2022年8月31日、われわれ勉強会「Web3.JP」のメンバー有志は、自由民主党デジタル社会推進本部Web3PT(旧NFT政策検討PT)に対する提言を行いました。
この提言は、同PT名で作成された政策提言『NFTホワイトペーパー』に対する追加的提言です。同ペーパーは、自民党公表の『デジタル・ニッポン2022』の別添1として本年4月26日付で正式に公表されたものであり、下記6分野に対する計24の提言を含むものでした。
- Web3.0時代を見据えた国家戦略の策定・推進体制の構築
- NFTビジネス発展に必要な施策
- コンテンツホルダーの権利保護に必要な施策
- 利用者保護に必要な施策
- ブロックチェーンエコシステムの健全な育成に必要な施策
- 社会的法益の保護に必要な施策
このように『NFTホワイトペーパー』は、そのタイトルとは裏腹に、必ずしもNFTには限定されない形で、多岐にわたる項目(例えば暗号資産やメタバースなど)がWeb3に関する政策提言として盛り込まれているものです。
我々「Web3.JP」は、この政策提言集に対し、我が国がWeb3のグローバル市場で戦うために更に必要と思われるいくつかの点を、追加的に提言しました。本記事では、その提言書を引用しつつ、適宜コメントを付して紹介していきます。
- Web3.JPによる提言書の本体はこちら:220831 Web3.JP追加的提言.pdf
- 提言に関する報道:あたらしい経済
本提言は上記のとおり、『NFTホワイトペーパー』への追加的提言を行うものです。なお、本追加的提言の提出および意見交換の会が、NFT政策検討PTが「Web3PT」に名称変更されてから初の会合となりました。
私はWeb3PTの有識者メンバーでもありますので、「Web3.JP」の今回の提言には、アドバイザーとして関与する形となりました。
私自身は2020年のはじめ頃からWeb3.JPに参加しておりますが、代表世話人である内山さんは大学の先輩にあたり、またPT会合に参加した渡辺さんは東大ブロックチェーン寄付講座で私が講義をしたときの受講者としてお目にかかって以来のご縁、菊池さんはスタンフォード大学ロースクールへの留学直前の現地サマースクールでご一緒して以来のご縁と、まさに “it’s a small world!” です。
提言の趣旨・目的は上記のとおりです。我々の提言は『NFTホワイトペーパー』への反対を唱えるものではなく、プラスアルファとしてのものです。
我々の提言は、Web2.0時代のいわゆる「デジタル敗戦」を繰り返してはならない、という危機意識に端を発するものです。
提言の骨子は上記のとおりです。我々の提言は、我が国がWeb3のグローバル市場で戦うための提言であり、その点では1.が中心的な内容となりますが、国内環境の整備は車の両輪であり、その双方が重要です。
『NFTホワイトーペーパー』にも「ブロックチェーン技能に長けた起業家・エンジニアの育成・確保」という個別の提言項目がありましたが、それに更に追加する形で、上記の提言を行いました。
上記のうち2点目は、下記日経の記事を端緒に「渡辺創太問題」とも俗称された法人税課税の論点に関するものです。『NFTホワイトペーパー』にも「ブロックチェーンエコノミーに適した税制改正」という個別の提言項目がありますが、そこでは上記のとおり、発行体における課税問題にのみ言及されていました。
日本経済新聞 2021年11月7日
酷税に失望、デジタル頭脳去る 暗号資産で「戦えない」
実務上は、発行体以外の法人によるトークン保有に対する課税関係も重要な論点です。Web3分野への投資を行うVC等では、エクイティではなく(またはエクイティに加えて)トークンへの投資を行う実務が存在する(むしろ多数とさえいえる)ところ、現在のように一律に期末時価評価するとなると、新規プロジェクトのトークンに投資した企業は、期末時価評価を避けるためトークンを処分するか、そうでなくとも納税の原資としてトークンを処分することとなり、いずれにせよトークンに対する「売り」の圧が生じます。これが知れ渡ると、海外プロジェクトは日本からのトークンへの投資を積極的に避けるようになるはずで、我が国が投資機会を喪失することにも繋がります。
『NFTホワイトペーパー』策定の過程でも、MITメディアラボ前所長であるJOIさん(伊藤穣一さん)からご意見をお伺いするなど、グローバル人材の知見を活用することは考えらえていましたが、それを更に推し進めるものです。
下段の具体的施策については、『NFTホワイトペーパー』にも「トークン発行に際しての審査の基準緩和」という個別の提言項目が置かれています。上記提案は、それを更に推し進め、法令上の認定をうけた業界団体を通じた重厚な「共同規制」アプローチをとる現状の規制実務を更に緩和することを提案するものです。
冒頭で述べたとおり、『NFTホワイトペーパー』の公表は重要な第一歩です。岸田政権もWeb3を成長戦略に取り込むことを決め、いわゆる「骨太の方針2022」や「デジタル社会の実現に向けた重点計画」(いずれも6月7日閣議決定)には、Web3に関する施策が複数盛り込まれました。
しかし、本格的な議論はまさにこれからです。Web3PTにおいても今後、『NFTホワイトペーパー』を『Web3ホワイトペーパー』としてアップデートしていくことが見込まれる中、Web3.JPによる追加的提言が、我が国におけるこれからの議論に資するものとなれば幸いです。
なお本提言には下記のとおり、世界各国のWeb3推進施策も参考資料とし添付しています。「Link」については、提言書本体のファイルに設定されたリンクをご利用ください。