現実味を帯びる「幻覚剤療法」、専門家の育成が急務に、米国

オレゴン州では承認間近、FDAも2023年中に評価か

2023.05.10
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幻覚剤を使えない訓練の難しさ

 幻覚剤は今のところ違法であるため、大半のプログラムでは残念ながら、幻覚剤を使った実際のセッションを研修生が行うことは叶わないと、フェルプス氏は言う。

 同じ理由から、研修生の多くは自分自身が薬物を使用した経験を持たない。「幻覚剤を使ったことのない人はすぐにわかります。そうした人たちが質問する内容を聞けば、自分が患者にどんな経験を提供することになるのかについて、彼らが何も知らないことがわかるのです」と、カナダ、バンクーバーアイランド大学のプログラムの医療責任者パム・クリスコウ氏は言う。

 一部のプログラムでは、幻覚剤の影響下にある人間がどれほど脆弱な状態になるのかを理解するために、監督下においてケタミンを摂取してみるよう研修生に勧めている。また、ホロトロピック・ブレスワークと呼ばれる一時的に意識を変容させる呼吸法を使って、そうした状態を疑似体験させようと試みるプログラムもある。

ギャラリー:現実味を帯びる「幻覚剤療法」、専門家の育成が急務に、米国 写真6点(写真クリックでギャラリーページへ)
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結晶化したケタミンの光学顕微鏡画像。(MICROGRAPH BY M. I. WALKER/SCIENCE SOURCE/SCIENCE PHOTO LIBRARY)

 研修生のなかには、事情通のガイドを雇うか、あるいは薬物使用の伝統をもつ先住民のいる国々を旅して、個人的に幻覚剤を体験してみようとする者もいる。緩和ケア医のバック氏は数年前にガイドを雇った際の経験から、研修を受けたいと思うようになったという。その時の経験について書いた文章を、氏は2019年7月に医学誌「Journal of Palliative Medicine」に投稿している。

「慣れ親しんだ『自分』という感覚(自分の好み、自分の体、自分の歴史など)が突然、すべて消え去り、その後はっきりと感じたのは、すべてのものと一体化しているという海のような感覚だった……完全に帰属しているという感覚、また通常は隠されている宇宙のエネルギーとつながっているという感覚があった。とても爽快な気分だった」

 バック氏は、こうした枠組みが自分が担当する末期患者の助けになると信じている。「死に向かう過程は、以前自分が考えていたよりもずっとスピリチュアルなものだと、わたしは気づいたのです」。そう語る氏は、これらの幻覚剤が合法化されることを強く望んでいる。

 同じように感じている医療関係者はほかにもいる。カリフォルニア統合学研究所の研修プログラム1期生42人のうち、医師と看護師数人は、職業上の評判が傷つくのを恐れ、自分が参加したことは伏せておいてほしいと要望していた。だが、今年は400人の枠に800人の応募が寄せられたという。

 こうした盛り上がりにもかかわらず、今後FDAによってMDMA、さらにはシロシビンが承認されれば、何千人もの専門家が必要となり、十分な研修を受けたセラピストが足りなくなると予想される。オレゴン州では、シロシビン療法の承認を受けるために必要な基準をすべて満たしたファシリテーター(セッションの進行役)は、今のところ1人もいない。

「どの研修プログラムも需要に追いついていません」とフェルプス氏は言う。氏の大学は現在、ほかの大学が同校の研修教材や動画を入手できるライセンスプログラムを開発中であり、すでに25校ほどが関心を示しているという。

 幻覚剤がメンタルヘルスの治療法として成功を収めるには、十分な数の専門家に高度な研修を受けてもらうしかないと、バック氏は言う。「幻覚剤療法は、大半の治療法とは異なります。従来の治療法において重要なのは技術あるいは薬です。ですが幻覚剤の場合、セラピーと投薬を一緒に行わなければならないのです」

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文=MERYL DAVIDS LANDAU/訳=北村京子

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