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アズカバンの囚人
終わり!
※捏造だらけです
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ロンは落ち込んでいた
飼っていたペットのスキャバーズが行方不明だからだ
それに対して、案の定ハーマイオニーの猫のクルックシャンクスを疑って喧嘩になった
何度も
少し自暴自棄になっているロンに、流石に不憫に思ったフレッドとジョージは「もう12年も生きたんだから死期を悟って離れていったんだろう」とロンを励ましたそうだ
ネズミは三年しか生きない
まずその時点でおかしいと気づいた方がいいと思う
だが、ロンとハーマイオニーの雰囲気は邪険なまま
そんな時に、差出人不明で世界一の箒、『炎の雷・ファイヤボルト』がハリーのもとに届いたのだ
まぁブラック家の資産なら余裕で買えるだろうしね
にしても本当に馬鹿なことするな我が兄は
ハリー達は最近ますますピリピリして雰囲気が邪険になってきた
そんな中、私は犬(兄)と暴れ柳の側でよく遭遇しながらも、機会を伺い、今日はレギュ兄のところで魔法史の本を読みながらお茶をいただいている
「あの箒は兄からだと思うかいオフィー?」
向かいでお茶を飲みながら聞いてくるレギュラスに思わず溜息が出そうになる
「十中八九そうだと思うよ。全く、なんで後先考えないのか…差出人不明の世界最高峰の箒なんて没収されて調べられるのがオチだろうに」
「兄はハリーに特別に思い入れがあるからね…オフィーにはキツく当たるばかりだったのに…」
「それは当たり前だと思うよ。私はそれに関して文句を言える立場じゃない。それに私がジェームズを嫌っていたのは確かだもの」
「…スネイプのためなのかい?」
「単に私はああいう性格の人が好きじゃないだけだよ。セブルスは大事な友人」
「オフィーはいつだって責めないよね。怒りや憎しみはないのかい?」
ないわけではない
だけど、私にはそれより勝るものがある
罪悪感、哀しみ、後悔…
「…意地の悪いことを言わせないで」
「…そうだね…すまなかった…兄が…兄は本当に裏切ったと思うかい?」
「…シリウス兄様は好きではなかった…でも親友を裏切るような人ではない…それにレギュ兄。普通におかしいと思わない?」
「…なにが?」
「兄様はあんな性格だけど、頭はよかった。狡賢いあの人が『例のあの人』に目をつけられていると分かっていながら自分を『秘密の守人』にすると思う?」
「………兄は無実だと…?」
「少なくとも私はそう確信している。死んだ後のことを聞いたけど…正直、あれほど兄様らしくないと思ったことはないわ。アズカバンを脱獄するような人よ?冷静な頭がないと無理よ」
「……まさか…犯人は他にいると?」
「……いつだって日陰にいる人は報われないわ…犯罪を犯したり道を踏み外すのは努力しても報われないこともあると…経験した人だよ…」
「…オフィー…君は誰が犯人か気づいているんだね…」
責めるわけでもないレギュラスの言葉に私は目線を上げた
「………妙なことが…多いの…ねぇレギュ兄。もしあなたがシリウス兄様の立場なら、明らかに狙われるとわかっている親友の立場で、信用されているのが分かっているのに『秘密の守人』の役目を引き受けるかしら?」
少し考えればわかることだ
シリウス兄様がもし本当にリリー達を殺そうとしていたならもっと賢く立ち回るはずだ
「僕なら予想もつかない人間に頼むね」
そう
裏をかくならば誰もがそうする
憎悪と憎しみは判断力を鈍らせる
私は薄情だからそこまで揺さぶられたことはない
彼以外には…
「私もそう思う。じゃあレギュ兄が『例のあの人』ならポッター夫妻の居場所を突き止めるためにあからさまに知っているだろうシリウス兄様ではなく、誰に目をつける?」
レギュラスにとってあまり出してほしくない名前だろうが仕方ない
「…っ!まさかっ」
「失礼だけれど弱すぎる故に気にも留められなかった人物がいる…一番闇の世界に堕ちやすい気質の…強い劣等感を抱えて強い者に迎合する人間…そして目立たない…取り込んで密偵にするなら最高と言えるかもしれないわ」
「ピーター・ぺティグリュー…が…だが彼は死んだはず…」
「指一本で死んだことが判るの?それって確実な証拠とは言えないんじゃない?…当時集めたっていうマグルの証言だってどこまでアテになるかしら?…大前提にマグルは魔法を知らないんだから…私達魔法界の基準で考えるのは…愚かだよ」
「…じゃあ彼は今どこに…」
「指一本を遺して怪しまれないように生きていく方法……シリウス兄様がもし片耳だけでも怪しまれない姿がある」
「まさかっ『アニメーガス』かい?」
「えぇ。兄様がこの時期に脱獄した意味…きっとぺテグリューがどこにいるのか正体を突き止めたからよ…」
「……兄の狙いは最初からハリーではなく生きていたぺティグリュー?ぺティグリューがアニメーガスとしてこの学校に潜り込んでいるのか?」
「えぇ。私もセブルスから聞いて気がついたのだけれど…ねぇレギュ兄。確認なんだけど」
「なんだい?」
「ネズミが12年も生きるってあり得ると思う?」
「あり得ないよ。寿命が長かったとしても4、5年だよ。基本3年なんだか…ら…まさかネズミ?」
「ある生徒のペットで12年も生きている前足の欠けたネズミがいるの」
「っ!?」
「そのネズミが最近、ミセス・ノリスが追い回してオモチャとして捕まえたみたいで、飼い主の手から離れたのよ。それをセブルスが捕獲した」
この際、セブルスに全て押し付けよう
私がやったとは言えない
別に人狼の抑制剤を毎回作らされる仕返しではない
「まさか…そのネズミは今…」
「セブルスの部屋で籠の中にいる」
「…それなら兄はスネイプの部屋に忍び込むんじゃ…」
「だろうね。シリウス兄様ならやりそう」
やってもらわねば困る
今はアズカバンから出てきたばかりで荒れてるからやってくれるだろう
考えなしにハリーに『ファイヤボルト』を送るくらいだ
激情のままに行動してくれることうけあいだろう
ハリー達は正直来なくていいが…
「はぁ…オフィー…何故そこまで分かっていて僕に先に話してくれなかったんだ…」
「正直に申し上げると、レギュラス兄様は勝手にブラック家の財産を使われた以外関係ないでしょう?」
脱獄後勝手に資産を使うとは本当によくやるよ
「それに関してはひと言言わないといけないけど、兄が無実なら当主は兄になるよ…それにあれくらいなら問題ないさ」
いや、あれ何百ガリオンもするんだけど?
まぁ知ってるけどさ…ブラック家の資産がエゲつないのは…
「私も関係ないもの。あの時の当事者はセブルスよ…私は何も言う権利はない」
それにアズカバンで十分反省しただろ
「いや、それは違う」
何故か先程までとは違う強い口調で言ってきたレギュラスはカップをソーサーに置いて私を見た
「オフィー。君が何も言わないことをいいことに僕と兄は驕ったんだ。その結果君は殺された。僕達が殺した。君は怒っていいんだよ」
成る程…
レギュラスがここの教員になった理由がわかった気がする…
「言ったでしょレギュラス兄様。私に意地悪なこと言わせないで。もう少し卑怯でいさせて」
私の方がもっと酷い裏切りをしている
そんな優しい言葉を掛けられる資格はない…
ひやりと鈍い温度を宿す紅い石を胸に感じながら私は目を伏せた
未だにこれを取れずにいる…
これは首輪だ…
どこにいこうが…私が彼の所有物であるという……
「オフィー…君が心配だ…」
「…気持ちだけ受け取っておく。ありがとうレギュラス兄様。でも今の私はユラよ。最近忘れてるでしょ」
「っ…すまない…気をつけるよ…だが忘れないでくれ。僕はいつでも君を心配している…だから多少の妹扱いには…その、目を瞑ってほしい」
「うん……でもそうだな…私もいつかクリーチャーに会いたいから…いずれね」
クリーチャーと過ごす時間はブラック家で唯一安心していられた時だった…
頑固だけどクリーチャーは会話が楽なのだ…
「クリーチャーは君が生きていると分かったら泣いて喜んで、君の好物だったガレット・デ・ロアを喜んで焼いてくれるだろうね」
「クリーチャーの作るガレット・デ・ロアは甘さ控えめで美味しかった。また食べたいな。でも私は死んだから警戒されそうだけどね」
「それなら大丈夫だ…あぁ…きっと大丈夫だよ」
何故か確信したように断定するレギュラスに私はなんだか嫌な予感がした
どうかレギュラスが拗らせて変なことしてませんように…
「うまく言ったものだな。お前はそんなに賢かったか?」
こいつは私に嫌味を言うために出てきているのか…
「……どうせ凡人ですよ。凡人万歳」
「拗ねるな面倒臭い。凡人にもそれなりに価値がある」
なら言わなきゃいいじゃない
凡人がいるから世の中回ってるんだよ
天才は少数だから賞賛されるんだよ
「もうほっといてよ…今はあんたの相手する気分じゃないの」
「それは僕が決めることだ。……外さないんだな’’それ’’…嬉しいよ」
あんたにそんな人間らしい感情あったのか
外したくても…
どうせ外せないんだろう
下手に触って呪いに掛かるのも嫌だ
休日で誰もない寮の部屋で私の目の前に立ちながら愉快そうに’’あの’’写真立てをしげしげと見る彼
ちなみにセンリは私ひとりの時はベット上でのびのびと動き回っている
「何か入れないのか?」
どうして普通に会話しようとしてくるんだ…
やめてほしい…
感覚がおかしくなってくる…
「…入れるものなんてない…それにあんたの言うことは信用してない」
「ちゃんと呼べと何度言ったらわかる?君の理解力はそこまで低下したのか?」
………
「トム……何が目的なの…私は…今の貴方がわからない…」
ぽつりと出てきた言葉に俯き、自分の膝が目に入る
「『わからない…』ね。今のは気に入った」
クツクツと喉で上品に笑い、近づいてきた彼にびくりと肩が震える
「ナギニ。僕は’’彼’’と違う」
そんなの信用できるわけない
「お前は’’独りぼっち’’だ。’’孤独’’だ。この世界でお前は誰にも理解されず、誰にも認められない」
やめて
そんなことわかってる
「’’異質’’な存在だ。君がいなくなっても誰も困らない。なんて’’可哀想’’で’’哀しい’’ナギニ…」
うるさいっ…私はそれでもいいっ
元から期待なんてしてないっ…
私は本来ならいてはいけない存在だっていうのはわかってるっ
「でも僕はお前を必要としてるよ」
悪魔の言葉だっ
耳を貸しちゃいけないっ
私を孤立させてっ
弱みにつけ込んで…
聞きたくない
思わず耳を塞げば、温度のない滑らかな大きな手に優しく取られて目の前に彼の顔があった
さらさらの黒髪が僅かにかかり、紅い目が歪められて私を映してる
彼の目に映る私は…酷く醜いものに見えた…
「っ…私は……最低よっ…」
何故この紅い目で見られると…涙が溢れてくるの…
普段は全く問題なく抑えてる感情が溢れ出す…
色んなことが頭の中に思い出されて整理できなくなるっ…
これも彼の魔法?呪い?
「そんなことはないさ。泣いたら見れない顔が更に不細工になるぞ」
「…っ…ひと言っ…多いのよっ…あんたはっ…もう私の頭の中に入るのはやめてよっ…」
「入ってなんていない。お前が勝手に僕に操られていると思ってるだけだ」
そんなわけないっ…
絶対何かしてるっ…
息をするように嘘しかつかないくせにっ
「離してっ…触らないでよ…もう振り回されるのはいや…」
「断るよ。お前はずっと僕に振り回されてもらわないと。勿論死んでもだ」
…最悪…
どうして人をそんなに所有しようとするの…
貴方は歪んでる…
歪みきってる…
「あんたは…’’死’’に取り憑かれてるわ…どうしてもっと…」
私…何が言いたいんだろう…
彼に普通の感覚を…理解を…求めても無駄なのに…
なんで…
「もっと?」
「…なんでもない……少し休むわ…」
彼の手を控えめに、怒らせないように振り払って私は背中を向けて横になった
センリがシュルシュルと枕元でとぐろを巻いて擦り寄ってきた
「仕方ないから今は聞かないでおいてあげるよ」
愉快そうな…不機嫌そうに言った彼の声が聞こえてきて私は咄嗟に手が動いていた
何故…
わからない
彼に隙を見せるのがどれだけ危険かも知ってる
なのに…
止まってくれない…
彼のローブの端を指で掴んでいた
「お前は本当に頑固だな」
呆れたような声が聞こえて、次の瞬間、古びたベットの骨組みがギシと音を立てて、背中に温度のない硬いような柔らかい感触が広がった
彼が寄り添うように横になってきた
驚いたが私はもう文句を言う気力も、振り向く気力もなかった…
「今は眠るんだ。僕はここにいてやろう」
ほんと…
上から目線…
もう嫌…
弱い私が…
帰りたい…日本に…あの頃に…
次第に重く落ちていく瞼にセンリを映しながら…私の意識は暗闇に入った…
それから、犬(兄)にたまに会い、餌付けしながら、私はいつも通りに過ごしていた
乗り込んで来てくれないとどうにもできないからね
そしてそんな時、まさかの予想外の出来事が起こった
ダンブルドアに警告されて校内に入ってこないはずのディメンターが入ってきてしまい、偶然、本当に偶然、近くにいた私達、それもドラコを襲おうとした
咄嗟に私は守護霊の呪文を唱えて、私の守護霊である『鶴』を出してそれを何人かに見られてしまった
ドラコは気が動転してすぐ医務室に連れて行って治療を受けた
と言ってもチョコレートを食べさせるくらいしかできないが
暗い気分で怯えてるドラコにいつものメンバーで付いていながら私は隠れてすぐルシウスに手紙を送った
すぐに先生方が来て、どうやって追い払ったのか聞かれた
私は嘘はつけないし、最悪なことにリーマスが見ていたらしく正直に守護霊を出したと答えた
まぁ悪いことはしてないし
その後、すぐルシウスが来た
「息子を助けてくれたこと礼を言う。また正式に礼をさせてくれ。Msポンティが優秀でよかった」
と、恭しく手を取って言われた
「いえ、私は友人として当然のことをしたまでです。遠いところご足労ありがとうございます。御子息に大事がなくて本当に良かったです」
正直こっちが驚く番だった
ルシウス変わりすぎじゃない?
「ドラコ、大事ないか?」
「父上…申し訳ありません…」
落ち込んでいるのか、ベットの上で暗い顔で答えるドラコにルシウスは
「今回はお前は悪くない。Msポンティの機転で大事がなかったのだ。ゆっくり養生しなさい」
尊敬するルシウスからの言葉にドラコは不器用な嬉しそうな顔をした
「私は校長とお話をしてくる。Msポンティ、あとは頼まれてくれるかね」
「ええ」
独特な話し方で、何故か私だけルシウスに言われて丁寧に返事を返した
それからローブを翻してダンブルドアや先生方と行ったルシウス
「気分はどうドラコ?」
「…あ、あぁ…今はそんなに悪くない…さっきよりはマシだな…」
「ディメンターが校内に入ってくるなんて…」
「それよりユラは守護霊の呪文が使えたんだね…そっちの方が驚きだったよ…」
「ユラが優秀なのは今に始まったことじゃないわ。今回はユラがいないと大変なことになってたもの…」
「勉強は大事だよね。まだ顔色が悪いからちゃんと養生してねドラコ。元気になってまた一緒に勉強しよ」
「勉強ばっかりじゃないか…」
「ほんとオタクなんだから…」
「今回のでよく分かったでしょ?知っておいて損なことはないのよ。ね?セオ?」
「いや僕に言われても…それに守護霊は勉強してできるものじゃないよ…」
「そうね…強い想いがないと難しいけれど、ドラコならきっとできるよ」
「そうだな…回復したら頑張るさ…僕はもう休む」
そう言って寝る姿勢に入ったので
「また明日来るね」
「しっかり休んでよ」
「無理しちゃダメだからねドラコ!」
一人にしてやるためにもう大丈夫だろうと思い、私達は寮に戻った
その日の夜、私は寮監セブルスに呼び出されて行くと、案の定物凄い顰めっ面のセブルスとレギュラスがいた
いや、何故レギュ兄まで?
「なんて無茶をしたんだっ。オフィーっ」
そう言って抱き締めてきたレギュラスに「この前言ったばかりじゃん…」とか思いながら…まぁ申し訳ないので黙って受け入れた
「ぐ…ぐるしいよ…」
この双子の兄は少々過保護に拍車がかかってきていると思う
ほらごらんよ
後ろでセブルスが物凄い顔で説教する気満々だよ…
「あぁすまない…はぁ〜…全く無茶なことを…君が守護霊の呪文を使えることは知っているが…」
やっと離してくれて、胃が痛そうな顔で立ち上がって頭を撫でてくるレギュラス
私はそんなことより後ろの人の顔が怖い
後ろを見てくれ
お願いだから
それから、落ち着いたらしいレギュ兄
私はセブルスの前に立ってお説教を受ける姿勢だ
仕方ない
今回は私も予想外過ぎたとはいえ、守護霊の呪文を使ってしまったのだ
「何か釈明はあるかね?」
「イイエナニモ」
うん。ないよ
一番注意してた私が問題起こしちゃったからね
それがたとえ防ぎようがない不可抗力だったとしてもさ
別に文句言ってるわけじゃないから
「吾輩はしかと問題を起こすなと忠告したはずだが?今回お前が守護霊の呪文を使ったことでどうなるか言ってみたまえ」
「オフューカス・ブラックの守護霊を知っている者に確実に怪しまれます」
「さよう。ルーピンは早々に挙動がおかしかったぞ」
だろうね
もしあれが犬(兄)にもどこかで見られていたなら即バレは確実だ
なんせ『鶴』なんて普通いない
「リーマスは特に気にしなくてもいいです。問題はシリウスの方です。既に犬に化けて校内にいますからもし見られていたら近々、ここに忍びこんでくるでしょう」
「は…ちょっと待ってくれオフィー。兄が犬になって?」
「何故黙っていた」
「いくら私でもシリウス兄様を捕まえるのは容易ではありません。犬になられれば尚更。幸か不幸か、アズカバンから出てきたばかりで空腹だったようで、餌付けして油断させてからセブルスに手伝ってもらって捕獲しようと思いまして」
「オフィー…完璧に犬扱いじゃないかいそれ…」
「結構なことだ。あの男にはお似合いだ」
うん。セブルスならそう言うと思った
正直、ハリー達が一緒に乗り込んでくるかもわからない
なので私は
「私は事が収まるまで寮で大人しくしているよ」
要は丸投げであるが
仕方あるまい
「それは叶わないのではないですかな?」
は?
「意味がわからんとは言わせませんぞ。吾輩に丸投げするとは笑止。あの男は裏切り者と妹がいるとなれば諸手を挙げてやってくるだろう。その後の説明責任も持ってもらわねば困りますな?かの男を動かしたのもお前なのだからな。吾輩はお前の’’兄達’’の相手など御免被る」
くそう
うまく流されてくれなかったか
というより、私が本当に出ていいの?
それちゃんとよく理解していってる?
「それはどういう意味かなスネイプ先生?僕は兄とは違うよ。寧ろオフィーを辛抱強く見守っているんだ」
「一度辛抱強いという言葉を索引してくるのをお勧めしますなブラック先生?もともとは貴殿の兄が起こした不祥事の尻拭い。吾輩はあの男の無実が証明されようがされまいが一向に構わないが?」
またそんな意地悪なことを…
レギュ兄も乗るなよ
それにそんなこと言って、これからシリウスが味方じゃないと困るってよく分かってるでしょうに…
「お二方。睨み合いは他でやってください。セブルスの言いたいことはよく分かったから、私は取り敢えずその方向で動くよ」
最低限でね
「レギュラス先生もそれでよろしいですね?」
「レギュラス先生…え、あ、あぁ、心配だがまぁ…それでいい」
何故復唱した
まぁいい
こういうのは突っ込まないでおこう
セブルスがすっごいドン引きの顔してるし
そんなこんなで、その後、ネチネチとしっかり先生らしく説教されて、遅い時間になってきた所で寮に返された
当然ながら、皆寝ている
くそう
夜更かしは美容に悪いんだぞ
まぁ魔法があるからどうにかなるけど
だからと言って不健康に過ごすのは違うと思う
教師がこんな時間に説教のために呼び出すのは校則違反ではないのか
職権濫用だぞ
「エクスペクト・パトローナム!(守護霊よ来れ!)」
ある女子生徒が唱えた一人前の魔法使いでも成功するのが難しい呪文が眩い光を放って杖から川の流れのように現れた
それは私がかつて一度だけ見たことがあるある女性と同じものだった
実に優秀で賢い…周りに流されない川の流れのような柔軟さを持ち…真の強い…
『ツル』という遥か東方の島国にいる鳥だ
美しく広がる羽は雄々しいという表現より、神々しいもので、優美な羽をはためかせ術者を守る姿はまさしく『守護霊』か『神の遣い』のようだ
並みの術師でもここまで立派なものはできない…
かつてこれを使った女性はこの世にはもういない
平凡で、聡明で、賢く美しい女性
リリーとは全く違う印象の女性だった
余計なことは言わず、表情があまり変わらない…
だからとって言って人を差別することはなく
時と場合に合わせて弁えた言動や区別をする女性…
目立たない大人しい女性だ…
部屋からスリザリンの生徒たちが急いで医務室に襲われた生徒を支えて向かう様子を見て、私は医務室に向かった
そこにはかつての彼女をそこはかとなく思い出させるような全く同じ雰囲気をもった生徒がいた
少し波打ったハーフアップにした黒髪に、独特な柄の髪紐をハーフアップにした髪につけ、黒い聡明で賢そうな目で倒れた生徒を心配する姿があった
東洋人の血が入っているのか、整った容姿の子だった
「ドラコ。チョコレートを食べて。気分がマシになるから。お水もここにあるから」
そう言って友人を心配してゴブレットを差し出す生徒
「大丈夫かいドラコ?どんな気分?」
「…なんか…最悪っ…うっぷ……」
「怖かった…私もっ…一歩間違えたらっ…」
ディメンターに会えば普通はあの女子生徒のような反応だろう
だが、もうひとりの男子生徒も彼女も達観しているのか、恐れを隠しているのか、全く怯えた様子がない
「無理もないよ。今は無理をせずに横になって。あれはディメンターの方が悪いわ」
「そうだよ。校内に侵入禁止だったディメンターが悪い。ユラの言う通り今は無理せず休むといいよドラコ。並の魔法使いでもディメンターは恐ろしいんだ。君の反応は正常だ」
「セオの言う通りよ。さぁもうゆっくりして。深く深呼吸して目を閉じるのよ」
「あ…あぁ…すぅ〜〜……はぁ〜………」
「そうそう…パンジーも混乱してるね。一度深呼吸すると落ち着くよ。ほら食べて」
「う、うんっ…ありがとうユラ…すぅ〜〜…はぁ〜〜…」
「セオは問題ない?大丈夫?無理しなくていいよ」
「僕は大丈夫だよ。でもひと口もらうよ」
「うん。遠慮しないで。私はチョコが苦手だから三人で分けて食べて」
「ユラ…甘いの苦手だもんね」
「あっさりとしたものならいいんだけれどね。こってりしたのはちょっと…」
「お婆さんみたい…」
「聞こえてるよセオ君?」
「ん゛っん゛っ…失礼。いいっ好みだね」
「それはありがとう」
あまり年相応の学生らしくない…というかとても上品な会話をするスリザリンの生徒達に私は一瞬唖然としていると、先生方が駆け込んで来た
セブルスは寮監としてすぐ生徒達の元に行き、守護霊を出した生徒に説明をさせていた
レギュラスは珍しく焦ったような表情で生徒達のところに近寄っていった
暫くしてから先生方がぞろぞろときて、被害を受けた男子生徒…いや、ドラコ・マルフォイの父親、ルシウスが来て土気色の顔をする息子を一瞥すると、事情を聞き、Msポンティとかいう生徒の手を取り感謝を示した
あのルシウスがあんなことをするとは思わず私は思わず口が開きそうになった
「息子を助けてくれたこと礼を言う。また正式に礼をさせてくれ。Msポンティが優秀でよかった」
「いえ、ルシウス様。私も無我夢中で…友人として当然のことをしたまでです。遠いところご足労ありがとうございます。本当に大事なくて良かったです」
知り合いなのか、学生にしてはとてもできた挨拶でルシウスに言う彼女に私は今度こそ驚いた
それにルシウスの裏の顔は過激な純血主義で今でもデスイーターだ…
それを抜きしてしても仮に利益がある相手だとしても生徒相手にあそこまで丁寧に接するのは見たことがない
昔から遠目で見る限りは確かに女性には紳士的だったが…
それから、ルシウスは校長と今回のことに関して校長室に向かい、寮監としてセブルスも
私も目撃していたので説明のために向かった
私達他の教員は仕事に戻った
校長室では、やはりルシウスがダンブルドアの粗探しをするような様子があったが、いつもと違いあっさり引いた
「私の息子が襲われたのです。校長。校内の警備は一体どうなっておられるのでしょうな?」
「それについては万全の体勢じゃったよルシウス。だが生来ディメンターは制御できるものではないものじゃ。今回のことを深刻に受け止め、わしから魔法省への抗議しておこう」
「当然ですな。そもそもディメンターを置くのならば生徒にもしもの時対処できる呪文を教えるのも教育のひとつではないですかね?今回はMsポンティの優秀さに助けられましたな?」
「実に優秀な生徒がおってわしは誇らしいよ。じゃが守護霊の呪文は上級魔法じゃ。おいそれとできるものではない。じゃがそうだな、Msポンティについては見事なものだと言えるじゃろう。スネイプ先生も教え子が優秀で実に誇らしかろ?」
「ええ。ですが、私からもひと言申し上げても良いですかな?」
「申してみよ」
「生来コントロールなどできないディメンターを生徒達の学ぶ学校に置くのはいくら犯罪者を追うためでも些か危険過ぎではないでしょうか?現実に安全だと思われている城内にまで侵入し、生徒に被害が出ております。ここは断固とした姿勢を取るべきではないかと思われますな」
「同感ですな。安全だと思われている教育現場を脅かされては我々も安心して預けられませんからな。校長に置かれましては今回の事件を受けて相応の対応を取られることかと…」
「勿論じゃよ。ルシウス」
「その言葉お忘れめされるな…では、私は失礼させていただこう」
ローブを翻して行ったルシウスに私は少し驚いたが、彼も親になったのだから変わったのだろうと納得することにした
あの事件からドラコは暫く元気がなかったが、なんとかいつも通りに戻った
周りからはいろいろ噂があったが、直ぐ収まった
だが、問題は私の方だった
どうやらドラコよりも守護霊の呪文を使った私の方が目立った
「セオ。ドラコ。パンちゃん」
「ちょっと待ちなさい。なんか私だけ変な名前じゃなかった?」
「視線が痛いよ。私悪いことしてないし目立つの嫌なのに…」
「スルーするんじゃないわよ!」
「煩いぞガミガミ女。鼓膜が破れたらどうしてくれる」
「💢あ?そんなんので破れる鼓膜なんてはなから使えないでしょう?」
「僕の鼓膜は繊細なんだ。お前みたいな野猿みたいな声をだす奴に耐性はないんだよ」
「誰が野猿ですって?え?」
「また始まった」
私が呟く
この二人仲良いんだか悪いんだか…
パンジーって最初はドラコに結構媚び売ってたのに…
「レディに対して野猿は普通に失礼だよね。ドラコはパンジーに対しては遠慮も何もなくなるよね」
セオもコメントした
「まぁあれはパンジーも悪いんだし…仕方ない。パンジー。パンジー。声を落として。もう直ぐ授業が始まるよ」
「元はと言うとあんたがスルーするからよね?」
「いやぁ………てへ?」
「似合わないことしてるんじゃないわよ。可愛くないのよ。違和感と吐き気しかないわ」
さいですか…
そこまでですか…
私にこういうキャラはきつかったか
「…それはすみません」
「よぉ優等生!貧血ポンちゃん!」
「その不名誉な渾名をやめてもらえますか。貧血になりたくてなっているわけではありませんので」
「聞いたぜ?パトローナス出したんだって?すげぇな〜?うちの寮でもその話題で持ちきりだぜ?」
「グレンジャーが悔しがっていっそう勉強してるらしいぞ?」
交互に喋るフレッドとジョージに私は内心げんなりしながら、本から視線を逸らさず答える
「そうですか。それは頑張ってください」
「それにハリーもお前に聞きたいことがある感じだぞ?」
あ、そうなの
だからなんだ
私はハリーには関わる気はない
何故ならジェームズに似ているから
正義感が強く良く言って勇敢、行動的な人が好きではないのだ…
簡潔に無鉄砲の無謀ともいうが
「そうですか。では私はこの後授業がありますので失礼します。あぁ、あと、この前、スネイプ先生の薬品庫から’’あれ’’を盗んだことは仕方なく黙っておいてあげますよ」
貸しは作っておくに限る
勿論これはカマかけである
この二人ならそれくらい何回もしているだろう
覚えてないほどやらかす回数が多いのも考えものだね
彼なら全て覚えてるしヘマは絶対しない…
「「げっ……」」
流石双子、ハモる…
「では失礼。先輩方」
これでよし
「ハリー、私がこれから君に教えようと思っている呪文は、非常に高度な魔法だ。ーーーいわゆる『普通魔法レベル(O.W.L)』資格を遥かに超える。『守護霊の呪文(パトローナス・チャーム)』と呼ばれるものだ」
「えっと…どんな力を持っているんですか?…あの生徒が使っていましたよね…そんなに高度なものなんですか?」
「あぁ…あれね…君も見ていたのか…」
「遠くからですが…先生が以前に使ったものより大きくて…何かの鳥の形だったのを覚えてます…周りにいたディメンターが一気に遠ざかっていきました…」
「…そうだね。あの生徒は例外と思った方がいい。普通は並みの魔法使いでもあそこまでの規模のパトローナスは使えないんだ。正直私でも難しい」
「え…ならなんで…ユラは…」
「それは恐らく彼女が並外れた精神力を持っているからだろう」
「精神力…」
「あぁ。どんな力を持っているか聞いたね。守護霊の呪文はうまく効けば、守護霊が出てくる。いわば吸魂鬼を祓う者…保護者だ。これが君と吸魂鬼との間で盾になってくれる」
「守護霊は一種のプラスエネルギーで、吸魂鬼はまさにそれを貪り食らって生きる ーーー希望、幸福、生きようとする意欲などを。しかし守護霊は本物の人間ならば感じる絶望というものを感じることができない。だから吸魂鬼は守護霊を傷つけることもできない。ただし、ハリー。言っておくが、この呪文は君にはまだ高度すぎるかもしれない。さっきも言ったがこれは一人前の魔法使いでさえ、てこずるものだ」
ハリーは少しムッとした
あのスリザリンのユラができるならば自分にもできると
「守護霊は…ユラみたいな鳥なんですか?」
「いや、それを創り出す魔法使いによって一つひとつが違うものになる」
「どうやって創り出すのですか?」
「呪文を唱えるんだ。何か一つ、幸せだった想い出を。渾身の力で思いつめたときに初めてその呪文が効く」
ハリーは初めて箒に乗ったときのことを考えた
それからハリーはルーピンから指南を受けて守護霊の呪文を練習した
それから、ハリーは毎週ルーピンに教えられながら、守護霊の呪文を練習した
また『忍びの地図』を開いて眺めてもいた
そしてハリーはその日、死んだはずの男の名前が『忍びの地図』に載っており、それがスネイプの部屋の中に回っているので驚愕して思わず自室を出た
一瞬、スネイプの部屋なので躊躇ったが、好奇心の方が優った
恐る恐る地下にあるスネイプの研究室に透明マントを被り近づくハリー
耳をそばたてた
だが何も聞こえない
「レギュラス!?…」
あれから、暫くしてから、シリウス兄様は犬の姿でセブルスの研究室に忍び込んできた
だが案の定直ぐ扉を閉められて、鍵をかけられて防音処理がされた部屋に閉じ込められた
そして驚いて人間の姿に戻ったシリウスは奥から出てきたセブルスとレギュラスに目を見張った
私は気配を消して(存在感がないので)、机の下に隠れてる
正直、呼ばれなければ関わりたくないので
めっちゃ不本意な顔されたけど…
ぼろぼろの服だな…
仕方ないか
「随分とみすぼらしい格好だな?愚かにも我輩の研究室に侵入するとは余程後がないらしい?」
はぁ…
「お前の大好きな薬品ごっこに興味などあるか!」
何ひとつ変わってない
ほんと
「シリウス…目的はわかっている。君が無実だということも。だからその籠を、置くんだ」
そうだそうだ
苦労して捕まえてもらったのに
レギュラスが落ち着いた声でシリウスに言うと
「ふざけるな!こいつは裏切り者だ!私はアズカバンで12年間も待った!もうたくさんだ!」
伸び切った髪がもじゃもじゃと肘まで垂れて、暗い落ち窪んだ眼窩の奥で目がギラギラしている
こわ
まぁ私が暫く餌付けしてたから少しマシかな…
もともと美男子(残念)だからね
「貴様はいつまで経っても変わらん。子どものように文句ばかりつけて馬鹿なことに心血を注いだ結果、妹が死んだのではないかね?」
何故煽るセブルスや
「なんだと!?貴様に何がわかる!実の兄である私を差し置いていつもいつも!!お前はオフューカスを闇の道に引き込もうとしたっ!貴様が関わらなければ妹は死ななかった!」
いや、それは違う
思わずマジレス顔になった
そういうことを大っぴらにいうからいつまでも子どもなんだよ…
少しはレギュ兄の気持ちを考えろ
「何とも都合のいい自分勝手な解釈だな?貴様のそういう浅慮で奔放で衝動的なところを妹は嫌っていたことを忘れたのかね?はっ。本当に兄妹とは思えんくらい聡明な妹とは大違いだったな?情けない」
やめいセブルス
そしてシリウスを虐めるために思ってもないことを言うんじゃない
「お前に妹の何がわかる!」
いやあんたより分かってるよ
少なくとも
というかだんだん本筋から逸れてんだけど…
軌道修正してよ
「シリウス。取り敢えずその籠を置くんだ。頼むから」
ナイスレギュ兄
さすが
「断る!!俺はこの裏切り者殺す!」
馬鹿なのか
「全く拉致があかん。いつまで傍観しているさっさっと出てこい」
ここまでか…
はぁ…
何故この三人は仲良くできないのか…
私は小さく蹲っていた机の下から出てきて、軽く埃を払う
「誰だ!?なっ…生徒っ…」
本当に声を落としてほしい
煩い
シリウスが目ん玉飛び出んばかりにいきなり、机の下から生徒が出てきたこと驚く
「お久しぶりですね。シリウス兄様。相変わらずのようで…まずはその籠を返してもらいます」
杖を振ってシリウスが持っていた籠を取り返し、横の机に置く
「なっ…は?…どういうことだっ…兄だと?お前っ…誰だっ?」
「驚くのも無理はないでしょうが、私は前世の記憶を持って生まれ変わったオフューカス・ブラックですよ」
「オフューカスだと!?妹は死んだ!」
いちいち叫ばないでほしい。うるさい
「落ち着いてくれ兄さん。確かにオフューカスは死んだが、この子の中身はオフューカスだ。生まれ変わっただけだ」
いや、だけ。というのもちょっとおかしいし普通はないけど…
「取り敢えず校長の元に行きましょう。シリウス兄様の正式な釈放手続きは証拠が揃い次第できます。ちゃんとハリーの後見人になれますよ。それとも人殺しになってまたアズカバンに戻りたいんですか?」
私別にそれでも構わない
本人が望むなら
「意味がわからない!何故オフューカスが生きている!?生まれ変わっただと!?そんなことはあり得ないぞ!?」
「セブルス…レギュ兄…」
「知らん。お前の兄だ。自身でどうにかしろ。我輩は御免被る」
「オフィー…取り敢えず兄さんに先に説明してからのほうがいいかもしれない」
いやだな…
それから渋々喚き散らすシリウス兄様に…何とか説明して納得してもらった
なかなか信用しないシリウスに私たち兄妹しか知らないことを話してそこからはもう完璧に信じた
ほぼ一から十までオフューカスであった頃のこと話したからな…
正直私は明日一日寝ていたい
だから嫌だったんだ
シリウス兄様の相手は疲れるどころではないんだ
「オフューカスっ…本当にオフューカスかっ…っ…私がどれほどっ…」
近づいて抱きしめようとしてくる汚い兄からソソソと逃げてセブルスのローブに隠れる
「すみません兄様。今は時間がありませんしご自分の格好を一度ちゃんと見てからにしてください」
普通に汚らしい
「っ!何でお前はいつもスニベルスなんだ!昔からそうだ!どうしてそんなやつに構う!?」
伸ばした腕は行き場を失い忌々しげな顔をして拳を握り締められる
私はシリウスの発言にスンとした顔になり
「それはセブルスが、(どこかの誰かさんと違って)落ち着いて会話ができて、声を荒げず、子どもような馬鹿なこと(卑劣なこと)をしでかさないからですよ。分かりきっているでしょう」
「なっ!」
「ふん。滑稽だな」
「因みに言いますとレギュ兄も基本穏やかですし、落ち着いて会話ができますから」
親切に追加情報を伝えたら私にシリウスは更に顔を歪めた
逆に何故昔から言っているのにいまだにわからないのか
分かっているけど直す気がないのか…
「〜〜〜〜!!」
「兄さん。昔からオフィーは言っていたじゃないか…」
「この話はもういいです。早く行きますよ」
信用できないので私は籠を持ち、ダンブルドアの校長室に行くように促す
深夜なので誰もいないだろう
そして一応、逃げないようにシリウス兄様にレギュラスがお縄をかけた
防音と鍵をかけていた魔法を解いて扉を開く
長い廊下を校長室に向かって歩く
どんな絵面だ、だろうな
「オフューカス。何故私が無実だと思った」
今度はちゃんと落ち着いて聞いてくるシリウスに私は籠を持ちながら答えた
「簡潔に言うならシリウス兄様がやったにしては不可解な点が多すぎたのよ」
「オフィーは兄さんのことを信じていたんだよ」
それは違う
性格を熟知した結論としてそうなったのだ
「オフューカス…お前…う゛っ!?」
そんな時、暗闇からシリウスにいきなり突撃してきた何かがいた
これはハリーだとすぐ分かった
透明マントを被っていたんだろう
それを捲るもハリーが現れた
「ポッター!?」
「!?」
「お前がっ!お前がっ!」
シリウスに馬乗りになって首を絞めるハリーに私は冷めた目でた
「ハリーっ…私を殺す気か?」
「お前が両親を殺した!なんでこんなところにいる!」
叫ぶハリーに私はセブルスに目配せする
そしたらセブルスがハリーの襟を掴んでシリウスから引き離した
「離せ!」
「こんな時間に彷徨いていたことも含めて尋問しなければならんことがあるようだなポッター?着いてこい!」
ほんと嫌いだね
「シリウス兄様大丈夫?」
「これくらい問題ない。ハリーの怒りは尤もだ」
「そう」
別に興味はない
それにハリーは人の言ったことを安易に信じすぎている
自分で見たわけでもないのに決めつけて思い込みだけで行動する癖は私は好ましく思っていない
寧ろ無理だ
今にもシリウスを殺そうと騒いで暴れるハリーに、セブルスが押さえ付けてなんとか校長室までついた
そして、私は机にネズミの入った籠を置いた
「校長先生。お話があります」
「Msポンティ、セブルスにレギュラス先生も……ふむ。成る程、何か事情がありそうじゃの…ルーピン先生を呼ぼうかの」
ほんとうにこの人は頭がキレる
一瞬ポカンとしたダンブルドアがゴーストに指示して、リーマスが来た
全員揃ったところで話を始める
「シリウス兄様。真実を言って」
私が促すとシリウスはゆっくと重い口を開いた
「私は当時、最後の最後になってジェームズとリリーにピーターを『秘密の守人』にするように勧めた。ピーターに代えるように勧めた…私が悪いのだ。たしかに…二人が死んだ日の夜、私はピーターのところに行く手筈になっていた。ピーターが無事かどうか、確かめにいくことにしていた。ところがピーターの隠れ家に行ってみると、もぬけの殻だ。しかも争った跡がない。どうもおかしい。私は不吉な予感がして、すぐにハリーのご両親の所へ向かった。そして家が壊され、二人が死んでいるのを見た時、私は悟った。ピーターが何をしたのかを。私が何をしてしまったのかを」
涙ぐみながら経緯を話し出したシリウスにダンブルドアはじっと聞いている
籠を中にいるネズミを睨みながらシリウスは続ける
「成る程の。それならば全て説明がつく。シリウスよ。何故ピーターを最後の最後に守人に勧めたのじゃ?」
「私はヴォルデモートに目をつけられていた。目眩しとしてピーターが一番適任だと思ったんだ。だがそれは間違いだった!!」
ダン!と石床を叩いて後悔を苛まれるシリウス
だがハリーは違った
「嘘だ!ペテグリューはお前が殺したんだ!お前が僕の両親を裏切った!殺したんだ!」
「それは違う!シリウスじゃないハリー!」
ルーピンがシリウスを庇うように言う
「ブラックが『秘密の守人』だった!!」
まったく…何故一度聞いただけの話をここまで信じ込むことができるのか…
私には理解できない
「落ち着くのじゃ」
ダンブルドアが手を挙げて喚くハリーを止めさせた
「君の意見を聞こう。Msポンティ。いや、オフューカス・ブラック…で合っておるね?」
私に向き直ったダンブルドアに、仕方ないと思い口を開く
「ええ先生。私はオフューカス・ブラックでした。…当時、私はポッター夫妻が殺される前に死にましたので、死んでからのことは後から聞きました。単純な矛盾が重なった結果、偶然が重なり、シリウスが無実だとわかりました」
それから私は、レギュラスと話したことと同じことをダンブルドアに説明した
「まず、シリウスなら自分が秘密の守人であると疑われて狙われていたと分かっていたなら、絶対に自分を守人にしないだろうと思いました」
「オフューカス…」
「続けます。明らかに狙われるとわかっている親友の立場で、信用されているのが分かっているのに『秘密の守人』の役目を引き受けるでしょうか?だとしたら自分を狙ってくれと言っているようなものです」
「ふむ…」
「そうだ!だから私はっ「黙っていてください」っ…」
「続けます。加えて、ペティグリューの亡骸…指一本で死んだことが判るとはあまりにお粗末でないかと思いました。魔法省を非難するわけではありませんが、当時集めたというマグルの証言はどこまでアテになるか知れたものではありません。まず大前提にマグルは魔法を知りません。証言通りそう’’見えていた’’としても不思議ではありません。魔法界の基準で考えるのは早計だと判断しました」
「成る程。確かにその視点で考えれば矛盾があるの…」
「以上の理由から、私は兄のシリウスの性格を考えれば、そんなミスは犯さないだろうと踏みました。もし兄が本当にヴォルデモートの手下なら、(こんなのでも)もっと賢く立ち回っているはずです。公衆の面前で人を粉々にするような愚かなことはしない。少し視点を変えて考えればわかることです」
「それに、私がヴォルデモートの立場ならば常に強者に迎合する取り込みやすい腰巾着を狙います」
最後にそういうと、ハリーが噛み付かんばかりに睨んできた
「オフューカスっ…やはりお前はっ…」
「少しお黙りくださいシリウス兄様。あとはペテグリュー本人の口から聞きましょう」
「確かに、そうするより他にあるまい。セブルス」
「は」
ダンブルドアが支持してペティグリューの正体を現させるように指示した
それから光が走り、ペティグリューに当たった
出てきたのはピーター・ペティグリュー
小柄で、まばらで色褪せた髪はくしゃくしゃで、てっぺんに大きなハゲがある
太った男が急激に体重を失って萎びた感じだ
皮膚はうす汚れ、尖った鼻や、小さく潤んだ目にはなんとなくネズミ臭さが漂っている
ハァハァと浅く速い息遣いで、ネズミのように周りを見回した
全員が絶句している
ハリーは言葉もないようだな…
一方、シリウスは今にもペティグリューを殺しそうな形相でいる
「し、シリウス…り、リーマス…懐かしの友よ!」
大袈裟に腕を広げてシリウス達に命乞いしようとするペティグリューに私は離れているがさらに一歩下がる
気持ち悪い
両隣にレギュ兄とセブルスが立っている
多分セブルスは憎しみで煮え繰り返っているだろう
リリーを間接的に殺した張本人がいるのだ
「答えろピーター!お前がヴォルデモートにジェームズとリリー売ったんだろ!?」
「リーマス、リーマスっ君はブラックの言うことを信じたりしないだろうね。…こいつは私を殺そうとしたんだっ」
「そう聞いてた。ピーター。二つ三つスッキリさせておきたいことがある。君がもしーー「こいつはまた私を殺しにやってきた!こいつはジェームズとリリーを殺した!今度は私も殺そうとしてるんだ!リーマスっ助けておくれっ」」
醜い…
私は本当はこういうのを見たくない
吐き気がする…
「こいつが私を追ってくることはわかっていた!私を狙って戻ってくることはわかっていた!一二年も!私はこの時を待っていた!」
金切り声で叫ぶペティグリュー
「シリウスがアズカバンを脱獄すると分かっていたというのか?いまだかつて脱獄した者はいないのに?」
甲高い声が響く
「こいつは私達の誰もが、夢の中でしか叶わないような闇の力を持っている!それがなければどうやってあそこから出られる?恐らく『名前を呼んではいけないあの人』がこいつに何か術を教え込んだんだ!」
ペティグリューのその言葉にシリウスのゾッとするような笑いが部屋中に響いた
ダンブルドアは特に止めることをせずに成り行きを見ている
「ヴォルデモートが私に術を?どうした?懐かしいご主人様の名前を聞いて怖気付いたか?無理もないなピーター。昔の仲間はお前のことをあまり快く思っていなかったようだ。違うか?」
シリウスの言葉にあからさまに身を縮めたペティグリュー
「何のことやら……シリウス、君が何を言っているのやら…」
ますます荒い息でモゴモゴと喋るペティグリュー
気持ち悪い
本当に…
「お前は十二年もの間、私から逃げていたのではない。ヴォルデモートの昔の仲間から逃げ隠れしていたのだ。アズカバンで色々耳にしたぞピーター。……皆お前が死んだと思っている。さもなければお前は皆から落とし前をつけさせられたはずだ。私は囚人達が寝言で色々叫ぶのをずっと聞いてきた。どうやら皆、裏切り者がまた寝返って自分達を裏切ったと思っているようだった。ヴォルデモートはお前の情報でポッター家に行った……そこでヴォルデモートは破滅した。ところがヴォルデモートの仲間は一網打尽でアズカバンに入れられたわけではなかった、そうだな?まだその辺にたくさんいる。時を待っているのだ。悔い改めたフリをして…ピーター、その連中がもしお前がまだ生きていると風の便りを聞いたら…」
「何のことやら……何を話しているのやら…リーマス?君は信じないだろう?こんな馬鹿げた話!それにオフューカス!君もだ!君はシリウスに殺された!」
何故私に振る
気持ち悪い
「私が妹を殺すなどあり得ん!!」
「嘘だ!君達は仲が悪かったじゃないか?こいつがオフューカスを殺したんだ!」
「私を殺したのはシリウス兄様ではありません」
「ハッキリ言ってピーター。何故無実の者が、十二年もネズミに身をやつして過ごしたいと思ったのかは、理解に苦しむ。それにシリウスは妹を愛していた。シリウスに限って殺すわけがない。不仲に見えたのはシリウスが馬鹿なことをした時や問題を起こした時だけだ」
その通り
馬鹿なことをしなければ私は別に何も思わない
普通に兄は良い人だし
性格がちょっと呆れ返るだけで
「無実だ!怖かったんだ!それにレギュラス!そうだレギュラスは!?こいつは『例のあの人』の手下だ!デスイーターだ!」
「レギュラスは確かにデスイーターだったが、妹君の死を受け、ヴォルデモート卿が力を失う前にわれらの側について貢献してくれたのじゃ」
「〜っ!?」
「僕は過去に過ちを犯した。だが二度は犯さない。ピーター・ペティグリュー。よくも兄さんに罪を着せたな…」
「キーー!」
「ジェームズとリリーは私が勧めたからおまえを『秘密の守人』にしたんだ。私はこれこそ完璧な計画だと思った…目眩しだ…ヴォルデモートはきっと私を追う。お前のような弱虫の、能無しを利用しようとは夢にも思わないだろう。…ヴォルデモートにポッター一家を売った時は、さぞかしお前の惨めな生涯の最高の瞬間だろうな」
「とんなお門違いだ…気が狂ってる」
あからさまに青褪めた顔になるペティグリュー
「終わりだピーター。本当ならお前を殺してやるところがな!!」
「ひぃ!」
「よくもジェームズとリリーをっ」
叫んだシリウスと忌々しげに顔を歪めて言ったリーマス
それに対してペテグリューは今度はハリーに目をつけた
「ハリー!ハリー…君はお父さんに生写しだ…そっくりだ…」
「ハリーに話しかけるとはどういう神経だ!?この子の前でよくジェームズの話ができるな!?」
「ハリー…ハリー。ジェームズなら私を信じてくれた…ジェームズならわかってくれたよ…ハリー…」
ハリーに縋り付くペティグリューをシリウスとリーマスが肩を掴んで床に叩きつけた
「お前はジェームズとリリーをヴォルデモートに売った!否定するのか?」
その瞬間、ペティグリューがぶわっと泣き出した
見るに耐えない…
「シリウス…シリウス…私に何ができたというのだ?闇の帝王は…君にはわかるまい…あの方には君の想像もつかないような武器がある…私は怖かった。シリウス、私は君やリーマスやジェームズのように勇敢ではなかった。私はやろうと思ってやったのではない……あの『名前を言ってはいけないあの人』が無理やり…「嘘をつくな!」」
やらされたと言おうとしたペティグリューにシリウスが被せるように大声を出した
「お前はジェームズとリリーが死ぬ一年も前から『あの人』に密通していた!お前がスパイだ!」
「あの方は…あの方はあらゆるところを征服していた!あの方を拒んで、な、何が得られただろう」
「史上で最も邪悪な魔法使いに抗って、何が得られたかって?」
怒りに満ち溢れた顔でシリウスが叫んだ
「それは罪もない人々の命だ、ピーター!」
「君には分かってないんだ!シリウス!私は殺されかねなかったんだ!」
この時私は不謹慎だが…ペティグリューに同意できた…
彼は…彼は学生だった頃から…人に恐怖を植え付けて…時には魅力的に…時には秀才の皮を被って…
魅了するのが天才的にうまかった…
それが全て邪悪になった彼は……誰も逆らえないだろう…
私も…だった…
誰もが勇敢なわけがない…
自分の命が大事だ…
ーーー「ナギニ」ーーーー
彼の声が響く
そのひと言だけで私は硬直したように動けなくなる
自然と伸びた手はそっと服の中の石を抑えていた…
私は…
「それなら死ねばよかったんだ!友を裏切るくらいなら死ぬべきだった!我々も君のためにそうしただろう!」
みんなが皆そんなことをできるわけじゃない
シリウス兄様…
弱い者の気持ちなんて…あなたには分からないだろう…
それから尚も「仕方がなかったんだ…」「あの方は恐ろしい…」と少しでも情状酌量になるように呟くペティグリューに、ダンブルドアがゆっくりと前に出て、目を合わせて聞いた
「ピーター。わしからも最後に確認しよう。ヴォルデモート卿に密告したのか?」
ヴォルデモートが唯一恐れるダンブルドアに尋問されてペティグリューはさっきまでの言い訳が嘘のようにブルブルと震えて顔を項垂れさせつぶやいた
「っ!…〜〜っ…は…はぃ…」
「…そうか…」
そうひと言、悔いているような重い一言を呟いたダンブルドア
それから、ピーターを拘束して私はダンブルドアに向き直った
「校長。こちらにシリウスを釈放する準備があります。目を通していただきたい」
ルシウスから預かってきた魔法省に提出する巻物を出してダンブルドアに渡す
再度シリウスの罪について評議会を開く用意だ
証拠物の提示と双方の証言
もっともこれだけの証人とダンブルドアがいればすぐ釈放になる
ハリーの唯一の後見人で親代わりになるしね
聖マンゴ魔法疾患傷害病院に暫く入院してからケロッと出てくるだろう
そしたら正式にブラック家の当主として就いて逃げ回る生活ではなくなる
ダンブルドアはそれを受け取って目を通したら半月型の眼鏡を光らせて私を見た
「この方のご助力のお陰です。後はお願いします」
「ふむ…オフューカス殿。ひとつ聞いてもよいかの?」
「はい」
「君は’’愛して’’おったかの?」
ダンブルドアの質問に私は心臓がどくんと動いた
誰を、なのかなんてわからない
だけど…私にはわかる
私は彼に…愛なんてものを覚えたことはない…
歪んだ所有欲と支配欲に……私は…
「いいえ」
そう、違う
私は彼を愛しているなんてあり得ない…
私は’’物’’であり’’玩具’’だ…
ただの暇つぶしの…
「そうか…ならばよい。セブルス、至急魔法省に通達を飛ばし、シリウス・ブラックと真の犯人が見つかったと知らせよ」
「かしこまりました」
ダンブルドアの指示を受けてセブルスがローブを翻して行った
「ピーター。これからお主はアズカバンに送られて評議会にかけられる。そこで嘘偽りなく事実を述べるのじゃ。よいな?」
「あぁ〜〜っ!」
「シリウス。お主も評議会にかけられる。ありがたいことにお主の妹君がピーターが捕まり次第すぐ評議会を開けるように手を回してくれた。すぐに無実が証明され釈放されるじゃろう」
「オフューカスっ…お前っ…どうやって…」
「ある方にご助力いただきました。感謝ならその方に」
「釈放の後は聖マルゴでゆっくり療養するのじゃ」
「あ、あぁ…ありがとうございますダンブルドア…」
ダンブルドアに感謝するシリウスとホッとするリーマス、シリウスを見るハリーを横目に私はレギュラスの側まで来た
ダンブルドアはやることがあるらしく、「積もる話もあるじゃろう。旧交を温めておるとよい」と言ってどこかに行った
多分、魔法省関係だろうな
「オフィー。どうやったんだい?」
「それは後ほど」
「後で教えてくれるんだね?」
「ええ、レギュラス兄様の頼みなら」
「そっか。それならいいよ」
レギュラスと話しているとリーマスが私の前に来た
「オフューカス…本当に君なんだな…」
「ええ。今はユラ・ポンティですが。以前はオフューカスでした」
「成る程…これであの『守護霊の呪文』の説明がつくね…あの守護霊は彼女以外にいない…ありがとう。親友を救ってくれて…」
「兄でしたからね」
「今も、だろう。何度か行き違いはあったがシリウスは君を大事に思っていた」
「よく理解していますよ」
知っている
「変わらないな……話し方も…雰囲気も…言われてみればオフューカスそのものだ…」
感慨深げに呟いたリーマス
そしてその後ろからハリーと話していたシリウスが来た
「オフューカス」
「何ですかシリウス兄様」
「ひとつ聞きたい」
今日はひとつが多いな
まぁいいが
私は早く自室に帰りたい
「何でしょう」
「お前を殺したのは…誰だ」
また復讐しようとしているのか
本当に学ばない
何故こうも情に厚いのか…
羨ましく思う時もあるが私には縁遠いものだ
「知ってどうするんですか?また殺そうとするんですか?今の貴方の家族はレギュラスとMrポッターでしょう。私は既に違う人生を歩んでいます」
「オフィー…」
「お前も家族だ。どうしてそんなことを言うっ?」
「私は事実を言っているだけですよ。私は確かにオフューカス・ブラックでした。ですが今はユラ・メルリィ・ポンティです。両親もいます。貴方とは縁も何もない赤の他人です」
「ユラ!そんな言い方っ!」
ハリーが後ろから言ってくるが知らない
必要以上に関わるつもりはないんだ
「いいハリー。オフューカス…お前は何も変わってないな。何故そう突き放す。お前が私を快く思っていなかったことは知ってる…スネイプにちょっかいをかける私やジェームズが嫌いだったんだろう…だがあれはスネイプが悪いんだ…」
「嫌いではありませんよ。私は元来ポッターや貴方の様な幼稚なことをする人が苦手なんです。人の話を聞かず、自分がすることが正しいと思って、いつも人を巻き込む人が。皆が皆、貴方達のような人ばかりじゃないの。シリウス兄様。自分の正義感や価値観を押し付けないで」
「……お前は…そんなふうに思っていたのか…」
「兄さん。オフィーは決して兄さんを嫌ってたわけじゃない。どちらかといえば兄さんと同じで純血主義をよく思っていなかったんだ。…兄さんが家出した時も、僕が死喰い人になった時も、オフィーは責めなかったじゃないか…」
レギュラス、私が責めなかったのは意味がないと思ったからだよ
それにシリウスは嫌いじゃないけど、好きというわけでもない
感情の振れ幅が激しい人は正直苦手なのだ
本当に
「何故だ。何故責めなかった」
「人にはそれぞれ事情があるものよ。言えないことの一つや二つある。私はそう思ったから別に何も言わなかった」
「無関心だったの間違いじゃないのか?」
「兄さんっ!」
そんなことはない
私にはそれよりも気掛かりなことがあった
ーーーー「お前は独りぼっちだ」ーーーーー
「昔からそうだ。お前は明確に意思表示をしない。曖昧な言葉で返して当たり障りのないことを言う。誰にも心を開かないっ。実の兄でさえも。お前の心はどこにあるんだ?」
周りから見ればそうだろうね
当たり障りのない言葉を使うのは大人として当たり前のこと
「兄さんっ…オフィーを責めるのはお門違いだろ?」
「シリウス…オフューカスは君の無実を証明してくれたんだぞ?」
「お前達は黙ってろ!答えろオフューカス。本当のお前はどこにいる?」
「私は昔からここにいるよ。これが私。シリウス兄様とは価値観や性格が違うだけよ。ただそれだけ。兄様にはそれが見てて気に食わないんだろうけど」
「っ!」
「落ち着いて話もできないようだし、私はもう寮に戻るよ」
一人になりたい
そう言って私は校長室から静かに出た
コツコツと深夜の校内の石床を踏むローファーの音が響く
そしたら後ろから追いかけてる足音が聞こえた
「待って…待ってオフューカスさん!」
ハリーか…
今は君の顔を見たくないんだよ…
「私の名前はユラ・ポンティよ。もうブラックの名前ではないの」
「そんなっ…シリウスはただっ」
あぁ
なんだこの感情は…
イライラする…
「話がないなら失礼するわね」
「待って!どうしてそんなにシリウスを嫌うんだ?君の兄だろう?兄妹だろう?家族じゃないか…」
「貴方の価値観がどういうものであれ…私はさっき言ったはずよ。自分の価値観を押し付ける人が好きではないの」
「そんな……どうして家族にそこまで冷たくなれるんだ?失ったらおわりなんだよ?」
失う…?
私は元から何も持っていない…
本当に…今ならセブルスの気持ちがよくわかる…
ハリーもジェームズも…
自分の考える正義が正しいと思って疑わない…
ハリーに背中を向けてふと、前を見ると少し先に彼が愉快げに目を細めて悠然と立っていた
きっとハリーには見えてない
私以外誰にも…
口許が歪んで何かを呟いている…
ーーー「おいで」ーーー
悪魔の誘いだ…本当に…
人の弱味につけ込んで…
「おやすみなさい。明日からも、今まで通りにでいましょうね」
軽く振り返ってハリーに言って、私は踵を返した
紅い目を歪めて口は弧を描いて立っている彼
その横を通って振り返らずに寮に戻った
帰り道…
「僕はお前のそういうところ。存外、好ましいと思っているよ」
うるさい
私は好きじゃない…
「本当の君は’’卑怯’’で’’弱い’’」
知ってるっ
そんなこと知ってるっ
どうしてこいつはいつもっ
いつもっいつもいつもっ…
「腹が立つんだろう?あの子どもを見ていると…僕に’’安らぎ’’を感じる君は誰とも相容れないし馴染めない」
誰が安らぎですって?
あり得ないっそんなことっ
あったとしてもっ…それはあんたに植え付けられた恐怖ゆえだっ
私もペテグリューと一緒だっ
ずっとずっとあんたに逆らえないっ
「黙っててトム…私が弱いことはよくわかってる…あんたにとってはその方が都合がいいんでしょうけど…」
「そうだね。だが僕はお前の’’嫌がること’’はしないと約束したからね。お前が惨めに葛藤し、自己嫌悪に塗れている愉快な姿を見るだけに留めておくよ」
何が’’だけ’’だ
最低じゃないか
「……ほんと…性格破綻してる…」
破綻どころじゃない
もっと酷い
「そんな僕が’’嫌いじゃない’’お前はもっと破綻しているな」
っ
なんでそんな昔のことっ
いや…彼にとってはつい最近のことなのか…
もう嫌…
オフューカスが出て行った後、校長室ではレギュラスが拳を握りしめて兄であるシリウスに怒鳴っていた
「どうしてあんな酷いことを言ったんだ兄さん!オフィーは何もしていないだろ!兄さんが無実になるように尽くしてくれたじゃないか!」
「シリウス…いくら君がオフューカスに気に食わなかったところがあるとしても今のは言い過ぎた。彼女の助けがなければ君はまた追われる身になっていたんだぞ…」
リーマスもらしくなくオフューカスを責めたシリウスに言う
「っ!あいつは昔からそうだ!何ひとつ本音で話したことはない!貼り付けたような顔で淡々と喜びも哀しみも何ひとつ顔に出さない」
「それの何が悪いんだ?オフィーは感情が表に出にくいだけだ。大体僕達はオフィーを責める権利も理由もないだろう?」
「あいつはスネイプといたんだぞ!」
「だから何だっていうんだ?オフィーが誰と仲良くしようと僕達が口を出せることじゃないだろう?」
「闇の魔術に傾倒していたのにか!?」
「オフィーは闇の魔術に傾倒していたわけじゃない。学問として勉強していただけだ」
「シリウス。考えてもみろ。オフューカスは一度でも闇の陣営に加担するような素振りがあったか?違うだろう。それに彼女はデスイーターに殺されたんだぞ」
「っ…そうだよ兄さん…オフィーは僕が…僕達のせいで殺されたんだよ…忘れたわけじゃないだろう…」
「そんなこと知っているっ…だがおかしいと思わないのかっ!?あいつを殺したベラトリックス・レストレンジは『闇の帝王』の手によって殺されたんだぞ!?」
「っ!?それは本当なのかシリウス…」
「あぁ間違いない。俺はアズカバンで確かに聞いた。オフューカス・ブラックを殺したベラトリックス・レストレンジが『闇の帝王』の不況を買いその後殺されたと!」
シリウスの発言にレギュラスもルーピンも衝撃で言葉が出ない
「…『闇の帝王』に殺される者がいるのは不思議なことじゃないだろうっ…単に不況を買っただけかもしれないだろう。あの女の性格ならあり得るだろう?偶然だよ」
「レギュラスの言う通りだシリウス。『闇の帝王』が気に入らなければ自分の仲間さえも殺すのはよく知られていただろっ。だから恐れられていたんだ。ベラトリックスも例外じゃなかっただけだ」
「いいや。それでもあいつは当時から怪しかったっ」
「いい加減にするんだ兄さん……覚えてないのかい?当時からあの女はオフィーを目の敵にしていたじゃないか。オフィーをしつこく闇の陣営に勧誘していたのに全く取り合わなかったオフィーを憎んでいただろう…」
「君の気に入らないと思ってるところはブラック家で生きていくために必要なことだったんじゃないのかシリウス…」
「兄さんだって何度も助けられただろう…なのにどうして今更疑うんだ…オフィーはただ争いを好まない平凡な子なんだよ…僕は二度も愛する妹を失いたくない…兄さんがそういう態度なら僕はオフィーの味方だ。オフィーが生きていると…生まれ変わっていると知って…どんなにか嬉しかったか……」
「レギュラス!お前がそれを言える立場なのか!」
「オフィーは昔から兄さんのそういうところが苦手だったんだってどうしてわからないんだ!自分の意見ばかり通して、好き勝手ばかりして挙句に家出して!すでに期待されていなかった兄さんの代わりにオフィーがどれだけの重荷を背負わされたと思ってるんだ!考えもしなかっただろ!父上と母上からどれだけ当たられたか!それなのに兄さんはオフィーが殺されてからも勝手なことばかり!挙句犯罪者になった!」
「っ!!」
「オフィーは家に味方がいなかった!兄さんだけじゃない!僕にも心を開いてくれなかった!それだけ居場所がなかったんだよ!なのに散々好き勝手をしてオフィーのお陰で戻ってこれたくせに今更責めるのか!?自分に懐かなかったくらいで?自業自得じゃないか!(オフィーが家で唯一肩の力を抜いていたのはクリーチャーと過ごしていた時だけだったっ…僕は何も言う資格なんかないっ…あの頃の僕はオフィーに全て押し付けたっ…心を開いてほしいなんて烏滸がましい願いだっ…普通なら絶縁されても当たり前のことをしたんだっ)」
「…そんな……だがあいつなら気にしないと…」
「本当に気にしないなら、生まれ変わってやっと平和な日々が送れているのに、わざわざ危険を冒してまで兄さんを助けるために手を貸したりしない。それに自分がオフューカスだと言ったりしないさ。………オフィーに近づかないでくれ。もう十分だよ。僕達はオフィーに甘え過ぎたんだ。兄さんには新しい家族がいるだろ。関わらないでくれ」
レギュラスは今まで見せたことがないほどの激情で兄を怒鳴った後、呆れて、諦めたように背を向けて出て行った
「シリウス…何故あんなことを言ってしまったんだ…本心じゃないだろう…」
取り残されて、わなわなと震えているシリウスにルーピンは言った
「……私は…私は腹が立っていたんだ…兄である私ではなく…スネイプばかりと…リリーはまだいい…だがスネイプだけは…それにあいつは物分かりが良過ぎたんだっ……私は心配だっただけだ……いや…それは言い訳だな…」
後悔するような、自分を責める言葉にルーピンは「不器用な兄妹だ…」と思った
「セブルスは悪い奴じゃないシリウス。オフューカスがそう思ったなら信じてやるんだ。実際ジェームズや私達が幼稚だと思われることをしていたのは事実だ」
「あぁわかってる。わかってるが…何故あいつは私の心配する気持ちがわからないんだっ…今も昔もっ…挙句スネイプなんかとっ」
「シリウス。オフューカスともう一度ちゃんと家族になりたいならもうセブルスに突っかかるのも悪口を言うのもやめた方がいい。見たところ彼女は君よりセブルスを信用している」
まだ知らなかった頃に見かけたやり取りや、ここに来るまでのやり取りを見た限りルーピンは今のシリウスは変わらないことには信用してもらえないだろうと思い、親切で言った
だが
「何故だ!!!何故よりによってあいつなんだ!!兄は私だぞ!」
どれだけセブルスが気に食わないのか、イラついたように叫んだ友にルーピンは溜息をついたのだった
「そういうところだよ…」と内心思ったが、敢えて言わなかった
それから、ピーター・ペティグリューは審議の結果、アズカバン送りになり、脱獄防止の為の『アニメーガス』の対処もされ、シリウスは正式に無実が証明され釈放された
もちろんブラック家の当主であるシリウス・ブラックの冤罪の報道は翌日の『日刊預言者新聞』に大見出し記事となり、瞬く間に魔法界を駆け抜けた
そして、シリウスはハリーの保護者兼後見人となり、由緒あるブラック家当主として家族として迎えた
ハリーはもうダーズリーの家に帰らなくて済むととても喜んだ
だが同時に、あの夜のことが嘘だったかのようにいつも通りにしているユラを遠目で見ながら釈然としなかった
そして、その学期最後のクィディッチの試合では、入院でかつての健康的な容姿に戻ったシリウス・ブラックは歳をとってもハンサムと言われる姿でちゃんとした服に着替えてハリーの試合を観にきた
生徒たちはまさかあのようなハンサムな男が、アズカバンの囚人だった頃のシリウス・ブラックと同一人物とは思わない
それくらいの変わりようである
試合が終わり、ハリーは一番にシリウスの元に行った
「シリウス!」
「やぁハリー。お父さん顔負けのプレーだったな」
「ほんと?」
「あぁ、ジェームズもとても才能があったが、君はジェームズ以上だ」
「嬉しいよっ…」
嬉しそうな顔でシリウスと話すハリーにロンとハーマイオニーはこの男があのシリウス・ブラック?と混乱した
ハリーから話は聞いたが、別人じゃないか…と思ったのは仕方ない
「ねぇシリウス。あれから彼女とは…」
「…あぁ…そうだな…リーマスにもこっぴどく言われてね。私が悪いと」
「そんなことない!シリウスは当然のことをしただけだ!」
「いやハリー。妹に関しては全面的に私が悪い。私は自分勝手にも全ての責務を押し付けたんだ…恨まれても仕方ない…だが妹はそんなことをしないんだ。いっそ恨まれた方が楽だったよ…」
疲れた顔で贖罪をするような口調で言うシリウスにハリーはあの冷たい態度のオフューカスの姿を思い出した
冷たい
あまりにも冷たすぎる
自分にはもう家族がいないからこそハリーには何故再会できた兄にあんな態度を取るのか理解できなかった
「シリウスは悪くない…悪いのは…「それ以上は君が言ってはいけないハリー」…ごめんなさい…そういうつもりじゃ…」
思わず、悪いのはオフューカスだと言おうとしたハリーはシリウスに止められた
それを恥じたハリー
そんな時、シリウスの近くにハリーが大嫌いなやつの父親が来た
「おや、シリウスじゃないか。体はもう問題ないのですかな?無実が証明されてよかったですな」
嫌味ったらしく独特な口調でいうルシウス・マルフォイにハリー達は眉を寄せた
シリウスも嫌いだろうと思っていたハリーは次の行動に驚いた
「あぁ。君のお陰で予定より早く戻って来れた。礼を言う」
そう言って握手した二人にハリーは驚くなんてものではなかった
「礼には及びますまい。私は友人に頼まれ少しばかり手を貸したに過ぎん。感謝するならばそちらにすることですな」
「そうだな。その友人には私から丁寧に礼をするとしよう。教えていただき感謝する」
どことなくピリピリした空気でそう言ったシリウスに、ルシウスは三人をチラッと一瞥してローブを翻して去って行った
「シリウス?どうしてあんな奴にお礼なんか言ったの?あいつはマルフォイの父親だよ」
「ハリー。ルシウスは私の釈放のために審議を開く準備をして評議会を開いくれていたんだ。彼がいなければ私は今日、君の試合を観にこれなかった」
「そんな…だってあいつは…」
死喰い人だ…とでかかった言葉の直前で飲み込んだハリー
「ハリー。あまり先入観で人を見過ぎないほうがいい。私はそれで大切な妹を失った。後悔してもしきれない。君に同じ間違いは犯してほしくない」
シリウスはハリーの癖毛の頭に手を置いて、言い聞かせた
ハリーは混乱と困惑、僅かな怒りを覚えながらも肯いて納得した
それから、ロンとハーマイオニーにも快活に挨拶して、息子であるハリーとこれからも仲良くしてやってほしいと言ったシリウスに二人はすっかり毒気を抜かれた
ハーマイオニーは歳をとってもハンサムなシリウスの姿に僅かに頬を染めたのだった
一方、ユラは
「ユラ。あなた辛気臭い顔がますます酷いものになってるわよ。本の読みすぎで夜更かしでもしたわけ?」
「パンジー。なんか最近ますます遠慮ないよね。夜更かしするつもりはなかったんだけどね。気づいたら遅い時間に」
「あんたその内、本が恋人です!とか言いそうよね」
「はっ!容易に想像できるな」
「流石にそれはないよ」
「そうだよパンジー。ユラは文字が恋人なんだから」
「ちょっと待ってセオ?明らかにそっちのほうが重症そうに聞こえるんだけど?」
「あれ?そうじゃなかったかな?文字の形ならなんでもいいんだろう?」
「言われてみればお前は既に文字が恋人だったな。悪かったユラ」
「そんなことで謝られても何も嬉しくないんだけどドラコ君?」
「私も悪かったわ。浮気もなにも疑わなくていいって楽よね。幸せにね」
「もういい。何も突っ込まないよ」
すっかり穏やかに会話するようになった四人のところに、黒い影が刺した
「賑やかに話しているところ悪いが、Msポンティ。明日の放課後、我輩の研究室に来たまえ」
「はい。スネイプ先生。何枚ほどで?」
「ざっと三十あれば足りるであろう」
「わかりました。向かいます」
淡々と会話して、承諾したことでローブを翻して行ったスネイプを見ながら三人は同情の眼差しを向けた
羊皮紙三十枚も書くようなことをやらさせるのである
普通に嫌だ
「ユラ。君そのうち過労死するじゃない?」
「奇遇だねセオ。私もそんな予感する」
「どれだけ難しいことやらされてるんだお前…」
「そりゃスネイプ先生が助手にするくらいのレベルよ。きっと恐ろしく難しいものに決まってるわ…」
「パンジーとドラコも一回やってみる?セオもできると思うけど」
「「「絶対嫌だよ・だ・よ」」」
見事にハモった三人に、「どれだけセブルスは恐れられてるんだ…」と思ったのは仕方ない
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次回は炎のゴブレット
かなり長くなるかも?
ペテグリューはどうなるか!?