「『心は女』と言えば女湯に入れる」トランス女性を“犯罪者扱い”するデマに「スマホを開くのも、外出も怖い…」当事者が悲痛の訴え

    LGBT理解増進法案の検討が進むなか、SNS上でトランスジェンダーに対する誤った言説が広がっています。当事者団体は「いたずらに人々の不安を煽る議論は断じて容認することはできない」と声明を出しました。

    「男性が『心は女だ』と言うだけで女湯に入れるようになり、これを拒むと差別になってしまう」ーー。

    現在検討が進んでいるLGBT理解増進法案をめぐって、こうした誤った言説がSNS上で広がっている。

    性的マイノリティの全国組織である「LGBT法連合会」は3月16日に都内で記者会見を開き、「いたずらに人々の不安を煽る議論は、性自認による差別と憎悪を助長するものであり、断じて容認することはできない」という声明を発表した。

    「現実世界でのヘイトクライムに繋がることもあり得る」

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    トランスジェンダーとは、生まれた時に割り当てられた性別と自分の性の認識が異なる人を指す。

    同連合会によると、ここ数年、トランスジェンダーの女性が公衆浴場やトイレなど女性専用スペースを利用することにより「女性の安全が脅かされる」などと主張する投稿がSNS上で繰り返されてきたという。

    今年に入ると、元首相秘書官による性的マイノリティに対する差別発言を発端に再検討が始まったLGBT理解増進法と関連付け、「差別が禁止されると、男性が『心は女だ』と言うだけで女湯に入れるようになってしまう」などの言説が広がった。

    こうした背景から、トランスジェンダーへの中傷も激化しており、多くの当事者の生活が脅かされているという。

    トランスジェンダー女性で、RainbowTokyo北区代表の時枝穂さんは、「インターネットに居場所を求めている当事者も少なくない。SNSに流れてくるヘイトを見て、傷つき、外出するのも怖い、トイレにも行けないという人もいます」と訴えた。

    同連合会には、当事者から「トランスジェンダーを犯罪者扱いするようなツイートを目にすることが多くなり、スマホを開くことさえ怖くなった」「自分が安心して生きることができる場所はこの国にはないんだと絶望してしまう」などの声も寄せられているという。

    また、トランスジェンダー女性で、一般社団法人LGBT法連合会顧問の野宮亜紀さんは、「所詮SNS上の話ではないかという声もあるかもしれませんが、SNSで偏見が募って、『(トランスジェンダーは)叩いてもいい人たちなんだ』という空気が作られてしまうと、現実世界でのヘイトクライムに繋がることもあり得ます」と強い危機感を示した。

    弁護士、「誤り」と断言

    広がっている言説は、具体的にどのように誤っているのか。

    会見では、トランスジェンダーをめぐる法律問題に詳しい立石結夏弁護士が解説した。

    現在、銭湯等の公衆浴場は、厚生労働省による衛生等管理要領により、「男女を区別し、その境界には隔壁を設け、屋外から見通すことができない構造」と定められている。

    立石弁護士は「ここで前提となっている男女の基準は、体の作り、すなわち男性的な身体か女性的な身体かということであり、自認する性別、すなわち心の性別ではない」と説明。

    その上で、「全裸になった時の外見から判断される性別と自認する性別が一見して異なる場合は、施設理権者との協議や調整が必要となる。したがって、男性的な身体に見える人が『心が女性』などと言って女湯に入れる、というのは誤り」と述べた。

    さらに、LGBT理解増進法の成立によって公衆浴場などの利用ルールが変わるかのような主張についても、以下のように否定した。

    「LGBT関連新法はすでに憲法の枠内で認められた性的マイノリティの権利を明確にするものに過ぎず、具体的な権利を新たに創出していない。禁止される行為も法定していない。新法の成立によって『トランス女性を女湯に入れなければ、法律違反になる』ということは、およそ考えられない」

    また、LGBT法連合会の神谷悠一事務局長は「東京都を含め、全国約60の自治体ではすでに性的指向・性自認による差別を禁止する条例が施行されているが、公衆浴場等の利用ルールが変わった、あるいは混乱したという事実は報告されていない」と指摘。

    「想像に基づく観念的、抽象的な議論を排して、冷静な法的整理を踏まえた議論が必要である」と強調した。

    「人目を気にしながら暮らしている」

    会見では、トランスジェンダー女性の当事者が、公衆浴場やトイレなどの利用をめぐる自らの経験を語る場面もあった。

    野宮さんによると、「当事者は、男女別のスペースについて、第三者とトラブルが生じないよう、自分の身体的な特徴をもとに利用している」という。

    性別適合手術を受けていない時枝さんは、

    「男性のトイレ入るのがすごく苦痛で、かといって女子トイレにも入れないため、わざわざ別のフロアまで行って多目的トイレを探したり、外出のときにはトイレを我慢したりしてきた」

    「女子風呂には入れないと諦めているし、女子風呂に入れろという主張もしていない。社会の中で自分はどのような性別に見えているんだろうと人目を気にしながら暮らしている」

    などと話した。

    その上で、「トランスジェンダーの中には『男らしさ』とか『女らしさ』に当てはまらない外見の人もたくさんいる。身体の骨格や声など、どうしても自分で変えられない部分がある。そうしたところが、きちんと正しく理解が広がってほしい」と呼びかけた。

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