現実味を帯びる「幻覚剤療法」、専門家の育成が急務に、米国

オレゴン州では承認間近、FDAも2023年中に評価か

2023.05.10
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メキシコ、ティファナ郊外にある幻覚剤療法の施術施設で、強力な幻覚剤(コロラドリバーヒキガエルの毒から抽出されたもの)を吸入した後、ケアを受ける元海兵隊員のジェナ・ロンバード・グロッソさん。(PHOTOGRAPH BY MERIDITH KOHUT, THE NEW YORK TIMES/REDUX)
メキシコ、ティファナ郊外にある幻覚剤療法の施術施設で、強力な幻覚剤(コロラドリバーヒキガエルの毒から抽出されたもの)を吸入した後、ケアを受ける元海兵隊員のジェナ・ロンバード・グロッソさん。(PHOTOGRAPH BY MERIDITH KOHUT, THE NEW YORK TIMES/REDUX)

 長年うつ病に苦しんでいるレネ・セントクレアさんは数年前、幻覚作用を持つ薬物ケタミンを用いた治療の最中、自分の脳が体から切り離されて浮かび上がり、部屋の向こうに移動してゆく光景を見て恐怖に襲われた。

「ゾッとするほど恐ろしかったです。もう脳は戻ってこないのではないかと思いました」。米カリフォルニア州サンディエゴに住む弁護士で、51歳のセントクレアさんはそのときの状況を振り返る。彼女の治療に付き添っていた看護師の要請により、精神科医がすぐに駆けつけて、優しく言葉をかけながらセントクレアさんの手をしっかりと握った。医師の存在によって落ち着きを取り戻した彼女は、薬が体から抜けて幻覚が消えるまでの40分間を心穏やかに過ごすことができた。

 強力な幻覚剤を投与するための、十分な訓練を受けた専門家の育成が今や急務となっている。米オレゴン州でシロシビン(マジックマッシュルームの有効成分)を使ったメンタルヘルスの治療がまもなく承認されるのに加え、米国食品医薬品局(FDA)は2023年後半、同局として初めて幻覚剤、メチレンジオキシメタンフェタミン(MDMA、別名エクスタシー)について、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の治療薬としての評価を行うと予想されている。

 幻覚剤がいずれ主流医療に組み込まれる日が来るかもしれないという予想のもと、米カリフォルニア統合学研究所(大学)は7年前、米国内で初めて幻覚剤支援療法の研修プログラムを提供するようになったのだと、同大学の幻覚剤療法・研究センターの責任者ジャニス・フェルプス氏は言う。

儀式用の杯に入れられたシロシビンの錠剤。シロシビンやMDMAは、抗うつ剤プロザック以来の熱い注目を浴びる新療法となる可能性がある。(PHOTOGRAPH BY MATT ROTH, THE NEW YORK TIMES/REDUX)
儀式用の杯に入れられたシロシビンの錠剤。シロシビンやMDMAは、抗うつ剤プロザック以来の熱い注目を浴びる新療法となる可能性がある。(PHOTOGRAPH BY MATT ROTH, THE NEW YORK TIMES/REDUX)

 近年では、多くの機関がこれに続いている。サイコセラピスト(心理療法士)、看護師、医師、聖職者など、主にメンタルヘルスや宗教にかかわる職業に就く人々が、幻覚剤分子の化学的性質、安全上の懸念、先住民による使用の歴史、そして何より、6時間以上効果が持続するこうした薬物によってもたらされる独特の精神状態について学んでいる。ただし、現在のところ幻覚剤は違法であるため、どのプログラムでも研修生自身がその効果を体験することはできない。

 こうした講座への需要は急増している一方で、全国的な基準は存在せず、各教育機関が独自のカリキュラムを作成しているため、おそらくは十分な力量のないまま研修を終える人もいるだろうとの懸念もある。

ギャラリー:現実味を帯びる「幻覚剤療法」、専門家の育成が急務に、米国 写真6点(写真クリックでギャラリーページへ)
ギャラリー:現実味を帯びる「幻覚剤療法」、専門家の育成が急務に、米国 写真6点(写真クリックでギャラリーページへ)
米ニューヨークのフィールドトリップクリニックにある瞑想用の椅子。(PHOTOGRAPH BY CALLA KESSLER, THE NEW YORK TIMES/REDUX)

わかりはじめた幻覚剤の確かな効果

 なぜ今、MDMAがPTSDの有望な治療法として注目されているのだろうか。この強力な薬物は、恥や怒りといった、治癒の妨げになり得る感情を誘発することなく、脳がトラウマ的な記憶に向き合うことを可能にすると考えられている。

 米非営利団体「幻覚剤学際研究学会(MAPS)」による最新の大規模臨床試験の予備的な結果では、MDMAを2〜3回服用することにより、PTSDの症状が軽くなる、または取り除かれることが確認されている。最も注目すべきは、その効果が6〜12カ月間持続したことだ。(参考記事:「「良い幻覚剤」でうつ病や依存症を治す、盛んになる研究と治験」

 また、2021年に学術誌「Nature Medicine」に掲載されたMAPSによる初の第3相臨床試験の論文においても、肯定的な結果が得られている。80〜180ミリグラムのMDMAの投与を3回、準備セッションを3回、投薬後セッションを9回行ったところ、試験参加者の3分の2においてPTSDの症状が見られなくなったのだ。

次ページ:実際にはどのように投与するのか

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