――話を少しさかのぼります。離婚後、どういった経緯で母親は愛実ちゃんをこの施設に預けることになったのですか?
「離婚が成立した2009年、愛実ちゃんが2歳のころです。お母さんは民間の子育てサポートを利用していました。子供が生まれる前から精神疾患は抱えていて、次第に症状が重くなったようで、サポート出来る範囲を超えてしまいました。その後、お母さんは児童相談所と面接を行い、『調子が悪いので一時的に娘を施設に預けたい』という訴えを何度か繰り返したようです。
そのとき、私たちの施設が一時保護委託※という形で、愛実ちゃんを一時的にお預かりしていました。そして4歳のときにお母さんと児童相談所との相談のうえ、入所措置※という形で愛実ちゃんを正式に迎え入れました」
――ずっと寝込んでしまって、子育てすらままならなくなる……というのはかなり重い症状ではないでしょうか。母親の患っていた病気はどんなものだったのですか?
「妄想性障害といって、現実にありうるようなリアルな妄想を抱き続ける病気です。見た目も表情も一見、他の人と変わらない。ただ普通の人よりもずっと疲れやすかったり不眠が続いたりという症状がお母さんにはあったようです」
――そんなに重い症状なら施設に預けるより先に、別れた夫や親戚に助けを求めたらよかったのに……と思います。
「それどころか、彼女はお父さんやお祖父さんを避けていたようです。『施設内で愛実という名前を出さないでほしい』とお母さんに強く言われていました。例えば、廊下や教室に貼り出される絵や習字の名前も別の名前を使ってほしいと言われましたし、配布される施設のお便りもそうです。『元夫はDVでストーカーだから、居所を知られると愛実が何をされるかわからない』というのが理由です。
また『父親(愛実ちゃんから見ると祖父)にはくれぐれも連絡しないでください』と強く言われてもいました。『元夫と連絡を取っている父親(祖父のこと)に施設から連絡したら、元夫に話が漏れて、施設に押しかけるかもしれない』と。
実のところ、児童相談所と施設が共有している書類にはお祖父さんの連絡先が記されていました。だから連絡は可能だったのですが、そこは親権者であるお母さんの希望に従いました」
――では次に父親のことについて伺います。父親がこの施設を訪れることはあったのでしょうか?
「お父さんがどんな人なのか。私たちはまったく把握していませんでした。調停によって、月1回程度愛実ちゃんと面会するという取り決めがあること自体、事件前は知りませんでした。
彼が施設に訪れることはもちろん、連絡してくることすらありませんでした。それでも、彼が暴力を振るったり、つけ回したりする、危険人物だという認識はもっていました。というのも、以前、児童相談所に父親がどんな人かを問い合わせた時に、過去に警察に被害届が出されたという記録がみつかったからです」