で、一般の方に参加してもらうとか、澤部(佑)さんの代役に(ハリウッド)ザコシショウさんをぶっこむとか、予測不能なフリーの部分を入れていくと予定不調和が生まれやすい。
台本の時点であっちいったりこっちいったりしているものがたまにありますけど、それでは予定不調和が起こる隙がないし、裏で仕組んで“予定不調和に見える予定調和”を起こすのは僕らも面白くない。だから、予定不調和が起こらなくても面白いものを作るのが第一だと思います。
『ファミリープレッシャー』の最後に子どもたちが澤部くんを笑わせようとするコーナーがありますけど、あれなんかは予定不調和の塊。選んだディレクターのセンスがあると思うんですけど、あの子どもたちは、ちゃんとしてるようでちゃんとしてないんですよ(笑)。だから急に『ボクの誕生日を祝って』って台本になかったことを勝手に言い出す。やっぱり爆笑でしたよね。岩井(勇気)さんや澤部さんが涙流して笑っていたら、僕らが思ってもみないことが起きたときだって思ってくれていいかもしれないですね」
(後編に続く/文中一部敬称略)
【プロフィール】鈴木善貴(すずき・よしたか)/『ぽかぽか』総合演出。2003年にフジテレビジョン入社後、『トリビアの泉』、『お台場明石城』、『キャンパスナイトフジ』、『アウト×デラックス』などを担当。
◆取材・文 てれびのスキマ/1978年生まれ。ライター。戸部田誠の名義での著書に『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『タモリ学』(イーストプレス)、『芸能界誕生』(新潮新書)、『史上最大の木曜日 クイズっ子たちの青春記1980-1989』(双葉社)など。