「日本の米は世界一」「糖質制限ダイエットやってみた」「はたらきたくない」
これ全部、あるバンドの楽曲のタイトルである。「ちょっと何言ってるかわからない」と思った人、あなたの直感は正しい。
その名も「打首獄門同好会」。轟音をかき鳴らしながらユルい日常を歌う独特すぎるスタイルで、「生活密着型ラウドロック」を標榜する。
ベースのjunkoが還暦だったり、なぜかいきなり中国で人気に火がついたりと、ツッコミどころ満載な3人組だ。
ミニアルバム「そろそろ中堅」を発売し、「しゃべくり007」「スッキリ」など人気番組を席巻する彼らに聞いた。
打首獄門同好会って、いったい何者なんですか?
ヤバすぎるバンド名の由来

――何百回と聞かれていると思うんですが、改めてバンド名の由来を伺ってもいいですか。
河本あす香(ドラム&ボーカル) とにかく和風な名前がいいなと思って、「チョンマゲトリオ」はどうかって聞いたんですよ。そうしたら、会長が3つぐらい案を出してきて…。
大澤敦史(ギター&ボーカル、以下「会長」) チョンマゲトリオを阻止するために考えました。「打首獄門同好会と切腹愛護団体と終生遠島協同組合、どれがいい?」と当時ベースだった高山明に聞いて。
そうしたら高山が「打首かな〜」って。どう考えても、あれは消去法ですね。
生活密着型ラウドロック

――「生活密着型ラウドロック」というコンセプトはどうやって固まっていったのでしょうか。
会長 歌詞を書くのも初めてだったので、何を書いたらいいんだろうと試行錯誤した時代もありまして。一部マジメな曲をつくったりもしました。
そんななか、朝ごはんのことを歌った「Breakfast」という曲がライブでウケて。お客さんのリアクションがよかったので、こういう曲でいいなら俺もやりやすいし、やりましょうと。段々に固まっていきました。
「今日も貴方と南武線」はJR南武線の各駅の名前をひたすら連呼するだけの曲なんですけど、渋谷のライブハウスの人に「あの曲やらないんですか?」と聞かれたりして。
「南武線、渋谷行かないけどいいの?」みたいな。
河本 仙台でライブした時に「南武線沿いに住んでました」って言ってきた人もいたね。
会長 各地のライブハウスでお客さんが歩み寄ってきて、「俺も南武線なんです!」と言ってくる(笑) それで、ああやっていいんだなと。
新生姜の工場を見学

――歌詞は「ほぼノンフィクション」とうたっていますが、どんなところにこだわっていますか。
河本 生姜が好きで、生姜料理をつくってTwitterにアップしたんです。そうしたら岩下食品の社長さんの目にとまってお声掛けいただいて、曲をつくろうかという話になりまして…。
会長 僕としては全然知識が浅いので、「歌をつくるかどう考えるために、工場見学に行かせてください」とお願いしました。
栃木に行って工場見学して、社員さんに「岩下の新生姜」のオススメ料理を聞いたりして。
――取材じゃないですか。
会長 そうなんですよ。根掘り葉掘り。「なるほど、これは参考にします」とアイディアを持ち帰って。社長がTwitterで新生姜がトッピングされるそば屋を紹介していたので、それも食べに行きましたし。
そういうジャッジを重ねて、これはおいしい、歌詞にしようと。で、生まれたのが「New Gingeration」です。
市場で肉買い河原で焼き鳥

――「ヤキトリズム」をつくるにあたって、実際に焼き鳥を焼いたというのは本当ですか?
会長 ええ。「せせり」という部位が好きなんですけど、スーパーに置いてなくて。店に行くのも高くつくなと思って、よし、市場へ行こうと。
――いや、どう考えてもそっちの方が大変でしょう。
会長 朝、早起きして川崎の北部市場に行って、せせりの塊をドッスンと買って。家のなかで焼くと煙が火事レベルになっちゃうので、河原にカセットコンロを持って行ってパチパチと。
酒も必要だなと思って。こういう時は芋焼酎が便利なんですよ。氷と酒瓶、グラスだけ持ってけば成り立つっていう。ビールとかだと冷やさないといけないんで。
めくるめく「せせり愛」

――ドキュメンタリーですね。
会長 ただ、一曲に仕上げるにはまだ焼き鳥に関する情報量が足りないという感じもあって、一度は寝かせていたんです。
そういう期間を経て、三軒茶屋のあるお店で、すごいおいしいレバーに出会ったんですよ。それで、「ついにあの曲を仕上げる時が来た!」と。
――最初から焼き鳥屋さんで良かったのでは。河原のくだり必要でしたか?
会長 いやいや。やっぱり、せせり愛を深めないと。せせりコールがありますから。
引く手あまたの企業コラボ
――実体験に基づいているからこそ、気持ちも乗るし。
会長 そうですね。最近は企業さんとコラボしようという話も増えてきて。以前は「打首獄門同好会」というバンド名がハードルになってたんですけど、実績を積んで、ようやくこの名前も市民権を得てきました。
「そろそろ中堅」の収録曲でいうと「YES MAX」がスーパーカップMAX、「Shake it up ’n’ go」がシャキッとコーン、「はたらきたくない」が「WORK×WORK」というゲームの曲になっています。
スーパーカップは本当に食べてたので書きやすかったです。カップ麺ばっかり食ってたような学生時代でしたから。
コーンだって、人生生きてりゃ何度も口にしてますからね。「はたらきたくない」っていうのも、本当に働きたくないっていう実体験ですし。
ほぼノンフィクション
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打首獄門同好会 「YES MAX」
――タイアップでもノンフィクション。
河本 フィクションの曲ってないんじゃない?
会長 なくはないんじゃないか。何かないかな…(※しばらく考え込むが、一向に出てこない)
河本 ほぼ実体験。「これはウソですね」って言える曲はなくない?
会長 ないかも。実体験、本音ですね。
思いつきが曲になる

――会長が突拍子もないアイディアを出してきた時に、河本さん、junkoさんのお2人が止めに入ることはないのでしょうか。
河本 ほぼないです。
会長 スタジオで発表して、沈黙が流れることはありますが。
junko 「やんごとなき世界へ」が本当に曲になった時はビックリした(笑)「やんごとなきなき なっきなきー♪」とかただ言ってるのを、本当にレコーディングするの!?って。
河本 スタジオで「だいたいOKじゃない?」って言ってたら、「だいたいOKです」って曲が生まれたり。
会長 歌テイク録って、「どうですか?」「だいたいOKじゃないですか」「だいたいOKっす」って進めてたら、スタジオ中がそのテンションに包まれて。
「これ、次回までに曲にしますわ!」って本当に曲にして。いまや、密かな人気曲です。
河本 そんな感じで、意外と普通に受け入れてます。
中国でバズりまくる
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打首獄門同好会「布団の中から出たくない」
――「布団の中から出たくない」は、なぜか海外でバズりまくってますね。
会長 ミュージックビデオをYouTubeで公開したら、1週間後ぐらいに中国のSNSにアップされたみたいで。まったく身に覚えのない中国語の字幕まで付いてました。
見てみると画質がなんかおかしくて、ちょっと影がかかってる。この人、画面を接写したんじゃないかって(笑)
中国の規制のせいなのか、本人の技術的な問題なのか、元の素材をダウンロードすることができなかったんでしょうね。
あっちこっちで、300万、800万再生とかされていて、合わせると1000万回を超えてますね。
欧米にも拡散
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打首獄門同好会 (Uchikubi Gokumon Doukoukai) - I don' t wanna get out of futon
――中国の人も、布団の中から出たくないんでしょうね。国境を越える欲望。
会長 チラチラと翻訳ソフトをかけて読んでたら、「わかるー」みたいな共感の声が多そうだ、というのは何となくわかりました。
そのうち、英語圏にも広まりだして。アメリカとか、カナダとか、ヨーロッパとか、国によって解釈が若干異なるんですよ。
「うちの国は暖房設備がこういう風になっているから、朝も別につらくない」とか。なんて言ったかな、センター…
――セントラルヒーティングですか?
会長 そう、それ! 本当に寒いところは設備がちゃんとしてるから大丈夫だって。なんなんだ、この予期せぬ情報交換はっていう(笑)
気候が暖かいからか、東南アジアの方はさすがに反応が薄かったですが。
布団の中から出てえらい
打首獄門同好会さんの「デリシャスティック」という曲が好きです。 描いたけどtwitterに載せていなかった絵を見つけたので載せてみます。
――後半の「布団の中から出てえらい」という歌詞が勇気づけられます。
会長 だいたい、みんな出たくないですからね。
MVはコウペンちゃん(※なんでも肯定してくれるコウテイペンギンのキャラクター)のアニメーションなんですけど。
作者のるるてあさんが、打首のライブにも来てくださるぐらいのファンだとわかって、コラボをしましょうという話になりました。
「布団の中から出てえらい」というフレーズも、コウペンちゃんのキャラクターが曲に影響を与えてくれた、というのが大きいです。
MVの映像と曲が一緒に生まれる、というウチらとしては新しい体験でしたね。
逆に失礼かなって

――いわゆる「コミックバンド」的な見方をされることに対しては、どう思っていますか?
会長 「面白いバンド」と思われることは全然、やぶさかではないです。
ただ、「コミックバンドやるぜ!」という確固たる意志のもとでやっている人たちに比べちゃうと、コミックに命がけになる覚悟はないので、逆に失礼かなって。ウチらは歌詞がちょっと変なだけなんで。
知り合いに「四星球」っていうバンドがいるんですけど、彼らは「コミックバンド」っていう肩書きに誇りを持って、本当に真面目にコミックやってるんですよ。
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四星球「チャーミング」MV
入念な段取りとシナリオと。小道具にもこだわってるし。毎回同じネタをやらないとか、ポリシーを持ってる。ものすごく頭がよくてちゃんと努力していて。
彼らと並んで「コミックバンド」を名乗れるかっていうと、ちょっとその権利はないなっていう。
嘉門タツオさんに感じた威厳
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SEX MACHINEGUNS - みかんのうた(LIVE)
――いまのような歌詞を確立する段階で、たとえばSEX MACHINEGUNSや嘉門タツオさんを聴いてみたり、ということはあったのでしょうか。
会長 あんまり参考にしちゃうとコピーになっちゃうので、近いなと思うものは逆に聴かないようにしていました。
それでも、SEX MACHINEGUNSさんとは対バンさせていただく機会があって。見ているとやっぱり、本当に完成度が高い。
嘉門タツオさんも「カモン諭吉」のMVにゲスト出演していただいたのですが、お話しすると非常に威厳のある方で。
コミック性を前面に出してちゃんと成功している方たちは、実は確固たる技術や戦略がある。「俺たち面白いでーす」で生き残れるような世界ではないな、と実感しています。
本当に面白いアーティストさんって、裏で会うと全然キャラが違うということがすごく多いんですよ。
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打首獄門同好会「カモン諭吉」
どこにもなじまぬ独自性
――明確にジャンル分けできないところが、打首らしさというか。
河本 ウチらは結構、曖昧な線ではあるよね。ラウドのなかにバーンと放り込まれても違うし、「面白いです」みたいなところに放り込まれてもちょっと違う。
――両方から半歩ずつズレている。
会長 そうですね。よく言えば独自性だし、悪く言えばどちらにもなじまない、みたいな生き方をずっとしてきましたから。
ポップス的なイベントでも、ラウド的なイベントでも、割と真ん中へんの「フック」的な枠で起用されることが一時期すごく多くて。
ちょっと空気を変えるワンポイントアクセントというか。コミックバンドと違って「面白いことやって」と言われても、すぐにできないですし。
河本 ツッコミもできないし。
会長 そういう立ち位置を認識してもらいたくて、「生活密着型ラウドロック」という言葉を生み出したところはありますね。
そろそろ「中堅」でいいかい?

――今年で結成15周年を迎えます。「そろそろ中堅」という新作のタイトルは、そのままバンドの自己認識と受け取っていいでしょうか。
会長 前に「まだまだ新米」というミニアルバムを出したので、その流れもありつつ。あとは、15周年で俺たちはいったい何になったのか、という意識もありまして。
15年もやったらベテランの域じゃない?って昔は思ってたんですけど、いざ15年目になってみると、20年以上のバンドが最前線でゴロゴロ体を張ってる。
そういう実情を見ていると、全然ベテランを名乗れない。でも「中堅」はそろそろいいかい? 武道館ライブもやったしさと。お伺いを立てる感じですね。
わりかし、性格が出てると思います(笑)
「音楽バカ」で突き進む
――最後に、今後の抱負を一言ずつお願いします。
junko ツアーでお客さんに会うのが楽しみですね。特別な野望はないですけど、いままで通り好きなことをして、楽しんで生きていけたら。いまさらスーツは着られないし、死ぬまでギャル服でいきたいです。
河本 これからツアーでいろんな場所をまわれるので、すごく楽しみにしていて。「そろそろ中堅」の曲をライブでやったら、どうなるんだろうって。早くみんなとワイワイ騒ぎたいですね。
会長 基本的に音楽バカなので、いい音でいい演奏をできることにワクワクしております。ツアーでは一皮向けた我々をお見せできるんじゃないかと!
「そろそろ中堅」も過去一番で気に入った音に仕上がってるので、皆さんに楽しんでいただきたいですね。

〈打首獄門同好会〉 2004年結成の3ピースバンド。現在のメンバーはギター&ボーカル大澤敦史、ドラム&ボーカル河本あす香、ベース&ボーカルjunko。「生活密着型ラウドロック」を標榜し、生活感あふれる歌詞を轟音でかき鳴らす。昨年3月には、日本武道館でのワンマンライブを成功させた。15周年を迎える今年は、8曲入りのミニアルバム「そろそろ中堅」を発売。47都道府県をまわる「獄至十五ツアー」を開催中。
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