うおっ乳デカいね♡ 違法建築だろ   作:珍鎮

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今回は番外編になります♡ 本編の方はもう少々お待ちください♡ 真実のマゾがポルチヨをイライラさせている…こうなったら!


番外:有マ記念

 

 

『さあ、始まりました有記念──』

 

 ゲートが開き、最後の戦いが幕を上げた。

 それぞれスタートを切ったウマ娘たちは様子見の段階で膠着しており、大きく差が開くような事はないまま、集団で芝を駆け抜けていく。

 マンハッタンカフェは後方。

 メジロドーベルは真ん中辺りで少し窮屈そうだ。

 かく言う私もいつものようにはいかず、周囲からの圧を感じながら走っている。

 

 そんな敵意剥き出しのすぐ後ろにいるウマ娘たちの動きを警戒しつつ、先頭での正しい位置取りを考えながら、しかし私はほんの少しだけ別のことも考えていた。

 

 ──秋川葉月くん。

 

 同じバイト先に勤めている相手であり、また私にとっては唯一と言っていい"男の子"の友達。

 きっと彼がこのレースを観戦してくれている。

 そう考えると僅かに緊張するのと同時に、ほんの少しだけ脚が軽くなるのを感じた。

 

 サイレンススズカという名前が人々の間で浸透し始めた頃、寄せられる多くの期待とは裏腹に、私は自分の走りに対して強い不安を覚えていた。

 決して先頭は譲らない。

 この景色は私だけのもの──その本能にも等しい信念が、その時だけはひどく揺らいでしまっていたのだ。

 

 脚が思い通りに動かず、減速していくスピード。

 そんな状態でなんとかもぎ取った勝利は、周囲が期待していたようなサイレンススズカのレースではなかった。

 このままでは負ける。

 負け続けて、這い上がれない泥濘へと沈んでいく。

 そう直感できてしまう程度には脚に限界を感じていて、何より先頭を走っている時に感じる後ろからの圧を強く恐れていた。

 

 そんな時だ。

 あの秋川葉月という少年と出逢ったのは。

 

「──スズカッ! この勝負もらうよ……ッ!!」

 

 中央の集団から抜けて追い上げてきたウマ娘が隣に並んだ。

 この少女は数十分前に正面のロビーで堂々と宣戦布告をしてきたウマ娘で、数いるライバルたちの中でも特に私への対策を意識している相手だ。

 今回の有にも出走しているだけあって非常に手強く、決して一筋縄で勝てるような存在ではない。

 

 無論警戒は怠らない──が、いつもと違って今の私には彼女よりももっと意識するべき相手が後ろにいるのだ。

 いろいろな意味で、絶対に無視できない少女たちが今まさに迫ってきている。

 ゆえに勝負を仕掛けてきた隣の少女には臆することなく、まだ落ち着いて走ることを意識して前を見続けた。

 

「ゆっくり……落ち着いて……」

 

 ──秋川葉月くんはいわゆる普通の男子高校生だ。

 ウマ娘のトレーナーになることを目指しているわけでもない、本当にただの他校の男の子。

 そんな善良な一般人である彼だが、不思議なことに中央トレセンのウマ娘たちとの縁に関してだけは、他の追随を許さない少年だった。

 

 私もそんな葉月くんと縁を繋いだウマ娘の一人だ。

 ちょっぴり闇落ちしかけてた時期に、トレーニング中の不注意で土手から転げ落ちて脚を怪我した際、偶然にも通りかかった彼が応急手当てで助けてくれたのがきっかけだった。

 その後いろいろあって、乙女心を刺激されたり励まされたりして、結果的に私は今こうして大舞台の上に立つことができている。

 

 私がレースを続けて有まで至ることが出来たのは、言ってしまえば葉月くんのおかげなのだ。

 もちろん同期のウマ娘や慕ってくれる後輩、担当トレーナーさんにもたくさんお世話になった。学園でもいつも近くで見守ってくれていた。

 それを加味した上で、それでも自分がこの芝を駆けることが出来ているのは、間違いなく彼のおかげだと思うのだ。

 

 あの少年との思い出が、青春が、今の私を形作ってくれた。

 ……ま、まあ、何というか私もいろいろしたし、彼にもいろいろされたけど……。

 それも含めてこのレースに立っているサイレンススズカだし、そんな私だからこそこの大舞台でも通用する走りをすることができている。

 

「スズカ……っ!?」

 

 有り体に言えば惚れてしまっているわけだが、レースに身を置いているだけでは得られなかった強さも獲得することができた。

 ──恋する乙女のパワーというやつだ。

 

「うっ、くぅ……ッ!」

 

 ずっと隣で食らいついていたライバルを引き離し、どんどん先行しつつ加速を続ける。

 ようやく身体が温まった。

 ここからが私の真骨頂だ。

 

「──あっ」

 

 そこでようやく気がついた。

 

「カフェさん、ドーベル──」

 

 後ろから差してくる気配が二つ。

 これはどう考えてもあの二人だ。

 どうするかなど考える暇はなく、すぐに彼女たちは私の元までやってきた。本当に二人とも驚異的な伸びで、侮れないにも程がある。

 

「スズカさん」

「お待たせぇ……ッ!」

 

 私たち三人が並んだことで、きっと会場のボルテージは更にヒートアップしている事だろう。

 だが、その歓声がこちらの耳に届く事はない。

 

「ふふっ。ちゃんと観てくれてるかしら……」

「ツッキー正面ロビーでは見当たんなかったけど!」

「いささか私たちが集中しすぎていて、姿を見落としてしまったのかもしれませんね……」

 

 私たちはもう──三人だけの世界に入っている。

 

 マンハッタンカフェも、メジロドーベルも、経緯は違えど私と同じで秋川葉月くんと強い絆で結ばれたウマ娘だ。

 それぞれが彼に救われて、それぞれが彼との物語を経てここにいる。

 走る為に生まれ、レースの中で答え見つけるべきウマ娘であるはずの私たちは、いつの間にか異性との青春に一喜一憂するただの一人の少女になっていた。

 

『──ッ!!』

 

 加速。

 加速、加速。

 また加速。

 後続を突き放して私たちは果てへ向かって駆けていく。

 

「ドーベル、カフェさん。私、なんて言うか……」

「同じだよスズカ。いまアタシもそう思ってたんだ」

「えぇ……そうですね──とても楽しいです」

 

 疾風の中を駆け抜けながら笑い合う。

 いまは天下の有記念だというのに、困ったことに私たちはこのレースをまるで子供のように心の底からただただ楽しんでいた。

 同じ少年を好きになって、きっと彼が観てくれているであろうレースで、他にはないこの最高の舞台で、互いに全力でぶつかり合うのがこの上なく楽しいと感じている。

 

 本来は私に宣戦布告をしてきたウマ娘のように、ヒリついた勝負の世界であるほうが正しいのだろう。

 きっと皆そんな風にトゥインクル・シリーズを走ってきた。

 いつだってレースは真剣勝負だから。

 

 けれど──走ることは、楽しいことだ。

 それを思い出させてくれたのは他ならぬあの少年であり、私たち三人全員が共通して彼のおかげで翳っていた闇を振り払い原初に立ち帰ることができた。

  

「最後の直線──いくわよ、二人ともッ!」

 

 だからコレは彼に捧げるレースでもあるのだ。

 走り、競い合い、楽しみ、その上で一番を決める。

 そうして勝つことが出来たウマ娘こそが、ウイニングライブの最後に行うスピーチで、これまでずっと言いたかった言葉を、観客席にいるであろう彼に向かって告げることが叶うのだ。

 恨みっこなしの一発勝負だ。

 そう、恋はいつでもダービーなのだから。

 

 

 

 

 猛特訓したライブパフォーマンスを終え、ステージの上に立つ私たち三人は改めて観客席のほうを振り返った。

 ウイニングライブは無事にやり遂げた。

 後は一着をもぎ取ったウマ娘が最後に一言告げるだけだ。

 

「っ……」

 

 ライブ中は微塵も感じなかった緊張が突然心臓から伝わり、思わず息を呑む。

 これから言う。

 伝わるように告白する。

 少なくとも正面の観客席に彼の姿は見当たらないが、この会場のどこかからは必ず見てくれている。

 それならどの位置からでも大型モニターで確認できる正面のカメラに向かって言えばいいのだ。

 そうだ、後は言うだけ。

 ちゃんと言葉にして、伝えるだけ──

 

「っ!」

 

 どうしても緊張してしまって、一瞬言い淀んだその時だった。

 

「……二人とも。……ええ、がんばってみる」

 

 後ろにいたドーベルとカフェが、そっと優しく背中を押してくれた。

 おかげで緊張も解れた。

 私は私。

 彼が知っているサイレンススズカとして、言いたいことはハッキリと告げてしまえばいい。

 

「みんな、本当にありがとう」

 

 まずは応援してくれた沢山のファンの方と、支えてくれたトレーナーさんやトレセンの仲間たちに向けて。

 

「こうしてステージに立てること。そして応援してもらえる自分であり続けることができたこと。全てを誇らしく思います」

 

 嘘偽りのない本心を語ってこそ告白だ。

 だから先に伝えたい人たちへその言葉を放った。

 あなただけは、他の人たちとは違うから。

 

「そして……いつも見ていてくれた()()()に、心からの感謝を」

 

 改めて言い直す。

 みんな、じゃない。

 応援してくれたうちの一人へ向けて、ではない。

 この大舞台における最後の最後で、この言葉だけは間違いなく、あなただけに贈るための告白だ。

 

「大好きです──ありがとう」

 

 何万人もの観衆が見守るステージの上で、ハッキリと、私はたった一人の相手へ伝えるためのメッセージを告白し、ステージを降りていった。

 あぁ、言った。

 ようやく口にすることができた。

 まだ少し実感が湧かないが、きっと時間が経つにつれて自覚も強くなってくる事だろう。

 今はただ、これでいい。

 

「……ふう。ドーベル、カフェさん。ライブ衣装から着替えたら……葉月くんを探しに行きましょう」

「えぇっ! で、でもロビーの方なんか行ったらギャラリーが凄い事になっちゃうんじゃ……少し時間を置かない?」

「……いえ、スズカさんの言う通り葉月さんを探しましょう、ドーベルさん。……今回のレースやライブについて、彼の感想が聞きたいです。どうしても。今すぐに」

「ま、マジ……? ──でも、まあ、そうだね。アタシもツッキーがどう思ってるのか知りたくなってきた!」

「ふふっ……それじゃあ正面のロビーで集合ね。二人とも、また後で」

 

 そう言って私たちは一旦解散し、自分の控え室へと駆け出した。

 勝った人はステージの上で告げて、残りの二人はこれから伝える──それが私たち三人の中で決めていた約束だった。

 

 だから今すぐに会いたい。

 ちょっとイジワルかもしれないが、葉月くんの今のリアクションも見てみたい。

 鈍感ではない彼のことだから、この会場で観ていたなら私の言葉の意味も理解してくれているはずだ。

 だから、早く、早く会いたい。

 世紀の一戦を駆け抜けたあとでも、やはり私たちはあなたの元へ帰るのだと驚かせてやりたい。そうと決まれば今すぐに、だ。

 

 はてさて、彼は今どこで慌てているのかしら。これから反応がとても楽しみだ。

 

 


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