pixivは2022年7月28日付けでプライバシーポリシーを改定しました詳しいお知らせを見る
※詳細設定捏造過多
————————————
ヴォルデモート卿の復活の日から、ハリーはダンブルドアのところに来ていた
休み期間に入る前に、どうしても聞いておきたいことがあったのだ
だが、ダンブルドアは厳しい表情で言った
「よいかハリー。Msポンティのことはわし以外の誰にも言うではないぞ」
「はい…でも、教えてください先生…彼女は…彼女は何者なんですか…あいつは言ってた…「会いたかった」って…あいつは彼女を知ってるの?どういうことなんですか?先生は知っているんですよね?」
ヴォルデモートが自分に目もくれず彼女にうっとりするように話しかけていたことを思い出して、焦ったように、尽きない疑問をぶつけるハリーに、ダンブルドアは手で制した
「ハリー。それを、わしの口から語る資格はないのじゃ。今はただ、わしを信じてくれんかの?」
諭すように言うダンブルドアの姿に、ハリーは歯を食いしばった
自分だけ何も知らない
シリウスには彼女と関わるなと言われる
セドリックは彼女の言う通り生きていた
それに、ダンブルドアの表情だ
ハリーが初めて見たものだった
まるで何かを悔いるような…厳しい顔つき…
こんな表情は見たことがない
それを見たら…ハリーにはもう何も聞けなくなった…
「わかり…ました…」
「すまんの」
「ユラ、体調はもう大丈夫なのかい?」
「ええ。多分ダンスパーティの時に冷えたからかな」
「冷え性なのかな?でもよかったよ。風邪とかひかなくて」
「そうだね…もしかしたらそうかもしれない。心配してくれてありがとうセオ」
「ユラは病弱だからね。それに友人なんだから心配するのは当たり前だよ」
「ちょっと待ち、私は病弱じゃないよ?それなりに体力ある方だよ?インドアだけど…」
「暇さえあれば本の虫のなっているインドアは、それなりに体力あるなんて言わないよ。それに授業以外で運動ひとつやろうとしないよね?」
「うっ……ソ…ソンナコトナイヨ」
そうだ
私はやつの悪魔の指導で運動というか…酷使されている…
「ユ・ラ?」
「モウイイマセン」
なんか最近セオがお母さんみたいになってきた…
あれから、ダンブルドアは、クラウチJrから、真実薬でヴォルデモートの復活までにしてきたことを全てを吐かせ、アズカバンに送った
バーテミウス・クラウチは…残念ながらJrに殺されていた…
だが、私はあまり何も思わなかった…
彼はそれだけのことをしてきた…因果応報である…
シリウスを裁判をかけず、アズカバンに送ったのも彼だ…
ある意味…ここで亡くなってよかったのかもしれない…
最低だ……私は…
魔法省は、やはり『ヴォルデモート』が復活したことを頑なに信じなかった
それはそうだろう…ファッジの性格だ…
目撃者は私とハリーしかいない
ディゴリーは仮死状態だったので、目撃していない
それに今回、彼と戦ったのは…殆ど時間稼ぎのための切迫戦だったけど…私だ…
首に残った痕は、マダム・ポンフリーに手当てしてもらった
彼女は驚いていたけど、何も聞かなかった
本当に…余計な詮索をしない人は助かる
吐血したのは魔力の消耗しすぎだ…
これは…彼の指導で慣れていたから…よかった…よくないことなんだろうけど…
あれから私は、来年は動きにくくなるのが目に見えているので、ムーディに連絡を取って、心当たりのある分霊箱を教えて探してもらっている
その際、見つけても絶対に触らないこと、破壊しようとしないことを言い含めた
ムーディは警戒心が強いから大丈夫だろう
私は…一応’’彼’’に聞いてみた…
私が贈った…プレゼントが分霊箱にされているのか…
だけど彼は「僕が否定しようが、君は信用しないんだろう?」と言ってきた
そうだ…
信じていない…
その時、彼はまるで懐かしむような…幸せな思い出かのような顔で…いつも恐ろしげな紅を和らげで言った
「お前からの’’心’’を、穢させたりはしない。あれは’’僕’’だけの物だ」
息が止まりそうだった…
彼はあんな表情ができたのか…
違う…違う…
彼の演技だ…あれは…
何度も何度も見てきた…彼の外面の顔…
目の前にいる彼が…ますますわからなくなった…
以来、彼を見るとあの表情が頭から離れなくなった…
頭を振って何度も振り払おうとして消えてくれない…
彼の狙いはこれなんだと分かっていても…
油断させて…敢えて隙を見せるようなことをして…
心に入り込むだけ入り込んで…掻き回して…痛ぶっていく…
私は、その混乱の感情に蓋をして、ムーディが分霊箱を探す旅の助力をすることにした
彼の言ったことは…関係ない…探さなければならない…
あやふやな彼の言葉に頼るのは、よくない…
休み期間に入る前に、何度かハリーは私に話しかけてこようとしていた
私はセオ達から離れずに、ハリーと話さないように避けた…
今回のことを受けて、シリウスからますます私を警戒するように言われているだろう
ダンブルドアは賢い……何を言うべきことか、言わざるべきことか、よくわかっている人だ…
ムーディは言わずもがな、ダンブルドアが黙秘するならば拷問されようが言わないだろう…
セブルスは心配するまでもない…
あれから、セブルスとは距離がある…
授業は普段通りだったが、私はセブルスも避けた…
会わせる顔などない…
セブルスには謝っても…赦されないんだ…
いくら、二度目の人生で’’彼’’とのことを思い出せなかったと言ったとしても…
卑怯だ…
私はどうしようもなく…自分に都合の良いようにしか言っていない…
だから…だから’’彼’’につけ込まれる…
事実、私が言ったことに彼は無言だったが、満足気だった…
無意識に彼を悦ばせるようなことをするのが…染み付いてしまっている…
生存本能だった…と言い訳できない…
結局殺されたのだから…
ルシウスには、今回ついに動いてもらう
学校があるドラコを除いて、タイミングを見て、彼の家族には遠い国に身を隠してもらう
彼の唯一の足枷になるとしたら、人質を取られることだ
だから、私は彼の家族が身を隠すことができる絶対に安全な場所を提供した
彼はこのことに頷き、タイミングを見てこちら側につく
ルシウスが裏切ったとわかれば、大変なことになるだろう…
だから、彼も身を隠す場所も必要だった
だが、彼はドラコが学校にいるなら、国からは出ないと言った
ナルシッサが息子に会えない分も、私が近くにいる必要があると…
本当に家族想いな人…
不穏になってくるこの状況で…私は自分の家族を助けたかった…
だから…長期で…日本に行かないのか、と不自然じゃない程度に勧めた
両親も世間での噂を聞き、私が学校にいる間、日本に滞在しようかと考えていたようだった
私は学校があるし、行かないわけにはいかない
絶対に手紙を寄越すことを約束し、心配そうな両親との約束で、彼らは新学期が始まると同時に日本に滞在することになった
一番狙われる可能性が高い…
私が彼に見つかった以上…
きっと…両親に会えるのは…これが最後になる…
愛してる…
私を愛してくれてありがとう…
ここまで育ててくれて…
たくさんたくさん…愛情を注いでくれた…
家族との思い出が溢れ出してくる私は…その日、苦渋の顔をして、涙を浮かべる両親を送り出した…
一人になった家で、私はついに泣き出した
ベットで啜り泣くのが止まらない…
「う゛っ…う゛ぅ…ごめっなさっ……」
「主…」
涙が止まらない…
溢れてくる…
目が枯れるほど泣いているのに…止まってくれない…
シーツがどんどん濡れていく…
私が泣いていても…もう優しく抱きしめてくれる母はいない…
辛くて苦しくて…それでも家族と過ごしている時は…忘れられた…
幸せだった…
たとえ…嘘で塗り固められた私でもっ…
「あ゛ぁぁぁ…っ…」
「私がいる。主には私がいる…最後まで側に」
センリの慰める声が聞こえるっ…
もう会えない…
私は死ぬ…
こんなに幸せな家庭は…初めてだった…
「センリっ……ごめんなさいっ…私は…あなたも置いて…」
「主。私は主が終わる時に終わると決めている。お父上とお母上の代わりに私が最後まで側にいる」
「センリっ……どうしてっ…そこまで私なんかにっ…」
しゅるしゅるとベットに項垂れる私の前で心配そうに見上げてくるセンリの聞く
「主が主だからだ。主は私の子どものようなものだ」
センリの言葉にまた涙が溢れ出した
「っ…センリっ…ありがとうっ…」
「うむ」
頷くように軽く頭を動かしたセンリに私は溢れる涙を拭う
「ナギニ」
「……お願いだから…今は構わないでっ…」
背後で聞こえる彼の声に私は涙を拭く
「それを聞く義理はない。ナギニ。’’僕’’以外の前で泣くなと何度も言っただろう。来い」
「いやよ……あなたには…今の私の気持ちなんて一生わからない…」
あなたには『愛』なんて理解できない…
こんな…こんな想いを…
あなたは才能の代わりに…それを持ち得なかった…
「わかるさ」
淡々とした彼の声を聞いて、私は眉が寄った
頭に血が昇るっ…
「いいえ!あなたはっ…あなたはっ……っ…もう放っておいて…泣くのは今日だけよ…私は泣く権利なんかないの…一人の時くらい…好きにさせてよ…」
胸が苦しい…
折角拭った涙がまた熱を持って溢れだす…
人前では泣けない…泣く資格すらない…
彼の前でもだ……
なのに…私は何度か…いいえ…何度も彼に泣かされた…
自分が嫌い…
大嫌い…
「ナギニ。僕を見ろ」
そうやって命令すればなんでも思い通りになってきた…
逆らう人なんていなかった…
声ひとつで人を魅了できた…
振り向かない私に彼は痺れを切らしたように、肩を掴んで私をひっくり返した
ベットに押し付けられて、酷い顔を見られる…
見ないでよ…
どうせ酷い顔だとか罵倒するんでしょ…
彼の手が私の手首を緩やかに抑えてる
彼の顔を見たくない…
いつもなら逸らすことを許されないのに…震えて従ってしまうのに…今は顔を逸らしてしまった…
「僕を、見るんだ」
「………」
いや…
見たくない…
どんな仕打ちを受けても良い…今は見たくない…
彼に見下ろされてから長い沈黙が支配した…
黙って顔を逸らす私に、彼はとうとう口を開いた
「’’僕’’はお前がいたから’’僕’’でいられた…お前が僕に’’愛’’を教えた…誰かを愛することを」
時が止まったかのように思われた…
今…彼はなんて?…
信じられない言葉が彼の口から出た…
「…そん…な…嘘よ…私は…そんなことっ……教えてない…わ」
声が喉で詰まって途切れ途切れでしか出ない…
必死に返した言葉は自分でも信じられないものだ…
いつもならあり得ないとばかりに切り捨てる…
彼の口から出たなら尚更だ…
「あんたは…勘違いしてるっ…それに…私は…あんたにされたことっ…覚えてるわっ…」
どれだけ痛ぶられたかっ…人の心に勝手入り込んでっ…
散々愉悦に浸っていたじゃないっ…
忘れたなんて言わせないっ…
「それは’’彼’’だ。’’僕’’ではない。薄々気づいているだろう。’’彼’’を一番近くで見てきたお前だ。’’彼’’がお前にどんな執着を寄せているか」
っ
やめて…やめて…聞きたくない…
そんなこと聞きたくないっ…
彼の言葉をそれ以上聞きたくなくて首を振る
力を入れて手首を巻きつく彼の手を解こうとするがびくともしない…
「なぜ、彼がお前を’’殺した’’のか、殺そうと’’しない’’のか」
いや…いやよっ…違う!
どうして今そんなことを言うのっ…
気づきたくなかったっ…こんな残酷なことっ…
だって…だって…それが仮に事実だとするならっ…
私は…私のせいで…
「そうだ。全て’’お前’’が関わったことで運命は変わった」
私のせいで…罪もない人が…
そんな…嘘よ…嘘だと言って…
彼自身の本性がそうさせただけよ…
「それもある。だが’’僕’’を生み出したのは他でもないお前自身だ。それが吉と出るか、凶と出るか、それはお前次第だ」
やめて…そんな重い…私には過ぎたものっ
背負わせないでっ…
背負いたくないっ…
だって…だって…
「ナギニ。’’僕’’に助けを求めろ。不信感も猜疑心も全て捨てろ。お前のためなら’’僕’’はどんなことでもしてやる」
それは…たとえ私が死ぬような運命にあったとしても?
あなたが私をこうさせた…
あなたが私を縛った…
共に死ぬと…約束させたじゃない…
それをわかってて…
なんて残酷な人っ…
私は信じないっ…
あなたのしてきたことをっ…あなたの吐いた言葉をっ…
信じられるわけがないっ…
そんな…そんな声で…目で…表情で言われてもっ…
あなたは…’’彼’’と違うというけれど…本性は変わらない…
どんなに取り繕ったって…
あなたは結局…支配することでしか満足できない人…
手段なんて選ばない…
最低な人…
「待っているよナギニ。僕はお前に対しては気が長い……もう少しくらい…待てる」
静かな声色で…そう言った彼は、力の抜けた…私の手首を取って、口許に持っていき、唇を押し付けた…
憂げな…どこか寂しそうな…彼の自信に溢れた紅い目が細められて…彼は消えた
その後…私は一日動けなかった…
食欲もなく、センリが「こういう時ほど食べた方がいい」と言ってくれたが…私は食べなかった…
切り替えなければいけない…
今はこんなことに振り回されている暇はない…
それこそ彼の思う壺だ…
一方、ハリーは休み期間に入ってから数週間、突然、現れたディメンターにダドリーと一緒に襲われ、咄嗟に使った『守護霊の呪文』が魔法省に伝わり、ホグワーツ退学処分を言い渡されていた
自分の身を守るために仕方なくしたことなのに、唯一の家を退学になり、ハリーは怒りに満ち溢れた
そして、ダーズリー一家が外出した後、家で物音がした
泥棒だと思ったハリーは、杖を構えて、物音を立てずに耳を澄ませた
そして、足音が二階に上がってきて、近づいてきて、部屋の扉を開けた時、杖を向けた
だが
「シリウス!」
そこに現れたのは唯一の家族、シリウス・ブラックだった
杖を光らせていたシリウスはハリーが元気そうなのを確認して腕を広げた
ハリーは嬉しくなり、シリウスに抱きつき、抱擁を交わした
「元気そうでよかったハリー。迎えにくるのが遅くなってすまない」
シリウスは申し訳なさそうにハリーに謝罪し、離れた
「やぁ元気そうでよかったよ、ハリー」
後ろから現れたのは、なんと一年以上会わなかったルーピンだった
「ルーピン先生!」
思わず、嬉しさで声を上げて言ったハリーにルーピンはくたびれた笑顔で微笑んだ
「わぁぁぁ、私の思ってた通りの顔をしてる」
後ろから杖灯りを高く掲げた魔女が言った
その魔女は一番若く、色白のハート型の顔、キラキラ光る黒い瞳、髪は短く、強烈な紫で、つんつん立っている
「よっ、ハリー!」
「うむ、リーマス、君の言っていた通りだ」
一番後ろに立っている禿げた黒人の魔法使いが言った
深いゆったりした声で、片方の耳に金の耳飾りをしている
「ジェームズに生写しだ」
すると、後ろの方の白髪の魔法使いが、ゼイゼイ声で言った
「目だけが違うな」
「リリーの目だ」
「ルーピン、確かにポッターだと思うか?」
ムーディがハリーをじっと見ながらルーピンに尋ねる
「ポッターに化けた『死喰い人』を連れ帰ったら、いい面の皮だ。本人しか知らないことを質問してみたほうがいいぞ。誰か『真実薬』を持っていれば話は別だが?…ハリー、君の守護霊はどんな形をしている?」
ルーピンがハリーをじっと見て、そう聞き
ハリーは緊張しながら答えた
「牡鹿」
「マッドアイ、間違いなくハリーだ」
それから、束になってきた魔法使い達もリビングに降りて、ハリーは自分を貪るように見つめる皆の視線に
「僕はー……皆さんは、ダーズリー一家が外出していて、本当にラッキーだった…」
「ラッキー?へ!フ!は!」
突然紫の髪の魔女が笑った
「私よ。奴らを誘き出したのは。マグルの郵便で手紙を出して、『全英郊外芝生手入れコンテスト』で最終候補に残ったって書いたの。今頃授賞式に向かってるわ…そう思い込んで」
ハリーは一瞬想像して、笑いそうになった
そして、質問した
「出発するんだね?すぐに?」
「まもなくだ。安全確認を待っているところだ」
「どこに行くの?『隠れ穴』?」
ハリーはそうだといいな、と思い聞いた
「いや、『隠れ穴』じゃない。違う」
ルーピンはキッチンからハリーを手招きしながら言い、魔法使い達が小さな塊になってその後に続いた
「あそこは危険過ぎる。本部は見つからないところに設置した。しばらくかかったがね」
シリウスがハリーに説明した
「ハリー、この方はアラスター・ムーディだ」
ルーピンがキッチンのソファに腰掛けているムーディを紹介して、ハリーは「ええ、知っています」と答える
今度こそ本物だ
「そして、こちらがニンファドーラー…「リーマス、私のことニンファドーラって呼んじゃ’’ダメ’’」」
ルーピンが紫の髪の魔女を紹介しようとしたら、身震いした様子で魔女が訂正した
「トンクスよ」
「ニンファドーラ・トンクスだ。苗字の方だけを覚えて欲しいそうだ」
「母親が『かわいい水の精ニンファドーラ』なんてバカげた名前をつけたら、あなただってそう思うわよ」
トンクスがぶつぶつと言った
「それからこちらは、キングスリー・シャックボルト」
ルーピンは背の高い、黒人の魔法使いを指さした
紹介された魔法使いは頭を下げた
「エルファイアス・ドージ」
ゼイゼイ声の魔法使いがこくんと頷いた
それから何人かの魔法使い、魔女を紹介されて、ハリーはなぜこんなに大勢いるのか疑問だった
「君を迎えに行きたいと名乗りをあげる者が多くてね」
ルーピンがハリーの心を読んだかのように、口の端をひくひくさせながら言った
「まぁ、まぁ、多いにお越したことはない」
ムーディが暗い顔で言った
「ポッター、わしらはお前の護衛だ」
「私たちは今、出発しても安全だという合図を待っているところなんだが」
ルーピンがキッチンの窓に目を走らせながら言い
「あと十五分ほどある」
シリウスが付け足した
「あの、いったい何が起こってるんですか?誰からも何も知らされない。いったいヴォル…「シィーーー!」」
ハリーが言おうとした言葉に全員が奇妙な声を出して、ムーディが「黙れ!」と言った
「え?」
ハリーは戸惑う
名前を出しただけなのに…と
「ここでは何も話すことができん。危険過ぎる」
ムーディは普通の目をハリーに向けて言った
「魔法の目」は天井を向いたままだ
それから、魔法使いの塊は、合図があったので、家の外でて、ムーディの杖を音で現れた箒を持って、隊列を組み、「隊列を組め、誰かが殺されようと、列を崩すな」と言われて、ハリーはゴクリと息を呑んだ
そして、ロンドンの街にある、グリモールドプレイス12番地、隠されたブラック邸にきた
中に入って出迎えてくれたのは、モリー・ウィーズリーだった
「まぁ、ハリー、また会えてうれしいわ!」
囁くようにそう言うモリーは、肋骨が軋むほど強くハリーを抱き締め、それから両腕を伸ばして、ハリーを調べるかのようにマジマジと眺めた
「痩せたわね、ちゃんと食べさせなくちゃ。でも残念ながら、夕食まではもうちょっと待たないといけないわ」
そう言って、モリーは後ろの魔法使いの一団に向かって、急かすように囁いた
「あの方がいましがたお着きになって、会議が始まっていますよ」
ハリーの後ろで魔法使いたちが興奮と関心でざわめき、次々とハリーの脇を通り過ぎて、モリーがさっき出てきた扉へと入って行った
ハリーはルーピンについて行こうとしたが、モリーが引きとめた
「だめよ、ハリー。騎士団のメンバーだけの会議ですからね。ロンもハーマイオニーも上の階にいるわ。会議が終わるまで一緒にお待ちなさないな。それから夕食よ。それと、ホールでは声を低くしてね」
モリーは最後に急ぐようにそう囁いた
「どうして?」
「何にも起こしたくないからですよ」
「どういう意味?」
「説明は後でね。今は急いでいるの。私も会議に参加することになっているから。あなたの寝るところだけを教えておきましょう」
唇にシーっと指を立てて、モリーは先に立ち、カーテンの前を抜き足、差し足で通った
その裏にはまた別の扉があるだろうとハリーは思った
トロールの脚を切って作ったのではないかと思われる巨大な傘立ての脇をすり抜け、暗い階段を上り、萎びた首がかかった飾り板がずらりと並ぶ壁の前を通り過ぎた
よく見ると、首は屋敷しもべ妖精のものだった
全員、なんだか豚のような鼻をしていた
一歩進むごとに、ハリーはますますわけがわからなくなっていた
闇も闇、大闇の魔法使いの家のようなところで、いったいみんな何をしているのだろう
「ウィーズリーおばさん、どうしてーーー…」
「ロンとハーマイオニーが全部説明してくれますよ。私はほんとに急がないと」
モリーは上の空で囁いた
「ここよ。あなたのは右側のドア。会議が終わったら呼びますからね」
そして、モリーはまた急いで階段を降りて行った
ハリーは蛇の頭の取っ手を回して、ドアを開けた
するといきなり衝撃がきて、ハーマイオニーに抱きつかれたのだと分かったハリー
「ハリー!」
「ハーマイオニー」
「ロン!ハリーが来たわ!ハリーが来たのよ!到着した音が聞こえなかったわ!ああ、元気なの?大丈夫なの?私たちのこと、怒ってた?怒ってたわよね。私たちの手紙が役に立たないことは知ってたわ。だけど、あなたには何も教えてあげられなかったの。ダンブルドアに、教えないことを誓わせられて。ああ、話したいことがいっぱいあるわ。あなたもそうでしょうね…ディメンターですって!それを聞いた時、…それに尋問のこと…とにかく酷いわ。私、すっかり調べたのよ。魔法省はあなたを退学にできないわ。できないのよ。『未成年魔法使いの妥当な制限に関する法令』で、生命を脅かされる状況においては、魔法の使用が許されることになってるの…」
「ハーマイオニー、ハリーに息ぐらいつかせてやれよ」
ハリーの背後でロンがニヤッと笑ってドアを閉めた
そして、ハーマイオニーがハリーから離れて,言葉を続けるより早く、柔らかいシューという音と共に、何か白いものが黒っぽい洋箪笥の上から舞い降りて、そっとハリーの肩に止まった
「ヘドウィグ!」
「このふくろう、ずっとイライラしてるんだ。この前手紙を運んできた時、僕たちのことを突っついて半殺しの目に遭わせたんだぜ。これ見ろよーー」
ロンが右手の人差し指をハリーに見せた
もう治りかかってはいるが、確かに深い傷だった
「へぇ…そう。悪かったね。だけど、僕、答えが欲しかったんだ。わかるだろーー」
「そりゃ僕らだってそうしたかったさ…ハーマイオニーなんか、心配で気が狂いそうだった。君が、何のニュースもないままで、たった一人でいたら、何かバカなことするかもしれないって、そう言い続けてたよ。だけどダンブルドアが僕達に…「僕に何も言わないって誓わせた」…あぁ、ハーマイオニーがさっきそう言った」
その瞬間、氷のように冷たいものがハリーの胃の腑に溢れ、二人の親友に会って、胸の中に燃え上がっていた暖かな光を消した
突然、1ヶ月もの間あんなに二人に会いたかったのに…
ハリーはロンもハーマイオニーも自分を一人にしてくれればいいのにと思った
だが、そこでハリーの頭の中にある言葉がよぎった
ーーーー「もし私があなたを狙っている人間なら、あなたに近づくためにどうするかしら?」ーーーー
彼女の言葉だ
その言葉を思い出した瞬間、ハリーは消えていた光が灯った
冷静になり、二人を見たハリー
自分を不安げに心配する顔…
「ここはいったいどこなんだい?」
少し落ち着いたハリーは二人に尋ねた
「本部だよ」
「不死鳥の騎士団。秘密組織よ。ダンブルドアが設立者なの。前回『例のあの人』と戦った人たちよ」
「誰が入っているんだい?」
「ずいぶんたくさんよ…」
「僕たちは十二人ぐらい会った。だけど、もっといると思う」
「それで?ヴォルデモートは何を企んでいるんだ?どこにいる?やつを阻止するのに何をしてるんだ?」
「騎士団は私たち未成年を会議に入れてくれないの…若過ぎるから…だから詳しくは知らないの。だけど大まかなことはわかるわ」
「フレッドとジョージが「伸び耳」を発明したんだ。うん。なかなか役に立つぜ」
「伸びー?」
「耳。そうさ。最近は使うのをやめざるをえなくなった。ママが見つけてカンカンになってね。耳をゴミ箱に捨てちゃうのもんだから、フレッドとジョージは耳を全部隠さなくちゃならなくなった。だけど、ママにバレるまでは、かなり利用したぜ。騎士団が面の割れてる『死喰い人』を追いかけてることだけはわかってる。つまり様子を伺ってるってことさ。うんーー」
「騎士団に入るように勧誘しているメンバーも中にはいるわ」
「それに何かの護衛に立っているのも何人かいるな。しょっちゅう護衛勤務の話をしてる」
そして、ハーマイオニーが何か言いかけた時に、フレッドとジョージがいきなり現れた
「やぁハリー、君の甘ーい声が聞こえたように思ったんでね」
ジョージがニコリとハリーに笑いかける
「怒りたい時は抑えちゃだめだよハリー。全部吐いちゃえ」
フレッドも同じくにっこりしながら言った
「面白い話、聞きたくないか?」
フレッドがそう言い、五人と、ジニーは「伸び耳」で会議を盗聴するために糸を垂らそうとした
だが、その時、見下ろしていた下の廊下に黒いローブを深く被ったハーマイオニーくらいの背丈の者が入り口から歩いてきていた
「おい…あれ誰だ?」
「女っぽいけど…」
「ハーマイオニーくらいだな?」
フレッドとジョージ、ロンが誰なのか、とひそひそと話す
すると、屋敷しもべ妖精がそのローブを深く被った人物に近づいて言った
「おぉ。お嬢様。よくお戻りになられました。こんなにお痩せになられて…クリーチャーめがすぐに温かいハーブティーをご用意いたします」
いきなり、あの頑固で、純血至上主義の誇り高いブラック家仕えている、フレッド達や、特にハーマイオニーに態度の悪いクリーチャーが嬉しがるように、恭しく手をすって、腰が低い様子で話しかける人物に六人は顔を見合わせた
そして、つぎの瞬間、聞こえてきた声に、六人は驚くどころではなかった
「久しぶりねクリーチャー。心配してくれてありがとう。私はすぐに出て行きますので、そうね…あなたのお茶だけ頂こうかしら。ゆっくりでいいわ。お願いしますね」
「もちろんですオフューカス様。クリーチャーめはお嬢様のためにすぐにご用意致します。奥へどうぞ。レギュラス様がお待ちでございます」
「ええ。シリウスは…」
「おられます。ですが、クリーチャーは奥様に言われました。高貴なるブラック家の跡を継ぐのはレギュラス様かお嬢様だけだと」
「クリーチャー。当主はシリウスよ。あなたの気持ちは有難いけれど、弁えなさい」
「ははっ…クリーチャーとしたことが申し訳ございません」
「いいえ。あなたはよくやってくれているわ。これからも『守り人』として、支えてあげて頂戴」
「かしこまりましてございます。クリーチャーはお嬢様とのお約束をお守りいたします」
「行って。お茶を待っているわ」
「ははっ…失礼致します」
そう言って恭しく下がったクリーチャーの横を通り、オフューカスと呼ばれた、よく聞いたことのあるユラの声と同じく人物は、奥の部屋へと入って行った
がやがやと会話が聞こえる扉が開き、閉まった後で六人は顔を見合わせた
「フレッド…今のってなんだ?貧血ポンティがオフューカスとか呼ばれた?」
「クリーチャーのあんな態度レギュラス先生以外初めて見たぞ…」
「あいつ…なんで会議に入れるんだ?それにメンバーだったのか?」
「オフューカスって誰なの?あの人ってスリザリンの生徒よね?」
ジニーが不思議そうに聞く
「オフューカス・ブラック…シリウスの実の妹で、レギュラス先生の双子の妹よジニー。記録では亡くなったはずの女性よ」
ジニーの質問にハーマイオニーが息を落ち着けるように答えた
「…え…」
「んじゃその人が生きてたっていうのか?」
「いいえ。死んだはずよ…」
ハーマイオニーはハリーを見ながら信じられない様子でそう呟いた
「でもクリーチャーははっきりとオフューカスって言ってたぞ?」
「しかも様付け」
「なぁハリー…」
「僕の言った通りだよ。シリウスも…認めていた。彼女はオフューカス・ブラックだったらしいんだ…」
ハリーは彼女に気を許すなと言われていたのもあり、一応妹だとは認めていたことも含めて、混乱する五人に言った
それから五人は衝撃に絶句しながらも、取り敢えず会話を盗み聴こうと「伸び耳」を扉の前に垂らした
ハリーに全てを伝えるべきだいうシリウスと、ハリーは子どもだと言って早すぎるという言い合いをしていたモリー
白熱する会議の中、ドアが開く音が響き、黒いローブを深く被ったハーマイオニーくらいの165程の身長の華奢な女が現れた
「少々トラブルがあり遅れました」
所々汚れて、破れているローブ
ローブから見える黒とシルバーの東洋の衣装に似た格好をした女性が深々と被っていたローブを下ろした
右手の人差し指には金と黒い石の指輪をしており、現れた顔は、隈が薄らと浮かび、どう見ても痩せ過ぎている、疲労を滲ませた疲れた表情で、波打つ黒髪と黒曜石のような淡々した目…
白い肌で、憂げに会議の全員を見回した女
「おぉ。Msポンティ。よく来たの。無事でよかった」
ダンブルドアがいち早く彼女に寄って、握手して軽く抱きしめた
「ええ、ダンブルドア先生も、お変わりなくてよかったです………レギュラス」
ダンブルドアと抱擁を交わし、彼女はダンブルドアの側の席から立ち上がっていたレギュラスの方を見た
「っ…オフィーっ…よかったっ…無事だったんだねっ…」
すぐに寄って抱きしめたレギュラスに彼女は隈が浮かぶ顔でレギュラスと抱擁をかわす
「ええ…私は大丈夫よ…心配させてしまったわ」
「全くだっ…ダンブルドアから君が騎士団になったと聞いて…」
「その話は後にしましょう。レギュラス」
そう言って、レギュラスの腕を軽く叩き、座るように促した彼女
明らかに普段のレギュラスからは想像できない感情的な様子に、知っている者以外が唖然とした
「ムーディ。すみません。少し来るのに手間取ってしまって…」
「構わん。その様子からするに連中か?」
ムーディが彼女の様子を見て,「魔法の目」をぎょろりと見回した
「ええ」
あっさりと肯定し、彼女は目を伏せた
「よく撒けたものですな?」
嫌味にも聞こえるセブルスの言葉に、彼女は肩を軽く落としてきつく目を瞑り、ふるふると首を振った
「えぇ、ですが、お陰で色々と収穫もありました」
「ほぉう。それは、それは…是非聞きたいものですな?」
「ええ、その話をする前に…「何故お前がここにいる?ダンブルドア、あなたが引き入れたのか?…」」
セブルスの目を見て、応えようとした彼女に、シリウスの鋭い不機嫌な声が響く
「そうじゃシリウス。紹介しておこうかの。ユラ・メルリィ・ポンティ殿じゃ」
「ちょ…ちょっと待ってください。彼女は未成年ではありませんか?」
モリーが慌てたように、顔を青くして恐る恐るダンブルドアに聞く
「ええ、私はハリー達と同じ学年の、ユラ・メルリィ・ポンティと申します」
「異例じゃが、彼女には騎士団が再び集結する前からわしの元で情報を集めてもらっておった」
「なんてことっ…」
モリーが信じられないというか顔つきで口元を手で覆い未成年の彼女を見た
「私は反対だ。こいつは信用できん」
シリウスが彼女を睨みつけるように言い、緊張した空気が漂う
「ダンブルドアがお認めになる者を認めない、と、そういうことですかな?いい加減浅慮な私情をお捨てになってはいかがか?」
意外にもスネイプが静かにブラックにそう言い、一層周りの空気が凍りつく
「なんだとスニベルス?この私が浅慮だと?」
「それ以外の何なのでしょうな?いつまでも子どものような我儘を言い、根拠もない妄想に取り憑かれるとは…実に愚かですな」
「私が子どもだと!?それはお前だろう!いつまでも学生の頃のことを根に持っているお前が言えるのか?それにこいつはマルフォイと懇意にしているんだぞ!?」
「だから貴様は浅慮だというのだ。騎士団の活動内容がどんなものかお忘れになられたか?」
忌々しい顔でシリウスを睨み、言うスネイプに子どものように反応して怒鳴るシリウス
「シリウス、やめないか…」
ルーピンがシリウスを止めようと、呆れたように声をかけるが
「兄さん、もういい加減にしてくれ…」
レギュラスが苦い顔をしてシリウスを睨めつけるように呟く
「シリウス、あなたが私を気に入らないのはわかりますが…「私は言ったはずだぞ。ハリーに近づくなと。騎士団のメンバーだと?私は認めん。お前ほど信用できんやつはおらん。騙されんぞ」…約束は破っていません。ハリーには近づいていません。話が進みませんので、先に入手した情報の報告を。『例のあの人』は今学期、ハリーと’’絆’’を結ぼうとしています」
机に手を置いて、疲れたように目を伏せてから、ダンブルドアに視線を向けて言った彼女に、ダンブルドアは少し身を乗り出して考え込んだ
「ふむ…セブルス」
ダンブルドアが思案するようにセブルスの意見を聞く
「今のポッターは『闇の帝王』に入り込まれれば2秒と持ちますまい」
淡々とした表情で小馬鹿にしたようにセブルスが答えた
それに同意するようにダンブルドアに視線を移す彼女
「ハリーに’’閉心術(オクルメンス)’’の訓練をさせるつもりですか?あの子に?」
何も言わずに、ただ納得する全員にモリーがわなわなと震える
年端もいかないハリーには早すぎる、ただでさえこんな危険なことに巻き込まれているのに…というハリーへの心配が渦巻く
それから、会議は重い空気で続き、シリウスは、ダンブルドアの前なので落ち着いて会話していたが、内心彼女を認めていなかった
彼女を初めて見たメンバーは、ダンブルドアに信頼をおかれている様子を見て、彼女を一応信用することにしたのだった
そして、会議が終わり、モリーが扉を開けて、ハリー達を呼びに行った
ハーブティーを飲み終わり、立ち上がってローブを被った彼女の肩に、ダンブルドアは手を置き、言った
「Msポンティ。今日はここでゆるりと過ごしなさい」
最後に会った時よりやつれ、痩せたしまった、うっすら隈を浮かべた彼女を労るように言った
「そうしたいのは山々なのですが、戻らなければなりません」
少し口角を上げて、肩に置かれた手に指を添えて、ダンブルドアを見上げて言った彼女
その痛々しい表情にダンブルドアは厳しい顔をした
「Msポンティ」
そこで帰ろうとしたスネイプが彼女に後ろから声をかけた
振り返った彼女にひと言だけ言った
「新学期が始まったら吾輩の研究室に来るといい。今のままの顔では到底、保ちますまい」
暗にセブルス印のゲロマズ薬のことだとわかった彼女は少しホッとした
確かにあれはマズイ、不味すぎるが、セブルスがまた用意してくれるのだ
距離が少し元に戻った気がした彼女だった
「ありがとうございます、セブルス」
「ふん」
鼻を鳴らしてローブを翻して行ったセブルスに彼女はダンブルドアに向き直った
ハリー達が二階から降りてくる音が聞こえる中、ダンブルドアは、彼女にひっそりと聞いた
「して、あの件はどうじゃ?」
「未だに。と、だけ…」
「そうか…」
「すみません…」
「お前さんの謝ることではない。寧ろ、止られぬわしを許してくれ」
「…いいえ…先生は悪くありません…。では、私は行きます」
「あぁ、呉々も用心するのじゃぞ」
ダンブルドアはローブをまた深く被って『姿現し』をして消えた彼女に続いて、ダンブルドアも消えた
扉の外からハリー達が見ていたのに気づいていながら
ハリーは扉の先で、ダンブルドアがユラの肩に手を置いて何かを呟き、彼女が深刻な顔で返事をした後、『姿現し』を見た
ダンブルドアも自分に気づいているだろうに、こちらを見向きもせずに消えた
「今ポンティ『姿現し』使ったよな?嘘だろ?」
「ポンちゃんすっげぇ…」
フレッドとジョージは状況を呑み込むのが早いのか、肩を組んで関心しながら呟いた
「そんなレベルの話じゃないわ。まだ五年生なのよ?どうしてできるの…それに法律違反よ…」
ハーマイオニーが少し不満気に呟いた
それもそうだ。未成年は参加させてもらえない会議にメンバーだとも知らなかった彼女が参加し、ダンブルドアから信頼を置かれている様子を初めて見たのだ
「嫉妬しても仕方ないだろハーマイオニー。中身は僕らより遥かに年上だぜ?」
妙に物分かりのいいロンが、ハーマイオニーに諦めたように言う
ロンはこの夏で、背も伸びたし、中身も少し大人になった
「それは…そうだけど…」
不満気にもらすハーマイオニー
一方ハリーは、じっとダンブルドアがいた場所を見つめて言った
「ダンブルドアは僕に気づいていたはずだ…どうして…」
どうして、彼女のことを教えてくれないのか…
どうしてダンブルドアは自分に何も頼まないのか…
それ程自分は信用がないのか
心の中が急激に冷めていく
怒りにも似た憤慨を抱えて、ハリーは拳を握りしめた
「ハリー…」
一方、彼女は自分の家に戻っていた
既に家の周りには『目眩しの呪文』と『レペロ・イニミカム(敵を避けよ)』の呪文を張っている
自分にしか判らない場所に、今、ドラコ・マルフォイとセオドール・ノットが滞在している
家の扉を開けて、帰ってきた彼女に、ドラコとセオドールは目を向けた
既にルシウスと事を進めていた彼女は、ルシウスがセオドールの父親を説得することに成功し、国から離れられない彼らの子息をしばらくの間この家に滞在させるようにしたのだ
ここも決して安全とはいえないが、本拠地になっているマルフォイ邸や死喰い人がくるノット家よりは安全である
父親からは事情は彼女から聞くといい、とだけ言われ、呉々も自分達から会いにいくまで探すなと厳命された二人はここに来て、はじめてユラがオフューカスであること、そしてこれから何が起こるのかを聞いた
彼女は必要最低、彼らを守るために必要なことしか言わなかった
家に着いて、日本家屋らしい扉を開けると、ドラコとセオが宿題していた
えらいな…
「どこに行ってたんだ?」
「所用よ。それより何か変わったことはあった?」
呪文が打ち消された跡はないから大丈夫だろうけど…
「ないよ。ユラ、顔色が悪すぎる」
「死人みたいだぞ」
続けて心配されて、私はローブを脱いで座敷に腰掛ける
二人とも、ルシウスとセオの父親から彼らを託されて、説明した時、彼らの理解は意外にも早かった
話を聞くと、彼らも父親が僅かだが変わったこと、家の様子がおかしいことに勘づいていたようだった
ドラコは、私がルシウスと同級生だったと聞き、驚いて目をひん剥いていたが、妙に納得した様子だった
セオは終始黙っていて、最後に私に「仲良くなったのは近づくためだったのか?」と聞かれて私は正直に答えた
「私は自分が救いたいと思った友人を救う」
と、とても勝手だし、最低だが、嘘はつけない…
セオはそれだけ聞くと、いつも通りに戻っていた
一体彼の中で何が起こったのかは知らないが、その日からはセオは遠慮がなくなった
ドラコは知りたがりで、ルシウスの学生時代の頃のことをよく聞いてきた
私が「こういうところがよく似ている」と言うと、とても嬉しそうにしていた
素直なところはそのままだ
同時に私は、今学期…これから二人が必要になるだろう防衛呪文を教えた
ハッキリ言って、彼らは血筋を誇るだけあってすぐに習得した
元々、彼の集めた『死喰い人』自体が非常に魔力や能力に長けた優秀な精鋭達だ
学生時代からも優秀な成績を残したり、それなりに才能のあったものだ…
決して弱くはない
騎士団の戦死率が高いのがその理由だ
ハリー達、学生が勝てたのは、死喰い人同士の組織構成がガタガタで質が悪かったからもあるし、単純に運もある
「ユラ、『守護霊の呪文』を教えてくれないかい?」
新学期が近づいてくる中、今日は二人の指導をしていると、セオが真面目な顔で私に言ってきた
「一応、理由を聞いてもいい?」
「僕は、父とは違うと証明したい」
不合格ね…
誰かと比べることは悪いことじゃない…
父親のようになりたくないというのは反面教師という面においてはいいだろう
だけど、『守護霊の呪文』の本質はそこじゃない…
何かを証明するためのものではない
「そんな理由では『守護霊』は出せないわ。セオ」
可哀想だが、私がそう断じるとセオは拳を握りしめた
胸が苦しくなる…
そもそもセオが父親のことで苦しんでいるのは…そもそも私のせいでもある…
全て…
「あと三日あるわ。あなたは父親じゃない。セオドール・ノットよ。よく考えて」
突き放すようなことを言ってしまったが、こればかりはセオ自身が気づかなければならない…
背中を向けて行ってしまった、彼の見て心の中で謝る…
すると、ドラコも真面目な顔で私を言ってきた
「僕も『守護霊の呪文』を覚えたい…ユラ」
「そう、ドラコの理由は?」
「父上は…今の僕じゃ到底追いつけない人だが、力になりたい」
…本当にドラコは真っ直ぐだ…
真っ直ぐすぎる故に父親を疑わなかったんだろう…
だからこそ、事実を知ってもルシウスを信じている
「いいわ。『守護霊の呪文』を練習しましょう。成功させるコツはドラコの’’心の芯’’よ」
「心の…芯?」
「そう。’’一番幸せな想い出’’が貴方を守る。守護霊はその幸せを具現化させるもの。ドラコが強く思い出せばきっと、うまくいくわ。一日でできるものでもない。あと三日あるけれど、焦らないで。ゆっくり思い出すのよ」
「わかった」
「大丈夫。ドラコはルシウスにそっくりだもの。できるわ」
「あぁ」
神妙な頷いたドラコを見て、私はきっと大丈夫…と自分に信じ込ませた
正直、これから何が起こるか予想もつかない
あらゆることが変わりすぎている…
怖い…失いたくない…
もう…私のせいで…
ーーー「全て’’お前’’が関わったことで運命は変わった」ーーー
っ…
私が悪いんだ…私が…
その日の夜
「ユラ、これはなんだ?」
「煮物よ。甘辛くて私はこれが好きなの」
「うまいな。いつも家で食べるものと全く違う味だ」
ドラコが「いただきます」も言わずにパクパクと食べる
まぁいいんだけれど…
習慣がないからね
彼らがここにきてからご飯を作るのは私だ
ドラコとセオは最初「屋敷しもべはいないのか!?」と驚いていたけど
いや、普通はいないよ
私は食欲がなかったけど、最近は二人のおかげで少しは食べれている
それでもちょこん、みたいな量だから、ドラコにどやされるし、セオにはジト目で見られるが…
仕方ない…
日本食ばかりなので、二人は最初、初めて見る料理に警戒していたが、食べると慣れたようで今ではすっかり気に入ってくれている
ドラコはオムライスが気に入ったようで、よく、「今日はあれか?」と聞いてくる
可愛いと思ってしまったのは仕方ない
ナルシッサが溺愛するのもわかる気がした
最初は私が「キッチンに立つなんて使用人じゃないか!」とか言っていたのに
成長したね…
感動だよ
セオは肉じゃがが気に入っていた
かなり意外だった
もっとこう…渋いものが好きかと思ったが、意外と家庭的なものが好みのだったようだ
あくまで私のイメージだが
家は和と洋が混じった感じだったから最初らへんは、戸惑っていた
座敷に関しては、靴を脱ぐことに抵抗感があったようだが、今では大変寛いでらっしゃる
特にドラコ
ここはお前の家ではないぞ
というか、家より寛いでないか?
ルシウスに見られれば、間違いなく注意されるだろう寛ぎように私はまぁ、特に何も言わなかった
今は嵐の前の静けさだ
二人にはゆっくりしてほしい
私は自分の部屋を使い、ドラコとセオには客間を使ってもらっている
二つだけだが、あってよかった…
流石に父と母の部屋に案内するわけにはいかない
新学期の準備もぼちぼちしながら、セオはホグワーツに行く前に心が決まったようで、何度も失敗して、ついに『守護霊の呪文』を成功させた
セオの守護霊は「鷲」だった
見た瞬間、ドラコと感動したのを覚えている
ドラコはペットと同じ「ワシミミズク」だった
どうやらセオのようにカッコいいのがよかったようで、少し落胆して、突っかかっていたが、まぁ男の子同士なので放置した
仲良くしているようで何よりだ
それに…彼は…あの時から、姿を現していない…
そして、ホグワーツに行く前の夜、夕食を囲みながら、私たちは今学期の学校に関して話していた
なんだかよく考えるとカオスだよね、このメンバー
二人には、ハリーが今回、ディメンターに襲われたことは言った
今学期は一波乱あるからこれは知っておいた方がいいだろう
また変な問題が起こって誤解する前に
「『日刊預言者新聞』は嘘だらけだな。魔法省は何を考えているんだ」
ドラコが愚痴るようにこぼした
「いずれファッジは大臣を辞職することになるだろうな」
まさにその通りだよセオ
流石でいらっしゃる
予知能力でもあるのではなかろうか
「どうしてだ?」
ドラコが不思議とばかりにセオに質問した
「ディメンターが命令もなしにアズカバンを離れてリトル・ウィンジングに現れると思うかい?」
まぁ、尤もな疑問だよね
むしろなんでそこをスルーして普通に尋問をするのか、理解に苦しむ
「ドラコ、ディメンターはどこの管轄下だった?」
「魔法省だな……ん?…っ!」
ようやくわかった顔になった
遅いよ…ドラコくん…
「つまりそういうことよドラコ。冷静に考えれば、一番怪しいのはファッジになる。貴方がさっき言ったように『日刊預言者新聞』のことを嘘だらけだ、と考えるならね。どう思う?」
この二人は、彼の復活を知っている
親を通して
ならば疑いようがない…
「元凶は魔法省だな…」
「魔法省、というより大臣よね。信じたくないんでしょうね」
「僕は生まれてなかったから……何故あそこまで恐怖するのかわからないよ…」
「実際、尾鰭背鰭がついてるだけじゃないのか?」
まぁ…仕方ないよね…
子ども世代はわからない…
許されざる呪文をかけられたこともない…かけられるべきではないけど…
実際体験しないとわからない恐怖というものはある…
だからこそ、中途半端に片脚を突っ込んで出て来られなくなる…
好奇心と興味本意で…
「『自分だけは大丈夫』そういうのは関係ないのよ……『例のあの人』の前では。歯向かうもの、擦り寄るもの、掌を返すもの、仲間さえも殺す…人の命を命とも思っていないのよ」
彼は…命を弄ぶ…
平然と…
苦しめるだけ苦しめて…最後には殺してくれと懇願させて…
「…ごめんユラ…君は殺されたんだったよね…」
「いいのよ。私は気にしていないから…人は何れ死ぬ。…ただ今の二人みたいに、好奇心と興味本意で足を突っ込んだ人は…例外なく死んでいったわ…」
彼が気に入らなければ…ね…
そう言ったら二人の顔が真っ青になった
しまった…言いすぎたかな…
つい…でも二人には生きてほしいから…
道を踏み外してほしくない…
「「…………」」
「暗い話してごめんなさいね。私は友人を失いたくないから…でも、どうか気をつけて…貴方たちの父親は今それから貴方たちを守る為に闘っているのよ」
念押しでそう言うと、二人は深刻な顔をして肯いた
「明日から学校よ。色々大変だけれど、楽しみましょう。私たちの本分は学ぶことよ」
「……そうだね」
セオが深刻な顔つきが変わり、少し緩めて笑った
「…勉強ばっかりじゃないか」
「ドラコ。『O.W.L(ふくろう)』があるの、忘れてるでしょう?」
「あ…」
まぁ、結局、試験は有耶無耶になりそうだけどね
クィディッチも無しになるし
あのピンクば…もとい、おばさんのせいで
そして、新学期初日、天気が定まらない妙な日だ
新学期が始まる前に、ダンブルドアはよくわかっているのか、監督生任命の手紙が届いたのは、私の家だった
五年生のスリザリンの監督生はドラコだった
女性はパンジーだろう
パンジーなら大丈夫だ。ドラコともいいコンビだし
何より今のドラコにはセオがいる
仲間がいる
ダンブルドアは私を監督生にしたら動きにくいのがわかっていたんだろう
ありがたい…
私はてっきり嬉しがると思ったのに、ドラコは微妙な顔をしていた
理由を聞くと、「こんな時にしてられない」というものだった
なんとかセオと励まして、私にもし何かあったら、ドラコがいないとどうにもならないと言った
実際、その可能性が無きにしも非ず…
かなり高い気がする…
それを聞いた時、ドラコは「嘘だろ…」という顔をして、まるで置いていかれた子どものような顔をした
この休み期間で、二人とは以前よりも仲良くなった…と思う
そして、今宵も大広間で行われる組分けの儀式、席について食事が始まり、飲み物に手を出そうとしたら取られた
ちなみにピンクおばさんは気持ち悪い笑顔で座っている
セブルスのあの無表情よ…
嫌そうなのが丸わかりだ…
「よくやったわドラコ、セオドール。今よ。ユラの腕を押さえなさぁい!」
目の前のパンジーにいきなり悪役令嬢のような台詞を言われて、目が点になった
「え?パンジー?ちょっ…セオっ?ドラコっ?」
いきなり横から二人に腕を軽く押さえられて、連行されるみたいな間抜けな格好になった
「さぁ〜あ〜お・く・ち・を・あ・け・な・さ・い♡」
悪い顔で、フォークに刺した生々しい肉を持って口元に寄せてくるドアップ顔のパンジーに私は「うそぉ…」と冷や汗が流れた
「えっと…パンっもごっ!?」
「さぁ食べるのよ!どんどん食べなさい!この骨女!痩せすぎよ!監督生として今日からアンタの太ら…ん゛ん゛っ!栄養取り戻し計画を始めるわよ!」
おいこら
今太らせるとか言おうとしただろバカンジー
おほほほ!と高らかに宣言したパンジーに「こいつ…」と思ったのは仕方ない
「ええ!そうよ、私はひとっつも恨んでなんていませんとも。ええ?そうよ?休みの間、全然手紙をよこさなかったどこかの薄情な親友に怒ってんなんて?いませんとも?わたくし寛容ですから?え?待てど暮らせど親友から手紙が届かなかったから、その瞬間、あんたの太らせおデブちゃん計画を思いついて?いざ会ってまず、文句言ってやろうと思えば?骨みたいにガリガリになってるし?挙句に仮にも一応暫定、私くらいには綺麗な顔に隈なんか作ってるし?え?おいこら。今年は覚えてろよユラ」
一気に捲し立てて、髪の毛を令嬢のごとく払いながらいったパンジーにどこから突っ込めばいいのかわからない
流石のドラコとセオもポカンとしている
しかも最後のひとことが、いつもの高い声のどこから出したのかわからないくらいの低いおっさんのような声
「……野猿、実は男か?」
やっとのことで呟いたドラコの一言にきっ!と睨んだパンジー
よりによってその言葉か?と私とセオの視線がドラコに向く
「あ?今何つった?」
いや、誰…
あなた…
しかも野猿って…
その瞬間、またいつものアホな言い合いを始めた二人にセオと顔を見合わせて、やれやれと視線で会話した
横では、もう話が逸れて普通に悪口の言い合いをしている
平和だな、と思った
ずっと続けばいい…
生徒が食べ終わり、大広間のがやがやがまた立ち上ってきた時、ダンブルドアが立ち上がった
みんなの顔が校長の方を向いて、話し声が止んだ
「さて、またしても素晴らしいご馳走を、みなが消化しているところで、学年度始めのいつものお知らせに、少し時間をいただこう」
いただくもなにも…パンジーに食わされて物凄く胃薬を飲みたい気分だ…
気持ち悪い…
今ならセブルス印のゲロマズ薬を喜んで飲む
「一年生に注意しておくが、校庭内の『禁じられた森』は立ち入り禁止じゃ。上級生の何人かも、そのことはもうわかっておることじゃろう」
そもそも思うが、何故学校に入るのNGのやばい森があるのか…
何回聞いても不思議だ
「管理人のフィルチさんからの要請で、これが四百六十二回目になるそうじゃが、全校生徒に伝えてほしいとのことじゃ。授業と授業の間に廊下で魔法を使ってはならん。その他もろもろの禁止事項じゃが、全て長い一覧表になって、今はフィルチさんの事務所のドアに張り出してあるので、確かめられることじゃ」
いや誰も読まないよ
「今年は先生が二人替わった。グラブリー-プランク先生がお戻りになったのを、心から歓迎申し上げる。『魔法生物飼育学』の担当じゃ。さらに紹介するのが、アンブリッジ先生。『闇の魔術に対する防衛術』の新任教授じゃ」
あまり熱のこもらない拍手が起こった
このピンクおばさんのせいで、どれだけの無駄な迷惑を被るか…
ダンブルドアは、あまり道筋を変えないことを望んだ…
私はその方針に賛成する…
だが、救える者は救う、これは一致した
先のことがまるで見えない中、私は、ホグワーツを追われることになるだろうダンブルドアに頼まれた
セブルスと私に、ハリーを守るように…
レギュラスはあのば…ん゛ん゛、おばさんのせいで辞めさせられるかもしれない
元死喰い人であることをあのおばさんが知っていれば、の話だが…
このことは限られた人間しか知らない
「クィディッチの寮代表選手の選抜の日はーーー」
続けようとしたダンブルドアが、言葉を区切り、何か用かな、という目でアンブリッジを見た
すると、アンブリッジが「ェヘン、ェヘン」と、女の子みたいな声で咳払いして、ダンブルドアの前に来た
頭が沸いている…
自分の話を聞くのが望ましいと言わんばりの顔で出てきたので、スプラウト先生は眉毛がつり上がり、マクゴナガル先生の唇は見たことがないくらい一文字に引き結ばれている
これまで新任の先生が、ダンブルドアの話を途中で遮ったことはない
あの、馬鹿詐欺師(ロックハート)でもだ
大勢の生徒が思っただろう
ーーこの女は、ホグワーツでの仕来りを知らないなーー
と
「なにあのピンクガマガエル女?」
パンジーがボソッと言ったので、ドラコとセオが吹きそうになった
パンジー…空気を読みたまえ
だが、ナイスだ
「校長先生、歓迎のお言葉恐れ入ります」
女の子のような甲高い耳障りな、私の胃がさらに胃もたれしそうな気持ち悪い声だ
「さて、ホグワーツに戻ってこられて、本当に嬉しいですわ!」
にっこりとして、尖った歯が剥き出しになった
「そして、みなさんの幸せそうなかわいい顔がわたくしを見上げているのは素敵ですわ!」
……
「みなさんとお知り合いになれるのを、とても楽しみにしております。きっとよいお友達になれますわよ」
なれるか
なりたくもない
セオの背後に吹雪が見えるよ…
私はそっちの方が怖い…
「魔法省は、若い魔法使いや魔女の教育は非常に重要であると、常にそう考えていました。みなさんが持って生まれた稀なる才能は、慎重に教え導き、養って磨かなければものになりません。魔法界独自の古来からの枝を、後代に伝えていかなければ、永久に失われてしまいます。われらが祖先が集大成した魔法の知識の宝庫は、教育という高い天職を持つ者により、守り、補い、磨かれて行かねばなりません」
右から左に流れる内容だ…
「ホグワーツ歴代校長は、この歴史ある学校を治める重職を務めるにあたり、何らかの新規なものを導入してきました。そうあるべきです。進歩がなければ停滞と衰退あるのみ。しかしながら、進歩のための進歩は奨励されるべきではありません。なぜなら試練を受け、証明された伝統は、手を加える必要がないからです。そうなると、バランスが大切です。古きものと新しきもの、恒久的なものと変化、伝統と革新…」
長々と続く話…
「…なぜなら、変化には改善の変化もある一方、時満ちれば、判断の誤りと認められるような変化もあるからです。古き慣習のいくつかは維持され、当然そうあるべきなですが、陳腐化し、時代遅れとなったものは放棄されるべきです。保持すべきは保持し、正すべきは正し、禁ずべきやり方とわかったものは何であれ切り捨て、いざ、前進しようではありませんか。開放的で効果的で、かつ責任ある新しい時代へ」
大演説が終わり、アンブリッジが座った
ダンブルドアが拍手をして、先生方が一、二回手を叩いただけでおわる
「ありがとうございました。アンブリッジ先生。まさに啓発的じゃった」
ダンブルドアが会釈して、話を続けた
やっぱりセオの言った通りになったね
それから、宴はお開きになり、各々寮に戻った
帰り際、セブルスを見ると、視線があったので、おそらく来い、ということだろう
時間を作って早めに行かないとな
アンブリッジが暴走する前に
動きにくくなるし
授業が始まり、学校の生徒達は『日刊預言者新聞』の記事を信じ込み、ハリーを「狂っている」という非難を向けていた
グリフィンドール内では、やはり仲違いをしていた
一度、広間でシェーマス・フィネガンと言い争っていた
私とドラコとセオには何もできない
ハリーの言うことが事実だと知っているが、無視を決め込むしかできない
セドリック・ディゴリーは、あの日何があったのか、ハリーに聞きにいっているの見かける
半信半疑だろう
だが、ディゴリーは一瞬といえど墓場を見たのだ
その後すぐ仮死状態になった
ダンブルドアに聞いた話では、戻ってきてから医務室に運ばれた
私が帰ってきた後で、セブルスにどういう毒か説明し、対処をして目を覚ました
セブルスはショックの後だったが、そこは冷静だった
マグル界で知られた、一時的に仮死状態にする毒とかなりの制限をかけた魔法を複合して調合したものだから、普通に興味があったのか、魔法薬学の先生の顔をしていた
一時的に制限をかけると言っても、一歩間違えれば命を落としていたには変わりない
危険な賭けをしてしまった、と今では思う
また、ハリーは私を見つけると何か聞きたそうに、声をかけてこようとする
それをロンとハーマイオニーが微妙な顔をする
まぁ、ハリーは何も知らない方がいい
今回は
いずれ、全て知ることになる
ちなみにスリザリンの寮では、ドラコが監督生になったことで、纏まりに磨きがかかっている
まぁ、スリザリンは家柄を重視して、迎合するからね
それは時にいい面もある
監督生になり、することが増えて、不安も増えるドラコの愚痴をセオが聞く、という流れになっている
ドラコは口に出やすいが、私が話したことは絶対に口に出さないだろう
父親を失うかもしれないんだ
ドラコにはそれがよくわかっている
だからこそ不安なんだろう
そしてまだ、ピンクおばさんの専横が酷くなっていない、授業が始まったばかりの現在、肌寒い中、フクロウ小屋に来ていた私は、待ち構えていたハリーに会った
これは…
強気な姿勢だ
「ユラ、聞きたいことがあるんだ」
仕方ない…
これは予想できたことだ
ダンブルドアとも話し合って、ハリーなら必ず知りたがるだろうという結論に至り、その時、どれだけの情報を開示するか決めている
「私の答えられる範囲でなら、いいわ。答えましょう」
フクロウ小屋の奥に入り、盗み聞きされないように出入り口の方を向いてハリーと向かい合う
「…君は…君はどうしてあの時あそこにいたの?」
墓場の時だろう…
「それは言えないわ」
「っ…ダンブルドアの命令だったんだろ…」
「ハリー、口に出す言葉は慎重になさい。あなたが隠されるのが嫌なのはよく分かっている。だけど、憶測を口にすることで、誰かの命が奪われたら、あなたはその責任がとれるの?」
冷たい言い方だが、今のハリーは彼にいつ入り込まれているかわからない…
「!」
驚愕した顔になって強張ったハリーに私は続けた
「他に何か聞きたいことは?」
「……え…」
まさか、続けるとは思わなかったのだろう
拍子抜けしたハリーの顔が私の目に映る
来年はダンブルドアに任せればいい、ただ今年だけは例外だ
「え…あの…あいつは…君を知ってるみたいな言い方だった……」
……
胸が締め付けられる
苦しい…
痛い…
私の中で色々な感情が処理しきれずごちゃ混ぜになる…
ーーー「ナギニ…」ーーー
やめてっ
あなたに惑わされたくないっ
あなたはそんな人じゃないっ…
「私があちら側だと思う?」
頭の中にこだまする彼の声を振り払ってハリーに尋ねる
「いや!違う!君は僕を…助けてくれた…君がいなかったら…」
私の言葉に咄嗟に否定するハリー
優しい…ほんとうに…
「なら、今はその事実だけ胸に留めて、一時的にでも納得して欲しいわ」
「でも…ならどうして皆僕に隠すの…?僕はそんなに頼りないの?君だけが会議に参加してたっ…君は中身が…っそりゃ違うけどっ、僕と同じじゃないか」
守られていると分かっていても,自分だけ仲間外れにされるのが苦しいんだろう…
今回、彼はその心につけこむ…
「私はあなたとは違う…」
あなたは眩し過ぎる…
ハリー…
私はね…彼とそう大差ないのよ…
最低で卑劣で…卑怯…
ショックを受けたような、ハリーの表情に私は胸が締め付けられた
こうするしかないの…今は…
ごめんなさいハリーっ…
あなたは心の弱さに気づくことで、訓練する必要があるの…
私が中途半端なことを言って止めるわけにはいかないのっ…
私が憎らしんだろう…
ハリーが恨めしげに睨んでくる
握りしめた拳は震えている
ダンブルドアに突き放されて…ただでさえキツいはずだ…
それに加えて、私がダンブルドアに何かを頼まれるほど信頼されていると思い込んでいる…
だけどそれは事実だが、事実じゃない
私がしなければならないことなのだ…
私だけが騎士団の会議に参加していることも
ロンやハーマイオニーが何も知らせてくれなかったことにも…
全てに腹を立てているはずだ…
だけど…ハリーは今回セストラルを見えていない…
だからこれだけは言わないと…
「ハリー。私が『例のあの人』なら、貴方がそうして一人でいようとしている方が都合がいい」
「!?」
勢いよく顔を上げたハリー
気づいてなかったか…
無理もない…ハリーは彼を知らない…
「気をつけて………ハリー、これだけは覚えておいて。私は貴方を疑わない」
私とハリーしかハッキリ見ていない
彼を…
だからこそハリーは私に承認を、肯定を求めている…
だけど、それはできない
ハリーが見る夢も、彼との絆も…
「じゃあね」
ハリーが何か言いそうにしているが、私は無視して背中を向けた
本当はあなたに謝りたい…
私は…謝る資格はないけれど…
私は今、セブルスの研究室で目の前に置かれたゴブレット(セブルスの精一杯の優しさの塊)をじっと見てる
「飲め」
はい、飲みます
飲みますとも…
ゴブレットを手に取って飲み干す
っ!?!?
しわぁっとした顔になった
これ絶対前より悪意上がってる!
不味いなんてレベルではないぞ?
絶対効果抜群だろうけどさ??
「げほっ!」
思わずむせ込んだ私にセブルスは苦い顔で見下ろしてる
なにか言ってくれ…
「アリガトウゴザイマス…」
一応お礼は言っておかないと
例え悪意の塊だったとしても…
これを作るのに貴重な材料を使っている
「何故、今まで言わなかった」
目の前に座るセブルスに聞かれた
眉を寄せて苦しそうな表情をしている…
「……私も…弱かった…今でも弱いけれど…彼は…私にはどうにもできないと…諦めていた…自分可愛さに…」
「お前は最初からポッターを守っていただろう」
間髪入れずに言われて、返す言葉を探す
私は…
彼が怖かった…どうしようもなく…そうだ…私も命が惜しかった…
「ハリーは…希望なの…」
「では、ポッターがいなければ何もしなかったと?」
「…そうかもしれないわ…最低な人間よ…私は」
「いかにも」
肯定するセブルスの言葉に胸がちくりと傷んだ…
「だがーー…お前がいなければ、変わらなかったのも事実だ。我々は切り札を手に入れた。『闇の帝王』にとって、お前はポッター以上に厄介な存在であろう」
続く言葉がわかった気がした
「…私が彼と深く結びついてる、と言いたいのね…」
「その通りだ。お前が記憶を持って生まれ変わったのは決して偶然ではなかろう。『闇の帝王』はお前に何かをした。事実お前は殺されたのだろう?」
正直…最初に殺された時のことはハッキリとは覚えていない…
ただ、彼に殺された、ということだけはわかる…
靄がかかったような記憶なんだ…
「ええ…私の記憶が正しければ」
曖昧な私の言葉にセブルスは眉を寄せた
「…ねぇセブルス。あなたには辛い役目を押し付けることになるわ……彼を葬るには、ダンブルドアは’’死ななければならない’’わ…」
「…承知している。それは校長も了承したことだ」
……彼を完全に油断させるためには、ダンブルドアの’’死’’が不可欠だ…
そして、私は…
「全てはお前にかかっている。おいそれと手に下ってもらわれては全てが無に帰す。よくよく理解しておられるな」
わかってる…
私が…私がどこまでできるかで…未来は変わる…
既に多くの未来を変えている…
「お前は、どこまで知っている」
彼のことだろう…
「私が知っているのは、彼には’’心がない’’ということだけよ」
多くの記憶が蘇ってくる…
彼と過ごした時間は…私とって苦痛しかなかった…
だけど…’’彼’’は…
‘’彼’’が現れてから…記憶が蘇ってくる…
過ごした時間が…
やめよう…
今はこれを考えるべきじゃない…
「お前と『闇の帝王』の間のことには口は挟まん。だが、惑わされるな」
そうよ…
惑わされてはいけない…
わかってる…
「ええ…もう…誰も失いたくない…」
決めたんだ…
もう…見て見ぬふりは…したくない…
怖くても…どんなに震えても…っ…
怖い…怖くてどうしようもないっ
あの痛みをっ…心を壊してきた彼がっ…
もし…彼が私のしようとしていることを知ってしまったらっ…
何をされるか…
もし…失敗したら?…
怖い怖いっ…
セブルスの前だ
動揺を見せたらダメだ…
私はできる…できると思わなきゃいけない…
その日、何故か、セブルスの薬の味など忘れるほどの恐怖がずっと頭の中にこびりついて、離れてくれなかった
今学期はじめてのピンクおばさんのDADAの授業は、紙飛行機が燃やされて始まった
後ろからコツコツと嫌味なヒールの音を鳴らして、前の黒板に杖で文字を書きながら歩いてきた
「普通、魔法、レベル、試験、略して、O.W.L。通称「ふくろう」と呼ばれる試験です」
声を聞くだけで吐きそうである…
そして、前に立ち続けた
「よく勉強すれば、よい結果が出ます。そして怠ければ、泣くことになるのは自分です」
そう言うと、杖を振って後ろにある机から本が配られた
「この学科のこれまでの授業は、かなり乱れてバラバラでしたね。しかし、ご安心なさい。今後は、慎重に構築された魔法省の指導要領通りの防衛術を学んで参ります」
魔法省の慎重に構築する、という言葉ほど信用できないものはないよね…
汚染省に名前替えしたらどうだろうか
ハーマイオニーが手を挙げて発言を求めていた
「はい?」
「これ、呪文を使うことが書いてありません」
「呪文を使う?ははっ。このクラスで防衛呪文を使う状況は起こりません」
「魔法使わないの?」
「あなた方は、防衛呪文を’’安全’’で’’危険’’のない方法で学ぶのです」
「え?役に立たないでしょ?襲われても危険がない方法なんて」
「教室で意見を言う時は手を挙げること!……試験に合格するためには、理論的な知識で十分足りる。というのが魔法省の見解です。学校というものは試験のためにあるのですから…「理論が外の世界で一体どんな役に立つっていうんですか?」」
ハリーが訴えるようにアンブリッジに言った
我慢すればいいのに…
「外の世界に何があると言うの?貴方のような子どもを誰が襲うと思っているの?」
無駄に気持ち悪い声を抑揚をつけて言ったアンブリッジに、ハリーが言った
「そうですね。例えば『ヴォルデモート卿』とか」
その瞬間、教室の空気が凍った
シーンとなる…
「ハッキリさせておきましょう。いいですか?……これまで皆さんは、ある闇の魔法使いが戻ってきたと、言い聞かされてきました。でも…これは、真っ赤な、嘘です!」
「嘘じゃない!僕はあいつが復活するとこを見たんだ!」
「罰則です!Mrポッター!」
ハリーは思わずユラを見た
彼女は知っている
彼女は自分を守ってくれた
命を助けてくれた
だが彼女は、ハリーと目があったが、何事もなかったかのように逸らした
ハリーは怒りと絶望が湧き上がった
どうして?
どうして何も言わないんだ?
彼女が一番知っているはずだ
どうして誰も自分のことを理解してくれないのか?
そして、その日の授業は結局、彼女は何も言わないまま、ハリーは罰則を言いつけられて終わった
数日後、ハリーはロンとハーマイオニーは、今年、ハグリッドの代わりに『魔法生物飼育学』の担当になったグラブリー-プランクの話をしていた
「ダンブルドアはグラブリー-プランクがどれくらいの期間いるのかさえ言わなかった」
ハリーは言った
「たぶん…」
「なんだい?」
「うーん……たぶんハグリッドがここにいないということに、あんまり注意を向けたくなかったんじゃないかな」
「注意を向けないってどういうこと?」
「気づかない方が無理だろ」
ロンが半分笑いながら言った
グリフィンドールのテーブルに座り、ハーマイオニーはフクロウが持ってきた『日刊預言者新聞』を読み始める
ハリーは苛立ったようにハーマイオニーに言った
「何のためにまだ読んでるの?…僕はもう読まない。クズばっかりだ」
「敵が何を言っているのか、知っておいた方がいいわ」
ハーマイオニーは暗い声でそう言い、新聞を広げて顔を隠してしまった
だが、すぐに新聞を丸めて横に置いた
「何もない。あなたもダンブルドアのことも、ゼロ。……ねぇ、ハリー、もうユラに拘るのはやめたら?」
ハーマイオニーが、スリザリンのテーブルに座ってドラコ達と話すユラに先程からチラチラと視線を向けているので、いい加減呆れるハーマイオニー
「別にこだわってるわけじゃない」
「ハリー…あいつに聞いても話してくれないのはわかってるだろ?」
ロンが諭すように言う
「いいや、彼女は何か話したがってるんだ。本当は」
「だとしても、彼女は何も話さないわ。あなたもシリウスに関わらない方がいいって言われたでしょ?」
ハーマイオニーも、会議の後、本部でシリウスがハリーに口酸っぱく言っていたのを思い出して再度ハリーに言う
だが、ハリーは悔しくなった
ダンブルドアと約束したことも、シリウスが彼女をあからさまに嫌うことといい、彼女だけが自分と同じでヴォルデモートの復活を目にしたのだ
本当のことを言えない苦しさがあった
「それにあいつはスネイプなんかと仲良いんだぜ?おまけにマルフォイも。いくらダンブルドアが信頼してるからって、僕はあいつが信用できるとは思えないね」
ロンがヒソヒソとハリーに言う
「ロンっ。ダンブルドアが信頼しているなら私たちも何も言わずに従うべきよ。…でも確かに彼女は…」
ハーマイオニーが言おうとした言葉を飲み込んだので、ハリーとロンは不思議そうにした
「なに?何を言おうとしたの?」
「いえ、別に大したことじゃないのよ…」
全く大したことにしか見えないハーマイオニーの歯切れの悪い様子で、そわそわするのでますます気になる二人
「教えてよハーマイオニー」
「いえ…その…彼女というか…オフューカスさんのことなんだけど…」
「?」
二人して催促してくる顔をするので、ハーマイオニーはついに陥落して、深い溜息をついてから、少し身を乗り出してヒソヒソ話するように二人に言った
「事実かどうかはわからないわよ?私も盗み聞きした話だから…」
ハーマイオニーが勿体ぶって前置きするので、二人はますます早くと催促した
「オフューカス・ブラックは、当時、ドラコのお父さんと許婚だったみたいなのよ」
「「許婚!?」」
思わず大きい声で言った二人に「しっ!!」とハーマイオニーが言った
「「ごめん…」」
二人して急に大人しくなり、ハーマイオニーに続きは?と聞いた
「…はぁ…オフューカス・ブラックはブラック家の本家筋の唯一の女性だったの。ブラック家とマルフォイ家は純血至上主義だったから、親戚同士の婚姻が多かったの。当時、時期当主のドラコのお父さんは、父親の薦めでオフューカスさんと結婚することになっていたらしいわ。だけど結局、ドラコのお父さんと結婚したのはブラック家の分家筋のドラコのお母さんだった」
「そうなんだ……」
「だからマルフォイと仲良いんだぜ…絶対。中身がその人だって言うなら、今でもマルフォイの父親のこと忘れられてないんだぜ」
ロンが推理するように言うので、ハーマイオニーは「ロンっ」と注意した
ハリーは驚くどころではなかった
ルシウス・マルフォイと許婚だったという事実はそれだけ衝撃的だった
どこかで彼女を信じていたハリーを突き落とすには充分だった
ヴォルデモートが復活する時にいた…ルシウス・マルフォイ…
拷問される自分を助けもせずに見ていただけの…
あんなやつの許婚だったなんて…
ハリーは裏切られた気分になった
もし、もし、彼女が今でもあいつのことを…と思ったところで、ハリーは腹の底から怒りが湧いてきた
すぐにダンブルドアに言わなければいけないとハリーは思った
だが、ここで思った
ダンブルドアがそんなことを知らないはずはない、と
もしかしたら、何か考えがあるのかもしれない、と
ハリーはダンブルドアがとても忙しくしていることをハーマイオニーから聞いていたので、力になりたいと思った
そして、ハリーはその日から彼女の行動を注意して見るようになった
スリザリン寮、ユラの自室には、今は同居人もおらず、休日なので全員ホグズミードに出かけていた
一人だけの部屋で、彼女はペットのセンリと話していた
「’’センリ、私は…私は…’’彼’’に惑わされていると思う?…’’」
「主……」
答えの出ない疑問に、隈が薄らと滲む彼女は疲れたように目を伏せて聞いた
センリが答えないことなど分かっている
だが、言葉にせずにはいられなかった…
「…主は、主の信じたいものを信じれば良いと思うぞ」
どこまでも主人を肯定する蛇に、彼女は辛そうに顔を歪めた
「…わからないの……何が真実か……信じればいいものは…わかっているのに…決まっているのに…」
ーーーー「’’僕’’はお前がいたから’’僕’’でいられた…」ーーー
あれは…本当のことなの…?
本当に彼の口から出た言葉?
ーーー「お前が僕に’’愛’’を教えた…誰かを愛することを」ーーー
いいえ…貴方に愛なんてわかるはずがないわ…
人を平気で傷つけて…壊して…痛ぶる…最低の人…
頭の中で、必死に否定しようとする中、彼女は遠い記憶のことを唐突に思い出した
冬の日、雪が溶け始める季節だった頃…
外にいた私を、またしても一人にさせてくれなかった彼が…横にいた…
「トム……」
「なんだ」
「…私…」
「さっさっと言え。口籠るな」
不機嫌そうに流麗な眉を寄せる彼の横顔を見ながら、私は言った
「………怖い…」
どこから出た言葉かもわからない…
どうしてそんなことを今更言ったのかもわかっていなかった…
口からついて出ていた…
「くだらないことを言うな、お前は」
「……ごめん…なさい…でも、私が怖いのは…」
「勿体ぶらずに、言うんだ」
「…貴方が…ーーーーーーー……が…いの……トム…」
震える手を手で抑えて言うと、彼はゆっくり私に紅い目を向けてきた
その動作が…スローモーションみたいに思えて…怖かった…
彼は、目を細めて、滑らかな指を伸ばして…
何かされると思って目を瞑ったら、私の肩に落ちている髪を指で弄っていた…
思案げな様子で…
私は何も言えなかった…
ただ黙って、髪を指で弄ぶ彼にされるがままになって、固まっていた
紅い目が…はじめて憂げな色を含んでいたように思えた…
いつもは自信たっぷりの…皮を被っている…彼の瞳が…
彼は…あの時…何を思っていたんだろう…
いつもはそんな疑問を持つこともしないようにしているのに…その時だけは…妙に頭から離れなかった…
——————————————
何が真実なのか、目的はなんなのか…
彼がそれを知るのか…
目を逸らし続けているのか…思い出さないようにしているのか…