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「賃金テーブル」とは、別名「給与テーブル」ともいいます。賃金テーブルは、賃金・給与を設定するための基準となる表のことで、新人から幹部レベルまで等級別に基準となる給与額を振り分けたものです。賃金テーブルはなくても従業員雇用や会社経営はもちろん可能です。しかしながら、従業員に長く安心して働いてもらうため、また、会社側の人件費や労働分配率等の各種管理の精度を上げるためには、必要不可欠な要素であることは間違いありません。その点を念頭に、本記事で賃金テーブルの理解を深めていただければ幸いです。
賃金テーブル(給与テーブル)
賃金テーブルには、人材育成に対する会社の姿勢が反映されます。勤続年数が増えるにしたがって賃金が増加する年功序列型の賃金テーブルであれば、長期間の勤務による経験やスキルの積み重ね、貢献年月を重んじる会社であることが分かります。一方で、業績を上げればその分だけ賃金が増えていくテーブルであれば、実力主義の会社であることが分かります。つまり、賃金テーブルの仕組み一つで、どんな人材育成を行ってゆくかが左右されるということです。人材は、会社の要です。テーブルの調整は、常に会社の姿勢を問いながら、慎重に行わなければなりません。
賃金テーブルをつくるための準備
賃金テーブルを作るための準備として、まずは等級を設計します。等級とは、仕事のスキルや役割のレベルを段階的に表したものです。各等級には、会社が期待する仕事レベルが反映されます。まずは等級数を決める必要がありますが、おすすめなのは、ひとまず次の3つのステージごとに等級数を考えることです。
- S(スタッフ):役職がない一般社員
- L(リーダー):主任、係長など、管理職ではないリーダー
- M(マネジメント):課長、部長など管理職クラス
それぞれについて初心者からベテランまでのレベルを段階的に考えたうえで等級数を決めましょう。
賃金テーブルのつくり方
等級の段階数と求める仕事や役割について定まったら、賃金テーブルを作成していきます。次の4つのステップで行いましょう。
ステップ1、各等級の標準金額をざっくり決める
まずは各等級の基準額をざっくり入れていきます。
ポイントは、その等級や役職に求められる仕事への対価として、どのくらいの金額がふさわしいかという点です。標準額を決めたら、等級間の差額も出してみましょう。上位の等級にあがるほど差額が大きくなっていたほうが、この後の賃金テーブルを設計しやすくなります。
また、賃金の上限と下限の金額も決めておきます。各等級の最低額、最高額を定めておき、この差額についても上位の等級にあがるほど大きくしておきましょう。
ステップ2、賃金水準の根拠を決める
賃金水準は内部根拠と外部根拠から決めることが大切です。内部根拠とは、仕事の内容やスキルなどの評価基準です。従業員が納得感を得られる内容かどうか確認します。外部根拠は、利益からの労働分配率と他社比較に分けられます。外から従業員が稼いできた稼いだお金が給料の原資です。その原資を従業員と会社でどのように分配するのか、労働分配率を決めます。また、他社と比較しての給料水準を把握しておきましょう。人気職種の場合、給料水準が低いと、思うような採用ができない可能性があります。そのため、他社の給与水準を比較した上で、自社の給与を考えることが大切です。
ステップ3、「役職手当」の金額と「役職定義」を決める
次に、「役職手当」の金額と「役職定義」を決めます。これも、まだざっくりとしたイメージで決めて構いません。例えば、次のような要領です。
「主任は最初の役職として10,000円としよう。その場合、課長は50,000円を超えないと管理職として魅力がないだろうな。さらに部門を統括する部長ならプラス30,000円以上は必要だろう」
気をつけなければならないのが、管理職と非管理職の役職手当の金額の差です。時間外手当を支給しない管理職の役職手当(管理職手当)は、非管理職の最上位等級の時間外手当を完全に上回る必要があります。
そうしなければ、管理職になれば責任の重さや範囲が広がるにもかかわらず、前の等級にいた頃よりも手取り額が下がってしまいます。すると従業員は管理職に魅力を感じられなくなります。この状態が続くとリーダーが育たない会社になってしまいますから、細心の注意を払いましょう。
また、「役職定義」に関しては、組織内や部署内での職責と職務を設定します。下記イメージです。
| 役職名 | 定義 | 職責 |
| 部長 | 担当する事業部の責任者であり、次長、課長、係長、主任、社員を取りまとめる | 担当されたの事業部における、事業計画作成及び達成、年度目標作成および達成、教育計画の作成および教育の実施、評価の実施、採用計画の作成及び実施、労務管理、または会社から指示された業務に対しての遂行責任を負う |
| 次長 | 担当する事業部にて部長を補佐する役割であり、課長、係長、主任、社員を取りまとめる | 担当されたの事業部における、事業計画作成及び達成、年度目標作成および達成、教育計画の作成および教育の実施、評価の実施、採用計画の作成及び実施、労務管理、または会社から指示された業務に対しての遂行責任を部長と連帯して負う |
| 課長 | 担当する事業部内の課、またはそれに相当する組織の責任者。課に属する係長、主任、社員を取りまとめる | 担当する課、またはそれに相当する組織における、事業計画作成及び達成、年度目標作成および達成、教育の実施、採用計画の実施、労務管理、または会社から指示された業務に対しての遂行責任を負う |
| 係長 | 担当する事業部内の課長を補佐する役割であり、主任、社員を取りまとめる | 担当する課、またはそれに相当する組織における、事業計画作成及び達成、年度目標作成および達成、教育の実施、採用計画の実施、労務管理、または会社から指示された業務に対しての遂行責任を課長と連帯して負う |
| 主任 | 判断を伴う上級業務を担当する。各人の役割について職場をリードし、下級者の模範となって教育のサポートを実施する | 担当する業務にて、事業計画の達成、年度目標の達成、教育の実施、または会社から指示された業務に対しての遂行責任を負う |
ステップ4、「その他手当」を決める
ここでの手当とは、上記役職手当以外の項目です。例えば、「勤続給」「資格手当」「家族手当」「住宅手当」などがそれにあたります。雇用形態・部署・職種ごとに設定する必要性が出てくる項目もあるかと思います。その場合は、必要に応じて決めていけばいいでしょう。
従業員不満の原因となる給与の決め方
ここまで読んできて、「今までの給与決定とはやり方が違う」と戸惑われている方も多くいらっしゃるかもしれません。具体的な給与の移行作業に入る前に、現在の給与の決め方を確認してみてください。中小企業の給与の決め方には、問題につながる共通のパターンがあります。それは、次の3つです。
①えんぴつなめなめ型
従業員の判断が給与決定の基準となっているケースです。昇給や賞与のたびに、社長が独自の判断で従業員の昇給額や賞与支給額を個別に、あるいは他社と比較しながら決めています。給与額に根拠がないため、従業員の不信感やモチベーションの低下、離職の引き金になることもあります。
②他社(者)依存型
前職の給与を基準として中途社員の給与を決めているケースです。従業員間の整合性が取れず、同じ仕事をしていても給与の高低が発生してしまい、従業員に不信感をもたらすことになります。
③事なかれ主義型
前回の金額が基準となるケースです。「前回の昇給額が●円だったから、今回も同じにしよう」など、前回の金額を下回ることによる従業員の不満を抑えるため、事なかれ主義的な発想に基づいて給与を決めてしまいます。すると、もともと給与が高い人と新人との給与差が縮まりにくく、若手の離職につながる恐れがあります。
まとめ
賃金テーブルのつくり方について、お分かりいただけたでしょうか。ぜひ、現行の賃金制度を見直しのうえ、従業員の誰もが「自分の賃金は今の経験・能力に対して妥当だ」と思える賃金テーブルを作成してみてください。従業員のモチベーションが向上し、能力向上のスピードにも好影響を与えるでしょう。
全従業員が納得でき、さらに成長を感じることのできる賃金制度を実現できたなら、会社は間違いなく躍進します。ぜひ従業員を育てる賃金制度の仕組みを作っていきましょう。