けもフレ、ネトフリ、宮崎駿監督の復帰...。2017年も作品はもちろん声優や周辺環境と話題が豊富だったアニメ業界。果たして同じ業界の人間はどう見ていたのか。
2月に公開されたヒットした映画「劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-」の監督、伊藤智彦氏と共に2017年のアニメ業界を振り返る。
――2017年ですが、まず伊藤さん自身でいうと劇場版ソードアート・オンラインが全世界累計の興行収入43億円を突破とヒットしました。ソードアート・オンラインに関わる仕事はいつまで続いたんですか?
中国公開で、9月に北京へ行ったのが劇場版ソードアート・オンラインの最後の仕事ですね。
中国は人が多いし、国がでかい。深圳ほどではないにしても電子マネーが発達してたり、街並みを見て、これは勝てないと感じました。
――中国で流行っている日本アニメはあるんですか。
仲良くなったビリビリ動画の方が言うには、遅ればせながら「干物妹!うまるちゃん」が人気だと言ってましたね。
中国語では「干物妹!小埋」と書く
――昨年は、日本のアニメ監督を中国がスカウトしているとの話もお聞きしました。そうした状況は変わらないでしょうか?
俺が中国に行った時も、中国のスタジオに来る気はないかと誘われました。
本気で言ってたのかはわからなかったですが、その時とは別に中国のとある会社からPVを作ってくれないかと指名で話が来たこともあります。
スケジュール的に厳しいと返したら「スケジュールはいつでもいいんで」って返ってきて(笑)。中国側としたら、日本人の有名な監督にやってもらって箔をつけたいというのが特にあるらしいんです。
アニメ制作の環境は改善された?
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――NetflixやAmazonプライムでのアニメ制作も今年は話題になりました。資金力豊富なネット配信サービスの参入で日本のアニメ業界が潤う、と言われていますが、実際はどうなんでしょうか?
いろんな方に聞いた話を総合すると、確かに現場、制作スタジオに落ちるお金は増えるみたいです。
全話納品がノルマらしいんですけど、そのお金だけでペイラインをクリアできるのに充分な実入りがある。
スタジオ的にはとてもいいんですけど、メーカーサイドは難儀らしいです。
独占配信だと、何年間かパッケージ化できなかったり、他のサービス、例えば地上波でも流せないとか、アニメグッズの販売にも制限がついたり。
配信サービスのアニメはワンチャンネルになってしまうので、これまでのような大ヒット、作品の広がりが厳しいかもしれない。新しい戦略が必要な気がします。
――10月に発表された「アニメ産業リポート2017」では、アニメスタジオへの制作費は「ゆるやかながらも上昇傾向」と書かれていました。労働環境は少しずつ改善されてきたのでしょうか。
アニメーターの給料に関して、そういう話は聞くようになりました。社会的な働き方改革の流れがアニメ業界にも入っていて、土日が完全に休日になった会社も出ています。
特に東映のような大きい会社は厳しいみたいで、以前のように打ち合わせを入れようとすると「無理です」と言われます。
――「宝石の国」を手がけたオレンジ、「シドニアの騎士」を手がけたポリゴン・ピクチュアズなど、CGアニメスタジオ自らがアニメ制作に乗り出しています。
いい傾向だと思います。CGアニメスタジオはスケジュール管理などシステマティックにやれますし。
――CGアニメですと「GODZILLA 怪獣惑星」は事前の期待ほど興行収入を伸ばしていません。
ゴジラは周りの思惑が色々ありすぎたのではないかと思います。そもそも劇場での上映ではなく、ネット配信サービス用のアニメだったという声もありますし。
劇場で予定されている3部作をそれぞれ4等分すると、12話でちょうどテレビシリーズ。
まあ、あくまで噂ですけれど、そんなにビッグ・バジェットでは作らず、実は割り切った作り方をしている印象はありますね。
けもフレ、スマホゲームバブル、文春砲
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――CGアニメですと、今年は「けものフレンズ」が大ヒット。たつき監督が2期から降板したことも話題となりました。
正確な話を知らないので、そのあたりの話はなんとも言えないですが、ハイクオリティーなアニメーションでなくても、話が面白くて世界観とマッチしていれば2D、3D関係なく受け入れられるということを示してくれたのではないでしょうか。
――デジタル作画が主流ですが、最初からデジタル作画をしていた人材の方がうまいし、発想が違うと聞いていますが、どうですか?
確かにうまいですね。ベテランのアニメーターの中には「われわれが継承してきた技術と違う」という人もいますけれど。
デジタル上で作画する子たちの中にはキーフレームから描かずに、頭から全ての絵を描き送るようにしている人たちがいます。
アナログアニメの熟練者たちに言わせると無駄が多すぎる、となるんですが、デジタル作画世代はPC上でトライアンドエラーをし易く、手早く描けてしまうのです。いわゆる、中割り(原画と原画の間を繋ぐ絵)まで全部描いちゃうみたいなことが起こるわけです。
アニメで中割りは、それほど丁寧に描かない場合もあった
デジタル世代はうちうちでつるみがちなところもあります。SNSとかでグループ化していて。
そういうのはあっていいと思うんですけど、新しい世代の子達と、お互いのいいところをどう取り込めるかが今後は大事ですね。
――アニメスタジオへのお金の流れですと、以前はパチンコでしたが、今はスマホゲームで活況を呈していますね。アニプレックスは「Fate/Grand Order」の好調で2017年3月期の決算では前年比2.2倍となる165億円と大幅増益。伊藤さんがよくお仕事をされているグループ会社の「A-1 Pictures」にも好影響はあったんでしょうか。
A-1 Picturesはあまり関係ないと思いますが、その余裕があるから、今シナリオを手がける「スクリプトルーム」をやらせてもらっているのかなとは思います。
ただこのお金の流れは10年続かないと思うんですよ。お金があるうちに次のためにどういう手を打つのか。スクリプトルームでオリジナル作品のシナリオを作り、権利を保持したいという考えもありますよね。
でも先のことは分からない。5年くらい前には「5年後。アニプレックスはないんじゃないか」という話をしている人もいましたけど、そしたら意外と回ったわけですし。
――スマホゲームが活況なことで、若手声優にも声の仕事が増えています。
スマホゲームがいっぱいあるので、若い子は羽振りがいい。バブルみたいですね。アニメには出ていないですけど、イベントには出ていますという子も多い。誰が誰だか分からないと、音響制作の人がぼやいてました。
声優でいえば、おじいさん役が欲しいけど、若手では難しいと探していたらこの間、46歳の新人声優がいました。
――えっ、46歳ですか。
ボルケーノ太田さんっていうんですけど。
昔、バンダイでデジモンなんかのプロデューサーをしていて、44歳の頃に一念発起。今は青二プロダクションに所属して、ジュニア(新人扱い)でやっています。
――花澤香菜と小野賢章、茅原実里と一般男性の熱愛など、週刊文春が声優のスクープを追っかけるようにもなりました。
あはは。そんなに大したネタをまだ拾えてないみたいですけど。結局ゴシップの後にファンの人たちがどう見るか。報道後も、意外と声優に頑張れって声を送る人も多いですよね。
――声優ファンからは「ダメージないからやめとけ文春」って小バカにされている感じもありますね。その一方、薬指に指輪はめているとか、画像をくまなく探しているスキャンダルを見つけようというファンもいます。
攻めてくると思って構えているのはいいけど、声優の方から自爆されると困るってことなんですかね。
ネットの掲示板の情報の中には意外と本当なこともあって「よく知っているな、君たち」と驚くこともあります(苦笑)。
――伊藤さんの作品で、もし声優が文春砲にあったとしたらどうですか?
変なこと、事件性があったりすると困ったなとなりますけど、恋愛だったりはちゃんとしていればいい。むしろ、文春の報道に乗っかっていくくらいの気構えでいいんじゃないかなと思います。
ジブリ、エヴァ、そして2018年
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――今年は宮崎駿監督が長編アニメへの復帰も発表されました。
誰もが予想していたし、NHKのドキュメンタリーにも出てました。スタッフ募集が話題になっていましたが、宮崎監督自らカラーに行って、核となる人材を貸してくれと頼んだらしいです。
復帰されるにあたって、宮崎監督へのリスペクトはもちろんあるんですが、新海誠さんだったり長井龍雪さんや、荒木哲郎さんといった若い世代の監督の奮起には期待したいですよね。
――カラーといえば、エヴァンゲリオンの新作がなかなか出てきません。実はすでに動き出しているという話を聞いています。公開タイミングはわからないですが、宮崎監督の作品とかぶる可能性もあるのでは...。
――伊藤さんは映画自体お好きですが、今年気になった作品はありましたか?
映画だと「IT/イット “それ”が見えたら、終わり。」ですね。キング好きなので。
なぜヒットしたか不思議な気はしたんですけど、YouTubeの予告の頭で「再生回数史上No.1」と出るので、それが引きになったのでは、と知人が予想してました。若い子が少女漫画原作の実写映画に飽きて、ハイティーン向けの映画としてハマったのかもしれません。
――アニメで気になった作品はありましたか?
「DYNAMIC CHORD (ダイナミックコード) 」ですね。一度コンテをやりませんかと言われて、断ったんですが、どういう風になっているかなと気になってオンエアを見たらすごかった。
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2017年にああいった作品が見られてなんかホッとするというか。ああ、アニメって昔こうだったな、とか思いながらチェックしてました。
俺は普通にオンエアを見た上でさらにニコニコ動画で実況付きのものと計2回見ていますからね。そういう意味では愛される作品です。
――今年もありがとうございました。最後に2018年の抱負をお願いします。
来年の春くらいには何らかの発表ができればと思っています。スプリクトルームでオリジナルシリーズの脚本を完成させたいですね。
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