カイオーガを探して   作:ハマグリ9

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契約と酔いどれオダマキ

 あれからまた3日経った。経ってしまった……こういう時に限ってすぐに過ぎ去ってゆく。辛い。

 

 時間をもらった上で部屋に篭って、アルコールを身体に入れながらどうすればいいかいろいろ考えた。その結果、もうアルセウスになんやかんやしてもらえばいいんじゃね? という結論に至るという……結局、俺ってば案外簡単に御せてしまったね。仕方ないね。でもこうでもしないと、俺の事情的に無理なんだよな。

 

 無駄に洗練された無駄の無い無駄な動きをしながらあれと契約でもしよう。どうにもあいつは俺に旅をさせて、何かをさせようとしている。十中八九、カイオーガ絡みだ。それ以外考えようがない。

 

 俺はそれを手伝う代わりに後顧の憂いを断つ! こうバチコーンと行こう。どう考えても関わらない方法が無いし。そもそも、基本的に方法というのは3つしかない。正しい方法、間違った方法、俺の方法。この3つだ。呼び出す方法がわからないことを除けば、完璧で幸福な作戦だろう。惚れ惚れするね! 市民! あなたは幸福ですか? 私は今宵ヒッポロ系ニャポーンになります。

 

 ……さて、どうやってアルセウスに連絡入れようかね。でもどうせこっちのこと見てると思うんだよなぁ。この覗き魔め!

 

 半裸になって森の中で転がりながら叫んだら出てこないかな? ……ないか。どうしよう。もう一度あの番号にかけるか? でも前回かけたときはダメだったし。片端から電波飛ばしてみるか。

 

 そんなことを考えているとライブキャスターに着信が入る。こんな狙ったようなタイミングは奴ぐらいだろう。受け取る前に、本日分のノルマである腹筋を始める。

 

「よぉ、ハァッ…タイミングが、ハァッ…いいじゃ、ねぇか」

 

 そこには、前のように変身していないアルセウスの頭が映っている。背景は真っ暗で何もない。寂しい奴だ。壁紙ぐらいは貼りなさいよ。

 

「あまり褒めないでくれ。それで? 覚悟を決めたのか?」

 

 こいつ……微妙にメッキが剥がれてやがる。

 

「ハァッ、まぁ、な。ハァッ、お前と、契約を、ハァッ、結び、たい」

 

「契約? なんだ、言ってみろ」

 

 わかっているくせにエロイ(えげつない、ろくでもない、いやらしい)奴め!

 

 ガコンッ! と急に虚空から現れた金ダライが、勢いを付けて顔面に直撃する。

 

「痛ェ!!」

 

 コイツ金ダライ落とすの好きだな。

 

「いい加減視界が暑苦しいから腹筋をやめたまえ」

 

「人のトレーニングを邪魔するとは……まぁいいや、この手紙とスマホを両親に渡して欲しいのと、定期的に一定量の金の玉を実家に送りたい。そして何よりも――――俺の身体について知っている事を全て話せ」

 

 金云々はコイツなら向こうの保障証明書だって問題なく用意できるはずだ。

 

「代償はどうする?」

 

「俺がカイオーガを探すのを本格的に始める……だがお前がカイオーガの力を使って、いったい何をしようとしてるのかがわからない」

 

 街を破壊したいなら自身でできてしまうだろうし、なんで態々カイオーガの力が必要なんだ。

 

「少なくとも君が思っているようなことはしない。ちょっとした私用に協力してもらいたいだけさ」

 

「私用?」

 

 予想通り横の繋がりか?

 

「時が来たら話す。それだけでいいならその手紙とスマートフォンをお前の両親に送ろう」

 

 どうする。他に懸念材料はあるか?

 

「なんで……なんで俺なんだ?」

 

「それは君が一般的な人間ではないからだ」

 

 そういう事を聞きたいのではない。

 

「……んなこたぁ体温やらなんやらでわかってるんだよ! お前は、俺の、いったい何を知っている!」

 

「最後にヒントをやろう。【あいいろのたま】はお前の求める答えを知っている」

 

 そう言ってから通信が切られる。一方的な情報は情報にあらずって言葉を知らないのかコイツは。

 

「おい、待て! ……クソッ」

 

 ……ハァ、ちくしょう。最後の最後まであいつのペースだった。無駄に律儀に契約書と金ダライを残しやがって。だが手紙とスマートフォンは送ったらしい。これでどうにかなったかね。

 

   ◇  ◇  ◇

 

 もうヤケである。むしゃむしゃしながら今日も101番道路でポチエナ達と戦っていたら、途中で101番道路の主の色違いマッスグマが顔を出してきた。相変わらずのプレッシャーであった。まぁ、前回よりも多少ダメージは与えられたものの、普通に負けたけど。未だにハルカたちは主に会えていないらしい。不思議な話だ。

 

 とりあえず、この3日間で3つ収穫があった。

 

 1つ目は、大賀(ハスボー)が【しぜんのちから】と【しろいきり】を覚えたことだ。これでおそらくレベルが11前後まで上がったことになる。

 

 2つ目は、とうとうハルカのアチャモが【ひのこ】を覚えた。これで俺達は蹂躙される恐怖に日々怯えることになるだろう。怖い。ただ【きあいだめ】を覚えなかったのが不思議である。

 

 3つ目は今受け取っているが、予定より早く【あいいろのたま】と身体検査の結果が届いたというものだ。ただ芳しいとは言えなかったが。【あいいろのたま】は高エネルギー体であり、常に一定の波動を周囲に送っているというのぐらいしかわからなかったそうだ。つまり身体検査結果は体温などの一部の異常以外は何もなしだった。

 

 近場の貯水池で八つ当たりする為に時間を確保しようとしている最中、そんな時間は与えられないと言わんばかりに理不尽にも呼び出しが発生している。

 

「というわけでカツラ疑惑のジョシュウさん! 俺を探していたって聞いたんですけど」

 

「大声でそういうこと叫ばないでもらえます!? あとカツラじゃありません!」

 

 ちぇっ、違うのか。

 

「植毛ってことはわかったよ。ハルカちゃんに伝えておく」

 

 もう知っていそうだけどな。

 

「自毛! 自毛です! あぁもう、なんでそんなにテンションが異様な状態なんですか。酒ですか? 昼間っから飲みましたか!?」

 

 仕事中に飲めていたら、こんな苦労はしないんだよなぁ。

 

「色々あって飲めていないから、こうして毒を吐き出していないと突発的に発狂しかねないので……」

 

 なんかもう、やってられないんだぜ。ヤケだよヤケ! 御神木様(テッシード)からの不憫そうな奴を見る視線も気に食わん!

 

「えぇ……」

 

「俺の事は気にしないでください。俺も気にしないので」

 

 今の俺はハルカ合流前に毒を出し切らないと不快感で泣かせかねないぞ。

 

「は? ……ああ、今日はもうこのままですか……あれです。ハルカちゃんが呼んでましたよ?」

 

 あぁ、とうとう準備が出来てしまったか。

 

「あの最終試験のやつです。ポケモンバトルについては問題ないと思うレベルになったはずですから」

 

 正直最終試験いらないんじゃね? というぐらいには野生のポケモンとのバトルに慣れてきていた。本人には言っていないがかなり才能があると思う。時折俺も面白いと思うような作戦をとったりしていたくらいだ。

 

「では後で先生らしく最後の壁になってきます」

 

「頑張ってください」

 

「ちょっと炙られてきますん」

 

 軽口を言いながら別れを告げる。ジョシュウさんとオダマキ博士には伝えてあるが、これでハルカが勝った場合はお役御免となるため、明日の朝方にはここを出る事になるだろう。俺が勝った場合は更に数日知識を教えてから旅に出る。

 

 少ししか差はないのだが、できれば俺を超えてみて欲しいところだ。

 

 ちょっと外で暴れてある程度発散した後、そのまま階段を降り地下の広場の入口に立つ。ここがあの女のハウスね!

 

 中に入ると、ハルカとアチャモが打倒! オノハラキョウヘイ!! と赤文字で書いたハチマキを巻いて仁王立ちしていた。必勝鉢巻なのか、気合の鉢巻なのかでかなり反応が変わるのだが。

 

「今日こそ勝ーつ!!」

 

「アチャ!!」

 

「おっしゃ、こいやー!」

 

 そんな考えはかなぐり捨ててこの空気に乗る! さっき元気のかけらとおいしい水飲ませたから、大賀(ハスボー)もだいぶ体力が回復しているだろう。問題ない。

 

「行け! 大賀!」

 

「スボッ」

 

 大丈夫そうだな。心なしかしょんぼりしているのは気のせいだろう。

 

「さて、始めようか」

 

「はい!」

 

「アチャ!」

 

「アチャモッ! 【ひのこ】!」

 

 アチャモが放つ【ひのこ】が最短距離を通って大賀に向かってくる。思っていたより【ひのこ】の弾幕が濃いな! そのまま【ひのこ】を盾にするようにしながら動く。当たり前だけれども、以前よりも動きのバリエーションが増えたな。

 

「大賀、【しろいきり】で身を隠して移動開始!」

 

「スボッ」

 

 技の効果ではなく、【しろいきり】そのものを使って攻撃を避けようとするが、少し当たってしまったようだ。火傷はしなかったが前よりもしっかりと精度が上がっている。既にあたり一面には【ひのこ】によって明るく照らされていた。影が出てるのがちとマズイ。切り出し方ミスったか? だがそんな風には感じさせんぞ。

 

「よし、大賀! 【やどりぎのタネ】で相手を封じ込めろ!」

 

 対処できるかな?

 

「アチャモ! 【ひのこ】で迎撃して!」

 

 【やどりぎのタネ】が霧の中からアチャモが居る辺りへ向かって飛来してゆくが、全て【ひのこ】に焼かれてしまった。これだから炎タイプとの戦闘は怖いんだ。辺りに草の焦げた匂いが立ち上る。中まできっちり焼かれてしまったのだろう。

 

 特性:加速によりどんどんアチャモが速くなっていく。早めに決めんとマズイかもなぁ。

 

「さっき技が飛んできた方に【ひのこ】!」

 

「チャモ!」

 

「スボボッ!」

 

 拙い。どうするか思考している間にもう一度モロに【ひのこ】を食らってしまったらしい。しかも動きづらそうにしている。まさか火傷を負ってしまったのか! 追い詰められてきたな。どうする……既に霧は薄まってきてしまっている。

 

「とっておきだ。【しぜんのちから】を使え!」

 

「ハスボッ!!」

 

 室内で行われた【しぜんのちから】は……【スピードスター】となってアチャモに襲いかかる。【じしん】目当てだったが違ったか。まぁいい、ここから反撃をしよう。

 

「そのまま【ギガドレイン】!」

 

「スーボーッ」

 

 アチャモの身体から、緑色のナニカが出てきて大賀に吸い取られていく。ダメージ半減だが意外と吸えているようだ。いけるか?

 

「アチャモ! 最大火力で【ひのこ】!」

 

「負けてたまるか! 大賀、こっちも全力で【しぜんのちから】だ!」

 

「チャァァモォォオ!!」

 

「スボボボボォ!!」

 

 【ひのこ】の弾幕と【スピードスター】と化した【しぜんのちから】がぶつかり合い、中央で爆発して黒煙を撒き散らす。

 

「どっちが勝ったの?」

 

 煙が少しづつ晴れてくると…………最後に立っていたのはアチャモだった。大賀は目を回して倒れている。スマンな、最初から攻撃したほうが正解だったか。とはいえ、合間合間の動きが悪いわけではなかった。これなら大賀もアチャモもある程度戦闘可能と判断していいだろう。

 

「あ……アチャモ……ということは勝った!?」

 

「チャモッ!」

 

 アチャモがハルカの胸元に飛び込み、それを抱きかかえたまま回転している。

 

「大賀、お疲れ様。ゆっくり休んでいってね!」

 

「スボォ……」

 

 大賀に元気のかけらを与えた後、おいしい水を飲ませてゆく……いい勢いでグッビグッビ飲んでいるな。俺は通販で買っておいたフクロウの被り物を素早く着けて、事前に考えていた言葉を告げる。

 

「強くなったのうハルカ、これで名実ともに短期講習クリアじゃ! これ、合格祝いで焼き菓子のギフトセット。こっちが御神木様と大賀からで、花冠と栞な」

 

 俺としては珍しく無難なのをチョイスしたと思う。下手なの送ってブッキングする恐怖ががが。

 

「はい、ありがとうございます! これでキョウヘイ先生の旅に付いて行けますね!」

 

「よく頑張…………ん? え、あれ? どういうことよ?」

 

 まるで意味がわからんぞ! 年頃の娘がロクデナシの旅に付いてくるの? マジで言ってる?

 

「説明しよう!」

 

 スパンッと勢いよく扉を開けて、オダマキ博士が転がり込んでくる。

 

「お、オダマキ博士! いつからそこに?」

 

 こいつが原因に違いない。急いできたからか少し顔が赤いな。

 

「私がそうなるように仕組んだのだ!」

 

「オダマキ博士! あなたは一人娘を、こんなロクでもない変人の旅に同行させようとするとか、いったい何を考えているんですか! 正気ですか!?」

 

 これでも客観的に自分を見ることぐらいはできる。しかしいくら奇行と言われようと俺はマスクは絶対に外さんし、行動を変える訳にはいかないのだ。俺はソレでいい。ソレがいい。だがハルカは違うだろう。巻き込まれるのは流石に可哀そうだぞ。

 

「自分でそれを言うんだね……それはともかく、なぜ同行させるかの理由。それは、君が珍しいポケモンを見つけられる気がするからというのが一つ。下手な人間付けるより安全そうなのが2つだ!」

 

「いや、1つ目はともかく2つ目はどうかと思いますよ? 仮に、たとえ俺が安全であったとしても、厄介事って向こうからやってきますし」

 

「ハプニングの塊が歩いているような人が何を言うか」

 

 そこまで酷くはないだろう。せいぜい国境付近を歩き回るピースウォーカーの劣化版ぐらいだ。

 

「それに私の娘に一人で旅をさせるつもりか!? 何かあったらどうするんだ!」

 

「お前それが本音だろ!?」

 

 とうとう本性現しやがった。旅させなきゃいいんじゃないかな。

 

「今までの君の行動を考えて、君ならハルカに手を出さないだろう…………何故だ! ハルカに魅力がないと言うつもりか!」

 

 肩を掴まれて体を前後に揺すられる。なんとか我慢できる範囲だが……め、めんどくせぇ……というか酒クサッ! コイツ、俺は飲めなかったのに、昼間っから酒飲んでやがったな。面倒な酔い方しやがって。つまみを喰わんから悪酔いするんだ。

 

「弟子に欲情するのはちょっと……」

 

「お父さん、もう少し真面目にやってくれません?」

 

 怖ッ! 声のトーンが冷えるを通り越してマイナスまで落ち切っている。オダマキ博士の酔いがサッと引いた。きっと、こういう部分は奥さんに似たんだろうなぁ。

 

「そ、そんなに怒らないでくれハルカ……もう一つ理由があるんだ」

 

「そっちが本命ですよね? 俺もよくそうしますけれど、ノリと勢いで流そうとすると後々苦労しますよ」

 

 流石に娘を俺みたいな男に押し付ける理由としては、色々とおかしいし足りない。

 

「一つ目の理由と被るが、最近ホウエン地方の異常気象に、ポケモンが関係しているのではないかと言われている。そのポケモンに君が一番近いと私は思っている」

 

 ……ほう、これは驚いた。だいぶ面白いことを考えるものだ。

 

「そのポケモンの観測の為にハルカを俺の旅に同行させると?」

 

「そうだね。あと基本旅は自由にしてもらって構わないが定期連絡と、地域ごとのポケモンの分布や生態調査もしてもらいたい」

 

 調査データも欲しいと……見返りは後ろ盾かね。ハルカが付いているということは研究を手伝っているアピールになるか。これからおそらく何度もジュンサーさんに会うだろうし、その際常に不審者として取締を受けていたら身が持たん。メリットではあるか。

 

「……オダマキ博士は、いったいどんなポケモンが異常気象を起こしていると思っているんですか?」

 

 どれほどの情報を持っているんだ?

 

「これでも研究テーマがポケモンの分布調査だからね。昔のポケモンの分布などもそれなりに詳しいんだ。調べる一環で企業とも提携していたし。その中で、雨を降らし海を広げる伝説を持ったポケモンがいた。今はどこかで眠っているらしいが、そのポケモンに対して【藍色に光る珠】を使うと、完全に目を覚ますらしい」

 

 完全にアイツである。

 

「……そのポケモンの名前は同時に言いませんか?」

 

 ここまで来たらほぼ知っているに等しいな。隠す必要もないか。

 

「む! やっぱりキョウヘイ君も知っているんだね」

 

「カイオーガ」

 

 声が重なる。ビンゴだ。ピタリ賞は何だろう?

 

「オダマキ博士はいつから俺が知っていると?」

 

「最初に珠を見せられた時は思い出せなかったんだけれどね、研究室に帰った時にダイゴ君に頼まれていた資料の中に、超古代種のポケモンについても書かれていたことを思い出して」

 

 なるほど。ダイゴさんがハルカの師事をしていた理由はそれか。

 

「ふむ、そこまで知っているならアクア団やマグマ団のことも知っていますよね? ニュースで見ている通り、あいつら結構無茶やらかしますし、おそらくですが俺は狙われますよ?」

 

 何たって手元に【あいいろのたま】がある訳ですし。

 

「その辺の話は協力してくれるなら、これから煮詰めていこうと思っている」

 

「……いいでしょう。とは言ってもどうせ俺が許可しなくても、偶然とか言って何だかんだ先回りされそうですし」

 

 こっちを信頼してもらっている以上、こちらも信頼で返そう。しっかりと話し合おうか。備えあれば嬉しいなって言葉もあるぐらいだしな。

 

 

 


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