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秘密の部屋〜2〜
これで秘密の部屋は終わり
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あの『決闘クラブ』の日からハリーはずっとあの声についてぐるぐる考えていた
そう、ドラコ・マルフォイが出した蛇がユラを襲おうとしたところで聞こえてきた低く厳格さを感じさせる人間とはまた少し違う声
ーーーー「主に近づくな。去れ」ーーーーー
まるでユラが主と思わせるような声
ハリーがその声を聞いた途端、蛇は威嚇していたのが嘘のように大人しくなったのだ
彼女は蛇に驚いて固まるだけで声が聞こえていたようには見えない
「ハリー、そんなに気になるなら本人に聞いてみればいいんじゃない?」
あの後、ハリーはロンとハーマイオニーに動揺した様子で「あの声はなんだったんだと思う?」など言い始めたので、ハリーがパーセルマウスだと知った2人
「そうだぜハリー。それにその声がハッキリ「主」って言ったんだろ?なんか得体の知れないもの飼ってるかもしれないぜ絶対。僕らに味方するとかおかしいと思ったんだよ。もしかしたらスリザリンの継承者はあの子だったり…」
ロンがどこまでも信用ならないスリザリンの生徒である彼女を疑ってここぞとばかりにハリーに言う
「でも彼女は純血かどうかわからないって言ってたわよ?」
ハーマイオニーが「そんなはずは…」と思ったが、「違う」とは断言できなかった
事実言われてみれば彼女が怪しいのは確かだ
「だとしても筋は通ってるだろ。だって襲われたのはあの猫にうちの生徒だぞ?絶対スリザリンの生徒に決まってる。それにあの子はマルフォイなんかのこといい奴とか言ってるんだぞ?極め付けは倒れた騒ぎだろ?あれ絶対自作自演だぜ。自分から注意を逸らすためのさ」
ロンは彼女のこれまでの行動や言動を思い出して犯人だと決めつける
言われてみれば反論できない主張に2人は黙り込む
「それにスネイプのお気に入りだぜ?魔法史のブラックもだ」
続けられたロンの言葉に2人とも思い出す
確かにスネイプは授業で矢鱈と彼女を当ててスリザリンに点を入れる
魔法史のレギュラス・ブラックもよく当てるし、授業前や後に彼女に手伝いさせる
しばらくの沈黙の後
「まぁ彼女が継承者かどうかはもうすぐでわかると思うわ。ポリジュース薬がまもなく完成するわ」
ハーマイオニーがそう言って2人ともその場は取り敢えず収めた
あの日からまた数週間…
私はまだあの部屋に行けずにいた
そうしている間にまた石になった生徒が出た
ジャステン・フィンチーフレッチリーが首無しニック越しにバジリスクの目を見て石になった
それを運悪くハリーが発見してしまったそうだ
学内ではセオと行動しているが、たまにハリー達3人とすれ違うと訝しげな目を向けられる
私が弱いから…
卑怯だから…
だからこうなった
あの頃と同じだ
そうしてとうとう学期が終わり、外は降り積もった雪と同じくらい深い静寂が城を包んでいる
肌に感じる冷気と踏みしめる雪に残る自分の足跡
あの部屋に行くなら今夜だ
ハーマイオニーが作ったポリジュース薬を使ってハリーとロンはクラッブとゴイルに化けて情報を知ろうとするだろう
好奇心が旺盛なことは仕方ないと思うが首を突っ込まなくていいことに首を突っ込んでいるのは確かだ
私はその辺りをあまり良く思ってはいない
セブルスと同じ意見だ
頭がいいハーマイオニーがいるから成り立っているのであって後先考えずに行動する彼らは一歩間違えればすでに死んでいる
雪の日…
いつも冷たく氷のような彼の手が少し暖かく感じた時だった…
降り積もった雪の中、叫びの屋敷を見ていた私
「そんな薄着でずっとそこにいると風邪を引くぞ。馬鹿でもね」
余計なひと言を言わないと会話できない彼に声をかけられて私は振り返らなかった
「ほっといて…少しくらい1人にしてよ」
憂鬱な学校生活に私の心は疲弊していた
だから彼から離れられる場所で静かに考え事をしていたのに放っておいてはくれないらしい
「お前が1人になれるわけがないだろ。小心者で馬鹿で単純な’’卑怯’’な君が」
「っ…」
後ろから聞こえてくる彼の言葉に私は心が締め付けられた
視界が歪む
「だが僕はそんなお前でも見捨てたりはしないよ」
その瞬間背中に冷たいような温かいようなぬるい熱が広がった
彼に後ろから絡め取るようにふわりと抱きしめられていた
「っ…いっそ見捨ててよ…」
ぼそりと呟いた言葉に彼は子どもを慰めるように頭を撫でてきた
細身だが背の高く、やはり男だからか…力のある彼の腕にすっぽり収まる私の身体は磔になったように動かない
雪の中、白い吐息だけが漂う
「そんなに死にたいのか?思ってもないことを言うんじゃない」
ゆっくりしたいつもの抑揚のない声で言った彼に私は答えれなかった
「君は僕がいないと不安になる。素直に助けを求めればいつでも僕は君の手を取ろう」
優しく…
穏やかに…
なのに分かりきったように決めつけてくる
艶のある声で息を吐くように言う彼に私は恐ろしさが勝った
なのに…どうして
どうして一抹の安心感を感じるのだろう
この物騒な魔法界で…
どこの誰とも知らない人に殺されるなら…
いつ命が終わるかわからないのなら…
私は…
彼の手で終わりたいと思ってしまう…
無意識に伸びた手は回されている腕にいき
彼の腕に手を添えていた
服に入れていた指先が外の冷気に当てられて冷えていく
ピクリと後ろで彼が動いた気がしたけど
私は黙ったまま何も言わなかった
「………お前は頑固だな…」
そう呟いた彼の声を遠くに聞きながら私は私の体温で温かくなっていく彼の体にゆっくりと目を閉じて暫くそのままでいた
クリスマス・ディナー
大広間には豪華絢爛に彩られ、霜が輝くクリスマス・ツリーが何本も立ち並びヒイラギとヤドリギの小枝が、天井を縫うように飾られ、魔法で天井から暖かく乾いた雪が降りしきっていた
スリザリンの寮の長テーブルで私の右隣にはセオ。左隣にはパンジーとミリセント。向かいはドラコ。その両隣にクラッブとゴイル
いつものメンバーで座っている
「ユラ、お前今年のクリスマスは帰るのかい?」
チキンに齧り付くドラコに聞かれた
一応は帰る
「うん。帰るよ多分」
「多分?」
「一応帰る旨の連絡はしたんだけど、まだ返事が返ってきてないからもしかしたら旅行に行ってるかもしれないの。だから返事が来るまではわからないかな」
旅行好きだからね2人は
時間さえあれば日本に行ってる
私だって行きたいし、どうせならずっとあっちに居たい
ここにいるのは…辛い
「前も日本に行ってるって言ってなかったか?旅行好きなのか?」
「うん。時間さえあれば行ってるかな。私が学校に入ったからゆっくり2人の時間を過ごしてるんじゃないかな」
万年ラブラブだしね
「父君と母君は隙あらばイチャイチャしているからな」
センリが若干の呆れが滲む声でやれやれとばかりに言ったので心の中で同意する
それよりもお堅いセンリがイチャイチャなんて言葉を使ったことの方が驚きだよね
「ユラの両親は仲睦まじいんだね」
「そうなのかも?」
「ならユラ。今学期が終われば僕の家に招待してやる」
してやるって
いや…正直あんまり行きたくない…
セオドールの家は兎も角、ルシウスがいるマルフォイ家はちょっと…
できることなら行きたくない…
あの初対面の意味深な挨拶が気にかかる…
「今年は我が家で純血の家の者達を集めたパーティもあるからな」
余計に行きたくなくなった…
パーティはもう前世の時で懲り懲りだ
ドラコがもう決定事項のように「家に着いたら父上に話して正式に招待状を送ろう」と言ってくるので、憂鬱になった
どうにか断る方法はないかと考えてみる
「あのドラコ…私はドラコみたいに良い家柄でもないからドレスコードとかは持っていなくて…きっと恥になるわよ」
「そうなのか?なら僕のところで用意してやる。母上に見立ててもらえばいい。それにお前が恥?間違ってもそんなことないね。安心しろ」
いや何を安心すればいいの?
その自信は一体どこから来るの?
「大丈夫だよユラ。先を越されてしまったけどそのパーティには僕の家も参加するから会場で会えるよ」
セオが隣から固まっている私に声をかけて僅かに微笑んでくる
セオがいるなら…まぁ少し安心かな
「私もいるわよユラ。そんなに不安にならなくても大丈夫よ!貴方は’’頭は’’とても優秀なんだから!」
待て、何故’’頭は’’を強調した
「私の取り柄が頭だけって聞こえるんだけど気のせいかな…」
「そうよ!」
いい笑顔で自信満々に言い切ったパンジーにもう何も言うまい
「今度の試験は頑張れ」
暗に自力で乗り越えろ。と言えばパンジーは「嘘です!嘘よ!ユラは頭も体力も優秀で私達の自慢よ!」とか焦って取ってつけたように言う
すぐ掌を返すので思わずチベスナのような顔になる
それにセオが横でクスクス笑ってドラコがうんうんと頷いてる
2人はまだわかるが、クラッブとゴイルにまで頷かれる筋合いはない
やめろ
お前らは今夜馬鹿食いして眠り薬盛られるんだろどうせ
ドラコは最近ハリーに突っかかるのが減った
こうして私達がいる中、お喋りしている時はグリフィンドールの方を見向きもしない
大人になったねドラコ
失礼だろうけど
それから私は先にお暇した
人目につかないように自分に呪文を掛けて向かう先は『秘密の部屋』
ハリー達がポリジュース薬を飲みに来る前に私は洗面台の蛇のマークを見て、扉を開けた
入る前にセンリが「本当に行くのか主…」と止めるような、行くことを勧めているような…心配の声を掛けてきた
私は…
彼に確かめないとならないことがある…
答えてくれるわけはないだろうけど…
一方、その頃ハリー達はまんまとクラッブとゴイルを眠らせて2人に化けて、スリザリンの談話室に居た
「何してるんだお前達。座れよ」
ドラコが談話室のソファに腰掛けて、クラッブとゴイルに化けた2人に言った
そして2人は座り、マルフォイの言葉を待った
「あれでウィーズリーが純血とはな。連中ときたらどいつもこいつも魔法界の恥晒しだ」
先程絡まれたパーシーを思い出したのか、マルフォイのその言葉にクラッブは拳を握りしめた
「どうしたクラッブ?」
らしくない様子にマルフォイが訝しげに聞いた
ハリーはクラッブを小突いて注意した
「いや、ん、腹が痛くて」
気ごちなく答えたクラッブにハリーが続けた
「それにしても日刊預言者新聞が事件を報道していないとはね。きっとダンブルドアが口止めしてるんだろう」
ドラコがそう言い、ハリーは今かと思いついに切り出した
「誰が意図を引いているか知ってるんだろ?」
「だから知らないって。昨日も言ったろ。何度も言わせるな」
「うちの寮の誰かなんじゃないのか?」
納得できず、ハリーは思わず踏み込んだ質問をした
それにドラコは眉を寄せて馬鹿馬鹿しいという顔で言った
「本気で言ってるのかお前?そんなことする奴がいれば僕は今すぐにでも協力してやるね。大体うちの寮にそんなことできる奴はいないね」
そう言って談話室の机に座って誰かのプレゼンを弄りだしたドラコに、ついに我慢できずクラッブが聞いた
「ポンティは襲われても石にならなかっただろ」
「は?ユラ?何言ってるんだ?ユラが貧血で倒れるのはよくある事だって知ってるだろ?あいつが継承者だと思ってるのか?あり得ないね」
心底不思議な顔をしてドラコが言ったので2人とも顔を見合わせる
「なんで言い切れるんだ?」
ゴイル(ハリー)が疑うように質問すると今度こそドラコの眉が不機嫌そうに寄った
「お前らどうしたんだ?あいつは勉強以外興味ないやつだぞ?そんな奴が継承者?笑えるな。わざわざ『穢れた血』を狙う意味がない。それにあいつなら「そんなことをしてる暇があるなら本を読んだほうが有意義だ」って言うね。僕も同じ意見だね。わざわざ’’どこかの馬鹿寮’’みたいに問題を起こすようなことをする意味も理由もない。そんなことしてるくらいなら試験でスリザリンが全員上位に食い込む方に時間をかけるさ。お前らも足引っ張ってないでちょっとは真面目に勉強しろよ。ユラに今度こそ説教されるぞ。あいつは滅多に怒らないから怒らせるときっと面倒臭いぞ。1ヶ月は好きな物が満足に食べれなくなるかもな」
当たり前のように呆れてものも言えない様子で言うドラコに2人とも驚きしかなかった
最近ドラコはハリーに突っかかってこなくなったし、絡んでこなくなった
それでも睨んできたり嫌味を言ったりする時はあるが、1年の時に比べると大違いだ
2人はこのことを聞いて、スリザリンはこんなに大人しい寮だったか?
それにマルフォイが『秘密の部屋』に興味を示すどころか試験のことを気にかけている
しかも想像はできたが出来が悪すぎるクラッブとゴイルに勉強させようとしている
目の前にいるのは本当に自分達の知っているドラコ・マルフォイなのか動揺した
「それに『秘密の部屋』は50年前にも開かれた。父上によればその時『穢れた血』が1人死んだ。ユラもこのことは知っていたし、アイツは「仮に継承者が居たとしても50年前に居た人はもうこの城にはいないんだから不可能じゃないか」と言っていた。それに前に『秘密の部屋』を開けた奴は追放されたと聞いたらしい」
最後に思わぬ収穫を得た2人はさらに質問しようとしたが、時間切れだった
クラッブの髪が赤毛に変わり鼻もだんだん伸びてきた
ゴイルの額には稲妻の傷跡が現れてきた
焦った2人は大急ぎで立ち上がりスリザリンの談話室を出た
後ろでマルフォイの叫ぶ声が聞こえるが振り向かずに全力疾走した2人
そしてハーマイオニーがいる「嘆きのマートル」がいる女子トイレまで戻った
「ハーマイオニー出ておいでよ!話があるんだ!」
ハリーがハーマイオニーがいる個室に声を掛けた
が
「あっち行って」
静かな沈んだような声が聞こえてきた
すると扉をすり抜けてマートルが出てきた
「うぅ〜見てのお楽しみ。酷っいから。ふっはぁはっはっ!」
とても嬉しそうな顔でマートルが言いながら出てきて笑った
「ハーマイオニー?だ、大丈夫?」
「私が言ったこと覚えてる?ポリジュース薬は動物の変身に使っちゃだめなの。ミリセントのコートについてたのは猫の毛だったの!」
頭まで被っていたローブをロンが引っ張り振り返ったハーマイオニーを見るとそこには
「う、ぁ…」
顔が黒い毛で覆われ、目は黄色に変わっていた
髪の毛の中からは長い三角耳が突き出していた
「あんた、ひどーーく揶揄われるわよ」
うれしそうな様子のマートル
「医務室に連れて行ってあげるよ。マダム・ポンフリーはうるさく追及しない人だし…」
その後、ハーマイオニーをトイレから出るように時間をかけて説得し、マートルはゲラゲラ大笑いして三人を煽り立てて、マートルの言葉に追われるように三人は足を速めた
それからハーマイオニーは数週間医務室に泊まった
気味の悪い暗いパイプの中を通り、誰もいないので単独飛行で下に降りた私
地下牢よりももっともっと深く闇に堕ちていくような感覚
水を含むヌルヌルとした壁
多くの生き物、動物の白骨が積み上がっている
墓場のように静かなトンネルを歩くと水溜まりを踏む靴音が響く
静かなのは好きだがこれは些か不気味すぎる…
場所なんてわからないのに私の足は不自然なくらいゆっくり迷わず進んだ
途中バジリスクの脱皮の跡があり、それをじっと見た後、先に進む
角を何度も曲がり、見えてきたのは二匹の蛇が絡み合った彫刻が施されたどんな堅牢な金庫よりも重そうな扉
蛇の目には怪しく光りを放ち輝く大粒のエメラルドが嵌め込まれてる
「主…」
センリがしゅるしゅると首元から出てきてつぶなら目を向けて心配するように見てくるので私は小さな頭を指で撫でて言った
「センリ…今から何があってもセンリは何も話さないで。出てきてはダメよ。私はセンリまで失いたくない…」
「……承知した。だが危ないことはしないと約束してくれ」
数秒の沈黙の後センリが首を振り言ったので私は頷いた
センリらしい言葉に少しホッとして返事をした
私が約束したことを確認してセンリは服の中に戻って行った
そして前の扉を見る
気のせいでないなら扉の蛇の目が輝いている
「’’開いて’’」
そう言うと、ゆっくり壁がふたつに避け、絡み合っていた蛇が分かれて両側の壁がスルスルと滑るように見えなくなった
足を踏みると、細長く奥へと延びる、薄明かりの部屋の端に立った
蛇が絡み合う彫刻が奥まで続き、まるで王の御前を待っているかのような配列だ
暗い闇に吸い込まれて見えない天井は蛇の柱が支え聳え立ち
怪しいエメラルド色の幽明の中に、黒々とした影を落としている
足をなかなか進められずにいると不意にぶら下がる自分の手に冷たい手の感触を感じた
「!!!」
心臓が飛び出るほどの驚きに横を見ると彼がいた
何故私に触れられるの?
実体がないはずっ
日記もないのに、魔力を奪い取る体もないはずっ
「随分と待たせてくれたな。さぁおいで…積もる話もある」
まるで懐かしい再会を喜ぶような場違いな雰囲気を纏う彼の言葉に固まった私は優しく添えるように握られた大きな手に導かれて動きたくないのに足が勝手歩を進めた
奥にある巨大な年老いた人間を象った石像があり、流れるような石のローブがあり、その下に灰色の巨大な足が二つ
当然ながらジニーはいなかった
いて欲しいと思いながらもいて欲しくないという葛藤もあった
もしいたら話は簡単だった
だけど誰もいない
目の前の中心まで彼に手を引かれて来た私は少し手前で止まった
やっと足を止めれた
足を止めた私にゆっくり振り向いた彼は手を離してくれた
「君はいつも俯いている。顔を合わせようとしない。人と話をする時は目を見ろと何度も教えたはずだ」
穏やかに咎める声に私は自分の腕に手を掴んで首を横に振った
今、彼の顔を見たくない
「…日記は…ないはず…何故私に触れられるの…何故…私が…ーーー…だと」
それに日記は…消えた…
あれはどう見ても闇の魔術がかけられてた…
「どうしてだと思う?」
「っ」
「人の顔もちゃんと見れないやつを相手に僕も答える気はないよ。気分が悪いからね」
尤もらしいことを言う彼に何も言えない
私にはあまり時間がない
早く戻らないと怪しまれる
意を決して顔を上げると…
懐かしい…
本当に懐かしい…
あの頃と変わらない彼の紅い目、さらさらの黒髪、整った美麗な顔があった
紅い目は目が合ったことで嬉しいと言わんばかりに細めれている
これは錯覚だ…
「やっと会えたな…『ナギニ』」
ナギニ・メメント
私のかつての名前だ
産まれた時は違う名前だった
だけど孤児院にいた時、彼が私を所有物とするために名前を変えさせた
彼につけられた…彼の’’物’’だという…
惨めだ…
「惨めったらしい顔をするな。僕はお前の側にいてやるためにここにいる」
そんなはずない
私を利用するつもりなだけだ
「…目的はハリーのはず…それに私を殺したのはあんた自身じゃないっ…」
「言っただろう?今ここにいるのは君のよく知る16歳の頃の僕だ。…未来、過去で僕がどう呼ばれていたかは知っている。卑怯で犠牲を望まない君は、大方僕をハリー・ポッターに葬らせようとしているんだろう?僕が分霊箱を作り復活しようと目論んでいると」
足元からガラガラと崩れ落ちる感覚がした
何故…
何故彼がそんなことまで知っているのか
彼はいつも余計なことは言わない
重要なことは何も言わないはずだ
まるで私が知っているみたいな…
ハリーが最後にヴォルデモートを葬ることを知っているのは私’’だけ’’だ
なら何故…
っ!!
震える足に叱咤して私は後退った
「言っただろう?僕が君のことで知らないことは’’何ひとつない’’」
まさか…
いや可能性としてはあり得る
もしあの頃…私の記憶を…
「僕も正直驚いたよ。君が別の世界の記憶持ちだったとはね…とても興味深かった」
今の言葉で分かった
彼は私の記憶を勝手に覗いた
そしてそれが事実なら…
全てが変わる…
背中を向けて逃げようとした私の手首を掴んで16歳の彼はその腕を上げて私を宙吊りにした
ぐっと近づいた距離に私は涙が出てきそうだった
「…っ…殺すなら殺してよっ…」
利用されてまた罪のない人が殺されてっ…
罪悪感に押し潰されるのはもういやだっ…
そんなことなら今殺された方がマシだっ
「僕が君を殺すものか。言っただろう。僕は君の側にいるためにここにいる」
釣り上げられた腕が痛い
涙が滲むのがわかる
泣きたくないのにっ
「私を殺したくせにっ…なにを今更っ…」
「僕は君を殺した。それは理由があったからだ。…なぁナギニ、疑問に思ったことはないか?何故二度も生まれ変わったのか?何故僕とのことを覚えているのか」
その言葉に私は腕の痛みも忘れて目を見開いて彼を振り向いた
「僕が敗れることは分かっていた。支配欲を持つ僕を君はいつも恐れていた。だから捨てた」
は?
意味がわからなかった
何を言ってるの…
「僕は君の知っているヴォルデモート卿のすることよりもっと’’有意義’’なことを思いついてね」
だめだ
聞きたくない
聞いてはいけない
「僕の生涯と全てをかけて君に魔法をかけた」
やめて
違う
そんなわけないっ
ハリーなんだ
それはハリーだ
「分霊箱は確かに’’存在’’はしている。だが君の知っているものではない」
嘘だ嘘だっ
誰か嘘だと言って
「君は僕なしでは’’生きていけない’’んだ。これまでも。そしてこれからも」
いつの間にか涙も止まり絶句するしかなかった
そうなれば全てが違ってくる
何が事実で何が嘘かわからなくなった
ハリーの両親を殺したのは間違いなく彼だ
彼のはず…
だって現にハリーはパーセルマウスを使え、ヴォルデモートと意識を共有してる
「君が今考えている僕は、僕であり、僕でない」
淡々とした口調でそう言う彼は私がもう逃げないと分かったのか、ゆっくり降ろして手首を離した
掴まれて痛い手首と腕の筋を摩りながら、私は考えを巡らせる
「今ここに、僕がいるのは君の中にある僕がようやく目覚めたらからだ」
は?
「君が手に触れた日記は君の中に隠した’’僕自身’’を目覚めさせるきっかけに過ぎない」
彼自身…
私の中に隠した?…
どういうこと…
まさか私が分霊箱に?
それなら何故生まれ変わって…
おかしい…
何もわからない
「今ここにいる’’僕は’’君の求めるトム・リドルだ」
「ちがうっ…私はっ…あんたを求めてなんてっ…」
「いるだろう?僕との思い出に心を痛め、悲嘆と後悔と哀しみに暮れる程、忘れられずにいるくらいだ」
「!…ちがっ…違うっ」
「素直じゃないのは相変わらずか。ナギニ…僕はずっと君を守っていた。それをお前も受け入れていた。違うか?」
っ
彼が恐ろしかったっ…
彼から発せられる言葉は全て命令であり支配するもの
穏やかで丁寧だ
だが私の前では化けの皮が剥がれて嫌味と皮肉の連続で本性が出ていた
もっとも…それが本性なのかも私にわからないけど…
逆らえなかった…
そんなのっ…いや違う…
私はそれを言い訳に殺されたくなくて従っていたんだ…
「……私は…物じゃない……人間なのよ…人間…なのよ」
口から出た言葉酷く弱々しいものだった
彼の前で隙を見せてはいけないのは分かってる
私を弱らそうとしているのはわかってる
なのに…
なのに止まってくれない
何が目的なのかはわからないけど…私に打てる手はもう…ない…
「ハリーを殺さないで…お願い…もう誰も…」
こんな願い聞いてもらえないことは分かってる
涙が流れてしまうのを感じながら私は訴えた
そしたらふわりと懐かしい香りに包まれた
私に多くの恐怖を植え付けた香りだ…
なのに…
なのに…
「今の僕は君のものだ…君が僕の言う通りにするなら…誰にも手を出さないし殺さないと約束しよう……」
背中に回される冷たい腕
逃げようと思えば逃げれる…
それ程の力加減
なのに…
彼にこうされるといつも足が縫い固まったかのように動けない
「ナギニ、約束しただろう?僕は君が助けを求めるならいつでも手を取ると」
「………トム……信じたわけじゃない…けど…」
私に拒否すると言う選択肢は…いつも用意されていない
彼はそういう人だ…
だから…
「…約束して………私以外殺さないで……代わりにもならないかもしれない……けど………私は…あんたが終わる時…一緒に逝くから…」
彼のベストに手を置いて絞り出した声は…酷く寂しいものだった
そして初めて彼を止めるための言葉だった…
何故かやっと言えたという気分だった
「…あぁ。約束するよ。他ならぬ君の願いだ。…その言葉を忘れるなよ」
そう言った彼は私を壊物を扱うように優しく抱きしめてきた
私はもう…考えることをやめた…
それからどれくらいの間抱きしめられたかわからない…
私は戻らないといけないからそっと彼の胸に手を置いて離れた
「戻るわ…バジリスクは…結局あんたの命令で…」
嘘だと思いたいが、私は一応聞いた
「なかなか君が来ないから…と言いたいところだが残念だったね。外れだ。バジリスクは意思をもって君を探していた」
彼の言葉に固まる私に彼は石像に向きバジリスクを呼んだ
私は怖くて震えてしまい、後退ったが後ろに彼がいてそれ以上下がれなかった
肩に手を置かれて「見ていろ」というように立たされる
巨大な石の顔が動き、だんだん石像の口が広がっていき大きな黒い穴になった
その奥から…ずるずると這い出してきたのは
バジリスクだった
私は咄嗟に目を閉じた
「大丈夫だ。目を開けてごらん。バジリスクは君に手出しはしないし君が目を見て死ぬことはない」
怖いくらい優しげな彼の声が聞こえて頭に手を置かれる
目の前に大きなとぐろを解き、ずるずると床を滑る音が聞こえていたのが止んだ
波立った水の音がする
ゆっくり目を開けると…
蛇の王がいた
巨大な樫の木のような胴体
テラテラと毒々しい鮮緑色の
口からわずかに覗く牙に眩暈がして倒れそうになった
「’’おぉ…やっと見つけた…’’」
彼に後ろから支えられていると、低く毒々しく恐ろしい威厳のある声が響き私は思わず目の前の蛇の王を見た
「…’’…みつ…けた…って…わっ…私は…貴方に会ったことは…’’」
思わず言葉を返すと、蛇の王は大きな黄色い目で私を見下ろした
「っ!」
震えが止まらないっ
怖いっ
「’’バジリスクは君と同じ魂で結ばれている。つまり彼を殺せば君は死ぬ’’…これは保険だった。再会できなかった時のための。僕がいないのに君が生きる必要はないだろ?」
平然と言い、後ろから聞こえてきた彼の言葉に私は頭が真っ白になった…
いま…なんて?
「’’我が半身である小さき魔女よ……ようやっと会い見えたな…’’」
見間違いでなければ蛇の王は私の方に向かって頭を下げて覗き込んでくる
彼は…私に何をしたの…
この蛇の王にも…
「これから君はここに来れないだろう。それにバジリスクは君から離れることを望んでいない…50年も待ったんだ」
そう言って彼は突然私を自分と向かい合うようにさせて杖を向けてきた
「とっ…ム…それ私のっ…うっ!あぁっ…」
いきなり検知不可能拡大呪文を私に向かって放った
銀の閃光が私の身体に当たり、膝をついた
身体痛いっ…
苦しいっ
身を切られるような激しい痛みっ…
なんてことをっ…
これは人に向かってしてはいけない呪文なのにっ…
なんでっ…
すると彼は何事かを蛇の王と話し、「’’よかろう…そうしてくれ’’」と言った蛇の王に向かって杖を振り一気に蛇の王を小さくしてしまった
なにを…
「ナギニ。君の中にバジリスクはいる。呼べばいつでも出てくるだろう。うっかり見つかり君が死んでも困るからね」
当たり前のようにそう言った彼はまた杖を振った
すると小さくなった蛇の王が私の体に’’入って’’いった
ゴーストのように…
すり抜けて…
うそ…
そんな…
「な…なんで…トム…こんなこと…杖をっ…返して…よ…」
震える体と言葉
あり得ない…
うっ…気持ち悪いっ
信じられない顔で彼を見上げると彼は膝をついて私に言った
「いいかいナギニ。僕が学生だった頃に君にあげたものを見つけるんだ。何かはよく覚えてるだろ」
何を言ってるの…
彼は…
「忘れるな。僕はいつも君の側にいる。さぁもう戻るんだ」
絶句する私は愉しげに歪められる紅い目と形のいい唇が不気味なほど弧を描き
細く長い滑らかな冷たい手が私に杖を優しく握らせてくる
「もう1人にはしない」
そう言って私の額に口付けてきた彼
頭が真っ白になって反射的に体が動いて慌てて立ち上がり出口に向かって走った
追いかけてこない彼がどんどん遠くなり、私はその後無我夢中で寮まで戻った
それから数日、学期末になり私はさらに混乱した
ハリー達は『秘密の部屋』でバジリスクを’’倒した’’ことになり、グリフィンドールは三百点増えて、寮対抗優勝杯を三年連続で獲得した
そして今年の状況も合わせて、ダンブルドアは期末試験を取り止めとすることを告げた
正直助かった
私は今そんな気分じゃない
頭がパンクしそうになっているから
「それで入口を見つけたわけですね……その間、何百の校則を粉々に破ったと言っておきましょう。…でもポッター、一体全体どうやって全員生きてその部屋を出られたというのですか?」
ハリー達は、今、校長室でマクゴナガルとダンブルドアが汚れた様子のハリーとロン、ハーマイオニー、そしてジニーがいる
そして、ダンブルドアから連絡を受けて秘密の部屋に連れ去られて’’いた’’ジニーに寄り添うようにウィーズリー夫妻が立っている
大まかなハリーの説明にマクゴナガルが厳格に注意しながら質問する
その質問にハリーは秘密の部屋でジニーが持っていた’’ある物’’をダンブルドアの机に置いた
それを見たダンブルドアは僅かに薄いブルーの目を見開いて背を預けていた背もたれから体を起こしそれを慎重に手に取った
「あたしが見つけたんですっ………」
そこで震えて涙ながらに声を上げたのはジニー・ウィーズリーだった
ダンブルドア以外…というかダンブルドアも’’これ’’に関しては見るのは初めてだった
ただ禁忌の闇の魔法がかけられているのはわかる
恐らく’’真の持ち主’’以外には扱えぬことも
「ジニー!?」
ウィーズリー氏が叫び、続けて
「ジニーっ!?どうしてこんなものっ…」
娘の危険な行動にウィーズリー夫人は叫んだ
「あ、あたしっ…体が勝手にっ…」
ジニーがしゃくり上げながら言ったので
「まぁ落ち着かれよ」
ポロポロ涙を流してしゃくりあげるジニーと咎めるような声を上げるウィーズリー夫人にダンブルドアが優しく声を掛けて制した
そして柔らかい表情で聞いた
「ジニー。これはどこで見つけたのだね?」
「…それが…覚えていないんです…’’気づいたら’’あたしはそれを持っていてっ…あの部屋にっ…」
しゃくりあげて怖がり、泣きながら言うジニー
ウィーズリー夫人は口元に手を当てて絶句し、ウィーズリー氏は唖然としている
他の3人も驚いている
「そうか…よいのじゃよジニー。見たところ、これには強力な闇の魔術がかけられておる……まずは無事で何よりじゃ」
慰めるようにダンブルドアが優しい目を向けてジニーに言い、つかつかと出口まで歩いて行ってドアを開けた
「安静にして、それに熱い湯気の出るようなココアをマグカップ一杯飲むが良い。わしはいつもそれで元気が出る」
ジニーとウィーズリー夫妻を見送ったダンブルドアはマクゴナガルに向かって考え深げに
「これはひとつ盛大に祝宴を催す価値があると思うんじゃが、厨房にそのことを知らせに行ってくれまいか?」
「わかりました。ポッターとウィーズリーとMsグレンジャーの処置は先生にお任せしてよろしいですね?」
キビキビ答えたマクゴナガルの質問にダンブルドアは「もちろんじゃ」と答えた
そして、3人とダンブルドアだけが残る部屋で
ハリーは秘密の部屋であったことを話した
秘密の部屋の奥にはジニーが’’ある物’’を持って倒れていたこと
そして何より、バジリスクと思われる生き物がすでに’’死んでいた’’こと
ジニーとその’’物’’以外は何もなく、誰もいない
ただただ不気味であった
ハリーはこの先、他の誰かが狙われないか心配になり、ダンブルドアに聞いた
「ふむ…バジリスクは間違いなく死んでおるのじゃろう…後ほど先生方と確認するとしよう」
顎髭を撫でながら、ダンブルドアは思案した
そこにハーマイオニーがおずおずと手を挙げて質問した
「あの…そもそもどうやってジニーはその’’櫛’’を見つけたのでしょうか?闇の魔法がかけられているなら普通に探しても見つかるはずがないと…思うのですが…」
「ふむ……残念じゃが、今の段階ではあまりにも情報が少な過ぎるからの。この’’櫛’’を誰が何のために置いたのか…あるいは遺したのか……わしにも検討がつかぬ」
ダンブルドアの言葉に三人は僅かに落胆する
腑に落ちないのだ
今回の秘密の部屋の出来事は
何故ジニーは闇の魔法がかけられた物を持っていたのか
何に操られて部屋にいたのか
そして秘密の部屋の怪物…バジリスクが既に死んでいた理由…
「誰が何のために……」
何かに気づいたようにハーマイオニーが呟く
ハリーもロンも何かを考え始めた
だがそこに穏やかな諭すような言葉が響いた
「Msグレンジャー。好奇心旺盛なのは良いことじゃが、今回のことはもう忘れなさい。君達は少々危険なことに首を突っ込み過ぎる傾向があるからの」
「「「………」」」
逆らえない穏やかな雰囲気に三人は黙りこくった
「よいな?」
確認するように柔らかい声色で聞いたダンブルドアに、三人はバラバラに「はい」と返事をした
それからダンブルドアは三人を戻した
あれから数日、学期末になり私はさらに混乱した
ハリー達は『秘密の部屋』でバジリスクを’’倒した’’ことになり、グリフィンドールは三百点増えて、寮対抗優勝杯を三年連続で獲得したからだ
原作のシナリオ通り…彼は一体なにをしたの…
いや…ダンブルドアが捏造している可能性もある…
そして今年の状況も合わせて、ダンブルドアは期末試験を取り止めとすることを告げた
正直助かった
余裕でできるが、私は今気分じゃない
他のことで頭がパンクしそうになっている
それから残りの夏学期の日々
私は寝不足が続いた
寝れない
センリはずっと私を心配してくれてたけど…
隈が取れないし、酷い顔だろう…
それに私の中にいるらしいバジリスクともよく話をしているのか話をしてくる
案外仲が良いようだ
人体に使うのは禁忌である検知不可能拡大呪文で私の中にバジリスクを入れたことで私の体には今のところ支障があるとかはない…
それが逆に恐ろしい…
いくつか理由を考えてみたがどれもこれも理論上あり得ない推測ばかりだ
彼の言葉を一言一句思い出すが、結果は堂々巡りで何ひとつ結論が出ない
私はセンリと…何故か蛇の王が心配してくるので、もう現実を逃避することにした
そして私はやっと家に帰れた
久々に気を抜いてゆっくりと過ごせる
だがそんな日々も早々に終わりを告げた
暫くするとドラコから招待状が届いた
行かないわけにはいかないだろう
憂鬱な気持ちで私は部屋で参加の旨の返事を書いていた
両親は現在旅行に行っており、家には私とセンリしかいない
おまけでバジリスク
だが、その時
「相変わらず見ているこっちが辛気臭くなる酷い顔だな。心配しなくともあのおチビちゃんは大丈夫だ」
いきなり悠然とした彼の声が聞こえて横を見ると彼はソファに腰掛けて長い脚を組んでいた
何故っ…普通に出てきているの
怖いっ…
何もかも私の知らない展開になってきているっ…
しかも彼は全て知っているっ…
それに相変わらず嫌味な言い方っ…
「僕は今、君以外には見えないし触れることもできないよ。そう怯えなくとも何もしない」
「っ…ジニーに何をしたの」
「僕に教えてほしい時はどうするのかわかってるだろ?」
「…お願い…トム…」
「まぁいいだろう。あのおチビちゃんは君にあげた’’櫛’’を見つけたことであの部屋に’’来た’’。君に疑いの目を向けさせるわけにはいかないからね。少々変更はあるが’’予定通り’’にさせてもらったよ。それにバジリスクは’’死んだ’’ことになっている」
……
まさか…
最初から日記が私の手に渡るようにした…
櫛?…何故そんなものを…私が死んであれはどこにあるかわからないはず…
それにバジリスクが死んだことに?
まさか私の杖を持っている間に幻覚魔法の類を使った?…
だとしても無理がある…
いや…彼には造作もない…か…
「早くあげたものを見つけないと…君以外の人間が持てば大変なことになるんじゃないかな?まぁ罪悪感で押し潰される君の姿は愉快だろうけどね」
平然とそう言い放った彼に私は耐えきれなくなり立ち上がっていた
っ!!
敵わないと分かっているのに、どんなに酷い目に遭うかわかっているのに手を振りかぶろうとした
パシ
彼を打とうとした私の腕はいとも簡単に取られる
ぎりっ
「っ!い゛っ…」
「この僕に手を上げるなんてね。愚かで粗暴な所は直っていないらしい」
悠然と言い放った彼に腕を離してもらえず私は睨む
「人の命をっ…何だと思っているのっ…あんたの玩具じゃないのよっ」
怖いのにっ
彼を怒らせることが馬鹿なことだと分かっていてもっ
言わずにはいられないっ
言ったはいいが怖くて震えながら睨む私に一瞬眉を顰めた彼は紅い目を歪ませて唇は弧を描いていた
「ひっ…」
機嫌が良くなったのが嫌でもわかる
絶対ろくなことじゃないっ…
何か企んでるっ
「そうだな。よく考えれば玩具はお前だ」
っ!
紅い目が愉快に細められて私は竦みあがった
私は彼の気分に合わせて変わるようにされてしまった…
ご機嫌伺いが板についてしまった…
勝手に体が動く…
「っ…アンタの玩具なんてっ…ごめんよっ」
「へぇ…しばらく会わない間に随分生意気になったね。もう一度教育し直してあげた方がいいみたいだ」
腕を掴みながら見下ろしてくる彼に私は顔から血の気が失せた
「い…いや…」
震える口からは拒否の言葉しか出ない
「僕はこれでも浮かれているんだよ。だから手加減してあげよう。僕が自ら鍛えたとは言え、君はまだまだ未熟だからね。’’僕を殺せるほど’’力をつけろ」
心底愉しげにそう言った彼に私はあの頃以来の容赦のない仕打ちを受けた
私に平和に過ごせる場所なんて…もうないと思った
私は今、ドラコからの招待状に従って列車に乗り、降りたところで、マルフォイ家から迎えの馬車がきていた
イギリスの郊外にあるマグルがいないようなところに邸宅があるそうで
矢張りと言うかなんというか…
余程マグルが嫌いなんだろうと思う
迎えにきた馬車にいたのはドビーだった
「初めましてでございます。ユラ・メルリィ・ポンティ様でございますね。ご主人様の言付けによりマルフォイ家よりお迎えに参りました」
恭しく挨拶してくるドビーに私は他所行きのちゃんとした服と日本色の紺色のローブを揺らす
ドビーが私のトランクを運んでくれて馬車に詰め込むのを見ながら私は少し好奇心が湧いてドビーのピクピク動くとんがった耳を触ってみた
「ひぃえっ!?」
驚いて振り返るドビーに笑いそうになったが失礼なので我慢する
「あ、ごめんなさい突然触って。私、(今世で)屋敷しもべの妖精を見るのが初めてだから…重いのに運んでくれてありがとう。お名前はなんていうのかしら?」
前世はクリーチャーがずっとそばにいてくれた…
兄達がデスイーターになっても…
私を心配して慰めようと側から離れなかった
だからかな
屋敷しもべを見ると懐かしくなる
クリーチャーに会いたいな…
つい思い出に浸って現実に戻り、ドビーを見ると大きな目を戸惑いにうるうるさせて見上げてきた
「…わ、わ、私めはドビーと申しますっ…あ、貴方様にはくれぐれも失礼のないように伺っておりますっ…お、恐れながらドビーめに話しかけては…貴方様が…」
怯えながら言うドビーに私は自然と手が伸びて頭を撫でた
素っ頓狂な声をだして驚くドビー
「純血一族のことならよく理解しているわ。貴方がお仕置きされるようなことはしないから安心してドビー」
「…Msポンティ…様…」
不安そうな、喜んでいるような表情で見上げてくるドビー
私は必要以上に余計なことはしない
ただドビーがクリーチャーに重なっただけだ
私はそんなに優しい人間じゃない
「呼び方はなんでもいいけど任せるわ。行きましょうか。案内してくださる?」
そう言った私にドビーはハッとしてご機嫌で馬車の扉を開けてエスコートしてくれた
それから乗り込み、数時間程馬車に揺られる中、私は案の定乗り物酔いして、センリに「またか…」と言われた
窓を開けてへばっていると向こう側に黒くかなり広くて大きい邸が見えてきた
さすがお金持ち
まぁブラック家も同じようなものだったけど…
私はあの狭いアパートの方が気に入ってた
日本人は狭いところが落ち着くのである
私が貧乏性とも言うかもしれん
大きい邸が馬車の窓から見えてきて近くなり、そうして止まった
扉が開けられるのを待ち、ゆっくり降りた
降りるとそこにはドラコとルシウスとナルシッサがいた
ナルシッサはブラック家の分家のベアトリックス・レストレンジの妹だ
「よく来たなユラ!」
「ご機嫌ようドラコ。この度はお招きいただきありがとうございます。栄誉ある聖28一族のマルフォイ家にお招きいただけるとは光栄至極に存じます。ルシウス・マルフォイ様」
ブラック家の時の教養が役に立った
複雑だ
軽く頭を下げて言うと、見下ろしていたルシウスがゆっくり歩み出て手を出してきた
黒い手袋をつけた彼と軽く握手を交わす
「よく来たねMsポンティ。ドラコから話を聞いて是非招きたいと思っていたところだ。私のことは気軽にルシウスと呼ぶといい。こちらは妻のナルシッサだ」
いや寛げるか
しかも名前で呼べるか
怖いわ
ルシウスが横にいるナルシッサを紹介してきて、握手を交わす
「ユラ・メルリィ・ポンティです。お初にお目に掛かります。御子息とはいつも仲良くしていただいています」
「ドラコの母のナルシッサ・マルフォイです。遠いところまでよく来てくれましたね。息子からよく貴方の話は聞いています。今回はゆっくりと滞在してくださいね」
貴族らしい微笑みでそう言ったナルシッサに返事をして私は家の中に案内された
ひと通り説明された後、私はドラコに滞在する部屋を案内された
黒と金で彩られた部屋ははっきり言って落ち着かない
寛げるとは程遠い色合いの部屋に引き攣るのを抑えながら私は荷解きをした
「なぁユラ。パーティが1週間後だから母上が今からお前のドレスコードを見立てると言ってる。ついてこい」
マジか…
「本当にいいのドラコ?私そんなに高いもの…「構わないさ。僕の家は金持ちだからね」…ありがとう。ご厚意に甘えます」
ここでしつこく断るのは逆に失礼だからね
「お前本当に庶民育ちか?まぁいい。お前のそういうところを見込んでパーティに招待したからな」
「買い被り過ぎでは?」
ドラコに案内されながら広い邸の中を移動する
「いいや違うね。僕の見る目は確かだからな」
「あ…そう…じゃあ失礼だけどクラッブとゴイルは?」
「…あれはこの僕でも救いようがない。そろそろ1ヶ月飯抜きでもいいと思っていたところだ」
わぁお
結構手厳しい
「ドラコ…背が伸びたよね。男の子はすぐ伸びるからいいよね」
「お前は相変わらずチビだな。成長してるのか?」
「今の発言は紳士としてどうなの?見た目が立派になっても中身が比例してなきゃいけないと思う。私は満たしているので問題はないよ」
「お前本当そういうところズバッと言うよな。本当に日本人か?」
「ひと言言わせてもらうと私はハーフだよ?純日本じゃないよ?」
「無表情の鉄面皮のお前はどう見ても日本人の特徴そのままだろ。そういうの’’能面’’って言うんだろ」
…何故その言葉を君が知っている
というかこっちで日本人ってどんな印象なわけ?
私の周りがおかしいだけ?
「お、ほらその顔とか’’能面’’みたいだぞ」
「来年の試験は頑張りな?」
「怒るなよ」
「別に怒っていないわ。ドラコなら1人でも十分だと信頼しているだけよ」
「はぁ…僕の家の書庫を案内してやるから機嫌直せよ」
「読んでもいいのかしら?」
「抜け目ないな。あぁ読んでいい。お前が来る前に父上から許可は貰っているからな」
「ドラコ好き」
「現金な奴だな」
呆れたように言われて、それでも嫌そうではないのでまぁ来た価値はあるかもしれない
それからドラコのお母様のナルシッサのところに連れて行かれて、来ていたらしい専属のお針子に採寸された私
日本人の母の特徴を受け継いだ私にナルシッサは意外にも好意的で女性にしか理解できないであろう肌やら、髪やらの話をしてきた
不快にさせないように意識して返し、なんとかその時間は乗り切った
パーティ前にはドレスが届くらしい
正直どっと疲れた
迎えにきたドラコに書庫に案内してもらって私はやっとひと息ついた
書庫室に来て思ったが、流石マルフォイ家
闇の魔術に関する書籍が多かった
まぁブラック家には負けるが…
私は彼が私にかけた魔法の手掛かりのひとつでもあればと調べることした
まぁ彼がそこら辺に載っているものを使うとは思えないが…
一助にはなるかもしれない
自分で作り出した可能性もある
マルフォイ家で過ごす日々は殆どドラコと書庫や部屋で勉強していた
たまに外で箒に乗って練習していたけど
一年の頃と全く雰囲気が変わり、色んなことを素直に質問してくるドラコにいつも通りの態度で教えて、2人で答えのない問題などについて議論を交わした
私は闇の魔術に対してそこまで抵抗感はない
だけど使うつもりはない
もし彼の言っていたことが事実なら私の存在そのものがもう呪われている可能性がある…
センリはセンリで私が話しかけられないのでバジリスクと仲良くしているようだ
人の体の中で一体何をしているのか…
気が抜けるからやめてほしい…
そして何日か経った後、気まず過ぎる夕食にも慣れてきたこの頃
テーブルマナーって結構体が覚えてるものだな
デザートに差し掛かった時、ドラコに唐突に聞かれた
「そういえばユラはペットはいないのか?」
ドラコのペットはワシミミズクだ
どうしよう…下手に答えずに後でバレても困る…
かと言って蛇のペットは稀だ
パーセルマウスだと知られても大変だ
3人が私の答えを待っている
ここは下手に嘘をつかない方がいいな
「いるわ。小さいけれどね」
「どんな動物なんだ?まさかネズミか?」
「ネズミは苦手だからそれはないかな…名前はセンリっていうの……勘違いしないでほしいのだけれど…センリはその…蛇なの」
ついに言ってしまった言葉にあからさまに空気が変わった
「それは、誠かねMsポンティ?」
ルシウスが明らかに動揺したような様子で聞いてきた
「はい。Mrルシウス。畏れ多くも偉大なサラザール・スリザリンのように蛇と意思疎通がとれるわけでありません。ただ幼い頃より側に居て気心が知れていたので蛇にした次第です」
慎重に答えて、私は喉を通らないデザートを口に含んだ
そろそろストレスで胃に穴が空きそうだ…
ひたすら怖い
「なんで黙ってたんだ?」
ドラコが心底不思議そうに聞いてきた
何故わからんのだよ
「今年の学校で何があったか思い出してみてドラコ。私だって余計な嫌疑はかけられたくないもの」
「どうしてだ?スリザリン生として寧ろ誇れることだろ?」
「いやドラコ…成る程。賢い選択だMsポンティ」
「恐縮です」
こわい
冷や冷やするよ…
それから探るように色々聞かれて一部嘘を織り交ぜて当たり障りのない答えを返した
そして、いよいよ純血の者達が集まるパーティの日が来た
ナルシッサが見立ててくれたドレスは控えめなレースが施されたオフショル膝丈の濃い紫と黒のエンパイアドレスだった
12歳の子どもらしく小綺麗なドレスだ
いつも髪紐で適当に括っている髪は綺麗にアップにされて夜会ヘアになった
頭重い
ドレスに合わせた控えめな髪飾りとイヤリングまで贈られて正直物凄くご丁寧に返却したい気分だった
いや綺麗だけど
私は元来宝石にそこまで興味はない
こだわりはあるが
化粧もされて別人になった気がする
私って化粧すると老けるなと思ったよね
そして準備ができるとルシウスはナルシッサを
ドラコは私をエスコートしに迎えに来た
なんだこの変な空気
迎えに来たドラコはお年頃なのか少し照れていた
なんか微妙な気分だ
ドラコの腕に手を添えて会場に向かう
心底回れ右して帰りたくなった
なんせブラックだった頃から知っている顔ばかり
そしてなにより一番憂鬱だったのは挨拶回りだった
あくまで客人なので私はルシウスの紹介で数人ほど挨拶した
あとは壁の花を決め込んでいた
そしてまさかの人物がいた
いやまぁ…
なんとなく想像はできたけども
「これはこれは…我輩の見間違いでなければ学年一優秀な生徒が目の前にいるのだが?」
セブルスである
なんなら遠くにレギュラスもいる
まぁ元デスイーターだしね
当然と言えば当然だ
「ご機嫌よう。スネイプ先生」
気まずいので顔を逸らしながら挨拶すると「なんでここにいるんだ」みたいな目で見られた
「ドラコとルシウス様に招待されてここにいます」
「ほぉう?君が勉強以外にそこまで積極的とは思いませんでしたな?」
はは、相変わらずちくちく刺さる言い方をしなさる…
これは新学期が始まれば追求されるな
「…成り行きですよ。深い意味はありません」
視線についに耐えきれなくなり、小さく溜息を吐いて横に立つセブルスに小声で言った
パーティというのは気が抜けない
どこで誰が聞いているかわからないからだ
壁の花になりながら会場から目は離さず前を見てセブルスに返す
「何を企んでいる」
「企むとは人聞きの悪い。何も考えていませんよ。…それよりも私は次の学期が憂鬱です」
「…あぁ…あの男か」
そうそうシリウスね
来年は彼が脱獄する
リリー達を裏切ったのはピーター・ぺティグリューだと私はもうセブルスとレギュラスに話している
すっごい睨まれたけど
ロンの持っているネズミがぺティグリューだとは言っていないが
なにせ物語が変わる可能性が高い
既に予定外のことが起きてるんだ…
「真実を告げるのか?」
シリウスに妹だと言うかってことだろうね
今のところ言うつもりはないけど…シリウスはハリーしか頭にないからね
レギュラスだけでいい
だけど何故か嫌な予感しかしないのだ
「その予定は今のところありませんよ」
「ふん。賢明な判断だな」
鼻で笑って言ったセブルスに心の中で苦笑いが出てくる
まぁシリウスの性格は私も苦手だったし
粗暴だし
矢鱈絡んでちょっかいかけてくるし
ガキだし
何度迷惑をかけられたか
我ら2人はうんざりしていた
まぁ筆頭はジェームズだけど
そんなこんなでぼーーっと会場を見ていると、レギュラスがついにこっちに気づいてしまった
セブルスは顔を歪めて、私は遠い目になった
コツコツと作り笑いを浮かべてさらりと挨拶を済ませてこちらに向かってくるレギュラスに「何もありませんように」と祈った
「何故、僕の優秀な生徒がここにいるのかな?」
にっこりした顔で見下ろしてくるレギュラス
何故私が責められねばならん
そりゃ実はデスイーターだらけのこのパーティは私にとったらどうなんだろうと思うけど
「こんばんはブラック先生。友人のドラコとルシウス様に招待されてここにいます。以前からお誘いがあったので」
他所行きの事実を言うとレギュラスの眉間に皺が寄った
これはレギュラスにも新学期が始まれば説教されるな
解せぬ
「へぇ。それは初耳だね。学業以外で君にそんな社交性があったとは驚きだよ」
セブルスと同じことを言いよる
「…やぁスネイプ先生。君も来ていたんだね。てっきり研究室に篭っていると思いましたよ」
何故わざわざ喧嘩を売るようなことを言うのか…
レギュラス、あなたそんな性格じゃなかったはずでは…
いつからそんなシリウスみたいなことを…
「これはブラック先生。’’今でも’’このような場にお顔を出されるとはどこかの兄に似て面の皮が厚いと見える。彼はお元気ですかな?…あぁ…失礼。確かアズカバンでしたな。魔法界の王族とまで言われたブラック家も余程堕ちたように見える。かつての栄光が懐かしいですかな?」
セブルスの嫌味な返しに2人の間の雰囲気が凍ったのがわかる
ほんと何故仲良くできないのだろう
この2人ここまで仲悪くなかったはずなんだけど…
セブルスは主にシリウスの方が嫌いだろうに…
誰かこの気まずい場所から連れ出してくれ
「ユラ。こんばんは。探したよ」
なんと
流石紳士の鏡、セオがドレスコードでご登場だ
髪も綺麗にオールバックにしている
「とても綺麗だよ。どこかの天女が舞い降りてきたのかと思ったよ」
歯の浮くようなお世辞もバッチリ健在だった
パーティ仕様に性格も変化するのか…
「それはありがとう。セオも髪を上げてると印象変わるね。かっこいいよ」
甘酸っぱい雰囲気もクソもなく真顔で言う子ども2人は側から見ればどれだけ精神老け込んでいるのか、はたまた何かの勝負をしているのかと思いたくなるだろう
「失礼、スネイプ先生、ブラック先生。彼女をお借りしても?」
ナイスだセオよ
数少ない空気の読める友よ
ん?思えば私の周りって空気の読めない人多いよな?
セオが恭しく2人に言うと訝しげに眉を寄せた2人
セブルスは「さっさっと行け」とばかりに手を振り
レギュラスは「レディをちゃんとエスコートして差し上げなさい」と教師らしく言った
いやほんと…
2人とも仲良いのか悪いのかよくわからないな
それからセオにエスコートされて私はドラコと話してるっぽいパンジー達と合流した
子ども組集合である
「ユラ!あなたほんとにユラなの!?とっても綺麗だわ!お化粧すると老けるわね!」
余計なお世話だこら
というか綺麗って言った後に老けるってなんだ老けるって
相変わらず気がしれた相手には遠慮も何もないなパンジーは
「おい声デカ女。お前失礼にも程があるだろ」
成る程、ドラコは年上のお姉さん好きかもしれん
「誰が声デカ女よ。私はいつもと違ってユラがとっても綺麗だから褒めたのよ」
ちょっと一回録音して自分の発言を聞いてみてほしい
強いて言うなら盛大に上げて落としたからね?
「だいぶ余計なひと言が多いよねパンジーは…心配しなくても大人びてて綺麗だよ」
いや、セオさん。それオブラートに包んで言っただけだから
中身は覆い隠せてないから
透明の膜から見え隠れしてるから
「ドラコのお母様に見立てていただいたから私でも似合うんだよきっと。それとパンジー。目立ってるよ」
パンジーはいかんせん声が高くて煩い
そりゃ目立つ
「え、あ、あー…おほんっ、私としたことが失礼したわ。それよりレギュラス先生も来ていらっしゃるのね。相変わらず麗しいわ」
麗しい???
「えー…と…パンジーってブラック先生のファンか何かだったけ?」
「目の保養というぶんにおいてはそうね。好きよ」
目の保養…
「あ…そう。そうなんだ…」
まぁ儚げな青年の面影があるもんね…
いい歳だけど…
「何よあんた達、その顔は」
恐らく同じような顔をしているであろう私とドラコとセオ
私もセオは顔を微妙に逸らし、ドラコは軽く引いている
仕方あるまい
全く理解できんのだ
「女って…」
ドラコ君や、そのお年でそれを悟るのは早すぎるぞ
「ドラコ。こういうものだって割り切った方がうまくいくよ」
「意味を分かりたくもないが僕はそんなことで納得しないし、割り切らない」
「ユラってたまに疲れたお婆さんみたいなこと言うよね」
実際疲れてるんだよセオ君や
最近ストレスで胃を痛めることしか起きない
「ユラは’’大人’’だものね〜」
「まぁ言われてみれば’’大人’’だな」
「ユラは立派な’’大人’’だよね」
三人揃って’’大人’’という言葉を何かの代名詞のように使うので、自然とチベスナ顔になる
こいつら
それから、ある程度の社交を終えた私達子ども組は先にパーティからお暇して、新学期からの科目や学校の話に花を咲かせた
そして、私のマルフォイ邸滞在の日もあと1日になった日、書庫で調べていた私の元に偶然、いや絶対違う
ルシウス・マルフォイがきた
不気味な静寂が包む、暗い部屋に燈る緑の灯
その灯に照らされる私の手元とルシウスの顔
「ルシウス様」
「随分と熱心に読み込んでいるようだね…Msポンティ」
私の読んでいる闇の魔術に関する書籍にちらと視線を流して言う彼にできるだけいつも通りに返す
「ええ。闇の魔術も学問のひとつには変わりありませんから」
「ほぉう…高尚な心がけだ…君は実に賢いようだ…」
「そうでしょうか…私は賢いという言葉をよく言われますが、実の所賢くあろうとしているだけです」
人生合計4度目…この世界は3度目…もう子どもらしい感情などいつどこに置き去ったか忘れてしまった…
もしかしたら…最初が…彼と過ごしていた時が1番…私らしかったのかもしれない…
子どもらしかったかもしれない…
大人であろうと思ううちは子どもだと分かっていた…
「……成る程。昔君と全く同じことを私に言った者がいた」
!
「…純血の家系に産まれながら何者にも属さない平凡な……実に平凡な者が…君は…よく似ている」
ルシウスのゆったりとした独特な話し方に私は内心汗がダラダラ流れる
「…恐れ多いですね…」
何が言いたいんだ
彼にとってオフューカス・ブラックは気にも留めない生徒だったはず
そこまで関わりもなかった…
はずだ
「君は…何を隠しているのかね?」
確信したように言うルシウスに私は平然を装って聞き返した
「何を、と、仰いますと?」
質問には質問で返すのが1番
「『オフューカス・ブラック』という名に聞き覚えはあるかね?」
………
わからない
彼がわからない
何が言いたいんだ
「確か、純血一族のひとつ、ブラック家の直系の女性だったと記憶しています」
「その通りだ。実に美しく聡明な平凡な女性だった。君のようにとても優秀でね」
ほんとに何が言いたいの…
そりゃブラック家は顔が良い血筋だったから良かったと思うよ…
いい加減はっきりしないルシウスの態度に私は疲れてきた時、いきなり杖を向けられて
「『レジリメンス』」
唱えられた時には私の過去の記憶を覗かれていた
私は驚いたが心底ホッとした
訓練していたからだ
彼によって…
彼の言うことすることはまるで意味がわからなかった…
「能天気で馬鹿だが…君の頭の中は覗かせるな……僕が特別に訓練してやる」言われて…
何度も…何度も……何度も…苦しかった…
私は人よりも数倍記憶を覗かれてはいけない
分かってるそんなこと
だから覗かれた時に何を相手に見せるかあらかじめ決めているのだ
そしてルシウスが見たのは信じそうな部分だけをダジェストしたこれからの未来
私がオフューカスだった頃、ヴォルデモートの滅亡とマルフォイ一家が没落した…
捏造した’’最後まで’’の記憶
『ハリー・ポッター』の物語の行く末だ
それを実際会った出来事のように、私が過去に戻ってきたかのように見せるもの
まぁセブルスに関しては別だけど
そして、私の苦痛の時間が終わり、荒くなる息を整える
これはかなりきついし苦しいものは苦しい
当時の悲しみや苦しさがない混ぜになって襲ってくる…
見たくもない光景…
だからいきなり杖を向けたルシウスを信じられない目で見ると…
「…なん…っ…だ…今のはっ…」
立ち尽くしてたじろいだルシウスが本棚の机に後ろ手をつきながら、髪が少し乱れて困惑と衝撃の目をしている
「…いきなりっ…杖を向けるのは…レディに対して失礼ですよルシウス…私でなければ…流していませんでしたよ…」
「!!オフューカスっ…矢張りかっ…それに今のはなんだ!!」
ようやく確信したように、眉を顰めて叫ぶルシウスに私は顔を伏せる
「…記憶ですよ…見た通り…私は何故か先の世のである世代に子どもとして生まれ変わり、過去に戻ってきたんです…別人となって……」
防ごうと思えば少し乱暴な手になるが防げた
でもしなかった
賭けでもあった
ルシウスは家族を大切に思っている…
ドラコも利用されて欲しくない
既に私の知っている物語ではなくなってきている上に彼は全て知ってるからだ…
こちらに引き込むとしたらルシウスを味方につけてデスイーターを辞めてもらうのが1番だった
「…説明してもらおう全てっ!来い!」
ルシウスならきっと信じると思った
腕を引っ張られてどこかの部屋に押し込まれて、それから私は彼が見た’’全て’’を話した
全て聞いた後のルシウスは憔悴したような絶句した顔をしていた
かなり長い沈黙でどれくらい時間が経ったかわからない…
そうして彼が呟いた言葉は
「…私はっ…どうすればいい…何をすればいい」
だった
絶望したようにソファに沈む彼に私は立ち尽くした
「あなたの息子を…ドラコを…守ってあげて……彼はまだ間に合う」
これは本心だ
彼は純粋な子どもだ
私がそう言うと、疲れた表情でチラリと私を見た彼は再び俯いた
「……何故…黙っていた…君なら…いや…愚問だったな…オフューカスは昔からそういう女性だった…」
いや、どういう?
なんか一人で納得されてるんだけど…
私目立たないようにしてたんだけど…
「…ルシウス…」
「………私は…家族を守る……」
「……そうしてあげて…」
私はどの道彼が終わる時に終わる…
「……お前は……オフューカスはどうするつもりだ……ポッターを守るのか」
「…できることはするつもり……でも…それにはあなたの助けがいる…」
「……私の助けがなくともオフューカスならば…」
「いいえ…私はハリーは何もしなくてもやり遂げると思う…だから…私は私の守りたいものを守る…貴方もドラコも含まれているのよ」
「……何故だ…私が何をしていたのか知っているだろう…」
「私ってそこまで優しい人間じゃないの」
「………そうか……息子を…ドラコを頼む…」
「学校にいる間は任せて。でもこれだけは覚えていて。ドラコは貴方を心から尊敬しているわ…認めてほしいと思っているのよ…だから父親として務めを果たして」
「………あぁ………」
噛み締めるように呟いたルシウスに私は少し憧憬を覚えた
私には…ここまで強い思いを向けれる相手もいない…
向けられることもない…
親子は…強い絆で結ばれている…
少し…少しだけ私は心がちくりと痛んだ…
それから、ルシウスとこれからの話を詰めて、ドラコに危険がないように私に
そしてルシウスはデスイーターを辞めて未来を変えるために動くつもりのようだ
ナルシッサはドラコを溺愛しているし、彼の言うことを聞くから大丈夫だろう
私とルシウスは今後慎重に行動して、お互い連絡を取り合う方法を考え、有事の際の対応について決めていった
そして私は彼の口から明かされる事実にさらに頭を悩ませた
「闇の帝王は…オフューカス…お前を殺したデスイーター…ベラトリックス・レストレンジを殺したのだ」
その言葉に私は固まった
同時に疑問が広がった
ベラトリックス・レストレンジが既に死んでいる?
というか私あの女に殺されたの?
うっわ…最悪
「不況を買う者が殺されるのはいつものことだが、あの時の闇の帝王は…様子が違った」
「そ…う…」
「…それよりお前の兄を釈放するため手を回さなくていいのか」
唐突に聞かれて私は思わずスンとした顔になった
「ルシウス…私は粗暴な人が苦手なんだよ。シリウスはその典型みたいな人だったし…実を言うとジェームズも好きじゃなかった…だからと言って嫌いなわけではなかったけど…兄に関してはどうせ脱獄するなら放置しててもいいと思う…」
もういいだろうと思い、ぶっちゃけるとルシウスがポカンとした顔をした
そんな顔するんだ
「そう…か…」
「まぁ、本音はここまでで、シリウスがアズカバンにいると進まないからお願いしてもいい?ぺテグリューのことに関しては何とかする。多分シリウスは釈放されたらすぐ…というか絶対学校にくると思うから…これから忙しいと思うけど頼める?」
元々ぺティグリューに関してはセブルスと対処するつもりだったし
それにシリウスにはちゃんと保護者してもらわないと困る
「あの男に関しては気は進まんがいいだろう。任せておけ。だが…ダンブルドアにつくのか?」
「…それなんだけどね…どうしてもダンブルドアに言わないと進まないこともある…だけどそれは一部でいいし今回はシリウスとぺティグリューのことだけでいいと思ってるの。私はあの人苦手なの…というか相当な狸だと思ってる…駒に使われるのは嫌だもの」
言っちゃ悪いがダンブルドアはまた違う意味で力と権力を求めた人物だ
大変できた人柄だが、人の心を読むのに長けている
それに彼のことある…
苦手意識を植え付けられたのかもしれないが…
「本当にオフューカスか?…そんなことを言う女性ではなかったと思うのだが…」
「そりゃブラック家の直系の子女が本音をペラペラ言っていたら大問題よ。こっちが本当の私。ついでに言うと私は大人しくて落ち着いて会話できるセブルスやルシウスの方が話していて楽だったわ」
この際言いたいこと言ってしまえと思い、ルシウスに言うと驚いたように目を見開いた
今日はらしくない顔が多いな
まぁ無理もないか
それからドビーに持ってきてもらったお茶を飲みながら、ひと息ついてルシウスと旧交を温めた
まだ事が動き出す前だし、ルシウスはやる事がたくさんあるが今だけはかつてのオフューカスとルシウスに戻った気がした
それにルシウスはオフューカス・ブラック、私がそこまで嫌いではなかったらしい
理由は教えてくれなかった
まぁ別にいいけどね
兄達は嫌いだったようだが
ほんとブラック家の男は何故どこにでも敵を作るのか…
少しは自分の性格を省みればいいのに
そんなこんなで、ルシウスは心を入れ替えて早速だがドラコへの接し方も少し変わった
そして何が良かったかと言うとその日の晩餐はちゃんとご飯が喉を通ったということだろう
翌日、私はマルフォイ一家に見送られて馬車に乗り、家に帰った
ドラコは父親の接し方がかわり、とても嬉しそうだった
矢張り子どもは誰だって褒められると嬉しいものだよね
まぁその分注意もされてたけど
甘やかしすぎだからね
仕方ない
ホッとしたのも束の間
私はすっかり存在を忘れていた
「ルシウスを使うとはまぁいい選択だね。僕に感謝すべきだと思わないか?」
彼だ
実家に戻って両親が帰ってきていた事で出てこないと思っていたのに…私が外に散歩に出掛けて湖のそばで本を読んでいると出てきていた
「…ハイハイ、アリガトウ」
「心が籠っていないな。折角この僕が褒めてあげているんだ。嬉しそうにしろ」
「嬉しいっていうのは本当にそう思った時自然と出てくるのよ」
強制されるもんじゃないんだよ
「やれやれ。君は本当に生意気になったな。あの頃は怯えて僕の跡をついてくる愛らしい面もあったというのに。今からでも躾直そうか?」
何ですぐそういう発想になるんだ
それに怯えさせてた自覚あったのか
普通に最低だ
だいたいついて行きたくてついていたわけじゃない
「ナギニ」
「っ…」
本当に嫌だ…
何で体が勝手に動くのよっ
魔法を使われてるわけでもないのにっ…
横で自分の膝をぽんぽんと促す彼に体が勝手に動く
頭をゆっくり乗せて湖が視界いっぱいに映る
彼の堅い脚と頭に置かれる温度のない手にぞわぞわとする
「良い子だ。君は本当に僕には弱いな……来年は君のお手並み拝見といこう。君のことだから僕の手は借りないだろうがどこまでできるかが見ものだ」
ほっと性格悪い…
こういう時はいつも結局、手を借りざるを得ない状況を作って貸しをつくらせるんだ
そして自分の要望を通す
どこまでも底の見えない恐ろしい人…
「…ほんと…’’最低’’…」
「…僕にそんな口を利けるのはお前だけだ。全く…だがそうだな。今は束の間の平穏を味わうといい…眠るんだ」
軽く触れるような力加減で私の頭を撫でて髪を梳いてくる彼
体温はなく気持ち悪いはずなのに…
瞼が落ちていく…
何故…言霊でも使ってるというのか…
紅い目はきっと愉快に細められてるだろう…
馬鹿で単純だと…
使いやすい玩具だと…
もういい…
私は私のすべきことをする…
我儘だし全員を救えるとも思ってない…
だけどもう誰にも死んで欲しくない…
死んで当然のやつはどうでもいいけど…
そんなことを考えながら私の思考は暗い闇に沈んでいった…
彼は彼女が己の膝で安らかに寝息を立てたことに気づき、前を向いていた顔を仰向けにして頬を指で撫でた
「お前はいつ気付くだろうな…僕が…ーーーーーーーーーーー…だと」
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次回アズカバンの囚人
ルシウス・マルフォイとその一家を味方につけた💡
トム・リドルに翻弄される彼女はもう傍観することはやめ、マルフォイ一家に賭けることにした
そしてようやぬ動き始めた彼女を見守るトム