撤退続く防衛産業の転機に、日英伊の戦闘機プロジェクトー三菱重工
萩原ゆき、Isabel Reynolds-
プログラム通じて国内の防衛供給網に知見とビジネス機会ー杉本氏
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多国間の枠組みで輸出規制見直しあれば、産業基盤形成に貢献
日本と英国、イタリアの3カ国による次期戦闘機の共同開発に参加する三菱重工業は、欧州防衛・航空大手とのプロジェクトが撤退相次ぐ国内防衛産業の転機になると見込んでいる。
三菱重工で次期戦闘機プログラムオフィス長を務める杉本晃氏は10日のインタビューで、経験豊富な欧州企業との交流や海外市場と接点を持つことで、「日本の防衛サプライチェーン全体が知見やビジネス機会を得られる」と述べ、国内防衛産業基盤の成長につながるとの期待感を示した。
日本と英国、イタリアは昨年12月、2035年までに次世代戦闘機を共同開発する「グローバル戦闘航空プログラム(GCAP)」方針を発表。三菱重工と英BAEシステムズ、イタリアのレオナルドが主要請負業者となった。防衛省によると、3カ国の防衛相は16日に都内で会談し、GCAPはじめインド太平洋地域での安全保障協力について協議する。
日英伊が次世代戦闘機を共同開発へ、2035年までに-米国も支持
国内の防衛産業では、利益向上が見込めないとして企業の撤退が続き、装備品の国内調達率が低下。有事に国内で防衛装備の修理や弾薬の生産ができず、戦闘を続ける「継戦能力」への支障が懸念されている。GCAPは問題解消に向けた糸口となり得る。
自衛隊のFー2戦闘機などを生産してきた同社でも、何万点とある部品の一つが企業撤退で調達できなくなったことで生産が停止した経験がある。杉本氏は産業の縮小を「大変心配している」と語った。
開発や生産の初期段階に莫大(ばくだい)な投資をしても販路がほぼ防衛省に限られることや、年度により調達方針が変わることも事業継続を難しくしている。安倍政権は、原則禁止としていた武器輸出を一定条件下で容認する方針に転換したが、運用指針が厳しく海外市場への広がりには欠けている。
同プログラムの海野洋志副オフィス長は、「今後、政府間の取り決めの中で輸出ができるようになると大きく違ってくる」と述べ、多国間での枠組みをきっかけとした輸出ルートの確立が「レジリエントな(弾力性のある)産業基盤形成」に貢献するとの見方を示した。
第2次安倍政権で国家安全保障局次長を務めた兼原信克同志社大学特別客員教授は、輸出ができずに販売数が限られている日本の防衛産業は、コストが下げられないため価格競争力の面で「圧倒的に弱い」と指摘。輸出を可能にすることは重要だと述べた。
政府は、防衛装備品の輸出を後押しするため、製品の仕様を海外向けに変更する費用を助成する基金創設を盛り込んだ「生産基盤強化法案」の今国会での成立を目指している。
岸田文雄首相は1日の参院予算委員会で、防衛装備品の海外移転は、インド太平洋地域の平和と安定や侵略を受けている国を支援するための重要な政策的手段として「結論を出していかなければならない課題」との認識を示した。
杉本氏によると、3カ国による戦闘機共同開発は、知見や情報の共有段階を終えて設計に向けての作業に入る。共同企業体(JV)の枠組みや出資比率については、議論を続けているという。
昨年閣議決定した「防衛力整備計画」で政府は、「防衛生産・技術基盤は防衛力そのものと位置付けられる」として国内基盤の維持・強化を重視する姿勢を打ち出していた。