tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

4n+3型, 6n+5型, 8n+5型素数の無限性

少し前に、私の周囲で「"3n+1" 型素数が無限に存在することを初等的に証明できるか?」という議論が流行っていました。私が追っていた限りにおいては、ちょっとずつ穴があって証明は叶わなかったようです。

私は、てっきりこの手の問題、すなわち an+b 型素数の無限性(a,b は互いに素)は、ディリクレの L 関数 を使わないと証明できないと思っていました。本ブログでも "4n+1" 型素数については取り扱っていましたが、これは L 関数を使った証明でした。
tsujimotter.hatenablog.com


実は、これらの問題には(L 関数を用いない)初等的な証明があるようなのです!これには驚きました!

表題の「4n+3 型素数」「6n+5 型素数」「8n+5 型素数」についての証明は、Hardy & Wright の数論入門に載っていると fujidig さんという方に教えていただきました。


読んでみるとびっくりするぐらい簡潔な証明でしたので、こちらでもご紹介したいと思います。どれも、ユークリッドの素数の無限性の証明を、問題に合わせてマイナーチェンジしている形の証明となっています。


示したい内容の確認と証明の方針

示したいのは

『「4n+3型素数」「6n+5型素数」「8n+5型素数」がそれぞれ無限に存在する』

です。このことは、ディリクレの算術級数定理

『「an+b 型素数」が無限に存在する(ただし、a,b は互いに素)』

a,b にそれぞれ数字を入れた「具体化」になっています。


実際、例を挙げると、

4n+3 型素数: 3,7,11,19,23,31,43,47,59,67,71,79,83,
6n+5 型素数: 5,11,17,23,29,41,47,53,59,71,83,89,101,
8n+5 型素数: 5,13,29,37,53,61,101,109,149,157,173,181,

これらの系列がそれぞれ無限に続いていくことを示したいのです。


証明には、素数の無限性についての「ユークリッドの証明」を活用します。これを思い出しましょう。
tsujimotter.hatenablog.com

簡単に証明の中身を追ってみましょう。

素数 p に対して、以下の q を考えます。
q=235p+1

この数 q は、p 以下の素数では割り切れない。(1)

したがって下線部 (1) より、qp より大きい素数 P で割り切れる。

以上より、素数 p に対して、これより大きい素数 P を作ることができた。これを繰り返すことにより素数を無限に作ることができる。


よろしいでしょうか。

それでは、表題の「4n+3型素数」「6n+5型素数」「8n+5型素数」についての証明にチャレンジしましょう。方針としては、以上のユークリッドの方法と同じような流れで進んでいきます。

なお、証明は参考文献の記述をベースに書いてはいますが、簡潔すぎて「行間」が広い(ように見えた)ので、私の言葉で少しだけ書き直しています。できるだけ上と記述を揃えてわかりやすくしたつもりです。

4n+3 型素数の無限性

まず 2 より大きい素数 p に対して、

q=2235p1

とおく。この数 q4n+3 型の数であり(1)、かつ p 以下の素数では割り切れない。(2)

また、以下のことに注意しよう。

(4n+1 型の数)×(4n+1 型の数)=(4n+1 型の数)

よって、q4n+1 型の素数だけの積ではありえない。(3)

したがって、下線部 (1), (2), (3) より、qp より大きい素数 P で割り切れ、その P としては 4n+1ではない素数がとれる。4n+1 型以外の素数は、24n+3 型素数に限られるが、P>2 であるから 4n+3 型の素数 P が得られた。

以上より、2 より大きい素数 p に対して、これより大きい 4n+3 型の素数 P を作ることができた。これを繰り返すことにより 4n+3 型の素数を無限に作ることができる。

6n+5 型素数の無限性

上とほぼ同様の流れで示す。

まず 3 より大きい素数 p に対して、

q=235p1

とおく。この数は 6n+5 型の数であり(1)、かつ p 以下の素数では割り切れない。(2)

また、以下のことに注意しよう。

(6n+1 型の数)×(6n+1 型の数)=(6n+1 型の数)

よって、q6n+1 型の素数だけの積ではありえない。(3)

したがって、下線部 (1), (2), (3) より、qp より大きい素数 P で割り切れ、その P としては 6n+1ではない素数がとれる。6n+1 型以外の素数は、236n+5 型素数に限られるが、P>3 であるから 6n+5 型の素数 P が得られた。

以上より、3 より大きい素数 p に対して、これより大きい 6n+5 型の素数 P を作ることができた。これを繰り返すことにより 6n+5 型の素数を無限に作ることができる。


8n+5 型素数の無限性

このケースは、証明は上の2つのケースよりやや複雑になる。

3 より大きい素数 p に対して、以下の数を考える。

q=325272p2+22

この数の 325272p2 の部分は、奇数の平方数である。奇数 2m+1 の平方は、

(2m+1)2=4m(m+1)+1

となり、これは 8n+1 型である。(m,m+1 のどちらかは偶数より )

これに 22=4 を加えるわけだから、結局 q8n+5 型である(1)。また、p 以下の素数では割り切れない。(2)


また、qa2+b2 の形をしており、(a,b)=1 である。ここで、以下の定理を認めることにする。

定理:
(a,b)=1 のとき,a2+b2 の奇数の素因数は,4n+1 の形をしている.

これより、q の任意の素因数は 4n+1 型に限られる。
q8n+5 型なので奇数。奇数の素因数はすべて奇数。)


ここで、以下のことに注意しよう。

(8n+1 型の数)×(8n+1 型の数)=(8n+1 型の数)

よって、q8n+1 型の素数だけの積ではありえない。(3)


したがって、下線部 (1), (2), (3) より、qp より大きい素数 P で割り切れ、その P としては 8n+1ではない素数がとれる。q の任意の素因数は、点線部により 4n+1 型、すなわち 8n+1 型か 8n+5 型であるが、8n+1 型以外と言っているのだから 8n+5 型の素数 P が得られたことになる。

以上より、3 より大きい素数 p に対して、これより大きい 8n+5 型の素数 P を作ることができた。これを繰り返すことにより 8n+5 型の素数を無限に作ることができる。


(補足)
8n+5 型の素数は 4n+1 型素数でもあるので、この証明により 4n+1 型の素数の無限性も示されました。やったね。

終わりに

いかがでしょうか。少々トリッキーですが、でも思ったほど難しくはないですよね。8n+5 型素数でやや複雑になったように、この方向性で続けていくと、ほかのケースではより難しくなってしまうかもしれません。

このブログでも度々言及している id:integers さんに伺ったところ、一般の an+b 型素数の無限性についても初等的な証明があるようです。今回紹介したものと比べるとはるかに難しいようですが。

「初等的 簡単」
という点に注意ですね。

私が調べたところによると、Selberg が一般的なケースについて初等的に証明しているようです。まだちゃんと論文を読んでいないので、内容の判断はできませんが。JSTOR に登録すれば Read Online で無料で読めますので、よろしかったら誰か教えてください。笑

http://www.jstor.org/stable/1969454

追記 (2016/03/07):

せきゅーんさんが 3n+1 型素数の証明を紹介してくれました。
https://twitter.com/integers_blog/status/705610750270648320

ツイートにもあるように、an+1 型の素数についての一般的な証明法は、せきゅーんさんのブログに既に書いてありました。
integers.hatenablog.com

参考文献

今回の話はハーディ&ライトの数論入門 I の第2章「素数の列 (2)」の中にある「2.3 ある等差数列における素数」に書いてあります。さらっと書いてあるので、注意して読んでみてください。

なお、8n+5 型の証明で仮定した定理は、§ 20.3 で証明されるようなので、2巻を読む必要があります。注意です。

  • ititorahiratsugu

    楽しく読ませていただきました。
    ところで、an+b型の数で、素数が有限個の場合って存在するんですかね?

  • tsujimotter

    コメントありがとうございます!

    「a,b が互いに素であれば、無限に an+b 型の素数が存在する」と言うのが元々のディリクレの算術級数定理なので、この条件に限っては有限個になる場合は存在しません。
    一方で、a,b が互いに素でない場合、つまり a,b が 1 以外の共通の約数を持つ場合は、その形の素数は有限個しか存在しません。

    例をいくつかあげますね。

    a = 4, b = 2 の場合: a,b の 1 以外の共通の約数は "2"
    このとき an+b 型の素数は, "2" ただ1つ(有限個)

    a = 6, b = 4 の場合: a,b の 1 以外の共通の約数は "2"
    このとき an+b 型の素数は, 0個(有限個)

    a = 10, b = 5 の場合: a,b の 1 以外の共通の約数は "5"
    このとき an+b 型の素数は, "5" ただ1つ(有限個)
    (ちなみに 10n+5 型の数は、10進法で下1桁が "5" であるような数のことです。)

  • せきゅーん (id:integers)

    追記読みました。定理は数論入門Ⅱに書いてあるとのことで、私も持っていないのですが、簡単に証明できる気がします。abが互いに素であると仮定し、奇数a2+b2の素因数pを勝手に取ります。もし、paの素因数でもあれば、bの素因数ともなってしまうので仮定に矛盾します。よって、paと互いに素で、同様にbとも素であることがわかります。すなわち、ルジャンドル記号(a/p)および(b/p)を考えることができます。今、a2b2(modp)なので、(a2/p)=(b2/p)です。(a2/p)=(a/p)2=1(b2/p)=(1/p)(b/p)2=(1/p)なので、結局(1/p)=1が得られました。第一補充則よりp1(mod4)でなければこれは成り立ちません。

コメントを書く