新型コロナウイルスの影響が世界各地へ広がるなか、中国系をはじめとするアジア系の人に対する差別的な言動やヘイトクライムが増加している。
アメリカでは、トランプ大統領が新型コロナウイルスを「中国ウイルス」などと呼び続けていることが影響しているとされ、ある広告代理店では、アジア系のクリエイターたちが「Call it Covid-19(COVID-19と呼んで)」と題した動画を制作した。
ショートフィルムを制作したのは、NIKEの「Just Do It」キャンペーンなどを手がけたことで知られるアメリカの広告代理店「Wieden+Kennedy」のアジア系アメリカ人クリエイターたち。
動画は2分23秒にわたり、「ある言葉」が引き起こす混乱や恐怖、暴力について語る女性の声とともに、実際に起きたヘイトクライムの写真や事例が、次々と映し出される。
言葉はただの言葉ではない
たった一度きりで
たった一言だけで
誰かの真実になり
誰かの悲しみを生む
恐れ、混乱は行動を引き起こす
レストランの窓の張り紙
「ここは中国人お断り」
車のドアに書かれた中傷
「クソアジア人、国に帰れ!消えろ」
握られた拳は、
彼女の背中に、腕に、顔に振り下ろされる私たちの国から出て行けと
顔に唾を吐かれ、蹴られ
ペンキをかけられ
消毒スプレーをされ
酸をかけられ
ナイフで切り裂かれる
動画の後半では、差別や暴力から家族を守るために、姿を潜めるよう伝えなければならなかった悲しみが語られ、「このウイルスは差別をしない。人間が差別をする」と訴えている。結びの言葉はこうだ。
わかるはずがない、たった一言の力を
その言葉はあなたに向けられたものじゃないから
でも、もしあなたが私だったとしたら
このウイルス(感染症)を『COVID-19』と呼ぶ
「中国ウイルス」と呼ぶトランプ大統領
動画内では明言されていないものの、「COVID-19と呼んで」というメッセージには、この感染症について語る際に「中国ウイルス」などの言葉を使い、差別を助長してきたとされるトランプ大統領への強い批判が込められている。
新型コロナウイルスは昨年末、中国の武漢市で最初に確認された。その後、ウイルスは世界中へ広がり、現在の感染者数は全世界で1200万人を超えている(7月9日現在)。
その中で、もっとも多くの感染者と死者が出ているのがアメリカだ。
その間、トランプ大統領は「中国ウイルス」や「武漢ウイルス」などの名称を多用してきた。ヘイトを助長する差別的な表現であるという批判に対しても「中国から来たんだから、極めて正確な表現だ」と反論した。
3カ月で1900件近くの通報
実際にどのような差別が起きているのか。アジア系住民を標的にしたヘイトクライムに関する通報窓口を設置した「アジア太平洋政策計画協議会」によると、3月19日から6月9日までの3カ月間に、1843件もの通報があった。
もっとも多かったのは、「言葉での嫌がらせ」で全体の69.3%を占めた。他にも「避けられた」「唾を吐かれた/咳をされた」がそれぞれ22.4%、「身体的な暴力を受けた」が8.1%だった。
中には「唾を吐かれ、『この国をダメにしている病気と一緒に、国へ帰れ』と言われた」「友人が車に赤ちゃんを乗せていた際に、ガラス瓶を投げつけられ、『国へ帰れチンク(中国人に対する英語の侮蔑語)』と言われた」などの事例が報告された。
他にも、ニューヨーク市でアジア系の女性が酸をかけられる事件や、同市の電車内でアジア系の男性が別の乗客に消毒液をスプレーされる事件、テキサスでアジア系の家族がナイフを持った男に襲われ、幼い男の子が重傷を負った事件などが相次いで報じられている。
「Call it Covid-19」のクリエイティブディレクターで、ベトナム系アメリカ人のタイタニア・トランさんは、ヘイトクライムが増えるのを目にし、「自分たちが声を上げて、家族やコミュニティを守っていかなければならない」と感じたと、BuzzFeed Newsの取材に語る。
「これまでアジア系のコミュニティは、アメリカ社会の中で比較的、目立たないようにしてきました。私たちの何世代も上の人たちにとっては、ひっそりと生きることが生き延びるための手段だったのだと思います」
「でも今は違います。私たちの親たちは、私たちを隠すことで世界から守ってくれていました。今度は私たちが声を上げ、親や家族を守る責任があるんです」
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