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※かなり捏造しています
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トーナメントの第一回目の課題までの期間、私は通常通りの学校生活を送っている
校内にダームストラングの生徒やボーバトンの生徒がいるのは慣れないが
ダームストラングに関してはマッチョが多いので暑苦しいというのが正直なところだ…
それと、図書室常連の私とセオは、クラムがハーマイオニー目当てで入り浸っているのをよく見かけた
若いな、と思ったのは仕方ない
一方、ボーバトンの生徒は優雅な淑女なので、男子生徒の目を攫っている
すごいな…
女生徒はゴリ…ん゛ん゛…クラムとディゴリーのサインを貰ったりと浮き足立っている
何故カバンにまで欲しがるのか…
理解できん…
この前、思わずそう呟いて、聞いていたセオとドラコとパンジーが吹いた
驚きの眼差しで見られて私は思わずチベスナ顔になった
そんな私がいつも能面みたいに見るのをやめい
また、代表選手の記事が『日刊預言者新聞』によって掲載された
まぁ内容は…デッチ上げもいいところだった
違う意味で酷すぎる…
頭が沸いているのか…と思わずにはいられないレベルだ
流石、一を言ったら100のレベルで曲解、または魔改造する脳味噌が沸いていらっしゃる女
未登録のアニメーガス、リータ・スキーター女史だ
取材でしていることはどれもこれも非合法なことばかりだし魔法省にチクってやろうかと思ったくらいだ
セオと一緒に読んでいて、近年稀に見るくらい引き攣ったのは仕方ないと言えよう
セオもスキーターの記事に関しては思うところがあるようだ
通常通りの日常で、前と変わったことはいくつかある
ひとつは、言わずもがな…悪魔による指導だ
殊更慎重に動き、秘密の部屋で行われる彼の指導
ハッキリ言ってもうやめたい…
全て踏み躙られる瞬間とはまさにあの時間だ…
バジリスクが里帰りみたいな気分で遊んで、センリとお話ししている横で行われる鬼畜の所業…
私が大丈夫と言っているからセンリは口出ししてこないが…
心配そうに見てくる…
本当になんてできた子なの…
センリの脱皮した皮を煎じて飲ませてやりたい…
鬼畜など生やさしい
何ひとつ笑えないカオスな状況の中で、私は毎回気を失う
血を吐いて、苦痛に歪む私を見下ろして立たせる冷ややかな紅…
あれだけ容赦のないことをしておいて、終われば別人のように私を労り、口元についた血を妖艶に拭ってくる
正直言って鳥肌しか立たない…
その落差が私にとっては恐怖を駆り立てられるもの以外何者でもない
やめよう…
こんな時まで思い出したくない…
もうひとつは、偽ムーディによるDADAの授業だ
完璧に目をつけられて無理難題をやらされる
どれもスレスレのレベルだ
私もそうだが、ハリーも目をつけられているので、もっと酷いだろう
あまりにも目に余るので、一度マクゴナガル先生が血相を変えて注意してきたくらいだ
注意されると舌を出して不服な顔をしていたが…
『魔法史』はいつも通りで穏やかな笑顔の鬼畜のレギュラスによる課題が毎週どんとくる
皆引き攣った顔をしてひぃひぃ言って熟している
内容が内容なので、今学期に入ってから図書室の利用者が一気に増えた
一度、教授室でレギュラスに「爽やかに鬼畜なことするよね」と言ったら、「あれくらい’’普通’’だよ。それにオフィーなら眠っていてもできるだろう?」と、矢張り爽やかな笑顔で言っていた
その時、この双子の兄は私を基準のひとつにしているのではなかろうか…と思ったのは仕方ない
兄よ、貴方はもう先生なんだし、人望もあるんだからあまり私情を混じえてはいけないぞ
それに、あの時代は、ずば抜けて優秀な生徒が多くいただけ、というのをちゃんと理解しているのだろうか…とも思った
まぁ、それも、最近ますます機嫌が悪くなるセブルスに比べればマシだが…
この前なんて、また大鍋を溶かしたネビルとグリフィンドールに20点も減点して、毒薬をペットに飲ませて解毒剤が本当に効くか試していた
有言実行とは彼の為にある言葉だと思ったよ
ハリーへの当たりもますますキツくなるし…
まぁそれで私への無理難題が止まるわけではないのだが…
この前、花茶を淹れてあげたら案の定気に入っていた
顔には全く出ていないが
これで少しストレスも軽減してくれると良いけど…
因みにあのセブルス印のゲロマズ薬は、何故か定期的に飲まされた
正直、あの薬で行くのを減らそうかと思うくらいのゲロマズレベル…
うん…気遣ってくれるのは嬉しいんだけれど…
不器用な友人である
そして、もうひとつフクロウ小屋で会った時からハリーが話しかけてくるようになったのだ
正直やめてほしい
気を遣って、周りに誰かがいる時はあまり話しかけてこないが、私が一人でいると話しかけてくる
ルシウスからの手紙を受け取って、燃やした後、戻ろうとした帰り道、フクロウ小屋で会った
ハリーはシリウスからの手紙だろう
今では、フクロウ小屋で軽く話すのが日常になってきた
よくない
あまり良くない
非常に良くない
そして、もうひとつ…
‘’彼’’が二つあると言った分霊箱を探すことだ…
これは長くなるし、時間がかかるからだ…
本当に二つだけなのか、半信半疑だし、完全に信じているわけではない…
二つだとしても、ハリーの他にある…
そもそも彼が二つだけしか作らないのは’’あり得ない’’と思っている
そのこと’’も’’あり、私は校長に極秘に『姿現し』の許可を貰った
途轍もなく危険だし、怖い…
見つけたとしても私には壊す術はない…
どこにあるのかも…どんな形なのかも分からない…
‘’彼’’は分霊箱を探すために心当たりのある場所に、時間を作って赴く私に何も言わない…
私も聞く気はない…
仮に答えたとしても信用できない…
「ユラはどうしてあの時抗えたの?」
あの時とは、『服従の呪文』のことだろう
「おそらくあなたと同じよ。私にも良くわからないわ…」
嘘だ
本当は薄々気づいている
‘’彼’’に慣らされたせいで…気付かぬうちに耐性がついているんだ…
耐性、というのも変な話だが…’’彼’’より強力な『服従』を私は知らない…
もしあるとすれば…ダンブルドアだろうが…
こんなことに慣れたくなかった…
おかげでJrに目をつけられるし…
「そっか」
「ハリー、あなたと話すのが嫌なわけではないけれど、お友達と仲直りしたの?」
「……ロンは…僕のことを信じてくれないんだ…」
俯きがきに拳を握りしめて呟くハリーに私は心底面倒臭いと思ってしまった
子どもだ…
仕方がないんだろうが…
直情的なところは私にはなかったものだからたまに眩しくもなる…
感情に振り回されず、知識と良識があればトーナメントが常軌を逸しているとわかる…
まぁ私の場合、平和な生だった頃の記憶の影響もあるが…
「そうね…若いと、どうしても感情に振り回されるものよ…」
「ユラはハーマイオニーみたいに「自分でどうにかしなさい」って言わないんだね…」
「自分でどうこうできないから、こうして私に愚痴っているんでしょう?それに時間が解決してくれることもあるわ」
「……愚痴ってるわけじゃ…」
「私に話しても解決しないことはあなたが一番よくわかっているでしょうに、それでもこうして話してくるのはそうでしょう?」
「……そうかもしれない…でもユラは僕のことを理解してくれてる。皆が疑っているのに信じてくれた」
ハリーは純粋だ
基本的に人を疑うことを知らない…
それは美点だ…
だけど損をすることの方が多い…
「ハリー。貴方はリリー似てとても純粋で優しいわ…でも同じくらい危ういわ…」
「…危うい?…どうして?」
「…想像してみて頂戴。もし私があなたを狙っている人間なら、あなたに近づくためにどうするかしら?」
「!」
「あなたは私を兄の妹だったからとある程度信用しているのかも知らないけど…それは浅慮よ」
「でも…でもこうして君は僕を諭したりハーマイオニーにみたいに怒ったりしないじゃないか…」
「怒るのは愛情があるからよ。怒る、という行為はとても疲れるものなの。それは相手に分かって欲しいから、自分のことを理解して欲しいからくる感情よ。今のあなたがロンやハーマイオニーに思っている感情と同じ」
「っ!なら…ならどうして…あの二人は僕の気持ちを」
「ねぇハリー。言葉とても大事よ。言葉にしなければ伝わらないこともある…人間は動物と違ってそれができる生き物よ。あなたは動物なの?」
‘’彼’’は…言葉を操るのがうまかった…
ダンブルドアかそれ以上…
「違う!」
「なら、あなたの気持ちをちゃんと伝えてあげて。そして同じ分だけ相手の気持ちもちゃんと聞いて、受け止めてあげるの。彼らはあなたの味方よ」
仲違いして一番得をするのが誰か…つけいられる隙を作らない方がいい
まだこんなに若いんだから大いに喧嘩して、笑って過ごすべきなのだろうが…
「…ユラは…違うの?」
私はあなたの味方ではない…
あなたを守るセブルスとも少し違う…
どちらかと言えば…ハリーにとっては酷すぎる裏切り者だ…
「私はスリザリンの生徒よ。あなたは兄の息子。そして私の友人はセオやドラコ」
ドラコもセオも…変わったと思う…
だから私が守りたいと思う存在に変わった…
あなたは気づいていないだけで心強い味方が沢山いる…
「どうしてあんな奴を…あいつの父親はっ」
怒ったように言うハリーに、私は首をフルフルと振った
「ハリー。あなたが父親を馬鹿にされて怒るように、ドラコも父親を馬鹿にされたら怒る。当たり前よ。それにドラコは根はとても優しい子よ。決めつけでそういうことを言うのは良くないわ」
ルシウスは本当はとても愛情深い
まぁその振り幅が偏ってはいるが…
残酷で卑劣なことをしてきたが…
それを責める権利は私にはない
彼の場合、家のせいもあった
「じゃあね。応援しているわ。仲直りするのよ」
別に偏見ではないが、ドラゴンなんてものを競技種目に出すなんて本当にどうかしている…
まぁバジリスクを中に住まわせている私が言えることでもないが…
それにあれは強制的なものだった…
私の体はどこぞの四次元ポケットではないのに…
慣れとは恐ろしい…
本当に…
そしてその日の彼の指導は、いつもの比じゃないほど酷かった
八つ当たりされるのは慣れている…
何か気に食わないことがあったんだろう…
それでも一発でいいから殴りたくなった
いつまで経っても私は’’玩具’’だ…
本当に嫌になる…
ハリーは、去っていく揺れるローブを見ながらもやもやとした、だが、何故かスッキリした感情で見た
ユラ・ポンティ
そして、前はオフューカス・ブラック
二つの記憶を持つ彼女の姿勢の良い背中は…ハリーからは酷く重いものを背負っているように見えた
苦悩や苦難、自分よりも多くのことを見聞きしてきたと思っているが、彼女のような人がどうしてスリザリンの生徒なのか、マルフォイ達を友と呼び、仲良くしているのか
どうして自分を励ましてくれたのか
責めも、褒めも、慰めもしない
いつも、誰に対しても一線を引いているような…
決して関わろうとしない距離感
いつも変わらない淡々とした顔で事実しか言わない
オフューカスが、良識と気品、深い聡明さと知識に溢れた、とても美しい女性と聞いたことをハリーは思い出した
可もなく不可もなく、否定も肯定もしない
勉強熱心なハーマイオニーから聞いた話では、オフューカス・ブラックという人物は伝統ある純血一族ブラック家の中でも一際、変わった…異質の人物だったと聞いたハリー
先程まで目の前にいた彼女を言動を思い出し、ハリーは納得した
平凡で大人しい…
凡庸という表現がぴったりの…
だが、ハリーにはそれが妙な違和感と共に、不思議なものに感じられたのだった
「よぉ貧血ポンちゃん!今学期に入って倒れた回数学年トップ!」
うざい
そしてそんなものをいちいち数えているのか
暇だな
「あの二人、最近ユラのストーカーか何かかと思うよ…」
横で本を読んでいたセオがげんなりした様子で言ってきた
「やめてよ縁起でもない…」
「おっす!ノットも相変わらず読書か?真面目だなぁ〜」
普通に隣に座って肩を組んできたデカイ双子にセオとげんなりする
「先輩達は『老け薬』が盛大に失敗したようですね。余計な努力、お疲れ様です」
「嫌味だな〜イケると思ったんだけどなぁ?それにお前が協力してくれてたら絶対成功してたね!なぁジョージ?」
「ポンティならワンチャンいけてたと思うね!」
「するわけがないでしょう。校長の魔法を破れる人がいるわけがないでしょう」
彼以外は…
「それよりお前はやっぱあのバッチ着けてないんだな?ノットもだし」
不思議そうにローブの胸元あたりを見てくる双子に私達は揃って溜息を吐く
あの幼稚な「セドリック・ディゴリーを応援しよう。ホグワーツの真のチャンピオンを!」
裏に「汚いぞポッター」とか書いてあるやつか…
着けるわけない
あんなの邪魔なゴミだ
「揃ってため息つくとかお前ら双子か?」
「「違います」」
「お、ハモった。やっぱ双子じゃん」
「はぁ…あんな幼稚な物着けるわけないでしょう。少し論理的に考えればわかることですよ。何よりダサい」
最後にボソッと言ってしまった
まぁ事実だし
よくあんなダサいバッチを付けようと思うものだ
理解できん
「おいジョージ聞いたか?あの大人優等生のポンちゃんの口から「ダサい」とか聞こえたぞ」
おいこら
私だってそれくらい言うよ
そんな信じられないものを見る目で見るな
「おう聞いたぜフレッド。俺は今幻聴を聞いたかと思ったぞ」
「行こう。セオ」
「あぁ」
何故かムカつくので、立ち上がってセオを促す
「待て待て待て待て!嘘だって!マジで驚いたけど別に揶揄ったわけじゃないから!」
慌ててフレッドが止めてくる
離せ
「はぁ…何の用ですか?トーナメントに乗じて賭け事でもするつもりですか?私は賭けませんよ」
「なんか今日ため息多くね?というかポンティの中で俺らの認識ってどうなってんの?というかなんでわかった?」
「(頭が)面白い先輩です。それくらい想像つきますよ」
「なんか今の違う意味に聞こえたんだけど気のせいか?」
「気のせいですね」
「ふふ…」
おいセオ、何を笑っているんだ
それから、案の定賭け事をするらしい双子はさっそく私達に賭けるように言ってきた
なので、丁重にお断りしておいた
だが、そこは双子
普通に引き下がってはくれないので、カマ掛けをして大人しく引き下がってもらった
一方、ハリーはその日、談話室で炎の中から出てきたシリウスと話していた
最初の課題が「ドラゴン」だと知った後なので、ハリーは不安に揺れていた
「ハリー、君に警告しておかなければならないことがあるんだ」
「なんなの?」
「カルカロフだ。ハリー、あいつは『死喰い人』だった。それが何か、わかっているね?」
「ええ…え?あの人が?」
「あいつは逮捕された。アズカバンで一緒だった。しかしあいつは釈放された。ダンブルドアが今年『闇払い』をホグワーツに置きたかったのは、そのせいだ。絶対に間違いないーー…あいつを監視するためだ。カルカロフを逮捕したのはムーディだ。そもそもムーディがやつをアズカバンにぶち込んだ」
「カルカロフが釈放された?どうして釈放したの?」
「魔法省と取引したんだ。弟のレギュラスとは少し事情が違うが…やつは自分が過ちを犯したと認めると言ったんだ。そして他の名前を吐いた。自分の代わりにずいぶん多くの者をアズカバンに送った。……言うまでもなくあいつはアズカバンで嫌われ者だ。そして出獄してからは、私の知る限り、自分の学校に入学する者には全員に『闇の魔術』を教えてきた。だからダームストラングの代表選手には気をつけなさい」
「うん…でもカルカロフが僕の名前をゴブレットに入れたって言うわけ?だって、もしカルカロフの仕業なら、あの人、ずいぶん役者だよ。カンカンに怒っていたように見えた。僕が参加するのを阻止しようとした」
「やつは役者だ。それはわかっている。何しろ魔法省に自分を信用させて、釈放させたやつだ。さてと…近ごろどうもおかしな噂を耳にする。『死喰い人』の動きが活発になっているらしい。クィディッチ・ワールドカップで正体を現しただろう?誰かが『闇の印』を打ち上げた。…それに行方不明になっている魔法省の魔女職員のことは聞いているかね?」
「バーサ・ジョーキンズ?」
「そうだ。アルバニアで姿を消した。ヴォルデモートが最後にいたという噂のある場所だ…その魔女は三対抗試合が行われることを知っていたはずだね?」
「ええ、でも…その魔女がヴォルデモートにばったり出会うなんて、ちょっと考えられないでしょう?」
「いいかい、私はバーサ・ジョーキンズを知っていた。私と同じ時期にホグワーツにいた。君のお父さんや私より二、三年上だ。とにかく愚かな女だった。知りたがり屋で、頭が全く空っぽ。これはいい組み合わせじゃない。ハリー、バーサなら簡単に罠に嵌るだろう」
「じゃ…それじゃ、ヴォルデモートが試合のことを知ったかもしれないって?そういう意味なの?カルカロフがヴォルデモートの命を受けてここに来たと、そう思うの?」
「わからない、兎に角わからないが…カルカロフは、ヴォルデモートの力が強大になって、自分を守ってくれると確信しなければ、ヴォルデモートの下に戻るような男ではないだろう。しかし、ゴブレットに君の名前を入れたのが誰であれ、理由があって入れたのだ。それに、試合は、君を襲うには好都合だし、事故に見せかけるにはいい方法だと考えざるをえない」
「僕のいまの状況からすると、本当にうまい計画みたい…自分はのんびり見物しながらドラゴンに仕事を任せておけばいいんだもの」
「そうだ。そのドラゴンだが…ハリー、方法はある。『失神の呪文』を使いたくとも、使うなーードラゴンは強いし、強力な魔力を持っているから、たった一人の呪文でノックアウトできるものではない。半ダースもの魔法使いが束になってかからないと、ドラゴンは抑えられない」
「うん、わかってる…さっき見たもの。ねぇシリウス…僕は一人じゃない…んだよね?」
「当たり前だ。君には友人も私も付いている。ダンブルドアもだ。君の味方だ。こんな状況だ。絶対に友の側を離れるな」
「…そう…だね…」
歯切れ悪く答えたハリーにシリウスは訝しみ、「何かあったのか?」と尋ねた
「その…ロンと口きいてなくて…僕じゃないって信じてくれないんだ…」
今まで遠慮していたが、ハリーは思い切って子どもらしい悩みをシリウスに相談した
きっかけはオフューカスの言葉だ
シリウスの妹だった彼女の助言だったから、言おうと思ったのだ
シリウスに迷惑をかけたくないと思っているが、下手に黙っている方が良くないと、思ったのだ
「それは良くないな。ロンの気持ちもわかるが、君は今は一人にならない方がいい」
「…うん…でも僕は悪くないんだ…」
「わかる。わかるよハリー。だが…いや、なぁハリー?どうしてそれを私に言おうと思ったんだ?」
「…それは…ユ、オフューカスさんが…ロンとも上手くいかなくて…こんなことになって…最近ずっと彼女に話を聞いてもらってたんだ…それで…言われたんだ」
「何を言われた?」
「その…思い詰めて…独りよがりになるのは…よくないって…周りの大人を…頼りなさいって言ってたんだ…」
ハリーの言葉に、シリウスは少し黙った
「ハリー、私は妹を愛しているが……今の妹は私の知るところにない。その言葉は尤もだが、あまり妹に気を許すな」
まさかのシリウスの言葉にハリーは耳を疑った
「どうしてっ?シリウスの妹でしょっ?家族じゃないか?」
「私の家族は君とレギュラスだ。妹は既に死んだんだ。記憶があるとはいえ、今の彼女は血の繋がらない他人に変わりはない」
ハリーはその言葉をシリウスの口からは聞きたくなかった
以前、彼女も同じことを言っていたからだ
その時、ハリーは、どうしてあんなに冷たくなれるんだ…と少なくとも憤慨した
「ハリー、妹はダンブルドアから信頼を置かれている。だが、妹が君をよく思っているかどうかと聞かれれば断言はできない。だから…「でも、彼女は言ったんだ。僕を信じてくれたっ…論理的な考えて僕ができるわけがないってっ」……それは本当かハリー?」
「ああっ…それに言ったんだ。僕を狙う人間がいるなら…僕に近づくためにどうするか考えた方がいいってっ…そんなことわざわざ僕に言う人が…」
ハリーは自分でもわからなかった
何故こんなに…シリウス相手でも反論してしまうのか
彼女を庇うようなことを言ってしまうのか
「ハリー…この際だから教えるが、妹は当時、死喰い人志望だった者達と親しくしていた」
「え…」
「あくまで学生の頃の話だし、スリザリンの寮だから仕方なかったのかもしれないが、それでもあいつは卒業まで共にいた…その中にルシウス・マルフォイもいた。だから私は妹を愛しているが信用はしていない。ダンブルドアがどうして彼女を信用するのかは私にもわからない。深いお考えがあるのだろう。だが、私見で述べさせてもらうなら、君は彼女と親しくするべきではない」
絶句するとはこのことだった
ハリーから見た彼女はとてもそんな風には見えないからだ
大人しく、平凡で、とても優秀
「現に私を釈放するためにルシウスに働きかけたのも彼女だ」
「っ!?」
ハリーは今度こそ目を剥いた
「ハリー、大丈夫だ。君には私がついている。幸か不幸か、正式に釈放されたおかげで私は堂々と君と家族になることができた」
シリウスがハリーを慰めるようなことを言うが、今のハリーの耳には入ってこなかった
それくらい衝撃を受けたのだ
それから、シリウスに何か注意されたが、ハリーはロンが降りてくるまで上の空だった
耳をつんざく歓声が競技場の外にまで響くほど包む中、私はセオとドラコとパンジーと観覧席に座っている
ドラゴンは四種
ウェールズ・グリーン普通種、スウェーデン・ショート-スナウト種、中国火の玉種、そしてハンガリー・ホーンテール
普通に怖すぎる…
というか危ない以前の問題だ
ドラゴンは強力な魔力を持っている
フラー・デラクールがウェールズ・グリーン普通種
クラムが中国火の玉種
ディゴリーがスウェーデン・ショート-スナウト
そしてハリーがハンガリー・ホーンテール
本当にハリーって運がないとしか言いようがない
ドラゴンの中で最も危険な種類を引き当てるってどんまいすぎる
私たち観客は、私服でこのクソ寒い中、外のさ観客席で眺めている
教員席だけテントがついている
腹立つ
ちなみにシリウスが教員と一緒に貴賓席にいる
カオスだ…
マフラーを巻いて手袋もつけてるのにこの寒さ
魔法であっためることもできるが、そんなことのために魔力を消費したくない
フィルチのまたもやタイミングの悪い大砲の合図で、一際大きい歓声に包まれて、代表選手が出てくる
まずはセドリックから
見てるだけで冷や冷やするどころではないこのコロッセオ並みの残酷さと趣味の悪い歓声に私はそうそうに寮に帰りたい
大体いくら魔法があるからって人間に対してドラゴン宛がうってどういう発想すればそんなことになるんだ
つーか金の卵ってなんだ
意味わからん
そんなもんに次の課題のヒント入れる必要あるのかよ
普通に伝えればいいじゃん
だめだ
文句が止まらない
ルード・バグマンの「おぉぉぉぉ!危なかった!危機一髪!」「これは危険な賭けに出ました!これは!」「上手い動きです!あー!残念だめか!」という、スピーカーごと投げてつけてやりたくなる解説が響いて、生徒達が盛り上がる
残念ながらスピーカーなど魔法界にはない
くそう
「ユラ、ものすごく目が据わってるよ…怖いよ」
セオが横から若干引いた顔で言ってきた
見なくてよろしいセオ君
「そんなことないよ?ただちょっと頭に響く解説の方に尻尾でも当たらないかなって思っただけ」
「うん。帰りたいのはよく分かったよ。でも今日はちゃんと見ようね」
「見るよ」
何が起こるかわからないしね
既に原作から色々変わっているから予定通りにいかない可能性がある
しょうがない者を見る目で見られて、素直に返事をしておいた
つーかさっきから、服の中でセンリがソワソワしている…
そして気のせいでなければバジリスクもそわそわしている…
ドラゴンを見てそわそわしているのか…
バジリスクに至っては秘密の部屋にいる時と違って私を通して外の世界が見えるからか大人しい
物凄く
そりゃあんなジメジメした部屋に何百年もいればそうなるだろうな
害はないから放っておこう…
気にしたら負けだ…
そして、ディゴリーは見事に…というかかなりボロボロだが、金の卵をゲットした
「ほんとうによくやりました!さて!審査員の点数です!」
点数を杖で空中に書き、掲げたバグマンにげんなりする
「一人が終わって、あと三人!!Msデラクール!どうぞ!」
デラクールが出てきてはじまった
岩肌が砕けながら、独特な鳴き声のドラゴンが卵を守る
「おー!これはどうもよくない!」「おー!……危うく!さぁ慎重に…あー!なんと!今度こそやられてしまったかと思ったんですが!」
鬱陶しい解説実況を聞きながら数十分後、見事に金の卵をゲットして拍手喝采と歓声が競技場を包んだ
「そして、いよいよ登場!Mrクラム!!」
クラムの登場で会場はさっきまでとは比にならないほどの叫び声に包まれて、拍手が包んだ
頭が割れそうだ…
「なんと大胆な!」
ギャー!!と耳をつんざくドラゴンの唸り声が響いた
「いい度胸を見せました!そして!……やった!!卵を取りました!!」
それからクラムも金の卵をゲットした
とうとうハリーの番になる…
怖い…
ハリー…
どうか何も起こりませんように…
ホーンテールが卵を守るように、両翼を半分開いて邪悪な目でハリーを見ている
鱗に覆われた黒いトカゲのような姿
棘だらけの尻尾を地面に打ち付けて岩が砕け、抉れて深い溝が軽く1メールほどできていた
これには皆も大騒ぎしていた
半端じゃない…
先程までのドラゴンとは格が違う…
なんでこんな強さのバラバラなドラゴンを用意したんだ…
おかしいだろう
ハリーは卵めがけて歩くが、ホーンテールは途端に警戒して尾を振ってハリー目掛けて打ち付けた
避けるたびに岩が抉れて砕け落ち、完璧に敵認定したホーンテールが卵から離れてハリーに向かって火を吐く
火を吐く飛距離ときたら、流石ホーンテール…他のドラゴンとは比べ物にならないくらい長い
たしか最長で15メートルだったよね…
それからハリーが尾に巻き込まれて飛ばされて、岩に打ち付けられた
箒を呼び寄せる呪文を唱えたハリーは、次の瞬間きた炎に岩に隠れて防いだ
すると、森の方からハリーのファイアボルトがゆらゆらときた
競技場の方まで来ると、ハリーはそれを目視して絶妙なタイミングで飛び乗った
すごいな
あんな運動神経私にはない
インドアだからね基本
ハリーが飛び乗った瞬間、凄まじい歓声が響いて、ドラコもわくわくとしているのか、卵を取り損ねたハリーにがっかりしている
やっぱり優しい子だよねドラコは
それから動き回るハリーは急上昇したり、急降下したりを繰り返して…
私では早すぎて目で追うのがやっとだ…
興奮したような観衆の声が響いて、バグマンによる実況アナウンスも最高潮になった時、ホーンテールが首に繋げられていた鎖を引きちぎってハリーを追いかけた
いきなりドラゴンの首輪が外れたことで観衆が恐怖に声を上げて、ハリーはそのまま教員側のテントの間をすり抜けて競技場の外に出た
当然、追いかけたドラゴン
その長い棘だらけの尾によってテントはビリビリで、一部が破壊された
教員達がひっくり返っている
何故かシリウスだけはハリーが飛んでいった方に向かって立って「いいぞハリー!!!」と興奮気味に叫んでいる
うん、知ってたよ
あなたがそういう性格なのは
双子は「いいぞ!ドラゴン!!」と日頃の恨みなのか、調子乗っているのか、歓声をあげている
カルカロフは忌々しげな様子だ
リータ・スキーターはひっくり返ってザマス眼鏡がズレている
ざまぁ
「ユラ、悪い顔してるよ」
「あれを見てごらん、セオ君」
どこぞの頭沸いてる記者を指差して、セオが顔を向けると「ドラゴンは素晴らしいね」と、言った
見事な掌返し、そして清々しい黒い笑顔である
一体どんな恨みがあるのだザマス記者に…
セオの闇を見た気がしたぞ
そして、ややしばらくしてからボロボロで、箒の後ろから煙を出しながら帰ってきたハリーに全員が立ち上がり歓声を上げた
卵を手に取ったハリーに
「やった!!やりました!!最年少代表選手が取りました!!」
バグマンが興奮気味に叫ぶ
そうして、凄まじい歓声と拍手の渦の中、トーナメント第1回目の課題は終わりを告げた
第1回目の試合が終わった後、私はひっそりと校長室に呼ばれた
身なりを整えて、向かうと校長室にはシリウスとレギュラス、セブルスがいた
成る程
いくら信用できるムーディでも、私の正体を洩らすわけにはいかないようだ
本物なら兎も角、偽物はまずいから私にとってはかなり助かる
「お呼びでしょうか校長」
「おぉ、Msポンティ。呼びつけてすまんのぉ…実はシリウスがお主を呼んで欲しいと言ってな」
は?
「そうですか。手紙で済みそうにないことなのでしょう…私に何か用ですか?」
「答えろオフューカス。お前はルシウスと…『死喰い人』と繋がっているのか」
シリウスに向き直って、真面目な顔を向けられていきなり質問された内容に私は一瞬、顔を取り繕うのを忘れそうになった
レギュラスはいきなりの信じられない質問に目を見開いている
セブルスは思案顔だ
「私をお疑いですか兄様」
「正直に言うが、私はお前を妹として愛しているが、信用も信頼もしていない」
そう…
それは結構なことだ…
寧ろ…それのほうがありがたいのかもしれない…
「兄さん!?一体何を言ってるんだ!」
「レギュラス、お前は口を出すな。正直に答えろオフューカス」
「私は『死喰い人』に殺されたのです。それが答えです」
繋がっていないと言えば嘘になる
ルシウスはノット・シニアを連れて抜ける機会を伺っている
私は慎重にその手助けをしている
情報を取るためには…仕方ないんだ…
その為には今は疑われても仕方ない…
私は別に…味方になってもらおうとは思っていない…
殺されても仕方ない…それだけのことをしてきたのだ…
ブラック家特有の灰色の目が細められて歪められる
「成る程。よくわかった。’’Msポンティ’’」
シリウスがそう言った瞬間、その場が凍った
「兄…さん…なに…を」
レギュラスが消えそうな声で何か言っているが…何も入ってこない…
私は…
今自分が立っているのが不思議な感覚に陥った…
大丈夫…
大丈夫だ…
私は…私は…それくらいのことをした…
言い訳なんて…できないし…する資格もない…
私は事実、皆を…裏切っている…
何か言わなければ…
何か…
そう…いつもならどうしていた…
私には泣く権利はない…
これくらいのことで…立ち止まっていたら…いけない…
「…納得されたようでなによりです。では、もう遅いですし、寮に戻らせてもらいますね。もう質問はありませんよね?」
なんとかいつもの顔を取り繕い、絞り出した言葉はどこまで冷たいものだった…
「あぁ。質問は以上だ。戻ればいい。もう会うことはないだろう。…Msポンティ。私の息子に手を出してみろ。容赦しないぞ」
鋭い目線でそう言われて、私は目を逸らさず返した…
「そんなこと、するわけがありませんよ。では、失礼します」
「まっ、オフィー…」
一応、挨拶だけして、沈黙が流れる部屋を出た
レギュラスの止めるような声が聞こえたが…
私は構わず部屋を出た…
出てから…私は自然と伸びた手で胸の石を握りしめていた
コツコツと石床を歩く自分の靴の音が嫌に響く…
寮までの帰り道が…長く感じる…
寒い冬風が…熱くなった体を急速に冷やしていく…
「ナギニ」
やめて…
今出てこないで…
そんな声で私を呼ばないでっ…
私は弱いのよっ…強くないっ…
「お前には’’僕’’がいる」
やめて…聞きたくない…
こうなるのがあんたの狙いだってことはよくわかってるっ…
つけいる隙を与えてはいけないのにっ…
私は確かにあんたの手を取ったっ…
だけど…
だけどこれ以上はいけないのよっ…
放っておいてっ
お願いだからっ
「’’僕’’だけはお前の味方だ。おいで。今夜は冷えるだろう。眠るまで側にいてやる」
やめてよっ
お願いだからっ…
私を……これ以上…惨めにしないで…
温度のない…彼の手に…石をキツく握りしめる手を包み込まれて…ゆるゆると力が抜けていく…
その手に滑らかな指を絡めて…私の手をゆっくり自分の方へと引いてくる…
闇が…目の前にいる…
すぐそこまで…
なのに…
いつものような…歪に弧を描く唇も…愉快げに私を見下ろす紅い目はなく…
ただじっと…見ていた…
紅が…
ゆっくり私を引き寄せた彼は…そのまま無言で寮の自室まで歩いた…
音もない…
あるのは私の足音だけ…
妙に長く感じられた…
石段が…
地下の廊下が…
私は…されるがままだ…
部屋について…彼は私をベットに座わらせて、横たわらせた
一緒に彼も横たわってきて自分の胸に抱きこんできた…
拒否しなきゃいけないのに…
こんな姿見せてはいけないのに…
温度のない…彼の手が…私の頭を撫でる…
まるで…眠れ…と言っているように…
まるで…刷り込みをされているように…
‘’彼’’という存在をゆっくりと…ゆっくりと…侵食させるように…
やめて…
やめてよ…
涙も出てこない…
枯れてしまったかのように…
わかっていた…
私が’’彼’’の手を取った時点で……
「ナギニ…’’僕’’はお前を見捨てない」
そんな言葉をっ…かけないでっ…
あなたの言葉に惑わされてっ…どれだけの人がっ…命を落としたかっ…
私はっ…
「お前は’’僕’’のことだけ考えていればいい」
悪魔の言葉だ…やめてよ…
全部あんたの計画通りでしょっ
私はっ…もう二度とあんたにっ…
「それで全て’’うまくいく’’」
どうせ死ぬんだ…
あんたに騙されたりはしないっ…
なのに…
どうして…
自分が…嫌になる…
そうよ…
私はいつだってあなたに逆らえなかった…
あなたの言いなりで…
あなたの機嫌を損ねないように…卑怯で…卑劣で…最低だ…
「…トム…」
呼んだわけでもない彼の名前…
返事が欲しいわけでもない…
ただ呟く…
ぽつりと口から溢れ出た
気がつけば…私の意識はこれまでにない程の…
ひどく暗い…暗闇に落ちていた…
「もう二度と、一人にしたりはしない…お前との約束だ」
自分の胸に縋るでもなく、ただ…ポツリと名前を呼び…眠りに落ちた彼女のつむじに形のいい薄い唇を寄せた’’彼’’だった
その紅い目は伏せるように…細められていた
第一の課題が終わってから、第二の課題まで三ヶ月の期間がある
勿論、通常授業だ
そして、舞踏会…
あの日から…私は身が入らないと思った…
だけど、そんなことにはなってくれなくて…
’’彼’’の指導を以前よりも淡々と熟し、教えを乞うた…
慰めてきたのはあの夜だけで、’’彼’’はいつも通りだった…
別に何かを望んだわけでも、して欲しいわけでもない…
寧ろそっちの方が身が引き締まるからありがたい…
レギュラスに関しては、私がいつも通りなので、ずっと不安気な様子で、泣きそうな顔で私を抱きしめてきた…
「オフィー…オフィー…納得しないでくれっ…お願いだからっ…君は何も悪くないっ…何もしてないんだ…兄さんは妄想に取り憑かれているんだ…」
しているんだよ…レギュラス…
私は…
それにシリウスは普通の反応をしただけだ…
あれが通常だ
寧ろ、私を完全に擁護さるレギュラスの方が珍しいといえる
妙に冷静になる頭で、私は縋るように抱きしめてくるかつては双子だった兄を見ていた…
セブルスは至っていつも通りだ
こちらの方がありがたい
実に
相変わらず、セブルス印の薬を飲まされるが
ゲロマズ薬のおかげでセブルスとの仲は悪くなってはいない、と思う
寧ろ、私がダンブルドアの命令で動いていると思っているようで、いい顔をしない
「無謀という言葉をご存知ですかな?あの、頭の足りない浅慮で直情的な男を騙せても、我輩を騙せると思うならば笑止」
と言われたくらいだ
うん、セブルスの嫌味と皮肉と毒舌が今の私に取って一番の薬になっている…
ありがとう
一応褒めている
それにセブルスに比べれば私なんて足元にも及ばない…
ハリーは三人とすぐ仲直りしたようで、前のように楽しそうな三人の関係に戻っていた
特に接触してこなかったので、シリウスが何か言ったのだろうと思った
そっちの方がいい
私はもともとあの三人が好きではないのだ…
「ユラ、ダンスパーティー僕のパートナーになってくれないかい?」
この前、社交ダンスの授業があったからか、図書室で本を読んでいると、唐突にセオが言ってきた
正直死ぬほど参加したくないが…
仮病を装って、パーティ中に分霊箱を探しにいくのもできないことはないが…
パーティに参加しないのは目立つし危険だ…
一応全員絶対参加だし
ここは大人しく参加しておいた方がいい
「いいわよ。足を踏まないように頑張るわ」
「ふふ、ユラなら大丈夫だよ」
何を根拠に言っているのか…
座って本を読みながら、視線を合わせずに淡々と会話する私たちは変だろうな
だが、いつも通りだ
私はこれくらいの距離感が好ましい
皆、男子生徒はお年頃なのでパートナー探しに苦戦しているようである
私は気兼ねない友人がいてよかった
ドラコは上から目線でパンジーを誘ってて、もっと言い方あんでしょ、と、ガンつけられてたけど…
なんかもう漫才コンビみたいになってきたよね
あの二人
セオとそのやり取りを見た時、「なぜこの二人はこうなるのか…」と天を仰いだものだ
そんな感じで、私たちはあっさりパートナーが決まった
ちなみに私のドレスコードは母が用意した、強調しすぎないスレンダーラインのドレスだ
あまり露出がないレースの長袖オフショルダー
だが、見るからに寒そう…
まぁ大広間は暖かいだろう…
髪に合わせた黒だから…ネックレスもそのまま着けていられる…
個人的に言うなら私は白や青が好きだ…
これは…あまりにも’’彼’’を彷彿とさせる色合いで…
十二月、ホグワーツは雪に包まれ、肌を刺す寒さが漂う中、ハリーはすっかり元通りに戻って、以前よりも仲良くなったロンとハーマイオニーと大広間の長テーブルで課題を熟していた
通路にはスネイプがゆっくりとした歩幅で歩きながら、見張っている
ハリーは課題をしながら、少し奥に座って羽ペンを動かしているユラをチラッと見た
今学期に入って、彼女はよく倒れる
それにずっと顔色が悪いのだ
疲れたような、疲労を滲ませた顔で…
シリウスに関わるなと言われて、仲直りを報告してからは話しかけこそしなかったが、気になるものは仕方なく、見かけるとチラッと見ていたハリーは気づいていた
おそらく自分以外の人は彼女がいつも通りに見えているだろうが、ハリーには疲れているんだろうとわかった
勉強熱心だからそっちだろうとも思ったが、シリウスが言っていた「ダンブルドアが信用している」という言葉を思い出していた
何か、ダンブルドアに頼まれているのか、自分の知らない話をしているのか、といい意味で知りたがりの、好奇心旺盛なハリーは気になって仕方なかった
「まずいよ。この調子じゃ相手がいないの僕らだけだよ」
ロンが唐突にそう呟き、スネイプに頭を押さえられる
「ネビルもまだ」
机に向かうように頭を押さえられたロンはボソリと呟く
「ネビルなら一人でも踊れるから」
ハリーはそれに、ネビルが自室でダンスの練習をしていたのを思い出した返し、二人で小馬鹿にしたように笑う
だがそこでハーマイオニーが情報を提供した
「ネビルなら、もう相手を見つけたようよ」
それを受けてロンはネビル如きに先を越されてしまったことに落ち込む
「あ〜…それって落ち込むな…」
ロンが呟いた時、向かいの斜め前の席から兄のフレッドがロンに丸めた紙を投げた
そして、ひらりと羊皮紙を渡してきた
そこには
『急がないと、いい子は皆売れちゃうぞ』
と書いてあった
それにむかっときたロンは紙を突き返して「そういう自分は?」と聞いた
すると、すぐ近くに座っていたアンジェリーナに丸めた紙を投げて、あっさりパートナーにした
自慢気にウインクしてきたフレッドにむかっとくるロン達
そして、ロンはなけなしとばかりに横に座っているハーマイオニーを見た
「ハーマイオニー、女の子だよね?」
ゆっくり顔を上げたハーマイオニー
「よくお気づきですこと」
だが、ハリーはロン達の後ろからスネイプが来ているのが見えて慌てて気づかせようとロンの服を引っ張った
「僕らとどう?」
言った瞬間、見事に本で叩かれるロン
そしてついでにハリー
完璧に悪意と巻き込まれてである
スネイプが行ったことを確認して、ロンはまた口を開いた
「ほら、男なら一人でも平気だけど、女の子は惨めだよ?」
失礼な発言に、ハーマイオニーは眉を顰めた
「一人じゃないわ。お生憎、もう申し込まれてるの」
語彙を強めに言い、課題を持ってスネイプに出しに行ったハーマイオニー
そして、戻ってきた
「イエスって返事したわ」
と、言い、教科書を持って行ってしまった
それに唖然とするロンはハリーに思わず聞いた
「まさか…嘘だよな?」
「どうだろうね…」
「こうなりゃ、歯を食いしばって頑張るしかないよ」
ロンはハリーにそう言い、後ろでスネイプが手を構えて袖をズラしているのに気付かない
「今夜、談話室に戻るまでにパートナーを見つけること。いいか?」
「オッケー」
ひそひそと決意を固めた途端、頭に大きい手が乗せられて力強く、机に向かい合わせにさせられる二人であった
大広間に続く階段や、廊下には色とりどりに着飾った生徒で溢れかえり、ハリーとロンはパートナーであるMsパチル双子と顔を合わせていた
そこに、廊下から階段を降りてきた女性が二人いた
淡いピンクのフリルのついたパーティドレスのパンジー・パーキンソンと、控えめな大人の雰囲気があふれている黒のオフショルダーのドレスを着たポンティだった
ポンティの胸元には控えめに主張する紅い石のネックレス
華奢なチェーンはとても繊細で、あのネックレスが彼女のためだけにあるかのような特別な雰囲気を漂わせていた
「すごく大人っぽいあの子…」
パーバティの、口から溢れでたような呟きが聞こえたが、ハリーはユラの顔色がそんなによくないままなことに気を取られていた
ゆっくり美しい姿勢で階段を会話しながら降りてきた二人に、ハリー達の後ろにいたらしい、マルフォイと、よくユラといるノットがコツコツと近づいた
マルフォイが鼻で笑ったように上から目線でパンジーの手を取りながら一応、紳士らしく振る舞いエスコートする
途端に嫌味の応酬をするパンジーとドラコに、仲がいいのか、悪いのか…
ハリーはよくわからなかった
一方、ノットのパートナーは矢張りユラなようで、恭しく手を取り、胸に手を当てて、紳士、貴族らしくエスコートしていた
「あの夜会以来ね。セオが髪をあげてるの」
「あぁ。一応儀礼的にはしておかないとね」
「私も儀礼的にこんな寒い中、髪をあげ’’させられて’’いるわ」
「ふふ、その様子だと、降ろそうとしたけど、パンジーにどやされたんだね」
「全くもってその通りよ」
「寒いんだろうけど、とても似合っているよ。さぁ行こうか」
「ええ、ありがとう」
まるで、色気のない、若者らしくない、成熟した雰囲気で穏やかに会話する二人に、ハリー達はひくひくと口許が引き攣った
あそこだけ空気が違う
ノットにゆっくりと大広間にエスコートされて行った二人を唖然と見ながら、ハリーはロンに小突かれた
「僕はあいつらが同級生とは思えないね」
「そうだね…」
としか言えなかったハリーだった
大広間の壁はキラキラと銀色に輝く霜で覆われ、星の瞬く黒い天井の下には、何百というヤドリギや蔦の花綱が絡んでいた
各寮のテーブルは消えてなくなり、代わりにランタンの仄かな灯りに照らされていた
十人程が座れる小さなテーブルが、百余り置かれていた
一番奥には教員や審査員がいる
セブルスは着飾らずにローブを取ったいつもの黒服だ
セブルスらしいや
横にいるレギュラスは、いつもと違う深緑のローブと社交用の衣装を着て佇んでいる
あの二人は仲が悪いわりにそれなりに信頼はしているのかもしれない…
先に入場した生徒達で花道を作り、人垣になる
音楽と共に入ってきた代表選手達を拍手で迎えて、奥の人が避けた丸い場所で選手達は位置につき、フリットウィック先生のオーケストラの指揮の元、ダンスが始まった
ダンブルドアがマクゴナガル先生の手を取って参加してから先生方も
あの人って、甘いもの好きだし、こういうことですっごくウキウキする人だよね…
カルカロフも参加した
勿論セブルスは参加してない
レギュラスは女性の先生方から踊りたそうな眼差しを向けられているが、爽やかな笑顔でセブルスの横から動かない
レギュラス兄様…セブルスを女避けにしているな…
話しかけてくるレギュラスに嫌そうな顔してるし…
因みにセブルスの横に立っている女性がじっとセブルスを見てる
まぁ顔色良くなったし、背は高い方だから黙っていればモテるだろうね…
見向きもしてないけど…
どんまい…
その内、生徒達も全員踊り始めて、私も一応セオと踊った
オフューカスだった時に、叩き込まれたのが幸いした
足を踏まずに済んだから
ハリーとロンは興味がないのか、早々にダンスの輪から抜けて誰もいないテーブルに腰掛けている
まぁハーマイオニーがとっても綺麗だもんね
自業自得だな
ロンに関しては素直になればいいのに…
まぁそれはハーマイオニーにも言えることか…
私は途中から人酔いして、セオに断ってひっそりと大広間から出た
ヒールの音が響き、私は当てもなく…誰もこないところで一人になりたかった…
天文台の塔について…肌を刺すような冷たい風を感じて、雪に包まれた…仄かな灯の灯るホグワーツを見る…
寒い…
心も…
「こんなところで一人でいるなんてな、参加しなくていいのか?」
私は…期待したのだろうか…
ひとりで…誰もいない…ところでいると…
振り向きたくもない…
後ろから聞こえる声を無視して私はシンシンと降る雪を眺めた…
「’’僕’’に慰めてほしいのか?」
違う…
慰めなんていらない…
分霊箱の検討がつかない…
私の知っているものではないと言われても…私は一応調べに行っている…
事実…ロウェナ・レイブンクローの髪飾りに闇の魔法はかけられていなかった…
他はわからないが…
「今は難しいことを考えるな」
あなたがそれを言うの…
あなたのせいで…
「折角の夜だ。ナギニ」
やめて…
あなたは居ないはずの人…
記憶よ…
彼の気配がした…
私の背中に広い胸の感触が広がった…
温度はない…
手すりに置いていた手に添えるように手を乗せられて引き離される…
ゆっくり…
ゆっくり振り向くと…
黒髪がかかった紅い目が私の手を取り、見つめていた…
こんなことしないでよ…
今更っ…優しくしないで
腰に添えられる手を…払わなきゃいけないのに…
「今夜くらい、全て忘れればいい」
忘れられるわけないっ
これから起こることを…知っていてっ…
艶やかな声から紡ぎ出される、静かな澄んだ声…
あなたの中は真っ黒なのに…
指先に口付けて、私の腰に手を添えて引き寄せてくる彼に…
どうして抗えないの…
逆らってはいけない…
覚えこまされた…
何度も…何度も…痛ぶられた…
心を壊され…痛めつけられたのに…
頬に温かい筋が流れた…
彼のリードで揺れる体はふわふわと羽になったかのような感覚で…
何でもできた…
彼は…
どんなことでも完璧に…
ただ…
ただ…ひとつ…
ただひとつを除いて…
ほんとうに…
「…不器用な人…」
ぽつりと出た言葉は…彼を怒らせないようにする言葉でもあった…
口から出てしまう…
きっと…誰も彼に同情なんてしない…
こんなことを口にする私は…彼と同じだ…
罪深い…
「あぁ…お前の前ではな…」
涙を見られないように、彼の胸に頬を寄せる
布に染み込む涙が…
自分が…惨めで…酷く滑稽に思えた
揺れる体を感じながら…私はその夜…
初めて自分の意思で…彼の胸に寄りすがった…
満足でしょう…
全てあなたの言った通りになった…
「もう間違えないよ」
そう言った彼…
それは私のセリフだ…
あなたは…もう遅い…
遅すぎた…
その夜、言葉もなく…ただ無言で私は彼に身を預けた…
力は入らず、彼の手に引かれてまるで操り人形のように…回り…ステップを踏み…離れて…また近づいて…
体が冷え込むのを感じながらも…止めようとも思えなかった…
ダンス・パーティの日から、時間が過ぎるのは、早いもので…
とうとう二月になり、まだまだ肌寒い中、第二の課題の日がやってきた
分霊箱の検討はつかないまま、私は彼の指導と授業と並行して過ごしていた…
正直体が壊れそうだ…
もともとそんなに丈夫ではないのだ…たぶん
今回の私がすることは、バーテミウス・クラウチの『服従の呪文』を解くことだ
考えた…
彼の復活は避けられない…
それに復活しなければ…葬ることができない…はずだ…
道筋はあまり変えないほうがいい…
問題はクラウチJrに勘づかれないようにしなければならない…
正直、自信はないし、なんならバーテミウス・クラウチのやってきたことを考えれば放置してもいいと思った
だが…それは…私の決めることじゃない…
彼はダンブルドアに打ち明けようとしていた…だからこそ、それに賭けてみる
‘’彼’’には、当然私の計画を知られている…
いや、彼の力を借りているのは他でもない私だ…
なのに彼は止めようとしない…
タイミングが早ければ、バーテミウス・クラウチがダンブルドアに打ち明けて、Jrを探すために動き出す…
だけど、最終課題はそのまま行われる可能性が高い…
だから私はセドリックに毒を盛ることした
試合中に時間差で効いてくるように慎重に
完全な魔法薬にしなかった理由は、魔法界は魔法薬には敏感だが、マグルの間で使われていた毒に関しては容易に目がつかないだろうからだ
気づくとしてもダンブルドアくらいだろう
セドリックを殺すわけじゃない
仮死状態にするだけだ
彼にポートキーで墓場まで連れて行かれても仮死状態なら『死の呪文』をかけられることもない…と思いたい…
連れて行かれてから帰ってくるまでの間だけでいい
それに、魔法薬を使用しなかったのは『ヴォルデモート』の目を一瞬でもいいから欺くためでもある
そして、第二の課題が無事終わり、セドリック・ディゴリーは一位、ハリーが二位だった
あとはどうでもいい
ボートに乗って帰った後、バーテミウス・クラウチはハリーと話しながら、森を歩いていた
そこに偽ムーディが来て、舌を出す癖を見て、クラウチは息子が家を抜け出したのに気づいた
私は森の奥に向かう彼の後を追い、誰もいないことを確認して、後ろからそっと杖を向けて唱えた
「フィニート・インカンターテム(呪文よ、終われ)」
クラウチが数秒間、唖然として立ち尽くして、暫くしてから速足で焦ったように歩き出したのを見て、私は寮に戻った
これで彼が早いことダンブルドアに打ち明けてくれればいいが…
偽ムーディはすでにセブルスが怪しんでいるから、最近、目を離さない
ポリジュース薬の材料が無くなって、エラ昆布も盗まれていることに気づく頃だろう
それに私が早いうちに携帯酒瓶に関して伝えているので、ますます疑いを募らせている
「お前にしては、ない頭を絞って考えたな」
うるさい
私は今、『姿現し』で、リドルの館に来ている
不気味で暗い…
ここで、彼は自分の父親とその家族を呪い殺した…
ここに来る前、私はトーナメントで誰もいなくなったムーディの部屋に忍び込んで、彼を解放した
彼は驚いていたが、私のことは決して言わないように約束させた
少し脅す形になったが、仕方ないのだ
彼は騎士団のメンバーだ。それにとても疑い深いし警戒心が強い
下手に何も言わずに探られてはこちらが動き辛い
今頃、学校ではトーナメント最終課題が始まっているだろう
始まった途端、本物のムーディが現れれば、大変な騒ぎになるだろう
そして、うまくいけば見届けるだけで済むが…ディゴリーがもし…
いやだ…
怖い…どうしようもなく…
「…これしか…思いつかなかった…私は何もできない…から」
「何もできないのに、僕を使おうとするのか?」
「…………死ぬのは…私とあなたよ」
結局、バーテミウスはダンブルドアに打ち明けていない…
保身的な人…
私も人のことを言えない…か
「あのイカれた男と重ねているのか?」
イカれた…
イカれた…ね…
「その言い方だと、私もイカれているわ」
「違うと?」
「…そうよ…私はもっとイカれていた…あなたに逆らえず…逆らわず…見て見ぬふりをし続けた…もっと最低よ…」
「全て’’彼’’のせいだと、言わないんだな」
「…私をこうしたのはあなたよ…」
「あぁ…だが君は今、抗っている。’’彼’’に初めて逆らっている」
わかってる…
それがどれだけ恐ろしいことかっ…
彼に逆らうことは…逆らうことは…死よりも怖いっ…
そう覚えこまされたっ…
「お前の覚悟がどれほどのものか、証明される時が来るね。果たしてお前は’’彼’’に杖を向けられるか。お前に杖を向けられた時、’’彼’’はどんな反応をするか…」
っ!
やめてやめてっ!いやっ!
体の震えが止まらないっ
ーーー「死んでしまったな、ナギニ。お前の弱さのせいで」ーーー
やめて!!!
フラッシュバックした記憶のせいで、自分の体を抱きしめる
怖い…怖いっ…こんなことしたくないっ
こんな場所にいたくもないっ…
私は…私はただ平和に暮らしていたかったっ…
震えていると、不意に横から包まれた…
っ!
「言ったはずだ。’’僕’’はお前の味方だ。復活する’’彼’’を前に、お前の脚が震えようと…」
ゆっくりと私の脚に這う彼の白い手…
蛇のような…
鳥肌が立つっ…
「杖を持つ手が震え、恐怖に打ちのめされようと…」
そして自分を抱きしめる腕を優しく解かれ手を握られる…
まるで蛇がゆっくりと体を移動するような不気味さ…
「’’僕’’はお前を見捨てたりはしない」
耳元に呪詛のように…洗脳するように私を侵食してくる…何度も聞いた…彼の艶やかな声に…麻酔を打たれたような心地になる…
毒だ…
彼の存在そのものが…
「パンジー?ユラがどこか知らないかい?」
セオドール・ノットは競技場に現れなかった友人の姿に、一緒に来ていないか、パンジーに聞いた
「あぁ、ユラならどうしても体調が優れないから寮で休んでるって言ってたわよ」
寮で、青い顔をして言っていたユラを思い出して、パンジーがセオドールに何でもないことのように伝える
「そっか…」
友人が今学期に入ってからずっと顔色が悪かったのを思い出したセオドールは、ついに倒れてしまったのか、と心配になった
そして僅かな違和感も
「ユラなら大丈夫でしょ。最近冷えてたからそのせいじゃない?風邪でも引いたんでしょ」
女同士、セオドールほどではないが、よく一緒にいるパンジーは、「女は色々大変なのよ」とばかりに男のセオドールにはわからないとばかりに返した
「なら医務室に行かないと」
ユラは医務室の常連でもあるので、マダム・ポンフリーに早めに診てもらったほうがいいと思い、セオドールは言うが
「今日様子見てから、無理そうだったら医務室行くって言ってたわよ」
ある意味で先手を打ったユラの言伝に、セオドールはもう何も言わなかった
巨大な草の壁の四つの通路の前に立つ、代表選手達
ハリーは、またしてもタイミングの早いフィルチの大砲の合図で、暗い不気味な通路に足を踏み入れた
どこまでも長く続く迷路
暗い…暗い迷路を進み…
ハリーは暫く歩いた…
そして、フラー・デラクールらしき悲鳴を聞き、声がするように向かう
向かう途中、クラムと遭遇した、目が開いた…
明らかに尋常でない様子のクラム
何かに操られているような正気ではない目だった
ハリーは逃げるように迷路の中を進む
そして、植物の蔦にフラーが取り込まれていくのを見た
どうにもできず、緊急事態だと思い、赤い花火を打ち上げた
その途端、迷路の中を物凄い風速の風が吹いて、ハリーは走った
走った後に見えてきた青白い光
だが、それはすぐ植物の壁に遮られる
その途端、クラムの低い声が響いた
「ディゴリー!!」
「伏せろ!!伏せてろ!!」
いきなりのことで何のことかわからず、ハリーはディゴリーの声に従い伏せた
途端に、二人が呪文を唱えて、ディゴリーの呪文が当たったのか、クラムは倒れた
ディゴリーはいつもの穏やかな様子とは違い、人が変わったように倒れたクラムに近づき、杖を奪い放り投げた
ハリーはそれを見て、ダンブルドアが迷路の中では「人が変わる」と言っていたことを思い出し、追い討ちをかけようとするすぐディゴリーを止めた
「やめろセドリック!魔法で操られているんだ!」
「離せ!」
「魔法のせいだ!!」
そして、二人はお互いの邪魔をするように迷路の中を走る
見えてきた青白い光…優勝杯に一目散に駆ける二人
狭い通路を走る中、ディゴリーは蔦に邪魔をされて足を取られて倒れた
ハリーは途中まで走った
どんどん蔦に巻き込まれて、取り込まれかけるディゴリーを見て、迷った
見捨てれば…優勝杯は…
だが、ハリーは迷った結果、ディゴリーを助けた
ディゴリーの側に行き、蔦を取って助けたハリーに、ディゴリーは不安な様子で、息が小刻みで、気が動転していた
「ごほっ…ん゛…あの…ありがとう…」
「いいんだ…」
「でも…一瞬思っちゃったよっ…見捨てられるって…」
「僕もそう思った…」
否定はせずに答えるハリー
「キツイ課題だな…」
「ほんとだね…」
落ち着いたところで、ビキビキと壁が動く音が響き、突風が迷路の通路を吹き抜け、みるみる草の壁が塞がれていく
走った二人は優勝杯の前まで来た
「君が取れ!助けられた借りがある!」
「じゃあ一緒に!」
「「いち!にの!さん!!」」
優しいハリーは、セドリックと一緒にゴールしたいと思った
だから二人で同時に優勝杯を手に取った
そして、次の瞬間景色が変わり、二人はポートキーによって飛ばされた
そこは、暗い、草ぼうぼうの墓場だった
右手にイチイの大木があり、その向こうに小さな教会の黒い輪郭が見えた
右手には丘が聳え、その斜面に堂々とした古い館が立っている
ハリーには辛うじて館の輪郭だけが見えた
嫌な予感がして、ハリーはセドリックに声を掛けようとしたが、セドリックは倒れていた
慌ててハリーが確認しようとした瞬間、墓場の真ん中にある大鍋に火がついた
驚く間もなく、突然額の傷に激痛が走った
今までの尋常ではないほど
ハリーは思わず杖を滑り落とし、膝をついた
すると、墓場の間から、近づいてくる人影が見える
何かを抱えて、その姿がワームテールだと分かったハリーは立ち上がろうとした
だが、先に杖を向けられ、ワームテールによって後ろにある死神の像に拘束される
それから大鍋に、手に持っていた布から何かを入れて、ワームテールは墓場にある骨をひとつ大鍋に焼き入れた
そして、「僕の…肉」と言い、怯えながら自分の手首を切り落としたワームテール
闇を劈くような悲鳴があがる
それが大鍋に飛沫をあげて落ちる
次はハリーに向き直り、ナイフを持って近づいた
「敵の血…」と言い、腕をナイフで抉り、その血を大鍋に垂らした
その瞬間、大鍋から火花が出て、濛々たる白い蒸気がうねりながら立ち昇った
ハリーは失敗してくれと願った
だが、その時、目の前の靄の中に骸骨のように痩せ細った、背の高い男が現れた
その痩せた男は、骸骨よりも白い顔、細長い、真っ赤な不気味な目、蛇のように平らな鼻、切り込みを入れたような鼻の穴…
この数ヶ月悩まされた夢の中で何度も見た…
ヴォルデモート卿が復活した
「トム……」
その様子を、館の中から哀しげな様子で見ていた彼女は、横にいる美しかった頃の…彼がいる
「…なんだナギニ」
まるで何を聞きたがっているのかわかっているかのように返される言葉
「あなたは……’’彼’’ではないの……よね…」
遠くから見える…自分の体を手に入れて、デスイーターを呼び、ハリーに話しかけているヴォルデモートを見ながら、彼女は懇願するように…願うかのように呟いた…
「それはお前が一番よく分かっているんじゃないか?」
明確な言葉を告げない彼に、彼女は胸元にある石を握りしめた
「さぁナギニ。行くんだ」
どこに、など分かっている
彼は’’今の’’ハリーには彼の相手はできないと断じているのだ
おそらく今回の対峙は、彼女が知っている未来とは変わっている
「大丈夫。お前には’’僕’’がついている」
まるで、仲間のように、慰めるように、励ましの言葉を口にする彼に、彼女は心を閉ざした
こんな言葉…到底受け入れてはいけない…
だが…どうしようもなく…
心強いのも確かだ…
コインの裏表のような…今の彼…
いつ裏切られるかもわからない…
目的も…何も…
不安に揺れ、震える手を取り、額に口付けてくる彼の温度のない薄い唇の感触を感じて、それを振り払うように、彼女は向かった
一方、ハリーはヴォルデモートに『磔の呪文』をかけられて、地面の上で悶え苦しみ、絶叫を上げていた
だが、そこで、いきなりヴォルデモートの呪文が止まった
時間がないかのように、静まり返る墓場に
草を踏みしめる音が静かに響く
「おぉ…」
ヴォルデモートが自分を見下ろしていた体を起こし、音がする方を振り向いた
感動したような、うっとりとした声を洩らすヴォルデモート
ハリーは地面から、ヴォルデモートの影に隠れて見えない中、突然のことに必死に状況を理解しようとした
セドリックは先程ヴォルデモートに死んでいると断言されて、ハリーは何とか優勝杯と共に彼の遺体を持って帰ろうと考えた
「おぉ…おぉ…矢張り…お前は生きておったか…」
感動するようなヴォルデモートの声が響き、黒く長いローブを揺らしてハリーには目もくれず進んでいる
そして次の瞬間聞こえた声に、ハリーは頭が真っ白になった
「…いいえ…私は確かに死んだわ…」
凛とした…透き通るような…心地のいい声量の大人しい声が響いたからだ
ハリーがよく知っている声…
そんな、まさか…と絶句したハリー
「会いたかったぞ…心底な…お前は必ず生きていると…俺様は確信していた…」
デスイーター達の騒つく声が聞こえてくる
そして、ヴォルデモートの黒いローブがハリーの視界から消え、見えてきたのは、黒のローブを着た、袖の長い独特の白の民族衣装のような服を着た…
彼女…
ユラだった
見たこともないくらいに哀しげな…憂いに塗れた黒い瞳
ユラは視線をハリーに移し、ヴォルデモートを無視してハリーの側まで歩いた
自分の体でハリーを隠すように立った彼女に、ハリーは混乱した
「退け。お前が庇う価値などない」
不機嫌なヴォルデモートの声が響き、ハリーは後ろにある彼女の手が指すものを見た
優勝杯だ
逃げろということなのだろう
「いいえ」
「お前が、俺様に逆らうか?」
「私は……もうあなたの’’物’’ではないわ」
その瞬間、ユラはヴォルデモートに杖を向けて、凄まじい魔力がぶつかった
ハリーが飛ばされそうなほどの衝撃がきて、赤と緑の光が火花散らしてぶつかり合う
ヴォルデモートの叫び声が響く中、ユラはハリーの方をチラッと見て、小声で言った
「ハリー、ディゴリーは死んでなんていないわ。彼を連れて優勝杯を持ってっ」
「でもっそれじゃあユラは!?」
「私は自分で帰るわ。ハリー。私を信じて。それと約束して、私がいたことはダンブルドア以外に絶対に言わないで」
初めて見る、いつも変わらない彼女の、懇願するような眼差しにハリーは唇を引き結んで頷いた
一人で残すなんて危険すぎる
ハリーは意味がわからないし、何故ヴォルデモートが彼女を知っているのか…聞きたいこと気持ちを呑んで、セドリックの体あるところまで近づいてくれたユラに隠れながら、呼び寄せ呪文で優勝杯に触れて消えた
優勝杯で飛んだ先は、会場だった
ハリー達が戻ってきた途端、合奏団によるマーチが響き、歓声と拍手が響いた
死んだように意識のないセドリックの胸を倒れながら、ハリーは混乱した頭の中で、近づいてくるダンブルドア達に顔を上げた
「ハリー!ハリー!」
セドリックから離れない自分にダンブルドアが起き上がらせて、「何があったのじゃ」と聞いてくる
ハリーは「ヴォルデモートが…ユラが…」と言おうとしたが彼女の懇願するような目を思い出して、唇を引き結んだ
「っ先生っ…先生っ…僕っ…僕っ!あいつがっ…あいつが戻ってきたっ!ヴォルデモートが!!」
「もうよい。ハリー。もうよい。帰ってきたのじゃ…二人とも」
混乱して泣いているハリーの頬に手を添えてダンブルドアが慰めるように言う
「セドリックは生きてるって…死んでない…って…」
「なに?」
人が寄ってくる前に、ダンブルドアはセドリックの脈を確認した
僅かだが、脈がある
「先生方!セドリックをすぐに医務室へ運んであげなさい!」
と、言い、ハリーはダンブルドアに立たされた
シリウスが走ってきて、人垣をかき分けてハリーを抱きしめた
「ハリー!ハリーっ!」
「シリウスっ」
「もう大丈夫だっ!私がいるっ…私がいるっ」
混乱するハリーを力強く抱きしめて、シリウスはハリーを包み込んだ
ダンブルドアはハリーはシリウスに任せて大丈夫だろうと思い、先生方に生徒を寮に返すように指示した
そこで、スネイプが焦ったようにダンブルドアに何かを耳打ちした
その途端、ダンブルドアの顔が険しいものに変わり、スネイプとレギュラスを引き連れて急いで学校に戻って行った
ハリーはその背中を見ながら、言わなきゃ…ダンブルドアに彼女のことを言わなければ…と思った
シリウスの腕から抜けてハリーはダンブルドアを追いかけた
「ハリー!?待て!」
シリウスが後ろから追いかけてきているのに気づきながらもハリーはダンブルドアの後を追った
そして、辿り着いたのは自分も何回か来た、ムーディの部屋だった
そしてハリーは驚いた
そこにはムーディが二人いた
正確には、ダンブルドアに拘束され、真実薬を飲まされているムーディと、シャツもズボンだけの姿のボロボロの「魔法の目」を付けていない痩せ衰えたムーディ
「え、どういうこと…ムーディが…二人…?」
「まさか…」
絶句したようなシリウスの声と、ハリーの混乱の声が響く中、ダンブルドアは椅子に座らせられているムーディを掴みながら、聞いている
「飲むのじゃ!わしは誰じゃ!」
「アルバス・…ダンブルドアっ…」
「お前は誰じゃ!ムーディかっ」
「…違うっ…」
「ダンブルドア、そいつはバーテミウス・クラウチJrだ」
片脚のない本物のムーディは机と壁に手をつきながら疲れたように言った
「ポリジュース薬です」
セブルスがダンブルドアの横で、携帯用酒瓶の中身を匂い確認した
「君からくすねていた犯人がわかったの。彼女の懸念は当たっていたようじゃ…」
ダンブルドアが警告していた彼女の予想が当たったことを呟いてセブルスも苦い顔をした
レギュラスは彼女が誰のことかわかったのか、セブルスと似たような苦い顔をした
そして、次の瞬間、Jrのポリジュース薬の効果が切れ、本性を表した
不気味に舌を出すバーテミウス・クラウチJrだ
ダンブルドアが杖を向けて、妙な動きをしないように警戒する
「そいつの腕の傷も見せろ」
Jrは自分の腕を捲り、『闇の印』を表した
その印はドス黒く存在感を放っており、髑髏から出る蛇は動いている
ハリーもダンブルドアに引っ張られて腕の傷を見せられた
「この意味がわかるだろう?あの方が…ヴォルデモート卿が蘇った」
「僕抵抗できなくて…」
「アズカバンに告げよ。囚人が逃げていたとな」
「俺は英雄として迎えられる!」
ダンブルドアがハリーを連れて部屋を出る直前言ったJrに、ダンブルドアは言い放った
「闇の世界に英雄などおらん。シリウス、アラスターを医務室に連れて行ってくれ。レギュラス、至急魔法省に通達を入れておくれ」
「かしこまりました」
ダンブルドアの指示にレギュラスは深刻な顔で頷き、部屋からローブを翻して速足で出ていった
シリウスもダンブルドアの指示に従い、ムーディに肩を貸して支えてハリーに言った
「わかった。ハリー、ダンブルドアから離れるな」
「う、うん…」
「ハリー、ついてくるのじゃ」
ハリーの手を取って校長室に向かった
「ナギニーーーー!!!!お前が!!俺様に逆らうか!!」
頭に響く、ヴォルデモートの叫び声を聞きながら…私はもう今にも倒れそうな状態で、魔力を振り絞って『姿現し』で城に戻った
戻ったところは、湖の側で私は膝から崩れ落ちた
「う゛っ…ゴホッ!」
ポタポタ…
「上々だナギニ。僕の指導がなければあそこまで保たなかっただろう」
結局…私はまたしても’’彼’’の言う通りになった…
タイミングがわからず、彼の指示に従ったのだ…
無理をしすぎた体はぼろぼろで…とどめの『姿現し』で、吐血した
息切れと鼓動の速くなっている…
行かないと…
でも…でももう少し…
『姿現し』をする余力を残すのは大変だ…
下手をすれば体がバラバラになる…
ルシウスには前もって、知らせておいたから今回のことに驚きはしないだろう…
ルシウスの方も早いこと手を打たないと…な
今回ハリーに見られたことで…厄介なことに…
セブルスにもJrのこと…
本物のムーディのこともある…
「立つんだ。休んでいる暇はないんじゃないか?」
わかってる…
わかってるそんなことっ…
立ってっ…
立って私の足っ…
首が痛い…
ヴォルデモートに絞められた首が…
彼の温度のない指が絞められた首の痕に触れる
「お似合いだぞ」
最低っ…
紅い目を細めて、歪んだ唇が弧を描き、そう言う彼…
手を振り払ってフラつく身体を叱咤して立ち上がる
愉快げに嗤う彼に怒りが湧いてくる…
何が面白い…
私は…また死ぬところだった…
どれだけ逃げたかったかっ…
怖い、恐ろしい…体が逆らってはいけないと言ってるのに…
それでも私は抗った…
それから生徒の目につかない道をゆき、私は校長室に向かった
ハリーは校長室に来た時、二人になった段階で、今だと思い、あったことと、ユラのことを言った
ダンブルドアは一瞬驚いたような顔をしたが、その後、セブルスやレギュラス、入ってきたので、その話はお終いになった
「魔法省には通達致しました。じきアズカバンから迎えがくるでしょう」
「あの者は、現在地下牢に拘束しております」
レギュラスとセブルスが報告して、ダンブルドアは「ご苦労じゃった」と声をかけた
そして、次にシリウスがまだ少し弱っているムーディを支えて入ってきた
服を取り戻し、「魔法の目」も付けている
「アラスター、動いて大丈夫なのか?」
「あぁ、問題ない。ダンブルドア。実は大会が始まる前にわしは助けられた。その者は名は明かせないが、その者のおかげでわしはスネイプにクラウチJrのことを知らせることができたのだ」
ムーディがいきなりそう言ったので、全員が驚いた顔になった
そこで、校長室の扉が開いて誰かが入ってきた
「ユラ!!よかった!無事だったんだね!」
ムーディは目を見張ってユラを見たが、口を閉ざした
セブルスは眉間に皺を寄せて、落ち着いて尋ねた
「その有様はなんだね?」
「説明は後ですセブルス。ダンブルドア先生、セブルスとムーディを残して人払いを」
「Msポンティ!?」
首に明らかに絞められた痕をつけて、服もボロボロで汚れた血がついた、青い顔色の状態でダンブルドアを見つめてそう言った彼女にレギュラスが叫んだ
「よかろう。済まぬが、シリウスはハリーを医務室に連れて行っておくれ。レギュラスも堪えてくれ」
「っ!」
「ですがっ!」
「ユラ!」
シリウスは拳を握りしめて、ハリーの腕を取った
レギュラスは、こんな状態の彼女を放っておくなどできないとばかりにダンブルドアに抗議するが、ダンブルドアは薄いブルーの目を向けて視線でレギュラスを諭すように促す
そして、渋々出ていった三人
残されたのは、ダンブルドア、セブルス、ムーディだった
「ダンブルドア、この生徒は何者だ?」
「それは後じゃ。わしに伝えたいことがあるんじゃな?セブルスとアラスターを残したということは意味があるのじゃろう」
「はい。話を始める前に、どうか私の話を最後まで聞いてください。到底、信じられない話でしょうが全て事実です。そして起こりうる未来です」
「よかろう。セブルス、アラスター、よいか?」
「構いません。我輩も聞きたいことが山ほどありますからな」
「構わん」
私は、ドクドクと脈打つ心臓を…ネックレスの石を…抑えて…息をひとつ吐き…
私の言葉を待つ、三人に言った
「『ヴォルデモート』の…彼の手により亡くなった方は…全て私の責任です…」
それから、私は百面相のように変わる三人の表情を見て見ぬふりをして、私がかつての彼と共に過ごした人物であること、そして三度も生まれ変わり、記憶を引き継いだこと
そして、夢でみた未来で彼を葬るために、彼の魂の一部を探していたこと、そのために校長に許可をもらい、『姿現し』をして、時間があれば探していたこと
必要最低限のことだけ説明し、今回、ディゴリーの命を守るために毒を盛り、死んだように見せかけたこと、墓場で今回のことが起こると確信して、念の為に見張っていたこと
そして、一番重要なこと
全て半信半疑で、すでに未来を変えてしまっているから、ひとつひとつ確認していっていることを伝えた
全員、絶句していた
セブルスにとって…私はとんでもない裏切り者だろう…
いいんだ…
これで…
「私は、彼を止めなければならなかった…ダンブルドア先生…あなたに言うべきでした…」
センリが服の下で俯く私を慰めるように擦り寄ってきてるのがわかる…
これを話すことはとても悩んだ…
‘’彼’’に常に見張られて…試されている私は…妙なことをすれば…
どうなるか…わからない
「もうよい…もうっ…よいのじゃ…」
手を後ろにして立ち尽くしていたダンブルドアに、私は抱きしめられた
「お前さんは十分よくやってくれた…奪われかけた命を救ったのじゃ…確かに未来を変えたのじゃ」
「…っ…いいえっ…いいえっ…私は…彼に逆らえなかったっ…自分可愛さに…彼の言うように卑怯で…最低の人間なのです…」
「そんなことはない……ハリーを守ったのじゃ。ヴォルデモートに立ち向かうなどそうそうできることではない…お前さんは特にじゃ」
慰めるように言葉をかけ、肩をきつく抱いてくるダンブルドアに私は涙が溢れた
私は全てを話したわけではない…
むしろ捏造している…
自分の都合の良いように…
罪悪感が胸を…私を押しつぶす…
「…ダンブルドア先生、未来は既に変わりました…でも油断はできません。ハリーはあなたを信頼しています。どうか、突き放さないでください」
離れたダンブルドアに私はお願いする
「ふむ。約束しよう。じゃがお前さんがしようとしておることは危険極まりないことじゃ。わかっておるのか?」
「…はい」
「…ヴォルデモートはお前さんに並々ならぬ執着を持っておる。それが何を意味するか、わからぬわけでもあるまい?」
「…彼は…私を’’所有物’’として、’’支配’’していました…その私が…今回、彼に歯向かったことで…狙われるのは承知していたことです」
自分の過去を知る者を…彼が放っておくはずがない
必ず殺そうとする
マグルの父親を殺した…
私が敵に回ったことは…彼にとって許せないことだ…
「オフューカス…」
セブルスの声が聞こえる
「ごめんなさい…セブルスっ…リリーが死んだのは…私のせいなの…本当なら…あなたに謝る資格なんてっ…ないけれど…」
「っ」
セブルスの顔が動揺に揺れている…
ごめんなさい…私の…大切な…友人…
重い沈黙が支配する部屋の中…
セブルスは速足で部屋を出ていった
それを見ながら、私は目を伏せた…
胸が痛い…
「Msポンティとやら、ヴォルデモートの分霊箱に心当たりはあるのか?」
ムーディが切り替えたように聞いてきた
気にしてはいられない…
私に落ち込む権利も…泣く資格もない…
裏切っているんだ…
「彼の学用品だったものをいくつか確認しましたが、闇の魔法はかけられていませんでした。あと…心当たりがあるとすれば…」
私が…彼に贈っていた…プレゼントだった…
「いくつか残っています…ただそれがどこに隠されているのか…時間が必要です」
「お前さんは、わしに『姿現し』の許可を求めた時から探しに行っておったのか?」
「はい…時間を見つけて…慎重に探しに行っていました。ですが…これからはそれが難しくなります」
「成る程のぉ。アラスターの力を借りたいというわけか」
「はい、ダンブルドア先生、私を休学にするのはまずい…ですよね」
「それは…そうじゃの…わしとしてはお前さんにはハリーの側にいてやって欲しいのじゃが…」
「それはやめておいた方がいいだろうダンブルドア。ポッターにはシリウスがついておいた方がいい」
「じゃがのアラスター…」
「私も同じ意見です。ハリーにはシリウスとあなたがついていた方がいい」
「本気なんじゃな?シリウスに本当のことを告げるつもりはないのじゃな?」
「ありません」
「…そうか…」
即答した私に、ダンブルドアは少し悲しそうな顔をした…
そこで、ムーディが聞いてきた
「ひとつ聞こう。Msポンティ。何故わしを残した?」
「私の知る限り、あなたは非常に警戒心が強い。ダンブルドア先生に信頼を置かれている。理由はそこです」
「魔法の目」が私を見定めるようにジロジロと見てくる…
かなりの沈黙の後…
「いいだろう。お前さんを信じよう」
ムーディはそう言った
「ありがとうございます。もうひとつ注意して欲しいことがあります。マンダンガス・フレッチャーには気をつけて欲しいです……あぁいうタイプは、彼に利用されやすい…」
「わかった。気をつけておこう」
「ナギニ」
ベットに腰掛ける私に彼が目の前まで来た
滑らかな白い長い指が私の顎にかかり、紅い目と視線を合わせられる
咎めるような…
細められた目が私の体を…頭を…心を全て透かしているような…気分になる…
わかってる…
わかってるんだ…
彼は私がダンブルドアに言うことを望んでいなかった…
また…痛ぶられるんだろう…
「何故’’僕’’のことを言わなかった?言えただろう?」
え…
「惚けた顔をするな。質問に答えろ」
…
「それ……は…っ…」
言葉が出てこない…
頭が真っ白になるのに…ぐるぐると色んな感情が…
溢れてくる…
「お前の’’ここ’’は…’’僕’’を忘れられず…求めている…違うか?狂おしいほど締め付けられ、痛みを感じている」
彼の指が私の胸に中心に立てられて耳元で吹き込まれるように言われる…
艶やかな…透き通るような声が脳を犯す…
そんなわけないっ…
あんなことをされ続けた相手にっ…
痛ぶられてっ…実験台にされてっ…
最低で最悪っ…
それがあなたの本性なのにっ…
なのにっ…
どうして今目の前にいるあなたは…
「…もうやめてっ…優しくしないでっ…」
「僕はずっとお前に優しくしてやりたかった。と言ったらどうする?」
「っ……信じられるわけっ…ないじゃないっ…」
「信じさせてあげるさ。その時は近づいている…」
「なにを…企んでいるの…」
「全ては’’お前のため’’とだけ言っておく」
嫌な予感がする…
彼がこんなことを言う時は……
ぐるぐると記憶を辿って…考えていると…私の意識は落ちて、私を見下ろす紅だけが…妖しく輝いていたのが薄れゆく視界の端に映った…
「……………の………ナギニ…」
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次回は不死鳥の騎士団
だがそれはほんの一部で…
裏切りと罪悪に苛まれる彼女
彼女の心はどこにあるのか…自分でもわからず…