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死の秘宝 〜6〜

死の秘宝 〜6〜 - chocoの小説 - pixiv
死の秘宝 〜6〜 - chocoの小説 - pixiv
50,073文字
転生3度目の魔法界で生き抜く
死の秘宝 〜6〜
旅にでた3人は、一行に進展しない現状に不満を募らせていく

今まで当たり前だったことが困難となり、精神的にも、肉体的にも追い詰められていく

そんな折、ひとつの道筋が見えてくる…

旅はまだ、始まったばかり…
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2021年12月26日 06:37

※捏造過多

————————

季節は夏、8月はじめになった頃…
魔法省大臣の暗殺に成功し、傀儡としてシックネスを大臣に就かせて魔法省を完全に掌握しても、彼の警戒心が緩むことはなかった

慎重で、用心深いところは変わらず、身軽になった彼は頻繁に、どこかへ行っている
知りたくもないけれど、多分、何かを調べている

私が知っているもう’’起こり得ないかもしれない未来’’から考えれば、彼は多分この頃、死の秘宝に感心を示した
だけど、実際はそれよりずっと早く死の秘宝の存在を知り、ニワトコの杖の在りかを突き止めた
彼が、グリンデルバルドをいつ尋問したのかは、全く分からない

彼は、前所有者を殺した者が真に杖の所有者になると思い込んでいる
だから、恐らくは、魂を同じくするであろう私にダンブルドアを殺させて、自分にもニワトコの杖が操れるようにした






でもそれは違う






オリバンダーが言った言葉は、まさに杖の真骨頂のような真実だ

『魔法使い杖を選ぶのではない。杖が魔法使いを選ぶ』

ニワトコの杖は、良くも悪くもその究極のようなもの

所有者となれるのは、彼が最も好み……ーーいいえ、本当は’’恐れている’’『死』を受け入れられる者にのみとされているけれど……
それもまた事実かどうかははっきりしない

ただひとつだけ確かなことは、多くの魔女や魔法使いが持つ杖のように、一種の愛着や忠誠を持って尽くす杖とは違って、ニワトコの杖は酷く即物的で、冷酷…

だから、力のある者にだけ杖は忠誠心を示す

つまり、心や感情による忠誠心は無い
だから、その魔法使いに力が無いと分かった途端、杖は忠誠心を示さない

魔法使いは、生まれた時から魔法使いというわけではない
順序を変えて考えれば、杖が魔法使いを選ばなければ、魔法使いは魔法使い足り得ない
勿論、無詠唱で魔法を扱うことをできる魔法使いもいる
だけれど、それは杖から始まる練習の元で成せる技だ
杖が無ければ魔法使いではなく、杖を持てば魔法使いである

だから、魔法使いにとって杖は己の命と同等程の価値がある

昔の彼なら、こんな単純な事実にすぐ気付くはずだったのに
…少し行き過ぎだと思うくらい用心深くて、そして聡く、賢く、理知的だった…


…なのに…



…今の彼は…





‘’彼’’に言われたことを、有り余る時間の中でひとつひとつ思い出して、ずっと考えていた

私は彼の分霊箱でない




ーーー「彼と君の場合、肉体と魂は一緒に考えるべきではないと助言しておこう。当時のお前の遺体は’’危険’’過ぎるんだ」ーー




ーーー「ホークラックスよりも強く、強力な繋がりを得られる魔法だ。そして、それは同時に、’’諸刃の剣’’でもある」ーーー






はっきりと書籍で分霊箱の詳細は読んだことがないけど、生き物を分霊箱にはできないことは判る
私が死ぬ前までに、当時、彼が私を分霊箱にした素振りはなかった

‘’私の記憶にある限りでは’’


でも、もう命のないモノなら、分霊箱にはできる


夢の中の’’彼’’が言うことに、間違いがないなら、私が死んだ後、彼は私の遺体を分霊箱とした
でも、ひとつ疑念が残る

私自身は何なの?

彼と並行して、生き続けている…
記憶を持って生まれ変わったのは、決して偶然ではないはず…

でもそんな魔法聞いたことも、普通なら成功するはずもない
なのに、私は生きている
彼が生きているのと同じように…
彼が滅びない限り、私は生き続けるということ…?

何度も、何度も考えてきたーー

そう思ったからこそ、私は彼と終わると決めた
このまま、ユラとしての新しい人生を生きたくなかったわけじゃない
むしろ、生きたかった
愛してくれる家族…私の名前を…本当に大切そうに呼んでくれる…
愛おしいと口に出して愛情を示してくれた

頭を撫でてくれて……


ーーー「ユラは本当にお母さんのご飯が好きねぇ?ふふ。舌の好みはお父さんに似たのかしら?」ーーー



ーーー「ユラは父さんの自慢の娘だ。はは、そんな気難しい顔しないでメルリィ。ーー全く、メルリィは素直じゃないな。母さんに似たんだな〜。ね、お父さんはどんなメルリィでも愛してるよ。大切な愛娘なんだからね」ーーー


っ…
涙が止まらない…

会いたいっ…会いたいよっ


生まれて初めての私の家族っ…ずっとずっと欲しかったっ…

暖かくてっ…私の理想の家族だった
この世界に生まれ変わってから、何度も冷たいベットで、夢にまで見た帰ってこられる家のある家族…

暖かい暖炉の前でお父さんとお母さんに囲まれて、もういいってくらい頭を撫でてくれた…
一緒に炬燵に入って、穏やかに笑いながら蜜柑を剥いてくれた…
お父さんはいつもお母さんと私にデレデレで…
誕生日はいつも騒がしいほど祝ってくれたっけ…
他の誰でもない、私のためだけに微笑んでくれて、言葉で、態度で…いっぱい、いっぱい幸せだと表現してくれた…


この頃、目を閉じると、両親の姿が目に浮かぶ
お父さんがお母さんの肩を抱いて、二人共私に向かって手を伸ばしてくれている
まるで、道に迷いそうな子どもに、はぐれないように手を繋ごうねと言ってくれているようで…

涙がずっと止まらない…
寂しい……寂しいっ
あの温かさを一度知ってしまうと…
離れがたくて…何度も何度も求めてしまう…


「ふっ……私…何してるんだろう…はは…意味なんてないのに…」


リドルの館の一室に、消え入る声に返事など当然なく
不気味にエメラルドの色の蝋燭の灯りが小さな背中を照らす


「……お母さんの…ご飯が食べたぃ……」


当てもなく出た感情のないような無機質な言葉は、もう決して叶うことがない願いだった
叶うことがないと理解しているからこそ、心が籠らないのか

そう呟いた後、彼女の肩に力が入った
彼が来る気配だった

その数秒後、ヴォルデモートが部屋に『姿現わし』して現れた


「…おかえりなさい」

蛇のような蒼顔の縦に裂けた紅い目を無機質な目でじっと見た彼女は、若干冷たさを滲ませるように、そう呟いた

「懲りない奴だ。何をしていた」

その’’健気な言葉に’’鼻で嗤うようにあしらい、問いただす様な真面目な様子で答えるように促したヴォルデモート

「何もーー物思いに耽ることすら許してくれないの?」

少し攻撃的とすら取れる投げやりな言い方で、目を逸らした彼女に、ヴォルデモートは怒ることはせず、静かに目を細めて観察する

沈黙が降りる

長く観てきたヴォルデモートにとって、彼女の些細な機微や妙な様子は、すぐに判る

全ての言動に注意しながらも、疑われていると分かっている彼女は、口を開かずに、その視線に耐えた

「何を考えている」

ヴォルデモートは、ゆっくりとした口調で、探るように聞いた
彼女は目を逸らしたまま、黙った

「俺様を謀ろうとでも、計画していたか?」

鼻で嗤うように吐き捨てた言葉には、僅かな失望が滲んでさえいた
それは、ヴォルデモートの感じる、自覚していない悲しみなのか…

彼女は視線を一度、ヴォルデモートの紅い目に移した
じっと見つめた後、黒曜の目の奥を悲しみで揺らしながら、口を開いた

「あなたは…’’今の’’あなたはーー…猜疑心に満ちている……私に対してもさえも…」

ぽつりと失望したように呟いた
その様子が、ヴォルデモートの琴線に触れたのか、彼女の目の前まで来て、頬骨が軋むほどの力で掴み、厳しい表現で言った

「ッ」

「’’今の’’俺様は、だと?ナギニ」

ヴォルデモートは続けた

「猜疑心だと?笑わせる。俺様の信頼を先に裏切ってのは誰だったか、その頭でよく思い出してみろ」

紅い目を見開いて、怒りを抑える様な震える口調で言ったヴォルデモートに、彼女はひゅっと声を詰まらせた

「あの老ぼれの口車に乗り、約束を反故にした挙句、俺様の手を振り払った。寛容な俺様をそれを許した」

「それはっ」

「その上、これ以上にないほどの栄誉を与えてやったにも関わらず、お前は何をした?お前の口で言ってみろ。ナギニ」

「ッ……わ…た…しがっ…」

「言うのだ」

「〜〜ッ…殺したわよ!ええっ…私の弱さがっあの子を殺したっ!言わせないで!」

耐えきれないとばかりに彼女は感情を露わに叫んだ
涙が溢れて頬を伝い、掴む白い手を濡らした

「そうだ。お前の卑怯な弱さが殺した」

「ッ!」

「今更、あれは俺様のせいだったと、責任転換をするつもか?俺様は見たぞ。お前の腹に刺さったナイフは、お前自身で刺したものだ!お前が手を下した!」

まるで憤怒極まったように怒鳴ったヴォルデモートは、掴んでいた彼女を投げ捨てた

「やめてぇ!」

勢いついて投げ捨てられた彼女は、冷たい床に手をついて倒れながら、ヴォルデモートの足元で耳を塞いで叫んだ

必死に首を振り、涙を流す彼女に、ヴォルデモートは耳を塞ぐ手首を取り、細い腕が折れそうなほどの力で掴んだ

「俺様を見ろ」

腕を掴まれて、軋む痛みに顔を歪め、涙を流しながらヴォルデモートを見上げて睨む彼女

「ナギニ、よく、おめおめと生きていられるな?ーー子を宿した時から、お前の狙いは、俺様の計画を潰えさせることだったのだろう?俺様のものの分際で、俺様を止めようと?はっ!ーー全て上手くいって満足であろう?己の子を簡単に手を掛けられたのだからな?」 

忌々しい出来事を思い出す様な口調なのに、嘲笑うように言ったヴォルデモートに、彼女は眉を寄せて叫んだ

「違う、違う!私はイリアスを産みたかった!なのにっなのにーー」

「偽りを言うな。お前は、子を宿したと教えてやった時から’’産めない’’と言った」

氷のように、酷く冷たく…先程までの激情はなりを潜めて、何の感情も表れていない表情で言い放たれたひと言に、彼女は途端に顔から血の気が引いた

引き返す波の様に、心が冷めていく
先程までの胸を焼きそうなほどの後悔と悲しみ、怒りが一気に消沈した

「!!」

「’’産めない’’、’’手遅れになる’’だったな」

あの時に、言い放ってしまった言葉を、今でも憶えているヴォルデモートに、彼女は、これだけは決して口には出してはいけない事柄だと自覚している故に、俯いて固く口を閉ざした

「なあ、ナギニ。今ならば聞いてやろう。ーーなぜ、’’産んではいけない’’のだ?」

「…………」

彼女は答えなかった
何も言わない

俯いたままぴくりとも動かない
掴まれた腕は、だらりとして力が抜けきっている

「お前は、昔から隠し事をしていた。俺様が気付かぬとでも思ったか?」

囁くように続けられたその言葉に、彼女はもう顔から色がなくなった
幸いに、答えを如実に顕すその表情は、髪に隠れて見えない
目を見開いて、今にも動揺を露わに震えそうになる体を必死に抑えている

「わ…わた…ちが……そんなつもりじゃ…違うのっ……わたしっ…」

なんとか否定しようと言葉を紡ぐが、何ひとつ出てこなかった
彼女は、必死に考えた

また拷問されるかもしれない
ここに来た時と同じ拷問をされれば、今度こそ自分は口を割ってしまうかもしれない
あの時ほどの決意の固さはもう薄れてしまっていた
軟禁され、時間の間隔も忘れるほど、ただ息をしているだけのような生活に、どんどんあらゆる感覚が狂っていっていた

意志薄弱だったあの頃に戻り、物言わぬ人形のように、言うことだけを聞いていた自分に戻っていっているようだった…

多くの心配事、ここに来るまでに会った人たち、友人達、数えきれないほどの約束、使命、宿命、運命……

頭の中が、ぐちゃぐちゃに絡まった毛糸のようになり、疑念を疑念として正しく、認識できているのかすら分からなかった

壊れそうな彼女の精神を支えていたのは、皮肉にも’’自らが生み出したかもしれない彼’’の存在があったからだ

その’’彼’’も今は、そばに居ない
彼女は、今の状況をどう打開すればいいか、分からなかった…




「ついに気が触れたか」



黙っていた彼女の頭上に向かって、甲高い声で静かに言ったヴォルデモート
その声には、嘲笑と同情が僅かに滲んでいた

彼女は、自分でも思いがけずといった様子で顔を上げた

「…ぇ…」

頬にある涙の跡が乾き、黒曜の目が見開かれ、困惑に揺れていた

「……ト…ム……わたし…違う…わたしは…」

彼女は震えた
掴まれていない方の手で己の体を抱き締めて、動揺に震えた

「怖いっ…怖いよっ……私っ…どうしてなんでっ…イリアスをっ…私の赤ちゃんっ……私のっ……ふっう゛っっ……あぁっ…そんなっ」

悲痛な声を上げて、気でも触れたように動揺に震える彼女に、ヴォルデモートは裂けた紅い目を細め、見下ろした


「哀れなものだ。己が罪と秘密に潰されるとはな」


「……たすけっ…たすけてっ…ごめんなさいっ…ごめんなさいっ…イリアスっ…私の赤ちゃんっ…トムっ……トムっ!」

さめざめと涙を流しながら、眉を下げて漆黒のローブに縋り付く様に掴む彼女の姿に、ヴォルデモートは哀れみの笑みでも、嘲笑するでもなく、掴んでいた腕を離し、己の服を震えて掴む丸められた白い手を取った

「ナギニ。助けてほしければ、俺様に教えるのだ。お前は、死ぬ直前に’’何を’’感じた?」

「…なに…を…?」

まるで壊れたレコードのようにヴォルデモートの言葉を反復する彼女

「そうとも。お前は死を前に何かを感じたはずだ。そうーーお前にとってはよく身に覚えのあるーーーー」

ヴォルデモートは、彼女を立ち上がらせ、服越しの薄い腹に白い手を置き言った

「’’魔力を感じなかったか?’’」

「ぇ…」

「お前が腹にナイフを突きつけようとした時、腹の子は、死を強く拒絶したはずだ。ーーそれもそのはずだ。お前が子を孕んだ時から俺様が時間をかけて’’そうしてきた’’のだからな」

彼女は目をさらに見開き、唇をわなわな震わせて絶句した

「今や潰えたことだ。この際教えてやろう、ナギニ」

彼女は今すぐ耳を塞ぎたかった
だが、彼は残酷だった

「お前が子を孕んだと知る前から、お前は俺様と魂を一体としていた。長い時間をかけ、お前から離れず管理してきたのは、何のためだと思う?」
 
「………て…」

「月のものが止まったのは、いつだったと思う?」

「………めて」

「目が覚め、眠る間隔に疑問を抱いたことはないか?」

「……ぃや…」 

「お前のことで、俺様が知らぬことなどありはしない。分かっておったと思ったが、矢張り愚かだったようだな」

「やめてぇっ!」

「イリアスは最初から、ただの俺様の肉体に過ぎなかった。例えお前が産んでいたとしても、それ自我を持たず、ただの肉の器に過ぎん」

「いやぁぁぁーー!!聞きたくない!やめて!」

「俺様自ら設計し、構築した実験を、お前は台無しにした。子が不幸になる?笑わせるな。不幸と感じられぬ、自我さえ持たぬまま産まれる子に、感情などあるものか。お前が死を選ばなければ、霊魂を入れる生きた肉体構築の実験は、成功していた!よくもっ、不意にしてくれたな」


「あぁぁぁーーーーー!」


彼女は、ついにヴォルデモートの口から語られた、残酷な真実を知った
だが、それが事実かどうか、確かめる術はもう’’彼女には’’遺されてはいない




































ロンドン、ビッグベンが遠くから見えるわうで見えない裏路地にある小汚いアパート
マグルの世界の空き家に、一時でも身を隠す赤毛にそばかすだらけの顔を持つ、男二人

純血一族であるウィーズリー家の中でもこの二人は特に、マグルに対して抵抗感がなく、マグルの文化や物に強い関心のある二人は、マグルの世界に身を潜めて活動するのもあっという間だった

各地に散り散りになって動く騎士団の者達

二人も現在はウィーズリー・ウィザード・ウィーズを開店するわけにもいかず、闇の陣営から上手く逃げながら、騎士団の情報を集めていた

小汚いアパートには、小物が散らばり、窓は埃だらけで、カーテンは埃っぽい
あえてそのままにしていた

骨組みだけのベットの上には、ハーマイオニーのように『検知不可能拡呪文』を施したバックの中に持ち歩いていた寝袋が敷いてある

室内なのに、キャンプをしているような暮らしでも、二人は楽しむことができた

そして、その日もフレッドが危険を潜りながら、食糧や情報を収集して帰ってきた

「で、どうだった?」

「収穫ゼロ。騎士団のメンバーが死んだっていう話は聞かないから、そういうことなんだろうぜ」

フレッドが、茶色の買い物のの紙袋をテーブルに置きながら、肩を竦めて答えた

「なあ、フレッド、ロン達は無事だと思うか?」

「無事だ。あいつらならきっと大丈夫だぜ、ジョージ。何てったって『最後の希望』がついてるからな」

「そうだな。ダンブルドアはハリーが最後の希望だって俺らに言い遺したんだもんな」

「ああ。ーーそれより、『もっくん煙玉』がもう一つしか残ってない。もっと作ってればよかったな」

「あーー、そりゃ大変だ。俺達にとってはそっちの方が一大事だな」

「ポンちゃんの奴、どこまで見越してたと思う?ーー正直さ、ダンブルドアが先見の明を持ってたんなら、とんだ大間違いだって思うだろうな。なあ、ジョージ。そう思わないか?」

「そりゃあフレッド、『言わないお約束』ってやつだぜ。もし、ハリーの前で言ってみろ。そりゃあもう暫くは口利いてくれないね」

「ここには居ない。問題ないさ。正直、あんま関わりなかった俺らからすると、今ひとつって感じがするんだよな」


信頼できる者さえわからない、歩いているだけで襲われるかもしれない、今まで親切にしてくれた人が脅されて仲間を売るかもしれない、そんな欺瞞や疑心暗鬼が広がる世の中になった今、フレッドとジョージもその例外ではなかった

正直に言うなら、いくら遺言を遺すのが危険とはいえ、ダンブルドアはあまりにも’’曖昧’’過ぎた

二人はそのことを理解してはいた
思わず言いそうになってきたフレッドに、ジョージの機転で、ハリーの前では言わなかっただけで

しかし、騎士団だからと言って、全員が全員ダンブルドアを崇拝していたわけじゃない

自分達より大きな視点から物事を見て、想像も及ばないような深い考えや知識があった凄い魔法使いだ
だが、’’秘密主義’’という性質が生んだ副産物は、死した後に、結束していた騎士団に疑念を生んだ

それは確かだった

ウィーズリー夫人などは、子を想う愛情が強い
いくら尊敬するダンブルドアでも、子どもに任務を託し、死ぬかもしれないようなことをさせるのことに、疑問を通り越して難色を示した
だから、ハリーが頑なに託された任務を言わなかったことに、どこにもぶつけようのない怒りや悲しみ、辛さを抱えている

フレッドもジョージも、仲違いするのは良くないと思っているので、明るくしていたが、それについて何も感じていないわけではなかった


二人は、ラジオや新聞で情報を集めながら、裏で何が起こっているのか考えていた


そして、その日、ダイアゴン横丁の自分達の店に物を取りに行っていたジョージは、クリーチャーに会った
クリーチャーから、簡潔に例の伝言だけ聞いたジョージは、早足でフレッドの待つ家に帰った

何ひとつ進展のない中で、どんな内容であろうとひとつ進展があった
やるべきことが見つかったのだ

ジョージは彼女が嫌いではなかった
真面目で優秀な彼女に、ホグワーツにいた頃、悪戯を仕掛けたり構い続けた双子にとって、ユラ・ポンティという人物は恐ろしく寛容で、ちょっとした言い争いすら好まない平和な人物という認識だった
よく言って生真面目過ぎる子という印象を持っていた

だからこそ、ハリーが彼女は裏切り者だと断じた時でも、自分達の目で見るまでは信じれない、と考えた

何より、非売品である『もっくん煙玉』を自分達に渡したのが大きな理由だった

この商品は、追跡や姿を眩ますためのプロが使う上級品とでも言える魔法具だった

一から設計したのが誰にせよ、こんなものを託したということに、意味がないわけがないことくらい二人には分かった

だからこそ、二人は彼女が’’二重スパイ’’なのではないかと考えた

「フレッド!さっき、店から出る時クリーチャーが接触してきた」

「クリーチャーが?何でまたあの頑固妖精が?」

「まあ聞けよ。クリーチャーは、’’俺達’’に’’お嬢様’’から伝言があるって言った」

ジョージが、少し浮き足立つ気持ちで言う
フレッドは途端に身を乗り出し聞く姿勢になった

「『キャンディーは包むより、舐めた方が美味しい』ってさ。どういう意味だと思う?」

「『キャンディーは包むより、舐めた方が美味しい』?…さっぱりだぜ。でもさ、この場合、ポンちゃんと俺達の共通で知ってるキャンディーってあれ(もっくん煙玉)じゃないか?」

「キャンディに似た何か、とか、店で取り扱ってるキャンディ、とか、キャンディの隠語って線もあるけど、あり得ないよな」

「キャンディの隠語って何だよ。はっはっ」

フレッドはおかしそうに笑った

「ポンちゃんももうちょいわかりやすくしてくれてもいいんだけどな。ーーまあ、確かに、共通のキャンディってそれ(もっくん煙玉)しかないよな。でもあれはキャンディの形にして包装してるだけで、食えるもんじゃないだろ?」

ジョージが、正気か?という様子でフレッドに言う
あれを食べる、という想像をしたのか、心なしか顔が吐きそうになっている

「うげぇ〜…その発想は流石になかったな〜。あれ食えるのか?というか食ったとしても腹壊す自信しかない」

フレッドが言った

「『キャンディーは包むより、舐めた方が美味しい』……ん?ーー!おい、フレッド!」

もう一度、伝言を口にしてみて、ジョージハッとしたように気づく

「ああ、ジョージ、ポンちゃんのやつ複雑そうな頭してんのに、案外そのまんまな伝言だな!」

にやりと笑ってフレッドも気づいたようにジョージと顔を突き合わせた

「「舐めればいいんだ!」」

二人揃って、同じ答えに辿り着いた


二人は、噂な惑わされず、これまで見てきた彼女の性格から正しく答えを導き出した

そして、二人は薄々気づいていた
彼女が、仕掛けや封印の類の魔法に並外れたセンスがあることに…



























しばらくクィディッチの試合が行われた森に滞在することなったハリー達 
魔法省から逃げてきて、ロンが怪我を負った次の日、ハーマイオニーが辺りに保護呪文を念入りにかけ、テントを張った近くで、ハリーは運命の瞬間に嫌な意味で胸が躍る気持ちと、緊張で溢れていた

苦労して手に入れた白い短剣を握りしめていた

落ち葉の上に置いた、赤と緑の鈍い光を放つ忌まわしき物…


ヴォルデモートの分霊箱


「やって、ハリー」

ハーマイオニーが促した

ハリーは渾身の力を込めて、短剣を振り翳し、サークレットのトップに突き刺した



だが




「っ!なんで!?」




サークレットには、傷ひとつ付いていなかった
ハリーは驚くどころではなかった
失望…絶望…怒り…負の感情が身体中を燃え上がらせるように支配した


ハリーはまた、腕を大きく振りかぶり突き刺した


だが

「ふん゛!!」

濁音が口から漏れて、力任せに何度も何度も突き刺そうとする
だが、何度やってもサークレットには傷ひとつ付かず、まるで、ハリーを嘲笑うかのように散りばめられたエメラルドの宝石とトップにある菱形の紅い石が輝いた

「ハリー…」

「ふん゛!」

「ハリーっ」

ハーマイオニーが何度も名前を呼ぶが、ハリーは手が痛くなるのも構わず、突き刺し続ける

「なんでっ!!!あ゛ぁぁーー!!」

ハリーのいろんな感情がない混ぜになった咆哮は、森の中に響き、背の高い木々の幹が吸収した

地面を打ち付け、落ち葉が舞う

「ハリー!私が悪いの。私が…」

ハーマイオニーが尻すぼみになりながら言った
声が震えて泣きそうなのがわかったハリー

「ハリー。ハリー。…私が、これだと破壊できるんじゃないかって言ったからーーだから」

「ハーマイオニーのせいじゃない。ダンブルドアが破壊の仕方を教えなかったせいだ」

ロンがハーマイオニーの肩に手を回して慰めるように言った

ハリーは胸がざわっとした

「いえーーいえ、私のせいよ。私が魔法省にあるって言わなければーーロンの腕もーー」

「ーー違う」

ハリーは思わず、早口で否定した

まるでこの旅の意味すら否定されているような気がして、ハリーは耐えられなかった
ロンがダンブルドアのせいだと言ったことも、ハリーにとっては許せなかった
だが、今、それを口に出すのはぐっと堪えた

「ハリー…」

縋るようにハリーの名前を呼んだハーマイオニー

ハリーはサークレットを持って立ち上がり、握りしめていた骨の色そのもののような白い短剣を見つめて、言った

「これじゃあ、壊せない」

言いたいことはたくさんあるのに、口から出たのはその一言だった
妙に落ち着いた、投げやりにも聞こえるその言い方に、ハーマイオニーは申し訳なさそうに眉を下げた

誰を責めたいわけでもないのに、つい、誰でもいいから当たりたい、そんな言い方になってしまう

気まずい沈黙が流れる中、片腕を吊ったロンが口を開いた

「おかしくないか?」

「なにが?」

ハリーがすぐさま聞いた

「分霊箱がどんなものなのかも、場所も、破壊の仕方も、ダンブルドアは一歳何も言わなかった」

「それなら前にも聞いたよ。でも、何も言わなかったわけじゃない。少なくとも、遺体が分霊箱だと突き止めた。もしかして、それが嘘だったとでも言うのかい?」

「嘘を言ってるとは言ってないさ。ただ僕は、どうしてダンブルドアは、他の何の手掛かりも示してくれなかったのか疑問なだけだ。それに、他は知らないなら知らないって言うはずだろ?それすら教えなかったってーー」

「ロン、ダンブルドアには深い考えがーー「それだ。いつもそれじゃないか。パパやママ、騎士団の皆も、口を開けば「深い考えがあるーー」「ダンブルドアに任せておけば何とかなる」そればっかりだった。今だって何とかなっているのか?違うだろ?」

「ロンーーそんな言い方しないで」

「じゃあ君はダンブルドアが間違っていたとでも?」

ロンがハーマイオニーに返す前に、ハリーが声を詰まらせたように、短剣を握りしめてロンに向き直り、言い返した

「ああ、そう言わざるをえないね。ヒントも手掛かりもない。その上、当ても何もない危険な旅に、ただ僕達を送り込んだだけじゃないか」

「意味がないだってーー?」

ロンの言い草に、ハリーがピクリと反応した

「ロン、本気でそう思っているなら、それならーー僕は、僕は君に来てほしいとは思わなかった…僕は散々言った。途轍もなく危険だって。僕達が今してることは、ヴォル…「その名前を言うなよ!」

ハリーがヴォルデモートの名前を口にしようとした瞬間、ロンが目をぎゅっと瞑るように、厳しい声で遮った

ハリーとハーマイオニーは顔を見合わせた

「…っ…ごめん」

大声を出して腕に響いたのか、ロンが小さく呻きながら、驚く二人を見て謝った

「でも、その名前はなんだか、えーとーー縁起が悪いと言うか、そんな感じがするんだ。頼むから『例のあの人』って呼べないかなーーだめ?」

「ダンブルドアは名前を恐れればーー」

ハリーが言いかけた

「でもさ、いいか、念の為に言うけど、『例のあの人』を名前で呼んだって、最終的にはダンブルドアの役には立たなかったぜ」

ロンは、まだ悪い顔色で、一瞬眉を顰めハリーの言葉に上から被せるように言った

「とにかくーーとにかく、『例のあの人』に尊敬のかけらぐらい示してくれないか?」

「尊敬?」

ハリーが言い返そうとした
しかし、ハーマイオニーが駄目よ、という目つきでハリーを見た

ロンが弱ってる時に、議論すべきではないと言っているらしい
ハリーは言ってやりたいことが沢山あったが、奥歯を噛み締めて唇を引き結んだ

握りしめたサークレットは、この空間の冷戦のような空気を吸って悦んでいるような輝きを放った











気まずい沈黙は、その日の夕食時まで続いた
三人がキャンプするテントの中には、ハーマイオニーがハリーの誕生日プレゼントにくれた「かくれん防止器」が置いてあり、一日交代で見張りに立った

しかし、「かくれん防止器」は置かれたまま日がな一日音も立てず、動きもしなかった

ハーマイオニーが周囲にかけた保護呪文やマグル避け呪文が効いているいせか、それともこの辺りにわざわざ来る人が滅多にいないせいか、時折やってくる小鳥やリス以外には、三人のいる空き地を訪れる者はなかった
夕方になっても変わりはなかった



破壊に失敗してから、雰囲気は悪いままで、必要最低限以上の会話はしようすらしなかった
話題にするのを避けているのか、お互い言われたくないから口を閉ざしているのか…


しかし、これでは駄目なことは、ハリーには分かっていた
頭では分かっていたが、いざ話しかけようと思っても喉に引っかかって出てこなかった

何度も話しかけようとしては、喉から音が出てこず、悉くタイミングを逃したハリー

逃げる際、ハーマイオニーは魔法のバッグに何も食べ物を入れて来なかったので、今日も夜ご飯は、ハーマイオニーが近くの木々の間から集めてきた茸を、キャンプ用のブリキ鍋で煮込んだものだけだった
ロンは二口食べて、吐きそうな顔で皿を押しやった
ハリーは、ハーマイオニーの気持ちを傷付けないように、という思いだけで堪えた


時として、周囲の静けさを破るのは、ガサガサという得体の知れない音や小枝の折れるような音だけだ
ハリーは人間ではなく、むしろ動物の立てる音だろうと思った
サークレットは、ハーマイオニーの提案で、手に持つのはに極力避けて、今まで通り、ハーマイオニーのバッグの中か、見えるところに置いておこう、ということになった
だが、ハリーはどうしてか、自分で持っていたかった

ひとつだけ強く自覚している明確な理由があった

あれは…確かに、今すぐ投げ捨てて跡形もなく壊し、焼き尽くしたいほどの忌まわしい品物だが、あれはダンブルドアと最後に一緒に、苦労して手に入れた物でもあった

ハリーにはそれが遺言よりも、最後の繋がりのように思えてならなかったのだ

だから、テント内のテーブルに置いてあっても、つい手が伸びて、その控えめな鈍い輝きを見つめてしまっていた

空きっ腹にゴムのような茸を少しばかり食べた後、ハリーの胃は不安でチクチク痛むのを感じた

分霊箱を破壊できれば、きっと意気揚々とした気持ちになるだろうと思っていたが、全くそんなことはなかった
むしろ気分は最悪で、杖灯りは暗闇のほんの一部しか照らさず、ハリーには、それがまるで、自分に残された希望の小ささに見えた

これからどうなるのだろうという不安しか感じられなかった
ここまで来るのに、何週間も、何ヶ月も、いやもしかしたら何年も走り続けてきたような気がした
ところが今、急に道が途切れて、立ち往生してしまったようだった

残りの分霊箱はどこにあるのか、彼女の遺体は本当に分霊箱なのか、どうすれば破壊できるのか…
考えられる手は全て試した
だというのに、破壊どころか傷ひとつつかない

暗闇の中でじっとしていると、言い知れぬ不吉な予感が忍び寄ってきた
ハリーは不安と戦い、押し退けようとしたが、暗い想いはなお容赦なくハリーを苛んだ



ーー『一方が生きる限り、他方は生きられぬーー望むべくして終わりを告げるであろう…』ーー


いつか、ダンブルドアが警告した予言の内容が、ハリーの頭の中に響いた



今、ハリーの背後のテントで低い声で話しているロンとハーマイオニーは、そうしたければ去ることができる
ハリーにはできない

その場にじっと座って、自分自身の恐れや疲労と戦っているハリーには、ダンブルドアが何故、自分に予言に重きを置き過ぎてはならないと言ったのか…

予言を思い出す度に、その言葉はハリーを苦悩させた
まるで、忘れてはならないことだというように頭の中にこびりつき、予言と同等な程に大事なことに思われた

何故これほどまでに、ハリーは、頭の中で、予言を肯定したい自分の感情とは拮抗することを考えてしまうのか

それは、それを言った時のダンブルドアの滅多に見れない様子が目に焼き付いていたからだ

あの時のダンブルドアの剣幕は、いつも穏やかで、滅多に動揺を見せない様子からは考え…いや、想像すらつかないほどの激情があったからだ
ハリーは失礼にも、ダンブルドアもあんな表情をすることがあるのか、と思ってしまったのだ

それほどに、今思い返せば、ハリーにとっては衝撃的なことだった
あの時は、見た記憶の重大さに、その場の空気に流されたが、よくよく考えれば、人格者であり、偉大な魔法使いと云われるダンブルドアの人間らしい一面を見たのは、ヴォルデモートと彼女が関わることだけだったような気がした


ーーー『望むべくして終わりを告げる』ーーー


ハリーは、何が望んでいるものか、と思った
両親を、騎士団の者を、多くの人間を殺してきたヴォルデモートを殺してやりたい

だけど、たとえ、刺しし違えてでもヴォルデモートを殺す価値があるのか、そんなことをして本当に両親は喜ぶのか、いいや、喜ぶはずだ
立派な息子だと、自分が死んでもヴォルデモートを道連れにできるたならば、きっと両親もあの世で褒めてくれる、誇らしく思ってくれる。そうに違いないと、ハリーは思い込むことにしていた

ヴォルデモートが死ぬか、自分が死ぬか

自分はヴォルデモートが死ぬことは望んでいるが、自分が死ぬことなんて望むわけがない

勿論、ヴォルデモートが自分自身で死を望むなんて、ハグリッドが動物嫌いになることくらいあり得ない
そもそも比べることすら失礼だが、そう思わずにはいられなかった

ハリーはそこまで考えて、ふとハグリッドは元気だろうか、と考えた

最後に会ったのは、「隠れ穴」で結婚式だった
それほど期間は経っていないが、心配は募るばかりだった

それに、場所がバレてしまったグリモールド・プレイスの屋敷のこともある
あそこは世話になったレギュラスとシリウスの家で、それにクリーチャーがいる

クリーチャーを一番心配しているのは、おそらくはハーマイオニーだろう、とハリーは分かっていた

もし、もし先に戻ったレギュラスとヤックスリーが鉢合わせしていたら…

そこまで考えて、ハリーは身震いした

レギュラスを利用するだけして、助けに行けないなんて、無力だ
どうしてこんなことになったんだ、と後悔ばかりがハリーを苛んだ
本当に後悔ばかりだった

レギュラスは拷問されたら口を割ってしまうだろうか
レギュラスが自分に対して、ダンブルドアが死んで以降、好意的でないことはもう判っていた
彼女を責め、犯人だと言ってしまった自分に、彼女を大事に思っていたレギュラスは当然腹を立てる
自分だって、シリウスが真っ向から犯人だと言われたら怒るのと同じように…
いいや、もしかしたらきっとそれ以上にレギュラスは怒っている

だけど、今回、危険を省みずに手を貸してくれた

そんな彼は、彼女を今でも信じているが故に、最後まで信じろと言われたダンブルドアと自分を信じることにした、と言っていた

ハリーは、ダンブルドアが何度も、それは何度も自分に言ってきたことを思い出した




ーーー『ハリー、’’信じる’’心を忘れてはならぬ』ーーー




ーーー『何があろうと、最後まで’’信じる’’のじゃ』ーーー






信じること

信じ抜くこと

どれ程に容易く、そして困難なことか…きっと、こんな人生を送らなければ、これ程まで重く感じることはなかっただろうとハリーは思った

クリーチャーのことでもそうだったが、これまでも、自分達の知らないことがなんと多いことか、とハリーは思った
ルーピンやレギュラスの言ったことは、正しかった
今まで出会ったことも、想像したこともない魔法がある
その如実な例は、ハリーが誰よりも一番良くわかっているつもりだった

今更ながらに、ダンブルドアは、どうしてもっと教えてくれなかったのか?
まだまだ時間があると思ったのだろうか?
この先何年も、もしかしたら友人のニコラス・フラメルのように、何百年も生きると思っていたのだろうか?

そうだとしたら、ダンブルドアは間違っていた…
彼女のせいで…
それに、スネイプだ

スネイプは彼女を幇助した
ダンブルドアが彼女に殺されるのを、止められたはずなのに黙って見ていた

あの塔の上で…



また響く…

あのただの文字列のような乾いた言葉…


ーーー「ハリー、’’信じる’’心を忘れてはならぬ」ーーー


忘れては…









「答えろナギニ。’’あれを’’をどこへやった?」

ハリーの声は甲高く、はっきりとしていた
袖を振り払い、蒼白い手で’’彼女’’、ユラの白い頬に指先の背を向けて触れていた

甲高い’’自分の声’’には、優しげな色が含まれているが、その実、焦りもあった

「あれ、と言われても分からないわ」

ユラは自分の甲高い声の’’命令’’に、投げやりな口調で答えた

「惚けるな。お前がここに着けていた物だ。あれは今どこにある」

自分が「ここ」と言って、白い手を滑らせたのは、彼女の漆黒の服の胸元の合わせの箇所だった

首のすぐ下、服に隠れた鎖骨の中央あたりを掌で覆った自分に、彼女は視線を横にそらして言った

「…もう…ないわよ…きっと」

「濁すな。はっきりと言え」

「……あれは…私がイリアスに最初のお誕生日祝いとして、お守りとして贈るつもりだった……でも…」

「でも、なんだ」

「でも…あれは…消えてしまったのよ…突然…ある日突然…どこを探してもなかった。そもそも安い物だったし…何より、あれは、マグルの世界で買った物でーー「マグルだと?」ッ!」

恐ろしく低い声が…自分の腹から湧き上がったようだった
酷い憤怒と焦りが感じられた



「あれが消えるわけがない。そのような代物ではない。くそっ、あの時、見つけておればーーーー破壊しておかねばならんーー念には念を入れてなーーあの小僧が見つければ厄介だ」

「…何をしようとしているの…」

「関係がない話ではないぞ。俺様に、何かあればお前もただではすまん。’’また’’死にたくはないだろう?」

「……また……もし、死ぬのなら……今度こそ、あなたの手で終わりたいわ…」

まるで叶わぬ悲愛を囁くように言った彼女の姿は、少し垂れ目な黒曜の目がゆらゆらと目の奥で揺れ、’’自分’’の蒼白い手の上から白く細い手を重ねた

彼女の弱々しい胸の鼓動が掌から伝わり、その上からぬるい手の温もりが体を包む

ハリーは、‘’自分’’が、酷く興奮しているのが分かった
その興奮は、昂る時……そう、まるで自分がジニーに、乞うように、ただ真っ直ぐに見つめられて、愛おしげに名前を呼ばれている時のような…

「…でも、あなたは残酷だから……私の願いはきっと……叶えてはくれないんでしょう…」

悲しげに、諦めたように言った彼女は、そっと重ねていた白い手を下ろした

‘’自分’’の手からぬるい温度が消え失せ、冷えていく

「あなたが何故あれを探しているのかは知らないけれど、邪魔はしないわ………私は知らない。……本当に消えたのよ……」

彼女は、穏やかな、それでいて消え入りそうな声で言いながら、ゆっくりと華奢な背を向けて後ろを向いた
‘’自分’’に無防備な背を向けた

「なぜ、背を向ける」

甲高い’’自分’’の声が、低く言った

「…休みたいの………しばらく、一人にして……疲れたの…すべて…もうすべて」

本当に疲弊してしまったかのように言った彼女の言葉の知っている以上の覇気のなさに、ハリーは、’’自分’’が、不愉快になるのを感じた

「もう、どうでもいい……私は人殺し…それ以上でも、以下でもない」

冷たく、壊れた人形のようにそう言った彼女の顔は見えないが、肩が震え、泣いているのだろうことは想像がついたハリー

だが、そんな思いとは別で、蒼白い’’自分’’の手は、震える肩に手を置いて、彼女の耳元に顔を近づけて言った

「’’言ってみろ’’」

ハリーは、’’自分’’の甲高い声が発する、その残酷なまでのひと言に、鳥肌が立った

「…イリアス………イリアス…私が愚かでなければ…ふっう゛っ…」

声を詰まらせて、嗚咽を飲み込む彼女
ハリーは胸が締め付けられた
だが、蒼白い手は、天を仰いで泣き濡れる彼女の肩からゆっくりと降り、腰と膝裏に回り、ハリーは’’自分’’が抱き上げのだと分かった

「やめてよっ……今更こんなことしないでっ…」

手で顔を覆い、涙を流し続ける彼女は、弱々しく拒絶の言葉を放った
顔を逸らして、決して胸に傾こうとはしない

「いつか、お前に言ったな。俺様は、お前の屈辱の涙に濡れたその顔が好ましいと」

「ッ…もう放っておいてっ……私はもうっ……もうっ」

「何を悲しむことがある?ダンブルドアは死に、あとは小僧さえ始末すればーーお前の不安は取り除かれ、死に脅かされることもなく、安らかに暮らせるのだぞ」

「どうしてっ…どうしてそんなことが言えるのっ……あの子を失った時点でっ…私には何も残されていないわっ……あの子がいてっ…あなたがいればよかったっ…ただそれだけだったわ…名誉も栄光もっ…こんな…こんな絶望もっ望まなかったわっ」

‘’自分’’の胸を、弱々しく掴んで泣き濡れながら言い募る彼女に、ハリーは耐えられなかった
あの子とは、彼女が身籠っていた子なのだろうとすぐ分かった

「ナギニ、俺様を怒らせるな」

恐ろしいほど低い声が、’’自分’’の口から出て、ハリーの目に映ったのは、諦めにも似た彼女の悲しみに塗れた黒曜だった

ハリーは、’’自分’’が、先程とは較べものにならないほどの激怒と嫉妬が渦巻いたのを感じた
それこそ、抱いている彼女の首を絞めて殺してやりたくなるほどの…

ハリーは恐れた


ベッドに下ろした彼女は、華奢な背を丸めて、泣いていた
そんな彼女に、’’自分’’は、嘲笑い、吐き捨てるように言った

「そのまま壊れて、ーーーわからなくなればいい」

ハリーは心の中で、言葉にならない叫びを口にした

やめろ
もうやめろ
やめてくれ、と


暗いシーツに埋もれる彼女がこのまま、沈んでいってしまい、消えていなくなりそうで…

彼女はダンブルドアを殺した
あいつを今でも想っている
酷いことをしないで
もうこれ以上苦しめないで

背反する想いがぐちゃぐちゃになってハリーの心を掻き乱した














「ハリー!」

ハリーは喘ぎながら目を開けて
額がズキズキする
ハリーはテントに寄りかかったまま眠りに落ち、ずるずると横に倒れて地面に大の字になっていた
見上げるとハーマイオニーの豊かな髪が、黒い木々の枝から、わずかに見える夜空を覆っていた

「夢だ」

ハリーは急いで体を起こし、睨みつけているハーマイオニーに、何でもないという顔をして見せようとした

(うた)た寝してたみたいだ」

「傷痕だってことはわかってるわ!顔を見ればわかるわよ!あなた、またヴォルーー」

「その名前を言うな!」

テントの奥から、ロンの怒った声が聞こえた

「いいわよ」

ハーマイオニーが言い返した

「それじゃ、『例のあの人』の心を覗いていたでしょう!」
 
「わざとやってるわけじゃない!」

ハリーは言った

「夢だったんだ!ハーマイオニー、君なら夢の中身を変えられるのか?」

「あなたが『閉心術』’’ちゃんと’’学んでさえいたらーー」

しかしハリーは、説教されることには興味がなかった
今、見たことが気になってーー気になって、誰でもいいから、話し合いたかった

「ユラがいた。あいつはーーユラが昔持っていたものを壊さないといけないって言っていた。僕が見つけたら厄介だって。あいつはユラにどこにあるか聞いていた。でも、ユラは消えたって。’’イリアス’’に譲り渡すつもりだったって。そう言ったんだ。…ハーマイオニー、きっと’’イリアス’’が鍵だ。だって、ーーだって、あいつ、あいつは怒ってたーー凄くだ」

ハリーは、続けようとしたことを言うのをやめた
「彼女はずっと、泣いていた」「気をおかしくしていた」と

言わなかった理由は、ハーマイオニーに余計な心配をかけたくないのもあったが、彼女が辛い目に遭っていることを言ってしまえば、この旅の決意が揺らいでしまいそうで怖かったのもあったからかもしれない

「そうーーあなたが居眠りするほど疲れているなら、見張りを変わった方がよさそうね」

ハーマイオニーが冷たく言った

「交代時間が来るまで見張るよ!」

ハリーは思わずムキになって言った
まるで、信じていないハーマイオニーの様子に、悲しかったハリー

「ダメよ。あなたは間違いなく疲れているわ。中に入って横になりなさい」

ハーマイオニーは意地でも動かないという顔でテントの入口に座り込んだ
ハリーはいっそ、腹が立ったが、喧嘩はしたくなかったので入口をくぐって中に入った

ロンは、少しマシになった顔色で、二段ベッドの下から顔を突き出していた
ハリーはその上のベッドに登り、横になって天井の暗いキャンパス地を見上げた

しばらくするとロンが、入口に蹲っているハーマイオニーに届かないくらいの低い声で、話しかけてきた

「『例のあの人』は、何をしてた?」

ハリーは細かいところまで思い出そうと、眉根を寄せて考えたら、暗闇に向かってヒソヒソ言った

「あいつは、僕に見つけられた困る物を、壊そうと焦っていた。ユラがーー彼女が昔持っていた物だって言っていた」

「あいつも居たのか?」

「ああ……もう、そうだなーーあれは…ーー僕達の知ってるユラじゃなかった…」

ハリーは、彼女の弱々しい、壊れた人形かとも思える姿を思い出して、考える前に口からそう紡いでいた

「そりゃあ、そうだろう。あいつは始めからユラじゃない。『例のあの人』のーー」

「’’幼馴染’’」

ロンがどんな言葉が当てはまるかわからず、詰まったのを、ハリーが、なんとなしに言葉を引き継いだ

「それだ」

ロンが言った

「ほんと、考えれば神経疑うよな」

「なにがだい?」

「そりゃあもちろん。あいつだよ。ーー女って好きな男の為ならあそこまでなれるものなのか?」

「さあ、ーーーでも、好き、とは違うんじゃないかな。少なくともあいつはそうは思ってなかったよ」

ハリーは、ヴォルデモートの心の中に入った時の、あの移り変わりの激しい激情を思い出した
少なくとも、自分がジニーを想っている時のような甘酸っぱいような情動は一歳感じられなかった

「でもさ、結局離れられないんだろ?うっげぇぇだよな」

「そう、だね……彼女、泣いていたし」

ハリーは、’’自分’’が彼女を抱き上げた時の表情を思い出した
顔を覆い、隠しきれない涙を流し、辛くてたまらないといった様子だった

不憫で、哀れで…

綺麗だと…

ハリーは自覚していた
あれは自分の感情ではない
ヴォルデモートの感情…心だ、と

現に、自分がジニーに感じるものは、あれとは全然違う


「それで、どこにいたか分かったのか?」

ロンが、気を取り直したようにハリーに聞いた

「…さあ、さっぱり分かんないや。どこかの部屋だと思うけどーー少なくともここよりは広かったよ」

ハリーが少し疲れ気味に言った

「やっぱり、監禁されてるんだな」

どこか他人事のように呟いたロンに、「他人事みたいだ」と思った
事実、他人だからそうなのだろうが…
なぜか、釈然としない気分になったハリーだった











次の日の朝から、ハリーは気怠い思考を振り払い、心を決めて、次の行動を話し合おうと二人が目を覚ますのを待った
昨日まで、ほとんど会話がなかったのが嘘のように、ハリーは話せた

ハリーもハーマイオニーも、ひと所にあまり長く留まらない方がよいだろうと考えたし、ロンもそれに同意した
ただ一つ、次に移動する場所は、ベーコン・サンドイッチが容易に手に入るところ、という条件付きだった
まともな食べ物がないことは、まともな思考を遠ざけ、人を攻撃的にすることが、ここ数日で嫌と言うほど理解していたから、反対する者は誰一人いなかった

ロンの怪我は、ハーマイオニーが熱心に読んでいたクリーチャーから渡されたあの薄い本のお陰で、腕を吊る必要もないほど回復していた
少しずつ、数回に分けてハーマイオニーが慎重に治癒の呪文を試したおかげだった
ハーマイオニーは、うまく行った時、泣きそうな顔で嬉しそうにした
ロンも、「すっげぇ」と、心底感心したように呟いていた

ハーマイオニーは、空き地の周りにかけた呪文を解き、ハリーとロンは、キャンプしたことがわかるような跡を上から消した
それから三人は「姿くらまし」で、小さな市場町の郊外に移動した

話し合いで、もう一つ決まったことがあった
彼女の遺体があるウィーンには、破壊する方法が見つかるまでは行けない、ということであった
ハーマイオニーが言ったこの提案に、ハリーは反論できなかった
確かに、もし行って、もし本当に遺体が分霊箱だったなら、サークレットのように取り敢えず持っていくなんてことは不可能だ

想像でも、ハーマイオニーのバッグの中になんて、入れれるわけがない

その場で破壊しなければならない可能性がある以上、破壊の方法が見つかるまでは行っても無駄足になるだけだ

ハリーは、渋々納得した

移動した先の市場町で、ハリー達は散々な目にあった
低木の小さな森で、隠された場所にテントを張り終え、新たに防衛のための呪文を張り巡らせた後、ハリーは、「透明マント」を被り、思い切って食べ物を探しに出かけた
しかし、計画通りにはいかなかった

町に入るか入らないかうちに、時ならぬ冷気が辺りを襲い、霧が立ち込めて空が急に暗くなり、ハリーはその場に凍りついたように立ち尽くしてしまった

ハリーは、なぜか守護霊の呪文を出せなかった

そのせいで、逃げるのがやっとになり、食べ物は手に入れることができなかったのだ

そのせいで、その日の晩も三人は口論になった
ハリーは昨日までできていた守護霊の呪文が出せず、屈辱感が募り、ロンは腕を怪我した時から毒茸2本しか食べていないと文句を言い、ハーマイオニーは眉を寄せて苛々したように、一応その場を収めた

最悪の状態だった

結局、吸魂鬼が飛び回っているところに留まるのは無意味という結論になり、三人は人里離れてぽつんと建つ農家の畑で、一夜を明かすことになった
そしてやっと、農家から卵とパンを手に入れた

ハーマイオニーは、お金を置いてきたから盗みじゃないか心配した
三人はスクランブルエッグを載せたトーストを貪るように頬張り、心地よく腹が満たされ、少しリラックスできたのだった
その日の夜は、吸魂鬼についての言い争いが、笑いのうちに忘れ去られた
三交代の夜警の、最初の見張りに立ったハリーは、陽気なばかりか希望に満ちた気分にさえなっていた

満たされた胃は意気を高め、空っぽの胃は言い争いと憂鬱をもたらす

三人は、この事実に初めて出会った

だが、ハリーにとってこれはあまり驚くべき発見ではなかった
ダーズリー家で餓死寸前の時期を経験していたからだ
ハーマイオニーも、ベリーや
(かび)臭いビスケットしかなかったこれまでの何日かを、かなりよく耐えてきた
いつもより少し短気になったり、気難しい顔で黙りこくることが多くなっただけだった

ところが、これまでに母親やホグワーツの屋敷しもべ妖精のおかげで、三度三度おいしい食事をしていたロンは、空腹だと我儘になり、怒りっぽくなった
食べ物のない時などは、ロンは思いっきり嫌な奴になった

「それで、次はどこ?」

ロンは口癖のように繰り返して聞いた
自分自身には何の考えもなく、そのくせ自分が食料の少なさをくよくよ悩んでいる間に、ハリーとハーマイオニーが計画を立ててくれると期待していた
結局、ハリーとハーマイオニーの二人だけが、どうすれば破壊できるか、どこに行けば他にあるかもしれない分霊箱が見つかるのかと、結論のない話し合いに、何時間も費やすことになった

新しい情報が全く入らない状況で、しかも分霊箱がいくつあるのかも、どこにあるのかも、破壊の方法すらわからない
ダンブルドアは多くはないと言ったが、少なくもないはずだった
ハーマイオニーは、他にもあるなんて信じたくない様子だった
それでもハーマイオニーは現実的であった



二人の会話は次第に堂々巡りになっていた



ダンブルドアは、分霊箱の隠し場所は、ヴォルデモートにとって重要な場所に違いないと教えていたこともあって、話し合いでは、ヴォルデモートが住んでいたことが分かっている場所の名前が、うんざりするほど単調に繰り返された

生まれ育った孤児院、教育を受けたホグワーツ、卒業後に勤めたボージン・アンド・ばークスの店、何年も亡命していたアルバニア、こうした場所が推測の基本だった

ハリーは、ヴォルデモートが分霊箱にしているであろう彼女に関係の品を、どんな重要な場所に隠したのか、正直、検討もつかなかった
そう思うと、ダンブルドアはなぜ、あんな場所を見つけたのだろう、と心底不思議でならなかった

あんな地図にも載っていないような場所が、在りかだとわかるならば、他の分霊箱の場所も検討がついていたのではないか、と

まず、ハリー達はロンドンに行き、「透明マント」に隠れてヴォルデモートが育った孤児院を探した
ハーマイオニーは図書館に飛び込み、そこの記録から、問題の場所が、つい最近取り壊されてしまったことを知った
その場所を訪れると、工事のコーンが立てられ、立ち入り禁止になっていた

「土台を掘ってみる?」

ハーマイオニーが捨て鉢に言った

「あいつはここに分霊箱を隠したりしないよ」

ハリーには、とうにそれが分かっていた
だが、一抹の期待はあった

孤児院はヴォルデモートが絶対に逃げ出してやろうと考えていた場所だ
それと同時に、彼女と共に育った場所でもある
そんなところに自分の魂のかけらを置いておくはずがない、と考えるか、彼女と出会った場所だからこそ、置いておくのか、と思考が二極だっと
だから、確かめたかったのは正直なところだった

ダンブルドアは言っていた
ヴォルデモートが隠し場所に栄光と神秘を求めたことを
ハリーに示してくれた

他に新しいことも思いつかないまま、三人は安全のために毎晩場所を変えてテントを張りながら、地方を巡り続けた
毎朝、野宿の跡を残さないように消し去ってから、また別の人里離れた寂しい場所を求めて旅立った

崖の薄暗い割れ目へ、ヒースの咲く荒地へ、ハリエニシダの茂る山の斜面へ、そしてある日は風を避けて入り江の小石だらけの場所へと「姿現わし」で移動した

分霊箱は、基本ハーマイオニーのバッグの中に入れ、時折、ちゃんとあるかどうか確かめるために外に出す
直接持っていないから、ハーマイオニーが言ったような取り憑かれるようなことは誰にも起きないが、その場にあるだけで、闇に取り込んでいく邪悪な意志を発してるような忌み物には違いなかった

だが、三人がそれを正しく知覚できるほど、分霊箱はわかりやすいものでもなかった

ハリーは傷痕がひっきりなしに疼いていた
分霊箱が視界に入り、近くにある間が、一番頻繁に痛むことに気づいた
時には痛みに耐えかねて、体が反応してしまうこともあった

「どうした?何を見たんだ?」

ハリーが顔を顰めるたびに、ロンが問い詰めた

「分からない。でも気分は良くない」

その度に、ハリーは呟いた
この頃よく見る夢は、写真を並べてランダムに再生していっているような、妙な断片的な映像だった

鋭く尖った切っ先が視える
白銀より、ひたすらに白いその切っ先は、剣のような感じだった
ハリーは、その鋭い白い物の全容が視える前に、変わる映像にもどかしい想いをしていた

「何か鋭くて、白い物だ。この頃ずっとそうだ」

自分では、確信するような口調で言ったことだが、ロンは顔を背け、失望を隠そうともしなかった
ロンが、家族や不死鳥の騎士団のメンバーの安否を知りたがっていることは、ハリーにも分かっていた

ハリーはテレビのアンテナではない
ある時点でヴォルデモートが考えていることを見ることはできても、好きなものにチャンネルを合わせることはできないのだ

どうやらヴォルデモートは、あの鋭く白い物のことをよく考えているようだった

そして、ハリーは何となく、この前に夢で見た、ヴォルデモートが壊そうとしている…ハリーに見つけられては厄介だという物が、今、ハリーが夢に見て、ヴォルデモートがよく考えている物ではないか、と確証はないがそう思っていた

傷痕は焼けるように痛み続け、鋭く白いものが、焦らすように脳裏に浮かんだが、そのことを口に出せば、当然ながら二人を苛立たせるばかりだったので、ハリーは痛みや不快感を抑えて表に出さない術を身に付けた
皆が必死になって分霊箱の破壊の方法と、糸口を見つけようとしているのだから、ハリーは、一概に二人だけを責めることはできなかった

何日間かが何週間になった
ハリーは、ロンとハーマイオニーが、自分のいないところで、自分のことを話しているような気がしはじめた
ハリーがテントの中に入っていくと、突然二人が黙り込む、ということが数回あった
テントの外でも、偶然に二度とほど、二人が一緒にいるのに出くわしたことがあった
ハリーから少し離れた所で、額をつき合わせて早口で話していたが、ハリーが近づくのに気付いた途端、話はやめて、水とか薪を集めるのに忙しいというふりをした
ロンとハーマイオニーは、ハリーと一緒に旅に出ると言った
しかし、二人は、ハリーには秘密の計画があって、そのうちきっと二人にも話してくれるだろうと思ったからこそ、従いてきたのではないだろうか、この旅が、目的もなく漫然と歩き回るだけのものになったかのように感じられる今、ハリーはそう考えざるをえなかった
ロンは機嫌の悪さを隠そうともせず、ハーマイオニーも、ハリーのリーダーとしての能力に失望しているのではないかと、ハリーはだんだん心配になってきた
何とかしなければと、まずは分霊箱を破壊する方法を考えてみたが、何度考えても、鋭い白い物の残像が浮かぶだけで、心の中ではあれがそうではないか、と確信しているのに、頭ではいいや、そんな訳がないと否定せざるを得ないと否定してくる

思考を振り払うように、残りの分霊箱の在り処を考えてみるが、何度考えても、ただ一ヶ所、ホグワーツが頭に浮かぶだけだった
しかし、あとの二人がそこだけはあり得ないと考えていたので、ハリーには言い出せなかった












地方を巡るうちに、次第に秋の色が濃くなってきた
テントを張る場所にも、落葉がびっしり敷き詰められていた
吸魂鬼の作り出す霧に自然の霧が加わり、風も雨も、三人の苦労を増すばかりだった

ハーマイオニーは食用茸を見分けるのが上手くなっていたが、それだけではあまり慰めにならないほど三人は孤立し、他の人間から切り離され、ヴォルデモートとの戦いがどうなっているのかも、まったく分からないままだった


「ママはーー」

ある晩、ウェールズのとある川岸に野宿している時、テントの中でロンが言った

「何にもないところから、おいしいものを作り出せるんだ」

ロンは、皿に乗った黒焦げの灰色っぽい魚を、憂鬱そうに突いていた
ハリーは、ロンに向かって悪態を吐きたい衝動をやっとのことで抑えつけた
ハリーは、心の中で雰囲気の悪い原因をすべて分霊箱にすることにした

「あなたのママでも、何もないところから食べ物を作り出すことはできないのよ」

ハーマイオニーが言った

「誰にもできないの。食べ物というのはね、『ガンプの元素変容の法則』の五つの主たる例外のその第一でーー」

「あーあ、普通の言葉で喋ってくれる?」

ロンが歯の間から魚の骨を引っ張り出しながら言った

「何もないところからおいしい食べ物を作り出すのは、不可能です!食べ物がどこにあるかを知っていれば『呼び寄せ』できるし、少しでも食べ物があれば、変身させることも増やすこともできるけどーー」

「ーーならさ、これなんか増やさなくていいよ。ひどい味だ」

ロンが言った

「ハリーが魚を釣って、私ができるだけのことをしたのよ!結局、いつも私が食べ物をやり繰りすることになるみたいね。たぶん私が女だからだわ!」

「違うさ。君の魔法が、いちばんうまいからだよ!」

ロンが切り返した

ハーマイオニーは突然立ち上がり、焼いたカマスの身がブリキの皿から下に滑り落ちた

「ロン、明日は’’あなたが’’料理するといいわ!あなたが食料を見つけて、呪文で何か食べられるものに変えるといいわ。それで、私はここに座って、顔を顰めて文句を言うのよ。そしたらあなたは、少しはーー「黙って!」」

ハリーが突然立ち上がって、両手を挙げながら言った

「シーッ!黙って!」

ハーマイオニーが憤慨した顔で言った

「ロンの味方をするなんて。この人、ほとんど一度だって料理なんかーー」

「ハーマイオニー、静かにして。声が聞こえるんだ!」

両手でしゃべるなと二人を制しながら、ハリーは聞き耳を立てた
傍らの暗い川の流れの音に混じって、また話し声が聞こえてきた
ハリーは「かくれん防止器」を見たが、動いていない

「『耳塞ぎ』の呪文はかけてあるね?」

「全部やったわ」

ハーマイオニーが囁き返した

「『耳塞ぎ』だけじゃなくて、『マグル避け』、『目くらまし術』、全部よ。誰が来ても私たちの声は聞こえないし、姿も見えないはずよ」

何か大きなものがガサゴソ動き回る音や、物が擦れ合う音に混じって、石や小枝が押し退けられる音が聞こえ、相手は複数だとわかった
木の生い茂った急な坂を、ハリー達のテントのある狭い川岸へと、這い下りてくる
三人は杖を抜いて待機した
この真っ暗闇の中なら、周囲に巡らした呪文だけで、マグルや普通の魔法使いたちに気づかれないようにするには十分だった
もし相手が死喰い人だったら、保護呪文の守りが闇の魔術に耐えうるかどうかが、初めて試されることになるだろう

話し声はだんだん大きくなってきたが、川岸に到着したときも、話の内容は相変わらず聞き取れなかった
ハリーの勘では、相手は五、六メートルも離れていないようだった
しかし川の流れの音で、正確なところはわからない
ハーマイオニーはビーズのバッグを素早くつかみ、中をかき回しはじめたが、やがて「伸び耳」を三個取り出して、ハリーとロンに、それぞれ一個ずつ投げ渡した
二人は急いで薄橙色の紐の端を耳に差し込み、もう一方の端をテントの入口に這わせた 









数秒後、ハリーは疲れたような男の声をキャッチした

「ここなら鮭のニ、三匹もいるはずだ。それとも、まだその季節には早いかな?アクシオ!(鮭よ、来い!)

川の流れとははっきり違う水音が数回して、捕まった魚がじたばたと肌を叩く音が聞こえた
誰かがうれしそうに何か呟いた
ハリーは「伸び耳」をぎゅっと耳に押し込んだ
川の流れに混じって他の声も聞こえてきたが、英語でもなく、今まで聞いたことのない言葉で、人間のものではない
耳障りなガサガサした言葉で、喉に引っかかるような雑音のつながりだ
どうやら二人いる
一人はより低くゆっくりした話し方をする

テントの外でも火が揺らめいた
炎とテントの間を、大きな影がいくつか横切った
鮭の焼けるうまそうな匂いが、焦らすようにテントに流れてきた
やがて、ナイフやフォークが皿に触れる音がして、最初の男の声がまた聞こえた

「さあ、グリップフック、ゴルヌック」

小鬼(ゴブリン)だわ!

ハーマイオニーが口の形でハリーに言った
ハリーは頷いた

「ありがとう」

小鬼達が同時に英語で喋った

「じゃあ、君たち三人は逃亡中なのか。長いのかい?」

別の男の声が響いた
感じのいい、心地のよい声だ
ハリーにはどことなく聞き覚えがあった
腹の突き出た、陽気な顔が浮かんだ

「六週間か……いや七週間…忘れてしまった」

疲れた男の声が言った

「すぐにグリップフックと出会って、それこら間もなくゴルヌックと合流した。仲間がいるとはいいものだ」

声が途切れ、しばらくナイフが皿を擦る音や、ブリキのマグを地面から取り上げたり置いたりする音が聞こえた

「君はなぜ家を出たのかね?テッド?」

「連中が私を捕まえにくるのはわかっていたのでね」

心地良い声のテッドが言った
ハリーは咄嗟に、さっきの声の主を思い出した
トンクスの父親だ

「先週、死喰い人達が近所を嗅ぎ回っていると聞いて、逃げた方がいいと思ったのだよ。マグル生まれ登録を、私は主義として拒否したのでね。あとは時間の問題だとわかっていた。最終的には家を離れざるをえなくなることがわかっていたんだ。妻は大丈夫なはずだ。純血だから。それで、このディーンに出会ったというわけだ。二、三日前だったかね?」

「ええ」

別の声が答えた

ハリーもロンもハーマイオニーも顔を見合わせた
声は出さなかったが、興奮で我を忘れるほどだった
確かにディーン・トーマスの声だ
グリフィンドールの仲間だ

「マグル生まれか、え?」

最初の男が聞いた

「わかりません」

ディーンが言った

「父は僕が小さい時に母を捨てました。でも魔法使いだったかどうか、僕は何の証拠も持っていません」

しばらく沈黙が続き、ムシャムシャ食べる音だけが聞こえたが、やがて、テッドが口を開いた

「ダーク、君に出会って実は驚いたよ。うれしかったが、やはり驚いた。捕まったと聞いていたのでね」

「そのとおりだ」

ダークが言った

「アズカバンに護送される途中で、脱走した。ドーリッシュを『失神』させて、奴の箒を奪った。思ったより簡単だったよ。やつは、どうもまともじゃないように思う。『錯乱』させられているのかもしれない。だとすれば、そうしてくれた魔法使いだか、魔女だかと握手したいよ。たぶんそのおかげで命拾いした」

またみんな黙り込み、焚き火の爆ぜる音や川のせせらぎが聞こえた
やがてテッドの声がした

「それで、君たちはどういう事情かね?つまり、えー、小鬼(ゴブリン)達はどちらかといえば、『例のあの人』寄りだという印象を持っていたのだがね」

「そういう印象は間違いです」

高い声の小鬼が答えた

「我々はどちら寄りでもありません。これは魔法使いの戦争です」

「それじゃ、君たちはなぜ隠れているのかね?」

「慎重を期するためです」

低い声の小鬼が答えた

「私にしてみれば無礼極まりないと思われる要求を拒絶しましたので、身の危険を察知しました」

「連中は何を要求したのかね?」

テッドが聞いた

「我が種族の尊厳を傷つける任務です」

小鬼の答える声は、より荒くなり、人間味が薄れていた

「私は『屋敷しもべ妖精』ではない」

「グリップフック、君は?」

「同じような理由です」

声の高い小鬼が答えた

「グリンゴッツは、もはや我々の種族だけの支配ではなくなりました。私は魔法使いの主人など認知いたしません」

グリップフックは小声で何か付け加えたが、ゴブリン語だった
ゴルヌックが笑った

「何がおかしいの?」

ディーンが聞いた

「グリップフックが言うには」

ダークが答えた

「魔法使いが認知していないこともいろいろある、ということだ。ーーそれもそのはずだ。魔法使いが魔法使いとして存在した歴史は、我々の歴史から見れば、我が種族よりも遥かに遅い」

ダークがおかしそうな口調で言った

「僕達が小鬼(ゴブリン)よりも?」

ディーンが訝しげに聞いた

「ああ」

笑い混じりにダークが答えた

「遅い、とはどういうことかね?君たちの歴史では違うということかな?」

テッドが聞いた

真を置いて小鬼の笑い声が聞こえてきて、しばらくすると、楽しげな口調で英語で話した

「あなた方魔法使いの歴史と我々の歴史は違うということです。我々が我が種族の歴史を重んじると同様に、魔法使いもまた、魔法使いに’’とって’’最善の歴史を重んじる」

引っ掛かる言い方をしながらグリップフックが答えた

「どういう意味だい?」

ディーンが聞いた

また、小鬼達がゴブリン語で何か話した
そして、一瞬の会話が終わると、英語で話し出した

「おおよそ、あなた方(魔法使い)が学んだ魔法史には、魔法使いにとって、都合の良いところばかりがあるということです」

「まさかーー、まさか、君たちは我々魔法族の歴史が改竄されたものだとでも言うつもりかね?」

テッドが、侮辱を受けたかのように言った

「むしろ知らなかったことの方が驚きだ。’’こういうこと’’はあなた方(魔法族)だけでなく、多くの種族の歴史でもしばしば起こることだ。なんら不思議はない。歴史は生き遺った者によって書き記される」

グリップフックが言った
 
ハリーは意味がわからず、ハーマイオニーを見ると、ハーマイオニーは眉を寄せて熱心に聞いている

「うーん、よくわからないけど、君たち(ゴブリン)の歴史と違うってこと?でもそれって、どっちが正しいかはわかんないんだよね?」
 
「どっちもなにも、そもそも較べるものが我が種族が伝え記したものしかないのだから、正しいかなど問題にはならない。それが事実だ」

ディーンの言葉を、おかしな解釈だと笑うように言ったダーク

「要領を得ないな。要するに君達は、我々魔法族が’’遅れている’’種族だと言いたいのかな?」

テッドが、苛立ったように言った

「それも違います。あなた方(魔法族)我々(ゴブリン族)が、現れる前から魔法に似た力を持つ種族がいたという話です。それが所謂、あなた方(魔法族)が扱う魔法の『祖』であると、我々の伝記には記されている」

「なんだって?」

テッドが、信じられないことを聞いたように呟いた

「まあ、まあ。グリップフック。それがつまり、そんな種族がいたという存在の証明にはならん。いたとしてもあの伝記によればとっくに滅びているさ」

「滅びたのは間違いないでしょうが、実在はしました。それはあなた方が先程我々に話した記事にも証明されています」

厳かに、グリップフックは言った

「さっきって、魔法省から重要文化財が盗まれたやつかい?」

ハリー達は、どきりとした
自分達のことだ…と

「ええ」

グリップフックが肯定した

「文化財番号0036番。この番号を聞けば我々(ゴブリン族)は肩を竦めて盗人を嘲笑っただろう。わざわざ’’贋物(にせもの)’’を盗むなど、盗人は余程神秘好きなのか、切羽詰まっていたのかと考えざるを得ない」

「へー、それ贋作なの?」

ディーンは、その手の話題に興味がないようで、どうでもよさそうに聞き返した

「あれは表向き、エンヴァブラック・リヴィヴァロッドという太古に実在したドラゴンの血と骨で作られた、ゴブリン製の(つるぎ)となっています。ですが、我々がそんな物は作った事実はありません」

ハリーは、自分の鼓動が激しく打ったのを感じた

「では、なぜゴブリン製の物だと言われるようになったんだい?」

テッドが聞いた

「それはーー」

ダークが答えようとした
だが、答える前に笑い声が聞こえると、またグリップフックとゴブリン語で何かを話した

そして話が終わると

「魔法省と我が種族の取引によるものです。そもそも、あの剣は実在はしますが、現実には見た者はいません」 

ダークの言葉を引き取るようなグリップフックの言葉に、ハリーは動揺が止まらなかった
体を電流が走り、神経の一本一本を掻き鳴らした
まるで、足元の床がぽっくり消えて深い穴に落ちていってしまうような感覚だった

「どういうことかね?見た者がいないのに実在するとわかるのかい?」

「正確に言えば、見た者は生きてはいません。我々(ゴブリン族)に遺る史実では、あの剣を打ったのは、先ほど話に出た魔法の『祖』とされる種族です。最後に見た者がその形を見よう見真似で模写した。それを見たかつての我々の先祖が、精巧な贋作を作り上げたのです。魔法省が白書を出している紹介文の半分以上は、作り上げられたものでしょう」

「魔法省の意図がまるで理解できないね。なぜそんな、まるで意味もないハリボテのような物を保管リストに入れるのか。しかも、合っているかもわからない贋作をーー」

「現れた時に所有権を主張するためだろう」

テッドの質問にダークが鼻で嗤うように答えた

「どちらにしろ、他の財産は兎も角、あの剣に関しては魔法省には無理な相談です。そもそも、あの剣は資格のない者が触れようとすれば’’自ら消えます’’」

グリップフックの言葉に、ハリー達は衝撃を受けた
ハリーは勢いよく振り向いて、ハーマイオニーを見る
ハーマイオニーは首を振る
まるで知らなかったようだ
それもそのはずかもしれない 

「ふーん、それって、それって魔法?」

ディーンは、またもや適当に感心したふりをして聞いた

「それも少し違います。剣そのものに’’意思’’がある。その手のことを研究している我々の専門家の解釈では、その剣は、自分を打った種族の末裔が現れるのを待っているのではないか、と言っています」

「にわかには信じられない話だね。存在もしないだろう剣の所有権を取ろうとしているなんてーー」

テッドはまるで信じていない様子で、呆れたように言った

「少なくとも『例のあの人』は実在していると知っているようでしたぞ」

冗談の空気を凍り付かせるように、ダークが無関心に言った

ハリーは、立ちすくんだまま目を見開き、その場に根が生えたような心地になった

「『例のあの人』が?」

テッドが、先ほどまでの呆れを滲ませた声をまったく消して聞いた

「『例のあの人』が、仲間を拷問して聞き出そうとしました。しかし、どうやらーー、『例のあの人』に’’我々の内密の話’’は通用しないらしい」

グリップフックが厳しい口調で言った

「それってどういう意味?」

ディーンが恐る恐る聞いた

「『例のあの人』はゴブリン語を理解しておられる。仲間が魔法省にある剣が贋作だと洩らしたことを聞かれた、と」

「『例のあの人』が、ゴブリン語を理解できる?」

テッドが怖色に畏怖を滲ませて聞き返した

「あのお方が恐れられる理由は、その魔力と残虐性だけではない、ということです。我々しか知り得ないはずのことを知っていた…」

グリップフックが、いっそ感心したような声色で言った

「全くだーー。魔法使いは、いつの時代も総じて欲が深い」

ダークが溜息混じりにそう言うと、空気が重くなった
ディーンもテッドも噛み付く気力はないようだ



テントの中で、ハリーは目を瞑り、誰かが自分の聞きたいことを聞いてくれますようにと祈っていた
まるで十分に思えるほどの長い一分が経って、ディーンが聞いてくれた
そういえば、ディーンもジニーの元ボーイフレンドだった、と、何故唐突に思い出した
ハリーはそのことを思い出して胸がざわついた

「ホグワーツはどうなってるんだろう」

ぽつりと呟くように言ったディーン
その声色には、郷愁の念が滲んでいる

「スネイプが校長で、死喰い人(デスイーター)がいるなんて…」

「いるだけではなく、どうやら副校長を務めているとか」

「世の中どうなっているんだ……聞けば体罰が当たり前のように横行しているようじゃないか」

「そうだ、校長室に忍び込んだ生徒はどうなったの?」

ディーンのその言葉に、ハリー達は顔を見合わせた

「ああ、罰せられましたよ。しかも厳しくね」

グリップフックは、無関心に答えた

「でも、無事なんだろうね?」

テッドが急いで聞いた

「つまり、ウィーズリー家の子どもたちが、傷つけられるのはごめんだよ。どうなんだね?」

テッドの言葉に、ロンは動揺した

「しかしなぜ、ウィーズリーの子は校長室に侵入したりなどしたんだろうね」

テッドが唸るように言った
ロンは今にも出て行って問い質しそうな勢いで動揺した

「私の知る限りでは、ひどい障害は受けなかったらしいですよ」

グリップフックが言った

「それは運がいい」

テッドが言った

「スネイプの経歴を見れば、その子どもたちがまだ生きているだけでもありがたいと思うべきだ」

「それじゃ、テッド、君はあの話を信じているのか?」

ダークが聞いた

「スネイプがダンブルドアを殺したと思うのか?」

ハリーは意味がわからなかった
表向き、ダンブルドアを殺したのは自分ということは知っていたが、スネイプが主犯とは公言したなかったからだ
あの時、校長室で魔法省に報告したのはレギュラス…

ハリーはそこまで思い出して、疑念はあったが、もう誰でもいいと思った
殺したのは彼女だが、スネイプが犯人でもいいと思ったのだ
スネイプも殺したようなものだと、納得することにした

「もちろん」

テッドが言った

「君はまさか、ポッターがそれに関わっていると思うなんて、そんな戯言(たわごと)を言うつもりはないだろうね?」

「近ごろは、何を信じていいやらわからない」

ダークが呟いた

「僕はハリー・ポッターを知っている」

ディーンが言った

「そして、僕は彼こそが本物だと思うーー『選ばれし者』なんだ。どういう呼び方をしてもいいけど」

「君、そりゃあ、ポッターがそうであることを信じたい者はたくさんいる」

ダークが言った

「私もその一人だ。しかし、彼はどこにいる?どうやら逃げてしまったじゃないか。ポッターが我々の知らないことを何か知っていると言うなら、それともポッターには何か特別な才能があると言うなら、隠れていないで、いまこそ正々堂々と戦い、レジスタンスを集結しているはずだろう。それに、それ、『預言者新聞』がポッターに不利な証拠を挙げているしーー」

「『預言者』?」

テッドが鼻先で笑った

「ダーク、まだあんなくだらん物を読んでいるなら、騙されても文句は言えまい。本当のことが知りたいなら、『ザ・クィブラー』を読むことだ」

突然、喉を詰まらせてゲーゲー吐く大きな音が聞こえた
背中をドンドン叩く音も加わった
どうやらダークが魚の骨を引っ掛けたらしい

やっと吐き出したダークが言った

「『ザ・クィブラー』?ゼノ・ラブグッドの、あの能天気な紙屑のことか?」

「近ごろではそう能天気でもない」

テッドが言った

「試しに読んでみるといい。ゼノは『預言者』が無視している事柄をすべて活字にしている。最新号では『しわしわ角のスノーカック』に一言も触れていない。ただし、このままだと、いったいいつまで無事でいられるか、そのあたりは私にはわからない。しかしゼノは、毎号の巻頭ページで、『例のあの人』に反対する魔法使いは、ハリー・ポッターを助けることを第一の優先課題にするべきだと書いている」

「地球上から姿を消してしまった男の子を助けるのは、難しい」

ダークが言った

「いいかね、ポッターがまだ連中に捕まっていないということだけでも、大したものだ」

テッドが言った

「私は喜んでハリーの助言を受け入れるね。我々がやっていることもハリーと同じだ。自由であり続けること。そうじゃないかね?」

「ああ、まあ、君の言うことも一理ある」

ダークが重々しく言った

「魔法省や密告者がこぞってポッターを探しているからには、もう今頃は捕まっているだろうと思ったんだが。もっとも、もうとうに捕まえて、こっそり消してしまったと言えなくもないじゃないか?」

「ああ、ダーク、そんなことを言ってくれるな」

テッドが声を落とした



それからは、フォークとナイフの音が聞こえる音だけで、長い沈黙が続いた
次に話した時は、川岸でこのまま寝るか、それとも木の茂った斜面に戻るかの話し合いだった
木がある方が身を隠しやすいと決めた一行は、焚き火を消し、再び斜面を登って行った
話し声は次第に消えていった

ハリー、ロン、ハーマイオニーは「伸び耳」を巻き取った
盗み聞きを続ければ続けるほど、黙っているのが難しくなってきていたハリーだったが、今、口を突いて出てくる言葉は…

「ジニーー……剣……」

だけだった

「わかってるわ!」

ハーマイオニーが言った

ハーマイオニーはまたしてもビーズバッグをまさぐったが、今回は片腕をまるまる奥まで突っ込んでいた

「さあ………ここに………あるわ…」

ハーマイオニーは歯を食いしばって、バッグの奥にあるらしい何かを引っ張り出してながら言った
ゆっくりと、装飾的な額縁の端が現れた
ハリーは急いで手を貸した
ハーマイオニーのバッグから、二人がかりで、額縁のだけのフィニアス・ナイジェラスの肖像画を取り出すと、ハーマイオニーは杖を向けて、いつでも呪文をかけられる態勢を取った

「ジニーが校長室に忍び込んだならーー」

ハーマイオニーは、額縁をテントの脇に立て掛けながら、息を弾ませた

「その現場をフィニアス・ナイジェラスが見ていたはずよ!」

「眠っていなけりゃね」

そうは言ったものの、ハリーは、ハーマイオニーが空の肖像画の前に跪いて杖を絵の中心に向けるのを、息を殺して見守った

ハーマイオニーは咳払いをしてから呼びかけた

「えーーー…フィニアス?フィニアス・ナイジェラス?」

何事も起こらない

「フィニアス・ナイジェラス?」

ハーマイオニーが、再び呼びかけた

「ブラック教授?お願いですから、お話できませんか?どうぞ、お願いします」

「『どうぞ』は常に役に立つ」

皮肉な冷たい声がして、フィニアス・ナイジェラスがするりと額の中に現れた
すかさずハーマイオニーが叫んだ

オブスクーロ !(目隠し!)

フィニアス・ナイジェラスの(さか)しい黒い目を、黒の目隠しが覆い、フィニアスは額縁にぶつかって、ギャッと痛そうな悲鳴を上げた

「なんだーーよくもーーいったいどういうーー?」

「ブラック教授、すみません」

ハーマイオニーが言った

「でも、用心する必要があるんです!」

「この汚らしい描き足しを、今すぐ取りたまえ!取れと言ったら取れ!偉大なる芸術を損傷しているぞ!ここはどこだ?何が起こっているのだ?」

「ここがどこかは、気にしなくていい」

ハリーが言った

フィニアス・ナイジェラスは、描き足された目隠しを剥がそうとあがくのをやめて、その場に凍りついた

「その声は、もしや逃げを打ったミスター・ポッターか?」

「そうかもしれない」

そう言えば、フィニアス・ナイジェラスの関心を引き止めておけると意識して、ハリーがと答えた

「質問がありますーー最近、校長室に忍び込んだグリフィンドールの女子生徒のことで」

「ああ」

フィニアス・ナイジェラスは、ハリーの姿をなんとか見ようとして、今度は頭をいろいろな角度に動かしながら言った

「そうだ。あの馬鹿な女の子は、全くもって愚かしい行動を取ったーー」

「妹のことをごちゃごちゃ言うな」

ロンは乱暴な言い方をした
フィニアス・ナイジェラスは、人を食ったよような眉をぴくりと上げた

「他にも誰かいるのか?」

フィニアスはあちこち首を回した

「君の口調は気に入らん!あの女の子も仲間も向こう見ずにもほどがある。校長の部屋で、あろうことか盗みを働くとは!」

「盗みーー?今盗みって言ったか?」

ロンが言った

「ああ!聞こえなかったかね?君の口調は気に入らん!全くもって、これだから子どもは口の利き方もーー」

フィニアスの機嫌が悪くなりそうだったので、ハリーは噛みつこうとするロンを宥めて、フィニアスに話しかけた

「あの、それで、その、ブラック教授。ジ…何が盗まれたんですか?」

ジニーの名前を出そうとしたが、ハリーはロンを気遣って言い直した

「ふん!ーー何も盗まれてはおらん。スネイプ教授の校長室で盗みなどできるはずがあるものか」

フィニアス・ナイジェラスは、小馬鹿にしたように、自慢しているようにも見える様子で言った

「なんだ。結局嘘かよ」

ロンが肩透かしとばかりに呟いた

「嘘?嘘だと言ったかね?君は今私に向かって嘘をついたと言ったか?なんと、これ程の侮辱をされるとは!けしからん!」

「教授!ブラック教授!あの、すみません、違うんです。あなたが嘘をついているという意味ではないんです。教えてほしいんです。ジニーは、その、何を盗もうとしたんですか?」

ハーマイオニーがロンをキッと睨みながら、フィニアス・ナイジェラスを刺激しないように話しかけた

「ふん!なぜ私が教えねばならん。ほとほと呆れて物も言えん。年長者への敬いもないとはっ。図々しい。早く私を我が先祖の屋敷へ戻せ!でなければ帰らせてもらう!まったくーー」

「待って!ブラック教授!お願いです。’’どうぞ’’お願いですから。話を聞かせてください」

額縁から背を向けて、消えようとしているフィニアス・ナイジェラスに、ハーマイオニーが慌てて止めた

フィニアスは止まった

「ふむ。それで、ここはどこかね?」

フィニアスは、目隠しと葛藤しながら、聞いた

「私をどこに連れてきたのだ?なぜ私を先祖の屋敷から取り外した?」

「それはどうでもいい!ジニーは校長室で何を取ろうとしたんだ?」

ハリーは急き込んで聞いた

「知らん。校長室に在りもせんものを取ろうとした」

「ありもしないもの?」

「ウィーズリー家の女の子はぶつぶつと呟いておった。櫛はーー櫛はどこか、あるはずだ、とな。全く。取り憑かれておる」

フィニアスは呆れたように吐き捨てた

「櫛?櫛だって?」

ハリーは、唐突に思い出して、時間差でハーマイオニーも気づいたのか、驚きの目でハリーを見た

「ハリー!」

「ああ。フィニアス・ナイジェラス…教授、ダンブルドアの部屋に櫛はあったのですか?それはもしかして、それは金属の彫り柄がある櫛ですか?」

「知らん。だから、元から在りはせんと言っているだろう。同じことを何度も言わせるな」

しっしっと追い払うように、額縁の中で手を振ったフィニアスに、ハリー達はこれ以上聞きだすことはできないと悟った

「それで、スネイプはジニーにどんな罰を与えたんだ?」

「スネイプ教授は、ウィーズリー家の女の子を『禁じられた森』に送って、うすのろハグリッドの仕事を手伝わせた」

「ハグリッドは、うすのろじゃないわ!」

ハーマイオニーが甲高い声を出した

「それに、スネイプはそれが罰だと思っただろうけど」

ハリーが言った

「でも、ジニーは気にもしなかっただろう。『禁じられた森』なんて……それがどうした!今までもっと大変な目に遭っている!」

ハリーはホッとした
最低でも「磔の呪文」のような恐ろしい罰を想像していたのだ

「やれやれ、そろそろホグワーツの校長室に戻る潮時ですかな?」

目隠しされたまま、フィニアスは絵の縁を探り始め、手探りで絵から抜け出し、ホグワーツの肖像画に戻ろうとした
ハリーは突然、ある考えが閃いた

「ダンブルドアだ!ダンブルドアを連れてこられる?」

「何だって?」

フィニアス・ナイジェラスが聞き返した

「ダンブルドア先生の肖像画ですーーダンブルドア先生をここに、あなたの肖像画の中に連れてこられませんか?」

フィニアス・ナイジェラスはハリーの方に顔を向けた

「どうやら、やはり、思っていた以上に君は無知蒙昧らしい。ポッター、ホグワーツの肖像画は、お互いに往き来できるが、城の外に移動することはできない。どこか他に掛かっている自分自身の肖像画だけは別だ。ダンブルドアは私と一緒にここに来ることはできない。はっ。’’幸い’’とはこのこと。それに、君たちの手でこのような待遇を受けたからには、私がここを訪問することも二度とないと思うがよい!」

ハリーは少しがっかりして、絵から出ようとますます躍起になっているフィニアスを見つめた

「ブラック教授」

ハーマイオニーが呼びかけた

「あの、’’どうぞ’’、よければ教えていただけませんか?あの、ブラック教授はご存知だと思うんです。オフューカス・ブラックのこと。「なんと、マグル生まれ如きが、無礼にも我が玄孫を呼び捨てにするとは!」オフューカスさん!、のことをーー彼女はダンブルドア先生と何か重要な話をしていたりしていませんでしたか?」

フィニアスが憤慨して遮るので、ハーマイオニーは強い口調で言い直し、フィニアスに尋ねた

フィニアスはふんと鼻を鳴らして、ハーマイオニーの質問に返した

「知らん。我が玄孫は、我が一族の『恥晒し』だが、我が玄孫は、知己でもあった。君たちのような無知蒙昧な子どもに教えることなど一切無い」

フィニアスはひと言も許さずに吐き捨てた

「どういう意味だ?」

ハリーは、思わず苛立ちながら言った

「ふん!」

ハリーの問いに、フィニアスは臍を曲げたように、断固として話さない姿勢になった

ハーマイオニーはハリーとフィニアスを見て困惑したような顔をした

「あの、ブラック教授、オフューカス…さんと、何か話したんですか?その、彼女がダンブルドアをーー「殺害する前か?はっ!」」

ハーマイオニーの言葉を、またもやフィニアスは遮って続けた
まるで馬鹿にしたかような笑いに、ハリーは眉を寄せた

「何がおかしいんです?」

「おかしい?ああーーおかしいとも。実に滑稽だ。だが我が玄孫は実に素晴らしいと、私自ら賞賛を贈りたいところだ」

「何だって?」

ハリーは聞き間違いかと思い、フィニアスに怒ったように言った

「さっき、『恥晒し』だって言ってただろ」

ロンが噛み付いた

先程から意味のわからないフィニアスの言動に、三人は苛立ちを隠しきれなかった

「お前は、ダンブルドアが殺されたことが素晴らしいことだって言うのか?」

抑えきれなかったハリーが、ついにフィニアスに言った
拳を握りしめたハリーは目の前の肖像画を破いて壊してやりたい気分だった

「ポッター、今、私のことを、’’お前’’と言ったか?この白痴な子どもが!」

フィニアスは完全に怒ってしまった

「我が玄孫の恩恵に胡座をかいて座ってきた無恥な子どもが、図に乗るでない!」

「ハリー、ハリー!なんてこと!ブラック教授、違うんです!ハリーはそんなつもりじゃ!」

「ああ、そういうつもりだ。こいつは今、ダンブルドアが殺されたことを素晴らしいと言ったんだ!違うもんか!」

ハリーは取り乱したように言った
ハーマイオニーは、ますます怒ったようにカンカンになって額縁の中で、怒りを露わに憤慨するフィニアスを宥めようと必死になった

フィニアスは額の中で、出口を見つけようとしながら早口に言った

「ポッター、否が応でも、お前の手で我が玄孫を破滅させはせんぞ!お前の手にかかることだけは認めん!そんなことになれば、我が一族の末代迄の恥となろう!今、確信した。お前にその資格はない。ーーかかるならば、我が一族の者の手だ!ああ、もちろん、あの『ろくでもない玄孫』は除いてな!これで我が一族は、再び、その名を魔法界に馳せるのだ!」

フィニアスはそう叫び、ようやく出口を見つけたようで、「では、さらばだ」と、皮肉な捨て科白(ぜりふ)を残して、呆気なく姿を消した

ハリーはせいせいした
これ以上、フィニアスの顔を見ていたら、本当に破いてしまいそうだったからだ

「ハリー!」

フィニアスが消えた途端、ハーマイオニーが叫んだ
その責めるような視線に、ハリーは答えなかった

「どうしてあんなことを言ったの!」

「あんなこと?あんなことだって?ーーあいつは、ダンブルドアが殺されたことを’’素晴らしい’’って言ったんだ。ハーマイオニー、君は許せるのか?」

「ええ、そうね。もちろんーーそうよ。おめでとう。おかけで、折角、ホグワーツの状況を知れるかもしれなかった機会が永久に無くなったわ」

ハーマイオニーが、もう限界だとばかりに嫌味たらしく言った

「ああ、そうだね。だけどハーマイオニー、考えてもみるんだ。あいつが素直に話すわけがない。君が何度頼んでも知らないって言っていたじゃないか?最初から話す気なんかないんだ。時間の無駄だよ」

ハリーが冷たく言った

「そうーーそうなの。わかったわ。ハリー、この際だから言うわ。隠してることを言って」

「僕が隠してるって?」

「私は、いいえ、私たちは待っていたわ。あなたが話してくれるのを。ーーそうよ。ずっと。だけど、あなたは、特に、彼女のことが話題にあがると、そうよーー冷静ではなくなっているわ!さっきもそうよ。フィニアス・ナイジェラスが言ったことは、確かに許せないことよ。だけど、だけど、今は特にそうーーいちいち腹を立てていても、意味がないことくらいわかるでしょう?」

冷静な顔をして責めるように言ってきたハーマイオニーに、ハリーは何も言い返せなかった
反論したいのに、苦いほど言葉が見つからなかった

「僕は冷静だ」

「ハリー、気づかないの?」

「何が?」

ハリーは思わず、冷たく、投げやりな口調になった

「フィニアス・ナイジェラスは、一度もダンブルドアが殺されたことを素晴らしい、だなんてことは言わなかったわ」

「!っそんな、違う。あれは…「ええ、そう聞こえたかもしれない。でも、彼は玄孫である彼女を褒めただけよ。ーーあなたが早とちりしたのよ…それに、彼は、あなたが彼に失礼な態度をとったことに怒ったのよ」

失望したような様子で言うハーマイオニーに、ハリーは屈辱やら、恥ずかしい気持ちやらでいっぱいだった

俯いて、拳を握り締めて立ち尽くすハリー

何も言わない様子に…

黙っていたロンが口を開いた

「言えよ」

ひと言


だが、そのひと言は、今のハリーを追い詰めるのには十分だった

「隠してるんだろ。僕達に言えないことがあるんだろ?」

「ロン、ロン、言っておくけど、僕は、別に隠してたわけじゃない。ただ、タイミングがーー「あっただろ。ホグワーツでも「隠れ穴」でも、グリモールド・プレイスでもーー」

ハリーの言葉を遮って、ロンが言った





「そこまで信用できないってことかよ」




ハリーは、足元から真っ暗になっていくような気持ちになった
ロンの言葉が重くのし掛かった


「違う」


ハリーは、靴のつま先を見ながら、ポツリと言った

バラ、バラ、バラ。雨足が強くなった
テントの周りでは、川岸に敷き詰められた落ち葉を雨が打つ音や、闇を流れる川の瀬音がしていた
昂っていたハリーの心に冷水を浴びせるように、冷めた気持ちが広がった

ロンは、ハリーの想像していたとおりことを、そして、恐れていたとおりのことを考えていたのだ

「何が違うんだ。そうだろ?この際だから言ってやる」

「ロンっ」

ハーマイオニーが止めようとしたが、ロンは無視した

「ここでの生活は最高に楽しいものじゃない、なんて言ってないぜ」

ロンが言った

「腕はめちゃめちゃ、食い物はなし、毎晩尻を冷やして見張り、てな具合のお楽しみだしな。その上、君は隠してることを話そうともしない。でも僕は何も言わなかった!数週間駆けずり回った末に得た情報といえば、わざわざ危険を犯して手に入れたものが贋作だったってことだしな。それも絶望的なね!」

「ロン…」

ハーマイオニーが蚊の鳴くような声で言ったが、ロンは、今や、テントに叩きつけるような大きな雨の音にかこつけて、聞こえないふりをした

「僕は、君が何に志願したのかわかっている、と思っていた」

ハリーが言った

「ああ、僕もそう思ってた」

「それじゃ、どこが君の期待通りじゃないって言うんだ?」

冷水のような失望から、それがだんだん怒りに変わったハリーは、反撃に出た

「五つ星の高級ホテルに泊まれるとでも思ったのか?一日置きに分霊箱が見つかって、破壊する方法と最初から用意されていたとでも?クリスマスまでにはママのところに戻れると思っていたのか?」

ハリーはいい加減、限界だった

「僕たちは、君が何もかも納得ずくで事に当たっていると思ってた!」

ロンは立ち上がって怒鳴った
その言葉は焼けたナイフのようにハリーを貫いた

「僕たちは、ダンブルドアが君のやるべきことを教えてると思っていた!君には、ちゃんとした計画があると思ったよ!」

「ロン!」

こんどのハーマイオニーの声は、テントの天井に激しく打ちつける音よりもはっきりと聞こえたが、ロンはそれも無視した

「そうか、失望させてすまなかったな」

心は乾いていき、虚ろで自信なんてものはなかったが、ハリーは自分でも驚くほど落ち着いた声で言った

「僕は、はじめからはっきり言ったはずだった。ダンブルドアが話してくれたことは、話せることは、全部君たちに話したし、忘れているなら言うけど、分霊箱を一つ検討をーー「ああ、しかも、それを破壊する可能性は、いくつあるかもわからない分霊箱を見つける可能性と同じくらいさーーつまり、まーーったくなし!それに、君はずっとあんな奴のことを考えてる!聞きたくもないね。『例のあの人』とあんな碌でもない女のくだらない恋話なんか!そのせいでどれだけの人間が死んだ?僕たちが今こんな目に遭ってるのは誰のせいだ?ああ、そうさ!あの女のせいだ!君が正しいよ。ああ、正しいさ!でも、君は逃げてる!分霊箱を破壊するのがあいつを倒す方法だと言いながら、それに必要なことを僕たちにすら言わない!ダンブルドアだって愚かにもあんな女を信用したんだからね!」

ロンは、今まで溜めていた感情が爆発したように支離滅裂なことを言った

「ダンブルドアは愚かなんかじゃない!」

「じゃあ、何で殺されたんだ?そうだろう。あの女に騙されてたんだ!ダンブルドアは間違えた!」

「あぁぁーー!」

ハリーは、悲痛な咆哮を上げながら、ロンに掴みかかった

「やめてハリー!ロン!やめて!お願いやめて!」

ハーマイオニーが二人に泣きそうな声で叫ぶが、ロンは掴むハリーの強く払い退けて言った

「妹のことをあの人たちがどう話していたか、聞いたか?ところが、君ときたら、鼻にも引っかけなかった。たかが『禁じられた森』じゃないかだって?’’『僕はもっと大変な目に遭っている』’’。ハリー・ポッター様は森で何が起ころうと気にしないんだ。ああ、僕なら気にするね。巨大蜘蛛だとか、まともじゃないものだとかーー」

「僕が気にしてないだってーー?僕はただ、ジニーは一人じゃないし、ハグリッドと一緒でーー」

「ああ、わかったよ。君は心配してない!それにジニー以外の家族はどうなんだ?『ウィーズリー家の子どもたちが、これ以上傷つけられるのはごめんだよ』って、聞いたか?」

「ああ、僕ーー」

「でよ、それがどういう意味かなんて気にしないんだろ?」

「ロン!」

ハーマイオニーは、ついに二人の間に割って入った

「何も新しいことが事件が起こったという意味じゃないと思うわ。私たちの知らないことが起こったわけじゃないのよ。あなたは黒斑病で死にそうだということになっていることが、みんなに知れ渡っているだけよ。あの人が言ってたのは、きっと、それだけのことなのよーー」

「へえ、大した自信があるんだな?いいさ、じゃあ、僕は家族のことなんか気にしないよ。君たち二人はいいよな。両親が安全なところにいてさーー」

「僕の両親は、死んでるんだ!」

ハリーは、途端に大声を出した

「僕の両親も、同じ道を辿っているかもしれないんだ!」

ロンも叫んだ

「なら行けよ!」

ハリーが泣きたくなる気持ちを抑えて怒鳴った

「みんなのところに帰れ!黒斑病が治ったふりをしろよ!そしたら、ママがお腹一杯食べさせてくれて、そしてーー」

ハリーが言いかけたその時、ロンが突然動いた
ハリーも反応した
しかし、二人の杖がポケットから出る前に、ハーマイオニーが杖を上げていた

プロテゴ!(護れ!)

見えない盾が広がり、片側にハリーとハーマイオニー、反対側にロン、と二分した
呪文の力で、双方が数歩ずつ後退りした
ハリーとロンは、透明な障壁の両側で、初めてお互いをはっきり見るかのように睨み合った
ロンに対する憎しみが、ハリーの心をじわじわと蝕んだ
二人の間で何かが切れた


「君はどうする?」


ロンがハーマイオニーに向かって言った


「どうするって?」

「残るのか、どうなんだ?」

「私…」

ハーマイオニーは苦しんでいた
確かに、ロンがハリーと口論する前は、自分も、今日までの疑念や不満が一気に込み上げてきて冷静ではなかった

だが、今は違う

ロンとハリーの言い合いを見ているうちに、テントの中のローテーブルで、まるで悦んでいるかなように、鈍く輝きを放つ分霊箱を見てしまったからだ
こんな雰囲気になったのは、分霊箱のせいだ
だが、ハーマイオニーには、一概に分霊箱のせいだと断言することもできなかった

ダンブルドアが死んだ時から、ハリーは、胸の内に隠していることをなかなか話さず、彼女のことに過剰に反応するようになり、分霊箱がいくつあるのかも、どこにあるのかも、何一つ…そう、何一つ進むべき道が見えない

ひとつひとつの不満や疑念、悲しみ、苦悩が積み重なって、こうなったのだ

だが、ハーマイオニーには分かっていた

「ええーー私、ええ、残るわ。ロン、私たち、ハリーと一緒に行くと言ったわ。助けるんだって、そう言ったわーー」

これが、正しい選択だと

「そうか、君はハリーを選んだんだ」

「ロン、違うわーーお願いーー戻ってちょうだい。戻って!」

ハーマイオニーは、自分の「盾の呪文」に阻まれた
障壁を取り外した時には、ロンはもう、夜の闇に荒々しく飛び出していったあとだった

ハリーは黙ったまま、身動きもせずに立ち尽くし、ハーマイオニーが泣きじゃくりながら木立の中からロンの名前を呼び続ける声を聞いていた

しばらくして、ハーマイオニーが戻ってきた
ぐっしょり濡れた髪が、顔に張り付いている

「いーー行ってーー行ってしまったわ!『姿くらまし』して!」

ハーマイオニーは椅子に身を投げ出し、身を縮めて泣き出した
ハリーは何も考えられなかった
テーブルに置いてある、こんな最悪な時でも美しい輝く分霊箱を手に持ち、手慰みに菱形の紅い石を指先で撫でた

ハリーは、ロンのベットから毛布を引っ張り出して、ハーマイオニーに着せかけた

それから自分のベットに登り、テントの暗い天井を見つめながら、激しく打ち付ける雨の音を聞いたのだった…
























「ねえ」

甲高い女の声が、さほど声量もないのに、響く
だが、彼の頭には響かない




ーーー…トム……ーーー




柔らかく、静かな湖面のような懐かしい声を思い出し、軽く伏せた瞼をゆっくり上げた

憂い気なその横顔は、淡い哀しみと、紅い目と同じような欲が揺らめいている

彼は、自分の名を呼ぶたった一人の存在をずっと…

反応もしない彼の様子に、女はいつも通り、無視されていると思い、かなぎり声をあげた


「ねえってば!」

「煩い。聞こえている」

男。ルベルは、鬱陶し気に反応した

「じゃあ、返事ぐらいしなさいよ!」

「何だ?」

「💢ほんとっと腹立つわね!はあ、ーーねえ、あんたが言ってる『古の種族』ってなんなの?私たち、今それを探してるのよね?」

新学期が始まる前から、この皮肉的で冷血な男の指示で各地を歩いて探し回っている’’謎の木のかけら’’に関して、パンジーにも疑問がないわけではなかった
ただ、今まで聞かなかったのは、『すんなり答えてくれるわけがない』と思っていたからだ
だが、この時、なんとなく思いついたので、気軽に聞いてみたパンジー

「……まあ、学生が知るはずもないことか」

前後の文が抜けたような、独り言に近いつぶやきで言ったルベル
いっそ、呆れと馬鹿にするような含みさえ感じられたが、パンジーはもう、流石に学んだので、あえてスルーすることにして聞いた

「どういう意味よ」

パンジーは、かなぎり声をひそめて聞いた

「『古の種族』は、実在した種族だ。’’魔法族の’’歴史からは抹消されたから、お前が知らないのも当然だ。いいや、お前でなくとも、普通は知らないな」  

いつもと全く変わらない、淡々とした艶のある声で返される内容に、パンジーは意味がわからなかった

「はあ?抹消ってーーどういうこと?私たちの歴史じゃ教えられないってこと?」

頭を捻って考えたパンジーは聞いた

「教えられない、ではなく、’’教える必要がない’’、または’’教えると都合が悪い’’だ」

「なにそれ、隠されてるってこと?」

「さあな。魔法族がどんな意図を持ってその種族の存在を魔法界の歴史から抹消したのか、僕の知るところにない」

「で、その種族ってなんなの?そこまでして抹消したかったのってどんなに危険なやつらなの?」

パンジーは、教科書でしか見たことない、巨人や狼人間などの人の形ではないものを思い浮かべながら、嫌悪が現れる顔つきで聞いた

「本当に、遠慮も何もない女だ。ーーはあ、ーーー遠い昔、魔法界とは、また別の界隈に属する自然から生まれた種族がいた」

いっそ、図々しく尋ねてくるパンジーに、呆れながら、重い口を開くように、軽い様子で話し始めたルベル

「自然〜?」

からかったような返しに、ルベルは冷ややかな目になった

「聞きたいのか、聞きたくないのか、どっちだ」

艶のある甲高い声が、低く不愉快そうに呟かれた

「💢聞きたいに決まってんでしょ!ほんとっと細かい奴!」

「その種族はーー、自然を愛し、慈しみ、(たっと)んだ。そして、自然もまた、その種族を愛し、慈しみ、恩恵を与えた。全ての生きとし生けるものが、彼らを愛し、そして力を貸すように」

「彼らの持つ魔力は、自然を癒した。木々や川、植物、動物…全てだ」

「魔力って、え?そんな魔法があるの?」

「彼らの持つ魔力は、我々魔法族が扱う杖を用いた魔法ではない。そうだな。本質は違うが、我々でいう、いわば、魔力の核そのもの。といったイメージをするといい」

「ふーん。で、その種族はなんで、抹消なんてされたわけ?」

「不明だ」

「はぁ!?」

「ゴブリンの史実では、その種族が抹消された原因は、魔法族の手によるものとされている。魔法族は、魔法族とは違う魔力をもつ彼らを畏れ、根絶やしにしたのではないかという説もある」

「なにそれ。信じらんないわ」

「これに関してはあくまで推測の域を出ない。多くの仮説があるからな。まあ、どちらにしろ、その種族がいたのは大昔の話だ」

「なによ。じゃあ関係ないじゃない。ーーん?は?ちょっと待って。その種族ってもういないんでしょ?」

「ああ」

「なのに、その種族が残した?物を探してるわけ?」

「ああ」

「意味わかんないんだけど!っていうか、なんでそんな大昔の種族が残した物があるのよ!」

「その答えは、今言っただろう。魔法族が畏れた魔力が要因だ。これははっきりとした事実ではないが、その種族はーーまあ、仮に『植人族』と呼称されているが…ーーその種族の手から作り出される物は、闇を打ち消し、加護と恩恵をもたらす神聖なものだった。どの種族が作り出す物すら敵わない代物で、真似すらも決してできないーーそして、彼らは『不老不死』だともいわれていた…」

「はぁ!?」

「別に、特別に驚くべきことではない。現に魔法界にそのような人物がいなかったか、と言えば、違うだろう?」

ルベルは表情を変えず、博識な教授のように、淡々と説明した

だが

「いるわけないでしょそんな奴」

パンジーは手を振って「あり得ない」という顔で即答した

「これだから浅学な奴は嫌いだ」

パンジーの、あまりの学の無さに眉を顰めたルベルは吐き捨てるように言った
だがしかし、普通は専門家か、研究者でなければ知らないことだ
一介の…それも、まだ学生であるパンジーは知らなくて当然だった
だが、ルベルの基準ではそうではない

「何ですって?」

「短気な奴も嫌いだ」

ルベルは、何の感情もないように、言った

「あんたの場合は、ユラ以外のもの全部嫌いでしょーが!」

パンジーが苛立って、ルベルを指差して言った
その言葉に対して、ルベルは少し口の端が動き、流麗な眉は不愉快げに顰められた

「そうだとしても、それを、お前に言われる筋合いはない」

「ありますぅ!私はユラの親友なんです!あんたなんかに、すんなりあげてたまるものですか!」

「はあ、単細胞も考えものだな。僕と彼女の関係はお前がどうこうできるほど、浅いものじゃない」

わざわざ教えるつもりもないルベルだったが、パンジー相手になると、放置するに放置できずに、言い返してしまうことが多々あった
だが、それを顔には出さず、ただ不機嫌に淡々と返すので、パンジーには、ルベルが余計に冷血に見えた

「はあ!?も、ももも、もしかしてあんた達!破廉恥!変態!」

「真っ先にその考えに達するお前の方が、どうかしているな」

真っ赤になって口をパクパクさせながら、ルベルを指差すパンジーに、ルベルは冷ややかな視線で言った

その後、「何ですってぇ!?誰が変態よ!」と、かなぎり声で反論するパンジーに、ルベルは呆れて無視した







ひと悶着置いて、パンジーは改めて聞いた


「で、その種族…しょくじんぞく?だっけ?って、人間なの?」

「『植人族』だ。植物から生まれた人。または、自然から生み出された人。という意味で、正式な名称がないから、研究者が決めた俗称で呼ばれている。容姿は殆ど僕達と変わらない人間だ」
 
「ほとんど?なに?体が緑とか?きっも」

「期待を裏切るようで悪いがな、その種族は他のどの種族よりも賢く、美しいといわれている」

「は?なにそれ、ますます信じられないんだけど?」

「まあ、お前の頭なら無理だろうな」

これ以上、説明する気もない様子のルベルに、パンジーは質問する気にもならなかった









パンジーは、’’生命の木’’は、肌身離さず持つバックに入れて保管していた
パンジーは、ルベルの指示通り、今年、ホグワーツには通っていない
純血の家系故に、何も隠すことがないため、ホグワーツに行かせようとする両親を説き伏せて、家に残ることをもぎ取った

魔法省が新たに出した政策はあれど、パーキンソンの家は聖28一族の純血一族である
先祖は魔法大臣を務めたペルセウス・パーキンソン
大切なひとり娘が’’’重篤な感染症’’にならば、通わせることはできない

守備よくこの決定に持っていくことができたのは、パンジーを介した、ルベルの巧妙な助言によるもののおかげだった

パーキンソン一族は当然ながら、古くから続く純血一族ゆえに、『血統書』も発行され、入学を’’許可されている’’が、そこのひとり娘が魔法族の10代がかかる感染症に罹患しているならば、通うことはできなくなる
 
重要なのは、聖28一族の純血一族でもある家が、現在の政策に’’反対ではなく’’、’’許可をもらった上で’’、やむを得ない事情により通うことが困難な場合は、学校側から登校を拒否される

世間に思想的な反発思考があるとは与えずに、純血一族としての家格の体面を維持しながらも、娘を危険に遭わせない方法を探っていたパンジーの両親からすれば、パンジーの’’我儘’’は今に始まったことではないし、その性格も知れ渡っているのが幸いし、特に騒ぎ立てられることもなく承認された

両親を説得する際、パンジーはルベルに言われた通りの言い方で、言葉で攻めた
パンジー自身は、操り人形のように言われたことを言う内に、両親がすんなり納得していく様子を見ながら、改めてルベルが恐ろしく、そして嫌いになった


パンジーの両親は純血一族としての吟持と誇りがあり、マグル嫌いで、見下しているが、かつての暗黒時代を望んでいるか、と聞かれればそういうわけではなかった
ひとり娘のパンジーを、親として大事に思ってはいるので、再び闇の帝王が支配する時代で、何が闇の帝王の逆鱗に触れて娘が命を落とすかわからない

これがもし、パンジーが産まれていなければ両親の姿勢は違っただろう

ルベルは、意味もなくパンジーの側にいたわけではない
パンジーの首からかけている彼女の紅いネックレスがルベルの存在を可能にしているため、パンジーからあまり離れることができないのもあるが、それ以外にも理由がある

ホグワーツで、彼女の側にいた時から、全ては綿密に計画されていた

どこまでが、彼の計算のうちなのか、パンジーには、そんなことまで考える余裕も頭もない
だが、パンジーのそんな資質は、ルベルが’’無知な’’共犯者とした理由でもあった







その日、パンジーは秋風が吹き抜ける不気味な曇り空の寒い気候の中、黒いファー付きのコートを深く被って、ノース・ヨークシャー州の今はもう、植物の生い茂る廃墟と化しているファウンテンズ修道院跡の周りの森林を歩いていた
周りには誰も何もいない

「っさっむっ!はぁ〜」

自分の手を吐く息であっためながら、パンジーは目の前の悠然と音も立てずに歩く男の背中に話しかけた

「ねえ」

「なんだ」

珍しくひと言で返事を返したルベルに、「珍し」とか思いながら、パンジーは気になっていたことを聞いた

ちなみに、‘’生命の木’’のことを聞かないのは、聞いても難しいし、意味がわからなかったからだ
パンジーは歴史に興味はないのであった

「あんたって前行った孤児院で育ったわけ?」

「だったら、なんだ」

「うっそ。見えないわ。だってあんたってどう見ても…」

「どう見ても、名のある良家の出だと?」

静かに、不気味なほど感情もなく言葉を続けたルベルに、パンジーは一瞬立ち止まった

「違うの?」

「環境は人を変える。どんなに高貴な血を受け継いでいても、な」

「じゃああんた、有名な魔法使いの子どもとかだったの?」

「血筋に意味なんて、あるようでないようなものだ。事実、血筋が良くとも、無能な人間は多くいる。実に多い……お前も心当たりがあるんじゃないか?」

「あ」

パンジーは咄嗟に、あの食い意地の張った馬鹿な二人を思い出した

「あんた、なんで孤児院なんかにいたの?」

「今日はよく質問するな。なんだ、僕のことが知りたくなったか?」

「んなわけないでしょ!私はあんたに興味なんてないわよ!知りたいのはユラのことよ!」

「’’ユラ’’は孤児院で育ったわけじゃないぞ」

「知ってるわよ!そんなこと!知りたいのは、なんで孤児院なんかで育ったあんたとユラが幼馴染なのかってことよ!」

「……それは、…お前の知る必要はないことだ」

「あんた、そうやって大事なこと隠し続けて、そんなんで人に信用してもらえると思ってるわけ?」

妙に、怒ったような真面目な様子でパンジーが言った

ルベルは意図せず、足を止めた

「重要なことかどうかを決めるのは、僕だ。お前じゃない」

「ユラにもそんな態度だったわけ?」

「だったらなんだ」

「ならとっくに嫌われてるわよ。あんた」

「なんだと」

「知らないの?ユラは押し付けられるのがいっちばん!嫌いなのよ。あんたみたいな奴が一番嫌いなのよ!」

パンジーが、ルベルの背中に向かって嫌味ったらしく言った

「知ったふうな口を聞くなよ。小娘が」

振り向かずに…声だけで威圧するように、艶やかな声で言ったルベル
隠しようのない苛立ちが含まれている

それに対して、パンジーは鼻で笑い、あしらうように言った

「はっ、それがあんたの本性だってわけ?それ、ユラは知ってんの?知ってるわけないわよね?知ったらあんたなんか選ぶわけないわ」

まるで、煽るように、小馬鹿にしたように言ったパンジー

「僕を、怒らせたいのか?」

ルベルは、わずかに体を震わせて、紅い目に怒りを湛えながら、軽く振り向いてパンジーを、静かに睨み据えた

抑えているどうしようもない怒りによる震えだった
口から出た声も、数段低くなっている

だが、パンジーは恐れ知らずにも、意にも返さなかった

「ユラは何も言わないわ。滅多に弱音も吐かないし、愚痴だって言ってくれない。ええ、あんたの言う通りよ。何ひとつ相談してくれたことなんてないわ!だけどね、一度だけ言ってくれたことがあるわよ」

流暢な様子で語るパンジーは、最後だけ忌々し気に言った

ルベルはパンジーを睨み据えながら待った

「私が、これをっ!このネックレスを素敵な人から贈られたんだろうって言った時よ!なんて言ったと思う?『そうね、残酷で不器用な人ね』って言ったのよ。その上、『きっと、一生憎めない人』だって!」

パンジーが、自分の胸にあるネックレスを壊してしまいたいというように、強く握りしめながら、怒りに真っ赤になりながら叫んだ

その紅潮は、寒さのせいもあるのかもしれない

「!」

「この短期間でよぉく分かったわ。あんたは冷血で、残忍で、平気で嘘つけるやつだってことがね。ユラが騙されても私は違うわ。あんたに従ってるなんて、間違っても思わないでよ。ユラのために!私はあんたの言うこと聞いてんの!勘違いだけはしないでちょうだい!私はあんたが憎いわ。ユラの優しさにつけ込んでるあんたが!」

パンジーは、心底憎い相手に言うように叫んだ
だが、その声色には、同時に今、目の前にいる相手には、どうしても…

どうあっても、敵わない

そんな諦めの色も含まれていた


「……(アルウェン…)」

一方ルベルは、眉を下げ、困ったような様子で見下げる……
あの柔らかな
表情(かお)が視界にちらついた

まるで…「困った人ね」とでもいうような…あの優しい表情…
確かに愛情をもって…見つめてくれていたあの表情が…


「心配しなくても、もう、二度と、あんたからユラのことを何も聞く気もないし、聞きたくもないわ。嘘だらけの奴の口から聞くことなんて、信用できない。でも、手伝いだけは今まで通りするわよ。やってやるわよ。約束したしね。勘違いしないでよ。ユラのためよ」

吐き捨てるようにそう言って、立ち止まるルベルの横をチラと見もせずに過ぎていったパンジー

数分後、怒りながら歩いていたパンジーは、どこにあるか、わからないことを思い出し、結局、ルベルに振り向いて、聞くことになったのだった

彼の機嫌は妙な感じだった
まさか、パンジーの口から、彼女が自分のことをそんな風に話していたことに、少なくとも、困惑していた



……彼女に会いたくてたまらない…



そんな気持ちが、まるで自分が完全に支配する理性を掻き乱すように支配した




パンジーに、苛立ちながらも、不思議と怒る気にはならなかった
心底不本意で、嫌だ、ふざけんな、と顔に書いてある様子のパンジーに指示して、’’生命の木’’を回収させたのだった

















「なあ、ジョージ」

「なんだ、フレッド?」

「俺、今だけはポンちゃんのことマジでイカしてると思うぜ」

「奇遇だな。俺もだフレッド」


背の高い、体格のいい赤毛の持った、そばかすだらけの顔の男二人が、じめじめした湖を越した先に’’視える’’、温かい色味の石造りの
平家(ひらや)を視界に映しながら、呟いたのだった




遠くから見える変わった形の窓からは、オレンジの灯りが漏れて、湿地の湖面を照らしていた



——————————


なんとか、なんとか年明けまでにっくっ!
















死の秘宝 〜6〜
旅にでた3人は、一行に進展しない現状に不満を募らせていく

今まで当たり前だったことが困難となり、精神的にも、肉体的にも追い詰められていく

そんな折、ひとつの道筋が見えてくる…

旅はまだ、始まったばかり…
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2021年12月26日 06:37
choco

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