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アズカバンの囚人 〜1〜

アズカバンの囚人 〜1〜 - chocoの小説 - pixiv
アズカバンの囚人 〜1〜 - chocoの小説 - pixiv
27,986文字


アズカバンの囚人はじまり!



————————————


マルフォイ家の滞在から、数日

いよいよ新学期も始まる
私は13歳になり、家では両親は嬉しそうに祝ってくれた
背も伸びて、矢張りイギリス人の父の血が入っているからか13歳で150センチくらいになった
普通に嬉しかったのでそわそわしてしまったのは仕方ない
髪はもともと肩より少し長いのが、背中の中心辺りまで伸びた
最近ではハーフアップにして髪紐でお団子にしているが


プレゼントに母からは新しい髪紐、父からは新しい服を貰った
普通に嬉しかった

両親が帰ってきた時、私がマルフォイ一家からそのままいただいたドレスコードとイヤリングと髪飾りに目を剥いていたのは忘れない

そりゃそうだろう
純血一族の中でも家格と格式が高い、気難しいマルフォイ家に招待され、挙句純血のパーティに参加して、どこで使うかもわからないドレスコード一式をプレゼントされたのだから

流石に受け取れないと思ったが、ルシウスとドラコの圧に負けて有り難く…もないが頂いた

あれからルシウスから梟で連絡が来て、『準備は整った』と簡潔な連絡を貰った

連絡手段は今回のような全く関係ない梟だったり、原始的だが鳩だったりする
毎回変えることにしたのだ
バレては困るからね

そして、もうひとつ

レギュラスからも13歳になったプレゼントが贈られてきたことだ
その時「あの教師、私情交え過ぎじゃなかろうか…」と思ったのは仕方ない
贈られてきたのは丁寧に包装された貴重な魔法薬の材料や本やら…
本は絶対ブラック家で私がよく読んでいたものだ

『上級魔法薬素材一覧』

何故私のお気に入りの本を知っているのか、しかも勝手に送ってきたな…いやまぁブラック家は今はレギュラスのものだけど…

両親…とくに父はもう卒倒しそうだった
いくらお気に入りでも流石にここまでとは思わなかったのだろう


そしてまさかのセブルスからも手紙…というか内容はほぼ嫌味と皮肉だけど…も来た
要約すると、『3年になれば扱える魔法薬の調合の幅が増えるから精々予習しておけ』的なものだ

くそう
子どもだからと手加減するやつではなかった
知ってたけど
今まで「まだ子どもですし体力がないですから」「それは2年が使用を許可されていないものですから」とかのらりくらいと断っていたのを根に持ってやがる

そりゃ手伝いはしたけど、全部丸投げされるのは流石にキツイ時は断っていた

だってめっちゃこき使われるのだ
流石に子どもだから色々とできることに限界がある
それをちょっと盛っていたのが確実にバレてるな






そんなこんなで、いよいよ新学期が始まる

案の定、猪突猛進な兄は脱獄して魔法界を騒がせていた
ルシウスとはどうせあの性格なら脱獄するだろうと踏んだので、脱獄した後に無実を証明すればいいということになったのだ

決して私情ではない




そして、私はホグワーツに向かう列車に乗って、セオ、ドラコ、パンジーと座り、着くまで待った

窓の外は雨が降り、不気味なほど暗い
日本が…懐かしい
梅雨が…桜が…



「’’君が〜…あ〜…代ぉ…は〜…’’」




「’’千世〜にぃ〜ぃ〜や〜ち〜よに〜’’」




「’’さ〜ざ〜れぇ〜〜……石の〜…’’」




「’’いはほと〜〜……な〜…りて〜……’’」



「’’こ〜け〜の〜………むぅす〜〜ま〜…ぁぁ…で〜…’’」



帰りたい…
本当は帰りたいのだ…
平和に暮らしたい…
これは日本人だからこそ望むことだろうか…
穏やかで平和な日々が欲しいだけだ…



気がつけば口ずさんでいた祖国の国歌
伴奏を合わせれば鳥肌が立つほど美しい曲だ




「ユラはよくその日本語を言っているな。それは歌なのか?」

向かいに座っているドラコに聞かれて窓の側で肘をついていたのを直して姿勢を正して顔を合わせる

「ええ。日本の国歌よ」

「日本語は不思議な言葉だよね。今のはどういう歌詞なんだ?」

横からセオが興味ありげに聞いてきた

「そうだね…あなたの命がいつまでも長く続きますように…そう…小さな岩が長い年月の風化によって、大きな岩のかたまりになって…その岩にいっぱい苔が生えるようになるまで…長く…長く…元気に長生きしてください…っていう歌詞だよ…」

郷愁の想いが溢れる中、思い出して少し心が落ち着いた

「良い歌詞だな。なんていうか日本は本当に異質だな。僕も少し調べてみたが日本っていう国は他の国と全く文化が違う異世界みたいな国らしい。あと全部小さいらしいぞ」

小さい…
いやまぁ日本人は背は高くないけど…

「とても心に響いてくる歌だね…そんな意味だったんだ…日本人の奥ゆかしさや平和を望む心が現れているね」

セオは日本の何を勉強すればこんなに詳しくなるんだろう
平和主義なのはまぁそうだけど
でも祖国を褒められるのは嬉しいな

「前から思ってたけどユラは何故日本の魔法学校には行かなかったの?」

3年になって少し落ち着いてきたパンジーが不思議そうに聞いてくる

「う〜ん…強いて言えば家がこっちにあるからかな。あと、入学許可証が来たのはホグワーツだけだし…」

「え、マホウトコロからは入学許可証は来なかったの?母君がそこの卒業生なら来るんじゃないかな?」

マホウトコロとは日本にある魔法学校のことだ
いや、来たのは来たと思うんだよ
多分
でも母が物凄い妖艶な笑顔で何かの巻物をビリビリに破いて燃やしてたから…
多分あれがマホウトコロからの入学許可証だったのだろう
何があったのか…
何をしたのか…

私は偉い子なので聞かなかった

と、説明すれば3人とも引き攣った顔になった

「あの母親が……」

ドラコは以前に会った時の印象が強いのか、母の知られざる一面に若干怯えた顔をしている

セオとパンジーは苦笑いしている


「まぁ…余計なことは言わない方がいいってその時私は学んだよ」

「もしかしてユラのお母様って結構……いえ、何でもないわ。余計なことは言わない方がいいわね」

「世界中の魔法学校の中でも1番厳しいマホウトコロを卒業したんだから…まぁ凄い人なのかもしれないね…」

気を遣わなくていいんだよセオ
父曰く母は結構…まぁアレだったらしいから

「確か、クィディッチの強豪校で、ひとつでも校則を破れば即退学って聞いた事があるな」

ドラコが思い出したように言うので
訂正しておく

「いや実際校則で即退学はないと思うよ。魔法界の決まりを破ったら即退学になるだけで」

まぁハリー達があっちに入学してたら即退学だっただろうな
ダンブルドアがいるから無事で済まされているだけで

「それはそれで容赦ないよね…日本って怖いね」

いや、何故そうなる

「ユラが’’こんなの’’でよかったわ…心底…」

おいこら
パンジー最近失礼な発言が多いぞ
なにが’’こんなの’’だ


















それから、列車がディメンターによって停止したが、再び動き、駅に着いた

雨によってぬかるんだ馬車道をハグリッドに案内されていくと、何度見たかわからないセストラルが引く馬車がざっと百台程あった

私が順番待ちでセストラルを見ていると、セオも見ていた

「セオ。セストラルが見えるのね」

「え…あ…」

「馬車を引く黒い天馬のことよ。セストラルは死を見たことがある人にしか見えないの」

私は入学してからよくセストラルのいる森に1人で出かけていた
何故かひどく落ち着くのだ

「大丈夫よ。あなたは心が強いもの」

何がとは言わないがセオもまた大変な家系なのだ
いつも引かれる手を引いて馬車に乗るように促した

セオは少し驚いた顔をするとすぐいつも通りに戻り馬車に乗った





それから馬車は壮大な鉄の門をゆるゆると走り抜けた
門の両脇に石柱があり、そのてっぺんに羽を生やしたイノシシの像が立っている…ディメンター

最早警護というより悪霊でしかないと思う

城に向かう長い上り坂を速度を上げて抜けて、窓から城の尖塔や大小の塔が見えてきて馬車はひと揺れして止まった

そして、降りる時セオが手を出してきたので、有り難く手を添えて降ろしてもらった

なんと紳士なのだろう

それにパンジーが「流石だわ」と言ったのでドラコがパンジーを引いた目で見た

「ありがとうセオ。まだ夜会モードが抜けていないの?」

「ぬかるんでいるから転んだら大変だろ?主席を泥まみれにするわけにはいかないから」

「それはどうもありがとう。お気遣い感謝するわ」

何故転ぶ前提なのかは突っ込まないでおこう

「どういたしまして」

いつもの調子で会話する私とセオにドラコとパンジーが天を仰いで溜息を溢していた

「ほんっと…何であんた達はいちいち老人みたいなのよ…嫌味の応酬にしか見えないわよ…仮にも良い年頃の男女でしょ。もっとこう!ないの!?」

いや、私とセオに限ってそれはないよ

「同級生とか思いたくないね…こんな老け込んだやつら」

おいこらお前ら
好き勝手言いやがって


「「早く歩いてほしいな・くれないかしら?」」

同時に言った私達にスンとした顔をされた
解せん

その時、降りていたハリー達の視線を感じたが、私は見ないようにした



















大広間へ移り、新学期の挨拶もそこそこに、ディメンターの説明があり騒然とする中、宴は終わった

闇の魔術に対する防衛術の先生はリーマスになった
懐かしい
彼はそこまで苦手ではない
ジェームズとシリウスが頭おかしいだけだったし

というかどんだけこの科目呪われてるのかな?
先生変わりすぎでしょ
ほぼ問題あるのしかいないじゃん
セブルスかレギュラスにすればいいのに
ほんと


次の日からはいつも通り3年の授業が始まった

案の定こそこそ動いているのがバレてセブルスに捕まり、洗いざらい吐いた

めっちゃ怒られたし説教された
何故だ

ルシウスが味方に(一応)ついたのは吉だ
例えその方法が多少問題ありでも


「それで、どうするつもりなのかね?」

どうする、とはぺティグリューのことだろう

「正直、このまま何もしなくてもハリー達は勝手に詮索するだろうね…でもそれじゃあ…」

あ、すっごい怖い顔…

「不満みたいだし、ぺティグリューは早いうちに捕まえるよ。これはセブルスも手伝って」

「ちっ」

舌打ちするなよ…
きっと殺したいんだろうが我慢してくれ
ぶっちゃけ私もあいつは死んでも良いと思う

「シリウスが無実になる証拠は必要だよ。じゃないとルシウスの準備が無駄になる」 

「何故よりによってあの男なのだ」

「彼が適任だからだよ。私も迷ったのよ。それに開心術をかけられたのは偶然だった…驚いたなんてものじゃない…ひとつ聞きたいんだけどいい?」

不機嫌な顔で促すセブルスにこれは当分ご機嫌取らないといけないな…と思い、聞いてみる

「私ってそんなにオフューカスに似てる?見た目はまるで違うと思うんだけど…」

「吾輩が知るわけがなかろう」

あ、さいですか
もうその言葉で納得することにした

その日は久しぶりに日本食を食べて、ご機嫌斜めな彼に協力してもらわないといけないので今後のためにも作り置きした

セブルスは私がここに来るようになってから健康的な肌艶になったし、清潔感も出てきた

黙っていれば寡黙な紳士としておモテになるだろう
だがいかんせん、雰囲気が「近づいてくるな」感出してるから無理だろうな…
リリー一筋だし














3年生の毎日は、私とセオ、ドラコ、パンジーで行動するのが当たり前になっていた

まぁルシウスからドラコを頼むと言われているから元からあまり離れる気はなかったけど

そして、今日は『魔法生物飼育学』の初日の授業で、3人と一緒に『怪物的な怪物の本』という重すぎる本を持って指定された森に向かう

本が重過ぎて坂道を転けそうだ

「ユラ大丈夫か?着くまで持とうか?」

くそう

「大丈夫だよ。後少しで着くから」

「ユラはチビだからな」

「聞こえてるわよドラコ君?」

「ん゛ん゛っ!」

「ドラコすっかりユラに敷かれてるじゃない〜」

「うるさいぞパンジー。こいつが父上のお気に入りなのが悪い」

「お父上は関係ないでしょ。私はドラコの友人よ。馬鹿なこと言ってないで行くわよ」

「よかったねドラコ。ユラは’’君の’’友人だってさ」

「お前最近生意気になってきてないかセオドール」

「そんなことないさ」

パンジーと少し先を歩きながら、セオがドラコと仲良く話しているのを聴きながら私は心の中で少し笑った

いい関係になってきている
















「おい聞いたか今の。あいつマルフォイの父親のお気に入りだってさ」

2年から突っかかって来なくなったマルフォイ達のやり取りを見ていたロンが呟いた

「あぁ…そうみたいだね」

ハリーが微妙な気持ちで呟き、前の方を歩くユラを見ながら答えたのだった

「これで決まりだろ。あいつは絶対あっち側だぜ。僕達に良い顔してた裏で馬鹿にしてたんだ」

ロンが機嫌が悪そうに言うのをハーマイオニーも同感するように眉を寄せながら聞いていた

そんな中、ハリーも「やっぱり…彼女も…」とどこかで納得しながら釈然としない気分になった


















それから、ハグリッドに連れられて森の放牧場のようなところに連れてこられて「教科書を開けろ」という指示に、私は噛み付く教科書を開けた

「お前どうやって開けたんだ!?」

どうやったの!?みたいな顔で聞いてくるドラコ達に

「背表紙を撫でてあげればいいんだよ。前に『魔法界の珍しい書物』っていう本に載ってた。読書って大事だよね」

わらわらと私の周りにスリザリの生徒が集まってきて背表紙を撫でて噛み付く教科書を開けた

それが伝染したのか他の寮の生徒も開け始めた

「ユラのオタクが役に立った…」

と、パンジーがまたしても失礼なことを言ったので、無言で本を構えてにじり寄る

「ちょっうそです!嘘だから!角はやめて!」

「馬鹿だろ」

ドラコがパンジーに呆れるように言って、私は「まぁまぁ」とセオに止められたので大人しく本を降ろした

「余計なひと言が多いよパンジー。ユラもらしくないね」

「ユーモアだよ」

「そこは普通冗談っていうんだよ。にしてもこんな教科書指定してくるなんてあり得ないだろ。お前らもそう思うだろ?」

「別にいいんじゃない?重いけど面白いじゃん」

「ずっと撫でないといけないのは読みにくそうだけど、見る限り案外内容はしっかりしてるね」

本を開いて撫ぜながらコメントする私とセオに冷めた目を送られる

「読書オタクの意見を聞いた僕が馬鹿だったな」

「読みにくさの問題なのね…」

「「それ以外になにが?」」

ハモった私達に「もういい」とばかりの顔を向けられた
解せぬ











そして、ハグリッドは全員が本を開いたことを確認すると

「えーと…そんじゃ…えーと、教科書はある。そいで…えーと…こんだぁ、魔法生物が必要だ。ウン。そんじゃ、俺が連れてくる。待っとれよ」

はじめての授業で張り切っているのか、緊張している様子で大股で魔法生物を取りに森の中へ入り、姿が見えなくなった




そして暫くしてから戻ってきた時、ヒッポグリフを1匹ではなく、十数頭を連れていた

嘘だろ…

胴体、後脚、尻尾は馬で、前脚と羽、そして頭部は巨大な鷲のそれ

分厚い皮の首輪をつけ、それをつなぐ長い鎖の端をハグリッドの大きな手で握られていた

「ドウドウ!」

大きく声をかけながら繋がれているヒッポグリフ柵のほうへ追いやり、私たちのところまでハグリッドは来た

皆んなじわぁっと後退る
私もだ

私が知ってるのは一匹だけだ

嬉しそうな顔でこっちにくるハグリッドに「ハグリッド……ほんと変わってないな…」と思った…

「ヒッポグリフだ!美しかろう、え?」

いや何が「え?」だ

「それじゃ、もうちっとこっちゃこいや」

もちろん誰も行かない
ハリー達以外は

「まんず、イッチ番先にヒッポグリフについて知らなければなんねぇことは、こいつらは誇り高い。すぐ怒るぞ、ヒッポグリフは絶対侮辱してはなんねぇ。そんなことをしてみろ、それがお前さんたちの最後の仕業になるかもしんねぇぞ」

そして話は続く

「必ずヒッポグリフの方が先に動くのを待つんだぞ。それが礼儀ってもんだろう。な?こいつのそばまで歩いてゆく。そんでもってお辞儀する。そんで、待つんだ。こいつがお辞儀を返したら、触ってもいいっちゅうこった。もしお辞儀を返さなんだら、素早く逃げろ。こいつの鉤爪は痛いからな」

いや、痛いで済むのか?

「よーし。誰が一番乗りだ?」

答える代わりに全員がますます後退りした

それにハグリッドは「誰もおらんのか?」とすがるような目をしてハリーが「僕、やるよ」と言った

勇気がある

それに嬉しそうな様子で「偉いぞハリー!よし、そんじゃバックビークとやってみよう!」と言い、ハグリッドは鎖を一本解いて群れから引き離し、皮の首輪を外した

「さぁ、落ち着け、ハリー。目を逸らすなよ。なるべく瞬きするな。ーーヒッポグリフは目をしょぼしょぼさせるやつを信用せんからなーー」

それから恐る恐るハリーがお辞儀をして、暫くしてからバックビークがお辞儀を返し、ハリーが嘴を撫でた

ドラコ達以外が全員拍手をした

それから狂喜したハグリッドがハリーをバックビークの背中に乗せて、お尻を叩いた

その瞬間、飛び立ち放牧場の上に一周旋回して戻ってきた

それで終わりだろうと思ったが違った

ハグリッドは「他にもやってみたいものはおらんか?」と聞き、ハリーに励まされておずおずと何人かが柵の中へ入っていき、やがて一頭ずつ鎖を解き放ち、放牧場のあちこちで皆がお辞儀をし始めた


私もセオと一緒に大人しそうなヒッポグリフに向かって頑張った

ドラコも横でバックビークに向かってお辞儀をして嘴を撫でていた

「ポッターにできるだ。簡単に違いないと思ったよ。…お前全然危険なんかじゃないなぁ?」

いやどう見ても危険だよ
動物は危険なんだよ

「そうだろう?醜いデカブツの野獣君?」

と言った

「ドラコ!!!」


私は体が勝手に動いて気がつくとドラコの前にきてバックビークに背中を向けていた

その瞬間、バックビークの怒ったような鳴き声が聞こえて私の背中に鋭い痛みが走った

あちこちで生徒達の悲鳴が聞こえる


怯えるドラコと一緒に倒れた私はローブと制服が裂けて背中から血が流れるのを感じた

痛い
痛いよ

ドラコは成長したと思ったけどやっぱりまだまだだったか…

「ユラ!!血が!」

セオが駆け寄ってきてドラコに倒れ込む私を起こそうとしてくれる

「っ!…ゆっ…ユラっ…!?」

放心していたドラコは戻ってきたのか背中から血を流す私を見て動揺していた

後ろでハグリッドがバックビークを宥めようと抑えている声が聞こえる
そりゃ怒るよ…

「ドラ…コ…ダメじゃない…」

「おいしっかりしろよ!死なないよなっ!?」

物凄く動揺しながら傷ついたような顔で譲ってくるドラコに、いや、ちょっと動かさないでくれと冷静にも思った

「死にゃせん!」

ハグリッドの声が聞こえたと思ったら突然視線が高くなり抱え上げられたのがわかった

「誰か手伝ってくれ。ーーこの子をこっから連れ出さにゃ!」

そう言って、ゲートが開く音がして私は大きく揺られながら医務室に連れて行かれた

後ろから青い顔をしたドラコとセオ、パンジーが走ってついてきているのが見える
















医務室に連れて行かれた私はそのままマダム・ポンフリーから治療を受けた

背中が裂けていたので、カーテンを閉められ生徒達は外に出された

かなり痛いが、綺麗に治るだろう
念のため包帯を巻かれてカーテンを開けてマダム・ポンフリーが心配するセオ達に許可を出すと走って私のベットまで駆け寄ってきた

ハグリッドも後ろから付いてきている

「「ユラ!」」

「なんで庇ったんだ!」

「ドラコ…怪我はない?」

「あるわけないだろ!」

明らかに混乱しているだろうドラコに、背中が痛いので横を向きたながら言うと、苦々しい表情で顔を歪めた

ドラコは後だ
まずは

「ならいいよ。ハグリッド…」

「すまねぇ…すまねぇ…俺がちゃんと見とけば」

申し訳なさそうな顔で謝るハグリッドにパンジーが睨む

「あなたは悪くないわハグリッド。今回の落ち度は私達にあるもの」

「ユラ!?」

「パンジー。わかってるでしょ?」

「…っ!」

叫ぶパンジーを制するように言えば苦々しい顔をして黙った

「ハグリッド。突然出た私も悪いけど、今回は最初に注意を受けていたのに守らなかったドラコが悪いわ。ごめんなさい先生。私の両親は寛容だから問題にしたりしないわ。学生に多少の怪我は付き物だから。すぐ連れてきてくれてありがとう」

「ユラ!?」

「ドラコ、魔法生物は危険なのよ。どんな相手でも侮ったらダメ。私達は普段から魔法を使えるから油断してるんだろうけど、基本的に動物は人間が制御できるようなものじゃないんだよ。だからこの話はもう終わり」

反論しようとするドラコに強制的に話を終わらせてハグリッドに「生徒達のところに行ってあげて」と言って促す

「あぁ…あぁ…すまねぇ…お前さんは良いやつだ。ありがとな」

しょぼくれていたが、素直なハグリッドはそのまま医務室を出た
それを確認して俯いて拳を握るドラコに言う

「さてドラコ。今回の落ち度はあなたよ。先生の説明を聞いてなかったでしょ?」

今回ばかりは説教させてもらう
今問題を起こされると敵わないのだ
ルシウスも忙しいしね

「うっ…」

「確かに先生方はハリーに目をかけていて優遇しているのはわかる。でもそれにあなたが腹を立ててもどうしようもないでしょう?あなたはあなたでしょ」

「でもユラっ!元はと言えばあんな生き物使って授業なんてするから!」

パンジーがこれ見よがしに噛み付いてくるが

「パンジー。あなたもよ。自分の友達だからって悪くもない人を責めるのはお門違い。ハリーを優遇している先生方とおんなじことをしてると分からないの?」

先生方には悪いが、ここは使わせてもらう
同じ土俵でいいのか、と問えばパンジーも黙った

「貴方は貴方なのよ。お父様のような立派な魔法使いになるんでしょ?ならいちいち小さなことを気にしてる暇なんてないでしょう」

「………」

「もうハリーと張り合うのはやめなさい。貴方には貴方の良さがあるんだから。人間は’’十人十色’’なのよ。ハリーは産まれが特殊だから有名なだけ」

ハリーは彼の力の一部を持っているから特別なだけ
それがなければただの勇気のある優しい普通の男の子なんだから…

「どういう意味だよっ」

イラついたように言うドラコに私はできるだけ気に障らないように言う

「人はそれぞれ違って当たり前ってことよ。違うのが当たり前なのよ。貴方はハリーじゃないでしょ。尊敬する貴方のお父様の一人息子で、ドラコ・マルフォイという一人の人間で、私の友人でしょ…誇りに思えるような人になってよ…」

段々と小さくなる声でドラコに本心を言えば、目を見開いた

「……悪かった…僕のせいで…」

「勘違いしちゃダメ。私がしたくてしたこと。それにもし本当に悪いと思ってくれるなら行動で示してね。信頼はね。崩れるのは簡単だけど、積み上げるのは時間がかかるのよ」

少しキツイが、今のドラコなら受け入れてくれるだろう

「…わかった…」

「ん。ごめんね説教臭くなっちゃって。さぁもう授業に戻って。スリザリンの点数が減らされちゃうよ」

次は『魔法薬学』だ
私も絶対セブルスに嫌味やら皮肉やら説教されるし英気を養いたい
そう促してしょぼくれるドラコの頭を少しぽんぽんと叩くと驚きに目を見開いて、元気な捨て台詞を吐いてパンジーと行ってしまった

小学生か
まぁいつもの調子に戻ったと見せかけて結構に気にするのがドラコの性格だからね
これくらいが良いだろう

ルシウスにも今回のことは一応説明しておかないとな
どうせドラコは正直に「私に怪我させてしまった」と言ってしまうだろうから
ほんと正直だよね
私はルシウスから呆れ返るような視線をもらうだろうが

「セオも行かないと遅れるよ」

「ユラ…お人好しすぎるよ…一歩間違えたら大怪我を負ってたんだよ…どうしてそこまでドラコを気にかけるんだ?」

そりゃルシウスに任されたからね
私も結構打算的なのだ
ドラコを守らないとダンブルドアがセブルスに自分を殺させることになる
それは断固として阻止したい
あれは卑怯すぎる

「友人を気にかけるのは当たり前のことだよ。セオもそうだよ。皆当たり前のことを忘れる時ってあるでしょ…私は忘れたくないから」

「……そっか…ユラらしいね。またお見舞いにくるよ。安静にしてるんだよ。あ、念のため言うけど本は読んだらダメだからね」

何故わかった

「…読む気だったね。ほんと油断も隙もない。教科書は僕がちゃんとに部屋に戻しておくよ。早く治して図書室に行こう」

くそう
無駄に私のことわかってやがる

「うん。心配かけてごめんね。ありがとう」

仕方ない
大人しくしておこう
セオは怒らせると厄介そうだからね

私が返事をしたことで、少し信用なさそうな目を向けられたが、渋々納得して授業に戻ったセオ
勿論私の荷物も一緒に











「お前がそんなにお人好しだったなんてな。僕には一度も見せたことはなかったが…気のせいかな?」

出た

「人は優しくされるから優しくしたいと思うんだよ。あんたは一度でも私に優しくしてくれたわけ?胸に手を当てて考えてみれば?」

「生意気だな。僕はお前には優しくしていたつもりだが?…寧ろ出来損ないの馬鹿をあれだけ面倒見てやったことに感謝されこそすれ責められる謂れはないと思うが?」

ほんとペラペラと罵倒のスキルが尽きないやつだ

「他人を庇って怪我をするなんて本当にお前は馬鹿だよ。口では捻くれた綺麗事を言う癖に頭の中は打算だらけ。滑稽だね」

……
捻くれてるのはあんたでしょ
もういい無視しよう
最近気づいたがこいつは好きに出入りできるらしい
幸いなのは私が一人でいる時しか出てこない
だけど、おかしいのはヴォルデモートを葬らんと動いているのに止めてくる気配がないのだ
何を企んでるの…

奴に背中を向けて目を閉じて眠る努力をする

「ほんと生意気だな。僕を無視するなんて…」

生意気で結構
私はあんた以外にはちゃんとしてるし

「っ」

いきなり背中を軽く押してきた奴に驚いて振り向く
それも痛い

紅い目を歪めて愉しげな顔をした奴に私は眉間に皺が寄った

「簡単に傷つけられるな。玩具を壊されるのは気分が良くない。治してやれないんだからな」

誰が玩具だっ
ふざけるなっ

ひと言文句を言ってやろうと思ったがその前に奴は消えた

ほんとっ嫌な奴っ

イライラしながらベットに再び横になり私は寝て忘れようときつく目を閉じた


それから暫くは眠れなかったが、怪我の痛みもあり気がつけば眠っていた














その後、私は二、三日医務室で安静して跡も残らず完全に治ったのをマダム・ポンフリーに確認してもらい、医務室から出る許可を貰った

私がいない間のグリフィンドールでの合同授業でドラコは大人しくしていたようで、セオによると結構気にしているらしい

なんか逆に可哀想になったな

因みに、私が倒れたその日にレギュラスが医務室に駆け込んできて物凄く心配された
誰もいないからよかったけど…

あまりにも心配するものだから最後にはマダム・ポンフリーに追い出されてたけど

セブルスは一度だけ見に来て「お人好しもここまでくると呆れてものも言えませんな」とか言われた

私は偉いので何も言い返さないぞ

おまけに「優秀な助手がいないせいで作業が滞っている。病み上がりだからと気を抜かぬことですな」とチクチク言われた

内心で「このやろう…それくらい自分でできるだろ」と思ってしまったが、セブルスなりに心配したのだろうと思い、素直に頷いておいた

どうでも良いならここにも来ないからね
相変わらず分かりにくい

ルシウスにはこっそり手紙を送って今回あった事実だけと、セブルスと決めたこれからの動きについて簡潔に送った
ついでに本人は気にしているのであまりキツく言い過ぎないように

案の定、返事は「成る程。よく言って聞かせておこう。すまないことをした。息子を守ってくれて礼を言う」と謝罪と感謝の言葉がきた

思うが、ルシウスって厳しいけど貴族教育が染み付いてるだけに結構いいお父さんだよね
基本女性には紳士的だし

手紙はその場で燃やした
お互いそうすることにしているからだ


そして、回復して最初の授業は、魔法薬学ではいつも通りだった
セオは気を遣って材料を切ったりするのを率先してやってくれたが

最初は気まずそうにしてたドラコだが、なんだかんだお見舞いに来てくれていたので数日後にはいつも通りに戻った
きっとルシウスから何かしら言われたんだろうけど…

ハグリッドもお咎めなしで注意だけで済んだようだ
よかったよ




















ユラがマルフォイを庇って大怪我をした
なんであんな奴を…

「やっぱあいつはマルフォイの手下なんだよ。それかきっと好きなんだぜ」

ロンが大広間で談笑しているマルフォイ達を見て、忌々しげに呟く

「…正直ドラコが怪我をしなくてよかったわ。もししてたらドラコのお父さんがカンカンになるもの」

ハーマイオニーがコソッというように体を乗り出してロンとハリーに言う

それに失礼だが納得する2人

「ハグリッドが辞めさせられちゃうかもしれなかったってことだよな…可哀想だけどあいつでよかったぜ…」

ロンは、そうなるとどうなるか想像して思わず恐々と洩らす

そんな時

「あいつが目撃されたって!」

シェーマス・フィネガンの声が響き、何人かの生徒がハリー達の元に新聞を持って駆け寄ってきた

「誰が?」

ロンが慌てて聞くとシェーマスはすぐ答えた

「シリウス・ブラック!」

「ダブターンで!?ここからそう遠くないわ…」

ハーマイオニーが新聞を見て驚いて呟く
それに対して不安な様子でネビルがどもりながら言った

「ホ、ホ、ホグワーツに来るの!?」

「ディメンターが見張ってるのに?」

「ディメンターの目を潜って脱獄した奴だぞ。また潜るかもしれないだろ」

「そうだよ。どこにいるか分からないブラックを捕まえるなんて煙を捕まえようとするようなものさ」

「もしかしたら内通者がいるのかもしれないぜ」

「内通者って?」

「ほらいるだろ。魔法史のブラックだよ。あいつはシリウス・ブラックの弟なんだ。パパによると元デスイーターだ」

ロンの発言に知らなかった生徒は恐怖に染まる

「嘘でしょ…あのブラック先生が…」

「パパが言ってたよ。『例のあの人』が復活する前にデスイーターを辞めたけど、その報復に妹がデスイーター殺されてキッパリ足を洗ったってさ」

「妹?先生に妹なんていたの?」

「僕もチラッと聞いたことある。ブラック家の異質の女だろ」

「ということはシリウス・ブラックも…「いや、シリウス・ブラックだけは妹が殺された後もデスイーターを辞めなかったらしい。だから妹を殺したのは本当はシリウス・ブラックじゃないかって言われてるんだ。証拠はなかったらしいけど」」

ロンの話を聞いて、ハリーはますますシリウス・ブラックを恐れた
実の妹も殺したかもしれない奴がこの近くにいるのだ
そんな恐ろしい凶悪犯が













リーマスによる最初のDADA(闇の魔術に対する防衛術)は確かボガートだ

ガタガタと揺れる
先生方が着替え用のローブを入れる古い洋箪笥がポツンと置かれた教室

リーマスがその横に立つ

ガタガタとずっと揺れる

「心配しなくていい。中には、マネ妖怪ボガートが入ってるんだ」

先生らしいリーマスの語りは続く

「ボガートは狭くて暗いところを好む。羊箪笥、ベットの下の隙間、流しの下の食器棚など…私は一度大きな柱時計の中に引っかかっているやつに出会ったことがある。ここにいるのは昨日の午後に入り込んだやつで、3年生の実習に使いたいから、先生方にはそのまま放っておいていただきたいと、校長先生にお願いしたんですよ。それでは最初の質問ですが、マネ妖怪ボガートとはなんでしょう?」

「形態模写妖怪です。相手が1番怖いのはこれだと思うものに姿を変えることができます」

タイムターナーで過労死するだろう数の科目を履修しているハーマイオニーが発言した

よく考えれば本当にこの学校の教師は贔屓が凄いよね
こんな学校ある?ってレベルで凄い
普通生徒にタイムターナーあげるなんてないよ?
勤勉だとしてもチートもいいところだもんね
まぁ私が言えたことではないが、3度も生まれ変わればそりゃ首席は取れる

「その通りだ。私でもそんなに上手く説明できなかったろう…」

褒めたリーマスに若干頬を染めたハーマイオニー
相変わらず天然女キラーである

「だから中の暗がりに座り込んでいるボガートは、まだ何の姿にもなっていない。箪笥の戸の外にいる誰かが、何かを怖がるのかをまだ知らない。ボガートがひとりぼっちの時にどんな姿をしているのか、誰も知らない。しかし私が外に出してやると、たちまち、それぞれが1番怖いと思っているものに姿を変えるはずです」

怖いもの…
私が1番怖いもの…
やる気はさらさらないがちょっと想像してみた
彼だ…
私は…彼が怖いし恐ろしい

「つまり初めっから私たちのほうがボガートより大変有利な立場にありますが、ハリー、なぜだかわかるかな?」

横で思いっきりハーマイオニーが言いたそうにしてますけど?

「えーと…僕達、人数がたくさんいるので、ボガートはどんな姿に変身すればいいかわからない?」

「その通り」

ハーマイオニーがっかりしてますけど?
私にはなんでそんなに発言したいのか理解できないな…

「ボガートを退治する時は、誰かと一緒にいるのが一番いい。向こうが混乱するからね。首のない死体に変身すべきか、人肉を喰らうナメクジになるべきか?ボガートを退散させる呪文は簡単だ。しかし精神力が必要だ。こいつを本当にやっつけるのは、’’笑い’’なんだ。君達は、ボガートに、君達が滑稽だと思える姿をとらせる必要がある。初めは杖無しで発音しよう。私に続いて言ってみて……『リディクラス(バカバカしい)!』

リーマスの説明に全員が復唱して「リディクラス!!」と言う

「そう、とっても上手だ。でもここまでは簡単なんだけどね。呪文だけでは十分じゃないんだよ。そこでネビル。君の登場だ」

リーマスの言葉に箪笥よりガタガタ震えているネビルが進み出た
ガクブルだ

「よーしネビル。ひとつずつ行こうか。君が世界一怖いものはなんだい?」

セブルスだろうな…
この後セブルスの機嫌が急降下して私にとばっちりが回ってくるだろう…
とほほ


案の定、ネビルが怖いと言ったのはセブルスで、リーマスの指示でセブルスに化けたボガートがネビルの祖母の格好をした姿になった

てっぺんにハゲタカのついた帽子、緑のドレス、赤いバンドバックを持った姿

みんな大爆笑していたが、私はこの後噂によってセブルスの機嫌が氷点下まで悪くなるだろうことを考えて笑う気にはなれなかった

センリも元々そういうおふざけは好きではない性格なので、普通にドン引きしていた

そして、笑いが皮切りに、パーバティは包帯ぐるぐるのミイラ、シェーマスはバンシー、ロンは蜘蛛…

色々と変化してボガートが混乱してきたところで、リーマスが前にでると満月が現れた

それを面倒臭そうに「リディクラス」と唱えて、その日の授業は終了になった



そしてそれからDDAの授業は大人気になった
私はあんまりだったが…

それからの授業は赤帽鬼(レッドキャップ)、河童など…

同時に魔法薬の授業の雰囲気は氷点下どころではなかった
理由は言わずもがなネビルがやってしまったあれだ

当たり前にリーマスとネビルへの当たりが強くなるセブルス
自業自得である




そんな私はセブルスの研究室でリーマスに渡す人狼の抑制剤(大変悪意と復讐の詰まったゲロマズ)の薬を作らされている

理由は簡潔だ
本人が作りたくないから

「セブルス。猫か待機かどっちがいい?」

勿論、ぺティグリューを捕まえる方法だ
このままいけば間違いなくハリー達がまたもや余計なことに首を突っ込む未来しかない

「一度試してみろ。お前ならば簡単であろう」

いや、あなたもやるんだよ

「そんなに簡単というわけじゃないんだけど…野良猫はまずいないし…ミセス・ノリスにお願いしようと思うけど…」

「ミセス・ノリスだと?呉々も面倒を起こすなよ。捕まえたら我輩の前に連れてこい」

「セブルスが何もしないって信用できるならね。うっかり殺されても困る」

「ちっ」

ちっ、じゃないよ
気持ちはわかるけど…
リリーのことは私のせいでもあるし…





そんなこんなで、ネズミ捕獲作戦第一はミセス・ノリスによる原始的な猫の捕まえ方で決定



そのあと、機嫌が悪くなる一方のセブルスに日本食を振る舞い、なんとか機嫌をとった
と思う
日本茶で少しイライラが収まったようだ
素晴らしいね日本茶















 


「レギュラス」

「シリウスは…ハリーを狙っている」

「そうだね」

生徒達がシリウスの兄であるレギュラスに関してひそひそと話している
『日刊預言者新聞』のニュースでますます拍車がかかった
トドメが太った婦人の逃走だ

教授室でお茶を飲みながら、項垂れて悲壮な顔をするレギュ兄に私はこれから何ができるか考える

シリウスの狙いはぺティグリューだ
同時にハリーに会うこと

忍びの地図を手に入れないことにはネズミに化けたぺテグリューを捕まえるのは大変だ

取り敢えずはセブルスと決めて、ミセス・ノリスに捕まえてもらうことにした
ネズミには猫だ
今は待っている

レギュラスに事実を言うべきか否か…
いや、今はやめておいた方がいいだろう


「レギュ兄…」

「オフィー。君が生きているとシリウスが知ったら…」

私はあんまり言うつもりないんだけどね

「オフィー…何故…僕が死喰い人になった時…責めなかった…」

いっそ責めてくれた方がよかった、と思ってるんだろう

「レギュ兄にはレギュ兄の理由があった…それだけだよ」

「っ…オフィーは残酷だね…」

そうだね…
私は…もっと深い罪を犯してる…
リリーが死んだことも…
彼に関わって死んだ罪のない人達みんな…












それから、2回目の週末になりホグズミードに行く生徒達で溢れる中、私はホグズミードに行くと彼とのことを思い出されて苦しくなるから行かなかった

セオとドラコ、パンジーに行ってもらい、「お土産を買ってくるね」と言われた

セオがいればドラコはハーマイオニー達に絡まないだろう

ホグズミードに出掛けるセオ達を送り出して、私はそのまま校内に戻り、セブルスの部屋に行く途中猫の鳴き声が聞こえて足を止めた

誰もいないことを確認してから声のする方に行くと、ミセス・ノリスが鋭い牙で汚い’’それ’’を自信満々に咥えていた

私はかなり早かったことに少し驚いて、前足が欠けていることを確認してまずは杖を振り、拘束呪文を唱え、アニメーガス(動物もどき)でも逃げられないようにする

チューチューと騒ぐぺティグリューを無視して籠を置き、ミセス・ノリスに向き直る

「ありがとうミセス・ノリス。貴方のおかげよ。お礼に綺麗にしてあげるわ」

ゴロゴロと喉を鳴らして撫でさせてくれるミセス・ノリスに洗浄魔法をかけて、毛並みを艶々にして綺麗にしてやった

それから心無しか、嬉しそうに満足して行ったミセス・ノリスを見送って、私はそのまま地下にあるセブルスの部屋に向かった

ネズミが入る小さな籠を持ってコツコツと薄暗い地下を歩く、今はハロウィーンの季節だから寒い
 
底冷えする地下で、セブルスの部屋の扉をノックして許可が出たので開ける

「ミセス・ノリスはとても優秀ですね。セブルス」

籠を軽く持ち上げて実験机に置くと驚きに目を見開いた
たがすぐ戻って、こちらにきた

「間違いないのかね?」

「ええ。指が一本欠けています」

間接的にリリーを殺した
ネズミが明らかに驚いたような声でチューチュー鳴いている
どれだけ逃げようとしてもこの籠からは逃げれないよ
籠の前で今にも殺さんばかりに顔を歪めているセブルス

「取り敢えずここに置く?誰かが開けなければ逃げる心配はないよ」

正直、このネズミにとってセブルスの部屋の方がある意味アズカバンより恐怖だろうな

「よかろう。よくやった」

「気にしないで。リリーと貴方だけは私の友人だったもの…」

「………」


それから、黙ったセブルスを置いて私は部屋に戻ることにした
だが、途中廊下を歩いていると、彼が現れた













「上手くいきすぎて逆に不安か?」

なんでこいつはこうも人の心を暴いてくるんだ…
私の前に立って聞いてくる

「深く考え過ぎるなナギニ。僕は君の側にいたいだけだと言っただろう?」

信用なんてできない
その魅力的な唇から紡ぎ出される言葉で、声で、表情で…いったいどれだけの魔法使い魔女達を騙してきたのか…
例え目の前にいるあなたがまだ何も罪を犯していない16歳の頃の彼だとしても…
私はよく知っている
彼の恐ろしさを…

「顔を上げるんだ。今の君にはどうやら’’必要’’なものがあるらしいね」

引っ掛かる言い方のした彼に言われて顔を上げると壁に模様が浮かび上がり、大きな扉となって現れた

『必要の部屋』

なんで…
私は何も必要としていない…

「入らないのか?」

悪魔の囁きだ…
何かを企んでる…
ダメだとわかっているのに…
乗せられてはいけないのに…
動く足が…体が…止まってくれない

手を差し出す彼に誘われるまま…

私は夢の中にいるような心地で…

彼の手に指先を添えて部屋に足を踏み入れた






当てもなく進んでいるのか…
目的を持って進んでいるのか…彼に導かれてガラクタから危険なものまで積み上がる部屋の中をことさらゆっくりと進み、不意に彼が止まり手が離れた

手を下ろして立ち尽くす私に彼は振り向いた

「僕はお前への贈りものを考えるとき、悩んだものだ。お前ときたら本当に面倒臭いやつだったんだからね」

贈りもの…
あぁ…
彼が施しとばかりに私にプレゼントしてくれた…
ちょっと待って…
私は何故彼の言いなりになって…ここに…
魅了の魔法…?
いやそんなはず…

「魅了の魔法なんて使わなくともお前は僕に’’弱い’’だろう?」


違うっ
そんなことないっ

たまらず顔を逸らした先に目に映したものに私は…自然と腕が伸びた

ガラクタが積み上がる側のひび割れて汚いガラス棚に’’それ’’があった

これは…
これは…

私が…三年の頃のクリスマスに…彼に贈られた…

真鍮の蔓を模した装飾が施された…どこにでもある…


‘’写真立て’’

少し重みのあるそれを手に取り装飾に触れる

ここに写真を入れたことなんてない…
何も入れずにただ飾っていた…

彼は…何を入れて欲しかったのだろう…

「お前は最後までそれに写真を入れなかったな。全く…あげた意味がないじゃないか…早く’’取るといい’’…」

意味のわからないことを言う彼に戸惑った
何を取るの?
もう手に取っているのに…

何が言いたいのか分からず、彼を一度見てから再び写真立てに視線を移すと写真を入れるはずのところにぼんやりと何か浮かんできた

黒い背景から浮かび上がってくる…それ…

‘’小さな鍵’’

金の…
小さな鍵

どこにでもある…

浮かび上がってきた鍵を取り…私は彼に振り返った

何も言わずいる彼に私は不気味さと得体の知れない恐怖が込み上げた

小さな鍵から伝わる冷たい感触…
なのに…なのに…

何かを待っているような…
寛ぎながら、愉快そうに細められている彼の紅い目…
冷や汗が流れる


私は足が動き彼の横を通り過ぎて奥へ進んだ
何を探しているのかもわからない
どこに進んでいるのかもわかってない

だけど足が止まってくれずコツコツとローファーが音を立てて進んでいく

そして部屋の端の方まで来て、私はある物の前で足を止めた

小さな机のある前ではなく、ゆっくりと後ろを振り向き…所々破れた埃の被った羊皮紙に恐る恐る触れて横にずらした

そこには懐中時計があった…

所々錆びた時間も止まっているだろう懐中時計…
それを手に取り…チェーンが滑り落ちる

私は手に持っていた小さな鍵を……懐中時計の側面の穴に差し込んだ

何故嵌ると思ったのか…
何故この鍵だと思ったのか…
わからない…

不気味なほどゆっくりカチッと音がした気がして、蓋が僅かに開いた

盤面と二重になったその蓋を恐る恐る開くと…

紅い石のネックレスらしきものが入っていた…

それを手に取り、懐中時計を置く

華奢なチェーンに小さな紅い石…
こんなに見事な紅い石なんて普通はない…
魔法石にもない…

私は得体が知れなくて怖くなりそれを戻そうとした

「見なかったことにするとは、いやはや…お前は酷いね。僕の苦労を水の泡にするつもりか?」

背後にいた彼に後ろから仕舞おうとした手を取られてやんわりと止めるように被せられた

ひゅと自分の喉が鳴るのが分かり肩が震えた
怖い…
これは…なに…
彼のことだ…絶対に普通のネックレスではないはず…

目の前でゆっくりと指が動きネックレスを広げる彼の手

留め金を外して私の首にひんやりとしたチェーンの感触が広がる

振り払わないといけないのに優しくゆっくりした手つきに腕が動かないっ…

髪を巻き込んで留めた彼は、ゆっくり私の首元に手を入れてチェーンから髪の束を抜いた

温度のない彼の手に震える体が止まらないっ

「うん。よく似合っているよ。僕の見立てだから当然だろうけど…」

外したい…
取りたい…

「ずっと、これがお前の首に飾られるのを見たかったよ。僕が自ら錬成した石だ。気に入っただろ?」

これは質問じゃない.…
確認だ…
彼はいつもそうだ…
私の意思なんて関係ない…
彼がこうと言えばこうなのだ…

「……ひとつ聞きたい…」

「僕が言ったことをまた忘れているのか?」

「っ……トムっ……」

「あぁ、何だナギニ?」

「あんたとっ…ヴォルデモート卿は……’’別’’’…なの?…」

ずっとわからなかった
私の前にいる’’彼’’はヴォルデモート卿を葬らんとする私の行動を邪魔することをしない

それにハリーに手を出そうともしない…
できないのか…

もし…目の前にいる’’彼’’とヴォルデモート卿が同じ意識を共有してるなら……

全てが…

そこまで考えて私は恐怖と罪悪感でどうにかなりそうだった
毎日が恐ろしく、不安に苛まれる…

背後にいる彼の表情は見えない
俯いて返答を待つ私に彼はあっさりと言った

「あぁ。僕と彼は違う」

一瞬唖然とした
あまりにも簡単に認める彼に…
疑いしかない…
本当なのか?
嘘に見せかけた事実なのか?
それとも事実に見せかけた嘘なのか…
判断ができない

彼から聞き出すことも、裏をかくことも、真意を確かめることも…どう頑張っても私には到底できない…

格が違いすぎる…

「…と、言ってもお前の不安は収まらないんだろうね。今はそれでいいさ。僕を信じなくとも…恐れても…」

彼は…目的の為ならなんだってする
魅力的な言葉を吐き、人を惑わせ、心の隙に付け込み、甘い笑みを張り付けて近づいてくる

わかってるんだ
誰よりもわかってる…
彼がそうしてきたのをずっと見てきた…

「でもそうだな…欲を言うなら、もう少しくらい僕を信じてほしいかな…お前は僕を恐れているが’’嫌い’’なわけじゃない…」

っ…
そんなわけないっ
大嫌いだっ…
人のことを’’物’’としてしか見てないあんたなんてっ
あんたはそんな気弱なセリフを吐くやつじゃないっ
そんなこと言うやつは「嫌いじゃない」って断定したりしないっ…
表面に貼り付けたその言葉に私は騙されないっ…

背中にピタリと触れる彼の服…
胸元にひやりと感じる石…
時間が止まったかのような物音ひとつしない部屋の中…

「…あんたは…殺した…のよ」

わかってるっ
今の彼は罪を犯す前の彼…
ただの生意気な悪ガキだった頃の…

「お前はいつも曖昧な言い方をするな。その言い方だと’’殺されても仕方ない人間は死んでもよかった’’ように聞こえるぞ」

……
何も言えない…
あぁそうだよ
世の中には殺されて当然の人間だっている
だけどみんながみんな産まれた時からそうだったわけじゃない
環境、性格…色んな要因が複雑に絡んでそうなったのだ…
だから法がある…
私刑は理性のある人間がすることではなく、報復は動物に近い本能的なものだ…

ただそれが時には正しい時もある
言ってしまえばハリーがヴォルデモートを殺そうとするのも私刑の内だ
相手が最悪の魔法使いで虐殺者だから歓迎され、肯定されているだけで…

だから私は大多数が苦手なんだ…

彼だって…

そこまで考えて私は我に返った
不意に、彼を庇うような考えに行き着いてしまった…


「ナギニ。お前には僕しかいない。お前のことを全て受け入れ、理解してやれるのは僕しかいない…よくわかっているはずだ…」

「やめてっ…違うっ…私はっ…私…は……っ」

咄嗟に否定の言葉が出て、私は彼を押しのけて部屋の出口に向かって走った

聞きたくないっ
あんな言葉っ…
ただ私を利用するために言ってる言葉だっ…











心苦しげな様子で走り出した彼女の背中を見ながら、彼は僅かに困ったような…愉快なものを見るような表情で


「いずれ分かるさ」


と、僅かに苛立ちを滲ませるその呟きは部屋の中に響くことはなく消えた



















「なぁジョージ。あれって貧血ポンティじゃないか?」

「お、ほんとだ。なんかいつもと様子が違うな?」

ハリーに忍びの地図を渡したフレッドとジョージは、いつもの淡々とした様子ではなく、顔色を青くして中庭を抜けて外に出るポンティを見て呟いた

因みに貧血で倒れる回数が多かったので、フレッドとジョージは勝手にあだ名をつけた

「なぁジョージ。いつも澄ましてる優等生の驚いた顔に興味ないか?」

ニヤッと何か企んだフレッドがジョージに言う

「奇遇だな。俺も同じこと考えてた」

ジョージが腕を組み同意した
顔を見合わせて、次の瞬間ポンティを追い始めた双子



















『必要の部屋』から走って出てきて、何も考えずに歩いていたら暴れ柳のある場所まできていて、私は膝を抱えてぼーっとしていた

雪が降り積り寒そうにしている暴れ柳

雪の中に座り込んで首に感じる首輪のような…重いネックレス…

私は…
私は…どうすればよかったんだろう…

ーーー「ナギニ」ーーーー

やめてっ
そんな声で呼ばないでっ
私はあなたの’’物’’じゃないっ
所有物じゃないっ



頭の中にリフレインする彼の言葉を振り払うように首を振れば、いきなり小さな爆発音がして、途端に私の周りに刺激臭のする煙が立ち込めた

これはっ

『おとり爆弾』だっ


こんなものを使うやつらなんて決まってる

すぐに杖を取り出して手足のついた『おとり爆弾』を粉々して、凄い匂いの煙を払う

「Mrウィーズリーの双子さん。私に何か用ですか」

どこにいるかわからないがどうせ見ているんだろう
声を掛けると

「ちぇ〜全然驚かねぇじゃん!」

「だからクソ爆弾にすればよかったって言っただろ?」

人にクソ爆弾を試そうとしたのかこいつら
普通に最低だ
あんな臭いものを

肩を組んで草むらから出てきたそっくりな双子に冷めた目になる

「そういや聞いたぜ?お前ドラコを庇ったんだって?なんでそんなことしたんだ?」

フレッドが無遠慮に隣に座って聞いてくる
当たり前のようにジョージも隣に座ってくる
この2人にパーソナルスペースという概念はないのだろうか

「かなり酷い怪我だったんだって?あいつにそこまでする価値あるのか?」

ジョージも無遠慮に聞いてくる

「友人を庇うのは当たり前ですよ」

「流石優等生〜模範解答みたいだな〜」

揶揄うようにフレッドが言ってくるので心底ため息を吐きそうになった

「それで私に何の用なんですか?グリフィンドールの生徒がスリザリンの私と一緒にいるところを誰かに見られたら変な噂を立てられますよ。私は別に気にしませんがそうなると貴方達の立場が悪くなるのでは?」

正直この双子に関わると絶対騒がしい上にただでさえ少ない穏やかで平和な時間がさらに減る

絶対だ

シリウスみたいに卑劣ないじめをするタイプではないし、根はとても優しいと思うけど…私には合わない

やめとこう、戻ろうと思い立ち上がる

「悪戯も程々に先輩方。あまりスネイプ先生を困らせないように。では失礼します」

言って早く立ち去ろうとしたのにいきなり両肩にずしりと重みが来た

「っ!?」

「そぉ〜いうわけにはいかねぇぞMsポンティ?なんか知らねぇけど落ち込んでるレディを慰めんのが男だろ?な、ジョージ?」

別に落ち込んでないし慰めてもらういわれもない

「そうそう〜もっとお堅ぇやつなのかと思ったけど案外話のわかるやつじゃん」

最悪だ…
悪戯の標的にロックオンされてしまった…




それから事あるごとに1人でいる私を見かけては双子が悪戯を仕掛けたり絡んできたのは言うまでもないだろう

セブルスが何度かそれを見かけて顔を顰めていたのは仕方ない
レギュラスは苦笑いしていた
笑うくらいなら助けろ兄よ















一方、ハリーはフレッドとジョージに譲られた『忍びの地図』を使い、透明マントを被ってホグズミードに行ってハーマイオニーとロンと合流していた

ホグズミードは、クリスマスカードから抜け出してきたかのような所で、茅葺屋根の小さな家や店がキラキラ光る雪にすっぽり覆われ、戸口という戸口には柊のリーフが飾られ、木々には魔法でキャンドルがくるくると巻き付けられている

そして、3人は吹雪く雪の中『三本の箒』に行き、『バタービール』を飲みに行った

『三本の箒』の店内は、人でごった返し、うるさくて、暖かくて、煙でいっぱいであった

カウンターの向こうには小粋な顔をした曲線美の女性がいて、バーにたむろしている荒くれ者の魔法戦士達に飲み物を出している

「マダム・ロスメルタだよ」

ロンがハリーに説明するように教えた
それからロンは「僕が飲み物を買ってこようか?」と言い、買いに行った
その間、ハリーとハーマイオニーは奥の空いている小さなテーブルに進んだ

テーブルの背後は窓で、前にはスッキリ飾られたクリスマス・ツリーが暖炉脇に立っていた

そしてロンが戻ってきて、3人はバタービールをぐいと飲み、凍えた体をあっためた

そしてひと口飲んだところで、急に冷たい風がハリー達の髪を逆立てて『三本の箒』のドアが開いた
思わずハリーはむせ込んだ

そこにいたのは、マクゴナガルとフリットウィックだ
すぐ後ろにはハグリッドがおり、魔法大臣コーネリウス・ファッジと話している

咄嗟にロンとハーマイオニーはハリーの頭の上に手を置いてぐいっ!とテーブルの下に押し込んだ

椅子から滑り落ちハリーは、溢れたバタービールを垂らしながら机の下で蹲った

足元を見ていたハリーに、ハーマイオニーが小声で「モビリアーブス(木よ、動け)」と、唱え、側にあったクリスマス・ツリーを自分達のテーブルの前の真ん中に置いて三人を隠した


そして、すぐ側のテーブルの四組の椅子の脚が後ろに引かれるのを見た


それからマダム・ロスメルタがドリンクを持ってきた声が聞こえた後で

「それで、大臣、どうしてこんな片田舎にお出ましになられましたの?」

誰かが立ち聞きしていないか周りを確かめたファッジは低い声で答えた

「他でもない。シリウス・ブラックの件でね。ハロウィーンの日に、学校で何が起こったかは、うすうす聞いているんだろうね?」

「噂はたしかに耳にしていますわ」

「ハグリッド、あなたはパブ中に触れ回ったのですか?」

「大臣、ブラックがまだこの辺りにいるとお考えですの?」

「間違いない」

「ディメンターが私のパブの中を二度も探し回っていたことをご存知かしら?……お客様が怖がってみんな出て行ってしまいましたわ………大臣、商売あがったりですのよ」

「ロスメルタのママさん。私だって君と同じで、連中が好きなわけじゃない……用心に越したことはないんでね…残念だが仕方がない…つい先ほど連中に会った…ダンブルドアに対して猛烈に怒っていてね。…ダンブルドアが城の校内に連中を入れないんだ」

「そうすべきですわ」

「あんな恐ろしいものに周りをうろうろされては、私たちは教育ができませんでしょう?」

「全くもってその通り!」

「にも関わらずだ。連中よりももっとタチの悪いものから我々を守るために連中がここにいるんだ……知っての通りブラックの力をもってすれば…」

「でもねぇ、わたしにはまだ信じられないですわ。……どんな人が闇の側に加担しようと、シリウス・ブラックだけはそうならないと、私は思っていました。……あの人がまだホグワーツの学生だった時のことをよく憶えてますわ。もしあの頃に誰かがブラックがこんな風になるなんて言ってたら、私はきっと『貴方、蜂蜜酒の飲み過ぎよ』って言ったと思いますわ」

「君は話の半分しか知らないんだよロスメルタ。ブラックの最悪の仕業はあまり知られていない」

「最悪の?」

「あんなにたくさんの可哀想な人たちを殺した、それより悪いことだとおっしゃってるんですか?」

「まさにその通り」

「信じられませんわ。あれより悪いことって何でしょう?」

「ブラックのホグワーツ時代を覚えていると言いましたね、ロスメルタ」

「あの人の一番の親友が誰だったか覚えていますか?」

「えぇえぇ。いつでも一緒。影と形のようだったでしょ?ここにはしょっちゅう来てましたわ。あぁあの二人にはよく笑わされました。まるで漫才だったわ、シリウスとジェームズ・ポッター!」

その言葉にハリーは持っていた大ジョッキが大きな音を立てて落とした
ロンがハリーを蹴った

「その通りです。ブラックとポッターはいたずらっ子の首謀者。もちろん2人とも非常に賢い子でした。まったくずば抜けて賢かった。しかしー…あんなに手を焼かされた二人組なかったですねー…」

「そりゃわかんねぇですぞ。フレッドとジョージ・ウィーズリーにかかっちゃ互角の勝負かもしれねぇ」

「みんなブラックとポッターが兄弟じゃないかと思っただろうね」

「一心同体!」

「まったくそうだった!ポッターは他の誰よりブラックを信用した。卒業しても変わらなかった。ブラックはジェームズとリリーが結婚した時、新郎の付き添い役を務めた。2人はブラックをハリーの名付け親にした。ハリーは勿論全く知らないがね。こんなことを知ったら、ハリーがどんなに辛い思いをするか」

「ブラックの正体が『例のあの人』の一味だったからですの?」

「もっと悪いね…ポッター夫妻は自分達が『例のあの人』につけ狙われていると知っていた。ダンブルドアは『例のあの人』と緩みなく戦っていたから、数多の役に立つスパイを放っていた。その内の一人から情報を聞き出したダンブルドアは、ジェームズとリリーにすぐ危機を知らせ、二人に身を隠すように勧めた。だがもちろん『例のあの人』から身を隠すことは容易なことではない。ダンブルドアは『忠誠の術』が一番助かる可能性があると二人にそう言ったのだ」

「どんな術ですの?」

「恐ろしく複雑な術ですよ。一人の生きた人の中に秘密を魔法で封じ込める。選ばれた者は『秘密の守人』として情報を自分の中に隠す。かくして情報を見つけることは不可能になる。『秘密の守人』が暴露しない限りはね。『秘密の守人』が口を割らない限り、『例のあの人』がリリーとジェームズが隠れている村を何年探そうが、二人を見つけることはできない。例え二人の家の居間の窓の鼻先を押し付けるほど近づいても、見つけることはできない」

「それじゃブラックがポッター夫妻の『秘密の守人』に?」

「当然です。ジェームズ・ポッターは、ブラックだったら二人の居場所を教えるくらいなら死を選ぶだろう、それにブラックも身を隠すつもりだろうとダンブルドアにお伝えしたのです……それでもダンブルドアはまだ心配していらっしゃった。自分がポッター夫妻の『秘密の守人』になろうと申し出られたことを覚えていますよ」

「ダンブルドアはブラックを疑っていらした?」

「ダンブルドアは、誰かポッター夫妻に近い者が、二人の動きを『例のあの人』に通報しているという確信がおありでした。少し前から味方の誰かが裏切って『例のあの人』に情報を流していると疑ってらっしゃいました」

「それでもジェームズ・ポッターはブラックを使うと主張したんですの?」

「そうだ。そして『忠誠の術』をかけてから1週間も経たないうちに…「ブラックが二人を裏切った?」」

「まさにそうだ。ブラックは二重スパイの役目に疲れて『例のあの人』への支持を大っぴらに宣言しようとしていた。ポッター夫妻の死に合わせて宣言する計画だったらしい。ところが知っての通り『例のあの人』は幼いハリーのために凋落した。力も失せ、ひどく弱体化し、逃げ去った。残されたブラックにしてみれば、全く嫌な立場に立たされてしまったわけだ」

「ですが、『例のあの人』が凋落する前、ひとつ妙な事件が起きたのです。ブラックの弟、レギュラス・ブラックの双子の妹だった子を憶えていらっしゃいますか?マダム・ロスメルタ」

「妹…あぁ!あの子!兄のブラックと仲が悪かった子ね。確かセブルスとよく一緒にいたと記憶していますわ。ブラックの妹とは思えないほど聡明で大人しく平凡な子でしたわね」

「えぇ。ブラックの妹は兄であるシリウス・ブラックと不仲でした。ですがレギュラス・ブラックとリリーと、セブルスとはとても仲が良く学年関係なく、よく一緒にいました」

「その妹はホグワーツ時代から問題ばかり起こす兄とジェームズ・ポッターをよく思っていなかった…だからこそ我々は最初、彼女が…オフューカス・ブラックも『例のあの人』の一味ではないかと疑った。情報を流していたとね」

「ですがそれは『例のあの人』が力を失う前にデスイーターに殺害されたこと覆されました。噂によると、シリウス・ブラックが裏切る前に兄が『例のあの人』の一味だと知った妹を口封じのために殺したと」

「なんてこと!」

「オフューカスはポッター夫妻が殺される前にシリウス・ブラックによって殺されたことで、当時闇の陣営に与していた双子の兄であるレギュラス・ブラックは闇の陣営から抜けた」

「私もよく憶えておりますぞ。レギュラス・ブラックは当時から目に入れても痛くないほど双子の妹を大切にしてしましたからな」

「えぇ。スリザリンには珍しいタイプの生徒でした…」

「そして、こちら側についたレギュラス・ブラックによって齎された情報で多くのデスイーターを捕まえることができた。レギュラス・ブラックは元死喰い人だが、ヴォルデモートが力を失う前にこちら側についたので無罪となったのだ」

「皮肉ですが…オフューカス・ブラックの犠牲が無ければ、より多くの犠牲が出ていたでしょう…」

「…彼は未だに妹君のことを引き摺っていると聞く…だからこそ妹を殺害した兄のシリウスを手引きするのは考えられん…内通者がいるにしてもレギュラスだけはあり得んと言えるだろう」

「えぇ、実際オフューカスが殺されてからダンブルドアが彼をホグワーツの教員として迎えるまで酷く憔悴して塞ぎ込んでいたそうです…」

「そして妹をも殺して逃げたブラックを見つけたのは魔法省ではなく、チビのピーター・ぺティグリューだった。ポッター夫妻の友人のひとりだが。悲しみで頭がおかしくなったのだろう。多分な。ブラックがポッターの『秘密の守人』と知っていたぺティグリューは自らブラックを追った」

「ぺティグリュー。ホグワーツにいたころはいつも二人と後にくっついていたあの肥った小さい男の子かしら?」

「ブラックとポッターを英雄のように崇めていた子だった」

「能力から言ってあの二人の仲間にはなり得なかった子です。私、あの子には時に厳しくあたりましたわ。私が今どんなにそれを…どんなに悔いているか…」

「さぁ、さぁ、ミネルバ……ぺティグリューは英雄として死んだ。目撃者の証言ではもちろんこのマグル達の記憶は後で消しておいたがね…ぺテグリューはブラックを追い詰めた。泣きながら「リリーとジェームズが。シリウス!よくもそんなことを!」と言っていたそうだ。それから杖を取り出そうとした。まぁ、もちろん、ブラックの方が速かった。ぺティグリューは木っ端微塵に吹き飛ばされてしまう…」

「馬鹿な子…間抜けな子…どうしようもなく決闘が下手な子でしたわ。……魔法省に任せるべきでした……」

掠れた声で後悔を口にするマクゴナガル


それから四人はその後、ブラックとぺティグリューがどうなったのかマダム・ロスメルタに話し、店を出て行った




ハリーはその後、どうやってハニーデュークス店の地下室まで辿り着き、どうやってトンネルを抜け、また城へと戻ったのかハッキリ覚えていない

頭の中で聞いたばかりの会話がガンガン鳴り響き、自分が何をしているのか、ほとんど意識がなかった

経験したことない烈しい憎しみが、毒のように体中を回っていったのだった

















あの汚い黒い犬はどう見てもシリウスだな…
どうするか
無視したいが、セブルスの手前捕まえないといけない
だが、いくら犬でもシリウスを捕まえるのは相当骨が折れる
それになんでじっとこっち見てんの?

双子から逃げて暴れ柳の側で読書していると目の前の草むらがさごそ動いて現れた真っ黒な耳

そして次に犬の顔

お互い数秒くらい見つめあって

迷った結果、私は持っていたクッキーを持って犬(兄)に手招きした

警戒しながら寄ってきた犬(兄)に、クッキーだけ前に置いた

腹が減っているのかバリボリと食べた兄に、汚いし臭いので取り敢えず洗浄魔法をかけた
杖を出して警戒したが、洗浄魔法だとわかると大人しくなった

「あんた汚いから綺麗にしてあげたよ。野良犬君。じゃあね」

今は放置でいい
というか放置しててもどうせぺティグリューを探しに来る

今は下手に怪しまれてはいけない
油断したところで捕まえたらいい




————————————

次回でアズカバンの囚人終わり

アズカバンの囚人 〜1〜
ついに動き出すユラ

トムの言動に翻弄されながら、暗中模索する
111884018112
2021年5月31日 06:48
choco

choco

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