1976710日、イタリアのセベソでダイオキシンを含むガスが市内に放出された。会社は事故を隠し、5日間の間、住民は避難もせずに高濃度のダイオキシンの中で生活をした。

 

 この時、飛散したダイオキシンは5キロから20キロ、あるいは250グラムから300グラムと言われ明確ではない。しかし一人あたり暴露された量は日本の環境基準に比較して10兆倍とも言われる。

 

 もし、ダイオキシンが猛毒ならセベソの人は全滅だっただろう。確かに、家畜の一部は死に、危険が迫っているように見えた。

 

 そして、誰かがダイオキシンが猛毒だと言い、奇形児が生まれるという噂wを流した。妊娠中の母親は極度の緊張に襲われ、お腹の子供を産むか、それとも中絶するかの選択を迫られた。

 

 お腹の子供はすでに呼吸をし、心臓は動いている。紛れもなく「生きている」のである。

 

 もし誕生すれば一粒種になる夫婦もいたし、初孫の誕生を待ちわびていた老夫婦もいた。悩み、苦しみ、60人の母親が苦痛の中絶をし、60人の命が奪われた。もし生まれてくる子が無惨な奇形児だったら本人も家族も辛い日々を過ごさなければならない・・・そう懼れたのだ。

 

 悩み、苦しみ、そして母親は決断した。でも、その決断がさらに苦痛を増加した。「奇形児が生まれるぞ」という噂に負けずに耐えた母親から生まれた子供に、一人の奇形児もまた奇病をもった子供もいなかったのである!

 

 どんな気持ちだっただろうか?ああ、可哀想なことをした。生めば良かった。かわいい赤ちゃんがそのお母さんの胸で笑顔を見せるはずだったのだ。もう1ヶ月もすれば・・・それが・・・

 

 悔やんでも悔やみきれない。でも、もうお腹の赤ちゃんはこの世にいないのに、お隣からは元気な泣き声が聞こえる・・・ああ!

 

 噂を流したのは誰だ!ベトちゃんドクちゃんはダイオキシンが原因だと無責任なことを言ったのは誰だ!脅かせば良い、危険を叫べばよいというものではない。大切なのは「正確な情報」なのである。

 

 かつて私もダイオキシンが猛毒だと思っていた。自分で論文も調査もしないのに何となくそう思っていた。でも、ある時にヨーロッパのインターネットを見ていたらセベソの健康診断の結果に巡り会った。

 

 そして驚いたことに、事故の後、セベソの人に健康障害がでていないのだ?もちろん、良いことだったが規制値の10兆倍でも無事??私はその後、セベソの健康診断結果をときどき見ては、だんだん「ダイオキシンは強い毒物ではないのだな」と思うようになった。

 

 確かにセベソのご婦人の皮下脂肪にはダイオキシンが通常人の6倍以上あったが、だからといって障害は出ていないのである。

 

 そんな時だった。ある新聞が「セベソの夏」というアニメーションの「教育映画」が出来たことを報じていた。セベソの被害者を救うために日本から少年少女がイタリアに渡り、犠牲者を救うという筋書きだった。

 

 私はすぐ電話をした。「販売を止めて欲しい。いくらアニメーションでも事実と違うことを伝えるのはまずい!」。でも、ビデオは売られ、文部科学省は「指定ビデオ」にした。多くの中学生がこのビデオを見てダイオキシンの幻想を抱くことになった。

 

 今でも「セベソの夏」は販売されているだろう。ウソでも何でも良い。儲かればよいというのは日本の文化ではない。それも相手は子供だ。即刻、販売を止めて欲しい。

 

 自分が「そうなって欲しい」と思うことなら「何でもやって良い」ということが多くの犠牲者を生んでいることを知って欲しい。

 

 正確な情報こそ社会を正常にする。

 

おわり