目立ちたい。評価されたい。褒められたい。こんな感情は誰にでもあるはず。でも他人に知られたくない気持ちでもある。
それも彼女はアイドルでリーダー。なぜ、人前で臆せずそんな話ができるのか?
好きなものを仕事にしたはずなのに、どうして?
譜久村聖は幼いときからステージで輝くモーニング娘。に憧れ、「ハロプロエッグ」(現ハロプロ研修生)のオーディションに合格した。
夢に一歩近づけたようで嬉しかった。けれども当時小学6年生が見たのは、想像したものと全然違うシビアな現実だった。
与えられた課題ができなかったら発表会でのパフォーマンス曲のメンバーから落とされる世界。夢を見始めた少女にはズキズキと心に来るものがあった。
「小さい時からハロプロが大好きで、録画したビデオは何回も見返してダンスも歌も覚えていた。一日中見られた。でも、いざプロの世界に入ると、あんなに大好きだったのに全然できなくなった。同じ曲なのに、こんなにも気持ちが違うとは……」
この日までに覚えなくてはいけない。呼吸を揃えなくてはいけない。「ねばならない」がつきまとう。ハロプロへの熱量なら誰にも負けないと思っていたが、急に再生ボタンが押せなくなった。
同期から遅れをとっていく。そんな中で受けた『モーニング娘。9期メンバーオーディション』では3次審査で落選した。
「ちゃんとできないから、落ちてしまって。当たり前なんですけどね。自分が歌うはずだったパートを他の人が歌う。同期は私よりも前に走っていた。この現状が悔しかった」
一度は選ばれなかったモーニング娘。のオーディション。彼女はサプライズ枠でメンバー加入が決定した。選ばれる、選ばれない、選ばれる……モーニング娘。に入ればそんな生活も終わると思っていた。
「モーニング娘。に入ってからも一緒。メンバーに入ることがゴールじゃなかった」
冒頭の「目立ちたい」という感情が強く出たのはこのときだった。9期のメンバーとしての初めてのツアーは、今見ると恥ずかしい。
「偉大な先輩方がいるのに、歌割りが欲しいとか、センターがいいとか、絶対この中で一番目立ってやるっていう気持ちがめちゃめちゃ強かった」
負けず嫌いな気持ち、嫉妬心、焦燥感。「やる気」とも言えるが、自分がステージに立つ姿を見て愕然とする。
薄っぺらかったのだ。歌もダンスも。
「ステージでどれだけ内側に入れるのか、歌割りをもらえるのか。そんなことばかりを考えていました。歌っている姿を見てもらいたい想いがめちゃめちゃ強いのに……全然目が動いてないんですよ(笑)。楽しそうじゃない」
「後でライブ映像を見ると『この子大丈夫かな?』って感じで。自分のイメージではもっと壮大なはずだったのに、こんなにもこじんまりとしたパフォーマンスになっているとは……」
「レコーディングも同じ。自分の薄っぺらさにびっくりした。私、こんな声で歌ってたんだ。先輩の歌とは違って深みがない。それでは歌割りはもらえないよね、と妙に納得しました。また挫折です」
とはいえ、はじめてのツアーで歌った『女に幸あれ』では、ラストにセンターの配置を割り当てられた。いつも怒られてばかりの自分が選ばれて嬉しい。これまでセンターを飾ってきたであろう先輩たちは「よかったね」と言ってくれた。
「ふくちゃんは肩がずっと上がっているのが癖だから直した方がいいよ。もうちょっと肩を落として力を抜いて」
レッスン中、先輩の田中れいなからふいに言われて初めて気がついた。
いつか「目立てる」ようになったら自分のことを好きになれるのかな。ずっとそう思っていた。気持ちが先走って硬直していたのだ。
個性の強い同期、かっこいい先輩。じゃあ自分は? メンバーカラーはホットピンク。なんだか自分に似合わない気がしていた。同系色の衣装を纏う先輩はしなやかだった。
2014年、道重さゆみの卒業コンサートで彼女はリーダーに抜擢された。当時のことは今でも明確に覚えている。
偉大なリーダーから向けられた言葉は「ありがとう」だけだったと番組で振り返る。道重は言葉よりも行動で後輩を導くタイプだったからだ。代わりに公演後、道重の同期であり既に卒業していた田中に「頑張ったね」と言われた。ものすごく嬉しかった。
研修生からリーダーへ着実な歩みではあった。しかし、それはこれまで引っ張ってもらっていた立場から、自分が牽引する役割になったことも意味する。道重をはじめとする「偉大な先輩」はもういない。2015年春のツアーはとにかく不安で自信がなかった。
今まで立っていた武道館は埋まるのだろうか? 1万人収容する会場でライブできるのは、当たり前なことではない。体が強張る。
しかし、公演の回数を重ねるごとに「これからのモーニング娘。」が形作られていくことも実感した。特に覚えているのは『涙ッチ』だという。
「この曲は先輩たちを送ってきた曲。今までありがとうございましたという気持ちを込めて歌ってた曲。それを、今の私たちで頑張るぞという思いに変えて歌った大事な曲です」
このコンサートの最後、譜久村は堰を切ったように大号泣していた。当の本人は「記憶にない」と言っていたが、それほど余裕がなかったのだろう。
「モーニング娘。がピークじゃなくていいんだよ」
正直、今でも誰かと自分を比べる癖はある。けれども肩の力が抜けたという。
「リーダーになってからは自分一人が目立つより、全体を見るようになった。会場全体が楽しんでくれることが、一番楽しいことだと気がついたんです。今までの考え方ってちょっと違ったのかな……って。もちろん、スクリーンに映し出されたり、自分の大事な部分は気合入れてやっているんですけれど、のびのびいられるようになりました」
全体が見られるようになってきた分、改めて先輩の偉大さに気がつくこともある。
「年齢の離れた後輩と一緒に活動するのは大変だったと今ならわかります。道重さんは後輩に合わせてテンションを作ってくれていたんだろうなぁって。その背中を思い出すと、本当に感謝しかないです」
数多くの曲を歌ってきた彼女が、一番好きな歌詞として挙げたのは『DANCEするのだ!』のサビだ。
まだ 長い長い人生を少し
駆け出したばかり
AH 青春は上り坂もあるさ
でも長い長い人生をきっと
自分色に染めて
絶対にゴールするのだ
この汗を 拭きながら
「つんく♂さんは『モーニング娘。がピークじゃなくていいんだよ。卒業した後に頑張れるならいいんだ』と言ってくださったのを聞いて、自分のゴールってモーニング娘。じゃないんだなって思えたんです」
一生懸命なのと固執するのは違う。自信というのは、他人よりも優れているから持てるものでもない。卒業してもなお自分色に輝く先輩たちを見ると、改めて歌詞が深く響く。
12歳からハロプロエッグのメンバーとなり10年が過ぎ、彼女自身も少しずつしなやかさを手に入れているのかもしれない。
譜久村は、まだ卒業する気はない。まだまだ、モーニング娘。でいたい。青春とも言える時間を過ごしたハロー!プロジェクトを「自分に色をくれた場所」と語る。
「私は本当に自信がなくて、モーニング娘。に入れるとも思ってなかった人間。でも、メンバーカラーをいただいて、それを身に纏って応援してくださるファンの方がいて。本当に幸せで嬉しくて。昔は、自分のカラーに選ばれた濃いピンクは、私に似つかない色だと思っていたんです」
収録後にスタジオの隅でつぶやいていた。
『今夜は木曜日』では「ハロー! プロジェクト」特集として「#ハロプロを推すと人生が豊かになる」を配信。
現役で活躍するハロメンとハロプロ大好きと公言するゲストを迎え、長らく愛される理由、ライブの見どころ&舞台裏、大人女子が共感する歌詞等々、さまざまな角度で語り合います。
【ゲスト】譜久村聖(モーニング娘。)、山木梨沙(カントリー・ガールズ)、大森靖子、しばたありぼぼ、犬山紙子
【MC】大島由香里(フリーアナウンサー)
番組の感想やエピソードを、Twitterのハッシュタグ「#ハロプロを推すと人生が豊かになる」で募集しています。
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