2016年6月、秋田県で9歳の女児が心神耗弱状態の母親に殺害されるという痛ましい事件が起こった。この事件の第一審判決を伝える記事を読んだとき、幼い娘がいる私はやりきれない思いがした。
秋田市の自宅で昨年6月、小学4年の長女を殺害したとして、殺人罪に問われた住所不定、無職千葉祐子被告(41)の裁判員裁判で、秋田地裁は31日、懲役4年(求刑懲役5年)の判決を言い渡した。(中略)
判決によると、千葉被告は昨年6月20日ごろ、当時住んでいた秋田市八橋大沼町の自宅アパートで、長女愛実さん=当時(9)=の首を圧迫し、殺害した。
(河北新報2017年6月1日)
この事件を知ったとき、もう一つの思いが私の心に浮かんだ。
「父親はどこに行ったのか。父親がいなくても、せめて親戚がいれば救えた命ではなかったのか――」
なぜこの痛ましい事件が起こったのか。その背景を追った。
愛実ちゃんはなぜ殺されたのか
「お絵かきや色塗りをしたり、人形遊びをしたり、本を読んだり。施設の玄関でシャボン玉を飛ばして『きれいでしょ』って言ってみたり……。一人で過ごすのが好きな、女の子らしい女の子でした。小さい頃は自分の気持ちを言葉でうまく伝えられなくて暴れちゃうところがあったんですが、小4になるころには、心も体も急成長。自分の意見を言えるようになったし、勉強も頑張っていました」
生前の愛実(めぐみ)ちゃんの様子を話してくれたのは、秋田県の某児童養護施設の院長と副院長である。愛実ちゃんはこの施設に住み、毎日学校に通っていた。
後述するが、愛実ちゃんの両親は事件が起こる7年前、愛実ちゃんが2歳の時に離婚。母親は精神疾患を抱えており、何度も児童相談所に「娘を預かってほしい」と連絡していた。
児童相談所は「彼女一人では育てられないだろう」と判断し、母親もこれに同意したことから、4歳の愛実ちゃんを児童養護施設に入所させた。以後、愛実ちゃんは9歳で亡くなるまでの間、この施設で暮らした。
愛実ちゃんが住んでいた児童養護施設とはどんな施設なのか。
<保護者のない児童や保護者に監護させることが適当でない児童に対し、安定した生活環境を整えるとともに、生活指導、学習指導、家庭環境の調整等を行いつつ養育を行い、児童の心身の健やかな成長とその自立を支援する機能をもちます>(厚労省HP)
こうした施設は日本全国に600箇所ほど存在し、2万人あまりの児童が入所している。
愛実ちゃんを殺めてしまった母親は、事件現場となったアパートで一人暮らしをしていた。愛実ちゃんとは年に4~6回のペースで、一時帰宅という形で児童相談所の許可のもと連れ帰っていた。
母親はどんな人だったのか。前出の院長が続ける。
「メイクにしろ、着こなしにしろ、きちっとしていたし、ニコニコして人当たりは良かった。
一時帰宅のお迎えや面会のために施設を訪れたときは、『会いたかった』と言って愛実ちゃんを毎回ぎゅっと抱きしめるんです。そんな様子を目の当たりにして、『愛実ちゃん、愛されてるんだなあ』と思いました」
――愛実ちゃんは母親のことをどう話していたのでしょう。一時帰宅の様子について愛実ちゃんは何か話していましたか?
「一時帰宅から帰ってきた後に様子を聞くと『ママはずっと家で寝込んでた』と言うんです。『何食べてきたの?』と聞くと『チョコレート』などと答えるので、ちゃんとご飯を与えられていたのかと、心配になりました」
母親は自身の養育能力の不足を自覚していた。だからこそ児童相談所に助けを求め、最終的にはこの施設に愛実ちゃんを預けることになったのだ。