『クイック・ジャパン』、『リアルサウンド』などで執筆中の音楽系ライター:荻原梓 氏による、King & Prince 3rd Album『Re:Sense』の全曲のライナーノーツ。
- M01.「僕らのGreat Journey」
- 今年、7枚目のシングル『Magic Touch / Beating Hearts』にてこれまでのイメージを脱却し、大きな成長を遂げたKing & Prince。アルバムの幕開けを飾るのは、そんな彼らが抱く“抜け出したい”、“駆け出したい”といった強い気持ちが感じ取れる一曲だ。学校のチャイムをアレンジしたイントロや、意気揚々とした「準備してます!」の掛け声も印象的。小刻みに鳴るリズミカルなカッティングギターは逸る気持ちの表れか。全体的に晴れやかなアレンジのため、毎朝のスタートダッシュにも持って来い。そして、少しずつ“動き出せるようになった”2021年のムードを象徴するような一曲でもある。
- M02.「ユメラブ (You, Me, Love)」
- 続いてはアクセル全開のアップテンポなポップチューン。まさに“ユメ”のようにキラキラとした彼ららしい王道路線の一曲だ。夏が来る直前の胸の高鳴りや、ワクワクとした期待感が、爽やかなストリングスのサウンドとともに表現されている。作詞・作曲は「Heart & Beat」(『L&』収録)でタッグを組んだ大知正紘と坂室賢一の2人に加え、Atsushi Shimadaも参加。さらにアレンジには、これまでのKing & Prince作品に幾度となく関わってきた田渕夏海もクレジット。本曲がもたらす強固なポップネスの裏には、こうした複数のクリエイターの手が加えられている点が大きいだろう。
- M03.「BUBBLES & TROUBLES」
- ここまでの駆け抜けるようなスピード感が一旦、スロウダウン。徒歩くらいのテンポのダンスナンバーで落ち着きをみせる。“何気ない毎日”や“窮屈な日々”を気持ちの面から変えてくれるような、跳ねるピアノのタッチが印象的だ。歌詞の面では、トラブルやネガティブなマインドなど、マイナスなモードに陥った時に必要となる手段を一つ一つ丁寧に提示していく。笑えれば問題ない、少しだけお洒落して旅に出よう、現実逃避もたまにはいい、顔上げてこう。そんな彼らなりの“今の生き方”が描かれている。
- M04.「Magic Touch」
- 7thシングルから、数々の海外アーティストの作品に携わるプロデューサーのAdrian McKinnonが作曲に参加した全編英詞のヒップホップ曲。そして、振り付けを手掛けたのは世界的なトップダンサーのMelvin Timtimと完全に“海外仕様”に仕上がっている。不穏なトラップ系のビートと、相手を誘惑するような官能的かつ怪しげなリリックは、これまでのKing & Princeのイメージを華麗に塗り替える。白馬の王子様から、クールなダークヒーローへ……。リズム重視のサウンドと高度なダンスで魅せるその“ハイセンス”な姿こそ、彼らのもう一つの“リアル”な素顔なのだろう。
- M05.「Lost in Love (永瀬廉、髙橋海人、岸優太)」
- ラップ調のリリックがよく馴染むダンスビートに、空から降ってくるような神秘的なピアノの旋律と、流麗なストリングスの響きが美しい一曲。時の流れとともにいつしか失ってしまったものを回想するこの曲の歌詞は、デビュー以来目覚ましい成長を遂げている彼らが歌うからこそ切実さが増す。とりわけ終盤に飛び出すセリフ「ずっと愛してる」に込められた緊張感は、アルバム前半のピークの一つと言えるだろう。プロデュースしたのは平野紫耀と神宮寺勇太。儚さの中にも真っ直ぐな気持ちを感じ取れる3人の歌声は、メンバー同士でプロデュースしたからこそ引き出された新鮮な魅力だ。作詞は「君に ありがとう」(1stアルバム収録)を手掛けた草川瞬。作曲は草川と坂室賢一の共作で、ストリングスアレンジは生田真心が担当。グループと関係の深い安定感のある布陣で、聴き手の心を優しく掬い取る。
- M06.「サマーデイズ」
- 続いては、ライブで盛り上がること間違いなしの解放感あふれるパーティーチューン。「ユメラブ」で待ち焦がれていた“夏”がようやくここでやってくる。作詞は前曲に引き続き草川瞬だが、打って変わって本曲では、サングラスや花火など、夏を感じさせるワードがふんだんに用いられている。ソリッドなギターのバッキングは、真夏の太陽から降り注ぐギラギラとした強い陽射しのよう。聴き手のテンションを何倍にも押し上げるブラスアレンジは中野勇介によるもの。夏の太陽を浴びながら、この曲のビートで目一杯騒ぎたい。さあみなさん、タオルを回す準備はいいですか?
- M07.「幸せがよく似合うひと」
- 前曲でひとしきり気分を爆発させた後は、"幸せ"を呼び込むための秘訣を大合唱。気持ちが前のめりになるようなシンコペーションを多用したサビのメロディや、気分が晴れるピアノのタッチや爽やかなアコースティックギターなど、この曲のサウンドは明るくポップな曲の多いアルバム前半の中でもひと際多幸感を醸し出している。編曲を担当したのは近年のJ-POPシーンで大活躍中の江口亮。軽快なバンドサウンドと、色鮮やかなキーボードの音色との絡み合いが見事だ。一聴して目の前の景色がカラフルに色付くポップソングである。
- M08.「Beating Hearts」
- ここで7thシングルからもう一曲。「Magic Touch」と同様にAdrian McKinnonが制作に参加しているが、こちらは川口進や田渕夏海といった日本の作家が関わっているため日本人にも耳馴染みの良い音作りに仕上がっている。華やかなストリングス、グルーヴ感抜群の図太いファンキーなベース、分厚いブラスセクション、そしてほぼ英語で綴られた中にも語感を意識した日本語が飛び出す独特の言葉運びの歌詞など、洋楽的側面とJ-POP的要素が絶妙に調和。国内外問わず幅広い人々の耳に刺さるはずだ。
- M09.「Koiは優しくない」
- アルバムもここで折り返し地点。恋をした時の心の“ざわめき”=胸が締め付けられるようで、世界が輝いて見えるあの感覚……その狭間で揺れ動く主人公の戸惑いを、90年代J-POP風の爽やかなサウンドで表現した一曲。主にAメロでサウンドの主軸となるアコースティックギターとピアノには“君”と“僕”のささやかな日常風景の一幕を、鼓動より少し速いくらいのビートには主人公の胸のドキドキを、要所で顔を出す高らかなギターのプレイには主人公に芽生えた“オモイ”の強さを、小田原 ODY 友洋による温かなコーラスアレンジにはその“オモイ”を自ら抱きしめる包容力を感じ取れる。
- M10.「フィジャディバ グラビボ ブラジポテト!」
- アルバム後半の始まりは、ヒャダインこと前山田健一が作詞・作曲した賑やかなミュージカル調の一曲。サウンド面は多展開で情報量が多く、歌詞も支離滅裂でぶっ飛んでいる。しかし、だからこそグループならではの掛け合いが楽しく、意味不明な言葉から醸し出されるファンタジー感も圧倒的で、4分ほどの楽曲が一瞬で過ぎ去っていくようだ。目まぐるしく飛び込んでくる音の群れに終始翻弄されつつ、曲はやがて友情と絆の物語へと収束。ワチャワチャとしたカオスな世界が、最後にはちゃんと美しく着地を決めるのである。村田陽一による豪華絢爛なオケのアレンジも必聴。
- M11.「ツッパリ魂 (平野紫耀、神宮寺勇太)」
- ミュージカルから一転して、今度は平野紫耀と神宮寺勇太の2人による昭和の香り漂うツッパリ歌謡。「Lost in Love」を歌った永瀬廉、髙橋海人、岸優太の3人がプロデュースしている。ワイルドな歌声を駆使してヤンキーを演じる2人のやり取りが面白く、やはりメンバー同士がプロデュースしたことで歌い手の個性が輝いたと感じる。これこそ我々の見たかった“じぐひら”ではないだろうか。2人は同じ“アノ娘”に惚れた“King”と“Prince”という設定で、彼女をかけて熱いバトルを繰り広げる。しかし突然、別の“本命の男”が現れると、あえなくバトルは引き分けに。すると2人は意気投合し、最後は男同士の友情物語となって幕を閉じる。令和版「青春アミーゴ」とも言うべき、ジャニーズの伝統を受け継ぐ胸熱のデュエットソングだ。
- M12.「Body Paint」
- 変化球が続いたこのタイミングで強力なダンス曲が仕掛けられる。舞台は夜の世界。曲のモチーフはボディペイントで、刺激的なフレーズ満載のリリックにヤラれてしまう。野生的かつトライバルなビートによるリズムメインのサウンドプロダクションは、「Magic Touch」の音作りにも通ずるものがある。激しく跳ねるリズムの上で、“B & P Wah!!”とパンチの効いたリズミカルな英語表現が展開される。それを難なく歌いこなす彼らのボーカル表現にも注目だ。
- M13.「Dance to the music」
- Sly & the Family Stoneの名曲の名を冠した、80年代〜90年代のヒップホップやR&Bといったブラックミュージックからの影響が色濃い一曲。シンセのアーバンな響きや、思わず腰が突き動かされるような強靭なグルーヴ感に耳を奪われる。ネオンサインやミラーボールといったレトロなアイテムのワードチョイスもニクい。アルバム後半を彩るナイトクラブ感たっぷりのダンスナンバーだ。作詞・作曲には「ナミウテココロ」(『L&』収録)以来となるAwesome City Clubのatagiがクレジット。
- M14.「I promise」
- 6枚目のシングル曲。「シンデレラガール」の続編的な、人混みをかき分けて“会いに行く”歌だ。季節はすっかり冬になり、歌詞には冬の風や強い吹雪が登場する。澄み切った空気を感じさせる美しいストリングスやギターの旋律、夜空を彷彿とさせる切ないピアノのタッチやキラキラとした鐘の音など、サウンドは非常に情景的。アルバム前半の解放的でアッパーなテイストから一転して、風景や心情を繊細に描写したサウンドが心を撫でていく。
- M15.「花束」
- アルバムも終わりに近付いてきた15曲目で、本作随一の名曲が登場する。個性がテーマのこの曲は、日々変化する社会の中で不安に陥りがちな我々に寄り添い、ありのままでいいと歌い掛ける。“スーツ”を社会から押し付けられる価値観に見立て、街を彩る色とりどりの“傘”を一人一人の個性になぞらえる。そんなカラフルな“傘”の集まりを、彼らは“花束”だと歌う。まるで「世界に一つだけの花」のメッセージを彼らなりに解釈し、令和に再度蘇らせたかのようだ。作詞・作曲は嵐の「Song for you」の作詞を手掛けた市川喜康。編曲は敏腕アレンジャーのCHOKKAKU。現代の価値観を象徴する一曲となるだろう。
- M16.「Namae Oshiete」
- 初回限定盤のラスト曲。作詞作曲は、主に80年代後半から90年代にかけてプロデューサーとしてヒット曲を連発していたBabyfaceのKenneth Edmonds。もちろん全編英詞だが、“ナマエオシエテ”と何度も繰り返されるカタコト気味のフレーズが面白い。イントロの少々エキゾチックなメロディが不思議なムードを演出し、徐々にマリンバの音色などを用いながら、近年流行りのトロピカルな香りを漂わせるダンスミュージックへと発展していく。日米の異色のコラボが生んだ海外への“挨拶代わり”の一曲だ。
- M17.「Dear My Tiara」
- 通常盤の最後を飾る曲。“Tiara”とは言うまでもなく彼らのファンのことを意味し、今まで応援してきてくれたファンへ向けて真っ直ぐに想いを伝える楽曲となっている。美しいメロディも、甘いボーカルも、美麗な旋律を奏でるピアノも、すべてが聴き手を優しく柔らかく包み込む。7thシングルやBabyfaceとのタッグなど、海外展開が徐々に本格化している中でも、彼らは決して国内への配慮を忘れない。楽曲プロデュースは森大輔。洗練されたサウンドの中で紡がれる美しい日本語の運びが心地よい。険しい山登りの後の山頂から眺める朝日のような一曲だ。
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