増加する愛着の問題を抱える子どもたち 教員ができる支援を探る

 「何か悪いことをしたり、暴言を吐いたりして、みんなの注目を引こうとする」「苦手な活動になると感情を爆発させる」「友達の物を隠したのに、やっていないと言い張る」「人が嫌がることをわざとする」「誰彼構わず甘えてスキンシップを求める」「どうせ自分にはできないなどネガティブな発言ばかりする」━━。これらは、「愛着障害」の子どもたちに現れる行動の一例だ。長年、愛着障害の理論や支援の在り方の実践的研究に携わってきた和歌山大学教育学部の米澤好史教授は「今、愛着に問題を抱える子どもたちが増えている」と指摘する。愛着障害にはどのような特徴があるのか、そして教員はどのような支援ができるのか。混同されやすい発達障害との見分け方についても聞いた。

自己防衛行動や愛情欲求行動が現れる

 そもそも「愛着障害」とは、どういうものなのか。米澤教授は、愛着障害を「特定の人との情緒的、感情的な絆が形成されていない状態」と定義している。「つまり、誰とも愛情の絆を十分に結ぶことができず、関係性をきちんとつくれなかった『関係性の障害』だ。また、愛着は親とだけの関係だと思われがちだが、そうではない。特定の人と結ぶ関係であり、その特定の人がどんな人であれ、愛着関係が築かれていく。いくつになってからでも愛着は形成できる」と説明する。

 愛着障害の子に現れる特徴的な行動はいくつかあるが、一番顕著に現れるのが自己防衛行動だ。誰も自分を守ってくれないと思っていることが影響し、例えば友達とトラブルになった際に目撃者がいたとしても「自分はやっていない」「自分は一切悪くない」と言い張るようなことがある。

 「そういう時に先生が『やったでしょ!』と問い詰めるようなことをしても、認めることはほとんどなく、余計に状況は悪くなるだけだ。愛着に問題がある子にとって、自分が困っているときに誰かが守ってくれるのだと気付けない限り、自己防衛のよろいを外すことは難しい」と米澤教授は指摘する。

 また、自分に注目を集めるなどの愛情欲求行動もよく現れる特徴だ。構ってほしい気持ちから、わざと大きな声を出したり、誰かの物を隠したりするといった、自分の方を向いてもらうための行動を起こす。

 特に、初対面の人にも臆することなく抱き付くなど、身体接触を過剰に求めるタイプの子は、愛情欲求行動がどんどんエスカレートする傾向が強い。米澤教授は「単に人懐っこい子であれば、関われば満足して落ち着くが、愛着障害の子どもの場合は、その関わりに応じれば応じるほど、欲求が止まらなくなっていく。優しい先生ほど、その対応に困ってしまう」と話す。

 その場合の支援について、「自分から求めても、求めても満足できないというスパイラルを起こしてはいけない。自分が言わなくても先生の方から先に『こうしようか』と言ってくれる、先手の支援が重要だ」と助言する。さらに、同時に「これをやったら、こんないい気持ちになったね」と感情の確認をすることも重要だ。「この人は自分にとって良い気持ちを感じさせてくれる存在だ」と認識できれば、愛情欲求エスカレート現象は少なくなっていくという。

 愛着に問題がある子どもたちにとっては、担任やクラスメートが変わる年度初めは、特に症状が出やすい時期でもある。「新しく関わる先生には、こんなことをしたら、この先生はどんな反応を示すのか、試し行動をする。先生の方が『なんでこの子はこんなことをするのか?』と思ってしまったら、その行動はさらにエスカレートしてしまう。『これは試し行動なのかもしれない』と捉えて、動じないことが重要だ」と強調する。

「発達障害の支援でうまくいかない」は愛着の問題が付随している

 また、愛着障害は発達障害と混同されやすい。特に注意欠如・多動性障害(ADHD)と、自閉スペクトラム症(ASD)は見分けづらく、愛着障害とそれらの発達障害を併せ持つタイプもあるという。

 米澤教授は「学校現場では発達障害への理解が進んできているので、単に発達障害そのものの対応で先生方が困るということは、基本的には少なくなってきている。発達障害の対応や支援をしているのに、それでもまだ気になる子であれば、大抵はその子に愛着の問題が付随していることが多い」と指摘する。実際に米澤教授のもとには教員からの「発達障害の支援に取り組んでいるのに、なぜかうまくいかない」という相談が一番多いという。

 この場合は、まずその子の行動の現れ方の違いを見極めることが重要となってくる。例えば、「多動」は、広くはADHDの特徴として知られているが、愛着障害の子にも見られる特徴だ。その見分け方について、「ADHDの多動は、いつでもどこでも、何をしている時でも、どんな感情になろうとも、いつも多動の特徴がある。なぜなら行動の問題であるからだ。しかし、愛着障害の多動は、感情の問題のため、例えばその子にとって嫌な活動が始まった時や、家庭で嫌なことがあった時などに現れる。逆に、いい気持ちで過ごせているときには多動の特徴は出ないなど、その現れ方にムラがあるのが特徴だ」と説明する。

 そして米澤教授は「よく見ていたら、その行動が発達障害によるものなのか、愛着障害によるものなのかが分かる。実は、先生という立ち位置が、一番その違いを見つけやすい」と指摘する。

 また、発達障害と愛着障害が併存するケースについて、「現在の精神医学界の診断ではそうした診断は認められていないものの、私が出会ってきた中では、ASDと愛着障害を併存する子が一番多いと感じている」という。この場合、愛着障害の支援を取り入れると、かなり症状が落ち着くという子も多く、「ASDと愛着障害を併せ持つ子がいるということがもっと広がっていけば、支援の在り方が変わっていくはずだ」と強調する。

愛着障害の子どもは増えている
長年、愛着障害についての実践的研究に携わる米澤教授

 米澤教授は「程度の差はあれ、愛着の問題のある子どもたちは3~4割はいるだろう。愛着障害の子は確実に増えていて、今後も増えていく」と危惧している。増加の要因については、インターネットなど子どもたちの周りに“刺激”が多過ぎることを上げる。「インターネットにはメリットもたくさんある。しかし、特定の人との絆や基盤ができないまま、あれもこれもといろんな情報や刺激にさらされてしまっている子どもも多い。特定の人と絆を結んでから、世界を広げていくという順番が重要だ」と話す。

 なにより、愛着障害の支援を成功させるには、その子にとって特定の人になり得る「キーパーソン」の存在が重要となってくる。小学校の場合は担任がキーパーソン的な存在になり、支援を統一しやすい。また、教科担任制でさまざまな教員が関わる中学や高校についても、担任や部活動の顧問がキーパーソン的な役割を担うとうまくいくケースが多い。「特に部活動は一緒に活動する場なので、『この先生と一緒に活動したらいい気持ちになった』という感情を確認しやすい。部活動を軸に学校生活を頑張れるようになる子も多い」という。

 支援のスタートとして、「愛着に問題がある子には、1対1で関わる時間を取ってほしい。まずは週に1回からでもいい。学校生活において集団活動に入る前と終わった後は、子どもと1対1になりやすく、そこが関わるチャンスだ」とアドバイスする。

 米澤教授は「どんなに訳の分からないように思える行動でも、その子には必ずそれをせざるを得ない、そうしてしまう理由や原因がある。それが分かれば、対応の在り方もおのずと見えてくる。先生たちは本当に多忙で、子どもたち一人一人に構っている時間はないかもしれない。でも、少しでもいいから会話をする。それが子どもを理解し、関係性をつくっていく上で一番重要だ。時間はかかるが、諦めずに関わり続けてほしい」と力を込める。

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