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秘密の部屋編
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ホグワーツでの1年が終わり、私は家に帰った
両親は日本に旅行に行っていたのでとてもほくほくと機嫌が良かった
送ってもらった日本食やらのクリスマスプレゼントもとても嬉しかったと伝えて感謝した
新学期まで特に何をするでもなく私は1日家で本を読んだり、センリとお喋りしたり(勿論2人の時だけ)、散歩に出掛けて森を散策したり、湖のボートで釣りをしたり穏やかに過ごしていた
オフューカスだった頃はこんな穏やかに過ごせなかった
魔法界は暗い陰が覆い尽くして、身内の誰もが闇に堕ちた
今世の家は開けた草原の中にポツンと日本家屋と西洋が混じったような造りで佇んでおり、家の中も日本人であった頃よく見慣れたもので溢れていた
まぁ少し古いが
父は日本にとても興味があって、母のことを愛しているのは目に見えてわかる
ひとり娘である私をとても愛してくれていて、少しドライな関係に見えるが、私の性格をよくわかっているのか尊重してくれている
信頼があるから、基本自由にさせてくれていて日々ばばあのように穏やかに過ごす私に逆に「友人と遊ばないの?」と心配される
この休み期間、セオやドラコ、パンジーから手紙がすぐ来た
お家にもお誘いされたが、私はオフューカスであったの時に身につけた教養で丁寧に断り約束通り来年の休暇でお邪魔させてもらう旨を伝えた
来年、もし原作通りにいくなら私は今のうちに平和を噛み締めていたい
駆け引きとかはあまり得意ではないんだ
彼と違って
友人と文通をしていることには両親は微笑ましくしてくれて、成績も首席だったと言えばとっても喜んで祝ってくれた
「ユラは私の自慢の娘よ」「優秀さは母さんに似たのかもね。性格の穏やかさは私似かな?」「あらお父さん?それは私がおてんばだって言いたいのかしら?」「ち、違うよ母さん?君はとても生き生きしていて美しいよ!」
あまり褒めるのが得意ではないらしい父に母はぷんと怒ったようにしながら、最後にはクスクスと笑って微笑むのがいつもの流れだ
どうやら父は母にベタ惚れだから頭が上がらないようだ
ただひとつあまり動じない父と母が驚いたのは、まさかのレギュラスから手紙が届いたことだった
母は日本出身なので、ブラック家についてはかつての魔法界の王族のようなものとしか知らないが、父はあのブラック家の、しかも教員から手紙が来たことに驚くなんてものじゃなかった
一瞬何かやらかしたのかと思われたが、授業の時によく当てられて準備とかの手伝いしてたから次の年でも頑張るように激励が来ただけだよ
と言って誤魔化した
なんとなくこれはバレるのも時間の問題かもしれないと思った
因みにセブルスからは手紙は来てない
あの性格だし慎重だからね
そんなこんなで、あっという間に過ぎた休みで、明日ダイアゴン横丁に行って新学期に必要なものを買いに行く
ホグワーツから手紙が届いて、教科書の一覧を見ると案の定ギルデロイ・ロックハート著の本が7冊もあり、ハッキリ言って金の無駄遣いだと思った
偽武勇伝ばかりの詐欺師野郎だ
父は勿論、珍しく母も東洋人だからか、父が1番だからかロックハートのファンではなく、一覧を見た途端親子3人揃ってチベスナのような顔になったよね
まぁ教科書は教科書なので買わないといけないから仕方ない
「主、何か不安なことでもあるのか?」
川で足をつけて本を読んでいるとセンリがしゅるしゅる出てきて首をふりながら話しかけてきた
「ううん…今年のDDA(闇の魔術に対する防衛術)の授業が憂鬱だなって」
というかあれが鬱陶し過ぎてストレス溜まりそう
ストレスと言えばセブルスとレギュラスは絶対ストレス溜まるだろうなぁ
遠い目になるよ
「あぁ、母君と父君が呆れた顔をしていた本を出している者か」
何故この蛇はこうも頭がいいのだろう
そしてこの一年で気が付いたが、センリは割と辛辣である
「お金の無駄遣い以外の何者でもないよ」
「主はあぁいった者が苦手だったな。落ち着いた者が好みのようだな」
何故私の好みまで知っているのか…
いやまぁわかりやすい…のかな?
「ま、まぁ…好みってほどでもないけど穏やかに静かに会話できる人が一緒にいて楽かな。それを考えればセンリが1番好きかな」
「主は嬉しいことを言ってくれる。私も主が好きだぞ。だが少々抱え込み過ぎるところが心配だ。無理はしてはいけないぞ」
君は私の親か兄か何かかな?
本当に蛇?
神の遣いの蛇とかじゃなくて?
「うん。心配してくれてありがと」
お礼を言うるとシューシューと喉を鳴らしてほっぺに擦り寄ってきた
慣れると可愛いものだ
最初は蛇だから苦手だったけど、センリはどちらかというと堅い兄のような感じであまり蛇だと感じさせなかったからすぐに心を許せたんだと思う
ちなみにセンリはセブルスと話をしていた時いたから全部知ってる
家に帰ってからそれについて顔を合わせて?改めて話したら案外すんなり受け入れてくれた
解せんのは逆に今まで以上に心配されたことだな
もう何回も思うけど君本当に蛇?
そんな平和な日々も終わり、私は膝丈の淡い日本色の紺の大人しいブルームスカートと白のボートネックの袖が少しブカっとしたセーターに黒のローブを羽織った服装でダイアゴン横丁に来ていた
髪は肩につくほどで、横に垂らして髪紐で綺麗に纏めた
昔っぽいが慣れだな
新学期に必要な物を粗方買い終わって、最後に心底買いたくないロックハートの本を買うために本屋に行くと
「ユラ!ユラじゃないか!」
プラチナブロンドをオールバックで纏めたドラコが私に気づいて嬉しそうな顔で寄ってきた
「ドラコ。久しぶり。休みの間手紙をくれてありがとう。嬉しかったよ。元気にしてた?」
「あぁ。ユラからの手紙もちゃんと受け取ったぞ。手紙にあった本を読んでみたぞ。なかなか興味深いものだった」
ドラコが参考になったと嬉しそうにするものだから眉を下げてそれを聞く
そこで父と母が私の肩に手を置いて「ユラ、お友達を紹介してくれる?」と言ったので
「この子は。ドラコ・マルフォイ。伝統あるマルフォイ家の御子息。学校では私と仲良くしてくれて、手紙をくれた友人でもあるの」
私が紹介して父が少し驚いたようだったが、ドラコもさすが貴族の教育を受けているのか、姿勢を正して挨拶した
「初めましてポンティ夫妻。僕はドラコ・マルフォイです。ユラとは気の知れた学友で、いつも仲良くしています」
手を出したドラコに父が先に反応して握手した
「初めましてマルフォイ君。私はユラの父のルーディン・ポンティだ。娘と仲良くしてくれてありがとう。大人しい子だがこれからも仲良くしてくれると嬉しいよ」
朗らかな人好きする笑顔で挨拶した父にいつも相手の家格を図ろうとするドラコも少し驚いていた
そう、父はその性格からか雰囲気からか世渡り上手な人たらしだ
偏った思想がなく穏やかな人で聞き上手なのだ
ちょっと虚をつかれた顔をして父と私の顔を見比べるドラコは次は母から紹介を受けた
「初めましてドラコ・マルフォイさん。私はユラの母のサユリ・ポンティです。いつも娘と仲良くしてくださって嬉しいわ。ありがとう。少し不器用な子だけれどこれかも宜しく頼みますね」
母は所謂大和撫子のような透き通る柔らかい声と白い肌、美しい人だ
東洋美人を絵に描いたような美しい所作が際立つ魅せ上手で、私とお揃いで髪を横に結った儚げな印象の母にピュアボーイなドラコは少し赤くなった
ボーイには刺激が強過ぎたか
柔らかく繊細な母の手と握手を交わしたドラコは離れてから暫くぼーっと自分の手を見ていた
父と母は仲睦まじくお昼ご飯の話をしている
私は不意に父に呼ばれて振り向けば
「ユラ。私は母さんと少し用事を済ませてくるよ。教科書を買い終わったら来たところで待ち合わせにしよう。いいかい?」
銀行だろうな
母の肩を抱いて言う父に頷くと私の頭を撫でて父と母はドラコに丁寧に、親御さんに宜しくと伝えて行ってしまった
まるで映画のワンシーンみたいな2人だ
ほんと
良くも悪くも目立つ
未だに母を目で追っているドラコの前で手を振る
「おーいドラコ?」
「え、あ、な、なんだ?」
「教科書買わないの?」
「あ、あぁ、そう。そうだな。買うさ。ユラの両親はなんというか…あれだな」
「気が抜ける?」
「それだ。今まで父上に連れられて色んなパーティで多くの魔法使いに会ったがあんな雰囲気を持った魔法使いに出会ったことはなかったぞ」
「雰囲気って作れるものじゃないから不思議だよね」
「言われてみればそうだな?僕は父上のような立派な魔法使いになるからな」
「応援してるよ。でも時々肩の力を抜いてもいいと思うよ。休むことも効率を挙げる一助になるよ」
2人で本屋に入りながら、馬鹿げたサイン会のせいで人が多い
酔いそうになったからレジに先に行き、本をしゃーなし心底嫌だが買い、人が落ち着くまでドラコと棚階段に座って待った
「おいユラ。お前また酔ったのか?」
「馬鹿げたサイン会のせいだよ…」
「お前でもそんな言葉使うんだな。まぁそれには同感だね」
マダムたちの香水の色んな匂いが混じって気持ち悪くて本のページを捲りながらダウンしてついボソリと言ってしまい、少し驚いたドラコだがすぐニヤリと笑って同意した
暫くしたら、ハリーがロックハートに気付かれて日刊預言者新聞の記者に写真を撮らせて一面大見出し記事だとアピってる声が聞こえてきた
マダム達のうっとりするような声も聞こえる
ここは本屋なのかとざわざわと騒がしくなってきたところでハリー達が入口に近づいてきてドラコが立ち上がって階段を降りた
「いい気分だろうねポッター。有名人のハリー・ポッター。ちょっと書店に行くだけで大見出し記事」
また絡んでる
「ほっといてよ」
ジニーが静かに言って、ドラコは「ポッター、ガールフレンドかい?」と挑発した
だがその背後から黒いローブと蛇の頭のステッキを持ったルシウスが現れてドラコの肩にステッキを置き出てきた
「これドラコ。失礼するでない」
ドラコを避けてハリーに挨拶し傷を見る彼
「名前を恐れるのはその者への恐れを増長させるだけよ」
ハーマイオニーもやめときゃいいのにルシウスに噛み付いた
それからハーマイオニーからロンに移り、ロンの父親のアーサーが戻ってきてあくまで丁寧に剣呑な雰囲気で会話する2人
そこでドラコは私を呼んだ
タイミング悪
「ユラ!お前を父上に紹介したい!降りてこいよ!」
やめてくれ
ルシウスとは同じスリザリンで過ごした同級だったんだ
ドラコの声で全員がこっちを見てきて仕方なく降りる
下まで降りてドラコの隣に行くとルシウスが私をじっと見下ろしてきた
「父上。彼女が今年の学年首席になったユラ・メルリィ・ポンティです」
いやその紹介はやめて
多分ハーマイオニーへの当て付けだと思うけど
「そうか…君がドラコのよく言っている子か…ルシウス・マルフォイです」
そう言ってステッキを持ち替えて手を出してきた彼にゆっくり手を出して挨拶する
「ユラ・メルリィ・ポンティです。初めまして。御子息とはいつも仲良くしていただいております」
余計なことは言わないでおこう
すっごい緊張感漂ってる
握手を交わしてルシウスの目を見たが、何故か彼は少し目を見開いた
なかなか手が離されない…
タイミング逃したか?
「失礼Msポンティ。君の母君は…「ユラの母親は日本人ですよ父上。とても美しい女性でした」…成る程…人違いか…」
最後ボソリと何か聞こえた気がしたが、聞き間違いだと思っておこう
「すまないね。礼儀も教養もある賢そうなお嬢さんだ…これからもドラコと仲良くしてやってほしい……機会があれば是非また会おう…では」
は?
ルシウスの言葉に一瞬唖然としたが、オフューカスの時に染み付いた仮面でなんとか乗り切った
確かに人生3度目だし、一度はブラック家だったから教養や礼儀作法は染み付いたけど…
ルシウスって初対面でこういうこと言う人だったか?
ドラコもなんか驚いてるし
そりゃ誇りあるマルフォイ家の当主が息子の友人とはいえ初対面の子ども相手にあんな丁寧とは思わない
それからドラコを連れて店を出て行ったルシウス
ドラコは「また学校で会おうユラ!」とだけ言って行ってしまった
握手した手を見てルシウスが行動の意味が分からず暫くポカンとした
そしたら後ろにいたハリー達に声をかけられた
「ユラ」
「久しぶりハリー、ロン、Msグレンジャー」
「ハーマイオニーでいいわ。私もユラって呼ぶから」
利発そうな声でハーマイオニーにそう言われて「よろしくハーマイオニー」と返した
「ユラ。マルフォイの父親と顔見知りだったのか?」
ロンに訝しげに聞かれて首を振る
「いいえ。さっき初めてお会いしたの」
「ロン。こちらのお嬢さんは友達か?」
ロンと話していると彼の父親がロンの肩に手を置いて私に目を向けてきた
「え、いや、彼女はなんというか…知り合いだよパパ。スリザリンの生徒だし。いつもマルフォイに絡まれるところを止めてくれるんだ」
「彼女はすごいよおじさん。マルフォイを逆上させることなく追っ払ってくれるんだ」
いや、ハリーも
ドラコもはや虫並の扱いになってるじゃん
「そうなのか?(ルシウスが初対面の子どもに何故あそこまで好意的なのか…彼女の名前からしても純血一族でもないはずだが…それともなにか利益があるのか…)」
ロンが父親のアーサーに言って、訝しげな目をした
「初めましてユラ・メルリィ・ポンティです。ロン達とは同級生でスリザリンの生徒です」
「あぁ、はじめまして。アーサー・ウィーズリーだ。寮は違うようだがこの子達がお世話になったみたいだね。礼を言うよ」
手を出されたので握手する
「いえ。あれはこちらに非がありますし事を荒立てたくありませんので。すみません。もう少しお話していたいのですが両親との時間に遅れますので今日は失礼させていただきます」
「あぁ、引き止めて悪かったね。また会う機会があればゆっくり話そう」
「はい。楽しみにしていますね。じゃあ3人とも、また学校で会おうね」
3人にそう言って私は本屋を出た
「相変わらずよく分かんない子だよな…」
ユラが行った後、ロンがつぶやいた
確かに不思議…というか平凡な女の子だと思う
なのに妙に頭に残る
あの子の口から出る言葉のひとつひとつがスッと頭に入ってくる
ゆっくりとした口調なのに平坦で抑揚がないから信用というか安心感みたいなのを感じる
「あの子は悪い子じゃないと思うけどなんとなく苦手だわ」
ハーマイオニーが少し落ち着いた口調で言った
「でもユラは自分は悪くないのに僕達に頭を下げてくれたんだよ?それもマルフォイなんかのために。確かによく分からない子だけど僕は良い子だと思うよ」
普通は他人に代わって頭なんか下げれない
日本人だからなのかなのかな?
日本人は礼儀正しい人が多いってよく聞くけど…
「なに?それは本当かねハリー?」
「うん」
「なにかあるのパパ?」
「いや、そういうわけじゃないんだが…スリザリンの生徒が頭を下げるなんて信じられないと思ってな…それもマルフォイの為となると…」
「しかもハーマイオニーを抑えて学年主席なんだぜパパ。スネイプにも魔法史のブラック先生にも気に入られてる」
ロンの発言にハーマイオニーが少し眉を顰めた
「スネイプとレギュラスに?…そうか…」
レギュラスって…ブラック先生の名前…だよね?
ウィーズリーおじさんは知り合いなのかな?
それからロンが様子のおかしいおじさんに何かあるのか聞いたけどおじさんは誤魔化して何も話さなかった
それに疑問を感じながらも僕達は新学期に向けての買い物も終わった
「機嫌悪いねセブルス」
「知っていたのか?」
「流石にこれは…」
嘘だ
ハリーがドビーに邪魔されてホグワーツに来れないことは知っていた
ロンがアーサーの車を使ってホグワーツまできてマグルに見られることも知っていた
案の定本当にそうなり、セブルスの機嫌が悪い
そりゃそうだろうね
普通に大変な事件だよ
学校に着いてから授業も始まり、いつも通り私はセブルスとレギュラスの雑用をやりながら、たまにこうしてセブルスと話を兼ねてお茶しにきている
眉間の皺と疲労の色が濃い
「全く。ほとほと父親に似て傲慢で問題ばかり起こすっ」
「そこは同感…」
ハリーには悪いけどジェームズは本当に卑劣で傲慢だったからな
問題ばっかりは起こすし
「はぁ…それで…今年’’秘密の部屋’’が開けられるのは事実なのか?」
「…わからない…先の出来事を知っていても現実になるかどうかは…」
既に小さいけどいくつか出来事は変わってるし
「もし開けられれば大問題だ」
「セブルス。このことを校長には?」
「言ってはおらん。言ったとしても情報の出所が不明ゆえな。それに『部屋』の存在を知っている生徒などおらんのだ」
だよね
秘密の部屋…
私はかつて開けられた時も見て見ぬふりをした
彼が恐ろしかった
いつもと同じ態度同じ表情…様子で過ごして、学校が閉鎖されないようにハグリッドに罪をなすりつけた
私は彼と行動を共にしたかったわけじゃない
なのに彼は私が1人で行動する事をよしとしなかった
監視されている気分だった
ダンブルドアが彼を疑い監視する目が強くなり、それに比例するように彼の苛立ちの吐口は私にきた
皆の前ではいつも通りで油断も隙も見せない
警戒心が強すぎる彼に私は何も言えなかった
強引ではなく命令
人を従わせることを息をするように行う
心の中でいくら謝罪しようと私は赦されないだろう
マートルが殺されたのだって…
私に彼が止めれたわけがない
だけどひと言くらい何か言えばよかったのかもしれない
どうせ殺されるなら
「来い。ーーー。」
あくまでいつも通りの口調で私に言う彼に勝手に動く足は止まってはくれない
誰もいない場所
変な事を少しでもすれば殺されるかもしれない
彼の目の前まで来て前しか見れない私に蛇のような手が絡みついて肩を抱かれる
冷たいその手に震える体をなんとか抑えて黙る
「僕のそばを離れたらどうなるかわかるね?」
いつもの艶やかな抑揚のない声で言われ、びくりと肩が小さく跳ねてゆっくり首をひとつ振る
「良い子だ。…良い子だよ。血筋もわからない君が狙われては大変だからね。僕の側にいれば安全だ」
嘘に塗れた彼の言葉に私は否定も肯定も出てこなかった
彼のそば1番恐ろしいと思うのに離れることもできない私が1番恐ろしかった
優しく抱きしめてくる彼
ゆっくりと…
ゆっくりと…
後頭部を撫でてくる彼の手は慣れたものなのにいつまで経っても慣れない
まるで花を愛でるように撫でられている手は酷く重く冷たく感じられた
「お前だけは僕が守ってあげるよ」
ふと思い出して、現実に戻る
「Msポンティ。今日はもう戻れ」
「え、あ、はい先生。ご馳走様でした」
セブルスに言われて私はカップを持ってキッチンに置き、部屋を出た
少し眠ろう…
「皆さん。闇の魔術に対する防衛術の新しい先生を紹介致しましょう。私です」
うざ
ウインクしながら教授室からカッコつけて出てきたロックハートに私は白けた顔になる
隣にはセオがいるが、セオも冷めた目になってる
というか男子生徒全員冷めた目だ
そりゃそうだろう
教室に自分の絵画を飾りまくる自己顕示欲の塊なんて普通にお関わりになりたくない
「ギルデロイ・ロックハート。勲三等マーリン勲章受賞、闇の魔術に対する防衛術連盟の名誉会員、そして、『週刊魔女』5回連続『チャーミング・スマイル賞』受賞ーー…もっとも私はそんな話をするつもりではありませんよ。バンドルの泣き妖怪バンシーをスマイルで追い払ったわけじゃありませんしね!」
自信満々に言ったロックハートに数人が曖昧に笑った
そこで隣のセオが肘でタッチしてきて言った
「時間の無駄だね」
「お金もね」
そう返すとクスリと笑ったセオ
「全員が私(わたくし)の本を全巻揃えたようだね。大変よろしい。今日は最初にちょっとミニテストをやろうと思います」
やらなくていいよ
無駄に高いくだらない本買わせやがって
サボりたい
心底
「セオ。私貧血になってきたかも…」
私がボソリと言って流石セオ、意味を理解したのか手を挙げた
「おや、どうしたのだねMr…「ノットです。すみませんが彼女の体調が優れないので医務室に連れて行ってきます」なんと!それは大変だ!ここは私が!「いえ、大丈夫です先生。先生は授業を続けてください。教える人がいないと生徒が困りますから」!それはそうですね!私がいなくなれば授業どころではありませんから!」
チョロ
ていうかセオ面白すぎる
思いっきり普通にぶった斬った
笑いそうになった私は荷物を持っていかにも病人らしくセオを支えられながら教室を出た
後ろからロックハートの自慢気な演説が聞こえる
クラスを出て暫くそれらしく歩いて私たちはケロッと普通に戻った
「ユラってサボったりするんだね」
廊下をゆっくり歩きながら横からセオが少し楽しそうに言ってきた
「私でも苦手なものはあるよ。それの典型だし」
あれは無理だ
見ているだけで胸焼けしてくる
「苦手なものばかりの間違いじゃないかな?本買ったのに授業受けないんだから」
買いたくなかったよ
真実なら兎も角
詐欺師に貢ぐ趣味はない
まぁ例え事実でもあんなやつの本は買わないが
「私だって本の好みがある」
「読書好きのユラが興味も持たない程の内容か」
「セオは読まなかったの?」
「読んだよ?3ページだけ」
いやいやそれ読んだって言わないから
「セオも人のこと言えないじゃない」
「僕はくだらない本に一分一秒も無駄にしたくないからね」
おおう
なかなか辛辣だ
「でもいいのか?あんな授業でも受けておかないと主席から外れるかもしれないよ?」
「試験さえクリアすれば問題ないよ」
「流石ユラだね。余裕そうだ」
そりゃ3度目ならね
というかそこまで主席に拘りはないからね
そんな会話をしながら私とセオは初めて授業をサボり、図書室で自習した
私達はよく来るので司書のマダム・ピンスには顔を覚えられて割と歓迎されている
本も丁寧に扱ってるし静かにしてるしね
「Msポンティ、Mrノット今は授業のはずでは?」
私達がいるのに気づいてマダム・ピンスが声をかけてきた
「はい。それなのですが…先生Mrロックハートの著書はお読みになられましたでしょうか?」
咎めるような視線で言ってきたマダム・ピンスに私はあえて質問した
「ええ勿論」
「私はあの方の本はマダム・ピンスが管理するこの素晴らしい図書室にはふさわしくないと思っています。然るに、本は学ぶためのもの。内容をひけらかすような演説のような授業では学びは得られませんのでこうして真の学びの宝庫である図書室に来ました」
少し大袈裟に言ってみたがいけるだろうか
眉を寄せたマダム・ピンスと向かい合い暫く見つめ合う
数秒してから
「図書室ではくれぐれも静かに過ごしてくださいませ」
と溜息をついて言い、私とセオは顔を合わせて「やりぃ」と思った
教員の中でも早速嫌われてるロックハートよ
ありがとう
今だけは礼を言う
だが私とセオも甘くみていた
ロックハートという男を
あのサボり日から2、3日経った日
いつも通り私は魔法史、魔法薬学、薬草学、天文学の授業と時間割通りこなしていた
その時間は魔法史で授業の後にレギュラスの教授室まで授業で使った教材を運ぶ手伝いをしていた
「Msポンティは国際魔法使い機密保持法の内容を暗記しているのかな?」
「暗記というより、読んでいたら覚えました」
「素晴らしいね。今日もお茶を飲んでいくだろう?前に興味深々に見ていた本を貸してあげるよ」
なぜバレた
というかナチュラルに生徒をお茶に誘うとは
流石物腰柔らかなレギュラス兄様
「なんで分かったかって顔してるね。そりゃあれだけ視線で追っていればわかるさ」
クスクス控えめに笑いながら言ってくるレギュラス
セブルス程高くないけどそれなりに身長のある
穏やかで実年齢より若く見える紳士な様は女子生徒達を虜にしてる
ロックハートが来てから謎の対抗心を抱かれて事あるごとに張り合ってくるらしいが私は断然レギュラスである
大人な対応で微笑んでるけど私はわかる
かなり迷惑そうにしている
「では、その、ご厚意に甘えます。貸していただきたいです」
「ふふ。素直で大変よろしい。そういえば羽ペンの使い心地はどうだい?」
「とても使いやすいです。あんな良い物をいただいてよかったのでしょうか?」
前の時に使ってたから手に馴染むけど、何故か時々罪悪感というか…居た堪れなさを感じる
レギュラスは完璧に私を妹だと思って接してる
勿論、教員として線引きはしてるが、それ抜きにしてもまぁまぁの頻度で世話を焼いてくる
そんな1年が過ぎて私は思った
もしかしたら私は気にしてないだけで、レギュラスにとって妹が死んだのはかなりのトラウマになっているのでなかろうか
と
元々私はいるはずのない人物だから特に支障はないだろうと思っていたのだが…
どうやら最近そうでもないのかもと自惚れてみてはいる
横をチラッと見る
ほくほくしてるような穏やかな笑顔で私の歩幅に合わせて歩く様子は兄であった頃と全く同じだ
ちなみにシリウスは置いていく
当たり前だ。あの性格なんだから
セブルスは勿論自分のペース&時々立ち止まって「遅い」って顔で訴えてくる
彼は…中間くらい?いやでも8割は自分のペースだったな
ドラコは意外だろうがレディのペースに合わせる
まぁまだ子どもなので気分で左右されるが
「構わないよ。君が学問に励めるように贈ったんだから。存分に使ってあげてくれ」
「…はい。ちゃんと役立てます」
「良い子だね」
ーーー良い子だーーー
まただ
前はそんなにだったのになぜ今世はこんなにも被ってしまうんだろ
それからレギュラスと廊下を歩いていたら前から見たくもないキラキラ笑顔が
しかもこっちに気づいた
「おや!!おやおやおや!これはこれはブラック先生!それにMsポンティも!」
手を振って大股でこっちにやってくる
思わず
「…そのまま無視してくれればよかったに…」
と言ってしまった
もう辟易しているのだ
横から笑いを堪えるような咳払いが聞こえるから多分聞かれた
まぁいいや
すぐ様作り笑顔を浮かべたレギュラスと冷めた目になる私
多分チグハグな顔だろう
「いやはや!Msポンティは体調はもう大丈夫かね?私としたことが小さな’’優秀’’なレディが体調が優れないことに気づかなかったとは!安心してください!前回行った小テストは今日の放課後補習という形で手をうちましょう!学年主席の生徒を’’落第’’させるわけにはいきませんからね!」
舌打ちしなかった私を誰か褒めて欲しい
口元が引き攣るのが自分でもわかる
レギュラスの作り笑顔が固まってる
「失礼ながらMrロックハート。彼女には私の手伝いをしてもらう予定がありますので今日はお貸しできませんね。それに彼女は体が弱いのであまり大仰な声で話されるとまた倒れてしまいます。どうか声を抑えてもらいたい」
いやちょっと待て
庇ってくれるのは嬉しいし放課後行かなくしていいようにしてくれるのは大変とても助かるが、病弱キャラはやめてくれ
「なんですと!?それはいけない!大変だ!そういうことなら安心したまえMsポンティ!何かあればこの私が直ぐに治して差し上げましょう!」
いやほんとにやめて欲しい
不安しかない!
絶対悪化する!
というか人の話聞こう!?
「では体調にはくれぐれも気をつけて放課後来てくれたまえ!待っているよ!」
ロックハートは人の話をまるで聞かず、学年主席が倒れた際助けた先生としての名声目当てに私の手を握って華麗に去っていった
握られた手が気持ち悪いので自分のローブで拭う
「ブラック先生」
「すまない…あそこまで人の話を聞かないとは…先生方と共有して注意しておくよ…」
凄い疲れた顔して謝ってきたレギュラスに逆に不憫になる
自然に遠い目になってレギュラスの背中をポンと叩く
というかほぼレギュラス無視してたし…
最悪だ…
サボるわけにはいかないし放課後行くしかないか…
だる
「ユラ。この後授業がないなら図書室に行かない?」
「うん。いいよ。私も借りてた本返したいから丁度いい」
「決まりだね」
中庭でセオと本を読みながら約束しているとクィディッチの服を着たグリフィンドールの生徒達が中庭を突っ切ろうとしていた
反対側からはスリザリンの生徒達が
あーこの場面か
忘れてた
ウッドがうちのキャプテンに向かって怒鳴った
「フリント!我々の練習時間だ。そのために特別に早起きしたんだ!今す立ち去ってもらおう!」
それをずるそうな顔でマーカス・フリントが「ウッド、俺たち全部が使えるくらい広いだろ」と返した
私はセオとベンチに座ったまま様子を見ていた
少し隣のベンチにはロンとハーマイオニーがいる
「いや!ここは僕が予約したんだ!」
怒りで唾を飛ばしながらウッドが叫んでる
なんでみんなこんな血気盛んだんだろ…
ほんとよくわかんない
「どっこい。こっちにはスネイプ先生が特別にサインしてくれたメモがあるぞ」
フリントがそう言って、小さい巻物のメモをウッドに渡した
ドラコのことだろうな…
はぁ
「『私、スネイプ教授は本日クィディッチ・ピッチにおいて、新人シーカーを教育する必要があるため、スリザリン・チームが練習することを許可する』新しいシーカー?誰だ」
ウッドが冷静になってフリントに質問すると中から出てきたのはやっぱりドラコだった
得意げな顔だな
やめときゃいいのに、ロンとハーマイオニーが近づいていく
「マルフォイ?」
ハリーが驚いたような顔で呟いてる
「その通り。新しいのはそれだけじゃない」
「ニンバス2001だ!どこで手に入れた?」
「ドラコの父上がくれた」
「どこかの親と違って父上は良い物が買えるからね」
「でもグリフィンドールの選手はお金じゃなくて、才能で選ばれてるわ」
「お前の意見なんか聞いていない。この’’穢れた血め’’」
「よくも言ったなマルフォイっ!なめ『アクシオ(来い)』!?」
自分の杖折れてるのになんでやろうとするかな
「ユラ…」
ロンがドラコに杖を向けて呪いを放とうとしたところで私が杖を振りロンの杖を呼び寄せて掴んだ
セオはそれに少し驚きの顔をしている
全員がこっちを見た
「ユラ!」
ドラコが助かったとばかりにこっちを見てくる
同時にイラついてるかな
ハーマイオニーとロンはなんでという顔を向けてくる
「僕の杖!」
杖を取られて叫ぶロンに私は本を閉じて立ち上がり草を踏みしめてロンの前まで行く
睨んでくるロンに杖を差し出す
「いくら腹が立っても杖を向けたらダメよ。それにこの杖は折れてるんだから下手したら貴方に呪文が逆噴射していたかもしれないのよ」
一応注意するとロンはバツが悪そうな顔で杖を取り俯いた
やっぱり考えてなかったか
それにハーマイオニーもそうだ
何故わざわざ喧嘩を売るようなことを言うのか…
はぁ
「ドラコもよ。もし本当に当たったらどうするの。危ないからやめて頂戴。冷や冷やする」
全然しないし今回はドラコも悪いから思わないけど、人前で注意しすぎると怒るからね
だから心配したという言葉を入れておく
「っ!…ウィーズリー如きの呪文なんか跳ね返してやってたね!」
「ドラコ」
「っ!!ふん!」
諭すように眉を下げてドラコを見ると顔を逸らしたのでもう大丈夫だろう
スリザリンの生徒達とグリフィンドールの生徒達が「なんだこいつ」みたいな目で見てくるけど知らん
「今度から杖を使う時は気をつけてよMrウィーズリー」
「…う…うん」
「頑張ってねドラコ。応援してるから」
「!当たり前だろ!」
なんか驚いて声が裏返った叫び声が聞こえたがスルーだ
私はセオが待ってるベンチまで行き、本を受け取って図書室に向かった
また助けてくれた
マルフォイを助けたように見えるけど実際はロンを助けてくれた
どうして僕達を助けてくれるんだろう
マルフォイの友達だとしてもここまでするかな?
それにマルフォイはユラの言う事はよく聞いている気がする
ロンのことを名前で呼ばなかったのはマルフォイ達の前だからかな?
「まさか呪文学にも精通していたとは驚いたよ」
「あれだけ本を読めばね」
ついでに散々彼に実験台にされたしやらされたし
「今のは4年で習う内容だろ?」
「セオも勉強してるんじゃない」
「そりゃ友人がとてつもなく優秀だから隣に立つには必要だろ?」
「私は得意なことだけやればいいと思う。魔法使いでも人間万能じゃないんだから。ということでロックハートの授業はやらなくてもいい」
「それはただの好き嫌いだよユラ。同感だけどね」
「何故皆気付かないんだろうね」
「見た目に騙されているのさ」
「そんなにいいかな?」
「そんなこと言うのはユラくらいだよ」
本当にセオとは会話が穏やかに進むからいいな
彼は…
「そんな呪文を勉強して一体誰に使うつもりだ?」
ここなら見つからないだろうと思って黒い泉の側で本を開けて勉強してたら突然後ろから声をかけられてあからさまにびくりと震えた
木の影から姿を見せて隣にきた彼からずれて距離をとる
「何故僕が近づくといつもそう離れる?」
「……ムカつくから…」
「生意気なのも考えものだね。さてーーーーーー…」
彼がパーセルマウスを発した途端、シュルルと蛇の声が聞こえて私の脚に巻きついていた
「ひっ!」
「怖がらなくても君のことは僕が命令しなければ襲わないさ」
横から言ってくる彼に恐怖しかない
脚に絡みついてゆっくり這い上がってくる大きい蛇に体が後退る
だれど後ろは木の幹
「やっ……とっ…トムっ…」
「今勉強していた呪文を唱えればいいだけだ。ほら。君ならできるだろう?」
そう言って私のポケットから杖を勝手に出してきて白く滑らかな手で握らせてきた
被せるように握ってきた彼の手の冷たさにゾッとして迫ってくる蛇に泣きそうになった
「っ〜〜………できなっ」
杖を持たされる手が震えて目の前の蛇は怖いが、下手に呪文を唱えても怖い
ついに観念して泣き言を言ってしまった私
そしたら溜息が聞こえてきて、蛇語が聞こえてきた
次の瞬間蛇が私の脚に噛み付いた
「いっ!……いたいっ」
「ーーーーーー…」
噛まれて牙が食い込んだ
そしたらまた蛇語が聞こえてさっきのが嘘のように蛇はあっという間に離れた
ツーと血が出てジンジンと痛む脹脛
脚がプルプルと震えて涙が出る
痛い
どうしようっ…おっきい蛇だったし毒とか持ってたらっ
「とっトムっ…私っ…毒っ…」
「そうだな。毒がまわって死んでしまうかも?」
「そんなっ…すぐ医務室っ…に…」
顎に指を添えてさらりと言った彼に木の幹を支えに立ち上がろうとすれば噛まれたところを抑えられて尻餅をつく
「い゛っ」
「それくらい僕が治せないとでも?あぁそうだ。丁度調合の材料で『蛇の毒に犯された血液』を探していたんだ。採取してもいいよね?」
美麗な顔を歪めてさらりと笑顔で言った彼に私は顔色が青くなるのが分かった
最初からこれが狙いだったんだ
自分に噛ませるんじゃなくて当たり前のように人を使って噛ませる
しかも痛ぶる
私に拒否権などはなからない
当たり前のように人を犠牲にする彼に恐怖でふるふると首を振るとフラスコを取り出して杖を患部に向けて唱えた
そしたら私の血が吸い出されるようにフラスコに収まっていく
自分の血がフラスコに溜まるのをゾッと見ながら鳥肌が立った
そしていっぱいに溜まると、患部は嘘のように治り元のなんの傷跡もない肌になった
「どっ毒は…」
胸ポケットにフラスコを仕舞う彼に聞くと、「あぁそれか。それなら解毒も施してやったから問題ないよ」と言ったので少なからずもホッとした
それから何食わぬ顔で隣で本を読み出す彼に私は緊張し過ぎて疲れたのかいつの間にかうつらうつらと目を閉じていた
彼女が本を開けたまま眠り、薄らと疲労が滲む目元
彼は彼女の頭がこてんと自分の肩に傾いてきたことに対して退けることもなく、ほくそ笑んだ
スゥスゥと安らかな寝息が聞こえる中、彼の唇が歪なほど弧を描き、思わずいつもの作り笑いとは違う心底愉快極まるという表情で嗤った
本を抱いていた手が滑り落ち太腿に投げ出された手を取った彼は
指で擦ったりふにふにと確かめるように触りながら手持ち無沙汰とばかりに弄んだ
彼女は知らない
己の血が何に使われるのかを
当たり前のように人を実験台にしてた
拒否権なんて最初からなく
穏やかな雰囲気を纏いながら口調と行動と雰囲気はまるで違っていた
きっとそう思っていたのは私だけかもしれない
だって他の人は彼の完璧な姿に騙されていた
いやもしかしたら私も彼の一部しか知らなかったかもしれない
今となっては…
確かめようもない…
その後は頭の隅にグルグルと思い出される彼の歪んだ口元に憂鬱な気分になった
「そんなことがあったんか」
「あの呪文はとても難しいのよ?なのにあんなに簡単に…」
「優秀なもんはそれなりに努力しとるからかなぁ。ユラは努力しとるんだろう」
「でもハグリッド。なんで彼女は僕達を助けてくれるんだろう?」
「さぁな。俺にはわからん」
「日本人は穏やかで争いごとを好まないと聞いたことがあるわ。あと本音と建前が基本だって」
「でも彼女はハーフだよ?確かに言われてみれば当て嵌まるけど本音はわかるけど建前?なにそれ?」
「僕知ってるよそれ。日本人は平気で嘘つくんだろ?」
「違うわロン。日本人っていうのはとても奥ゆかしい民族性なの。この場合の建前っていうのは『自分と相手との考えの違いがあることが前提で相手を不愉快にさせないために使われるもの』よ」
「それって誰のためになるの?本音を隠してるってことだよね?」
「私たちから見ればね。でも日本では本音をべらべらと喋ることは恥ずべきことという認識があるみたいよ」
「意味がわかんないよ。結局あの子はスリザリンらしいってことだろ?」
「頭はいいと思うけど狡猾ではないと思うわ。だって彼女からは野心は感じないもの。どちらかというと今までの行動を考えれば平穏を望んでる方が近いと思うわ」
「わしもハーマイオニーに同感じゃの。たまぁーにごく稀に日本人と取引する時はあるがあの民族は基本的に平和的だ。滅多に怒らんし感情をあんまし顔に出さん」
「確かにあの子も無表情だもんな。肖像画見てるみたいだもん。気味悪い」
「失礼よロン。その子が助けなかったら呪文が逆噴射してたかもしれないのは誰?」
「うっ」
「なんで彼女…スリザリンなんだろう…」
「ハリーはユラがなんでそんな気になるんだ?」
「わからない…わからないけど。悪い子じゃないのにどうしてスリザリンなのかと思って」
「組み分け帽子がスリザリンに決めたからでしょ?それに素質がないと選ばれないわ」
「それって結局あの子はスリザリンに相応しいってことだろ?」
「そうかも…しれない」
「ハリー。あなたが優しいのは知ってるし彼女は悪い子じゃないだろうけど呉々も気をつけてね。スリザリンは闇の魔法使いを輩出してきたことで有名なんだから」
「そうだぜハリー。助けてるふりしてハリーに近づくのが魂胆かもしれないんだから」
「…うん…わかった」
例の放課後補習はまさかのハリーと一緒だった
私は小テストを
ハリーは例のやらかした罰則としてファンレターの返事書きの手伝い
ハリーが来た時私がいたのでビックリした顔してたね
というか私は補習なのになんでセオは何も無いのよ
補習のこと言ったら1人だけ逃げられたみたいなホッとした顔してるし
くそう
さっさっと終わらせて夕食に行こう
セブルスにも言ってるから怪しまれたりはしないだろう
まぁ謎の補習のこと言ったら「は?」みたいな顔されたけど
ついでに「学生なら我慢してはいかがな?」とか言われたし
ほんと陰険だ
さっきからロックハートがハリーに凄い話しかけてるけど、すごく適当に返事してる
まぁ私もそうするけど
っていうかほんと何この質問
『ギルデロイ・ロックハートの好きな色は?』
お前の好きな色とかどうでもいいわ
『ギルデロイ・ロックハートの密かな大望は?』
知るか。世界一の詐欺師か?
『現時点までのギルデロイ・ロックハートの業績の中であなたは何が一番偉大だと思うか?』
あるわけねぇだろそんなもん
こんな馬鹿げた質問が延々3ページ、裏表に渡ってあり
極め付けの最後の質問はこうだ
『ギルデロイ・ロックハートの誕生日はいつで、理想的な贈り物は何?』
その場で羊皮紙を丸めて投げてやりたくなった
きっと誰でもそうだ
その場で燃やしてやりたい
だけど私は偉いので怠いが答えを書いた
呆れて物も言えないのはこのことだよね
後でセブルスとレギュラスに教えてあげよう
反応は想像できるけど
「名声なんて気まぐれなものだよ。有名人らしい行為をするから有名人なのだよ。覚えておきなさい」
しょーもない
ハリーも「そうですね」しか言ってないし
だけどその時頭の中で’’あれ’’の声が響いた
まるで彼のような…冷たくて毒がある声…
‘’殺す…こっちへ来い…引き裂いてやる…’’
心底驚いたし恐怖で固まってしまったがハリーに気取られてはいけないので、内心冷や汗を流しながら冷静に努めた
一方ハリーは声に気を取られてくれて
「なに?」
「何?」
「あの声です…」
「聞こえないんですか?」
「何のことだね?ハリー。君ちょっと。眠いのかな?おやもうこんな時間だった!4時間近くもここにいたのか。不気味なほど時間が早く経つね。ははっあは…」
不気味なのはお前の自慢話が終わらないことだよ
思ってしまったが、今はそれどころではないので私はさっさっと小テストを出してお暇する
早く帰ろうっ
「できましたので提出します。補習ありがとうございました。失礼します」
「あ、あぁ!よくやったねMsポンティ。全問回答とは素晴らしいよ。もう戻って構わないよ!」
言うだけ言ってロックハートの机に小テストを出して許可を貰い、本を持って動揺を気取られないようにゆっくりと歩を進めて教室を出る
「あぁ、ハリー。こんな時間にレディが1人で戻るのはいくら学校でも危ない。一緒に戻ってあげなさい」
と、ロックハートが余計なことを言って私は聞こえないふりで扉を閉めて出た
数秒してから矢張りというかハリーはついてきた
「ユラ!ユラ!待って!」
はぁ…
やだな…
「…ハリー?どうしたの?」
さも気づきませんでしたとばかりに振り返って聞く
その時また’’あれ’’の声が聞こえた
ハリーはあからさまに反応して私に「まただ…あの声だ…」
「ハリー?」
「君には聞こえない?」
「ごめんなさい…何を言ってるかわからないわ…わ、私もう戻るわね」
「待って!危ないよ!」
関わりたくないから踵を返して早足で行こうとしたら手首を掴まれた
思わず鳥肌が立ってゾッとした
「は、離してっ」
条件反射で咄嗟に振り払ってしまった
「あ」
「ごっ…ごめんなさいっ…私あまり慣れてなくて…条件反射で…あなたが嫌いというわけじゃないから…」
掴まれた手首を摩りながら慌てて訂正するとハリーは少し驚きと傷ついた表情で自分の手を見てる
「いいや…あの…僕こそすまない…いきなり掴まれたら誰だって怖いよね…」
「………」
違う
ハリーは悪くない
分かってる
私に触れる手はもっと冷たくて…蛇のように絡みついてくる…
だがその時
‘’どこにいる……あぁどこに隠れている……見つけてやる……見つけてやる……’’
バジリスクの声が響いた
おかしいと思った
バジリスクは何かを探してる?
いや間違ってないのか?…
ハリーを見ると声を追って壁に手をついた
「まただ。なにかを探してる…君には聞こえない!?」
「…えっと…ごめんなさい…ゴーストかなにか?」
わからないフリをしておく
それから私と壁を見比べて声がする方に走って行ったハリーを見ながら私は踵を返して大広間に向かった
向かう途中
「主…何故聞こえていないフリをしたのだ?」
センリが話しかけてきた
誰もいないことを確認して小声で返す
「……私は…私は…もう罪を犯したくない…」
何て答えようとしたんだろう
ハリーに全て任せて私はまた見て見ぬふりをしている
また同じことを繰り返すの…
「主…何があったかは知らないが私は主の味方だぞ。例え我らが種族の王が相手だとしても。私は主から離れたりしない」
賢いセンリは私の心を知ってか知らずかただそう言ってくれた
バジリスクについて知っているのは流石と言うべきか
同種族だから声が聞こえるんだろうな
慰めようと擦り寄ってくれるセンリに少し安心しながら私はローブを揺らして大広間に戻った
その日の夜は何も起きなかった
「もう私の予知夢的なものはこれであてにならないと証明されたね」
「お前が見たのはただの夢なのであろうな。だがちと引きずられ過ぎておるように見えるがね」
あんにそんな夢忘れてしまえ
当てにならんと言われているな
「そうかも…ね…正夢になった程度のレベルだから」
「いかにも。ところで」
毎度お馴染みになってきた日本茶をセブルスの暗い研究室で飲みながら眉を寄せたセブルス
あ、これは小言言われるな
「毎度毎度我輩をあの男避けにするのはどういうことかね?」
やっぱりバレてたか
思わず顔を逸らしてしまう
「いや別に悪気はないんだよ…ただちょっとあれがあれなだけでああなりました…」
「頭の悪そうなその説明の仕方をやめろ。どうせ言い訳するならばきちんと説明してはどうかね?」
「…はぁ…見つかるたびに絡まれて困ってて…というかもううんざりしてる…」
「あの忍耐強いオフューカスにそこまでの顔をさせるとは、奴はピーブスにも引けを取らん質の悪さだな」
ロックハートはピーブス並みのポルターガイスト魔か…
まぁある意味のポルターガイストだよね
存在そのものが
「オフューカス」
「ん?なに?」
「サボるのは止めろ」
「うっ…」
こっちもバレとる…
「だって…「バン!!!」」
言い訳しようとしたらいきなりセブルスの研究室の扉がノックもなしに開いて2人で見るとそこにはレギュラスが
あ
やば
「Mrブラック。失礼ながら無礼にも程がありましょう。ノックもなしに入ってこられるとは余程ブラック家の教育はなっているとみえる」
嫌味を言わないと気が済まないのかセブルスや
「失礼スネイプ教授。だが信じられない、聞き捨てならない言葉が聞こえてきましてね」
そう言うとお茶を飲んでいた私の方に振り向いて
「オフィー…オフィーなんだろう?」
確信したように言ってくる
後ろでセブルスが苦い顔で顔を覆っている
いや、あんたのせいだからね?
「…オフィー…?は先生の妹さんでした…よね?似ているとよく仰いますけど私は赤の他人ですよ」
「その答え方は間違いなくオフィーだ。スネイプ。何故黙っていたんだ。オフィーが生きていると」
人の言葉をスルーして確信したらしいレギュラスはセブルスに向き直って言い逃れできないぞという視線で言う
「オフューカスは死んだ。わからんのか?貴様も遺体は見ただろう」
「だが君は彼女のことをハッキリとオフューカスと呼んだ!それにこの子がオフィーでないなら何故君のことをセブルスと呼んでいる!?」
しまったぁ〜
研究室だからって油断したぁ
お互いがお互いのせいだぞどうにかしろと視線で会話して、仕方なく私は口を開いてレギュラスに全て説明した
オフューカスであった頃の記憶があり、生まれ変わりだと
そしてセブルスに先に話したのは、きっかけは嵌められたからだけどまぁ一番冷静に対処してくれそうだからとも
「オフィーっ…オフィーっ…僕はずっと君に謝りたかったんだっ」
聞くや否や私を強く抱きしめてきたレギュラスに骨が折れそうだ
ちょっと今は子どもの体であると考えてほしい
セブルスがドン引きの顔で見てるよ
怖い怖い
「先生ちょっと苦しいですっ…」
「昔のようにレギュ兄と呼んでくれっ…」
「わかったレデュ兄。取り敢えず落ち着いて。離してくれないとそろそろ骨が折れる」
「安心するといい折れたら迷惑代として我輩特製の舌が取れるほどの薬をくれてやろう」
いや、いらないよ
どんだけロックハートのこと根に持ってんの?
「妹にそんなもの飲ませるわけがないだろう。大体何故兄の私ではなく君が信用されているんだ」
離してくれたのはいいけどなんかセブルスに突っかかってるし
口で勝てるはずないのに
「逆に聞くがお前は兄だったいうわりに余程信用されていなかったのだな?哀れなものだ。そんなことだから戻って浮かれておった時におめおめと殺される羽目になったのであろうな?」
「なんだと」
はは…嫌味しかないな
レギュラスもこんなことに乗せられたりしちゃダメだよ
だからセブルスに勝てないんだよ…
「2人とも落ち着いて会話できないようだから、私はもう戻るよ」
そう言えばレギュラスは黙ってすまないと謝ってきた
よく謝るなぁ…
セブルスは呆れたように溜息をついてサッサっと出ていけと言った
機嫌が悪そうなので大人しくレギュラスと出て行き、寮までの帰り道、ずっと幸せそうな顔で話しかけてくるレギュラスに昔より感情がよく出てるなと思いながら私は寮に戻った
「おやMsポンティ。今日は顔色が良いですな」
スリザリンの寮憑きゴーストの血みどろ男爵が話しかけてきた
「ご機嫌よう血みどろ男爵。別に私は病弱なわけではありませんよ」
「ふむ…Msポンティ。私はあなたに良く似た生徒に会った気がするのだが。どこかでお会いしたことがあるかな?」
まぁずっとスリザリンだったしね
「ありませんよ。強いて言うなら1年生の頃でしょうかね」
「そうでしたな!いやはや、おかしなことを言ってしまった。あの生徒は50年前に死んだというのに!」
……
「そうなんですね。その方は何故亡くなったんですか?」
「ふむ。それが不明とされていましてな。その生徒は卒業式が終わってすぐに突然行方不明になったらしく、噂ではマグルに殺されたとか」
は?
何でマグル…
違う…
私は彼に殺された
「そう…なんですね…ご冥福をお祈りします」
「東洋人とは実に奥ゆかしく美しい言葉を使うのですな。私も少なからずその生徒を覚えているほどにはよく話していたのできっと彼女も安らかに眠れるでしょうな」
血みどろ男爵に覚えられたんだ
まぁ彼以外友達といなかったし
誰も寄ってこなかったが正しいかな
そしてその夜、事件は起こった
窓と窓の間の壁に、高さ30センチほどの文字が塗りつけられ、松明で照らされてちらちらと鈍い光を放っていた
ーー秘密の部屋は開かれたり 継承者の敵よ、気をつけよーーー
床に広がる水溜り
松明の腕木に尻尾を絡ませてぶら下がっているミセス・ノリス
石になっている
「秘密の部屋…」
セオが横で呟いているのを聞きながら、私は自分の手首を抑えた
「継承者の敵よ、気をつけよ!次はお前たちの番だぞ、『穢れた血』め!」
沈黙の中、ドラコがハリー達に向かって叫んだ
ーーー「君だけは僕が守ってあげるよ」ーーー
ーーーー「僕のそばにいれば安全だ」ーーーー
冷たい手をした彼の言葉が頭の中で反芻される
そんな中、騒ぎを嗅ぎつけてフィルチが来てハリー達を犯人と決めつけて怒鳴っている
フィルチが胸倉を掴んでいる時
「アーガス!」
ダンブルドアが先生達を従えてきた
状況を見るとダンブルドアがミセス・ノリスを松明の腕木から外した
「アーガス、一緒に来なさい。Mrポッター、Mrウィーズリー、Msグレンジャー。君たちもおいで」
ダンブルドアがそう言うと、ロックハートがいそいそ進み出た
「校長先生、私の部屋が一番近いです。すぐ上です。どうぞご自由に」
「ありがとう、ギルデロイ」
そして先生達はゾロゾロとロックハートの部屋に向かった
ロックハートの教室について、ダンブルドアはミセス・ノリスを杖で隈なく調べ始める
「猫を殺したのは、呪いに違いありません。たぶん「異形変身拷問」の呪いでしょう。何度も見たことがありますよ。私がその場に居合わせなかったのはまことに残念。猫を救う、ぴったりの反対呪文を知ってましたのに…」
ロックハートの話の合いの手は激しく泣いているフィルチ
「ーーー非常に良く似た事件がウグドゥグで起こったことがありました。次々と襲われる事件でしたね。私の自伝に一部始終書いてありますが、私が街の住人にいろいろと魔除けを授けましてね、あっという間に一件落着でした」
それからようやくダンブルドアが体を起こして優しく言った
「アーガス。猫は死んでおらんよ」
「死んでない?…それじゃあ、どうしてこんなに…こんなに固まって冷たくなって?」
「石になっただけじゃ」
「やっぱり!私もそう思いました!」
「ただし、どうしてそうなったのか、わしには答えられん…」
「あいつに聞いてくれ!」
涙に濡れて真っ赤になった目でフィルチがハリーを指差した
「2年生がこんなことをできるはずがない…最も高度な闇の魔術をもってして初めて…「あいつがやったんだ。あいつだ!」」
「あいつが壁に書いた文字を読んだでしょう!あいつは見たんだ。わたしの事務室で……あいつは知ってるんだ。私がっ…私がっ…」
苦しげに歪んでるフィルチの顔
「私が出来損ないの『スクイブ』だって知ってるんだ!」
「僕ミセス・ノリスに指一本も触れていません!」
大声が響き、ますます気まずくなる空気
「それに僕、スクイブがなんなのかも知りません!」
「バカな!」
歯噛みしたフィルチが叫ぶ
そこでスネイプが声が響き、ハリ達は身構えた
「校長、ひと言よろしいですかな」
「ポッターもその仲間も、単に間が悪くその場に居合わせただけかもしれませんな」
スネイプは僅かに口を歪めて冷笑しながら続ける
「とはいえ、一連の疑わしい状況が存在します。だいたい連中はなぜ三階の廊下にいたのか?何故三人はハロウィーンのパーティーにいなかったのか?」
スネイプの質問でハリー達がゴーストの「絶命日パーティ」の説明を始めた
「ゴーストが何人もいましたから、私たちはそこにいたと証言してくれるでしょう」
「それでは、そのあとパーティに来なかったのは何故かね?」
「何故このあそこの廊下に行ったのかね?」
追加の質問でロンとハーマイオニーはハリーを見た
「僕たち疲れたのでベットに行きたかったものですから」
「夕食も食べずにか?」
「僕達空腹ではありませんでした」
ロンがそう言った途端、ロンのお腹の虫が鳴り、スネイプは底意地の悪い笑み浮かべる
「校長、ポッターが真っ正直に話しているとは言えないですな。全てを正直に話してくれる気になるまで、彼の権利を一部取り上げるのがよろしいかと存じます。我輩としては、彼が告白するまで、グリフィンドールのクィディッチ・チームから外すのが適当かと思いますが」
「そうお思いですかセブルス」
矢張りスネイプにハリーの母親代わりのマクゴナガルが鋭く切り込んだ
「私には、この子がクィディッチをするのを止める理由が見当たりませんね。この猫は箒の柄で頭を打たれたわけでもありません。ポッターが悪いことをしたという証拠は何一つないのですよ」
そう言うと、ダンブルドアはハリーに探るような目を向けた
「疑わしきは罰せずじゃよ、セブルス」
ダンブルドアの発言にスネイプは憤慨し、フィルチもまたそうだった
「私の猫が石にされたんだ!罰を受けさせなけりゃ収まらん!」
フィルチは酷く憤慨した様子で金切り声で叫んだ
「アーガス。君の猫は治してあげられますぞ。スプラウト先生が最近やっとマンドレイクを手に入れられてな。十分に成長したら、すぐにもミセス・ノリスを蘇生させる薬を作らせましょうぞ」
穏やかな声で言ったダンブルドアに
「私がそれをお作りしましょう!」
ロックハートが突然口を挟む
「私は何百回作ったかわからないくらいですよ!『マンドレイク回復薬』なんて、眠ったって作れます」
「お伺いしますがね。この学校では我輩が『魔法薬』と担当教師のはずだが」
自慢げに言ったロックハートにスネイプが冷たく言った
とても気まずい空気が流れる
そして
「帰ってよろしい」
とダンブルドアが穏やかにハリ達に言ってその日は寮に返した
ミセス・ノリスが襲われた後日、私はレギュラスの研究室に向かう途中、ある物の前で止まった
優勝杯の数々を飾ってある棚だ
その中にひとつ
『1943年 ホグワーツ特別功労賞 トム・マールヴォロ・リドル』
自然とその賞に手が動き触れる
彫られた名前を指で追う
自分でも顔が歪むのがわかる…
トム…
この賞は…あなたの自作自演…自分の疑いを逸らす為にハグリッドに罪を着せて得たもの
なのにあなたはまるで関心のない様子で…
あなたにとって犯罪は手段だった…
人の命は階段のようなもの…
私は貴方の階段になったのかな…
殺されたのに…
何故か私は恨んでない…
彼はもういない
賞に触れていた手を引っ込めようとすると賞の裏に本があった
一瞬彼の日記かと思ったけど、日記はジニーが持ってるはずだし似たような違うものだと思って手に取ろうとした
だけど触れた瞬間、黒い煙となって消えた
だけど、その瞬間私の意識は暗闇に落ちた
オフィーが来るはずの時間に来なかった
妹が時間に遅れることはまずない
秘密の部屋の事件のこともあり僕は嫌な予感がしてオフィーが僕の教授室に来る時に通る廊下を速足で歩き探した
そして優勝杯の棚の前に生徒の人集りができていたのが見えた
「皆さん、どきなさい!」
嫌な予感がして囲むように立っている生徒達に声をかけて一斉に開いた所を見ると妹が倒れていた
すぐに駆け寄って、膝をつくと真っ青な顔でオフィーが意識を失っていた
石にはなってないっ
よかったっ
「おっ…Msポンティっ!」
オフィーと呼ぼうとしたけれどこの場には生徒達がいることを思い出して慌てて呼びなおす
彼女の上半身を抱き上げて脈を確かめる
脈はある
貧血か…だけどこのタイミングで…?
それも何故こんなところに…?
疑問は尽きないが、取り敢えず彼女を医務室に連れていかなければ
「皆さん授業に戻りなさい」
オフィーを抱き上げて騒つく生徒達に授業に戻るように言い、急ぎ足で医務室まで向かう
「起きるんだ、ーーー…」
ここ…
あれ…
私…
「いつまで寝汚く寝ている?この僕を待たせるとはいい御身分になったものだな」
!!
目を開けると見慣れた医務室だった
懐かしく…聞きたくなかった…
声がする方を向くと
「おはよう。お前なら僕を見つけてくれると信じていたよ」
な…んで…
反射的に周りを見回して誰もいないことを確認した
「心配しなくとも今の僕は君にしか見えないさ」
私にだけ…
まさか霊体…
いや今の彼はそんな可愛げのあるものじゃない…
おそらく…
「僕が教育しただけはあるね…お前の思っている通りだよ」
っ!
かつての…
スリザリンの寮服を着たあの時と変わらない…
艶やかな黒髪に紅い目…
誰もが振り返るほどの美貌の彼が当時と変わらぬ姿で私の前にいる
記憶
だとしても…なにか…おかしい…
「…あんたは死んだはず…」
苦しい
哀しい
何故ここにいるのか
どうして私を殺したのか
聞きたいこと、知りたいことがいっぱいあるはずなのに
最初に口から出た言葉はそれだった
わかってる
そんなこと聞かなくてもわかってる
彼は死んでいない
分霊箱を作り魂を分けた
だから生きている
でも私の中で…彼は死んだんだ…
「僕のことは何と呼べばいいか。何度も教えたはずだったが?」
っ
冷水を浴びせかけるような低い声に今でも覚えてるその感覚に体がびくりと跳ねる
思わずシーツを掴む
握った拳は小さかった
「……あんたは…私の知ってるトムじゃない…トムは死んだ…」
「成る程。’’今は’’それで構わないさ。何を言っても君は信じないだろうからね」
……
彼だ
こんな言い方するのは人身掌握に長けた彼の言い方だとわかっているのに信じたくない
「『穢れた血』はこれから死ぬ」
いきなりそう言われて私は眉を寄せる
「また狙われてしまうんだよ。だけどひとつだけ方法がある」
見透かされたような発言に私は頭の中で彼の「方法」に飛びついた
それを悟られないように慎重に彼に返す
「方法…?」
「あぁ…あれの声を聞いただろ?探しているのは君だ」
一瞬呼吸が止まった
嘘だ
バジリスクは継承者の彼以外は従わない
しかも彼はハリーを呼び寄せようとジニーを操って…
「僕は約束は守ってやる男だ。君だけにはね。『僕の側にくるんだ』」
相変わらずの上から目線な物言いに、してもいない約束を一方的に押し付けてくる
私は……せざるを得なかっただけだ…
「君のすることは分かっているな?待っているよ」
誰も傷つけたくなければ…部屋に来い…
ってことだよね…
嫌だ…行きたくない
行くべきはハリーだ
私は石にもなりたくない
嘘か真かもわからない彼の言葉にどうしてこんなに揺れるんだろう
きっと嘘だと…自分が復活するためだと分かっていても…
私はいつまでも彼に逆らえない…
彼が彼である限り…
それを利用してきているのはわかるのに
自分が嫌になる…
そもそも何故彼は私が生まれ変わっていることに気づいたの…
おかしい
何かがズレてきてる…
待っているよと言って消えた彼の紅い目は…私のよく知ってる目だ…
何千
何百万回と見た目
感情という感情が読み取れない
ただただ恐ろしい
彼がああいう目をする時は…私が結局彼のいう通りに動いた時だった…
あれ
やっぱり今のは…夢…
目が覚めると先程彼と話した医務室と違いなんとなく色がさしている
「ユラっ!」
セオの声が聞こえた気がして横を見ると私の手を握って不安そうな顔をしていた
「…セオ…私…」
医務室特有の薬の香りに鼻を掠め、枕の上で頭を横にしてセオを見る
「君がっ…ユラが石なったんじゃないかってっ…よかったよっ…貧血で倒れるなんてっ…紛らわしいことをしないでくれっ…」
そっか
貧血で倒れたのか…
でもきっと違う…
あれは彼がかけた闇の魔術だった
たぶん
原作とは全く違うことが起ころうとしてる…
いや既に起きてる
分霊箱のひとつであるはずの本があんな簡単に消えるなんておかしい
あの日記は…分霊箱ではない?
もしそうなら…
いやでも…
「ごめんなさい…急に目眩がして…」
「もうユラの1人行動は禁止っ…今は特にね…」
いつもポーカーフェイスなのに、片目を隠したさらさらの金の髪を揺らして泣きそうな顔で言ってくるセオに思わず眉が下がった
「うん…そうだね…ごめんね。セオ、授業は?今はいつ?」
「今は君が倒れた翌日の夜だよ。僕の授業は終わった。二度と君の代わりをさせないでくれ…」
なんか引き攣った疲れた顔で言うセオ
あぁ
セブルスに無茶振りされたな…と確信した
それからセオに眠っていた間に少し騒ぎになっていたこと、石になっていないからいつもの病弱主席が起こした貧血騒ぎで収められたこと(ドラコの否定によって)
ドラコ…なんで病弱キャラにするんだよ…
私別に体力はある方だよ…
穏やかに静かに眠っている間の授業の話していると、マダム・ポンフリーが来て、念の為、再度診察してくれて許可が出たのでセオと寮に戻った
戻ったらドラコとパンジーとミリセント達がいてちくちくと文句を言われながら心配かけるなと怒られた
1年の段階で気づいたが何故かドラコはクラッブやゴイルとあまりいないのだ
どちらかというと私がセオといることが多い
図書室ばかり行く私達には流石にあまりついてこないが、基本行動は私達とが多い
「申し訳ありませんでした…」
「お前は体力ないし頭だけが取り柄なんだからもう少し周りを頼れ」
何故私はドラコに説教されているのだろう
「そんな人を勉強オタクみたいに…「「「オタクだろ・でしょ・オタク以外に何があるのよ」」」…」
セオ以外3人が揃って即答したので思わず固まる
無言でセオを見ると
「………否定はできない」
ボソリと言われたので友情とは…と思ったのは仕方ない
「それより私が石になったことは疑わなかったの?」
正直祖父母に関しては私は混血だと思う
「ユラは純血だろ。狙われるなんてあり得ないね」
「でもドラコみたいに家名はないよ?」
根拠がないと暗に言えば、ドラコはドカリとソファに座って溜息をついて苦々しいような少し気まずそうな顔で言った
「ユラの祖父母のことを言ってるなら僕は両親が魔法使いならそれでいいと思ってる。最初は許せないことだったが…お前は優秀だし……」
ぎこちなく言ったドラコにセオも少し驚いている
パンジーとミリセントはなんとなく知っていたのか共感しているような顔だ
「でもドラコの言い方だと祖父母も純血じゃないといけないんじゃ…」
「だから変わったんだよ。お前見てるとなんか馬鹿らしくなってきたんだ…勿論グレンジャーみたいな『穢れた血』…じゃない…両親ともマグルなのは認められない。だけど前にお前とセオドールが話してた医学の遺伝がどうとかの理論あっただろ」
あぁ…前にセオと話してた血が濃くなれば成る程精神に異常をきたした子どもや障害のある子が産まれるっていうデータに基づいた医学の話…
あれ聞いてたんだ…
「僕なりに調べてみたら確かにお前の言う通りだったんだ…」
「私もよ…遺伝は魔法使いでも人間である限り備わってるものだって…」
パンジーも腕を組みながらドラコに賛同するように言った
私は正直耳を疑った
何を調べたのか知らないけど過激な純血主義を掲げる伝統ある家柄の子息子女が洗脳とも言える考え方を変えるなんて
しかも親に逆らって
私は別に嫌いならそれでいいと思ってたし、無理に変える必要はないと思ってた
いわゆるノータッチだ
「そっか…でも無理はしなくていいよ。これがあなた達の両親に知れれば大変な目に遭うのはあなた達なんだから…傷つくのは見たくない。気持ちだけで嬉しいよ。ありがとう」
きっと私の今の顔は穏やかだろう
無表情とか鉄面皮とか言われてるけど
私は結構感情的だ
そう言うと2人は驚いたような顔をしてフッと笑って先程な辛気臭い空気を一転させて自信満々でいつもの尊大な態度に戻った
私はなんとなくそれが安心してしまった
「全くもって貧血で倒れるとは何をやっているのかね?そんなに倒れるのが好きなら我輩特製の薬を作ってやるが?」
絶対それ悪意しかないゲロマズ薬だよ
呆れた顔でお茶を飲みながら説教してくるセブルスに私はバツが悪くて顔を逸らした
「それはどうか勘弁して…面目ない…」
「主席が聞いて呆れるな」
いつにも増して嫌味がチクチクと酷いぜ
「オフィーは悪くないだろ。妹をいじめるな」
「お前の同席を許可した覚えはないが?何故ここにいる?それと甘やかすな。自分の立場をお忘れになられたか?」
そう
何故かセブルスの研究室にレギュラスもいるのだ
以前、私がセブルスの部屋に日本食のストックを置いてたまにこうしてお茶をして軽食を食べているのがバレてそれ以降来るようになった
「君がそれを言えるのかい?」
何を、とは言わないが「君も教師とは思えないことをしているが?」とでも言いたげなレギュラスの言葉に察しがついたセブルスが苦い顔をして舌打ちした
まぁ私の提案とはいえ、セブルスも日本食気に入ってるし何も言えないよね
髪の艶も血行も良くなったし
日本食はすごい
「これからは不用心な行動は慎むべきですな」
切り替えるようなセブルスがそう言ってきて、私は素直に頷く
もう物語は私の知らないものになってきている
「善処します…」
「善処ではなく行動にしろと言っているのがわからないのかね?」
「はい…」
「言い方は気に食わないが、僕も同じ意見だよ。今ホグワーツは危険だ。お願いだから一人で行動はしないでくれ。オフィーに何かあったら僕は気が気じゃない」
「うん…」
口調は厳しいが2人とも心配して言ってくれているのはわかるので素直に肯いておく
そんなこんなで割と心配してくれる(約1名言い方に問題はあるが)優しい友人と兄のお陰で私の心は少し軽くなった
彼と話した日から私はあの部屋に行く気になれず、日々は過ぎるばかり
そして今日は、事件はあったが2年生はじめてのクィディッチの日で事件などあったのかと思うほどの盛り上がりと歓声に包まれる中、ドラコは始まる前にこちらを見てきて得意げな顔をしていた
私はセオと一緒に応援の歓声で煩い中、応援した
まぁ案の定、ブラッチャーが暴走してハリーを狙い、ドラコが箒を引っ掛けて飛ばされてしまい怪我をした
そしてハリーはスニッチを取ったが、ブラッチャーで骨が折れてしまい、ここぞとばかりにしゃしゃり出たロックハートによって骨が無くなった
ほんと余計なことしかしないな
それからドラコが医務室に運ばれてセオと私はお見舞いに向かった
ベットの上で唸っているドラコ
「大丈夫ドラコ?」
「大丈夫に見えるか?」
「目立った怪我はないから筋を痛めたくらいには見えるかな。でもドラコは男の子だから私と違って丈夫でしょ?それに男の子は怪我しても治るのが早いしまたその度に強くなるよ」
ドラコは細身で色白だけど骨格は男の子だからね
「お前…ほんとそういうとこだぞ」
なんか呆れたような目を向けられて変なこと言ったかな?と思う
「何か変なこと言った?」
わからないので聞くと今度はセオが溜息をついた
「ユラは時々残念だよね」
失敬だな
「失礼だな2人とも」
「「失礼なのはお前・君だ」」
こういう時だけ仲良くハモるなよ
そんな会話をしていると同じ医務室にはハリーもいて、マダム・ポンフリーからスケレ・グロ(骨生え薬)を渡されて吹いた
喉が焼けるような味らしいけど普通に罰ゲームだよねそれ
そんな中、ドラコは意外にもハリー対する怒りを露わにするでもなく、大人しく寝た
それを確認して何故だろうと思った私はセオに聞くと「ユラが残念だからだよ」とか言ったので、「解せん」と呟いて医務室を出た
そしてその夜、恐れていたことが起きた
コリン・クリービーが石になり…私は血の気が引いた
何故…
日記もないのに何故…
ーーー「待っているよ」ーーー
彼は…
彼は私が来るまで続けるつもり…
本気だ
分かってた
そしてその次の日の土曜日、まだ誰もいない早朝に3階の女子トイレに向かった
大きな鏡がひび割れだらけ、染みだらけ、その前にあちこち縁の欠けた石造りの手洗い台がずらっと並んでいる
床は湿っぽく、燭台の中で燃え尽きそうになっている数本の蝋燭が鈍い光を床に映している
あの頃はこんなじゃなかった
私はここにいるであろうバジリスクに命を奪われた女子生徒
レイブンクローのマートル・エリザベス・ワレン
「こんなところに何の用?貴女誰よ」
私の気配に気づいた彼女がトイレから出てきて話しかけてきた
「マートル・エリザベス・ワレン…私はスリザリン2年のユラ・メルリィ・ポンティ」
私がフルネームを言ったことで彼女があからさまに驚いた
「何で私の名前を知ってるのっ?皆『嘆きのマートル』って呼んでるのにっ」
「私は…私はかつて…貴女と同じ時期に在籍していた生徒なの…」
罪悪感で俯いてしまいぽつりと言った私にマートルは「うそ…」と言った
「…私は貴女と同じで目立たない生徒だった…寮は違ってたけど…」
「違う寮…?」
「スリザリン生だったの……その時の私の名前は…ーーーー…」
「っ!!うそっ…その子はっ」
「私も結局死んだんだ…」
彼に殺されて
マートルはゴーストになっていたから知っていたのか、私を見て驚愕している
「いつもあのハンサムな彼と一緒にいた子じゃない!?」
まぁ見た目だけなら彼はとても美麗で美しい人だったから…
見た目だけは
「そう…だね…」
「遠目でだけど私覚えてるわ。あんなに有名な彼といたのに貴女はいつも無愛想な顔をしてたって。なんであんな女がいつも一緒にいるのかって言われてたわ」
そうなんだ…
何となく想像はできたけど
「…そっ…か」
「私も思ったわ。あのハンサムさんと一緒にいるのに貴女ちっとも嬉しそうな顔をしてなかった」
もともと無表情だとか言われてたけど
それなりに喜怒哀楽はあったんだけどな
「……そう…かな…私友達できなかったから…自分がどう言われていたかなんて想像でしかわからない」
「私ならあんなハンサムさんといられるだけで嬉しいわ。それで何でここに来たの?」
「え、私の話を信じてくれるの?」
「なに?嘘なの?」
「いや、嘘じゃないよ…大抵は信じてくれないものでしょ?」
「私の名前を知ってたんだから信じるわよ。それに言われてみれば貴女はあの子に雰囲気がそっくりだもの」
そうなんだ…
別人なのに
「そっか…ありがとうマートル」
「ふん」
「…私ね…もしかしたらこれからここに来るかもしれない…もし誰か来て何か聞かれたら……いえ、やっぱりこんなことをお願いするのはいけない」
「…いいわよ。貴女が来たことは黙っててあげる。私の名前を覚えててくれたもの」
「…そっか…ありがとう。もし気が変わってもマートルの好きにしてくれていいよ。私には止める権利はないから」
「…当たり前よ。私は私の好きにするわ」
「うん。じゃあね。また会いに来るね」
私はトイレに戻って行ったマートルを見てから女子トイレから出た
それから案の定というかその日のロックハートの授業は意味不明な『決闘クラブ』だった
実はロックハートがセブルスに助手を頼みに来た時、私は彼の研究室で調合の手伝い(丸投げ)をしていたので、顔が引き攣るのが止まらなかった
案の定人の話を聞かずに私にばっかり話しかけて出て行ったロックハートにセブルスの機嫌は急降下して私はとばっちりを受けた
しかもグレンジャーがセブルスの部屋のポリジュース薬の材料である『毒ツルヘビの皮の千切り』を個人用保管倉庫から盗んでいたので、更に機嫌は悪くなる
勿論セブルスは誰が盗んだか知らない
本当に可哀想だ
ぶつぶつと文句を聞きながら、思わず私もセブルスとロックハートの悪口を言った
そして今、大広間のビロードのような壇上にロックハートが上がってきて無駄に煌びやかな深紫のローブをカッコつけた着方で纏っていた
あれ着てる意味あるのか
もはやローブの意味ないじゃん
色めき立つ女子生徒に呆れながら、冷めた目になる私とセオ
それにセンリもロックハートが私に絡んでくるようになってからよく喋る様になった
流石の大人なセンリでさえも呆れた
ある意味すごいなロックハート
センリにまでドン引きされるなんて
観衆に手を振り「静粛に」と呼びかけたロックハート
「皆さん、集まって。さぁ集まって。皆さん、私がよぉ〜く見えますか?私の声がよぉ〜く聞こえますか?結構、結構!」
いやなにも結構じゃない
「ダンブルドア校長先生から私がこの小さな『決闘クラブ』を始めるお許しいただきました。私自身が数え切れないほど経験してきたように、自らを護る必要が生じた万一の場合に備えて、皆さんをしっかり鍛え上げるためです。詳しくは、私の著書を読んでください」
呪文もまともに使えないやつがよく言うよほんと
「では、助手のスネイプ先生をご紹介しましょう。勇敢に模範演技を手伝ってくださいます」
気持ち悪い満面の笑みを振りまいて壇上の向かいに腕を広げるとセブルスが今にもロックハートを殺しそうな形相で上がってきた
うん
ほんと可哀想…
また愚痴と嫌味をネチネチ聞かされそうだ
「私が彼と手合わせした後でも、皆さんの『魔法薬』の先生は、ちゃんと存在します。ご心配めされるな!」
呆れてものも言えない
セブルスなら勝てると思っているその頭に飾りでもつければいいと思う
そして2人とも杖を剣のように前に突き出して構えた
「ご覧のように私たちは作法に従って構えています」
見りゃわかるわ
気持ち悪い構え方だなおい
「三つ数えて、最初の術をかけます。もちろん、どちらも相手を殺すつもりはありません」
いや少なくともセブルスは殺る気しかないと思う
「一、ニ、三、「エスクペリアームス(武器よ去れ)!」」
セブルスが叫んだ瞬間、紅の閃光が走り、武器ごとロックハートも吹っ飛んび壁に激突した
「ナイス先生」
「心の声が漏れてるよユラ。まぁ確かにナイスだね」
思わず呟いた私にセオがさらりとツッコミながら同意してくれる
「お似合いの姿だな」
センリも静かにコメントして私は笑いそうになった
スリザリン生が歓声をあげてる
「生徒にあの術を見せたのは素晴らしい思いつきでしたよ先生!しかしっ、やることがあまりにも見え透いていましたね!止めようと思えば、簡単に止められたでしょう!」
嘘つけ
おもいっきり吹っ飛んだだろ
「まずは生徒達に、非友好的な術の防ぎ方を教える方が賢明ではないですかな?」
それ遠慮もなにも無いよね
やられる前提だよね
「おっしゃる通りですな!スネイプ先生!では…生徒にやってもらいましょう!ポッター、ウィズリーどうだね?」
ほんとセブルス相手によくやるよ
「ウィズリーの杖では簡単な呪文でも惨事を起こす。代わりに私の寮の生徒でいかがかな?マルフォイで。どうかな?」
まぁ折れてるしね…
セブルスは提案するとドラコに壇上に上がるように指示した
ハリーとドラコが壇上に上がり、構えた
そしてロックハートのカウントで「ニ、」の段階でドラコがフライングして「エヴァーテ・スタティム!(宙を踊れ)」と唱えてハリーが吹っ飛んだ
だけどすぐ立ったハリーが「リクタスセンプラ!(笑い続けよ)」と唱えて今度はドラコが吹っ飛んだ
セブルスにすぐに立たされて、ドラコは「サーペン・ソーティア!(蛇よ出でよ)」と唱えて杖から光が走り長い黒蛇が現れた
生徒達の悲鳴が響いて後退った
「動くなポッター。追っ払ってやろう」
セブルスが追っ払ってくれようとした
だがロックハートが「私にお任せあれ!」とか言って蛇に向かって杖を振り回した
すると天井ほど高くまで蛇が上がって音を立てて床に落ちてきた
ほんと何がしたいのかこのバカは
蛇怒ってるじゃん
そりゃ怒るよ
勝手に呼び出された挙句いきなりボールみたいな扱いされたら
「あの男は何がしたいのだ…理解できんな」
センリが小声で言ってくるので心底同意した
だけど私は前を見てなかった
「ユラっ」
セオが横から声をかけてきて前を見るとその蛇が前にいた
「!」
全員の視線が私と蛇に集まる
慣れているセンリと違い全く知らない蛇
緊張して固まっていると蛇が牙を剥き出して威嚇していた
「主に近づくな。去れ」
センリが服の中から蛇に声をかけたらしく蛇は大人しくなった
私は咄嗟にハリーの顔を見かけたが、慌ててやめた
私がパーセルマウスだと知られれば厄介なことになる
センリはペットであり友達だ
聞かれても主を守ろうとしたで通じる
そして次の瞬間、セブルスが「ヴィペラ・イヴェネスカ(蛇よ、消えよ)」と唱えて蛇は燃え尽きた
「問題ないかねMsポンティ?」
セブルスが聞いてきた
「はい。ありがとうございます先生」
一応答えて私はその日は一度もハリーの顔を見ずにセオとドラコと寮に戻った
「…この子はなんて言ってるの…?」
「お前がそんなことを聞くとはね。驚きだ」
「もういい」
2人だけでよくいる誰も来ない場所で横で蛇と話をしている彼に少し気になって聞いてみたら案の定嫌味な返事が返ってきたので本に視線を戻した
「こんなことで腹を立てるなんてお前の短気は余程重症らしい。ーーーーー…」
馬鹿にされるのを聞きながら私は無視を決め込んでいると彼が蛇に何か話して次の瞬間蛇が本の前に顔を出してきて私の腕に絡みついた
「っ!」
「お前が気に入ったらしい。よかったじゃないか」
呑気に横で本を読み始めながら言う彼に私は勢いよく振り向いた
「何を言ったのよっ……あっあなたも早くこいつのところに戻った方がいいよ…私はあなたの言葉わからないし…こいつのことの方が好きなんでしょ」
毎度の如く人を実験台にする彼にうんざりしながら目の前の舌をチロチロ出している大人しい蛇に通じないだろうけど言うと横から馬鹿にしたようなクスクスとした笑い声が聞こえた
「💢…何笑ってんのよ」
「いや。なに。お前があまりにも馬鹿で単純なものだからね。通じないと分かっているのだろうによくそんな恥ずかしいことができるね」
お前のせいだろ
と思った私はもうムカついたので蛇をくっつけたまま本の角で小突いてやろうと思った
だがいとも簡単に手首を掴まれて本を没収された
「僕に手をあげようとするなんて躾がなってないね。それにいつも思うが何故魔法を使わない?」
「素手で感じるほうが発散できるから。離して。もう何もしないから」
「仮にも女の発言とは思えないな」
「あんたに魔法使ってもどうせ意味ないじゃない…」
「当たり前をことを言うね。まぁ赦してあげるよ。………少し枕になれ」
「は?」
不機嫌そうな表情でそう言った手首を離して頭を私の太腿に倒してきた
前を向いて堂々と枕扱いしてくる彼のお綺麗な顔面に本を落としてやろうかと思ったが仕返しが怖いのでやめとく
サラサラの黒髪がスカートの上に散らばり、紅い目は閉じられている
太腿に頭の重みと体温を感じながら「もういいや」と、ほっとくことにして私は本の続きを読んだ
その後、秀才天才でも彼も人間なのか、睡眠は必要のようで私の足が痺れようとお構いなしにぐっすり寝ていた
その際出来心で頭を撫でたのは私だけの秘密だ
絶対怒られるから
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秘密の部屋〜1〜
終わり!
ロックハートにドン引き?