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※捏造わんさか
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「柔軟に考えろアルバス。分霊箱は存在する。ひとつは考えるまでもないだろう」
「それならば、わしにも検討はついておる。あの子があやつを見捨てようとせぬのは、’’運命’’を共にする間柄だと知っているからじゃろうて」
「だが、それだけではないと…’’確信’’しているんだろう?」
「…ああ」
「分かっているだろうが、’’救われない命’’だ」
「あの子が望んだことではなかったというに…」
「それはどうだろうな。彼女はトムがいればどこであろうがついて行くだろう。それが例え底の見えぬ闇の中でも…永劫に解放されない苦しみの果てでも…」
「……愛ではない…それは愛ではない。決しての」
「愛さ。彼女にはトムしかおらず、トムにも彼女しかいない。アルバス。君も最後には’’目の当たりにするかも’’しれんな」
「何を予期しておる?」
「終わりが近づくと、不思議とわかってくることもあるものだ.…なあアルバス、’’肉体ではない深いつながり’’は、一種の至高の’’快感’’だ。トムはそれを得て、また成した。そして、それはひとりでは’’成し得ない’’」
「あの子が何かしたと?」
「大いに。むしろ彼女こそがトムをここまで生き永らえさせた’’原因’’とも言えるだろうな」
「…何か、気づいたことがあるのかの?」
「さてな」
前回のダンブルドアとの授業から数日…
ハリーはシリウスからの手紙のキーワードを考えながら、選抜したクィディッチの練習を進めた
焦りとは裏腹に、学校生活は驚くほど普通に過ぎてゆく
だが、外の世界での不穏さや、事件は日々増していく一方だった
騎士団の者は今も行方不明になっていっている
暗い影と闇が侵食して
ラベンダー・ブラウンは最近はますます、ロンのことを熱っぽい目で追うようになった
それに比例して、ハーマイオニーの機嫌は悪くなる一方で、ロンとも会話がうまくできていない
ハリーは親友との間で色恋があれば、親友でなくなってしまうのではないか、と不安に思ってもいた
おまけにこの前の、雪の降り積もる中でのクィディッチの試合の後では、ラベンダー・ブラウンがついに、大いに活躍したロンに、盛り上がる談話室でキスをして、二人は付き合い始めたのだ
ハーマイオニーは、ハリーの胸を借りて泣いた
これにはハリーも複雑な気持ちだった
自分もジニーが気になっている
だが、ジニーはロンの妹で、ディーンと付き合っている
そんな中、ハリーはふと思うことがあった
思い浮かべたのは比較的穏やかな’’あの’’記憶の中の彼女とヴォルデモートの姿
あの二人は、一般的な男女や、友人以上の距離感、親密さがあったにも関わらず、色恋の雰囲気はなかった
もし、ロンやハーマイオニーが記憶を見ていれば、また違う印象かもしれない
だが、ハリーにはあの二人の空気、雰囲気、交わす言葉…全てが’’異質’’で、あまりに’’平凡すぎる’’もののように思えた
一番肝心なスラグホーンの記憶の回収に関しては、クリスマスパーティーに賭けるしかなかった
授業でも、『半純血のプリンス』の本のおかげで、優秀な生徒として良好な関係は築けているが、それ以上の進展があるかと聞かれれば、そうではなかった
いろいろと進展のない日々を送りながら、クリスマスパーティーの晩、ハリーは、八時に玄関ホールに行くと、尋常でない女子生徒がうろうろしていて、ハリーが誘ったルーナに近づくのを恨みがましく見つめていた
ルーナはスパンコールのついた銀色のローブを着ていて、見物人の何人かがそれをクスクス笑っていた
しかし、その他は、ルーナはなかなか素敵だった
とにかくハリーは、ルーナがオレンジ色の蕪のイヤリングを着けてもないし、バタービールのコルクを繋いだネックレスも「めらめらメガネ」もかけていないことが嬉しかった
「やあ」
ハリーが声をかけた
「それじゃ、行こうか?」
「うん」
ルーナは嬉しそうに答えた
「パーティはどこなの?」
「スラグホーンの部屋だよ」
ハリーは、見つめたり陰口を聞いたりする群れから離れ、大理石の階段を先に立って上がりながら続けた
「吸血鬼が来る予定だって、君、聞いてる?」
「ルーファス・スクリムジョール?」
ルーナが聞き返した
「僕…えっ?」
ハリーは面食らった
「魔法大臣のこと?」
「そう、あの人、吸血鬼なんだ」
ルーナは当たり前と言う顔で言った
「スクリムジョールがコーネリウス・ファッジに代わった時に、パパがとっても長い記事を書いたんだけど、魔法省の誰かが手を回して、パパに発行させないようにしたんだもン。もちろん、本当のことが漏れるのが嫌だったんだよ!」
ルーファス・スクリムジョールが吸血鬼というのは、まったくありえないと思ったが、ハリーは何も反論しなかった
父親の奇妙な見解を、ルーナが事実と信じて受け売りするのに慣れっこになっていたからだ
「あの子、まだ見つからないのかな?」
唐突に呟いたひと言に、ハリーは、自分のことではないのにドキリとした
「…みたいだね」
自然と声が暗い返事になってしまったハリー
だが、ルーナは軽やかだ
「大丈夫だよ。だって、あの子には’’何か’’憑いてるもン」
「え?何かって?」
「ほら、前に言ったでしょ?あの子、よく’’なんか’’と話してたんだ。’’綺麗’’だったな。あの時のあの子。泣いてたけど、キラキラしてたんだ」
空を見つめながら、軽く首を振って嬉しそうな顔で言うルーナに、ハリーは意味がわからなかった
そして、少し不謹慎だと思った
当たり前である
「そう…もしかしたら、悲しかったことがあったのかもしれない…」
取り敢えず、無難なことを反応をしたハリー
「そういうのじゃなかったと思うな。だって、なんか’’幸せそう’’だったもん」
ハリーは今度こそ「は?」となった
「幸せ?」あり得ないだろう
今も昔も彼女が幸せだったことなんてないだろう、と
むしろ苦痛、苦悩、罪悪感、哀しみ、悲哀などの負の感情しかないだろう、と
そんな噛み合わない話をしていたら、二人はすでにスラグホーンの部屋のそばまで来ていた
笑い声や音楽、賑やかな話し声が、一足ごとにだんだん大きくなってきた
はじめからそうなっていたのか、それともスラグホーンが魔法でそう見せかけているのか、その部屋はほかの先生の部屋よりずっと広かった
天井と壁はエメラルド、紅、そして金色の垂れ幕の襞飾りで優美に覆われ、全員が大きなテントの中にいるような感じがした
中は混み合ってむんむんしていた
天井の中央から凝った装飾を施した金色のランプが下がり、中には本物の妖精が、それぞれ煌びやかな光を放ちながらパタパタ飛び回っていて、ランプの赤い光が部屋中を満たしていた
マンドリンのような音に合わせて歌う大きな歌声が、部屋の隅のほうから流れ、年長の魔法戦士が数人話し込んでいるところには、パイプの煙が漂っていた
何人かの屋敷しもべ妖精が、キーキー言いながら客の膝下あたりで動き回っていたが、食べ物を載せた重たそうな銀の盆の下に隠されてしまい、まるで小さなテーブルが一人で動いているように見えた
「これはこれは、ハリー!」
ハリーとルーナが、混み合った部屋に入るや否や、スラグホーンの太い声が響いた
「さあ、さあ、入ってくれ。君に引き会わせたい人物が大勢いる」
スラグホーンはゆったりしたビロードの服を着て,おそろいのビロードの房付き帽子をかぶっていた
一緒に「姿くらまし」したいのかと思うほど、がっちりハリーの腕をつかみ、スラグホーンは何か目論みがありそうな様子で、ハリーをパーティの真っ只中へと導いた
咄嗟に、ハリーはルーナの手を掴み、一緒に引っ張って行った
それからハリーは、もううんざりするほどスラグホーンの宣言通り、「大勢の」人と引き会わされた
そして、粗方付き合った後、ハリーにとってすこし不愉快な質問があったので、それに対し、「全く興味ありません」ときっぱりと言い、ルーナの手を引っ張り、金色の垂れ幕の襞飾りの隅に移動した
やっと息が吸えるような心地で、一息ついたハリーに、ルーナは不思議そうに見た
「あまり楽しくなさそうだね」
「そんなことはないよ。あー…いや、うん。ちょっと驚いたかな」
「ふーん」
興味なさそうにそう言ったルーナは、垂れ幕から出て蜂蜜酒を取り、中へ入って行った
ハリーは何となく止めなかったし、ルーナの好きにさせた
そんな時、よく知った長く豊かな栗色髪の綺麗な女性がハリーのいる垂れ幕の裏に隠れるように入ってきた
「ハーマイオニー?何してるんだ?何かあったの?」
屈みながら入ってきて、自分の腕をさすりながら立ち上がったハーマイオニーに聞いたハリー
「ちょっと、逃げてきたのっ。だって、コーマックがヤドリギの下でっ」
鳥肌が立ってそうな、嫌そうな表情で言ったハーマイオニーに、ハリーは軽く引きながら、言った
「コーマックっ?あいつを誘ったのっ?」
コーマック・マクラーゲンがハーマイオニーを狙っていたことを知っているハリーは、何故ハーマイオニー自身も嫌いな相手を、当てつけとはいえ誘ったのか、女の思考がイマイチ理解できなかった
「ロンがいちばん嫌がると思ってっ…彼の腕、蔓みたいに絡んでくるのっ」
思い出したように、気持ち悪そうに腕をさすって言ったハーマイオニー
すると、垂れ幕を捲ってお盆を持ったボーイが現れた
お盆の上には、誰も手をつけていないチョコのような食べ物があった
ボーイが言った
「ドラゴンタルタルは?」
「いえ、結構よ」
即答したハーマイオニー
「ですよね。食べると息が臭くなる」
やっぱり、といった様子で苦笑いしながら言ったボーイ
すると、いいことを思いついたばかりにお盆の取った
「やっぱり貰うわっ。コーマック避けになるかもっ……やだっ来たわ」
コーマックが垂れ幕の向かいから来たのが見えたハーマイオニーは、口にドラゴンタルタルを頬張りながらいそいそと入れ替わりで戻った
ハリーはお盆を受け取って持ったまま立ち尽くした
コーマックが来て、ハリーはハーマイオニーが行ったのを確認してコーマックに向き直った
「ハーマイオニーは、お化粧直しに行ったみたい」
優しいハリーの口から出たのは、無難な女性の言い訳をよくわかっている言葉だった
それに対し、マクラーゲンは溜息をついた
「するりと逃げちゃうんだよな。ペラペラ喋りっぱなしだし。ああ〜」
呆れたように、残念そうに呟いたコーマックはお盆に乗ったドラゴンタルタルを口に放り込んだ
もしゃもしゃと食べながら、ハリーの方を向いて聞いた
「これ、何の肉?」
ハリーは、ちょっとした悪戯心でお盆とコーマックを交互に見た結果、言った
「ドラゴンの’’タマタマ’’」
コンマ数秒後、コーマックはゲロゲロした
「やあやあ、トム。よく来たね!君に会わせたい人が大勢いるんだ!」
幾分若いお腹の出たスラグホーンが、スリムで色白な、背の高いハンサムな生徒を歓迎した
その隣でエスコートされている女子生徒に目もくれずに
「お招きいただきありがとうございます。先生。光栄です」
「いやはや、まったく君って子は謙虚だね。おお、友達を連れてきたようだね。君もぜひ楽しむといい」
スラグホーンは男子生徒にばかりに話しかけ、彼が連れてきた友人の名前も聞かずに言った
「ええ、そうさせてもらいます。おいでナギニ。君は僕と一緒にいた方がいい」
言葉だけ聞けば、彼女が困らないように、気を遣っているが…
そうではない
彼は、スラグホーンの前なので「お前」ではなく「君」と呼び、勝手に動かないように命じた
「…うん…あの、スラグホーン先生「おお、セリオット!君にぜひ会って欲しい生徒がいてね!とても優秀な生徒で私のお気に入りなんだ!これは必ず将来偉大になる!はっは!」」
彼女が儀礼上挨拶しようとすれば、スラグホーンは目についた招待客に、トムを紹介しようと声をかけた
あからさまな、視界にも入っていない反応に、彼女は乾いた笑いが出そうになった
そんな彼女に、トムは小声で言った
「ナギニ」
確認するような、咎めるような、何かを促すたった一言…
名前だけしか呼んでいないはずなのに、それだけで容易く意図が理解できてしまう
胸の前で弱々しく手を握り、目を伏せて怯えた彼女
「…わかってるよ」
ひと言、諦めたように…大人しく肯いた
「ならいい。僕以外と極力口を聞くな」
平坦な…淡々とした声で、ちらとも彼女を見ずに命令した彼
「…うん」
「幸せだった…」
マットブラックのカウチに横たわり、腕を投げ出し、その手でシーツの継ぎ目をゆっくりなぞりながら、ただ呟いた彼女
長く波打つ黒髪はクッションに広がる
過去を思い出しているのか…
数少ない…穏やかだった頃の記憶…
いや、過ごした日々すべてが本当に幸せだったと思っているのか…
誰ともなく呟いた言葉に、ふと、カウチに横たわる彼女の目の前に現れた’’彼’’
前屈みになり、仰向けになっている彼女の散らばった髪を掬い上げながら聞いた
「’’僕’’と過ごした日々がか?」
紅い目がゆらゆらと揺れ、彼女の答えを期待するように見つめている
エメラルドの灯りに、白く整った横顔が鈍く照らされる
その様子を、眩いものを見たように目を細めて、慈愛の籠った眼差しで言った
「ええ……あなたは……’’代わりのいない’’人だった……」
視線だけで腕を伸ばし、抱きしめられているかのような錯覚を覚えるほどの穏やかな声色に、一瞬言葉が出なかった
「……当たり前だ。この世に僕は一人だけだ」
やっとのことで出た言葉は、あまりにも当たり前な、常識的な発言だった
カウチが軋む音が鳴り、顔の横に手をついて彼女の髪先を、落ち着かないとばかりに、指先で弄ぶ
「……あなたは…きらきらしてて…眩しくて…どうしようもなく暗かった」
彼女の瞳が焦燥に色づき、哀しげに眉尻が下げられた
それでも、手を伸ばそうとはしない…
それに対して、僅かに苛立たしげに、流麗な眉を寄せた
「…そうか。僕は、お前の真実を知った日からというもの’’必死’’だった」
「どうして…記憶を覗いたの…」
静かに尋ねる彼女に、言わないという選択肢はなく、自然と口は、言葉を紡いでいた
「’’すべて’’だ。そう……お前の’’すべて’’は僕のものだと確かめたかった…」
「…トム…そんなことをしなくても…」
「ああ。お前の心の中は、僕しかいなかった。ーー怒り、哀しみ、苦しみ、痛み、喜び…お前の全てが僕を肯定していた……僕は、何かが愛おしいという感情が、これほどまで苦しいものだとは思わなかった。壊してしまいたいーー潰してしまいたいのに…ーーお前を前にすると…ーー堕としてやりたくなっていった…」
本音かどうかは…彼女には判別は付かなかった
だが少なくとも、彼女には今の言葉が、とても幸せな心地にしてくれるものであることは確かだった
垂れ目がちな目尻を下げて穏やかな表情を向ける彼女に、彼は唇を僅かに引き結んでから、怒りにも似た感情で震える手を長い黒髪に差し込み、ゆっくり降ろしていき、頬に添えた
「憎らしいっ。心底憎らしくーーー……愛おしいんだ。ナギニ」
「…聞きたくないっ…あなたからそんな言葉聞きたくないわ…」
「’’愛憎’’を受け入れろっ…お前は僕の憎しみ’’しか’’受け入れていないーー僕の、僕だけの’’メメント’’…もう、そろそろいいだろう。認めるんだ」
『メメント』という名で呼ぶことは滅多になかった
貪欲に知識をつけ始めた頃…数度だけ…
だが、『メメント』と、単体で呼んだことはない
‘’彼’’だけの…また、彼のためだけの『想い出』であり、『記念品』というか意味で呼ばれることしかない
「…その名前はやめて頂戴……」
苦い表情で言った彼女
「断る。僕だけの『想い出』だ」
「…リドル…」
「仕返しか?僕はお前に呼ばれるなら悪くないと思っているが、名の方にしろ」
ムッとしたような彼の言葉に、彼女は、目を細めて顔の横にある’’彼’’の手に触れて聞いた
「…これは、夢なのよね…きっと」
夢と現実…どちらを望んでいるのかわからない…
そんな懇願に似た言葉だった
祈るような彼女の言葉に、’’彼’’は囁くような声で答えた
「ああ、そうだ…夢だとも。お前の望む残酷な夢だ…」
長く滑らかな指の背が頬を掠め、互いの鼻先が触れそうで触れない距離まで近づいてきた’’彼’’
目を閉じた穏やかな表情に…彼女はゆっくり目を瞑り感じ入った
まるで…『残酷』という響きに…心地よい子守唄を聞いているかのように…
「……なら、幸せな夢よ…トム…」
コーマックがゲロゲロしたところで、ハリーは中に入り、お盆をボーイに渡して、ウロウロしていたハーマイオニーと一緒に蜂蜜酒のゴブレットをすくい取ってルーナの元まで行った
「こんばんは」
ルーナは、礼儀正しくトレローニー先生に挨拶した
「おや、こんばんは」
挨拶したトレローニー先生は、やっとのことでルーナに焦点を合わせた
ハリーは今度もまた、安物の料理用シェリー酒の匂いを嗅ぎ取った
「あたくしの授業で、最近お見かけしないわね…」
「はい、今年はフィレンツェです」
ルーナ言った
「ああ、そうそう」
トレローニー先生は腹立たしげに、酔っ払いらしい忍び笑いをした
「あたくしは、むしろ『駄馬さん』とお呼びしますけれどね。あたくしが学校に戻ったからには、ダンブルドア校長があんな馬を追い出してしまうだろうと、そう思いませんでしたこと?でも、違う…クラスを分けるなんて…侮辱ですわ、そうですとも、侮辱。ご存知かしら…」
酩酊気味のトレローニー先生には、ハリーの顔も見分けられないようだった
フィレンツェへの激烈な批判を煙幕にして、ハリーはハーマイオニーに顔を近づけて話した
「はっきりさせておきたいことがある。キーパーの選抜に君が干渉したこと、ロンに話すつもりか?」
ハーマイオニーは眉を吊り上げた
「私がそこまで卑しくなると思うの?」
ハリーは見透かすようにハーマイオニーを見た
「ハーマイオニー、マクラーゲンを誘うことができるくらいならーーー」
「それとこれとは別です」
ハーマイオニーは重々しく言った
「キーパーの選抜に何が起こりえたか、起こりえなかったか、ロンにはいっさい言うつもりはないわ」
「それならいい」
ハリーが力強く言った
「なにしろ、ロンがまたボロボロになったら、次の試合は負けるーー」
「クィディッチ!」
そう叫んだハーマイオニーの声は怒っていた
「男の子って、それしか頭にないの?コーマックは私のことを一度も聞かなかったわ。ただの一度も。私がお聞かせいただいたのは『コーマック・マクラーゲンのすばらしいセーブ百選』連続ノンストップ。ずーーっとよーーー。あ、いや、こっちに来るわ」
ハーマイオニーの動きの速さと来たら、「姿くらまし」したかのようだった
ここと思えばまたあちら、次の瞬間、馬鹿笑いしてる二人の魔女の間に割り込んで、さっと消えてしまった
「ハリー・ポッター!」
初めてハリーの存在に気づいたトレローニー先生が、深いビブラートのかかった声で言った
「あ、こんばんは」
ハリーは気のない挨拶をした
「まあ、あなた!」
よく聞こえる囁き声で、先生が言った
「あの噂!あの話!『選ばれし者』!もちろん、あたくしには前々からわかっていたことです……ハリー、予兆がよかった試しがありませんでした…でも、どうして『占い学』を取らなかったのかしら?あなたこそ、他の誰よりも、この科目がもっとも重要ですわ!」
「ああ、シビル、我々はみんな、自分の科目こそ最重要と思うものだ」
大きな声がして、トレローニー先生の横にスラグホーン先生が現れた
真っ赤な顔にビロードの帽子を斜めにかぶり、片手に蜂蜜酒、もう一方の手に大きなミンスパイを持っている
「しかし、『魔法薬学』でこんなに天分のある生徒は、他に思い当たらないね!」
スラグホーンは酔って血走ってはいたが、愛おしげな眼差しでハリーを見た
「なにしろ、直感的でーー母親と同じだ!これほどの才能の持ち主は、数えるほどしか教えたことがない。いや、まったくだよ、シビルーーーこのセブルスでさえーー」
ハリーは一瞬硬直した
スラグホーンが片腕を伸ばして呼び出した先にいたのは、スネイプ先生とレギュラス先生だからだ
二人は何か話をしていたのか、スラグホーンの呼び出しにスネイプが振り向いて、レギュラスはちらっとスラグホーンの方を見た
ハリーはその時見た
レギュラスの表情に、スラグホーンへの嫌悪とも取れる表情があるのを
「これはこれは!レギュラスじゃないか!いやあ〜てっきり来てくれないかと思ったよ!」
スラグホーンはレギュラスの姿を認めると、大仰に喜びを露わにした
レギュラスは、スネイプと軽く視線を合わせてからスラグホーンの方に今度はちゃんと目を向けて、笑顔を向けた
明らかに取り繕った笑顔だとハリーには分かった
いつも授業で見るものより少し硬い
「ええ、突然予定が空いたもので。なんでも、友人もこちらのパーティに招待されていたようでーー、いやはや、素敵な偶然ですね。先生」
笑顔で返すレギュラスに、ハリーはゾッとした
嫌味だ
本当は来るつもりがなかったのだろうということが如実にわかる
これには、酔っ払っていたスラグホーンも「そ、そうか。本当に素敵な偶然もあったものだね…ははっ」と、ぎごちなく返すしかできなかった
逆上せず、怒るでもなくバツの悪そうな様子を見ると、少なくともスラグホーンには、レギュラスに怒れない理由があるだろうことはわかった
その場の空気は凍っていた
「ああ、そういえば、ブラック先生。こちらをお渡ししておきますぞ」
空気を破るように、スネイプが胸ポケットから出したペラっとした布の包みをレギュラスに渡した
受け取ったレギュラスは「すまないね、スネイプ先生」と、だけいい、「こっちに来きたまえ!レギュラス殿!」と呼ぶ、外部からの客の声に振り向いてローブを翻して行ってしまった
ハリーは、一連の様子を見て、レギュラス先生が言っていたことを思い出した
ーーーこれは忠告だが、間違ってもあの先生の前でオフューカスのことを聞くことがないようーーーー
レギュラス先生と彼女、そしてスラグホーン先生の間で何かがあったのだと直感的にそう思った
そして同時に、以前、スラグホーンに彼女のことを聞いた時のことを思い出した
ーーー確かに優秀だったが、平凡で目立たない子だった。とにかく平凡で凡庸だった…ーー
ーーー…いかんせん目に留まるようなオーラを持っているような子ではなかった。レギュラスは可愛がっていたようだが……わからんねぇーー
ハリーは思った
もしかすると、お世辞にも平等な教師とはいえないスラグホーンの贔屓によって、ブラック家の兄妹に亀裂が入ったのではないか、または、その一因があったのではないか、と
そして、もうひとつ
ハリーは今学期が始まる前のダンブルドアの言葉を思い出した
ーーーホラスの’’ような’’人間には、彼女は目にも留まらぬ、ただ優秀なだけの平凡な生徒じゃーー
どこまでも、モヤモヤした気持ちになるハリー
あの時は…
スラグホーンが彼女の存在さえ忘れていた様子を見た時は、言いようのない怒りが込み上げてきたが、今は…違っていた
記憶を見た後、というのも一因だろう
記憶を見れば見るほど、同情できる所が少なくなってくるような感覚なのだ
まったく同情されて然るべきなのに、ハリーには何故か完全に同情できない違和感がずっとあった
スラグホーンのどの部分の記憶が、ダンブルドアがあそこまで言うほど重要なのか…
何を知っているのか
かつて、トム・リドルを教えた教員のひとりであったスラグホーン
そして、彼女…オフューカス・ブラックであった頃も、ナギニ・メメント…
アルウェン・メメントであった頃も、今も
彼女は平凡だった
言葉は悪いが凡庸以外の何者でもない
自分がもし教師だったとしても、確かに優秀なんだな、くらいにしか思わないかもしれない
そんな人だ
シリウスやレギュラス、そしてトム・リドル
周りに、というより近くにいた者がある意味存在感があり過ぎたのかもしれないが、大して珍しくもない話だ
‘’埋もれてしまう’’ような人間
いてもいなくてもあまり変わらない
だが、トム・リドルにとっては違った
どんな闇の魔法かは知らないが、彼女が記憶を持って生まれ変わる何かをして、’’狂気的な執着’’を寄せていた
そして、これはハリーの私見による憶測だが…
おそらく彼女もトム・リドルに執着している
でなければ、あそこまで惨い目に遭っているのに見捨てないわけがない
自分や、シリウスやレギュラス、家族、友人を守るためだけにあそこまでは、普通はできないはずだ
進んで拷問をするような相手に近づいたりしないはずだ
自分なら絶対あり得ない思うハリー
彼女のそれは、勇気や敵討ちとは別のものだと、ハリーは理解していた
ーーーあの子は、トムの自分への仕打ちを甘んじて受け入れておるーー
ーーーそにはメローピーとリドルとの違いじゃ。あの子は決してトムを見捨てようとせんーーー
そして、その日のクリスマス・パーティから、ブラックとスラグホーンの不仲の噂が広がった
原因は、近くで目撃していた招待された生徒だろう
そして、もうひとつ
助け舟のように話しかけたスネイプ先生とブラック先生は、実は仲が良かったのではないか、という噂だ
ブラック先生は、生徒からの人望が厚く、穏やかで基本的に優しい先生なだけに、同じく、基本的におおらかで穏やかなスラグホーン先生と不仲という噂は軽く衝撃をもたらした
また、今学期に入って、色々と規則や自由が少なくなった学校生活を送る生徒達にとって、今回の二人の教員の不仲の噂は、暇つぶしに話題にするにはもってこいの話にもなった
一方、ハリーはシリウスからの暗号の手紙も解読できないし、校内ですれ違うノットとマルフォイとも嫌な雰囲気になるしで散々だった
だが、皮肉にもスラグホーン先生とは上手くいっていた
ハリーは、ダンブルドアから何かを話すな、とは特に指示されてはいなかった
スラグホーン先生の記憶が必要だと、ダンブルドアは強く言っていたので、ハリーは『魔法薬学』の授業の後、残って、思い切って聞いてみることにした
初めて会った時、ヴォルデモートの名を口にするのも嫌だというのも、記憶に関することで、ダンブルドアを警戒しているのもわかっていたので、ハリーは遠回しに聞いてみた
「先生、聞いてもいいですか?」
「なんなりとハリー、なんなりと!」
大仰に喜びを露わにして腕を広げて返したスラグホーンに、ハリーは少し苦笑いして、真面目な顔に戻り、口を開いた
「あの、『ナギニ』と呼ばれていた女子生徒を、ご存知ですか?」
最初、意味がわからなかったのか、覚えていなかったのか…
数秒思い出すように右上に視線をやったスラグホーン
数分経った頃…
一瞬何かを思い出したように目を見開いた
だが、すぐ、口角が上がったまま固まり、目は怖気付いたような、バツの悪いような様子になった
「あ…ああ…そ、そう呼ばれていた名の生徒なら…確かに知っているが…その、君が知っている子とは違うと思うがね。何しろ何年も前に…「亡くなった。『トム・リドル』が殺した」…!」
さらりと続けたハリーの言葉に、眼を剥き、口を半開きにしたスラグホーン
その表情は不憫なまでに青い
「『トム・リドル』は先生が、教えられたんでしょ?」
ハリーは、話題を彼女から本命に変え、ついに聞いた
スラグホーンは、戸惑った、困惑した表情でひくひくと口元が動き、絞り出すように答えた
「…『トム・リドル』を教えた教師は何人もいる…」
しょぼしょぼとしたような声で、だんだん小さくなるように言ったスラグホーン
「どんな生徒でした?…すみません。でもあいつは、親の仇なんです」
「あ…あ…ああそうだな…君が知りたがるのは当然だ…だが、君はがっかりするかもしれん………最初に会った時のリドルは、一流の魔法使いを目指す、静かで聡明な、そう…め、面倒見のいい少年だった……他の生徒達と同じ。…君と同じだ。怪物が潜んでいたのなら…奥深くにいたのだ…」
「『ナギニ』は…あいつの幼馴染はどんな生徒でした?」
「………そ、そうだな…あ、ああ…そうだな…あれだね………あの子は…リドルが、それはもうよく面倒を見ていた…勉強はよくできていたが…きっと教えられていたんだろう……リドルとは対照的な…地味で暗い生徒だった……目立たないね…実に…」
ぎこちなく、歯切れ悪く言うスラグホーンの様子は、まるで、なぜあんな生徒に才能溢れる有能な生徒がこだわるのか、理解できていないような感じだった
少なくともハリーには、ロンには目もくれず、自分やハーマイオニーにだけ熱心に話しかけるスラグホーンと同じような感じに見えてならなかった
青褪めるスラグホーンに、ハリーは続けた
「…先生には、あいつとナギニが、特別な関係に見えましたか?」
ハリーは一瞬迷った
だが、ダンブルドアは『あの二人の間にあったことを知らねばならない』と言っていた
なら、一番重要な鍵を握るであろうスラグホーンの目から見て、二人はどのように写っていたのか聞いた方がいいと思った
単純に気になったのもある
スラグホーンからすれば、まず、どうしてヴォルデモートは兎も角、死んだ幼馴染の存在を知っているのか
引っ掛かりはしたが、スラグホーンは、変に聞き返して深掘りされても嫌なので、敢えて追求はしなかった
「…あ…えー…そうだな。…き、君が思っているような関係ではなかったと思う。ああ、そうだ…間違っても、リドルがああいう子を選ぶとは思えない。そう……リドルは才能に溢れ…天才だった……何かがリドルを変えたのだ…もしかしたらーー…い、いや、これはよそう…兎に角、一般的な男女の関係はなかったと思う。あまりにも違いすぎた…」
ぎこちなく、所々どもりながら顔色を悪くしながら言ったスラグホーンに、ハリーは直感的に思った
何かを隠している、と
もしくは、スラグホーンは今、言ったことと真逆のことを見たか、知った可能性が高い、と
それに、『ーー何かがリドルを変えたーー』という発言から、自分が見染めた才能のあった生徒が、史上最悪の闇の魔法となったことを、直視できていない、または信じられないのだろうとも思った
すべて憶測だ
だが、ハリーは確信があった
じんわりと冷や汗を流しながら、ハリーの反応を待っているような、この話題は終わりにしたいと言わんばかりのスラグホーン
ハリーは、じっとスラグホーンを見て、真っ直ぐな眼差しで眼を逸らさずに聞いた
「先生、先生の目から見て、何故二人は特別な関係ではないと?」
「…それは…わ、私だけでなく、どの先生も同じことを思ったはずだ。’’違い’’過ぎたんだ。そう…’’大違い’’だ。リドルはあの子の世話を焼いていた。だから…だから余計に…「ああなるとは思わなかった…」…ああ…そうだ…その通りだ…本当に聡明で面倒見のいい子だったんだ」
ハリーが続けた言葉に、スラグホーンはぎこちなく、静かに続けた
弁明するように…まるで言い訳するように
だがその顔色はずっと青い
「先生、トム・リドルは、先生と何か重要なことを話したりしませんでしたか?」
ハリーのその言葉で、スラグホーンは青かった表情をみるみるうちに赤くなった
「ダンブルドアの差し金で来たんだな?そうなんだなっ?」
唇を引き結んで息を呑んだハリーに、声を荒げて、教材を持って早足で教室から出て行ってしまった
「トム、これ…「毎年寂しくクリスマスを過ごすお前への、僕からのちょっとした慰めだ」……トムもじゃない…」
「いいから受け取れ」
「………」
滑らかな白く長い指から、掌に収まるくらいの小さな箱を受け取った彼女は、ゆっくりと膝の上に箱を置き、一度彼の方を向いた
横に座り、彼女の反応をじっくり見るように、「早く開けろ」と視線で促す彼に、前髪に隠れた目元は不安そうに眉尻を下げる
ゆっくり赤いリボンを引き抜き、エメラルド色の包装を丁寧に取った
現れた黒い箱
「……開けても…いいの?」
「ああ」
ゆっくりと蓋に指をかけて、開けた彼女
現れたのは
「…小瓶?」
ガラス製の小さな、なんの変哲もない小瓶だった
少し変わっているのは、金属の蓋に蛇のモチーフが彫られていた
彼女は、この小瓶に自分が何かを入れるものだと勘づいた
そしてそれは、’’自分の持ちうる’’何かであり
それを入れることで彼の贈り物は’’完成’’するのだと
「何を入れるか知りたいか?」
長い腕をカウチの背に回しながら、愉快そうに不遜な顔で聞く彼に、唇を少し震わせて聞いた
「……なにを、いれるの?」
すると、彼は膝に置かれた彼女の片方の手を掬い上げ、両手で挟むように包み込んだ
そして、薄い唇の端を上げて言った
「’’お前自身’’だよ」
「…え…」
「僕の’’賭け’’はお前次第だ」
「トム…何を言って…「僕はお前であり、お前は僕だ。’’僕’’達は’’永劫’’なんだ」
「…トム。何をしようとしているの?あなた最近焦っているように見える…あなたらしくないわ。あなたは…」
「……誰なの?」
震えそうな声で、疑うような、不安な様子で言った彼女
その前髪に手を伸ばし、指で軽く払いながら、彼は彼女の目を晒した
久しぶりに視界が開けた彼女の目は、うっすらとした平坦な二重、奥に揺らめく黒い瞳、今にも泣きそうに不安そうに、疑わしいものを見る目で見上げてくる
「ああ、’’僕’’だ。’’僕’’の名を言ってみろ」
「……トム・…リドル…「もう一方の方だ」…………ルベル……私は…この名は呼びたくないわ…」
「僕は気にしない。たとえお前が思いつきでつけた名前だとしてもな。ーーそれに、存外悪くはないと思っているんだーー僕はお前から…いや、なんでもない」
いつになく、歯切れの悪い、ハッキリした口調ではない彼に、彼女は自然と眉を下げて、聞いた
「……何かあったのね…」
彼女の何気ない、息をするような質問に、彼は、自然と眉間に皺を寄せて、気づけば口から言葉が出ていた
「…母は僕ではなく、男を選んだんだ。憎いよ。魔女の母を捨てた男が。偉大なスリザリンの末裔である母ではなく。僕を捨てたんだっ。お前も捨て子だろ。自分を産んだ人間のことが気にならないのか?自分を捨てた両親を」
珍しく、饒舌に呪詛を吐くように恨言を言う彼に、彼女は複雑な気分になった
返す言葉も、かける言葉も見つからない
だから自分のことしか言えない
「……別に…気にならないと言えば嘘になるけど…私は…あ…」
「言ってみろ」
「…あなたしか…知らないから……」
産まれた時から、皮肉にもこの世界で唯一親しくして、近くにいたのが彼しかおらず、また知らない彼女は恐る恐るそう言った
「…そう…か…」
家族は自分しかいない、そう受け取ることもできる彼女の言葉に、彼は一瞬、紅い目を見開き言葉に詰まった
他の人間なら兎も角、まさか、生みの親の存在より自分が、彼女にとって重要な位置にいるとは思わず、彼は少なくとも困惑した
自分を産んだ両親を知りたいと思うのが普通のことなのに、彼女は彼だけでいいと思っている
彼はそう解釈した途端、彼女の手をきつく握っていた
「っ…トム…いっ痛いよ」
握られた手を抜こうと肩を振るわせる彼女
それに対して、彼は素っ気なく、拗ねたように言った
「うるさい。僕の…」
だが、何か言いかけたところで、彼はいきなりハッとしたような表情になり、きつく握っていた手をゆっくり離した
彼女は離された手を、さすった
「ナギニ。これからも両親を探さないんだな?」
彼は、分かりきった答えに、念押しするように彼女に聞いたのではなく、言った
「…え…う、うん…」
吃ってしまったが、彼女の本心だった
単に余計なことを考えたくないし、興味がないというのもあった
何かが変わってしまうかもしれない恐怖があったからだ
「本当に?」
妙にしつこく確認してくる彼に、彼女はこれ以上機嫌が悪くならないように、再度肯定し、付け加えた
「…うん。だって、迎えに来なかったから…そうなんだろうなって…わざわざ嫌な思いしたくない…」
俯きがちに言った
それに対し、彼は独り言を呟くように…
まるで自分に言い聞かせているようにも見える様子で言った
「そうだーーそうだとも。そんな無駄なことをしなくていい」
彼らしくない、そんな様子に彼女は地雷だと分かっていても…聞いてしまった
「……トム、き、気にしてるの?…その…「母を捨てた男のことをか?」……うん」
言い辛そうな様子に、予想できる言葉を続けた彼
彼女は、彼の答えを恐る恐る待った
だが意外にも、その答えは彼女が予想していたものとは違った
「別に。どうでもいい」
素っ気なく言って、ゆっくり彼女の膝に頭を倒して寝そべった彼
あまりにあっさりした態度に戸惑い、一瞬固まった彼女
そして、数秒経った後、彼女は横たわってきた彼のさらさらの黒髪の頭に、静かに手を乗せた
「…そう………ねえ、トム」
ただ答え、呼びかけた
「なんだ」
すぐに返事が来た
若干、もう会話をしたくないようにも見える様子に、彼女は続けた
「…トムは凄いよ…私はそう思ってる……その…信じてる」
口から出た言葉は、彼女の希望観測的な願いだったのかもしれない
未来が分かっていても…今だけはそう思いたかったのかも…
もしかしたら、既に復讐を遂げていたとしても…
一方、その願いのような言葉に対して、彼は顔を背けたまま、鼻で笑った
「…ふん」
「ありがとね…いつも…」
ぽつりと呟かれた、穏やかな感謝に、彼は答えた
「別に。出来損ないの弱虫で泣き虫の面倒を見れるのは僕くらいだからな」
「そうだね」
「さればーーー今夜の授業では、トム・リドルの物語を続ける。今までは、わしの集めたもの、そして、あの子の記憶のトム・リドルを見てきた」
ダンブルドアは、ゆっり組んでいた皺だらけの指を解いて、ハリーを見つめて続けた
「憶えておろうが、自分が魔法使いだと聞かされたトムは興奮した。ダイアンゴン横丁にわしが付き添うことをトムを拒否し、そしてわしは、入学後は盗みを続けてはならぬと警告した」
「さて、新学期が始まり、トム・リドルとナギニ…いや、アルウェン・メメントがやって来た。古着を着た、おとなしい少年少女は、他の新入生とともに組分けの列に並んだ。組分け帽子は、リドルの頭に触れるや否や、スリザリンに入れた」
そう言うや、ダンブルドアは組んでいた手で頭上の棚を指差した
そこには、古色蒼然とした組分け帽子が、じっと動かずに納まっていた
ハリーは、記憶から知ってはいたが、思わず聞いた
「先生、彼女は?」
「もちろん、スリザリンじゃ。わしは、リドルとは別の意味で、あの子がスリザリン以外にはあり得ぬと思うておるよ。…さて、続けようかの」
それ以上、ハリーに質問する間を与えないようにもとれる間の次ぎ方で、ダンブルドアは、ひとつ瞬きして続けた
「その寮の、かの有名な創始者が蛇と会話ができたということを、リドルがどの時点で知ったのかはわからぬーーおそらくは、最初の晩じゃろう。それを知ることで、リドルは興奮し、いやが上にも自惚れが強くなったーー…しかしながら、談話室では蛇語を振り翳し、スリザリン生を脅したり、感心させたりしていたにせよ、教職員はそのようなことには全く気づかなんだ。傍目には、リドルは何らかの傲慢さも攻撃性も見せなんだ。そう、君も見たように、あの子の前以外ではの」
ハリーは、心の中で思い出し、納得しながらじっと耳を傾けた
「稀有な才能と、優れた容貌の孤児として、リドルはほとんど入学のその時点から、自然に教職員の注目と同情を集めた。じゃが、アルウェンは…失礼じゃが、リドルとは正反対の子じゃった。リドルが世話を焼き、常に側を離さぬ幼馴染であるあの子は、リドルに魅了された者にとってーーー…そうじゃの、あまり良くはうつらんかっただろうて…」
ダンブルドアは、冷静に言った
彼女には失礼だが、ハリーもこのことに関して否定はできなかった
「リドルは、礼儀正しく物静かで、知識に飢えた生徒のように見えた。殆どの誰もが、リドルには非常に良い印象を持っておった」
「彼女と先生以外」
即座にハリーが言った
「いかにも」
ダンブルドアは頷き肯定した
「孤児院で先生がリドルに会った時の様子を、他の先生方には話して聞かせなかったのですか?」
「話しておらぬ。リドルは後悔する素振りをまったく見せなんだが、以前と態度を反省し、新しくやり直す決心をしている可能性があったわけじゃ。ーーそれに、前にも言うたように、わしを医者だと決めつけ、あの子に近づけまいとしようとしたリドルの姿を、わしは信じることにした。リドルに機会を与える方を選んだのじゃ」
ダンブルドアは、言葉を切り、問いかけるようにハリーを見た
ハリーは思った
ダンブルドアは、こういう人だ
不利な証拠がどれほどあろうと、信頼に値しない者を信頼している
そこで、ハリーはふと、あることを思い出した
「でも先生は、完全にリドルを信用してはいなかったのですね?」
「リドルが信用できると、手放しでそう考えたわけではない、じゃが、アルウェンに関してはその限りではなかった。わしはアルウェンのことは、少なくとも信頼に値すると思っていたのじゃよ。もちろん、今もじゃ」
「リドルと一緒にいたのにですか?彼女は今もあいつを見捨てようとしてない」
「ああ、いかにも。あの子は今も、かつてのリドルを見ておるのじゃろう。じゃが正しきことと、悪しきことの区別がついておらぬわけではない。あの子は元来、深い思慮分別を持っておる。でなければ、今頃、もっと恐ろしいことになっていたじゃろう。ーー大半の者から見れば、あの子がリドルに注意せんかったことは、責めるべきことのように見えるじゃろう。じゃがそれをしていたとして、リドルが変わっていたかもしれぬ未来があるかどうかなど、誰にもわからぬのじゃよ」
ハリーは何も言えなかった
否定も肯定もできなかった
何故なら、ダンブルドアの言葉に心のどこかで納得できる部分があったからだ
「わしも、最初の頃は、観察してそれほど多くのことがわかったわけではない。リドルはわしを非常に警戒しておった。自分が何者なのか知って興奮し、わしに多くを語りすぎたと思ったに違いない。リドルは慎重になり、あれほど多くを暴露することは二度となかったが、興奮のあまりいったん口を滑らせたことや、ミセス・コールがわしに打ち明けてくれたことを、リドルが撤回するわけにはいかなんだ。しかし、リドルは、わしの同僚を多くを惹きつけはしたものの、決してわしまで魅了しようとはせぬという、思慮分別を持ち合わせておった。ーーただし、君も見た通り、あの子に対しては違った」
半月型の眼鏡の奥からハリーを穏やかに見据えて言ったダンブルドア
それに対し、ハリーはちゃんと見返しながら、思い出して言った
「母親代わり…」
「そうじゃ…ーーメローピーに似た雰囲気を持つアルウェンには、リドルは感情が先だった。ーー子が親に認められたいと思う心、褒めて欲しいと思う心、頭を撫で、抱きしめてもらえる行為…ーー自分でも自覚せぬ愛情に飢えていた。ただ、あの子に依存していた。ーー母親を知らずして育ってきても、本能的に惹かれる性質は似ておったのかもしれぬーーそして、それが’’変化した出来事’’があった。じゃが、これは取り敢えず頭の端に置いておこうかの」
ハリーにとっても、これに関しては情動に関わるところなので、考えても答えは出ないと思った
ダンブルドアも同じだったようで、あくまで結果的にどうなったかに目を当てて、動機に関してはそれ以上憶測する必要はないと思ったようだった
ダンブルドアは続けた
「高学年になると、リドルは献身的な友人を取り巻きにしはじめた。ほかに言いようがないので、友人と呼ぶが、すでにわしが言うたように、リドルがその者たちの誰に対しても、何らの友情も感じていなかったことは疑いもない。この集団は、ホグワーツ内で、一種の暗い魅力を持っておった。雑多な寄せ集めで、保護を求める弱い者、栄光のおこぼれに与りたい野心家、自分たちより洗練された残酷さを見せてくれるリーダーに惹かれた乱暴者等々。つまり、『死喰い人』の走りのような者たちじゃった。事実、その何人かは、ホグワーツを卒業したあと、最初の『死喰い人』となった」
ひとつ間を置いて続けた
「リドルに厳重に管理され、その者たちの悪行は、おおっぴらに明るみに出ることはなかった。しかし、その七年の間に、ホグワーツで多くの不快な事件が起こったことは分かっておる。事件とその者たちとの関係が、満足に立証されたことは一度もない。もっとも深刻な事件は、『秘密の部屋』が開かれたことで、その結果、女子生徒が一人死んだ。その際、ハグリッドが濡れ衣を着せられたのじゃ。ーーーホグワーツでのリドルに関する記憶じゃが、多くを集めることはできなんだ」
「当時のリドルを知る者で、リドルの話をしようとする者はほとんどおらぬ。怖気付いておるのじゃ。わしが知りえた事柄は、リドルがホグワーツを去ってから集めたものじゃ。なんとか口を割らせることができそうな、数少ない何人かを見つけ出したり、古い記憶を探し求めたり、マグルや魔法使いの証人に質問したりして、だいぶ骨を折って知りえたことじゃ。無論、もっとも身近でリドルを見てきたあの子も例外ではない」
「わしが説得させた者たちは、リドルが両親のことにこだわっていたと語った。もちろん、これは理解できることじゃ。孤児院で育った者が、そこに来ることになった経緯を知りたがったのは当然じゃ。トム・リドル・シニアの痕跡はないかと、トロフィー室に置かれた盾や、学校の古い監督生の記録、魔法史の本まで探したらしいが、徒労に終わった。父親がホグワーツに一度も足を踏み入れてはいない事実を、リドルはついに受け入れざるをえなくなった。そして、リドルはその時点で自分の名前を永久に捨て’’ようと’’し、ヴォルデモート卿と名乗り、それまで軽蔑していた母親の家族を調べはじめた。ーーー憶えておろうが、人間の恥ずべき弱みである『死』に屈した女が魔女であるはずがないと、リドルはがそう考えていた女性のことじゃ」
「リドルには、『マールヴォロ』という名前しかヒントはなかった。孤児院の関係者から、母方の父親の名前だと聞かされたいた名じゃ。魔法族の家系に関する古い本をつぶさに調べ、ついにリドルは、スリザリンの末裔が生き残っていることをつきとめた。十六歳の夏のことじゃ。リドルは毎年、夏に戻っていた孤児院を抜け出し、ゴーント家の親戚を探しに出かけた。そして、さあ、ハリー、立つのじゃ」
ダンブルドアは立ち上がり、その手に、渦巻く乳白色の記憶が詰まった小さなクリスタルの瓶があるのが見えた
「この記憶を採集できたのは、まさに幸運じゃった」
そう言いながら、ダンブルドアは煌めく物質を『憂いの篩』に注ぎ込んだ
「この記憶を体験すれば、そのことがわかるはずじゃ。参ろうかの?」
ハリーは石の水盆の前に進み出て、従順に身を屈め、記憶の表面に顔を埋めた
いつものように、無の中を落ちていくような感覚を覚え、それからほとんど真っ暗闇の中で、汚い石の床に着地した
しばらくして、自分がどこにいるのかやっと分かった時には、ダンブルドアもすでにハリーの脇に着地していた
ゴーントの家は、いまや形容しがたいほどに汚れ、今までに見たどんな家より汚らしかった
天井には蜘蛛の巣がはびこり、床はべっとりと汚れ、テーブルには、カビだらけの腐った食べ物が、汚れのこびりついた深鍋の山の間に転がっている
灯りといえば溶けた蝋燭がただ一本、男の足元に置かれていた
男は髪も髭も伸び放題で、ハリーには男の目も口も見えなかった
暖炉の側の肘掛け椅子でぐったりしているその男は、死んでいるのではないかと、ハリーは一瞬そう思った
しかし、その時、ドアを叩く大きな音がして、男はびくりと目を覚まし、右手に杖を掲げ、左手には小刀を握った
ドアがギーッと開いた
戸口に古くさいランプを手に立っている青年が誰か、ハリーは一目でわかった
背が高く、蒼白い顔に黒いさらさらと髪の、紅い目を持ったハンサムな青年ーー十代のヴォルデモートだ
ヴォルデモートの紅い眼がゆっくりとあばら家を見回し、肘掛け椅子の男を見つめた
ほんの一、二秒、二人は見つめあった
それから、男がよろめきながら立ち上がった
その足元から空っぽの瓶が何本も、カラカラと音を立てて床を転がった
「貴様!」
男が喚いた
「貴様!」
男は杖と小刀を大上段に振りかぶり、酔った足をもつれさせながらリドルに突進した
「やめろ」
リドルは蛇語で話した
男は横滑りしてテーブルにぶつかり、カビだらけの深鍋がいくつか床に落ちた
男はリドルを見つめた
互いに探り合いながら、長い沈黙が流れた
やがて、男が沈黙を破った
「話せるのか?」
「ああ、話せる」
リドルが言った
リドルは部屋に入り、背後でドアがバタンと閉まった
リドルが微塵も恐怖を見せないことにハリーは、敵ながらあっぱれと内心舌を巻いた
リドルの顔に浮かんでいたのは、嫌悪と、そしておそらく失望だけだった
「死んだ」
男が答えた
「何年も前に死んだんだろうが?」
リドルが顔を顰めた
「それじゃ、お前は誰だ?」
「俺はモーフィンだ、そうじゃねぇのか?」
「マールヴォロの息子か?」
「そーだともよ。それで……」
モーフィンは汚れた顔から髪を押しのけ、リドルをよく見ようとした
そこで、ふと、ハリーはあることき気づいた
モーフィンの右手に、見たことがある指輪がはめられていたのだ
それはマールヴォロと、そして彼女がはめていた指輪だった
ハリーは思わず、横にいるダンブルドアを見上げた
ダンブルドアは、ハリーが何を言いたいのかわかったのか、静かに目で制した
後で、ということだろうと理解したハリーはそのまま、前を見て記憶に集中した
「おめえがあのマグルかと思った」
モーフィンが呟くように言った
「おめえはあのマグルにそーっくりだ」
「どのマグルだ?」
リドルが鋭く聞いた
「俺の妹が惚れたマグルよ。向こうのでっかい屋敷に住んでるマグルよ」
モーフィンはそう言うなり、突然リドルの前に唾を吐いた
「おめえはあいつにそっくりだ。リドルに。しかし、あいつはもう、もっと年を取ったはずだろーが?おめえよりもっと年取ってらあな。考えてみりゃ………」
モーフィンは意識が薄れかけ、テーブルの縁を掴んでもたれかかったままよろめいた
「あいつは戻ってきた。うん」
モーフィンは呆けたように言った
リドルは、取るべき手段を見極めるかのように、モーフィンをじっと見ていた
そして、モーフィンにわずかに近寄り、聞き返した
「リドルが戻ってきた?」
「ふん、あいつは妹を捨てた。いい気味だ。腐れ野郎と結婚しやがったからよ!」
モーフィンはまた唾を吐いた
「盗みやがったんだ。いいか、逃げやがる前に!ロケットはどこにやった?え?スリザリンのロケットはどこだ?」
リドルは答えなかった
モーフィンは自分で自分の怒りを煽り立てていた
小刀を振り回し、モーフィンが叫んだ
「泥を塗りやがった。そーだとも、あのアマ!そんで、おめえは誰だ?ここに来てそんなことを聞きやがるのは誰だ?おしめえだ、そーだ……おしめえだ……」
モーフィンは少しよろめきながら顔を逸らした
リドルが一歩近づいた
その途端、あたりが不自然に暗くなった
リドルの持っていたランプが消え、モーフィンの蝋燭も何もかもが消えた…
ダンブルドアの指がハリーの腕をしっかり掴み,二人は急上昇して、現在に戻った
ダンブルドアの部屋の柔らかな金色の灯りが、真っ暗闇を見つめたあとのハリーの目に眩しかった
「あの…これだけですか?」
ハリーは、まず指輪のことより、すぐさま不自然に真っ暗闇になった理由を聞いた
「どうして暗くなったんですか?何が起こったんですか?それに、あの指輪…」
なぜ、マールヴォロとモーフィンの指輪を、今になって彼女が持っていた理由が、ハリーには訳がわからなかった
「まず、暗くなった理由は、モーフィンがそのあとのことを何も憶えていないからじゃ」
ダンブルドアが、ハリーに椅子を示しながら言った
「次の朝、モーフィンが目を覚ました時には、たった一人で、床に横たわっていた。マールヴォロの指輪が消えておった。そしてその指輪は、何らかの経緯を経て、今になり、あの子の手に渡った。あの子が、あの指輪をどのような経緯で手に入れたのかはわからぬ。何も話さなんだからの。じゃが、そこはあまり気にせんでええじゃろう」
ハリーは、ダンブルドアの言い方に、指輪に関してそれ以上は質問しなかった
何故なら、どことなく聞かない方がいいような雰囲気があったからだ
それだけでなくとも、やんわりと話題を逸らしたからだ
本当に気にしなくていいことなのか、はたまた、気にしてはいけないのか…
ハリーにはその判断がつかなかったので、ダンブルドアの言葉を待った
「その後、リトル・ハングルトンの村では、メイドが悲鳴を上げて通りを駆け回り、館の客間に三人の死体が横たわっていると叫んだ。トム・リドル・シニア、その母親と父親の三人だった。ーーーマグルの警察は当惑した。わしが知る限りでは、今日に至るまで、リドル一家の死因は判明しておらぬ。『アバタ・ケダブラ』の呪いは、通常、何の損傷も残さぬからじゃ……例外はわしの目の前に座っておる」
ダンブルドアは、ハリーの傷痕を見て頷きながら言った
「しかし、魔法省は、これが魔法使いによる殺人だとすぐに見破った。さらにリドルの館と反対側の谷向こうに、マグル嫌いの前科者が住んでおり、その男は、殺された三人のうち一人を襲った廉で、すでに一度投獄されたことがあると分かっていた。ーーそこで魔法省はモーフィンを訪ねた。取調べの必要も、『真実薬(ベリタセラム)』や『開心術』を使う必要もなかった。即座に自白したのじゃ。殺人者自身しか知り得ぬ細部の供述をしてのう。モーフィンは、マグルを殺したことを自慢し、長年にわたってその機会を待っておったと言ったそうじゃ。モーフィンが差し出した杖が、リドル一家の殺害に使われたことは、すぐに証明された。そしてモーフィンは抗いもせずにアズカバンに引かれていった。父親の指輪がなくなっていることだけを気にしておった。逮捕した者たちに向かって、『指輪を失くしたから、親父に殺される』と、何度も繰り返して言ったそうじゃ。『指輪を失くしたから、親父に殺される』と。そして、どうやら死ぬまで、それ以外の言葉は口にせなんだようじゃ。モーフィンはマールヴォロの最後の世襲財産をなくしたことを嘆きながら、アズカバンで人生を終え、牢獄で息絶えた他の哀れな魂と共に、監獄の脇に葬られておるのじゃ」
「それじゃあ、ヴォルデモートがモーフィンの杖を盗んで使ったのですね?」
ハリーは姿勢を正して言った
「その通りじゃ」
ダンブルドアが言った
「それを示す確たる記憶はない。しかし、何が起こったかについては、かなり確信を持って言えるじゃろう。ヴォルデモートは叔父に失神の呪文をかけて杖を奪い、谷を越えて『向こうのでっかい屋敷』に行ったのであろう。そこで魔女の母親を捨てたマグルの男を殺し、ついでにマグルである自分の祖父母をも殺した。自分に相応しくないリドルの家系の最後の人々をこのようにして抹殺すると同時に、自分を望むことがなかった父親に復讐した。それからゴーントの屋敷に戻り、複雑な魔法で叔父に偽の記憶を植えつけた後、気を失っているモーフィンのそばに杖を返し、叔父がはめていた古い指輪をポケットに入れてその場を去った」
「モーフィンは自分でやったのではないと、一度も気づかなかったのですか?」
「一度も」
ダンブルドアが言った
「今わしが言うたように、自慢げに詳しく自白したのじゃ」
「でも、今見た記憶は、ずっと持ち続けていた!」
「そうじゃ。しかし、その記憶をうまく取り出すには、相当な『開心術』の技を使用せねばならなかったのじゃ」
ダンブルドアは続けた
「それに、すでに犯行を自供しているのに、モーフィンの心をそれ以上探りたいなどと思う者がおるじゃろうか? しかし、わしは、モーフィンが死ぬ何週間か前に、あの者に面会することができた。わしはその頃、ヴォルデモートに関して、できるだけ多くの過去を見つけ出そうとしておった。この記憶を引き出すのは容易ではなかった。記憶を見た時、わしはそれを理由にモーフィンをアズカバンから釈放するように働きかけた。しかし、魔法省が決定を下す前に、モーフィンは死んでしもうたのじゃ。ーーじゃが、二年前、とある生徒が現れたことにより、わしが見つけ出そうてしておったヴォルデモートの過去が’’ある程度’’明らかにされた。誰かは分かるじゃろう?」
「ユラです」
「そうじゃ。実はのう、わしはまだあの子が一年生の頃から、疑っておったのじゃ。しかしこの場合、疑うと言っても嫌疑をかけるという意味ではない。アルウェン・メメントと似た雰囲気を持っておるあの子が、何か…ヴォルデモート卿と関わりがあるのでないかと、根拠のない憶測で疑っておった」
「でも実際、関わりどころか生まれ変わった張本人だった…」
「いかにも。あの子がわしに打ち明けるまでの間、具体的に何をしていたのかは詳しくはわからぬ。ーーわしとて、ましてや本人だと最初は信じ切ることはできなんだ。しかし、組分け帽や、ギャリックのーー、オリバンダーにあの子のことを聞き、信じるに至った」
「え、組分け帽?オリバンダーって、オリバンダーの店の店主の人ですか?」
「そうじゃ。君も知っての通り、ギャリックは売った杖を全て憶えておる。また、組分け帽も、過去組み分けをしてきた生徒のことを全て憶えておる。ギャリックーーオリバンダーは、あの子に売ったものと同じ素材でできた杖を、『過去に二人の魔女に売った』と言っておった」
「ナギニとオフューカス…」
「そうじゃ。そのどちらもがオリバンダーの印象に残っておった。それはなぜなのか。『その杖の持ち主は必ず死ぬ運命にある』からじゃ」
「え?」
「驚くじゃろう?流石のわしでもそのような噂は知らなんだ。ごく一部での噂話じゃからの。ーーーさながら呪われた杖のような呼ばれ方じゃ。しかし、それは事実であり、事実ではない。オリバンダーが言わんとしておったのは、同じ素材で作った、全く同じ杖を持った魔女二人、アルウェン・メメントとオフューカス・ブラックは、どちらも卒業後に数年と経たず、死んでおるからじゃ。アルウェンの死は、わしが調べた当時は、病によって亡くなった。というものじゃった。しかしこれについては、知って通り真実は違う。そして、オフューカスはーーシリウスによると、ベラトリックス・レストレンジによって殺された、という。あまり人の死について優劣をつけて噂をするのは良くないが、当時、ブラック家唯一の本家筋の女当主が殺されたというのは、日刊預言者新聞にも載るほどの一大ニュースになった。当然、魔法省も犯人探しに躍起になった」
「でも、見つからなかった…」
ハリーは内心、彼女はブラック家の当主だったんだ、と驚いた
彼女が、誰もいなくなった家で待ち続けていて、その頃両親も他界していたとは知っていたが、一時的にでもブラック家の当主でいたことは知らなかったからだ
また、こうも思った
これでクリーチャーの、あからさまにシリウスより彼女を敬う様子にも納得がいく、と
「左様。そして、これもシリウスによる情報じゃがーーーそのベラトリックス・レストレンジはアルウェンを殺した後、ヴォルデモート卿に殺されたという」
ダンブルドアの言葉に、ハリーは、それでは明確な理由が過ぎる…と驚いた
「…えっ?それって…偶然なんですか?」
瞠目して質問したハリー
それに対し、ダンブルドアは緩く首を横に振って答えた
「わしは違うと思う。恐らくじゃがーー…オフューカスのことに関してはアルウェン以上に情報が少な過ぎる故、ここからは、わしの想像になるがーー当時、アルウェンを失ったヴォルデモート卿は、何らかの形であの子が生まれ変わったことを知った。じゃが気づいた時には…ーー後か先かわからぬが、既に殺されておった。怒りを覚えたヴォルデモートは、あの子を殺したベラトリックス・レストレンジを殺した。そして、ヴォルデモートはゴドリックの谷で君を殺そうとして、力を失った。アルウェンがいつ死んだのかーー前回見た記憶のヴォルデモートの様子と、オフューカスとして産まれた時期を考えれば、恐らく、アルウェンとして死んだのは卒業後、三、四年以内じゃろう」
時系列に沿ったダンブルドアの言葉にハリーは軽く息を呑んだ
「アルウェンが死に、ヴォルデモートが力を強め、オフューカスが殺され、生まれ変わり、ヴォルデモートが力を失い、そして復活した。ーーハリー、ヴォルデモートはアルウェンに何をしたのかを知るには、『死』を何よりも『過酷』なもので『恥ずべきこと』として考えておったあやつの思考を想像せねばならぬ。ーーじゃが、その思考は、大変危険で、残酷な…わしらが想像もつかぬものじゃろう。ゆえに簡単に考えようぞ。ヴォルデモートが何より嫌悪し、恐れたものはなんじゃと思う?」
いつもより少し早めのペースで語りながら、唐突に質問したダンブルドアに、ハリーは考えを巡らせた
「えっと…『死』ですか?」
話の流れから、導き出される単語を、ハリーは答えた
正直想像したくもないが、ヴォルデモートを葬るためには必要なことだとはわかっているだけに、苦渋を飲んで考えてみることにした
「いかにも。わしもそう思う。前回の記憶で、ヴォルデモートは「特別な関係だったか」というわしの問いに対して、「’’陳腐’’な関係ではない」と答えた。そこでじゃ、あやつの言う’’陳腐’’というのは我々が考える意味とは違うと思うのじゃが、どうかね?」
議論らしくなってきた会話に、ハリーはできるだけ、自分の知る限りの情報で思慮深く答えた
「…そう、ですね…僕もそう思います。でも先生、彼女はあいつの赤ちゃんを妊娠して…その、自殺して、それからオフューカスとして生まれ変わって……また生まれ変わってーーもしかしてそれが全てあいつの企みだったとお思いなのですか?」
「無論、全てではなかろう。君が聞いたように、今回あやつがあの子と再会した際、驚いた様子だったのは嘘ではあるまい。限りなく確信はしておったのであろうが…」
ダンブルドアは、ひとつ息をついて、『憂いの篩』の石の盆に皺のある手をついて続けた
「今から見てもらう記憶は、先程のモーフィンの記憶の続きのようなものじゃ。行こうかの」
そう言うと、ダンブルドアは、先程と違い、僅かにグレーがかった乳白色の物質を「憂いの篩」に注ぎ込んだ
無の中を落ちていき、足をついた先はどこかの古屋のようなどころだった
鬱蒼とした森の中に、ポツンとあるその古屋
ぱっと見回す限りでもそこまで使われていないのだとわかる…
さながら、子どもが遊びで使いそうな秘密基地のような雰囲気があると思ったハリー
横を見ると、ダンブルドアも着いており、じっと古屋をみつめている
ハリーもそれに倣って古屋を見つめた
すると、数分経った後、ハリーもよく記憶で見たシルエットが二つ現れた
ゴーント家を訪れた同じ年頃と思われるヴォルデモートの姿と、彼女…アルウェンの姿だった
ヴォルデモートに手を引かれて…というより、手首を掴まれ引っ張られて古屋に向かっている
相変わらず、野暮ったい前髪に隠れて見えない目元
だが、困惑しているような表情をしているのだろうことはわかったハリー
同年代の女と比べて、少し背の低い彼女は早歩きのヴォルデモートに引っ張られて、合わない歩幅を必死に動かして、今にも転びそうな様子でついていっている
「トム、待ってトムっ…」
彼女の柔らかな声が、焦ったように響き、その声は木々や植物に吸い込まれてゆく
何も答えないヴォルデモートは、厳しい表情で彼女の手首を引っ張り、古屋の中に入るように促した
扉の前で、一度ヴォルデモートを見上げた彼女は、咎めるような表情に肩を震わせて、ゆっくり中に足を踏み入れた
横から彼女が入ったのを確認して、ヴォルデモートは外を一度見回し、誰もつけてきていないか確認して扉を閉めて中に入った
同時に、ハリー達の視界も変わり、気がつけば古屋の中にいた
古屋の中には、1人がけのボロい肘掛け椅子、骨組みだけの壊れたベット、崩れた暖炉に、ネジが突き出た洋箪笥が簡素に置いてあった
扉の前に立つヴォルデモートに向かい合うように、両腕を下げて、不安そうに指先で服の端を掴んで立つ彼女
「……どうしたのトム。帰ってきてから様子が…」
震えを抑えているのだろう
困惑したような、声色に、心配な想いが滲んでいるような様子で、沈黙に耐えられず声をかける彼女に、ヴォルデモートは眉間に皺を寄せ忌々しげに歪ませた
そして、数秒が永遠にも感じられる時間が経った後、ヴォルデモートはゆっくり口を開いた
「お前も、子どもを産むのか?」
ハリーは、呼吸が止まったような気がした
聞かれた彼女も、意味がわからないという様子で、固まっている
「え?」
「答えろ」
思わず口から出た声に、ヴォルデモートは苛立たしげに紅い目で睨みながら催促した
彼女は、どういう意味で、意図で…彼がそんなことを聞いてくるのかわからない様子だった
そして、ゆっくり口を開いて答えた
「…じょ、女性は産めるから…」
「母親になるのか?なりたいのか?お前も産めば死ぬのか?」
まるで、純粋な子どもが大人に質問するような言い方で、詰問する様子に、ハリーは複雑な気分になった
「…えっと…中には出産に耐えられない人もいるけど…わ、私がどうかはわからない…かな。今は想像つかないし、そういう夢もないけど、いずれは結婚して産みたいなって思うよ。女性なら子どもは誰でも欲しいんじゃないかな…中にはいらない人もいるだろうけど…子どもは…その、手がかかってもきっと可愛いから」
ハリーは、意味がないとは分かっていたが本能的に、彼女に逃げろと叫びたかった
俯きがちに、朗らかな様子で…
少し夢見心地のように少し幸せそうに言った彼女
本当に、将来に対して僅かな希望をみていたのだ
だが、ヴォルデモートは違った
忌々しい厳かな表情から、信じられないというような表情に変わり、瞠目していた
だが、彼女が顔を上げる前にその表情は消え失せ、色のない表情になった
そして、ゆっくり口を開いた
「そうか…ーーーよくわかった」
「う、うん?…参考になるかはわからないけど…」
「お前は’’母親になるんだ’’」
まるで自分に納得させるように、意味深にそう呟いたヴォルデモート
それに対し、彼女は、ただ将来は結婚して母親になるんだろう。という意味で理解した
「…そ、それは…結婚してからだけど…うん」
「なあ、ナギニ。母親とは本来’’崇高’’なものだ。偉大な魔法使いを産み出すことができる。それに足る器も」
「そ、そうだね。私も母親ってすごいと思う。私ならきっと悪阻だけで挫けちゃいそう」
「大丈夫だ。お前なら」
ハリーは、鳥肌が立った
会話が噛み合っているようで、噛み合っていない
ヴォルデモートの意図することがわかってくればくるほど、恐ろしさしかないからだ
「ありがとう。め、珍しいね。トムがこんなこと聞くなんて…何か、あったの?」
「ああ、僕の両親をついに突き止めたんだ」
「……そ、そう…」
「だが、僕にとっては取るに足らない。いないも同然だ。僕にはお前がいる」
「…トム…あの、私はあなたが大事よ。大切な幼馴染だと思ってる…だから…トムにもいつか家族を作って欲しいなって…も、もちろん1人でいたいならそれで良いと思うよ。でも、ずっとずっとは一緒にいられないし…私たちも大人になるから…」
「ああ、知ってるさ」
「…ここに来るの、久しぶりだね」
話題を逸らすように、彼女は言った
「そうだな。ーーお前は自分を捨てた人間が憎くないのか?復讐してやりたくはないか?お前が望むなら僕は力を貸してやる」
悪魔の囁きのような、そんな言葉に彼女はただ、僅かに唇を震わせて答えた
「別に…元から知らないと特に何とも思わなくて…」
やんわりとその気はないと断った彼女に、ヴォルデモートは一歩近づいた
彼女は特に離れることもなく、近くなった距離で軽く見上げただけだった
「僕の母はサラザール・スリザリンの末裔だった。だが、母は穢らわしいマグルの男と結婚し、僕を孕ったと分かると母を捨てたらしい。マグル如きの男が魔女である母を捨てたのも、魔女である母が恥ずかしげもなく、僕を産んで死んだことも…全て「反吐がでる」のひと言に尽きる」
「……ト…「母は、マグルの男の名をそのまま僕につけた。僕はこの名が嫌いだ。穢らわしいマグルの男と同じ名など」………私は…それを聞いても…あなたの気持ちはわかってあげられないよ。だって、それはあなただけのものでしょ。私も自分の名前がどういう経緯で付けられたのかわからないもの」
「’’メメント’’。『記念品』だ。お前は僕の『記念品』なんだ。’’代わりなどいない価値のある’’、な」
「………私は、あなたみたいに蛇とお話しできるわけじゃないし、自分でも地味で冴えないって分かってるから…きっとこれからは、私はあなたの近くにいない方がいい…」
俯きがちに、胸の前で手を握って言った彼女に、ヴォルデモートは、わかりやすく眉を顰めた
そして、高く艶のある声で低く言った
「なんだと?」
そのひと言に、彼女は顔を上げて…おそらくは目を見開いているのだろう
怒らせたと思ったのかもしれない
「…そ、その…あ、あなたには…友達もいるから…「だからなんだ」」
苛立ちを露わに語気を強めて問うヴォルデモート
「…私、ホグワーツに残ろうと思って。せ、先生がここで教えてみないかって言ってくれてて。ま、魔法史なら得意だから。私、あなたみたいに才能があるわけじゃないから……孤児だし、人脈があるわけでも…だから将来はホグワーツで先生になろうかなって…」
ハリーは驚いた
彼女たちが今何年かは知らないが、この時点で教員職のことを言っていたなんて
そして、少し朗らかに微笑みながら、嬉しそうに俯いて言った彼女に、ヴォルデモートは、一層見下ろすように彼女を睨んでいた
彼女はヴォルデモートのように、才能があったわけでも、ましてやスラグホーンに気に入られて人脈があったわけでもない
孤児ゆえに将来どのように暮らしていくかは当然、この年頃なら不安になる
人生の分岐点に立ったところで、当たり前のことを悩み、そして未来に希望を持っているだけだ
だが、ハリーには分かった
忌々しげな、まるで彼女を通してダンブルドアを睨んでいるような、憎らしげな目で
だが、次の瞬間出てきた言葉に、ハリーは後退りそうになった
「そうか。それがお前の選んだ道なら、いいと思うよ。いまひとつ頭は足りていないが、お前は僕が教えたんだ。きっと良い先生になる」
醸し出していた雰囲気と合わなさすぎる、真逆の発言に、ハリーは鳥肌が立った
一方、彼女は賛成されて嬉しかったのか、口元を綻ばせて、明らかに気を抜いた
「そ、そうかな。ありがとう…」
「それで、勧めたのはもしかして、ダンブルドアか?」
ハリーは息を呑んだ
これが狙いだと分かったからだ
隠しきれない苛立ちがあるのか、少し声のトーンが下がり聞いたヴォルデモートに、彼女は「うん」と答えた
「成る程。ーーーー老ぼれめ」
ハリーは、固まった
彼女に聞こえない程の声で、ボソリと呟かれた言葉に冷や汗が流れた
「え?」
案の定、聞こえていなかった彼女は、不思議そうにしている
「何でもないさ。ーーなあ、ナギニ」
「?」
「お前がいてよかったよ」
ハリーは恐ろしかった
言葉とは裏腹にドス黒い何かを抱えているのは明らかなのに、至極穏やかな表情で、彼女の手を優しく取った姿が…
そして、案の定、ヴォルデモートから聞くはずのない言葉を聞いて困惑している彼女
「…そう……」
ありがとう、と言うでもなく、ただ肯定した彼女をヴォルデモートはゆっくり抱きしめた
まるで、友を送り出す時の、名残惜しそうな抱擁をするように…
そして、次の瞬間、ハリーは見た
「お前が’’母になる’’だなんて、楽しみだな」
歪に口角を上げ、笑った
抱きしめた彼女の後頭部を、気味が悪いほど優しく撫でながら歪に歪んだ、狂気的な表情で
それを彼女の後ろから見ながら、ハリーは、思わず逃げ出しそうになった
自分の腕を掴み、ゾワゾワとする感覚を抑えた
「…気が早いよ。でもありがとう…トム…」
それに気づかず、感謝を述べる彼女に、ハリーは言ってやりたかった
「早く逃げろ」と
「ああ、ナギニ。お前は僕にーーーー」
ヴォルデモートが口角を上げて何か言おうとした途端、2人のシルエットが突然消え、先程のように真っ暗になった
ハリーは、ダンブルドアに腕を掴まれて現在の校長室の石畳みに着地していた
「この記憶は…恐らくリドル一家を殺害した後のものじゃと推測しておる。時期的にも整合するからの」
「先生、あいつ…あいつは何度も、…それに母親に拘っていた」
動揺した声で、僅かな震えを抑えながら言ったハリー
記憶の中で意味深な様子で、しつこく言っていた母親のことを、思い出したハリーはダンブルドアを確かめるように見た
ダンブルドアは佇んだまま、冷静に答えた
「いかにも。リドルは魔女であった母親がマグルである父親に惚れ込み、ああも簡単に死を選んだことを’’なかったこと’’にしたかったのじゃ。ーーハリー、わしが随分前に言うたことを覚えておるかの?」
半月型の眼鏡の下からハリーをじっと見据え、聞いた
「…たしか、あいつは彼女を母親にしたかったって…でもあれって」
随分前に、ヴォルデモートが彼女に子どもを産まさせようとした疑問に対してのダンブルドアの見解を、確認するように口にした
「左様。通常ならば、己の子を産み、共に育てるという意味での母親と考えるじゃろう。しかしーーリドルの考えた’’母親’’は異なった。’’己自身を産んでほしい’’または、己自身が産まれてくる’’母胎を選ぶ’’ことを望んだ」
しばしば、ヴォルデモートの言う言葉に対して認識の食い違いがあることが分かっていたハリーだが、今の内容には流石についていけなかった
だから、思わず信じられないような間の抜けた声が出た
「はっ…?」
理解できない表情をするハリーに、ダンブルドアは構わず続けた
「驚くのも無理はない。常軌を逸した考え方じゃ。普通ならば誰も想像せぬじゃろう。だが、そう考えれば説明がつくのじゃ。あやつが子どもを望む人間に見えるかの?ーーいいや、違う。あやつはあくまでも『不死』に拘っておった。ーーつまりじゃ、『不死』にこだわるあやつにとって、肉体が滅びた時、新しく魂を入れる器が必要となる。できるならばより己に近い血を持つーーあやつは出生に拘った。…アルウェンを自らの’’母親とする’’ことで、自らの肉体が滅びた時のために魂の器を用意する。つまり己の血を引くであろう子どもの肉体を手に入れることーー」
ハリーは絶句した
言葉も出ないとはこのことだった
「……」
唖然とした様子で、目を見開いて、口をポカンと開け黙り込むハリー
ダンブルドアは、一息ついて石段に座り込みながら、ゆっくり続けた
「禁忌じゃ。生と死は、平等に与えられるものじゃ。決して、誰も逃れられぬ。己の子を子とも思わず、ただ産まれ直したかったためだけに、生命の理に干渉するなど、あってはならぬことじゃ。いいや、決して赦されてはならぬ。想像でしか言えぬが、幸か不幸か……もしやするとアルウェンは卒業後、リドルの子を身篭ってから、『服従の呪い』から目醒めたとき、リドルの本当の狙いを知ったのかもしれぬ。さすればあの子が…辛かったじゃろうが、自ら死を選んだのも説明がつく」
まるで、戒めのように紡がれる言葉に、ハリーはふと思い出した
それは、ダンブルドアとの個人授業で記憶を見始めてから、よく思っていたことだった
「……先生…僕…両親の顔を覚えてないけど、愛されてたっていうのはわかるんです。おじさん達も…両親のこと酷い風に言ってたけど、愛されていなかったなんてことは一度も言わなかった」
眉を下げて、自分は恵まれていた方だったのかもしれない…と言いたげに呟くハリーに、ダンブルドアは目元を綻ばせて言った
「命は、望まれて産まれてくることの方が多いが、中には望まれぬ事例もある。真に遺憾なことじゃ…孤児院とは、様々な境遇の子どもが集まる」
悲しい世の常に、ハリーは思わず俯いた
そして、ひとつの事実を思い出した
「でも、ヴォルデモートの母親は…メローピーは子どもを望んでいた」
顔を上げて言ったハリー
それに対し、ダンブルドアは優しか薄いブルーの目を細めた
「ああ。そうじゃのう。まだ母親に望まれておった…じゃが哀しいかな。その愛情を伝えるはずの母親はリドルを産んで生きることを諦めた」
「…そのせいで彼女が…」
「後悔してもしきれぬ。リドルにばかり気を取られ、あの子もまた、両親の愛情を求めておった小さな子どもじゃということを忘れておったのだ。知らずうちに、ミセス・コールと同じような過ちを犯した」
後悔するように、重くつぶやいたダンブルドア
ハリーは眉を下げて思わず口から出た
「でも先生は、結果的には引き離そうとした。昔も今も彼女を助けようとしている」
「贖罪じゃよ。わしの身勝手な願いをあの子に押しつけてしもうた報いじゃ。ーーさて、ハリー。今のをみて分かったように、アルウェンが齎した記憶は、リドルの過去を探るわしに、いや、我々にとって大きな助けとなった。君も見てきたように、ホグワーツに在籍していた間のリドルは6年生になったところで急激に変わった。わしの間違いでなければ、正確に言うと『秘密の部屋』が開かれ、リドル一家を殺害した時から、リドルのあの子に対する態度が、別人のように変わった。ーー元から隠していた本性なのか、あの子の前ではちらほらと出ていたものなのか…残念ながら、それを確かめることはできぬ」
「先生、彼女も孤児ですよね?彼女の両親は、その…探さなかったのですか?」
「無論、念のため探した。しかしーーアルウェンの両親らしき者の痕跡は見つからなんだ。アルウェンに関してはリドルより手掛かりがない。メメントという姓も少なくないわけではないからの」
「そうなんですね…」
「さながら藁の中から糸屑を見つけるようなものじゃ…ーーーさて、もう分かったじゃろうが、この記憶もモーフィンと同様、その先を覚えていないのじゃ」
「じゃあ、彼女もあいつに記憶を」
「わからぬ。あの子自身が記憶に手を加えた可能性も大いにある」
「えっ?どうしてそんなことを…あいつを庇って?」
「ふむ。それに関してはいくつか仮説を立てられる。ひとつはーー…先にも言うたように、あの子が自ら手を加えた可能性。リドルが手を加えた可能性。そして、あの子が本当に忘れている可能性じゃ」
「…それじゃあ、この先を知ることはできないんですか?」
「そうじゃ。あの時、リドルが何を言いかけたのか、残念ながら知ることはできぬ」
「でも、先生は、それが重要なことだとお思いなんですよね?」
「左様。ーーハリー、もう遅くなってきたが、もう一つ見てもらいたい記憶がある。実は今日の本題はこっちでの。今から見る記憶に君に是非ともしてもらわねばならぬことが示されておる」
ダンブルドアは立ち上がり、また『憂いの篩』に近づき、ポケットからクリスタルの薬瓶を取り出した
ハリーは、これこそダンブルドアが収集した中でいちばん重要な記憶だと分かった
今度の中身は、まるで少し凝結しているかのように、なかなか『憂いの篩』に入っていなかった
「この記憶は長くはかからない」
薬瓶がやっと空になった時、ダンブルドアが言った
「あっという間に戻ってくることになろう。もう一度、『憂いの篩』へ、いざ…」
そして再びハリーは、銀色の表面から下に落ちていき、一人の男の真前に着地した
誰なのかはすぐわかった
ずっと若いホラス・スラグホーンだった
禿げたスラグホーンに慣れきっていたハリーは、艶のある豊かな麦わら色の髪に面食らった
頭に藁葺き屋根をかけたようだった
ただ、てっぺんにはすでに、ガリオン金貨大の禿が光っていた
口髭は今ほど巨大ではなく、赤毛交じりのブロンドだった
ハリーの知ってるスラグホーンほど丸々としてはいなかったが、豪華な刺繍入りのチョッキついている金ボタンは、相当な膨張力に耐えていた
短い足を分厚いビロードのクッションに載せ、スラグホーンは心地良さそうに肘掛け椅子に、とっぷり寛いで腰掛けていた
片手に小さなワイングラスを掴み、もう一方の手で、砂糖漬けパイナップルの箱を探っている
ダンブルドアがハリーの横に姿を現した時、ハリーはあたりを見回し、そこが学校のスラグホーンの部屋だとわかった
男の子が六人ほど、スラグホーンの周りに座っている
スラグホーンの椅子より固い椅子か低い椅子に腰掛け、全員が十五、六歳だった
ハリーはすぐにリドルを見つけた
やはり一番ハンサムで美しく、いちばん寛いだ様子だった
右手を何気なく椅子の肘掛けに置いていたが、ハリーはその手にマールヴォロの金と黒の指輪がはめられているのを見て、ぎくりとした
もう父親を殺した後だ
「先生、メリィソート先生が退職なさるというのは本当ですか?」
高い艶やかな声でリドルが聞いた
「トム、トム、たとえ知っていても、君には教えられないね」
スラグホーンは砂糖だらけの指をリドルに向けて、叱るように振ったが、ウィンクしたことでその効果は多少薄れていた
「まったく、君って子は、どこで情報を仕入れてくるのか、知りたいものだ。教師の半数より情報通だね、君は」
リドルは微笑した
他の少年たちは笑って、リドルを賞賛の眼差しで見た
「知るべきでないことを知るという、君の謎のような能力、大事な人間を嬉しがらせる心遣いーーところで、パイナップルをありがとう。君の考えどおり、これは私の好物でーー」
何人かの男の子がクスクス笑い、そのときとても奇妙なことが起こった
部屋全体が突然濃い白い霧に覆われたのだ
ハリーは、そばに立っているダンブルドアの顔しか見れなくなった
そしてスラグホーンの声が、霧の中から声が、霧の中から不自然な大きな響いてきた
「ーーー君は悪の道にはまるだろう、いいかね、私の言葉を憶えておきなさい」
霧は出てきた時と同じように急に晴れた
しかし、誰もそのことに触れなかったし、何か不自然なことが起きてような顔さえしていなかった
ハリーは狐に摘まれたように、周りを見回した
スラグホーンの机の上で小さな金色の置き時計が十一時を打った
「なんとまあ、もうこんな時間か?」
スラグホーンが言った
「みんな、もう戻った方がいい。そうしないと困ったことになるからね。レストレンジ、明日までにレポートを書いてこないと、罰則だぞ。エイブリー、君もだ」
男の子たちがぞろぞろ出て行く間、スラグホーンは肘掛椅子から重い腰を上げ、空になったグラスを机の方に持っていった。しかし、リドルは後に残っていた。リドルが最後までスラグホーンの部屋にいられるように、わざとぐずくずしているのが、ハリーにはわかった」
「トム、早くせんか」
振り返って、リドルがまだそこに立っているのを見たスラグホーンが言った
「時間外にベットを抜け出しているところを捕まりたくはないだろう。君は監督生なのだし…」
「先生、お伺いしたいことがあるのです」
「それじゃ、遠慮なく聞きなさい、トム、遠慮なく」
「先生、ご存知でしょうか……ホークラックスのことですが?」
するとまた、同じ現象が起きた。濃い霧が部屋を包み、ハリーにはスラグホーンもリドルもまったく見えなくなった
ダンブルドアがゆったりと、そばで厳しい顔つきをしていた
そして、前と同じように、スラグホーンの声がまた響き渡った
「ホークラックスのことは何も知らんし、知っていても君に教えたりはせん!さあ、すぐに出ていくんだ!そんな話は二度と聞きたくない!」
「さあ、これでおしまいじゃ」
ハリーの横でダンブルドアが穏やかに言った
「帰る時間じゃ」
そしてハリーの足は床を離れ、数年後にダンブルドアの机の前の敷物に着地した
「あれだけしかないんですか?」
ハリーはきょとんとして聞いた
ダンブルドアはこれこそ一番重要な記憶だと言った
しかし、何がそこまで意味深長なのかわからなかった
たしかに、霧のことや誰もそれに気づいていないようだったのは奇妙だ
先に見た二つの記憶が当然暗闇になったのともまた少し違う
しかし、それ以外は何ら特別な出来事はないように見えた
リドルが質問したが、それに答えてもらえなかったというだけだ
「気が付いたかもしれぬがーー」
ダンブルドアは机に戻って腰を下ろした
その様子から、今夜見る記憶はもう終わりなのだとわかった
「あの記憶には手が加えられておる」
「手が加えられた?」
ハリーは腰掛けながら聞き返した
「その通りじゃ」
ダンブルドアが答えた
「スラグホーン先生は、自分自身の記憶に干渉した」
「えっと…さっきの彼女の記憶みたいに?でもどうしてそんなことを?」
「まず、先程のあの子の記憶に関してじゃが、あの子自身が干渉することはできぬじゃろう。当時の実力から考えて、干渉し、捏造できるとすればリドルしかおらぬ。ーースラグホーン先生に関してはの、大方予想はついておる。自分の記憶を恥じたからじゃ」
「なぜ恥じるんです?」
「自分をよりよく見せようとして、わしに見られたくない部分を消し去り、記憶を修正しようとしたのじゃ」
ハリーは思わず唇を引き結んだ
頭に浮かんだのは、見られたら、どれだけ恥や嫌悪感の対象となるかもわからない記憶を提供した彼女のことだ
ダンブルドアほどの人物が一年もかけて説得した彼女の記憶は、混乱し、困惑せずにはいられない意味不明なものが多かったし、自分は確かに嫌悪感や軽蔑を覚えた
だが、彼女はそれでも記憶を明け渡した
なのに、スラグホーンは記憶を改竄した
それは彼女以上の重要な記憶なのか
彼女以上に恥ずかしく、許されないことをされ、また、した記憶なのか
ハリーは、確証はないが、どうにもそれが納得できなかった
「君も気づいたように、非常に粗雑なやり方でなされておる。じゃが、その方が良い。何故なら、本当の記憶が、改竄されたものの下に存在していることを示しているからじゃ。………実はの。ハリー、確かめなければならぬのはここからなのじゃ。わしはすでに、あの子から打ち明けられた事実によって、この記憶の続きを’’予想’’できておる。じゃがーーそれに誤りがあるかもしれぬ」
「え?」
「それは恐らく、’’あの子自身も知り得なかった’’ことじゃ」
要領を得ないダンブルドアの言葉に、ハリーはますます混乱した
「最初に見たあの子の記憶でリドルは『計画』と言った。わしが思うに、リドルの計画には、アルウェンを母とすることも含まれておったーーー自分がスリザリンの末裔の血を引いていると知ったリドルは、アルウェンにも同じものを求めた。つまり凡庸さや平凡さを認めなかったのだ。にも関わらず、リドルはあの子の性質まで変えようとすることはせなんだ。あくまで強制的には、じゃが」
「じゃあ彼女が記憶を忘れていることも『計画』のひとつ…でも先生、認めなかったなら何故生かしていたんですか?…だって、彼女はあいつが一番…」
ハリーは言いかけて口をつぐんだ
ダンブルドアは目を柔らかく細めて、ハリーが言えない言葉を続けた
「そうじゃ。あの子はリドルが最も軽蔑を向ける類の性質を持っておる。ーーしかし、リドルがあの子を己が手で殺めることはなかった」
遺憾に思っているようにも見えるダンブルドアの言い方にハリーは少し困惑した
まるで、ヴォルデモート自身の手で殺められたほうよかったようにも聞こえる
困惑するハリーにダンブルドアは真面目な顔つきで、ひとつ間を置いて続けた
「もう気づいたと思うが、君にしてもらわねばならぬことはスラグホーン先生に本当の記憶を明かさせることじゃ」
ハリーは軽く目をパチクリさせた
だが、ハリーは慎重に、尊敬を込めた声で言った
「でも先生、僕なんか必要ないと思いますーー先生は先程続きを予想できておられますし、先生なら『開心術』をお使いになられますし、ーー『真実薬』だって…そちらの方が正確だと…」
また、記憶に手を加えられるかもしれないし、彼女から打ち明けられた事実でその先が予想できているなら…
正確に言うなら、’’ダンブルドア’’ほどの人が予想できていると言うなら、手っ取り早くする方がいいだろうとハリーは思った
ダンブルドアは、ハリーの慎重な言葉に、ひとつ瞬きしてじっと見据えた
「スラグホーン先生は、非常に優秀な魔法使いであり、そのどちらも予想しておられるじゃろう。哀れなモーフィン・ゴーントなどより、ずっと『閉心術』に長けておられる。わしがあの記憶まがいのものを無理やり提供させて以来、スラグホーン先生が常に『真実薬』の解毒剤を持ち歩いておられたとしても無理からぬこも。スラグホーン先生は、あの子よりずっと…リドルを恐れておる」
目を瞑って緩やかに首を振りながら言った最後の言葉にハリーは思わず、聞いてしまった
「え?彼女の方があいつの本性を知っていたのに?」
「人とはの、自分が知らぬもの、知り得ぬもの、見たことのないものの方が、時に、何よりも畏怖し、恐怖心を募らせ増大させるものじゃ。しかるにーー、あの子はリドルの本性をよく知っておったからこそ、常より’’どう対応すれば’’よいかわかっておった。じゃがそれ以外は? リドルを知らぬ者から見れば、隠していた本性が卒業後、表に出て、多くの罪のない命を奪い…その一端が自分にも’’ある’’とわかったのじゃ。ーースラグホーン先生の反応はごく自然なものじゃ。兎に角のう、スラグホーン先生から力づくで真実を引き出そうとするのは、愚かしいことであり、百害あって一利なしじゃ。スラグホーン先生にはホグワーツを去ってほしくないでのう。ーーハリー、先生といえども、我々と同様に弱みがある。先生の鎧を突き破ることができる者は君以外におらぬ。わしは信じておる。…真実の記憶を我々が手に入れることが、実に重要なのじゃ。…どのくらい大切かは、その記憶を見た時にのみわかろうというものじゃ。リドルの計画が何か知ることは、他ならぬ君自身に必要なことでもある。それでは、頑張ることじゃ。…では、おやすみ」
突然帰れと言われて、ハリーは少し驚いた
だが、今夜は三つも記憶の旅に出たのもあり、少し疲れは感じていた
『憂いの篩』から落ち、他者の記憶に入るのは、全身にじんわりとした倦怠感を感じるのだ
それに、今は気になることが増え過ぎてハリーの頭もいっぱいいっぱいだった
いうなれば、パンクしそうな気分だ
全てスッキリしない記憶ばかり
肝心なことが何もわからない
そして、ハリーは素直に立ち上がった
「先生、おやすみなさい」
校長室の戸を閉めたハリーは、そのまま重い足取りで寮の自室に戻った
「我が子孫に待ち受けるは破滅のみ…本当にあの子に任せていいのか」
「心配かの?フィニアス」
「あの子は利口ではない。勇敢だが頑固だ。ーー呪われた我が子孫に救いの道はないが、あの子の手で終わるのは癪に触る。我がブラック家の者の手で終わればよいものを」
半ば呆れるように、吐き捨てて言った肖像画のフィニアスの言葉からは、一時的にでも、ブラック家の当主を務め上げたオフューカスへの尊敬の念があった
ブラック家の子孫として、オフューカス・ブラックの存在を認めていたのだ
「ダンブルドア、まさか我が子孫を救おうなどと考えてはおるまいな?あれは呪われておる」
「どうじゃろうな。あの子の贖罪はまだ続いておる」
静かに呟いたダンブルドア
「哀れなものよ」
ダンブルドアの言葉に、誰に言うでもなくぽつりと呟いたフィニアスの表情は、言葉とは裏腹に、失望を滲ませていた
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次回はいよいよ謎のプリンスラスト
だが、記憶の旅は酷く重い混乱の極みだった