ロンドンでの戴冠(たいかん)式を終えたチャールズ国王(74)は、56カ国が加盟する「コモンウェルス・オブ・ネーションズ」(略称・コモンウェルス)の象徴的な首長です。コモンウェルスは「英連邦」と訳されることが多いです。
では、コモンウェルスとはどのような組織なのか。加盟国の王室離れが指摘されるなか、どのような役割を担うのか。「英連邦―王冠への忠誠と自由な連合」(2012年、中公叢書)の著作もある東京大大学院情報学環の小川浩之教授に聞きました。
――コモンウェルスをどう訳すのか、悩まされます。「英連邦」としていいのでしょうか。
56カ国が加盟するコモンウェルスには、常に訳語の問題がつきまといます。ロンドンに立派な建物の事務局があり、加盟国から派遣された職員もいるという点で、国際機関として理解することはできます。ここ10~20年ほどは、研究者の間で「コモンウェルス」とカタカナで書くことが多くなっています。
もともと1931年、ウェストミンスター憲章によって「The British Commonwealth of Nations」という組織ができました。ただ、植民政策学を研究していた矢内原忠雄氏(元東京大学総長、61年死去)は、「英連邦」ではなく、「英共同国」「共同国」といった訳語をあてています。当時は一般的な用語ではなかったようです。
48年10月、ロンドンでの会議で「British」という単語を削除することが決められました。インドやパキスタン、セイロン(現スリランカ)の首相が初参加した会議で、「公式発表はしないけれど、慣行上、そうしていきましょう」と。このあたりはいろんな方面に配慮しつつ、微調整を加えながら進む英国らしさがあります。
しかしなぜか、日本語では「英連邦」という言葉が定着したんですよね。実態をみると、もはや「英」でもないし、米国やドイツのような「連邦」でもない。国際法的に言うと、国家連合的なつながりもありません。とはいえ、「英連邦」に代わるような訳語はなかなか思い当たらないですよね。
――外務省は「コモンウェルス」という言葉を使っているようで、「旧植民地の独立国家が構成する緩やかな国家共同体」と説明しています。
日本から見ると、かなりマイナーな組織です。ただ、一般的な英国人やカナダ人も多くがコモンウェルスに詳しいというわけではありません。それでも、「コモンウェルスゲームズ」は抜群の知名度を誇ります。4年に1回催されるスポーツ大会で、昨年は加盟国以外も含めて72カ国・地域が参加しました。
国際機関としての存在感が薄く、つながりも非常に緩やかなコモンウェルスですが、実は英国があえてそうしてきた側面もあります。20世紀半ばの公文書を見ると、新植民地主義だという批判を受けることを英国が嫌がっているのがわかります。当時、アジアやアフリカから多くの独立国がうまれ、コモンウェルスに加盟するなか、「あえて目立たない組織にとどめた方が良い」という考慮があったようです。
■フランス語圏の国もコモンウ…