ラブグラフ代表取締役CEOの駒下純兵氏(左) ミクシィ取締役会長兼みてねプロデューサーの笠原健治氏(右) すべての画像提供:ラブグラフ
  • 家族やカップルとの思い出共有、でスタートした2つのサービス
  • みてねにとって「肝」となる提携
  • “子どもの写真・動画”に特化したことで成長
  • 今年の3月には過去最高の売り上げも記録
  • 出張撮影でナンバーワンの存在に

ニューボーンフォト(新生児写真)や誕生日、七五三、お宮参り──子どもの成長を感じられる“特別な日”に記念の写真を撮ってもらい、思い出として残したい。

そんなニーズを汲み取り、成長を続けるサービスがある。ミクシィの写真・動画共有アプリ「家族アルバム みてね(以下、みてね)」。そして、スタートアップのラブグラフが展開する出張フォト撮影サービス「Lovegraph(以下、ラブグラフ)」だ。

今年は新型コロナの影響でフォトスタジオでの撮影に不安が残る中、両社は先月から家族のおでかけや記念日などにプロのカメラマンが同行し写真撮影をする出張撮影サービス「みてね出張撮影」の提供を開始した。

みてねを運営するミクシィと、ラブグラフを運営するラブグラフは2020年5月に資本業務提携を締結している。今回のみてね出張撮影は両社が連携したことで実現したサービス。

希望の日時や場所・シチュエーションに、全国各地のラブグラフ所属プロカメラマンが同行し、写真を撮影。予約はみてねのアプリ内からできるほか、撮影データはアプリ内に納品される(共有する写真は選択可能)ため、家族にワンタップで共有や自身でフォトアルバムの作成、年賀状として印刷でき、スマートフォンなどにも写真を保存することも可能。基本料金は2万3800円(税別)で、撮影後は75枚以上の写真データが納品される。

奇しくも2015年にリリースした両サービス。みてねは利用者数が国内外で800万人を突破。ラブグラフの累計撮影件数も1万9000組に上るなど、多くの人が利用するサービスへと成長している。サービスを手掛ける、ミクシィ取締役会長兼みてねプロデューサーの笠原健治氏と、ラブグラフ代表取締役CEOの駒下純兵氏に、新サービスに込めた思い、そして「愛されるプロダクトに必要なこと」について聞いた。

家族やカップルとの思い出共有、でスタートした2つのサービス

みてねは、子どもの大切な写真や動画を祖父母や親戚など招待した家族だけにリアルタイムに共有することができる、写真・動画共有アプリ。2020年7月時点で写真・動画の月間アップロード枚数は1億2000枚に達し、夫婦で活用している人のアクティブ率(週に1度以上みてねを利用する人の割合)は7割以上と、多くの家族にとってなくてはならないサービスとなっている。このサービスを生み出した背景には、笠原氏の原体験がある。

子どもが生まれるまでスマートフォンに保存されている写真・動画の数は約500枚だった笠原氏だが、子どもが生まれてからはその数が急増。

今ではスマートフォンの中に2万3000枚の写真や動画を保存している。「ここまでたくさん子どもの写真、動画を撮ると思いませんでした」と自分自身に驚いた笠原氏。だが一方で家族と簡単に写真や動画を共有する最適な方法が見つからなかった。

LINEをはじめとするメッセージングサービスやGoogleドライブのようなクラウドストレージサービスは数多く存在する。だがそれらはあくまで汎用的なもの。「子どもの写真・動画を家族で簡単に共有、整理、保存できるサービスをつくろう」と思い、2015年4月にみてねのサービスを開始した。

一方のラブグラフは2015年2月の創業。駒下氏はもともとカメラマンを志望しており、大学在学中に腕を磨くため、スナップサイトで大学生の撮影をしたり、友人カップルのデートを撮影したりしていた。友人カップルが駒下氏の写真をSNSに投稿したところ話題になり、口コミで撮影依頼が増えていったという。

そこから撮影を事業化すべく、駒下氏は学生起業。自らが撮影するだけでなく、写真を撮ってもらいたいユーザーとカメラマンをマッチングし、出張撮影を行うプラットフォームとしてサービスを拡大してきた。サービス開始当初からニーズの合ったカップルのデート撮影を足がかりに、ウェディングフォトやマタニティフォト、誕生日や記念日などの家族写真などさまざまなシーンでの撮影を行ってきた。

みてねにとって「肝」となる提携

これまで写真の「共有」を軸にサービスを開発してきたみてね。笠原氏が次の一手として考えていたのは、共有する写真の「撮影」体験の向上だった。数多くのパートナー候補と話す中で、最終的に声を掛けたのが、駒下氏率いるラブグラフだった。

「以前にラブグラフで子供の写真を撮ってもらったことがあるんです。それで、自分が撮った写真と、ラブグラフで撮影してもらった写真に歴然の差があって、驚いたんです。『日常』の撮影なんですが、構図や子どもたちの表情の一番いいところを抑えてくれる。写真のクオリティに格段の差があり、ワクワク感というか、躍動感が見れてすごいなと思いました。過去にスタジオ撮影もやっていて、それはそれで良い体験だったのですが、出張撮影がすごく良い体験だと思い、これをみてね内でも提供したいと思ったんです」(笠原氏)

誕生日や七五三といったハレの日ではなく、公園で遊ぶだけの日常の写真。それなのにプロのカメラマンが写真を撮れば思い出を色鮮やかに残せることに感動した笠原氏は、ラブグラフの体験をみてねユーザーにも提供していこう、と決めた。

「(提携によって)みてね内でのコミュニケーションも活性化すると思います。下半期にはサービスを強化して、高画質なフォトブックや(写真を使った)年賀状などを提供していく予定です。高クオリティの写真をみてねに共有できるようになれば、ユーザーもそういった商品を買いやすくなっていくので、(提携が)みてねの肝となっていくと思っています」(笠原氏)

ラブグラフにとっても、今回の提携は大きな大きな意味を持つという。

「僕らも自社のグロースに繋がるかたちでのパートナーシップを考えていました。意識していたのはプロダクト同士の相性の良さで、単純に『売り上げを上げたい』というだけでは(パートナーシップを組むのが)難しいと考えていました。僕たちは写真のクオリティ、世界観など数値化できない指標も大事にしてきましたし、(ミクシィは)クオリティに対する審美眼がある会社。パートナーシップを組む選択肢はみてね一択でした」

「今までハレの日の写真撮影はスタジオに依頼することが多かったと思うのですが、撮影データがもらえず、スマホの中に子どもの写真が入ることはありませんでした。ただ今回の提携によって、みてねの中に撮影した子どもの写真がすべてある状態にできる。それにより既存のユーザーはよりみてねをを愛する理由ができますし、僕たちは届けたい層にサービスを届けられる。お互い良い補完関係になる提携だと思っています」(駒下氏)

リリースから5年で累計1万9000組を撮影してきたラブグラフ。駒下氏は、今回の提携によって、みてねからの申し込みだけでも約2万組の撮影が入ることを見込む。

「そこにオーガニックで獲得するユーザーが加わるので、会社として過去5年の実績がさらに上乗せされる。それほどのインパクトがあります」(駒下氏)

“子どもの写真・動画”に特化したことで成長

リリースから5年。右肩上がりで成長を続けてきた両サービス。みてねは当時、FacebookやInstagram、LINEなど写真・動画を共有するSNSが台頭する中、“子どもの写真・動画”に特化することで、独自の立ち位置を築き、ユーザーを獲得していった。

「自分の実体験もそうですし、周りの親にヒアリングしても子どもの写真・動画がカメラロールを占める割合が高いんです。もちろん写真・動画の共有SNSもいいと思いましたが、子どもの写真・動画だけ切り取ってもそれなりのボリュームを獲れるのではないか」

「逆に切り取ったからこそ、かゆいところに手が届き、熱量高く使ってもらえる可能性があるのではないか、と思いました」(笠原氏)

競合アプリやメッセンジャー、LINEなどの代替サービスもある中、みてねは「シンプルで使いやすく、使っていて心地がいいこと」を意識し、サービスを磨き続けていった。

「この5年で想像以上に多くの人にみてねを使っていただけたと思っています。子どもの写真・動画に特化し、招待した家族だけで共有できる。このコンセプトを磨いていくことでサービスとして成立させられる確信が持てました。また運営していく中で、想像以上に意義のあるサービスになっていると日々、感じています」(笠原氏)

例えば、家族が写真・動画にコメントするほか、子ども自身がみてねで自分の小さい頃の写真や動画を見たり、コメントを読んだりしているという。

「自分がどのように育ってきたかを振り返ることができ、さらに家族のみんなからどのように愛されてきたかに気づけるんです。愛情が連鎖していき、世代をつないでいく。それは、みてねが提供している大きな価値だと思います」(笠原氏)

その価値はコロナ禍で大いに発揮された。今までは子どもに会いに行ったり、お盆期間に祖父母の家に帰省したりするのが当たり前だったが、新型コロナで状況は一変。直接会う機会が減ってしまったからこそ、写真・動画を共有するみてねが活躍。コロナ禍における家族間のコミュニケーションインフラになることで、利用者が拡大。家族のコミュニケーション量(みてね内のコメント数)は2020年1月と5月を比較して、約1.6倍に増加している。

また、2020年4月に「みてね基金」を設立し、子どもやその家族の問題を支援している各種団体様への助成活動も始めている。

今年の3月には過去最高の売り上げも記録

一方のラブグラフもリリース当時は、サービスに対して「カップルの写真撮影は誰も頼まない」など否定的な意見も少なくなかったが、駒下氏は常に「遊園地ではなく、テーマパークをつくること」を意識し続けてきた。

「経産省の定義では、遊戯施設が3つ以上ある場所を遊園地と呼ぶのですが、テーマーパークは一定のテーマに基づいてつくられた空間のことを指します。世界観やスタッフの対応など、細かい部分がすべて整って初めてテーマパークになる。両者は投資の優先順位も違います。遊園地は高いところから落ちるジェットコースターをつくることに投資しますが、テーマパークはスタッフの発言や世界観の醸成などに投資します。ラブグラフはスターバックスとかディズニーを意識し、世界観の醸成やカメラマンの育成に力を入れてきました」(駒下氏)

その結果、ラブグラフのカメラマンが撮影した写真は“ラブグラフっぽい”と形容されるようになりつつあるという。また世界観を醸成し、出張撮影の体験を洗練していったことで、利用者が新たな利用者を呼び込んでくる流れもできつつある。

例えば、今年の3月は新型コロナの影響で大学生の卒業式は中止を余儀なくされた。多くの大学生は“卒業”というハレの日の思い出を残す機会を失ったが、過去にラブグラフを利用した人のツイートがきっかけで、大学生の利用が急増した。

結果的に、ラブグラフは3月に過去最高の売り上げを記録。4月からの緊急事態宣言中は外出自粛が求められたため売上が落ち込んだが、緊急事態宣言が解禁されてからはスタジオが密になりやすい空間であることから、出張撮影のニーズも増え始め、「再び成長フェーズに入っています」と駒下氏は語る。

「愛されるプロダクトには良い動機と良いビジョンが必要です。それがあると良い行動が生まれる。例えば、僕たちは日常にある幸せな瞬間の写真を撮ることで、目の前にあるもの目を向け、日常の幸せに気づいて欲しいと思ったんです。ラブグラフのサービスを通じて、単に写真を撮るのではなく、思想を伝えていければと思っています」(駒下氏)

出張撮影でナンバーワンの存在に

5年間、ユーザーファーストでサービスを磨き続けたことで、多くの人が利用する“愛されるプロダクト”へと成長した、みてねとラブグラフ。両社が提携し、今後目指していくのは出張撮影でナンバーワンのポジションを確立していくことだ。

「ラブグラフで撮影したクオリティの高い写真がみてねに共有されれば、きっとユーザーも喜んでくれるはずです。ユーザーに良い体験を提供していき、ブランド力を高めていくことで、まずは出張撮影でナンバーワンになれればと思っています。また、ラブグラフの海外展開も今後、一緒に実現していきたいです」(笠原氏)